副隊長、やります!   作:はるたか㌠

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澤ちゃんはいいぞ(挨拶


短編完結前提で書いたのですが、続きという事で意識してみました。
おかしな箇所がありましたらご指摘いただけますと幸いです。

では、パンツァー・フォー!


第2話 募集します!

 大洗女子学園の一角に、倉庫を利用したガレージがある。

 少し前までは殆ど使われる事のない建物だったが、今では殆ど毎日人の出入りがある。

 Ⅳ号を始めとした戦車のガレージとして利用されている為だ。

 実弾などが保管されている事もあり、原則として戦車道履修者以外は立ち入り禁止とされている。

 ……が、今日は様相が違うようだ。

 

「あ、あはは……。凄い事になってるね」

「……そ、そうですね」

 

 みほと梓が、呆然とするのも無理はない。

 大洗女子学園を廃校の危機から救ったのは、紛れもなくみほ率いる戦車道チーム。

 帰還した彼女達は熱烈歓迎されたが、それでめでたしめでたし……とは行かなかった。

 ディフェンディング・チャンピオンとなった以上、今までのように対戦相手が油断したり侮ってくる可能性は皆無。

 当然、打倒大洗を掲げて挑んでくる事となるだろう。

 仮に今の編成がそのまま維持できたとしても、かなり厳しいと言わざるを得ない。

 とにかく絶対的に車両数が足りない上に、他校のように控えのメンバーもいない。

 その上、三年生の十名はもう進学や卒業を控えて戦車道にはあまり関わる時間のない時期。

 戦車の増強以上に、新たなメンバーを加えての再編が喫緊の課題だった。

 

「いやぁ、思っていたよりも集まったねぇ」

「集まり過ぎですよ、これ」

「全く、最初に募集をかけた時とは大違いではないか」

 

 相変わらず飄々とした杏を他所に、柚子と桃は頭を抱えてしまう。

 彼女らの前には、百人以上の生徒が集まっていた。

 生徒会が戦車道履修希望者を新たに募った結果である。

 無論、この中に戦車道経験者がいる筈もない。

 仮にいたとすれば、みほに声をかけた時点で杏が見逃す訳もなかっただろう。

 

「西住ちゃん、どうする?」

「え、ええと……。ここにいる全員に加わっていただく訳じゃないです……よね?」

「当たり前だろう! そんな車両や余裕が何処にある!」

「そうだよねぇ。やっぱり、選抜するしかないよね」

 

 みほは困惑を隠さず、梓を見る。

 

「梓ちゃん。どうしよっか」

「……そうですね」

 

 梓は顎に手を当て、少し考えてから顔を上げた。

 

「私達の時と同じで行きましょう」

「……へ?」

 

 

 

 グラウンドに、Ⅳ号とポルシェティーガー、それに八九式を除く五両が出された。

 集まった生徒らは、間近で見る戦車に興奮したり歓声を上げたりしている。

 ハンドマイクを手に、梓はその前に立つ。

 

「皆さん!」

 

 全員の視線が集まり、梓は流石に緊張を隠せずにいる。

 

「西住ちゃん、澤ちゃんに任せちゃって良かったの?」

「はい。梓ちゃんが言い出した事ですから」

「そっか。ま、西住ちゃんがそう言うなら任せるよ」

 

 杏とみほは、その間も梓から目を離さずにいた。

 

「私は、戦車道チーム副隊長の澤梓です。これから、戦車道を希望する皆さんへの説明をさせていただきます」

 

 集まった生徒らの中にはなんで一年生が、という目で見る者もいた。

 二年生も少なからず含まれているのもあるが、やはり梓にはみほのように圧倒的な知名度がない事もあった。

 M3の車長を務めて数々の激戦を潜り抜け、『重戦車キラー』と名を馳せたチームだったとしてもそれは戦車道を知らない側にまでは浸透していない。

 梓もそうした空気は察したが、それで怯む様子もない。

 

「まず、数人でチームを組んで下さい。ここにある戦車は最大でも六名から七名乗りなので、それを踏まえてお願いします」

 

 あっという間に固まるチームもあれば、なかなか人数が揃わないチームもいる。

 それでも、数分で編成は整ったようだ。

 

「では、四名のチームはヘッツアーかルノーB1、Ⅲ号突撃砲の周りに。五名のチームは三式中戦車。六名か七名のチームはM3に集まって下さい」

 

 この中で、本来の定数を満たして動かしていたのはM3のみ。

 だが、梓はそれには拘らずに編成を進めていく。

 

「戦車の乗員には、それぞれ役割があります。指揮を執る車長、備砲を撃つ砲手。それに操縦手が最低でも必要です。四名の車両はそれ以外に装填手、五名の車両は通信手を追加します。M3は備砲が二つあるので、砲手は二人となります。まずはそれを決めて下さい」

 

 そして、決まったチームから乗車するよう伝えた。

 それ以外のチームは一旦、安全なエリアまで移動させる。

 

「では、実際に戦車を動かしてみて下さい。まずは、グラウンド一周です」

 

 途端に、あちこちからブーイングが上がる。

 戦車の動かし方などわからない、教えても貰ってないのにいきなりとか無茶過ぎる……等々。

 中には梓ではなく、みほに指示を出させろという声も。

 堪りかねて、みほは思わず梓に駆け寄ろうとした。

 ……が。

 その手を、杏がしっかりと握って離そうとしない。

 

「ダメだよ西住ちゃん」

「で、ですけどあれじゃ」

「今西住ちゃんが出れば場は収まるかも知れないよ? でも、澤ちゃんはどうなるかわかってる?」

「…………」

「澤ちゃんだってわかってやってるんだから。信じてあげないとね」

 

 みほはギュッと唇を噛み締めた。

 

「西住さん、会長の仰る通りだと思うよ?」

「私だって、あいつらの身勝手さに今すぐ怒鳴りつけてやりたいところだ」

「小山と河嶋だけじゃない、私だって面白くはない。けどさ、それじゃ澤ちゃんの覚悟を踏み躙る事になっちゃうんじゃないかな」

「……梓ちゃん」

「ま、見てようよ。ほら、干し芋あげるからさ」

 

 杏は、そう言いながら手を離した。

 みほはもう動こうとはしない。

 梓はその場にいる全員の視線を浴びながら、毅然とした態度を崩さなかった。

 

「指示に従えないという方は、結構です。戦車から降りて下さい」

 

 ブーイングが一層激しくなる。

 中には、梓に詰め寄ろうとする生徒さえいた。

 が、梓はジッとその場を動かずにいる。

 

「戦車道は、遊びじゃないんです。ましてや、この大洗女子学園チームは日本一という栄冠を手にしています。その意味がわかりますか?」

「…………」

 

 騒いでいた生徒たちが、静まり返った。

 

「動かし方や戦い方がわからないのは当たり前です。でも、こうしている私達だって最初はそうでした。西住隊長以外、全員が未経験者だったんですから」

「…………」

「わからなければ、チームで相談して動かす事を考えて下さい。私達が教えるのは簡単ですが、それが当然だと思う方は一緒に戦う仲間として迎えようと思いません」

 

 ややあって、まずヘッツアーのエンジンがかかった。

 それを皮切りに、他の車両も目を覚まして行く。

 

「用意ができたチームから行動開始して下さい。多少コースを逸れても構いません、一周して元の位置までお願いします」

 

 そっと、みほが梓に近寄った。

 

「梓ちゃん」

「……済みません、西住隊長。勝手にあんな事言ってしまって」

「ううん。私じゃ、きっとあんな風に話せなかったと思うよ」

 

 叱責も覚悟していた梓だが、みほの言葉に目を丸くした。

 

「そんな事ないと思います! 西住隊長の指示なら、皆さん黙って従う筈です」

「それは、私の名前とか実績を後ろ盾にしただけになっちゃう。梓ちゃんみたいに、自分の言葉で言えないと思う」

「そ、そうでしょうか……?」

「うん。梓ちゃんの言う通りだと思う、仲間になる人には覚悟も必要なんだって、私は思い知らされちゃった」

 

 それまで平静を装っていた梓だが、顔を赤くして俯いてしまう。

 

「ところで、五両しか出さなかったんだね」

「はい。ポルシェティーガーは自動車部以外には扱えないですし、八九式はバレー部の皆さんに申し訳ありませんから」

「でも、Ⅳ号は?」

「Ⅳ号は特別な車両ですから」

 

 みほは、首を傾げた。

 

「でも、梓ちゃんは乗ったよね?」

「あ、あれは……。西住隊長、意地悪です!」

「え? あ、ご、ゴメンね。そんなつもりじゃなかったの」

 

 顔を真っ赤にしながら叫ぶ梓と、ひたすら慌てるみほ。

 二人のやり取りを、生徒会メンバーは微笑ましく見守って。

 履修希望者達は、呆然と眺めていた。

 

 

 

 数時間後。

 戦車内の過酷な環境に耐え切れなかったり、梓に覚悟を問われて去って行ったチームを除いた集団は演習場に移動。

 人数は最初の四分の一程まで減っていた。

 みほと梓が、その前に立った。

 

「ひとまずお疲れ様でした。ここからは、実際に演習を体験していただこうと思います」

「あ、あの……。それも私達同士でやるんでしょうか?」

 

 先頭にいた一年生が、おずおずと尋ねて来た。

 

「いえ、今度は同乗していただくだけです。実際の操縦や砲撃は私達が行います」

 

 そう言って、梓は振り向いた。

 

「ここに並んでいるⅣ号、M3、八九式、三突にお一人ずつ順番になります。西住隊長、磯辺先輩、エルヴィン先輩宜しくお願いします」

「うん」

「お任せ下さい! 根性です!」

jawohl!(ヤ・ヴォルー)

「私も、M3に搭乗します。会長、ちょっとだけお願い出来ますか?」

「いいよー」

 

 ひらひらと手を振る杏に頷き返し、梓はM3に登った。

 

「砲弾は実弾ではなく、演習用です。ペイント弾なので爆発はしませんが、衝撃はありますので」

 

 沙希とあやの間に座る生徒に、梓は話しかけた。

 その生徒は、緊張で顔が真っ青だった。

 

「ほ、本当に大丈夫なんでしょうか……?」

「大丈夫です。もし気分が悪くなった時は言って下さい」

「は、はい」

 

 梓はキューポラから顔を出し、タコホーンに触れた。

 

「皆さん、用意はいいですか? ペイント弾が炸裂した時点でその車両は大破判定とします」

「了解。他のみんなもいいかな?」

 

 沙織に続き、妙子とエルヴィンからも承諾の返信があった。

 

「みんな、普段通りにやろう?」

「あいあいあーい!」

「任せてよ、必ず当ててみせる!」

「私も負けずにやっちゃうよ~!」

「梓もみんなも、頑張ろうね」

「…………」

 何時も通り無言の紗希を除き、全員の返事を確かめ頷く梓。

 

「では、全車両行動開始して下さい。パンツァー・フォー!」

 

 

 

 Ⅳ号は、隊長車らしい完璧な戦いぶりを。

 八九式は持ち前の機動性を活かして。

 三突は固定砲のハンデを感じさせない動きと、長砲身で魅せ。

 M3は二門の砲を上手く使う抜群のチームワークで。

 同乗した生徒は激しい機動と砲撃の凄まじさ、矢継ぎ早に交わされる通信、それに重量を物ともしない素早い装填……全員が例外なくその全てに圧倒された。

 心の何処かに残っていた甘い考えや理想は綺麗サッパリ飛んでしまったようで、演習が終わっても皆が呆けた顔だった。

 

「やっぱりⅣ号には勝てませんでしたね」

「ああ。だが、当然の結果でもあるな」

 

 典子とエルヴィンは、涼しい顔で降りてきた。

 大洗女子学園チームにしてみれば、普段の演習をこなしただけ。

 履修希望者らにしてみれば別次元の絶叫アトラクションを体験させられたようなものだったが。

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

 梓は、明らかに雰囲気の違いを実感していた。

 此処まで残った生徒だけに、梓を侮るような者は開始前からいなかった。

 ……が。

 今は全員の目に、畏怖と尊敬があった。

 それは、みほに対してではない。

 梓もあまりの変貌ぶりに戸惑いは覚えたが、それは顔に出さないよう抑え込んだ。

 

「これが、私達大洗女子学園戦車道チームです。ご理解いただけたでしょうか?」

「……凄かった。うん、凄かったよ!」

「澤さん、こんなチームで副隊長だもん。本当に凄いと思う!」

 

 あっという間に、梓は囲まれてしまう。

 慌ててそれを制し、梓はハンドマイクではなく自分の声で語りかけた。

 

「最後にもう一度伺います。私達と、戦車道をやりたい方は残って下さい。勿論、強制はしません」

 

 そして、一人ひとりの顔を見回した。

 ……誰一人として、その場を動こうともしないようであった。

 

「西住隊長。如何でしょうか?」

「……ありがとう、梓ちゃん」

 

 みほは梓の肩をポン、と叩いた。

 そして、履修希望者らに話しかける。

 

「最初は大変かも知れません、苦しいかも知れません。戦車道は、生易しいものじゃありませんから」

「…………」

「でも、それを乗り越えればきっと楽しいと思いますよ。そうだよね、梓ちゃん?」

「はい!」

「私も、精一杯頑張りますから。どうぞ皆さん、宜しくお願いします!」

 

 みほが頭を下げると、希望者も揃って頭を下げた。

 そして、杏がみほと梓の間に立った。

 

「決まりだね。じゃみんな、頑張ってね」

 

 そう言って、パチパチと拍手を始めた。

 柚子と桃が続き、戦車道チーム全員から拍手が巻き起こる。

 

 

 

 大洗女子学園戦車道チーム副隊長、澤梓。

 その名は、少なくともこの場にいる全員が胸に刻み込んだ。

 

 

 

「梓ちゃん、今日は本当にお疲れ様」

「いえ。西住隊長こそ、ありがとうございました」

 

 下校途中、ベンチに並んで腰掛ける二人。

 いつもならそれぞれの仲間と一緒だが、皆が気を利かせたらしくいつの間にか姿が消えていた。

 コンビニで買ったコーヒーをすすりながら、沈みゆく太陽を眺める。

 

「でも、梓ちゃんって本当に強いよね。私、あんな風にはやれる自信ないよ」

「西住隊長はそれでいいと思います。それに、いざ作戦が始まれば誰よりも冷静で強い……。私なんて、まだまだです」

「わ、私なんて全然だって!」

「いいえ、そんな事ありません!」

「…………」

「…………」

 

 二人は顔を見合わせ、一瞬黙りこむ。

 ……そして。

 

「プッ!」

 

 盛大に吹き出した。

 

 

 

 その様子を、物陰から見守る集団。

 先頭にいた沙織が指を立て、手真似で立ち去るよう促した。

(良かったね、みぽりん)

 言葉の違いこそあれ、全員が沙織と思いを同じくした。




続きはなるべく早めに上げるようにしますが、所用と年度末なので少し遅くなるかも知れません。
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