副隊長、やります!   作:はるたか㌠

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タイトルでバレバレでしょうけど、某映画のパロディです。
本編が煮詰まったので気分転換兼ねて書いてみました。


番外編 君の名は!?

 ピピピピピ、と電子音が鳴り響く。

 

「……ん」

 

 布団から手が伸び、音源を掴んだ。

 カチリと音がして、部屋には静寂が戻る。

 

「ふぁぁぁ……。起きなきゃ」

 

 部屋の主、みほは大きく伸びをした。

 そして、時計に目をやる。

 

「……あれ? どうして?」

 

 首を傾げるみほ。

 文字盤は、七時を指していた。

 学校に遅れる時間ではないが、本人にはセットした時間に覚えがないようだ。

 

「……って言うか、時計が違うなぁ。それに、部屋もなんだか」

 

 何度も首を捻りながら、みほはベッドから出ると洗面台に立った。

 それから、鏡を覗き込む。

 

「……え?」

 

 自分の顔をペタペタと触り始めるみほ。

 それから、身体を見た。

 再び鏡に視線を戻し……フリーズしてしまう。

 

「え、ええーっ!」

 

 ベランダにいたスズメが一斉に飛び立つぐらいの絶叫が、こだました。

 

 

 

 ピンポーンと、玄関のチャイムが鳴った。

 鍵が開けられ、ドアの向こうからあゆみが顔を覗かせた。

 

「お、おはようございます」

「あゆみ、早く入って!」

「は、はい。じゃあ、お邪魔します」

 

 恐る恐る部屋に上がりながら、あゆみは訝しげにみほを見る。

 

「あの……。さっきの電話、冗談じゃありませんよね?」

「だから違うったら! 私よ、梓よ!」

 

 何処から見てもみほ本人が、梓だと主張しているのだ。

 あゆみが疑わしい目をするのも無理はない。

 

「じゃあ、質問。私の身長は?」

「百六十センチ!」

「正解。次、梓の昨日の晩御飯は?」

「お蕎麦。紗希と一緒に食べたから」

 

 あゆみは次々に質問を投げ、梓と言い張るみほはそれに澱みなく答えて行く。

 みほは確かに個人データを集める場合もあるが、こうも個人の行動を事細かに把握しているかと言えば流石に怪しい。

 あゆみも納得がいったようで、ふうと溜息をついた。

 

「どうやら、本当に梓みたいだね」

「うん。信じてくれた?」

「良く考えたら、西住隊長が私を騙しても何の意味もないしね。……でも、どういう事なのこれ?」

「私が聞きたいよ。起きたらいきなり西住隊長になっていて、訳がわからないの」

「そうだよね。……あ」

 

 と、あゆみは何かを思いついたようだ。

 

「どうしたの?」

「あのさ。梓が西住隊長になってるって事は……梓の身体はどうなったのかな?」

「私?」

「うん。もしかしたらだけど……梓と西住隊長、入れ替わっるんじゃない?」

 

 あゆみの指摘に、梓は顔面蒼白になる。

 

「た、大変じゃないそれ!」

「兎に角、連絡してみようよ」

 

 あゆみは携帯を取り出し、電話帳から梓の番号を呼び出す。

 程なく、プルルとコール音が聞こえてきた。

 一回、二回、三回……。

 

「出ない?」

「もう少し粘ってみようよ」

 

 コクリと頷く梓。

 そして、十回を過ぎた。

 

「も、もしもし?」

 

 慌てた声が返ってきた。

 紛れもなく、梓の声だった。

 あゆみと、みほの姿をした梓は頷き合う。

 

「おはようございます。あの、西住隊長……ですよね?」

「そ、そうなの山郷さん! 朝起きたら、私梓ちゃんになってて……」

「やっぱり。今、梓と代わりますね」

 

 

 

 一時間後。

 みほと梓は、互いが入れ替わったまま登校。

 あゆみの他、事情を知らされ飛んできた優花里も一緒だった。

 優花里も混乱し、状況を把握するのに少しばかり時間を要したのは言うまでもない。

 話し合いの末いきなりそれぞれ教室には向かわず、生徒会室に。

 軽く事情を聞いた杏は、全員を会長室へ招き入れた。

 

「おい西住、澤! 二人揃って我々をからかっているんじゃないんだろうな!」

「そ、そんなつもりありません!」

「そうです、河嶋先輩! ふざけてこんな真似できません!」

「し、しかしだな……」

「まーまー、河嶋落ち着け。小山、どう思う?」

「はい。確かにあり得ない話だとは思いますけど……お芝居にしては、仕草まで入れ替わってる気がするんです」

「だよねぇ。だいたい、西住ちゃんも澤ちゃんもそんな事に向いてないしねぇ」

 

 杏は立ち上がると、みほと梓の前に立つ。

 それから、二人の顔を代わる代わる覗き込んだ。

 

「西住ちゃん」

「は、はい!」

 

 見た目は梓にしか見えないみほが返事をする。

 

「で、どうする? 全員に事情を説明すんの?」

「い、いえ。それだと余計な混乱を生みそうですし……」

「澤ちゃんは?」

「私も西住隊長に賛成です」

 

 未だに動揺が収まらないみほに対し、梓は落ち着きを取り戻していた。

 

「澤殿はもう平気なのですか?」

「いえ、まだ信じられないですけど。でもこれ、現実ですから」

「梓は強いよねぇ。でも、大丈夫なの? 勉強とか」

「それなんですが……。会長、お願いがあります」

 

 

 

 それから、十数分後。

 みほと梓は、戦車用倉庫に来ていた。

 

「今日は戦車道に専念するから他の授業全部休みなんて、よく思いついたね梓ちゃん」

「だって、この状態で普通に学校生活送れると思います?」

「無理、かな……あはは」

 

 傍から見れば、みほが梓を(たしな)めているようにしか見えない。

 二人の傍に寄れば、会話や表情が明らかに不自然な事に気づくかも知れないが。

 

「それにしても、一体何があったんだろうね」

「わかりませんけど……。ちょっと前に、桂利奈から勧められた映画で似たような話がありまして」

「そうなの?」

「はい。もっとも、その話では入れ替わるのは見ず知らずの男の子と女の子でしたけど」

「……なんか、凄い話だねそれ」

「まだ私達はそれに比べればマシかも知れませんね」

 

 梓の言葉に、苦笑を浮かべるみほ。

 

「でも、ずっとそうだったら大変だね」

「ですね。私達の場合は……どうなんでしょう?」

「それは……ちょっと困るかな。梓ちゃんは困らない?」

「勿論困りますよ。西住隊長の代わりなんて務まる訳ないですから」

「そうかなぁ……あ、そうだ」

 

 みほは、梓を手招きした。

 

「なんですか?」

「いい機会だから、梓ちゃんと戦車乗ってみたいなぁって」

「それは構いませんけど……。でも、私達だけですか?」

「うん。普段だったらこういう機会ないし」

 

 ニコニコしながら、みほは一輌の戦車に近づいた。

 見覚えのない梓は、首を傾げる。

 

「西住隊長、こんな車輌うちにありましたっけ?」

「ううん、ないよ」

「ですよね……。校章も描かれてないし」

「これはね、Ⅱ号戦車。実家から借りてきたんだ」

「実家……ですか。流石西住流家元ですね」

 

 思わず笑顔がひきつってしまう梓。

 

「新しい人達の練習用にいいかな、って。あ、お母さんにもちゃんと許可は貰ってるからね?」

「は、はぁ……」

「これなら、操縦手と車長だけでも動かせるから。じゃ、梓ちゃん車長お願いね」

「え? 車長なら、西住隊長の方が……」

 

 梓の言葉に、みほは苦笑する。

 

「梓ちゃん、私って操縦苦手だって忘れちゃった?」

「いえ、それは覚えていますけど……」

「今は入れ替わってるんだから、梓ちゃんなら操縦も結構上手だし。その身体になっている私が動かした方が、ね?」

「……それはそうかも知れませんけど、大丈夫でしょうか?」

「やってみればわかるんじゃないかな」

 

 そう言って、みほは車内へと入っていく。

 梓は溜息をつくと、後に続いた。

 

 

 

「では、行きますよ?」

「いつでもどうぞ!」

「……パンツァー・フォー!」

 

 梓の合図で、みほはⅡ号戦車をスタートさせた。

 梓の身体が覚えた操縦技術のお陰なのか、思っていたよりも動きはスムーズに感じられた。

 

「梓ちゃん、どうする?」

「とりあえず、学園艦を一周してみましょうか」

「了解!」

 

 車長の席で、ハッチから上半身を出すスタイルにもすっかり慣れた梓。

 スピードを上げて走れば砂埃だらけになるし、髪もグチャグチャになったりする。

 それでも、彼女はこのスタイルを止めようとはしない。

 

「ふふっ」

「どうしたの、梓ちゃん?」

「……え? な、何でしょう?」

「ううん、なんだか楽しそうだったから。流石に操縦しながらじゃ、顔は見えないけど」

 

 真っ赤になる梓。

 が、みほ相手に黙りこくるような真似はしないようだ。

 

「なんか、こうしていると西住隊長の気持ちがちょっとだけわかる気がしまして」

「私の気持ち?」

「はい。戦車道初めた頃は沙織先輩じゃないですけど、危ないなってしか思わなかったんですけど……」

「今は違う?」

「違います、周囲の状況を把握しやすいのは勿論ですけど。……こうしていると、なんか気持ちがいいなって」

「気持ちいい、か」

「あ、いえっ! ただ、この身体になったせいかそんな気がして仕方なくて……すみません」

 

 と、みほがクスクスと笑い出した。

 

「梓ちゃん」

「は、はい!」

「間違ってないよ、それ」

「……そうなんですか?」

「だってそうじゃない。風を感じられるし、私は好きだな」

「……そう、ですよね。ですよね!」

 

 梓は弾かれたように立ち上がると、ハッチの外へ。

 スピードが落ちている訳ではなく、車体は激しく振動している。

 もしバランスを崩せば転落する危険がある中での行為。

 それでも梓はためらう事なく、砲塔の上に立ち上がった。

 全国大会でみほが披露した、いわゆる『軍神立ち』。

 みほの身体とはいえ、しっかりと脚に力を入れ見事に決めてみせた。

 梓は、会心の笑みを浮かべた。

 

「コラーッ!」

「あ、危ないですって!」

 

 ……と。

 梓が半ばトリップしそうになったところに、後方からいきなり怒鳴り声が飛んできた。

 振り向くと、ヘッツアーが猛スピードで追いかけているのが見えた。

 ハッチからは、あゆみが身を乗り出している。

 姿は見えないが、優花里の声も。

 恐らく、操縦しているのだろう。

 

「心配して来てみたら。梓、何やってるのよ!」

「な、何って……。ほら、格好いいでしょ?」

「バカ! その身体、西住隊長のだって事忘れてる訳じゃないでしょ?」

「西住殿! とにかく停まって下さい!」

 

 最高速度はほぼ同じの二輌。

 優花里の指示通り、みほが減速すればあっという間に追いつかれるだろう。

 

「梓ちゃん、どうする?」

「え? ど、どうするって……」

「決めるのは車長だよ? 私はそれに従うよ」

 

 梓はチラ、と車内を覗き込んだ。

 みほは一瞬振り向き、頷いてみせた。

 

「……ゴメンね、あゆみ。秋山先輩」

「あ、梓?」

「澤殿!」

「全速前進! パンツァー・フォー!」

アインフェアシュタンデン(了解)!」

 

 Ⅱ号戦車は、一気に加速した。

 梓は、心地よさに包まれていく。

 

 

 

「……というネタでドラマを作ってみたいと思うのですが、どうでしょう!」

「どう、と言われましても……」

「困ります……」

 

 みほと梓が、顔を見合わせて溜息をつく。

 その前には、妙なスイッチの入った王大河が。

 どうやら、人物が入れ替わる某アニメ映画に影響されてしまったらしく。

 勢いのまま、みほと梓に置き換えた話を作ろうと意気込んでいるらしい。

 

「あの、すみませんけど……他を当たって下さい」

「私もお役に立てそうにありませんから」

「え? あ、あの。ちょっと!」

 

 慌てふためく大河を他所に、二人はその場を離れた。

 

「ところで、梓ちゃん」

「はい?」

「軍神立ち、だっけ? やってみる気はない?」

「え、ええっ!」

 

 どこまでが夢でどこまでが現実なのか。

 パニック状態の梓だった。




途中まで書いて放置していたのですが、せっかくなので。
夢オチにする予定でしたが、それだけではつまらないので大河の出番を。

本編はもう少しお待ち下さい。
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