何度繰り返したのか。何度仲間が死んでいったのか。それはもう覚えていない。彼らが今思えることはただ一つ『乾巧(いぬいたくみ)の死によって戦いが終わる』というその事実だけ。
「考え直さないか」
仮面ライダードライブ───泊進ノ介(とまりしんのすけ)は巧に言った。刑事で仮面ライダーで、そして一人の人間として優しき心を持った彼がそう提案するのはおかしなことではなかった。いや、むしろ当たり前だ。口には出してないがこの場にいる者たちは皆それを望んでいる。歴史改変装置を破壊する。そうすれば本来の歴史の中で死んでいた巧はまた死ぬ。そんなことを許す人間は彼らの中にはいない。しかし、歪んだ歴史を元に戻す方法はそれしかない。
「気持ちだけもらっておくよ」
巧は首を振る。あの時笑顔で死んでいった自分に嘘を吐きたくない。その願いを告げられ進ノ介は渋々引き下がる。本当は彼にこのまま死んでほしくなかった。数え切れない時間を共に戦った仲間だ。言葉で語り尽くせぬ想いがそこにはある。無愛想で猫舌で口が悪く、しかし人の夢のためなら何処までも必死に立ち上がる。巧がそういう人間だと進ノ介は知ってしまった。もう自分と彼は立派な『友』だ。だからこそこんな風に見捨てる自分が許せなかった。それは剛も侑斗も霧子そしてあの海堂も同じだ。そんな彼らが最期に傍にいてくれることが巧は嬉しかった。だから悔いは一つしかない。啓太郎と真理がいないことだけが心残りだ。ずっと共にいた二人がここにはいない。彼らに会いたい。けれど自分が死ぬ瞬間を彼らに見せなくて済んだことは幸運なのかもしれない。二人にだけは自分が死んだと思われるのは嫌だから。
「これからも世界を・・・・・・頼んだぞ」
ファイズフォンから放たれた閃光が歴史改変装置を貫く。これでもう時間の繰り返しはなくなった。ショッカーによって歪められた世界が徐々に崩壊していく。もうあと数刻もすれば今、この瞬間の時間はなかったことになる。巧は安堵した。すぐにこの世界が消えるのではなく少しばかりの時間が残されたことに。彼らに自分の想いが伝えられることに。
「・・・・・・剛、草加みたいになるなよ」
まずは剛だ。詩島剛(しじまごう)────仮面ライダーマッハ。彼は父の作った機械生命体『ロイミュード』に憎悪の感情を抱いていた。正義感に満ち溢れた彼は父が作った怪人が人々を傷つけ苦しめるのが許せないのだ。だから息子である自分が全てを終わらせると、そう言っていた。剛の戦いは彼らを根絶やしにするまで続いていくのだろう。その姿は憎たらしくて嫌な奴だったかつての仲間によく似ている。あんな風には絶対になってほしくない。
「草加って誰だよ? じゃなくて、巧! このまま死んで良いのかよ!?」
「良いんだよ。世界のためにカッコ良く死ねるなら悪くない・・・・・・らしいぞ」
それは剛が言った言葉の受け売りだった。もしかしたらこの言葉があったから巧は今の選択が出来たのかもしれない。
「いいか、ちゃんと聞け。お前が憎んでるロイミュードの中にもきっと分かり合える奴がいる。その時に手を伸ばすのは進ノ介でも霧子でもない、お前だ」
「俺・・・・・・?」
「俺は失っちまった。だからお前は失うなよ」
「・・・・・・分かったよ。もうこれ以上失ったりはしねえよ」
涙を堪えて頷く剛の肩を巧が叩いた。
「霧子、これからも進ノ介を支えてやれ。こいつは意外と直情的だからお前がいないとダメだ」
「・・・・・・分かりました、乾さん」
次は霧子に想いを伝える。詩島霧子────進ノ介のバディ。彼らは深い絆で結ばれていた。長い間見てきて分かったが進ノ介と霧子は多分、互いに意識しあっている。遠かれ早かれ両想いになるだろう。他人の色恋沙汰に口を出す趣味はないが、他人の幸せを願う夢はある。彼女が頷くと巧は満足げに微笑んだ。
「侑斗、またこんな風に時を歪められる時が来るかもしれない。そうなったら進ノ介たちを助けてやってくれ」
「そんなの、言われなくてもわかってる」
最後は侑斗だ。彼は既に涙を流していた。桜井侑斗───仮面ライダーゼロノス。彼の力は人の記憶に依存する消耗品だ。故に他人に忘れられることの辛さはこの中の誰よりも理解している。ひょっとしたら彼と相棒のデネブは巧のことを忘れないでいてくれるかもしれない。いや、そうであって欲しい。
「その時はもしかしたら過去の俺もピンチかもしれない。だから・・・・・・頼む」
「ああ、カッコ良くお前らを助けてやるよ!」
この時の巧の警告は遠からず当たることになる。それはもしかしたら彼の願いが少なからずその心の中に残っていたからかもしれない。
「あー、もう終わりか」
巧の身体から灰が零れる。オルフェノクである彼の最期は遺体も残さず灰になるのだ。巧の名を彼らは呼ぶ。
「・・・・・・じゃあな」
乾巧は世界から消滅した。彼の三度目の死だ。
◇
「う、うう」
深いまどろみから解放される。うっすらと巧の目が開かれた。そこには綺麗な原っぱが広がっている。
「夢、だったのか」
思わず独り言をポツリと呟く。
「夢じゃねえべ」
その独り言に答える男がいた。
「・・・・・・海堂」
「俺様もお前と同じだぜ。目が覚めたらここにいた」
海堂直也だ。どうやらあれは現実に起きたことらしい。
「ちゅーかよぉ、お前俺様に一っ言もなしかよ! あれか、背中合わせで語り合ったから十分てか? 足んねーよ、全然足んねー」
「うるせーな。何も思いつかなかったんだよ!」
「あ、そういうこと言う、言っちゃいます? なんなら今ここで俺様に伝えたいこと伝えてみ? いっぱいあるだろ?」
海堂を無視して巧は立ち上がる。すると灰が少し零れた。二人の顔色が変わる。
「二人とも飲み物買ってきたぞ。あれ乾、歩いて大丈夫なのか?」
そこに一人の男がやってきた。
「三原・・・・・・。俺は何しにここに来たんだ?」
三原修二。仮面ライダーデルタの装着者。凶悪な力に溺れない強く優しい心を秘めた青年だ。突然の質問に三原は怪訝な顔で巧を見た。
「何って・・・・・・二人に最期を見せたくないから、だろ。あのデカいデルタのバイクで君たちを運んだんだ」
「あー、かすかにそんな記憶が俺様にもあるなあ。ふらふらになった乾を背負って三原のトコに来たんだっけなあ?」
「乾はともかく、海堂までどうしたんだよ」
要領を得ない二人に三原は首を傾げる。これまでの経緯を巧は語った。
「そうか、俺が少し離れてる間にそんなことが・・・・・・お疲れ様」
不思議なことに三原はこの理解しがたい話しに真面目に耳を傾けていた。
「お前、よくこんな話し信じるな」
自分の話してることが全て事実とはいえ巧は三原に少し呆れた。繰り返される時間、時空改変装置、仮面ライダーと呼ばれる英雄。その全てが普通の人間には理解しがたいことだ。彼も直ぐに納得してもらえると思ってはいなかった。
「なんでだろうな? 俺も君たちと一緒に戦ったからかな。何となく嘘か本当か、分かる気がするんだ」
「そんなんで良いんか、おめえ」
これにはいい加減な人間代表である海堂も流石に納得がいかない。
「まあ良いじゃないか。俺は俺なりに成長したんだ」
二人に並ぶ形で三原は腰掛けた。買ってきた缶ジュースを彼らに手渡す。
「なあ乾はその選択に後悔してないのか。世界のために自分を犠牲にしたことをさ」
「さあな」
「まあこういう疑問に答えは出ないよな」
適当に相槌を打ちながら巧は飲み物を口に含む。冷たい。猫舌の自分には助かった。これが真理なら意地悪くホットココアを渡していただろう。そして彼女と喧嘩になり啓太郎が仲裁する。多分、そんな感じだ。
「俺様は止めたからな、今更後悔してたとか言わせねえぜ」
「わかってるっての」
海堂は巧を最後まで止めようとした。人外であるオルフェノクとしての孤独に彼は耐えられなかったのだ。それを唯一共有出来るはずの巧がいなくなれば彼は本当に独りぼっちだ。それは凶悪な力を扱いながらも普通の人間であろうとする三原や人間である真理たちには決して理解出来ない海堂だけの苦悩。それも今は吹っ切れたのだが。海堂はオルフェノクの力を誰かに使おうと思った。あの戦いで彼も残された世界や人々を守るという巧の願いを託されたから。そこに今までのような孤独感はない。誰かのためにあろうとする者が孤独になることなんてないのだから。
「良い天気だな」
巧は空を見上げる。綺麗な青空が広がっていた。三原と海堂もまた空を見上げる。この空を守ったのは巧と三原そして木場だ。彼らは空を見上げ穏やかな笑顔を浮かべる。
「乾、本当に真理に会わなくて良いのか?」
「真理・・・・・・」
巧は目を閉じて彼女の顔を浮かべる。半分は意地だ。あの女に自分の死ぬ姿を見せたくない。残りの半分はプライドか思いやりか、彼には分からない。
「ウダウダ考えるくらいなら・・・・・・行くか」
「お、乾。ついに真理ちゃんに会う決心がついたか! よし、俺様が送ってやろう。三原のバイクで」
「俺のかよ!」
「いや、いい。男三人だと気持ち悪いからな」
スッと立ち上がった巧は首を振る。どうやら一人で行く気らしい。その身体から灰が舞うにも関わらず。
「待て、乾。無茶だ、送っていく。だって君の身体は『一人で行かせてやれ、三原』・・・・・・海堂」
ふらふらと歩く巧を慌てて三原は追いかける。が、海堂が手で制す。あの時の巧の決意は本物だ。そこに手を差しのべるのは、違う。
「・・・・・・乾、俺もう迷わないよ。分かったんだ、俺に何が出来るか。俺は家族を失った子どもたちが平和に暮らしていける世界を作るんだ。だからお前が守った世界は俺が守り続けるから・・・・・・」
「ああ、この世界のことお前にも任せる」
後に三原は地球に突如出現した未知の怪人『インベス』と抗戦することになる。世界中が混乱に陥る中、人知れず戦った仮面の戦士の一人になったのだ。臆病な彼が戦えたのは巧に託された想いと自分の夢があったからであろう。それはまだ誰も知らないことなのだけど。
「・・・・・・なあ、海堂。乾はちゃんと真理たちに会えたのかな」
「会えたさ。俺様が保証してやる。あいつは二人に夢を語って死ぬ」
時空改変装置こそ破壊されたが戻された時間にラグがあったのだろう。今、巧たちがいるのは彼が本来死ぬ数時間前なのだ。
「結局俺たちが乾にしてやれることは何もなかったんだな」
一人の人間として三原は悔しく思う。何も出来ない自分がもどかしくて仕方がなかった。
「いや、ちゃんとしてやれたじゃねえか」
「え?」
しかし、海堂はフッと笑ってそれを否定する。
「あいつの夢を俺たちはちゃんと受け継いだんだよ」
◇
────その男には夢がなかった
────だから人の夢を守ることにした
────やがて夢は、見つかった
────その日の空は青かった
────澄んだ空に、砂が舞った
まだFFFの要素がないです、すいません。次回からはFFFの話しになります