乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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小説版の作者の鐘弘亜樹さんがプリキュアの脚本を担当したそうです。おめでとうございます


溶窟の中の戦い、その日少年が背負っていたもの

「・・・・・・お前、何やってんだ?」

 

 エフォールたちとの再会から一晩明け。疲れながらも今日もフューリー探しか、と起き上がって宿屋の食堂に入った巧は困惑した。そこにいたら明らかにおかしい物がいる。目を擦る。現実は変わらない。彼はもう一度何をしていると問いかける。だがそいつは質問に答えることは出来ない。ただ顔をこちらに向けただけだ。巧は自分のイラつきを一生懸命抑える。

 

「あ、乾くん。『この子』あなたの物だったの。手伝ってもらって助かってるよ。ありがとう」

 

 ミツボがそれを指差した。どうやら巧だけに見える幻覚ではないようだ。

 

『ピロロ』

 

 巧のバイク────オートバジンがテーブルを雑巾がけしていた。今までどこに行っていた、とか傷はついていないかとかはこの際どうでも良い。彼は今まで溜まっていたものをぶちまけた。

 

「そんな器用なこと出来んなら最初からしろ、このポンコツ!」

 

 巧はバジンが機械ということも忘れて拳骨を振り下ろした。無理もない。彼は過去を振り返る。記憶喪失の中モンスターに襲われた時、悪事を働く市長の家に侵入した時、そして果林を守った時・・・・・・全部バジンが出てきてくれていれば解決したことだった。そう考えると再会の感動よりも怒りが勝った。

 

「あんまり意地悪しちゃダメよ~。その子ほんっとにお利口なんだよ。私が汚れたボディを掃除してあげたら掃除や洗濯を手伝ってくれてね。優しい子だから許してあげなさい」

「たく。頼りにしてるんだから今度からはちゃんと助けに来いよ」

『ピロロ!』

 

 バジンが頷く。ミツボが良かったね、とバジンの肩をポンポンと叩いた。巧は少し笑顔を浮かべながらため息を吐いた。

 

「おはよ~」

「おう、お前も飯もらってこい」

「ねむい~」

 

 巧が朝食を食べているとアリンが食堂の前に姿を現した。

 

「どうもおそようございます。出発の準備はとっくに出来ておりますわよ」

 

 ティアラは巧より早く起きていたのか彼がお盆を手にした時には既に食事を済ませていた。彼女はお嬢様らしく早寝早起きのようだ。どちらかといえば不真面目な人間である彼は素直に関心した。

 

「なによ。まだそんなに遅い時間じゃないでしょ」

「早くもないけどな。最低限八時には起きねえと後悔するぞ」

「そんなピンポイントでなくても良いですわ。ですが女性であるアリンさんは私のように日付が変わる前に寝て鶏が鳴くと同時に起きる生活を見習ってください」

「「老人か」」

 

 巧とアリンが同時に突っ込んだ。

 

「うぉっす。あー、ねみー」

『遅れてすまない。この男が中々起きないものでな』

『まだねむい・・・・・・』

 

 寝癖のついたファングが頭を掻きながら食堂へやって来た。昨日の疲れも溜まっているのだろうがやはり怠け者の彼が一番最後に起きてきた。

 

「おはようございます。さあ早く食事をとってフューリー探しに参りますわよ!」

「いやー、無理無理。疲れてんだよ。なんか俺体調悪いし。こりゃ風邪だな。昨日濡れたからなー。寝ないとやべえ」

「そ、それは大変ですわ」

 

 ファングの分かりやすい嘘をティアラは信じた。まあ実際疲労が溜まっているのは本当だが旅人の彼からしたらそれも大したものではない。

 

「そういうことならファングさんは今日のフューリー探しをお休みになってください」

「・・・・・・え?」

 

 いつも通り軽い冗談で言ったつもりが本気で信じているティアラの前にファングは素直に困惑する。毒を盛ったり三つ星シェフがいると彼を騙していた彼女がこんな単純な嘘に引っかかるとは思ってもいなかった。ファングはバツの悪そうな顔になる。

 

「水分は取りましたか? お布団は寒くないですか? ああ、いっそのこと私もお休みになって看病を・・・・・・」

「おい、アホファング」

 

 

 巧はファングを小突いた。これ以上は面倒だ。本当に信じている様子のティアラにさっさと嘘だったと教えろと催促する。

 

「あ、えっとだな」

「熱を測って差し上げますからそのまま動かないでください」

「・・・・・・悪い、冗談だ」

 

 この時ばかりはファングも正直に頭を下げた。彼にしては珍しく反省しているようだ。

 

「へ?」

 

 ティアラを目を見開く。

 

「誰がどう見ても嘘だって分かると思うけど」

「・・・・・・悪いのはファングだがティアラも気をつけろ」

『お前の優しさは評価に値するものだがそれを利用しようとする輩もいるのだからな』

「優しさといえばロロの時もそうだがお前あれか。クソ真面目か」

 

 ティアラは顔を赤くし肩を震わせる。

 

「人を騙したあげくおクソ真面目とは良い度胸ですわね・・・・・・!」

「騙したのは悪かった、ごめんな」

『ファングがあやまるなんてめずらしい』

 

 素直に謝るファングにキョーコが驚く。彼は基本的に開き直るタイプの人間だ。仲間とはいえ自分の非を認めるとは珍しい。イタズラが見つかった子どものようなファングにティアラはため息を吐く。

 

「・・・・・・そう思うなら今日のフューリー探しは真面目にやって下さいよ。私の心を弄んだ罪を償いなさい」

 

 殊勝な態度のファングにティアラは毒気を抜かれた。

 

「へいへい。って俺は何時も真面目だろ」

「嘘を吐くな」

『そういうところが不真面目なんだ』

 

 

「おい、ロロ。いるか?」

 

 広場の前でファングが叫んだ。

 

「あ、お兄ちゃん。毎度~。しっかり稼いできてくれた?」

 

 ロロはファングが来たことを確認すると駆け足で彼の元へ来た。

 

「おう。酒場に行ったら達成してた依頼が幾つかあってな」

「あたしのお財布のためにありがとう、お兄ちゃん!」

「言い方を考えろ」

 

 また語弊を招きそうな言い方に巧は突っ込みを入れる。あやうくまたファングが牢屋行きになるところだった。

 

『なにか良い情報はないか? 聞かなくても分かるがな』

「もっちのろーん。お得な情報があるよ。お値段はこれでどう?」

「ほらよ」

 

 ファングが料金を手渡す。ロロは金貨が落ちる音に笑顔を浮かべる。

 

「まいどあり~。フューリーの情報だよね?」

『ああ。何処にあるか分かるか?』

「んっとね~。ヤタガン溶窟で見つかったって噂だよ」

「・・・・・・暑そうだな」

 

 熱いのも暑いのも嫌いな生粋の猫舌の巧は溶窟という言葉を前に露骨に嫌な顔をした。

 

「ねえ、噂って誰から聞いたの?」

「えへへ~。ナ・イ・ショ」

「何か気になるのよね」

 

 子どもの割りにやけに情報通なロロをアリンは不思議そうに見つめた。

 

『人のフリをしたタヌキとでも思っておけ』

「あんまり思わせぶりなこと言ってるとお金取るよ。妖聖のお兄ちゃん」

『む、これはすまなかった。当たり前のことすぎて勝手に口が動いてしまった』

「あんたたち知り合いかなんかなの?」

 

 互いを知っているようなやりとりにアリンは疑問を持ったが二人揃って首を振った。

 

「あ、そうそうお買い得商品あるんだけど買わない? ドルファ社製のすっごいおいしいカップ麺なんだけどお湯を注いで完成するまで三時間かかるんだ」

「そのカップめんには致命的な欠陥がある。手軽さにかける。そして冷める。絶対に売れない。俺はいらない」

『お前にしては賢いな』

「そうね。さあ行きましょう」

「たっぷり稼いできてねー」

 

 ロロは笑顔でファングたちを見送った。

 

「・・・・・・おいロロ」

 

 巧だけその場に残っていた。ファングたちがいなくなるのを確認すると彼はロロに話しかける。

 

「なあに、無愛想なお兄ちゃん? 行かなくていいの?」

「・・・・・・そのカップ麺くれ」

「え・・・・・・? まいどあり~!」

 

 

 ヤタガン溶窟。ゼルウィンズ地方北西部に存在する火山の洞窟。その内部は古代文明によって作られ舗装された通路が確認されている。だがモンスターの巣窟になっているため研究は進んでおらずフェンサーのような冒険者しか立ち入ることはない。フューリーがあるのが納得の場所だ。

 

「こちらがヤタガン溶窟のようですわね」

「うわ、やっぱ暑いな・・・・・・」

「これくらい耐えられなければ女神の封印は解けませんよ、乾さん」

 

 火山の中にあるだけあって中はサウナを更に激しくしたような温度だ。巧は持ってきた水を飲む。飲んだ瞬間にすぐに水分が汗になる。長くはいられないだろう。とっととフューリーを見つけなければ脱水症状になりそうだ。

 

「さあお行きなさい、ファングさん。ウブな私を弄んだ罪、きっちり働いて贖ってもらいます」

「へいへい。行くぞ、お前ら」

「分かってるわよ」

 

 ファングは通路を先導して歩く。普通に歩いているだけなら溶岩に落ちることはないが長い年月を経て老朽化しているところもある。先頭を歩く者には常に道が崩れ落ちるリスクが付きまとうことになるだろう。彼はそんな重荷を感じることなくヒョイヒョイ歩いていく。中々出来ることではない。ファングのこういうところはフューリー集めに役立ちそうだ。ティアラは内心で彼を評価した。

 

「ファングさんと乾さんは旅をしてらしたんですよね。こういった場所も来られたことがあるのですか?」

「いや、初めてだな。砂漠を渡ったことはあるけど」

「あん時な。俺のバイクがガス欠になって危うく遭難するとこだった」

「あのロボットさんがガス欠になるのですか?」

 

 あの時からバジンは巧に語りかけていたのだが彼がそのことに気づくことはない。

 

『こいつらは計画性がない。特に市長の不正を暴こうと豪邸に侵入した時がその良い例だ。危うく報復されるかと思ったぞ』

「あれは結果オーライだったろ。俺が刺されそうになったおかげで巧の携帯の使い方も分かった訳だし」

「サラッとすごいことを言いましたね」

「あんたたちこうなる前から破天荒な旅してるのね」

 

 言われてみるととんでもない旅路だった気がしてくる。悪徳政治家の家に侵入して不正を暴こうなんて普通は思いつかない。

 

「サンドミージの市民街でギター弾いたりもしたな」

「天才の俺様はともかくまさか巧がギター弾けるなんてな」

『たのしかったね』

「あんたたち色々やってたのね」

「その活発さをフューリー集めにも活かしてくれれば良いのですけど」

 

 ファングは意外と器用で様々なことが出来るがそれを仕事にすると途端にやる気が出せなくなるタイプだ。他人からやらされると好きなことも大嫌いになるのはまさに子どもと言えるだろう。

 

「それにしても目当てのフューリーはどちらでしょうか? ファングさんもアリンさんもしっかりと探して下さいましね」

「分かってるわよ。いちいちうるさいわね! だいたい巧は良いの!?」

「相対的な常識人の乾さんはサボる心配なんてありませんわ」

「そんな造語で評価されてもうれしくねえよ」

 

 ティアラの小言にアリンは大声で返す。彼女は少し苛立っているように見える。

 

「どうした、アリン。気が立ってるじゃねえか」

「・・・・・・ファングは気になんないの?」

「何が?」

 

 アリンはティアラの様子を窺った。巧と何やら会話をしていてこっちを見ていない。今なら言っても大丈夫だろう。

 

「あの女よ! 弄んだ罪とか言ってたけどそんなの関係ない。あいつ、会った時からずっと偉そうにあたしたちを見下してるじゃない」

「確かに。見下すより見下される方が嬉しそうなのに『それは関係ない!』・・・・・あ、わりい」

『真面目に話しているんだ。真面目に聞いてやれ、ファング』

 

 アリンはティアラに不信感を持っているようだ。

 

「お二人でこそこそと何を話していらっしゃるんですか?」

「別になんでもねーよ。巧と先に行ってろ」

「レディファーストのおつもり? ご親切にありがとうございます。ですがモンスター退治はあなたたちのお仕事ですよ。乾さんはフェンサーじゃないのですから」 

「うるせーな、嫌みか。・・・・・・さっさと来いよ」

 

 ファングはティアラと巧が少し先を行くのを確認すると続けろと言った。

 

「また余計な一言よ。あいつあたしたちのこと絶対にバカにしてるわ」

「バカにするよりバカにされる方が『それはもう良いわよ!』」

「あたしたちのこと利用する気満々よ、あいつ!」

 

 ファングは困ったように腕を組んだ。

 

「利用する気なのはこっちも同じだろ?」

「そりゃあそうだけど・・・・・・」

「フューリーを集めたいんだろ? なら今は我慢しろ」

『それにティアラも性格に難があるが我らを騙しているようには見えん。もう少し様子を見てからでも遅くはないだろう』

 

 ファングとブレイズに説得されアリンは渋々納得したようだ。

 

「ほら行くぞ。さっさとしないとティアラにとられるぞ」

『とられるぞー』

「あ、待ってよ。もう!」

 

 

「乾さんは果林さんのことをどう思っていらっしゃるんですか?」

 

 ファングやアリンがいなくなるとティアラがそんなことを言った。思わず咳き込みそうになる巧。

 

「別に・・・・・・なんとも思ってねえよ」

「なら果林さんにはそうお伝えしてもよろしいのですか?」

「はあ!? どうしてそうなる? お前には関係ねえだろ!」

「ふふ、冗談ですわ」

 

 クスクス笑うティアラに巧はため息を吐く。彼らは同い年である。まだ短い付き合いだが既に友人のような関係になっていた。

 

「よう。フューリーは見つかったか?」

 

 駆け足でファングが彼らの元に来る。

 

「いや、まだだな」

「ファングさんたちが遅いからわざわざ待ってたんですよ」

「わりいわりい」

「ごめんねー」

 

 こうして彼らは無事に合流した。フューリー探しの再開だ。

 

「・・・・・・あの刺さってるのがフューリーじゃないか?」

 

 しばらく歩いていると巧は遠目に突き刺さっている剣を見つける。近づいて確認する。通路の中心にある広々とした空間にそれはあった。

 

「間違いありません。きっとあれがフューリーですわ」

 

 小一時間掛けた苦労の末に見つけたフューリーにティアラは顔を綻ばせる。その額には汗が滲んでいた。

 

「よし、じゃあさっそく・・・・・・」

 

 ファングも満面の笑みでフューリーに近づく。

 

「ちょっとお待ちになって」

「なんだよ。さっさと抜いてこの暑苦しい洞窟からおさらばしようぜ」

「そうよ。何もったいつけてんのさ」

『えー、はやくかえろうよ~』

 

 せっかく見つけたフューリーを前に蛇の生殺しをされたファングたちが不満を口にする。

 

「考えてみてください。不自然だと思いませんか? こんな分かりやすい場所にフューリーが突き刺さってるなんて」

「今までも割と不自然だっただろ? お前がファングを騙した時とか」

「あ、あれとは事情が違います」

『ふむ、腐ってもここは古代文明の遺跡の中だ。罠が隠されていてもおかしくはない』

 

 言われてみればそうだ、とアリンは思った。こんな分かりやすいところにフューリーがあって誰も気づかないのはおかしい。既に誰かが手に入れているはずだ。だがこのまま警戒してフューリーを手に入れるのを諦めればここに来た意味がなくなる。罠のリスクがあってもファングは躊躇わなかった。 

 

「ウダウダ考えたって仕方ないだろ。こういうのはちゃっちゃとやるに限る。パパっと抜いて終わりだ」

「あ、ちょっと」

「くれぐれもお気をつけて」

「なんかあったら助けてやる。ここは暑すぎる。さっさとやってくれ」

 

 ファングが背を向け手を振って返事をする。

 

「よっ・・・・・・。ほら、抜けた」

『・・・・・・気をつけろ、ファング』

「な、なんだぁ!?」

 

 フューリーをファングが引き抜くと異変が起きた。ガタガタと彼の周りが地震のように揺れ出す。

 

「ファング逃げて!」

「・・・・・・なんでこんなとこから溶岩が!?」

 

 ファングは後ずさりした。彼の周りをグルッと囲むように溶岩が吹き出す。これでは脱出は出来ないだろう。

 

「ちっ」

 

 巧は舌打ちしつつ溶岩にペットボトルに入っていた大量の水をかけた。溶岩はほんの少しだけ凝固したがそれもすぐに溶ける。文字通りの焼け石に水とは分かっていても黙って見ているなんてことは出来なかった。────巧自身が火事によって一度目の命を落としたからだ。ファングが火に囲まれる姿を見て思い出した。この身体も猫舌も全ての元凶は赤い炎にその身を焼かれたことから始まったのだ。このままだと彼も自分の二の舞になるだろう。だからファングは何としてでも助ける。

 

「くそ、こうなったら・・・・・・!」

 

 ウルフオルフェノクになってファングを助ける。巧の顔に灰色の紋様が浮かび上がる。

 

『たっくんきちゃだめ!』

『お前も巻き添えを喰らうぞ!』

 

 妖聖二人の制止にハッとした巧は慌てて引き下がった。例えオルフェノクになってファングを助けようとしても彼の身体は無事ではすまない。溶岩を防げるのは異形の自分だけだ。

 

「アリン、フェアライズだ!」

「ダメ! そっちには近づけないよ!」

 

 フェンサーの力を使えばこの罠からの脱出も不可能ではない。だがアリンがいなくてはそれも出来ない。万策尽きたか。ファングは額から嫌な汗を流す。

 

『落ち着け、この手の罠にはどこかに停止させる装置があるはずだ』

「ブレイズさんの言う通りですわ。だから私は言ったのに。ファングさんは軽率すぎましてよ」

「今は呑気に説教してる場合じゃないでしょ!」

「さっさと罠を解かねえとファングがやばい」

 

 焦るアリンと巧に対してティアラは落ち着いていた。周囲を見渡してある物を見つけるとそこへ向かう。

 

「ブレイズさんもおっしゃったようにこういった罠には解除する装置があります。この岩に見せかけた制御板がそうだと思います」

「溶岩が・・・・・・流れてっちゃった」

「どうなってんだ?」

 

 ティアラが制御板を押すとファングの周りを取り囲んでいた溶岩は通路の下の溶岩へと流れていった。彼はほっと胸をなで下ろした。

 

「た、助かった。サンキュー、ティアラ」

『見事な察知能力だ。・・・・・・感謝する』

『ありがとうっ!』

 

 ファングたちがティアラに礼を言うと彼女は自慢げな笑みを浮かべた。

 

「どういたしまして。ファングさんも今後は気をつけて下さい。ふふ、でもこれでおわかりでしょう」

「なによ?」

「みなさん、私がいないとダメダメってことですわ。・・・・・あ、知識人のブレイズさんとまだ子どものキョーコちゃんは別ですわ。ダメダメなのはファングさんとアリンさん、ギリギリ乾さんもです」

「俺もかよ」

 

 流石にこれにはアリンだけでなくファングもムッとする。

 

『言ってやれ、ティアラ。俺が許可する。ファングには良い薬だ』

「言われなくても。お馬鹿な下僕を導くのもご主人様の役目ですから」

「くそ、覚えてやがれ。お前が言ったこと何時か全部お前に言ってやらあ!」

「ええ、もちろん覚えときます!」

『なぜそこで喜ぶ・・・・・・?』

 

 ブレイズが突っ込む。

 

「あたしもいつか絶対泣かしてやるんだから!」

「・・・・・・え?」

「なんか言いなさいよ! てかそれファングだけなの!? ねえ!? ってきゃあああ!」

 

 アリンの罵倒には無反応なティアラに彼女は猛抗議する。喜ばれるのは気持ち悪いが何も感じてもらえないのもそれはそれで不満だ。そんなアリンの足元が振動する。

 

「今度はなんだ?」

「どうやらモンスターの親玉らしいぜ。こっからは俺の出番だ!」

「しっかり働いてくださいまし」

「あんたも戦うのよ」

 

 ファングたちの目の前に装甲を纏った竜人がサソリのような巨大な甲殻獣引き連れて現れた。

 

「行くぞ、アリン!」

「うん! 巧は援護して!」

「任せろ」

 

 三人でモンスターたちを分散させる。ティアラと巧が甲殻獣を、最も強いファングが大物の竜人を担当する。

 

「はあ!」

 

 ティアラは掛け声と共に彼女のフューリーである薙刀を振るった。しかし甲殻獣の固い殻を前にダメージは入りそうにない。鋭利に尖った尻尾がティアラを襲う。やはり彼女もフェンサーだけあって強い。素早い攻撃を難なく避けた。

 

「『メイウォル』」

 

 ティアラは魔法攻撃を試みた。魔術学院に通っていた彼女は物理攻撃よりも魔法攻撃のが得意なのだ。しかもティアラが今使った魔法は妖聖キュイの属性水と同属性の魔法。その威力は増大される。圧縮された水圧によって相手にダメージを与える魔法がメイウォル。甲殻獣には効果抜群だ。ティアラの魔法は甲殻獣の自慢である堅い身体をバラバラにした。

 

「ふふ、やりましたわ」

 

 ティアラは優雅に決めポーズをとった。

 

「終わったなら手伝え!」

 

 甲殻獣の攻撃を一心不乱に避けながら巧が言った。ロクな武器を持たない人間がまともにモンスターと戦って勝てる訳がない。オルフェノクになる訳にもいかない彼はティアラに助けを求めた。

 

「乾さん、距離を取らないと魔法の射程に入ります! 離れてください!」

「そうしたいのは山々だがこいつ俺を狙ってんだよ!」

「なら自分でなんとかしてください! 必殺技も魔法も私の技は広範囲なので当たってしまいます!」

「くそ、使えねえな!」

「人のこと言えないでしょう!?」

 

 一直線に迫り来る甲殻獣の攻撃を横に跳んで避けると巧は携帯を銃に変形して甲殻獣に発射した。甲殻獣も横に跳んでなんなく避ける。銃に関しては素人の巧では正確な射撃は不可能だ。なら確実に当てられるように工夫しなくてはならない。彼は尻尾の攻撃を最小限の動きで避けるとそのまま伸びた尻尾を踏みつけた。これならもう攻撃は出来ないだろう。動きを封じることに成功した巧は甲殻獣のその頭にゆっくりと照準を合わせ銃を発射した。堅い甲殻をエネルギー弾が容易く貫く。

 

「やったぜ」

 

 巧も思わず決めポーズをとった。

 

「・・・・・・乾さん、大丈夫ですか?」

「は、俺は今何をしていた・・・・・・?」

 

 自分らしからぬ発言に巧が困惑した。

 

「『フェアライズ』!」

 

 二人が甲殻獣を倒した頃、ファングの戦いもいよいよ大詰めとなっていた。何倍もの体格差のあると竜人との対決は闘牛と闘牛士を彷彿とさせた。引きつけては避け、引きつけては切り裂く。時には拳、時には巨大な斧で。万能武器のフューリーを駆使し、竜人の装甲を破壊した彼のテンションは最高潮へと高まる。フェアライズと叫ぶとファングの身体を己の剣が貫いた。だが彼の身体が傷つくことがない。貫いたのは己の心。アリンとの絆がファングの魂を貫いた。二人の心が重なりその身は灼熱深紅の猛炎の鎧へと変貌を遂げる。赤き炎が鎧となったファングのフューリーフォーム。フェンサーにとってはなること自体が必殺技と言っても過言ではない妖聖との絆の力だ。

 

「相変わらず派手な見た目だな。ヒーローみたいだ」

「・・・・・・あのようなフューリーフォーム、見たことがありません」

「珍しいのか?」

「ええ、装甲を纏うのは同じですが普通はあんな顔や身体を覆う鎧ではありません。少なくとも私が知ってる限りで『仮面』を着けるフェンサーはいませんでした」

 

 巧はファングの姿を見つめた。言われてみればそうだ。ファングの姿に少しだけ共通点のあるアポローネスや果林を襲ったごろつきフェンサーのフェアライズした姿も両者共に顔だけは露出していた。ファングだけが仮面を着けていた。まるで────みたいに。

 

「っつう!」

「どうなさいましたの、乾さん?」

「あ、ああ。大丈夫だ、何でもない」

 

 巧はファングと照らし合わせる何かを思い浮かべた瞬間、頭痛を感じた。ファングが初めてフェアライズした時に思い出した戦士の時と同じだ。記憶を思い出す時の兆候なのだろうか。あるいは・・・・・・。今はまだ分からない。巧は頭を軽く振ってから改めてファングを見る。もう頭痛は感じなかった。

 

「止めとけ、今の俺には勝てねえよ」

「グ、グオオオオ!」

 

 竜人の巨大な拳がファングに迫る。今までなら回避していた攻撃を彼は回避しなかった。する必要がないからだ。轟音が鳴る。それでもファングは何一つ表情を変えない。赤い手甲を纏ったその手が巨大な拳を受け止めていた。フェアライズすれば容易いことだ。ファングは竜人につけれていた何倍もの差を埋めるどころか倍にしていた。お返しとばかりに彼は竜人の腹を殴る。一撃でその巨体が崩れ落ちる。

 

「コイツで終わりだ」

 

 ファングは炎を纏った剣を竜人に振り下ろす。何度も何度も、そして最後に拳を叩きつける。竜人は激しくのたうち回り爆散した。バーニングストライク────ファングとアリンの必殺技だ。

 

「俺にかかればこれくらい!」

 

 ファングはガッツポーズした。

 

「片付いたみたいだな」

「巧、あのやったぜってヤツなんだよ?」

「見てたのか・・・・・・忘れろ」

 

 ファングにまで見られていたことに巧は少し恥ずかしさを覚えた。自分でも何であんなことを言ったのか分からなかった。

 

「まったく。もうあんな安易な行動は慎んでくださいましね」

「そうよ何時までもティアラに言いたい放題言われて良いの?」

「お前もいい加減反省しろよ、バカ」

『阿呆』

『どじまぬけ』

 

 皆に言われ放題でファングは肩を震わせる。

 

「わっーてるよ。うるせーな。とっとフューリー手に入れて帰るぞ」

「絶対分かってないよな、こいつ」

『ああ間違いない』

『「うんうん」』

「うっせ。もう帰るぞ!」

 

 こうしてファングたちは新しいフューリーを手に入れた。

 

「ふふ、ファングさんって楽しい方ですわ」

「キュイキュイ!」

「そうですね、乾さんもですね」

 

◇ 

 

────その日の夜

 

「そろそろ寝るか」

 

 ベットの上で寝転がっている巧は屋根の上を見上げた。

 

「あの時、俺は・・・・・・」

 

 巧は自分の一度目の最期を思い出した。火事に巻き込まれて自分は・・・・・・。きっと彼の人生において最も最悪な思い出だろう。家族で泊まったホテルが火事になり、全てを失った。

 

「でも、まあ良いこともあったか」

 

────死にそうになっていた少女を自分の身と引き換えに助けられたのだから

 

「あのガキ、生きているのか?」

 

 出来れば幸せになっていてほしい。夢を叶えて、誰か大切な人たちに囲まれて。そして笑顔でいてほしい。・・・・・・深い眠りに落ちていく中、巧はその少女の幸福を願った。




いよいよ次回は555登場です。たっくんのやったぜの元ネタはPS2です
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