その日の朝、高町・ハラオウン家では嵐が巻き起こっていた。ボロボロで、右腕の動かない息子。かたや兄。しかも明け方に帰宅。嘱託とはいえ、この年齢の子どもをこんなに長く働かせるほど管理局は鬼ではない。少なくとも自分がまだ嘱託だった時とは違うのだからそんなことはないはずだと、二人目の母であるフェイト・T・ハラオウンはボウルをひっくり返しながら考える。同居人の高町なのはは唖然としながら口をポカーンと開けており、焦げているフライパンの中身など知る由もない。妹のヴィヴィオとはというと、どうしていいかわからず右往左往。相棒のセイクリッドハート―――
なんなんだ、このカオスは。
自分が招いたことだとは百も承知だが、片や管理局のエース・オブ・エースと片や金色の閃光。時空管理局始まって以来の天才魔導師二人がこのザマである。もう少ししっかりしてほしいと思いつつ、今はこの状況をなんとかしなければ。でなけりゃあのフライパンの中身のダークマターを食さなければならなくなるという惨事に見舞われることになる。
「えっと・・・とりあえず、お湯で湿らせたタオルくれるかな?あと、フライパンにかけてる火を消す。それから母さん、床拭いて」
呆れながらも指示を飛ばす。「自分には?」とふよふよとこちらに浮遊してきたクリスにはヴィヴィオを見ててくれとだけ言い、ソファに腰掛ける。
『派手にやられましたね』
ポケットの中から音声が聴こえたため、それを取り出してみる。右側の為少々取りずらかったが、幸いチェーンを引っ張れば簡単に取ることができた。外見は銀の懐中時計。しかし中身を開ければそこは時計の針や数字の他に、キラキラと輝く緑色の宝石が埋め込まれている。
『私を使っていれば、貴方ならもっと楽に立ち回れたはずですが?』
「アルケミィ・・・バーカ、ンなことしたら街中でデバイス使ったってことで大騒ぎになるだろ?そしたらまた余計なことが増えるだけだ」
『ですが、もうすでに余計な事になっているようですよ?』
そう言ってデバイスであるアルケミィがいくつかのホロウィンドウを表示する。錬成し、そのままになっている道路。ボロボロの外壁に散らばる瓦礫。どうしたらこうなるのかとテレビの方ではキャスターと専門家がなんだかよくわからない議論を交わしている。
『ランスター執務官から連絡が入っていますが・・・』
「繋いでくれ」
即答であった。
《はーい、ヴィット。調子はどう?送ってったノーヴェから大分―――》
「すんませんしたァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
我ながら、綺麗な土下座だと思った、そんな日曜日の朝であった。
◇
アインハルト・ストラトス。stヒルデ魔法学院に通う中等部の学生。容姿端麗、成績は極めて優秀であり、その業績は過去類を見ないほどだとも言われている。しかし他人を寄せ付けない雰囲気からか、その栄光とは裏腹にあまり目立った様子は見られない。休み時間も比較的一人でいることが多く、クラスメート達も「そういうキャラだから」という理由で高嶺の花として扱われている。ヴィット曰く、「目の上のたん瘤だろ」とのこと。家族とは別居しており、もう長い間会ってはいないらしい。本人が言うことをしないため深くは聞かなかったが、どうやら複雑な事情がありそうだと、ノーヴェは直感的に感じたらしい。そのこともあってか、保護観察者の欄に自身の名前を記した紙を受け付けにて提出し、今は二人で何やら話している。そんな光景を遠目で眺めながら、ヴィットはスバルとティアナに挟まれて椅子に座っていた。
「すんません、ティアさん。俺のせいで色々迷惑かけちゃって」
「いいのよ。それにちゃんと元に戻したわけだし、お咎めもなかったから結果オーライよ」
そう言って笑ってみせるティアナ。
「にしても凄いねーヴィット。アルから映像見せてもらったけど、デバイスの補助なしであそこまでやるなんてさ!」
嬉々とした表情で興奮ぎみに感想を述べるスバル。二人とも機動六課がまだ稼働時期からの付き合いである。
「まあ、裏を返せばデバイス使わないとやっぱ生身じゃなんもできねーってことですけどね。内容もボロボロ、錬金術使えなけりゃ瞬殺でしたし、右腕もこんなんだし」
そう言って、まだ動かない右腕を強調してみる。神経ケーブルがイカレてしまったため感覚は無いが、幸い方から肘の部分は生身なのでそれを動かしてみる。なんとも奇妙な感覚だが、それでも完璧に動かないよりはまだマシだ。
「そうだぞヴィット。腕直したらまた練習し直しだかんな」
「はいはい、わーってますよー・・・」
どうしてこうも自分と他二人とは態度が違うのか。納得のいかない節はあるが、今はそれはどうでもいい。ノーヴェは自分の後ろで怯えるかのようにして控えているアインハルトに促す。半ば強引に前に出された彼女は、緊張と戸惑いでどうにかなりそうな心を必死に制御し、一言発する。
「あ、あの・・・ッ」
「ん?」
「えっと・・・昨晩は・・・お楽しみでしたね」
「ノーヴェ」
「いや、違うッ!そんなことは一切教えてない!お前もなにアガって訳のわかんねーこと言ってんだよ!」
顔を真っ赤にするノーヴェをジト目で睨むヴィット。それを見てクスクスと笑いをこらえるスバルとティアナ。必死に弁解するノーヴェだが、もうすでにアインハルトの行動のおかげで後の祭りである。
だが、それが幸いしたのか。スバルとティアナとは違う、小さな小さな笑い声が聞こえた。
「・・・ふーん」
「え・・・あ、ご、ごめんなさいっ!」
「いや、いいよ。いいモン見れたしさ」
朝から得した気分だ、とヴィットは立ち上がると、左手を差し出す。
「正直まだ納得いかねーことはあっけど、とりあえずアンタが悪い奴じゃないって確証は持てた。そーいう笑顔をする奴は、いい奴だ」
「あ、えっと・・・」
「俺、高町ヴィット。アンタの後輩・・・かな」
「あ、アインハルト・ストラトスです・・・」
おっかなびっくりに伸ばされた手を、ヴィットはしっかりと握り直す。とりあえずの和解は、なんとも和やかな雰囲気の元成された。