とある聖王の双子兄妹   作:tubaki7

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 ノーヴェ・ナカジマは戦闘機人である。機械の骨格に人の躰という、人ではないヒト。そんな彼女は名の通り戦闘のプロでもある。格闘技(ストライク・アーツ)の有段者で、管理局では地上部隊の非常勤救助隊員として災害現場や、場合によっては凶悪犯罪の捜査に協力したりと幅広い。そんな彼女から見ても、目の前の戦闘は圧巻の一言だった。

 

 地面から出ては消えるコンクリートの棘。走る二つの影に、時折聞こえる渇いた音。僅かな光が一瞬走ったかと思えば、また別のアクションが起こる。相手は大人の女とはいえ、かなりの実力者。それに食らいついている少年の、少し傷ついた背中を見ながらノーヴェはようやく言葉を発する。

 

「よせヴィット!いくらお前でも差がありすぎる!」

「身長のこと言ってんだったらぶっ飛ばすぞッ!?」

 

 いや、そうでじゃなくて。そう言いたかったが言う前に相手が動く。一瞬で間合いを詰め、ヴィットの頭上から手刀を振りおろしそれを間一髪のところで回避される。すかさず手を合わせ、地面に当てれば再び地面が盛り上がり、今度は手ではなく拳を模ったものが飛んでいく。直撃をくらい、吹っ飛んだように思えたが、それさえも相手には効果が薄いようにも思える。一向に有効打を与えられていないことに見ているノーヴェ同様ヴィットも驚愕した。

 

「チッ・・・当たってんのにビクともしねえ・・・」

「攻撃、防御、あらゆる面で彼奴の方が上だ。いくら手数と経験で勝っても、こうもあっさりと埋められると・・・」

 

 と、そこでノーヴェは思考を止め、考え直す。

 

(ちょっと待て。彼奴の動き・・・本当に技術だけか・・・?)

 

 そこまで思い至り、思い出す。そう、確かに奴は覇王と名乗った。そして目的も。最初はただの記憶継承によるものからくる発言かとも思ったが、そうじゃない。ヴィットとヴィヴィオが聖王オリヴィエの錬金術を引き継いだように、彼女もまた同じなのだ。―――いや。もしかしたら、それ以上かもしれない。

 

「ヴィット!ソイツ、記憶だけじゃない!経験までトレースしてるぞ!」

「ハァッ!?」

 

 起き上がり、構直す相手をヴィットは見据える。通常、記憶転写や継承は元となった人物の記憶を持っていても経験(・・)まではトレースできない。それは、受け皿となっている個体が素体と完全一致しないことからくるものである。彼女の場合、元となった覇王はヴィットの記憶が正しければ男だった。それに対し、今目の前にいるのは女。そう、圧倒的に体格差や筋力が違うのだ。だからこそ、動きのトレースなどほぼ不可能。

 

 だがどうだ。目の前の女はそれをやってみせている。術を使っているわけでも、ましてや魔法を使って強化しているわけでもない。己の鍛錬と、持ち合わせた記憶から引き出したもののみで、ここまで動けているのだ。

 

「オイオイオイオイ、そりゃなんの冗談だ・・・?」

「冗談ではありません。私は覇王クラウスを継いでいます。私の技、動き、その全ては彼のものです。・・・まあ、完成品というには些か語弊がありますが」

 

 それでもこの完成度、それだけで驚きだ。ここまでの会話で落ち着きを取り戻していた思考で考える。未完成とはいえ、動きは覇王クラウスそのものに近い。こちらは少しの魔法と錬金術、そして格闘に覚えがある程度。手数に自信はある。だが、認めたくはないが差がある。実力に。

 

  でも。

 

「だからって、ここで退く理由にはなんねーよな。相手が覇王だろうがエース・オブ・エースだろうが、やるしかねえ。ここで引っ込んだら男じゃねえ!」

 

 踏み込んで、まずは距離を詰める。そこからフェイントを入れて下から上へと右拳を突き上げる。しかし覇王はそれを上体をそらして回避。すぐに体勢を変えてカウンターを、空いている右脇へと狙いを定めた。

 

「これで終わりです」

 

 静かに、透き通った声が響く。

 

「ンなわけねぇだろッ!」

 

 拳がさく裂する刹那、ヴィットは無理やり躰をひねって回転。拳の軌道から外れた後。今度はその回転を維持したまま左肘打ちを繰り出す。例え力で敵わなくとも、回転を加えることでその威力を高める。このような技術は公式の場であっても使われることが多い。主に体格差のあるヴィットにおいては重宝される。

 

  しかし、相手はこちらの考えなど凌駕していた。

 

 迫りくる打撃。直撃コースで、狙うは目元。これが決まれば決定打になりえるものを、彼女は腕を掲げて防いだ。

 

「アレを防いだ!?」

 

 ノーヴェの驚愕の直後、ヴィットの背を衝撃が突き抜ける。まるでタッチするか如くの突きはヴィットの小さな躰を打ち上げ、宙へと飛ばして地面に叩きつける。背中から落ちた為肺から空気を押し出されて咳き込む。衝撃で視界が揺れ、立ち上がることすら危うい。

 

「・・・今の貴方の動きは、私の知っている聖王オリヴィエとは程遠い。本当に複製体ですか?」

「生憎と、そんなことは微塵も思っちゃいねーんでな・・・捌きは全部、他人から教わったものを元に自分なりに組み立てたもんだよ。後は経験と実績だ」

「なるほど・・・ですが、やはり弱いですね」

 

 きっぱりと言い切られ、正直ショックはある。でも、今はそれどころではない。先ほどの打撃と酷使したせいで右腕が使い物にならない。おそらくは神経ケーブルの何本かがいかれたんだろう。うんともすんとも言わない。

 

 だが、手がないわけではない。

 

「・・・そうだな。俺は弱い。肝心な時にいつも何もできなくて、ただ助けてもらうしかなくてさ・・・でも」

「・・・ッ!」

「それで諦めるなんざ、まっぴら御免なんだよッ!」

 

 震える足をなんとか奮い立たせ、勢いよく立ち上がって頭突きを顎にくらわせる。今度は直撃した。そして―――

 

「これで終わりだッ!」

 

 左手をだらんと垂れている右手と合わせる。そして左手を地面に当てれば、まるで電気が走ったかのように光がほとばしった後、四角柱が勢いよく伸び―――直撃し、吹き飛ばす。既に頭突きで顎をやられていた為、これが決定打となり空中で完全に意識を失った。

 

 が、それがマズかった。

 

「やっべ、やりすぎた!」

 

 錬成された四角柱はコントロールを半ば無視した為、かなり勢いがついてしまった。それで宙に打ち上げてしまったため、そこで意識を失えば当然無防備なわけで。放物線を描き、落下する躰。地面に向いているのはもちろん頭だ。このまま落下すれば、首の骨を折りかねない。まだフラつく足を必死に立たせようと踏ん張るが、ダメージと疲労で足が動かない。

 

「ったく、よ!」

 

 それをいち早く察したノーヴェは落下地点に滑り込んでキャッチ。事なきを経たことに溜息をつくと、今まで耐えていたものがドッと押し寄せ、その場に倒れ込む。

 

「つ、疲れた・・・」

「無茶しすぎだ。お前も、此奴も」

 

 躰が光る。すると途端に重量が軽くなり、ノーヴェの手の中には、自分とさして変わらぬ外見年齢の少女が眠っていた。

 

「変身魔法だったのか・・・」

「どーりで見つかんねーわけだ。って、その制服・・・ウチの中等部の制服じゃねーか!」

 

 これはまた、色々と複雑そうだ。しかしその前に自分には最優先で考えなければならないことがる。

 

(みんなに腕のこと、どー説明すっかな・・・)

 

 そう考えながら、ヴィットは意識を手放した。

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