とある聖王の双子兄妹   作:tubaki7

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 自分は、望んで生み出された。歪んだ願いによって、歪んだカタチで。

 

 生きていることが罪。本来であれば、存在してはならないものだから。

 

 全てが無意味な世界。見えるもの全てが、感じる事全てが白黒だった。

 

 でも・・・そんな世界でも、たった一つだけ鮮やかに見えていたものがある。

 

  そして、今でも覚えている。流れた涙と、差し出された手の温度。

 

 

 

 全てが色づいていく。鮮やかに、眩しいくらいに。そんな時、初めて思ったんだ。誰かの為に、強くなりたいって――――。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 朝からうるさい。そう文句を言いたいがそれさえ怠いので布団を面一杯被ってさながらミノムシが如く日光と外部からの音を遮断する。春先の暖かな気候と、自身の体温で温められた布団の中はそれはそれは天国のような心地よさで包んでくれる。布団は素晴らしい。人類が生み出した英知の賜物だ。そう讃頌してもいいほどに。

 

 が、そんな至福の時を阻む者が足音を立てて忍び寄っていた。

 

 ドアを開く音。そろりそろりと足音を立てずに歩いているつもりだろうが、先ほどドアの向こう側で聴こえていた階段を上がる音でもはや接近してきているのはわかっている。なのに未だにそれを学習しようとしない妹にはもはや呆れを通り越して哀れだと思う。

 

  学習能力は、人一倍長けている筈だが。

 

 そんな事を寝ぼけ眼で考えながらウトウトと船を漕ぎ出すこと数秒。急に強烈な光と少しの寒気が体を包んだ。

 

「おっきろ~ッ!」

 

 弾んだ声に鬱陶しいほどの明るさを感じながらそのままの体勢でじろっと見上げてみる。既に制服を着こんだその少女はドヤ顔でこちらに左右非対称の色をした瞳を向けていた。

 

「朝だよヴィット!もう朝ごはんできてるよ」

「朝から元気だなおまえ・・・」

「ヴィットが元気なさすぎるんだよ。さ、早く着替えて降りてきてね。遅刻しちゃうよ」

 

 ほぼ一方的にそう告げて階段を下りていく。しかもドアを開けっぱなし。こちらを寝かせる気など微塵もないという意志の表れだろうか。

 

「ヴィット、ごはんだよ~!」

 

 一階から母を慕う女性声が聞こえ、空いたドアからかぐわしい匂いが嗅覚を刺激し、空腹感を煽った。流石にこれは耐えられるわけもなく、寝ぼけ眼のまままずは着替え。その時、ふと全身鏡に映った自身の姿を見た。St.ザンクトヒルデ魔法学院、初等科の男子制服。既に着慣れたその制服に袖を通すということが、今思えば数年前までは考えもしなかったことだ。そんなことを考えながら次は目を覚ますために階段を下りて脱衣所にある洗面台へ。

 

  四年前、ここミッドチルダでは次元世界すらも揺るがす大きな事件が起きた。それがJS事件。そして、自身と妹ヴィヴィオが大きくかかわり、出逢った事件でもあった。

 

 聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。かつて戦乱真っただ中にあったベルカを終戦させたとされる英雄。しかし、時を経てその功績は語り継がれると共に歪んだ思想の渦により再びこの世に蘇った。その内の一つが、自分とヴィヴィオの二人である。ゆりかごを動かすための起動キーとして。器と魂。この場合、ヴィヴィオが魂であり、自身が器ということになる。

 

 その他にも色々あったのだが、思い出すとキリがないので割愛することにして最後に寝癖を直しリビングに行く。

 

「あ、今日は早く起きられたんだね。偉い偉い」

「むぅ・・・」

 

 リビングに入ればそう言いながらサラダの盛られたバスケットを持ちながら栗毛のサイドポニーの女性が柔らかい笑みで迎えた。時空管理局本局、戦技教導隊所属。高町なのは一等空尉。それがこの人の肩書であり、義理の母親であり、同時に恩人でもある。

 

 しかし、そんな女性でもこうも子ども扱いされては少し納得がいかない。男故に、そんなプライドがある。しかし何か言い返せるかと言われるとなにも言葉が出てこないのでこう呟くことでしか返すことができないのが現実だ。この笑顔を前にすると何もできなくなる。

 

「ほーら、早く早く」

「わーってるようるさい・・・」

 

 しかし、こと妹に関しては対応が違う。この差はなんなのかとたまに思うヴィヴィオだが、それもいつもの事なのでスルーして隣にヴァンが据わったことを確認して二人で手を合わせる。

 

「いただきます」

 

 2人の声がかさなりなのはの「召し上がれ」の声を受けて食べ始める。スクランブルエッグにベーコン、パンにサラダ。朝だから消化に良いものがテーブルに並べられている。味はもちろん、申し分ない。

 

「フェイトママはもうお仕事?」

「うん。昨日も夜遅かったし・・・最近忙しいみたいだね」

 

 もう一人の母である、フェイト・T・ハラオウン。執務官職についており、多忙の為家にいても会える時間は限られているなんとことがあるが、それでも学校の行事や家族の取り決め事などには決まって家にいたりするが、基本すれ違いが多い。これでも、頻度は減ってる方ではあるのだが。ヴィヴィオにとっては少し寂しい気もあるようで、若干明るさが陰る。

 

 こういう時、兄としてはフォローするのが定石というものだろうか。

 

「・・・ま、フェイトさ・・・母さんも仕事なんだしよ。それに早く喰わねーと遅刻するぞ?」

「あ、そうだった!?」

 

 慌てて胃に押し込むヴィヴィオ。朝から忙しい妹を横に兄は余裕の様子で朝食を平らげてキッチンに使った食器を持って行き、リビングを出ようとする。

 

「あ、なの・・・は母さん」

 

 慣れない母さん呼びを半ば教養として強要されるヴィット。しかしこの有無を言わせぬ笑顔の前ではどんな人間でもガタガタと震えることだろう。身内がそうなのだから間違いない。

 

「なあに?ヴィット」

「き、今日は嘱託の仕事があるから、学校終わったらそのまま右腕と左足のメンテ(・・・・・・・・・)に行ってくる」

「うん。どう?調子は」

「大方好調。特になんもない」

 

 そう言って左足のつま先を床に数回打ち付ける。しかしトントンという軽快なリズムではなく、カシャカシャと、機械じみた音が鳴った。

 

  ヴィットとヴィヴィオ。二人には、ある共通点が存在する。それは目の色や髪色、そして大まかな顔立ちと魔力色だけではない。ヴィットは右腕が、ヴィヴィオは左腕が無いのだ。灰色の、無骨な輝きを放つ人工的な機械の腕。強固な鋼で造られたその腕は、生前の聖王オリヴィエと重なる。彼女もまた、両腕がなかった。それ故なのかどうかは知る術もないが。本来であればこういったものは上から人工皮膚で覆って、普通の人間の腕と同じに見せるのだが、二人はあえてそうはしてはない。そうしたほうがいいと、二人の母や周囲の大人たちには言われるものの、本人達の「自分達が生まれて、生きていく上でのカタチだから」ということでそのままにしている。

 

 そして、最後の違い。ヴィットのみ、左足も腕同様の材質でできている。これはJS事件の時、とある事情(・・・・・)により失ってしまった左足を補うためにこうなったのだ。元々施されていた腕の手術とは違い、後付けされたものであり、今でもたまに軽いリハビリなどで異常がないかを確認している。嘱託魔導師と学生、二足の草鞋を踏みながら。

 

「忘れ物ない?」

「ないー!」

「ない」

 

 戸締りと身支度をしっかりと確認してから家を出る。その際、なのはは地上本部のあるクラナガンへ。そしてヴィットとヴィヴィオは反対側の聖王教会自治領方面へと向かう。その分かれ道でヴィヴィオとなのはがハイタッチを交わしているのを、ヴィットは遠巻きに見つめた。

 

「ほら、ヴィットも」

 

 これも半ば強制なので、周囲に人の目がないのを確認してタッチを交わす。ヴィヴィオとは違い控え気味なものではあるが、なのはは満足したような顔で二人に手を振って反対方向の道へと歩を進めていく。その背中を少し見送ったあと、二人も学校へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 stヒルデ魔法学院は、それぞれ初等科と中等科に分かれている。そして二人は初等科、この春から4年生になる。そのクラス割りを確認するために玄関口まで行けば、見知った顔を二人見つけて声をかける。黒髪で、チラリと見える八重歯が活発的な印象を受けるリオ・ウェズリー。淡い灰色のツインテールと、柔らかな物腰を思わせる雰囲気のコロナ・ティミル。二人とも、入学以来ずっと一緒のクラスであり、友人である。そんな二人に挨拶すれば、朝一に嬉しい朗報が舞い込んできた。

 

「ヴィヴィオ、今年も同じクラスだよ!」

 

 リオがハツラツとした声と笑顔で迎える。

 

「また四人、一緒だねっ」

 

 リオと比べれば控えめではあるが、それでも笑顔一杯ではしゃぐコロナ。二人と輪になってわいわいはしゃぐヴィヴィオを見て、今年も一年騒がしいなと軽く溜息をついてみる。

 

「ちょっと、なんでそうテンション低いかな?もっと喜ぼうよ」

「朝は苦手なんだよ。つか俺からしてみればお前らよくこんな朝っぱらからハイテンションでいられるよな」

「だって、嬉しいんだもん。ねー?」

「「ねーっ!」」

 

 よくもまぁそんな恥ずかしい台詞をすっと言えるもんだと感心しつつ、教室へと向かう。そんな最中、ヴィヴィオがふと何か思いついたかのように手を叩いた。パン、と義手と生身の手の合わさったなんともキレのいい音が鳴る。

 

「ね、記念写真撮ろうよ!」

「またか」

「いいじゃん、もう恒例行事なんだし」

「ヴィットって写真写り悪いからね~」

「ンだとリオ?」

「ま、まあまあ・・・」

 

 いつものノリで自然と集まる4人。そして、ヴィヴィオはスカートのポケットから携帯端末を取り出して、ピントを合わせる。

 

「1+1は~?」

「「に~!」」

「・・・にー」

 

 コロナとリオに遅れることワンテンポでヴィットがなんともやる気のない声をだす。そしてヴィヴィオがシャッターを切る直前に、ヴィットは右隣にいるリオの目線を隠した。その瞬間、ピカッと光るフラッシュ。

 

「ちょッ、ヴィット!」

「ハン、ザマぁ!」

 

 追いかけまわすリオと逃げるヴィット。そんないつもの光景を見ながら、春の訪れを告げるピンクの花吹雪を見て思う。

 

  ここまで色んなことがあった。でも、自分達がありのままで生きていくことを許してくれた人たちがいるから。悲しいことも、辛い想い出も、今は笑顔で話せる。そんなことが、なんだかすごく、幸せだ。

 

「ヴィヴィオー、ボサッとしてっと置いてくよー」

「あ、今行く!」

 

 そんなわけで、高町ヴィヴィオ並びに高町ヴィット。兄妹揃って、今日も元気です!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 最年少天才嘱託魔導師の再来。そんな温い肩書が付いたのは、今でも記憶に新しい。本人からしてみれば心の底からどうでもいいことだが、周囲の人間がそう持て囃すのですっかり広まってしまった。そんな歯の浮くような肩書を付けられてしまった最年少天才嘱託魔導師の再来こと、高町ヴィットは夜の街を抜け、家への帰路へとついていた。

 

 その道中。前方に見知った後ろ姿を見つける。

 

「ノーヴェ」

「ん・・・おお、ヴィットじゃねえか」

 

 赤髪のショートカット。引き締まった肢体にキリッとした金の瞳。些か言葉使いは荒いものの、れっきとした女性だ。

 

「おまえも今帰りか?子どもなのによく働くなぁ」

「ま、これでも嘱託なんでな。それに今日は定期検査もあったし」

「お前みたいな嘱託魔導師なんて聞いた事ねーよ。・・・あ、でも前例がないこともないか」

「・・・まあ、それに比べたら俺なんて霞むけどさ。それに俺、言われるほど魔法とか得意じゃないし」

 

 並んで話しながら歩く。聖王オリヴィエは、魔力に秀でた人物だ。格闘技にしても、何をやらせても器用にこなす、いわば天才と言っても過言ではない。だが、そんな彼女でも唯一、苦手とする分野があった。それが魔法だ。

 

  古代ベルカに限らず、それよりも前の時代から根強く残っていた文化。限られた人間にしか使用できない魔法とは違い、手順と法さえしっかりと身に着けていればほぼ誰でも使える術―――それが、錬金術。聖王家、強いてはゼーゲブレヒトの家系はその錬金術にも秀でていた家系でもある。すると当然、その遺伝子を受け継ぐヴィヴィオとヴィットはその両方が使えるわけだが、どういうわけかヴィットだけ、魔法がそこまで得意ではない。できることと言えば、簡単なサポート魔法と肉体強化の二つだけ。空を飛べる母、特別な属性変換資質等一切持ち合わせていないのだ。

 

 これを見れば、天才とは言い難い。ゆえに、ヴィットは自身の評価をレッテルの如く認識してしまっている。

 

「でもスゲーと思うぞ?錬金術なんて、使えるのお前とヴィヴィオくらいなもんだしさ」

「似たようなので創生魔法とかあんじゃん。むしろ俺からしてみればソッチの方がすげー」

 

 そう言いながら今朝逢った友人の内の一人を思い出してみる。授業では少し習いはしたが、自分はそれを動かすなんてマネはまずできない。そんな事を他者よりも完成度が高く、しっかりと制御してやってのけるのだから才能だろう。少し羨ましい気持ちを吐きだしつつ、ふと自分を見下ろしている存在がいることに気が付いて、上を見た。

 

  街頭の、先端。垂れかかった頭の上に、それはいた。

 

「・・・左右色違いの瞳。そしてその腕・・・やっと見つけた」

 

 そう静かに呟やいて降りてきたのは、エメラルドの髪に、身長170に達しようかというほどの長身。服の上からでもわかる、鍛えられた肉体は無駄な筋肉など一切ない。不気味に光る、顔を隠したバイザーさえなければ完璧なプロポーションと言えるだろう。そんな、自分とは縁遠いであろう女性から声をかけられた。普通なら嬉しいと思うところだが、状況と纏っている雰囲気がそれとは真逆の為、そんなものはない。緊張と・・・警戒。穏やかではないことだけは確かだ。

 

「・・・おまえ、まさか最近頻発してるっていう連続通り魔事件の犯人か?」

 

 ノーヴェが冷静に言葉を発する。それに、バイザーを付けた女性は肯定とも否定とも言えない頷きで降りてくる。

 

「否定はしません。実際、私のやっていることはさして変わりありませんから。・・・そこの少年」

「アン?」

「・・・・単刀直入に聞きます。貴方は聖王(・・)ですか?」

 

 発せられた言葉に、ヴィットは眉一つ動かさずに返す。

 

「だったらどーだってんだ」

「私の名は、ハイディ・ES・イングヴァルト・・・覇王を名乗らせていただいてます」

 

 覇王―――その言葉に、覚えがある。そして同時に直感した。

 

  コイツを、ヴィヴィオに逢わせてはいけないと。

 

「その覇王がなんの用だ?生憎と俺は聖王様なんて大それたもんじゃないんだが」

「いいえ、貴方は紛れもなく聖王の複製体。その証拠にその腕と髪、そして瞳の色。間違うはずがありません」

 

 引く気はない。そう言いたげにこちらに投げかけてくる。

 

「・・・じゃあ、仮に俺がその聖王だとして。覇王のアンタが俺になんの用だ」

「・・・証明です」

「証明?」

 

 ノーヴェの問いに、覇王はそのバイザーを取る。そこにあったのは、紫と蒼の瞳。自分と同じ、左右色違いの瞳だ。

 

「冥王イクスヴェリアと、現代の聖王。その双方を打ち倒すことで、覇王が頂点だということを証明する・・・それが私の悲願です」

「・・・悪いが覇王さんよ。こっちはその気は微塵もねえ。強さを証明したいんだったら公式の大会にでも出な。そうすりゃ―――」

「わかりました。・・・では、もう一人の聖王(・・・・・・・)を探すまで」

「ッ!?」

 

 迂闊だった。既に情報は知られている。このまま何事もなく事が済めばいいと思っていたが、相手はヴィヴィオの情報も持っている。ここで自分が断れば、次に狙われるのは間違いなくヴィヴィオだ。

 

 それだけは、させるわけにはいかない。

 

「待てよ」

 

 踵をかえそうとするイングヴァルトに、ヴィットは待ったをかける。

 

「・・・彼奴はな。普通の女の子なんだよ。他とはちっとばかし違う点もあっけど、それでも毎日毎日、鬱陶しいぐらい元気に笑顔で暮らしてんだ。もうベルカだの聖王だの、関わり合いはねえんだ。イクスだってそうだ。・・・みんな、やっと平和に過ごしてんだよ」

「・・・弱い王なら、屠るまでです」

 

 パアン――――。そんな音がした直後、イングヴァルトのいた地面から棘のようなものが無数に生えてくる。それを跳躍して躱し、距離を取った。見れば、地面に手をついたヴィットがいる。

 

「その術・・・魔法ではく、錬金術。やはり貴方が片割れでしたか」

「ヴィットよせ!相手の言葉に乗るな!」

「・・・わかってる。けど、コイツだけはぶっ飛ばさねーと気が済まないッ!」

 

 もう一度、今度は速度を上げて棘を錬成する。しかしそれすら躱し、再び距離を取った。

 

「上等だぜ・・・だったら相手になってやる。後悔すんじゃねぇぞ通り魔野郎!」

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