短編集とどっちに投稿しようか迷いましたが、澤ちゃんメインなのでこちらにしました。
数年後の澤ちゃんとみほを書いてみました。
卒業しているので呼び方が違っています。
あと、澤ちゃん視点にしてあります。
番外編ですが、よろしくお願いします。
番外編 みほさんと夕食です!
チラ、と時計を見た。
六時半。
そろそろかな?
「ただいま」
あ、やっぱりだ。
ドアが開き、みほさんの声がした。
私は火を止め、玄関に出た。
「お帰りなさい」
「あれ、もう帰ってたんだ?」
「はい。バイトが思ってたよりも早く終わりましたので」
「そっか。梓ちゃんも大変だね、毎日毎日」
「いえ、もう慣れましたから」
みほさんは、クンクンと鼻を動かす。
そして、パッと顔を輝かせた。
「いい匂い。……もしかして」
「はい。沙織先輩直伝の肉じゃがですよ」
「うわぁ、楽しみ!」
ルンルンとスキップでもしそうな勢いで、みほさんはクローゼットへと向かう。
沙織先輩にはまだまだ及ばないけど、練習しているうちにだんだんと味は良くなってきてると思う。
あの肉じゃがのお陰で、今ではすっかりみほさんの好物になっている。
沙織先輩、やっぱ凄いな。
そう思いながら蓋を取り、ジャガイモの具合を見る。
最初は煮過ぎて崩れたり、逆に硬すぎたりと失敗の連続だったっけ。
流石にみほさん達に食べて貰う訳にもいかず、自分のお弁当が暫く肉じゃが続きだった事もあった。
あゆみ達にはすぐにバレて、やいのやいのとアドバイスされたりとか冷やかされたりとか。
今日は……うん、上手く行ったかな?
みほさんとルームシェアを始めて、もう二年近くになる。
みほさんは今、世界大会選抜チームの隊長となった愛里寿さんに代わって大学選抜チームを率いている。
サッカーのようにプロアマ混合大会も開かれるようになり、みほさんの忙しさは相当なものだ。
私は戦車道そのものは辞めて、今は学業に専念している。
大洗女子学園卒業時には、いろんな大学や企業からも誘いがあった。
私だけの力とは思わないけど、高校生大会優勝チームの副隊長というのは自分で思っている以上に評価されるものみたい。
勿論私だけじゃなく、桂利奈ちゃんやあゆみ達にもスカウトは殺到していた。
でも、全員がそれらを丁重に断っていた。
理由を尋ねたら、私の指揮じゃないならやろうとは思わない……そう即答されてしまった。
お陰で、余計に私宛のスカウトが増えてしまい大変な目に遭ったけど。
「それにしても勿体無かったね」
着替えたみほさんが、テーブルにお皿を並べながら言った。
「え?」
「梓ちゃんだよ。あのまま続けていたら、今頃私じゃなくて梓ちゃんが隊長になっていてもおかしくなかったのに」
「そうでしょうか?」
「そうだよ。今でもスカウト、来てるんでしょう?」
「ええ。その都度お断りしてるんですが」
在学中にも関わらず、気の早い企業から卒業後にというメールは来ている。
昇進した蝶野三佐からも、自衛隊に入らないかとお誘いをいただいてる。
……でも。
「やっぱり、気は変わらない?」
「はい」
「そっか。……そうだよね」
私は今、戦車道連盟の審判員を目指している。
武芸である以上、審判は必要不可欠。
でも地味な仕事だし、お給料も高いとは言えないせいもありあまり人気はない。
だからと言って、なり手がいなくなったら大変な事になる。
大洗時代にお世話になった篠川さんからその話を聞かされ、私は決意した。
それなら、自分で目指してみようと。
実際に勉強してみて、戦車道の審判がどれだけ大変なのかが少しずつわかり始めた。
ルールを熟知するのは勿論だけど、それもこまめに改定される上に日本と世界ではまた異なる点があったりする。
各チーム全ての戦車について特徴も把握していないといけないし、覚える事は山のようにある。
……でも、後悔はない。
戦車道との縁は大切にしたいし、それで自分の出来る事は何かを考えた末の結論だから。
「梓ちゃん」
「……え?」
みほさんの顔が、目の前にあった。
見慣れているつもりだけど、やっぱりドキドキする。
元々可愛らしい人だったけど、最近だんだんと綺麗にもなってきた気がする。
しほさんやまほさんがあれだけ美人だから当たり前なのかも知れないけど、私からしたら羨ましい限り。
化粧も殆どしないのにこれだから参っちゃう。
「また考え事?」
「……ええ、まあ」
「冷めないうちに食べたいな。ね?」
勿論、拒否権はない。
拒否する理由もないんだけどね。
私は頷き、ガステーブルに向かった。
「う~ん、美味しそう! いただきます」
「はい、どうぞ」
テーブルに向かい合わせで座る。
広い部屋でもないし、自然とこうなっている。
手を合わせ、箸を手にした。
今日の献立は肉じゃが以外にほうれん草の白和え、茄子の揚げ浸し、トマトのさっぱりサラダ、それに若布と豆腐のお味噌汁。
レパートリーも少しは増えてきて、みほさんにも色々と用意してあげられるようになってきた。
最初の頃は出来合いのお惣菜とか簡単なものばかりだったけど、やっぱり栄養のバランスが悪いし体調管理を考えるといい訳がない。
私自身よりも、みほさんの事を考えると余計に。
多忙なみほさんはあまり家事に時間を費やす事が出来ず、ルームシェアするまでは外食とかお弁当が多かったみたい。
それを知ってから、機会があればみほさんの部屋に押しかけて出来る限りサポートしようと心に決めた。
あゆみ達にはまるで押しかけ女房みたいだと冷やかされたけど、それぐらい私はみほさんの事が気懸りだった。
……気がつくと、こうして同じ部屋で暮らしている。
「ふふ」
「梓ちゃん、どうかした? やけに嬉しそうだけど」
「あ、いえ!……それより、どうですか?」
「美味しいよ、どれも。箸が止まらないぐらい」
「そうですか、良かったぁ」
ニコニコしながら食べてくれるみほさんを見ると、私まで幸せな気分になれる。
見ると、みほさんのご飯茶碗はもう空だった。
「みほさん、お代わり如何ですか?」
「ありがとう。ご飯が美味しくて、ついつい進んじゃう」
「うふふ。まるでみほさん、五十鈴先輩みたいですね」
「あ、それはあんまりだよ。華さん程は食べないよ?」
頬を膨らませるみほさん。
こんな仕草も可愛いんだから、反則よね。
「冗談ですよ。しっかり食べて、明日に備えて下さい」
「もう! 梓ちゃん、最近意地悪になってきたね」
「そうですか? みほさんの気のせいですよ、きっと」
「……知らない」
プイとそっぽを向くみほさん。
だから、可愛いだけなんだけどなぁ。
……うん、みほさんの言う事もあながち否定出来ないかも。
「ふう、気持ち良かったぁ」
髪を拭きながら、みほさんがバスルームから出てきた。
ボディーソープの香りが鼻をくすぐる。
「戦車内は暑いですからね。夏場とか大変ですし」
「そうそう。ブーツの中とか蒸れちゃったりね」
「最初はそこまで頭が回らなくて、着替える時にびっくりしましたよ。後からみんなで暑いね、って話をしたんですよ。そうしたら」
「どうなったの?」
「はい。梓は車長でハッチから出られるからまだマシじゃないかって言われちゃいました」
「あはは……。別に車長はああしなきゃいけない訳じゃないんだけどね、車内にずっといるのが普通だし」
実際、車長がああやっているのは通常の移動中とかで戦闘が始まれば車内に入るのが普通だったらしい。
みほさんは滅多に当たらないし状況が良くわかるからと平然としてるけど、実弾を使用する戦車道でその度胸は凄いと思う。
そのせいかどうかはわからないけど、あのポーズでいる車長は少なくない気がする。
大洗時代でも、磯辺先輩とかはそのイメージが強かったし。
他校だと知波単の西さんとか、黒森峰のまほさんの印象が強い。
危険なのは変わらないんだけど、凛々しく見えて絵になるのは確かだし。
「でもその代わり、太陽の光を浴びるから日焼けもしちゃいますよね」
「うんうん、雨や雪が降れば濡れるし。土埃で髪が砂だらけになったりするし、いい事ばかりじゃないよね」
車長にしかわからない苦労。
みほさんに後を託された私には良くわかるつもりだし、実際にそう思う。
「さて……と」
みほさんは冷蔵庫を開けて、振り向いた。
「梓ちゃん。ちょっと付き合わない?」
その手には、ワインボトルがあった。
「それ、どうしたんですか? いつの間にか冷蔵庫に入っていたみたいですけど」
「アンチョビさんから貰ったの。本場の白ワインなんだって」
「そうでしたか。……でも、大丈夫なんですか?」
「だから、ちょっとだけ。ね?」
小首を傾げながら誘ってくるみほさんの破壊力、カール自走臼砲も顔負けだと思う。
秋山先輩やケイさんに聞いたら、首が千切れそうな勢いで同意されたっけ。
「わかりました。ちょっとだけ、ですよ?」
「うん! あ、肴は私が用意するね」
「いいですよ。私が作ります」
「いいからいいから。任せて?」
みほさんも全く料理ができない訳じゃない。
ただ、自分の事すらなかなか時間が取れないくらい多忙な人。
料理の練習や研究をしている暇なんてある訳もない。
そうなると、やっぱり気になってしまう。
下手に包丁で手を切ったりしたら大変だし。
……あ、タマネギを切ろうとしてる。
「みほさん、タマネギですか?」
「え? そうだけど」
「それなら、これを」
私は冷蔵庫を開け、タッパーを取り出した。
昨日タマネギを切った時に、使い道が多いからと余った分を取っておいた。
手間のかかる一品を作るとも思えないから、これがあればいい筈。
「……梓ちゃん。どうしてそんなに準備がいいの?」
「いえ、タマネギを使って何かとなったらスライスかみじん切りかと。違いました?」
「違わないけど……ハァ、梓ちゃんには何でもお見通しなのかなぁ」
「そんな事はないですって。これ、使って下さい」
「……う、うん。ありがとう」
みほさんは包丁を置いた。
あまり気にするのも失礼かも知れないけど、万が一という事があるし。
……過保護じゃない、よね?
「あ、美味しいです」
「良かったぁ」
みほさんが用意したのは、鯛のカルパッチョ。
鯛のお刺身を塩胡椒で馴染ませ、タマネギとサニーレタスを載せてドレッシングをかけたもの。
簡単レシピだけど、本当に美味しい。
白ワインが進んじゃいそう。
「これもね、アンチョビさんに教わったの」
「そうでしたか。ドレッシングもこだわっている感じがしますね」
「……いつも、梓ちゃんにはお世話になりっぱなしだから。何かでお返し出来ないかなって」
「そんな事気にしないで下さい。私が好きでやっているだけだし」
みほさんは、空になったグラスにワインを注ぎ足した。
そして、私のグラスにも。
「久しぶりだね、こうやって梓ちゃんと飲むのは」
「そうですね。みほさん、お忙しいから」
「……本当に、いつもゴメンね」
「ですから気にしないで下さい。みほさんには、笑顔でいて欲しいですから」
「もう、ズルいなぁ。そんな事言われたら、落ち込めないじゃない」
ほんのりと頬を染めて、みほさんは上目遣いに私を見ている。
思わずドキドキしてしまって、目を合わせにくい。
「家で誰かが待っていてくれるのが、こんなに嬉しいなんて私……思わなかったから」
「みほさん……」
「梓ちゃん、みほさんじゃないよ?」
「……え?」
「私には、妹同然なんだから。他人行儀過ぎるよ、うん」
「……もしかして、またですか」
「またって何よまたって!」
みほさんはグラスを干すと、ボトルを持ったまま立ち上がる。
そして、私の隣に腰を下ろした。
「みほお姉ちゃん、でしょ?」
「……もう! それは特別だって言ったじゃないですか」
「だーめ。意地でも呼ばないなら、こうしちゃうぞ?」
みほさんに抱き付かれてしまった。
そのまま、頬をスリスリしてくる。
「ちょ、ちょっとみほさん。やっぱり飲み過ぎですってば」
「みほお姉ちゃん!」
「うふふ、梓ちゃん可愛いなぁ」
みほさん、普段も鍛えているせいでしっかり抱き付かれてしまい引き剥がせない。
嬉しくない訳じゃないんだけど……ってそうじゃなくって!
「梓ちゃん、大好き」
「みほさ……ムグッ!」
「みほお姉ちゃんだって」
手で口を塞がれちゃった。
ど、どうしたらいいのこれ?
……と、不意に回された腕の力が弱まった。
急だったから、息が出来なくて一瞬慌ててしまったけど。
「プハッ! みほ……さん?」
私の肩に頭をもたれて、寝息を立て始めていた。
みほさん、飲み過ぎるとこれがあるから……。
わかっていたんだけどなぁ。
「みほさん、風邪引きますよ?」
「……みほ……お姉ちゃん……だよ」
「失礼しますね。よっと」
脱力するみほさんを何とか立たせて、ベッドに連れて行く。
着替えは無理だから靴下だけ脱がせて、布団を掛けた。
「ふう……。お休みなさい、みほさん」
そう言って離れようとすると、服を掴まれている事に気づいた。
「……梓ちゃん……」
「もう……。少しだけですよ?」
私はみほさんに顔を近づけて、囁いた。
「おやすみなさい。……みほお姉ちゃん」
服の裾を掴んでいた手から力が抜けたみたい。
「……さて、後片付けしようっと」
以上、ウサギ小屋(いそやさん@大洗)より投稿です。