乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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やっぱり555はたっくんじゃないとね!



疾走する本能

────遠い未来、どこかの国で

 

 世界はかつて人だった怪人に支配されていた。残された人々は淘汰され────排除され────彼らの仲間になっていた。かつての支配者、残された人間のその数は僅か2000弱。世界そのものを敵にするにはあまりに少ない人数だった。

 

 その世界で戦える力を持った人間はただ一人しかいない。呪われたベルトに選ばれた黄色の戦士だけ。彼はその力で怪物たちと戦い続けた。でも黄色の戦士は横暴で残された人たちの為には戦わない。彼が戦う理由は世界を敵に回してでも守りたい女の子のためだけだった。黄色の戦士がなりたかったのは世界を救う救世主ではなく、女の子にとってのただ一人の救世主になりたかったのだ。

 

 でも女の子が求めていたのは自分を救う救世主ではなく世界を救う救世主だった。

 

 女の子は無愛想で猫舌の青年を探し続けた。彼女から引き離された世界の希望。紅き閃光の異名を持つ戦士。彼こそが救世主────その名は555(ファイズ)。

 

 

「ふわぁぁあ・・・・・・! なんだよ朝っぱらからいきなり叩き起こしやがって」

 

 ファングは大きな欠伸をしてティアラに言った。溶窟の中の戦いから数日。彼らは朝早くティアラに起こされる。ここ数日間はロロの情報を頼りにフューリーを一本手に入れたきりこれといって特別なこともなく平和な毎日を過ごしていたためファングは首を傾げた。

 

「たく用があるならメシの時にしろよ。こっちはまだ寝起きなんだよ」

「ふわあ・・・・・・巧の言う通りよ。寝不足はお肌の荒れる原因なのよ」

 

 アリンも欠伸混じりにティアラに言う。普段ならティアラの次に起きるのが早い巧でもまだ起きたばかりの時間だ。不満が出るのも無理はない。

 

「元から肌荒れを気にするような顔ではないでしょう。むしろマイナスにマイナスをかけてプラスになりますわ」

「はあ・・・・・・? あんたこの朝早くからケンカ売る気?」

『喧嘩は良くないが早いという時間でもないだろう』

「そうですわ。まっとうな人間ならもうとっくに起きて働いてます」

「おい、止めろ。頭に響く」

 

 ティアラとアリンは起きて早々火花を散らす。巧は面倒くさいのか欠伸をしながら視線を逸らした。

 

「これだからクソ真面目どもは。サボることを覚えねえと人生は味気ないぜ」

「そうそう。ちょっとくらい二度寝しても・・・・・・いけない、いけない。あたしまで流されちゃうところだった」

「お前も大分ファングに似てきたな」

 

 やはりパートナー同士気が合うのだろう、と巧は思った。

 

「真面目の前に下品な言葉をつけるのは止めてください」

『アリンはともかくファング・・・・・・お前の味つけは濃すぎるレベルだろうが』

「そうですよ。おふたりに合わせていたらフューリーが集まりませんわ。ロロさんが新しい情報を手に入れたそうなのでとっとと支度を済ましてください」

 

 ティアラがため息を吐いた。

 

「あー、辛い。筋肉痛が辛い。働きたくねー」

「はあ? 何言ってんだ、別に昨日は何も『働きたくねー!!』・・・・・・うるせえよ、バカ!」

 

 

「やっほー!」

「ごきげんよう、ロロさん」

「新しい情報ってヤツがあるんだろ?」

 

 いつもの広場に行くとロロが満面の笑顔で挨拶をしてきた。お得意様のファングたちだ。彼らがロロに会いに来るということはつまり多額の金が手に入ることに直結する。しかも、おおざっぱなファングは基本的に値切ろうとしない。100万近い金でもだ。金はまた稼げば良いという思考の彼は銭ゲバの彼女からしたら最高の上客。最近のロロはファングが来るのは何よりの楽しみという訳だ。

 

「うん、勿論! オススメやお好み、希望があれば何なりと言ってね。お金次第で叶えてあげるよ!」

「あんたは相変わらず露骨ね」

「あたしお金しか信用してないの。お金大好きなの」

「なんつーガキだ・・・・・・」

 

 巧はロロの子どもとは思えない発言に呆れる。真面目に彼女の親の顔が見てみたいと彼は思った。

 

「お金ってピカピカキレイだし、チャリンチャリンって良い音がなるし。あたし的にはね、お金と書いて愛と読むんだ」

 

 キラキラ目を輝かしてロロは言う。まだ幼い彼女が世の中金が全てだという考えに至るとは世も末だ。

 

『金と書いて愛か。ふ、ならばお前のその心は金額に例えられるのか』

「お前、自分がちょっと上手いこと言ったって絶対思ってんだろ」

 

 ブレイズの問いにロロは少し考えたあとでこう言った。

 

「売ってあげるよ。でも誰にでもってわけじゃないよ。あたしにだってお客を選ぶ権利はあるんだから。まずはお兄ちゃんみたいにあたしに羽振りが良いのが最低条件。次に無愛想なお兄ちゃんみたいに優しくて、それで更に妖聖のお兄ちゃんくらいかっこいいなら売ってあげるよ」

「おい、こいつとんでもない強欲だぞ」

「俺が優しい・・・・・・?」

 

 今のところ巧に出会ってすぐ優しいと評した人間は果林しかいない。まさか守銭奴のロロに優しい人間だと思われていたとは考えもしなかった彼は素直に驚く。

 

「だってフェンサーでもないのに一緒に危険なとこに冒険するなんてよっぽど優しくないと出来ないでしょ」

「言われてみれば・・・・・・」

 

 もしかしたら命に関わるかもしれないのによく彼らに付いていこうと思ったな、と巧は苦笑した。

 

「ま、とにかくこれであたしの情報が信頼出来るものだって分かったでしょ?」

「んじゃ、手始めに楽に手に入るフューリーのある場所を教えてくれ」

「そんなことよりあたしのことを知ってる妖聖のことを教えて!」 

「お二人は口を挟まないでください。料金を払うのは私ですよ」

 

 財布を取り出したティアラにロロは満面の笑みを浮かべる。

 

「それなら極上のフューリーの情報があるよ」

「ではそれを教えてください」

「ちっちっち。その前に出さないといけないものがあるよね?」

 

 ティアラはロロに情報料を払った。

 

「まいどありー。フューリーはカダカス氷窟にあるって話しだよ」

 

 ロロは満面の笑みでまた来てねー、とファング一同に手を振った。

 

「次は寒いのか・・・・・・帰りてえ」

 

 ファングが愚痴をこぼす。

 

「この季節ならそこまで寒くはないでしょう」

「春先だもんね」

「暑いのよりは寒い方のが全然良い」

 

 

「カダカス氷窟ってどうやって行くか分かるか?」

「さあ・・・・・・あの辺はオレたちも行かねえからな」

 

 ここはガダカス山脈の麓の村。巧は村人たちから情報収集をしていた。古代遺跡を残したヤタガン溶窟と異なりただの洞窟であるカダカス氷窟の情報はあまりに少なかった。なかなか距離が遠いのもありバイクを持った巧が先に行って情報を集めてきて欲しいと頼まれた。いざモンスターの戦いになるとあまり役に立たないことを密かに気にしていた彼は二つ返事で引き受ける。

 

(こりゃハズレかもな)

 

 巧は脳裏によぎったそれを否定する。守銭奴で金にうるさいロロが自分の信頼に関わるヘマはしないだろう。彼女は目先の端金よりも後の大金を優先するタイプの女だ。ロロから与えられるフューリーの情報は確かなもののはず。もっとも彼女自身がガセ情報を掴まされたのなら話は別だが。

 

「キミもカダカス氷窟に用があるのかい?」

 

 村の片隅でどうしたものか、と思案する巧に話しかける者がいた。冒険者風の装いをした美女だ。

 

「まあな。・・・・・・で誰だ、あんた?」

 

 ファングたちと行動しているからそんな風には見えないが一匹狼の性質を持った巧はその女に警戒心を示す。

 

「なに、別に名乗る者ではないよ。しがない妖聖研究家さ。それよりキミはフェンサーなのかい?」

「・・・・・・どうだろうな」

「うんうん、警戒心が強いのは良いことだ。フューリーを集める気ならそれくらいの心構えのが良い」

 

 要領の得ない返答しかしない彼女に巧はだんだんとイライラしてきた。この女は自分に何か用でもあるのだろうか。そうならそうでさっさと要件を伝えて欲しい。巧の不機嫌な様子を感じ取ったのか彼女はこう言った。

 

「あそこは止めときなよ。生半可なフェンサーじゃ死ぬよ」

「・・・・・・は?」

「ちょっとした警告さ。キミの仲間のファングくんにもそう伝えておいてくれ」

 

 そう言って女は立ち去っていった。巧は怪訝な顔を浮かべる。訳が分からなかった。

 

「この辺りに間違いありません。よく注意して探してください。どこかに入り口があるはずです」「うぅ・・・・・・足の裏痛い。足の下が岩ばかりで疲れたよ~」

 

 腑に落ちないまま巧はファングたちと合流した。現在はカダカス山脈の麓から洞窟の入り口を探している真っ最中だ。巧の報告から村には手がかりがなさそうだと感じた彼らはロロを探した。この情報を提供した彼女を探すのが一番手っ取り早いからだ。まあたまたま報酬をもらいに寄った酒場のマスターから氷窟の場所を教えてもらえたから巧もファングたちの苦労も水の泡になってしまったが。

   

「で、その女はわざわざ俺を名指して言ったんだな」

「ああ。お前の知り合いか?」

『有り得ん。この男が女に縁があるとは思えん』

「ぶっ飛ばすぞ。天才でイケメンの俺様はモテモテのモテまくりだ。妖聖研究家と出会った記憶はねえけどな」

『く、ぶっ飛ばした後で警告するな』

 

 巧は先ほどの出来事をファングに話した。あの女は彼を知っている素振りだったがファング自身は彼女に覚えはないようだ。ブレイズを地面に叩きつけながら首を傾げた。

 

「皆さんサボってないで入り口を探してください!」

「めんどくせーな。もう歩けねえよ、疲れた」

「お腹すいた~」

「確かに昼過ぎなのに何も食ってねえな。なあ、ティアラ休憩にしないか?」

 

 巧の提案に二人がそうだそうだと便乗した。だがティアラは首を振る。

 

「フューリー探しを後回しにしていては今日中に帰れませんわ。せめて入り口を見つけてからでないとダメです」

「ち、しゃーねえな」

『まだ余力があるではないか』

「いつものことだろ」

 

 休憩出来ないと悟るや否やファングは立ち上がって歩き始めた。

 

「・・・・・・ふぅ」

 

 アリンも額の汗を拭って立ち上がる。

 

『アリンだいじょーぶ?』

「ううん、平気へーき」

「ファング様お願いします、おぶってくださいって頼んだらおぶってやってもいいぞ」

「うっさい、バカ!」

 

 ファングとアリンの軽口の叩き合いにティアラがため息を吐く。

 

「おい、ここ怪しくねえか?」

 

 巧は大小様々な岩石が積まれた岩肌を指差した。注視して見ると隙間から内部に空洞があることが分かる。

 

「確かに不自然に積み重ねられてますね」

「ああ。登ってみねえとなんとも言えないけどこんな一カ所だけ崩れて重なるってことはありえねえな。だいたいこの山がロッククライミングに向いてるとは思えないな」

 

 ファングは岩肌を軽く叩く。なんの反応もない。少なくともそうそう断層が出来るような脆さではなさそうだ。彼は手袋を着けると積み重ねられた岩石をどける。そこには先の見えない暗闇が広がっていた。

 

「ビンゴだ」

「ありましたわ!」

 

 カダカス氷窟の入り口を見つけた彼らは笑みを浮かべた。

 

「ああ、でも誰が隠した?」

「そんなこと、今はどうでも良いでしょ。だいたいフューリーのある場所なんてそんなもんよ」

『たっくん、ありがと~』

「これくらいはな」

 

 意気揚々とファング一行はカダカス氷窟へと入った。

 

 

「はっくしょん! くしゅん! くしゅん! くしゅん!」

 

 洞窟内の温度を物語っているようにアリンは大きなくしゃみをした。カダカス氷窟。カダカス山脈の麓にある洞窟。険しい雪山の内部は勿論氷点下を越える環境となっているだろう。壁や地面が凍りついていた。

 

「うう、なんか寒くない?」

「ああ。つーか異常に寒いぞ」

「フューリーの影響、か? ・・・・・・これはいくらなんでも」

『さ、さみゅいよ~』

 

 元から冬用の黒いコートを着た巧や雪原地帯用の白いコートを重ねて着ていたファングですら僅かにその身体は震えていた。

 

「さむいさむいさむいさむい~!」

「さ、寒いと思うから寒いんですわ」

「壁も地面も凍ってんだろ、嘘付くな」

 

 ティアラも意地を張って寒くないと言っているがその身体はガタガタと震えていた。

 

「・・・・・・あんた、鼻水出てるわよ」

 

 アリンがニヤニヤしながら言う。ティアラは顔をカッと赤くした。

 

「鼻水なんて出てませんわ! いいえ、そもそも鼻水なんて私の身体には存在してないんです! ガタガタ震えているのは戦闘に備えているからなのですわ!」

「おー、そいつはすげえや」

『お前はアイドルか・・・・・・?』

「戦うアイドルはいねーよ」

 

 やせ我慢を貫き通そうとするティアラに男性陣は呆れる。

 

「ティッシュ使うか?」

「あ、巧ナイス! ほら、あたしがふいて上げるわ。チーンってしなさい。チーンって!」

「や、やめてください。私の鼻に触らないで、痛いですわ!」

「あんまティアラをからかうな。自分でやらしとけ。コイツを怒らせると後がめんどい」

 

 アリンが悪戯顔でティアラの鼻にティッシュを当てる。彼女はお嬢様キャラである自分のイメージを崩してはならないと一生懸命に避ける。巧はため息を吐いて二人の間に割って入った。

 

「で、このまま行くのか? 行かないのか? 俺の経験則からしてやめる方をススメとくぞ」

『同感だ』

「腹も減ったしな」

「あたしも帰って鍋焼きうどん食べたいよー」

 

 ファングはこのままの探索は無理と判断した。ティアラとアリンは軽装。ファングや巧にしても長居の出来る格好ではない。この環境で洞窟の中を迷えば命の危険に関わる可能性がある。だから彼は普段と違って至って真面目にそう言った。

 

「行きます・・・・・・私は一刻も早く女神の封印を解きたいのです。このまま引き下がっていては何時までもフューリーは集まりません」

「そこまでしてどうして女神の封印が解きたいんだ、お前?」

「それが私の使命、だからです」

 

 思いつめた表情のティアラにファングは苦笑を浮かべてため息を吐いた。

 

「・・・・・・しゃあねえな。これ着ろ」 

 

 ファングは自分の着ていたコートをティアラに投げ渡した。

 

「ど、どういう風の吹き回しですか?」

「別に。俺様に白は似合わねえ。こんなん着てる方がむしろ恥ずかしさでどうにかなりそうだ。内面以外は立派なお前なら似合うだろ。着ろ」

『あのファングがやさしい!?』

「珍しいな」

 

 日頃から他人に対する気遣いなんて親の腹の中に置いてきたと言っても違和感がないファングがわざわざ自分が寒くなるにも関わらずコートをティアラに渡したことにキョーコは驚く。

 

「暖かいです。ふふ、粗暴なのに私には優しいなんてやはりファングさんは私を愛してしまってるんですね・・・・・・?」

「うるせー。黙って着てろ。内面ブサイクどころか顔までブサイクになりてえか?」

「・・・・・・不思議です。身体の中と外から同時に暖かくなりましたわ!」

「またそれかよ」

 

 もはや何度も見た光景に巧たちは引きもしなかった。

 

「何よ、ティアラばっかり。こんなに寒がってるんだからあたしにも少しくらい優しくしてくれても良いのに」

「いっつも思ってたんだけどよ、暑い時とか寒い時は剣の中に入れよ。歩く手間も省けるだろ」

「・・・・・・! その手があったわね」

 

 気づいてなかったのか、てっきり理由があってフェアリンクしてないのだと思っていた巧は驚く。ブレイズやキョーコが目立たないために街中では決して実体化しなかったのは何だったのだろうか。

 

「じゃあさっそく『キシャアア』・・・・・・え?」

 

 アリンがフェアリンクをするタイミングを狙ったのかのように地面から巨大なモンスターが現れた。カマキリ、彼女の脳裏に浮かんだ虫の姿とそのモンスターは同じ姿をしていた。

 

「どけ! アリン!」

 

 巧はアリンを蹴り飛ばした。多少乱暴な形になったが巨大カマキリからの攻撃を回避するにはこれが最善だ。彼は自分に迫った鋭利な鎌をしゃがんでかわした。

 

「あだっ! ちょっともっと優しく出来ないの!?」

「バカ! 助けてもらっただけありがたいと思えよ!」

 

 巧はカマキリを睨みつける。目をそらせばモンスターに攻撃されてしまう。

 

「・・・・・・!?」

 

 巧は自分の腰に目を向けた。普通の革のベルトが巻かれている。何故彼はそこに目を向けた理解出来ず首を傾げた。そんな巧の眼前に鎌が迫る。

 

「ウリャ!」

 

 巧に攻撃が直撃するよりも早くファングの剣がカマキリを切り裂いた。間一髪巧はホッと胸をなで下ろした。 

 

「大丈夫ですか!?」

「危なかったな」

「おせえよ! 俺に当たるとこだったぞ!?」

 

 巧は駆け寄ったファングの背中を軽く叩く。

 

「悪い。足場が滑って狙いが定まらなかったんだ」

『それに寒さで身体が縮こまってパワーが出ず思うように動けんようだ』

「やはり巧さんが警告された通りここのフューリーを手に入れるのは難しいようですわね」

『ふむ、かなり厄介な天然迷宮だな』

 

 ここはいったん引くべきかもしれない、とブレイズは言った。

 

「ふざけんな、俺は生半可なフェンサーなんかじゃねえ!」

「ここはモンスターの巣窟よ。引き返す方がむしろ危険かもしれないわ」

「そうですか・・・・・・ではやはり」

「行くしかないか。サッサと終わらせて風呂にでも入りたい」

 

 決意を新たに彼らはカダカス氷窟を突き進む。

 

「なあ、お前はどうして女神を復活させたいんだ?」

 

 ファングはズズッと鼻水をすすりながら言った。真面目そうなティアラはわざわざフューリーなど集めなくても自力で努力して自分の願いは叶えるべきだと考えるタイプに見える。そんな彼女が何故こんな過酷な冒険に身を投じるのか、ファングは疑問だった。

 

「決まってるじゃないですか。世界平和ですわ」

「はあ?」

「・・・・・・世界平和?」

 

 あまりにもストレートな願いにファングと巧が目を見開く。

 

「・・・・・・この世界には邪神のせいで流さないでいい涙を流している人たちがいます。流さないでいい涙を私は拭える世界を作りたいのです」

「ふーん、あんた変わってんのね。邪神とあんたは関係ないのに」

「そ、それは」

「俺は良い夢だと思う」

「乾さん・・・・・・」

 

────俺、洗濯物が真っ白になるみたいに世界中の人たちに幸せになってほしいんだ

 

 巧の脳裏に気弱だが優しそうな青年の笑顔が浮かんだ。誰かは分からなかったが不思議とその青年に悪い印象はない。青年のことを考えていると巧はうっすらと笑みを浮かべた。

 

「ファングさんはどう、思いますか?」

「・・・・・・意外とガキっぽいんだな、お前」

「そう、ですか。やっぱり『ただまあ』・・・・・・?」

「ガキっぽいからこそ叶える価値はあると思うぜ」

 

 ファングはフッと笑った。

 

「俺のせんせ・・・・・・師匠もな、人一倍誰かを救うために必死で自分が傷つくのも躊躇わない男だった」

「ファングさんにお師匠様がいたんですか?」

「まあな。俺はあの人みたいになりたかった。でもそれがすごく難しいことだって大人になってから知ったよ。まあガキの浅はかな夢ってヤツだ」

 

 ティアラはファングの顔はじっと見た。今までに見たことのない嬉しさと悲しさと懐かしさ、そして悔しさが入り混じった不思議な顔をしている。なんだか彼に魅力を感じている気がする自分を誤魔化すように彼女は頭を軽く振る。

 

「でもどれだけ難しくても俺は今でもこの夢を叶えたいと思ってる。それは恥ずかしいことか?」

「いえ、とてもご立派だと思いますわ」

「ならお前の夢も同じことだろ。立派な夢だ」

 

 ファングは子どものような無邪気な笑みを浮かべる。普段はバカにしているそれは少年の頃から彼がずっと変わっていないことの何よりの証明であった。

 

「知ってたのか、お前らは?」

『いや我らも初耳だ。旅をする理由すら知らなかった。まさかあの男のようになりたいということがそういう意味だったとはな』

『たびをするりゆうはたっくんがはじめてで、ゆめをおしえてもらえたのはティアラがはじめてだよ』

「・・・・・・むー」

 

 アリンは少し不満顔だ。巧やティアラには自分のことを語るのに自分には何も語らないのは何だか面白くない。自分と彼は特別な絆で結ばれているパートナーのはずなのに。ファングは何も自分に語ってくれやしない。

 

「もう、寄り道してないで早くフューリーを探しましょうよ!」

「そ、そうですわね」

「ああ、そろそろこの寒さも限界だ」

「さっさと帰ってメシが食いてえな」

 

 これは別にヤキモチではない。ただ寒いから早く帰りたいだけだ。アリンは自分にそう言い聞かせた。

 

 

「あ、見てあのモンスター!」

 

 カダカス氷窟の深層へとたどり着いたファングたちの前にボスと思われるモンスターが現れた。アリンはその巻き貝を巨大化したようなモンスターの腹を指差す。

 

「あれは・・・・・・フューリーか?」

 

 巧は巻き貝のようなモンスターの腹にフューリーが浮かび上がっていることに気づいた。

 

『フューリーの紋章が浮かび上がっている・・・・・・まずいぞ!』

「フューリーの力で変異している可能性がありますわ。どうします、ファングさん?」

「決まってる。とっとと倒して風呂に入る。それだけだ!」

 

 ファングは巻き貝のようなモンスター────フィルンバクトリテスに斬りかかる。これまでありとあらゆるモンスターを斬り裂いてきた剣が堅い殻を前に弾かれる。想像以上の堅さだ。ヤタガン溶窟のボスすら軽々と凌ぐ防御力がフィルンバクトリテスにはあった。下手をすればあの時のアポローネスと同等クラスはあるかもしれない。

 

「っ! かてえな・・・・・・!」

「接近戦は禁物です! 『メイウェル』!」

 

 フィルンバクトリテスに物理攻撃は効果がないと判断したティアラは魔法攻撃を試みる。堅い甲殻も水圧ならばダメージが通るのはヤタガン溶窟で実証済みだ。フィルンバクトリテスにメイウェルが直撃した。

 

「どうだ?」

 

 離れた場所から見ていた巧は大量の水蒸気を前に呟く。普通のモンスターならひとたまりもないだろう。

 

「少しは効いて『ギィィィ!』」

「・・・・・・なさそうだな」

「あー! もう、イライラしますわ!」

『来るぞ!』

 

 凄まじい早さで滑走するフィルンバクトリテスの突進を二人はそれぞれ左右に跳んで回避する。だがフィルンバクトリテスは直ぐに方向転換するとティアラに突進した。フィルンバクトリテスの予想外の俊敏さに彼女は驚かされる。

 

「『フェアライズ』!」

『キュイキュイ!』

 

 避けるのは困難と判断したのかティアラは必殺の鎧を身に纏った。白き純白の戦姫の鎧。高潔な彼女の心を体現した鎧がティアラのフェアライズした姿だ。

 

「ギィィィ」

「まだまだ、ですわね」

 

 フィルンバクトリテスの鋭利な爪をティアラは薙刀で止める。凄まじいパワーだ。身体の奥底から湧き出る底知れないエネルギーを持ってしてもなお押し負けそうなほどの。だがティアラの狙いは防御ではない。フィルンバクトリテスの隙を作ることだ。

 

「『フェアライズ』! ウオオオオ!」

 

 灼熱の鎧を身に纏ったファングの拳がフィルンバクトリテスを吹き飛ばした。直撃したフィルンバクトリテスは爆発する。ギガンティックブロウ────ファングの必殺技だ。

 

「ファング、お前手加減してるんじゃねえよ・・・・・・!」

「うそ、でしょう」

 

 巧とティアラは呆然とする。

 

「ギィィィィィィ!」

 

 粉塵が晴ればそこには無傷のフィルンバクトリテスがいた。いくらファングとは相性最悪の水属性とはいえフェアライズした彼の攻撃が通用しないなど有り得ない。ヤツが喰らったフューリーの影響か、あるいは

 

「ち、効いてねえのかよ」

『う、うう』

「おい、どうしたアリン!?」

『なんか、力が出ないの・・・・・・』

 

 パートナーのアリン自身の影響だ。彼女は火属性の妖聖。この過酷な地形そのものがアリンの力を半減させていた。その結果、ファングのフューリーフォームの出力は通常時の半分以下しかないのだ。これではダメージが入る訳がない。気づけば彼のフューリーフォームは解除されていた。それどころかフェアリンクすら外される。

 

「ごめん、ファング」

「おい、しっかりしろよ。・・・・・・お前、熱があるじゃないか!?」

「どうしたお前ら!」

 

 アリンの顔は真っ赤になり身体はグッタリとしていた。急な環境の変化だ。どうしてこうなったのかは明白だった。ファングはアリンを抱きかかえると巧の近くに寝かせる。そして二本の剣、ブレイズとキョーコを抜剣するとティアラの横に立つ。

 

「下がってください! 私が何とかします!」

「俺も囮くらいにはなる! 巧、アリンを頼んだ!」

「ああ、任せろ。だけどお前・・・・・・」

「待ちなさい!」

 

 巧とティアラの制止も無視してファングはフィルンバクトリテスに突っ込む。だが今の彼にはどう考えても勝ち目はない。

 

『無茶だ、ファング!』

『しんじゃうよ~』

「知るか! アリンだって熱の中戦ってたんだ、万全の俺が戦わないでどうする!?」

 

 ファングは珍しく焦っている。アリンは高熱を出す兆候があった。カダカス氷窟に入る前から疲労が溜まっていた、そして中に入ってからはやたらと寒がっていた。気づけたはずなのだ。自分に似て強がりな彼女なら意地を張って無理をしていてもおかしくはないと。そのことに気づけなかったことをファングは強く後悔した。剣を握る手が自然と強くなる。

 

『・・・・・・背水の陣だがやるしかない、か』

『しょうがないね』

 

 妖聖たちもファングの意図汲み取り覚悟を決める。

 

「下がってください『メイブロード』!」

 

 ファングがフィルンバクトリテスの攻撃を引きつけているとティアラが魔法攻撃を放った。メイブロード────メイウェルよりも一段階上の魔法。より広範囲になり威力も高くなった水の竜巻がフィルンバクトリテスに直撃する。

 

「ギィィィ」

「これもダメ、みたいですね」

 

 ティアラは苦笑した。万策尽きて笑うしかない。一応まだ彼女にもファングのバーニングストライクのような必殺技が残されているがあの堅い甲殻を破れるとはとても思えなかった。彼女は巧たちに目を向ける。こうなったらもう逃走するしかない。だが彼らを連れて逃げ切れる自信は、あまりない。

 

「ティアラ、避けろ!」

「っ!?」

 

 巧の警告にティアラはハッとして振り向く。フィルンバクトリテスが眼前にいた。突進。回避は間に合わない。彼女は防御した。

 

「きゃあ!」

「くそっ!」

 

 フューリーフォームの鎧を持ってしてもフィルンバクトリテスの突進は凄まじい威力だった。ティアラはボールのようにふっ飛ばされ、フェアライズが解除される。ファングは飛んでくる彼女を受け止める。彼の身体に鈍い痛みが走った。

 

「ってえ」

「ご、めんなさい」

「謝んな。お前はアリンを頼む。この万能薬を飲ましてくれ」

 

 ファングは錠剤を手渡した。ティアラは目を見張る。

 

「これは・・・・・・」

「無理やり治すのは再発の可能性があったから迷ったけどもうそんな余裕はなさそうだ」

『それでアリンを治してくれ』

『そしたらあいつやっつけるから!』

 

 万全な状態なら勝てるかもしれない。ファングは一抹の望みをティアラに託した。

 

「時間は俺が稼ぐ。薬を飲まして回復魔法をかけろ」

「ですが一人では・・・・・・・」

「二人なら良いだろ」

「乾さん!?」

 

 巧が二人の元に駆け寄った。本来フェンサーではない彼の登場に二人は驚く。

 

「巧、お前・・・・・・」

「いい加減黙って見てるのにも飽きた」

「無茶です!」

「そう思うならアリンをとっとと治せ」

 

 巧がティアラの背中を押した。彼女は急いでアリンに駆け寄る。二人は知らないだろうが彼は最悪の事態になればウルフオルフェノクになれる。彼らに自分の正体をバラすのは躊躇いがある。だが・・・・・・

 

「お前らの夢はこんなところで終わらせたりはさせねーよ」

「まさかお前」

 

 巧は誰かの夢を守るために戦っていたと言っていた。記憶のどこかで彼を突き動かしてるのかもしれない。

 

「行くぞ!」

「ああ!」

 

 ファングはフィルンバクトリテスに斬りかかる。狙いは堅い甲殻ではない。僅かな隙間から覗く本体の方だ。いくらすばしっこいと言っても巨大な身体では小回りが効かない。彼にとってその攻撃は造作もないことだった。剣先がフィルンバクトリテスの顔を掠める。

 

「ギィィィ!」

「おっと!」

 

 これ以上の攻撃は危険と判断したファングが後ろに跳ぶと同時にフィルンバクトリテスはグルグルと横に回転した。当たっていたら致命傷だろう。彼は額から汗を流した。

 

「当たれよ・・・・・・」

 

 巧は銃の照準を回転するフィルンバクトリテスに向けて放つ。赤いエネルギー弾が堅い甲殻に当たった。

 

「グギィィィィ!」

 

 そのエネルギー弾はフィルンバクトリテスにとって相性が良かったのかヤツは激しくのたうち回る。

 

「効果覿面だぞ、巧!」

「みたいだな。けど・・・・・・」

『巧、気をつけろ。あいつはお前を敵と判断した』

 

 フィルンバクトリテスは一瞬にして巧を危険な存在と認識したようだ。近くにいるファングを無視してその目は離れた位置にいる巧を捉える。

 

「おっと俺を忘れんなよ!・・・・・・お前は撃ってろ!」

『たっくんはえんごして!』

 

 大きな隙が出来たフィルンバクトリテスの顔をファングはまた切り裂いた。今度は深々と刃が入ったようだ。巧に背を向けファングに攻撃を加えようとした瞬間また赤いエネルギー弾がフィルンバクトリテスに直撃する。この土壇場で抜群のコンビネーションを二人は発揮していた。

 

「アリンさん、しっかり」

「う、うう。ファング、に巧は?」

「お二人なら今もモンスターと戦っています。さ、これを飲んでください」

「水、ないの?」

「子どもですか、あなたは!?」

 

 二人が激しい戦いを繰り広げている頃、ティアラもようやくアリンに万能薬を飲ませられた。これでアリンの熱が引けば勝機が見えるかもしれない。ティアラの面持ちが明るくなったその時。状況は一変した。

 

「ぐはっ!」

 

 フィルンバクトリテスのタックルをまともに喰らったファングが吹っ飛ぶ。巧のエネルギー弾よりも先にファングを排除した方が早いとフィルンバクトリテスは判断した。彼さえいなくなれば巧を倒すのは容易と判断したのだろう。

 

「ち!」

「ギィィィィ」

 

 フィルンバクトリテスの目が巧を捉える。来ると分かっていれば突進は避けられる。彼は集中してフィルンバクトリテスの攻撃に意識を向ける。フィルンバクトリテスは身を固め────消えた。

 

「は?」

 

 どこへ行った。巧は周囲を見渡す。

 

『上だ!』

 

 ブレイズの警告で視線を上に向ける。巧の視界全てをフィルンバクトリテスが埋め尽くす。あの巨体で跳んだのか、彼は驚愕する。完全に予想外だ。回避は間に合わない。思わず巧は目を瞑る。その時、激しい轟音が鳴った。

 

『ピロロロ!』

「お、おまえ」

 

 バジンだ。オートバジンがフィルンバクトリテスを蹴り飛ばしたのだ。巧は思わず笑みを浮かべた。

 

『ピロ!』

「・・・・・・こいつは」

 

 バジンは巧に何かを投げ渡した。それは金属製のベルト。彼はバジンに目を向ける。バジンはただ頷くだけだ。主人の降臨を待つように。巧はベルトを腰に巻く。

 

 

『また戦う気か、乾巧』

 

 巧は気づけば真っ白い空間にいた。その空間の中心にはマゼンタ色のカメラを首に掛けた茶髪の青年がいた。

 

「お前は誰だ?」

『通りすがりだ』

 

 青年はそれしか自分のことを語らなかった。どことなく彼は自分やファングに似ている気がする。

 

『これを見ろ』

 

 巧の目の前に幾つもの星が輝く。幾つもの星にそれぞれの戦士が怪人と戦っていた。改造人間の戦士がいた。金色の戦士がいた。時を守るために己を犠牲にする戦士がいた。希望の魔法を司る戦士がいた。刑事で車に乗る戦士がいた。それぞれの歴史が輝いている。巧の記憶の中に出てきた夢を守る戦士もいた。だがその戦士ともう一つカードを使って戦う戦士だけが輝く歴史の中で闇に包まれていた。それがどういう意味か、なんとなく分かる。過酷な戦いの果てにきっと・・・・・・。

 

『ライダーの世界は所詮生きるか死ぬかだ。このまま戦いを選べばお前はそんな戦いに巻き込まれる』

「生きるか、死ぬか」

 

 巧は胸の中でその言葉を反芻する。戦い続ければ死ぬかもしれない。それはとても恐ろしいことだ。

 

────巧さんは優しい人です

 

 でもだからこそ戦うのだ。戦えない全ての人たちのために。

 

「だからどうした? 俺が戦わないとファングもアリンも、ティアラも死ぬかもしれない。さっさと俺を帰せ」

 

 巧に迷いはなかった。青年はニヤリと笑う。まるでその選択が最初から分かっていたかのように。

 

『ふ、なら死ぬ気でやれ』

 

 青年は巧に一枚のカードを見せる。彼の記憶の中にいる紅き戦士の姿を写したカード。それを青年は自分の腰のベルトに差し込んだ。

 

『カメンライド『555』』

 

 青年の姿が紅い戦士になる。巧はそれが本物の紅い戦士ではないことに気づく。腰のベルトが違う。巧が巻いている金属製のベルトを巻いてこそこの戦士の正しい姿なのだ。変身の仕方も違う。カードを使うのではなくベルトに携帯────555フォンを差し込んで変身・・・・・・。

 

「思い・・・・・・出した」

 

 ベルトと携帯の正しい使い方を。自分こそが紅い戦士だったことを。

 

「乾巧、行け」

 

 巧は青年に背中を押された。

 

 

 巧が気が付いたのはフィルンバクトリテスがオートバジンを吹き飛ばした瞬間だった。人型だったバジンが元のバイクの姿に戻る。

 

「良くやった。後は任せろ」

 

 フィルンバクトリテスを前に巧は構える。

 

────これより先は生きるか死ぬかの戦いだ

 

────555

 

────standing by

 

「変身!」

 

────complete

 

 巧の身体を紅い光が包み込む。懐かしい感覚だ。彼の胸の内から不思議な力が脇立つのを感じる。巧の身体に鎧が形成された。それは失われた楽園の世界で救世主と呼ばれた戦士。闇を切り裂き光をもたらす者。仮面ライダー555。彼はこの世界に降臨した。

 

「たく、み?」

『なんだ、あれは・・・・・?』

『かっこいい!』

「た、巧が変身したー!!!? フェンサー、巧はフェンサーだったの!?」

「うるさいですよ。動かないでください! それにしてもあの姿は一体・・・・・・?」

 

 ファングたちは驚愕する。巧が変身した。その事実に。アリンに至ってはまだ本調子でないのにも関わらず両手を広げて叫び、ティアラに慌てて寝かされていた。

 

「ギィィィィィィ!」

 

 フィルンバクトリテスは555を睨みつけた。薄暗い洞窟の闇を光の中で輝く紅き閃光に対して本能的な恐怖を感じたのだろう。あれはエネルギー弾と同じものだ。喰らったら致命傷になる。フィルンバクトリテスはそうはさせまいと唸声と共に突進した。

 

「ふん」

 

 巧は躊躇いなく迎え撃った。フィルンバクトリテスの堅い甲殻に蹴りを入れる。滑走していたフィルンバクトリテスはその動きを封じられた。更に蹴りを加える。フィルンバクトリテスは仰け反る。追い討ちに拳を叩きつける。コンクリートを容易く砕く拳が甲殻にヒビを入れた。巧は手首をスナップさせて更に拳でフィルンバクトリテスの顔面を殴打する。

 

『ムチャクチャな戦い方だ。あれではただの不良と変わらんぞ』

「だけど無駄はねえ」

「乾さんはあんな力を隠していたんですか?」

『おもいだしたんだよ、たぶん』

 

 巧の戦い方は気怠げで武道なんて一切嗜んだことのないチンピラの喧嘩そのものだ。だが動きは洗練された剣士であるファングにも引けを取らない。巧は突き出された爪をひらりと避け、カウンターにハイキックを叩き込む。まるで昔からこうやって戦ってきた、そんな気分だ。身体が、本能が自然と彼を突き動かす。巧の戦いの記憶が少しずつ蘇る。フィルンバクトリテスを勢いよく突き飛ばす。大きな隙が出来た。巧は自分の右足にライト────ファイズポインターを装着する。そして555フォンのエンターキーを押す。

 

────exceed charge

 

 巧はだらんと脱力する。中腰で右足に重点を置きエネルギーが充填されるのを待つ。それは記憶をなくす前に何度もしてきた構えだ。携帯からフォトンブラッドのエネルギーが右足に収束する。

 

「ハァァァァァ!」

 

 巧は勢いをつけ、跳んだ。必殺の一撃から逃れようとするフィルンバクトリテスの身体を紅い円錐状の光が拘束した。吸い寄せられるように彼の跳び蹴りがフィルンバクトリテスの身体を貫く。

 

「フン」

 

 巧はフィルンバクトリテスに背を向けた。彼の背後にφの紋章が浮かび上がりフィルンバクトリテスは灰となって爆散した。クリムゾンスマッシュ────戦車すら容易く破壊する555の必殺技だ。

 

「何をすれば良いのかはわかんねえけど仲間の夢くらいは守ってやるさ」

 

 巧は小さくそう呟いた。

 

「巧、お前すげえよ!」

『たっくんヒーローみたいだったよ!』

「助かりました、乾さん」

「気にすんな。ここまであんまり役に立ってなかったからな」

 

 巧はフィルンバクトリテスの灰の中からフューリーを手に持つ。ファングたちは笑顔で彼を迎えた。

 

「もう大丈夫か、アリン」

「うん。ファングの薬のおかげね。もうすっかり元気になったわ」

「もうあんな無茶すんなよ。お前はこの俺様のただ一人のパートナーなんだからな」

「・・・・・・! うん!」

 

 ファングが心配したような口調でアリンを叱る。彼女は笑顔で頷いた。

 

「アリンさんの体調も心配ですし、早く帰りましょう」

「よし、今日はアリンの要望通り鍋焼きうどんだな!」

「やったー! 楽しみね!」

「・・・・・・はあ!? 一番の功労者の俺を殺す気か!!」

 

 ファング一行の笑い声がカダカス氷窟の中に響き渡った。

 

「・・・・・・」

 

 彼らを見つめる者がいた。

 

 

 

「ミッチーといい今回といい助かったぜ、士」

「気にするな、あの黒服の男と交渉出来たのはお前のおかげだ」

 

 真っ白い空間に二人の青年がいた。茶髪に黒コートの青年に、白い髪に白銀の鎧の青年。どちらも底知れない雰囲気を放っている。

 

「・・・・・・俺がしたのはただの手助けでしかない。これからの世界で奴らがどうするかは奴ら自身が決めることだ」

「心配ねえよ。ミッチーも巧も立派なライダーだからな」

「ライダー、か」

 

 青年────門矢士は小さく呟く

 

「どうした士?」

「仮面ライダーが世界に生まれるってことはそれと対になる相手が現れるってことだ」

 

 士の言葉に青年────葛葉紘太はハッと目を見開く。

 

「まさかオルフェノク、か?」

「・・・・・・さあな」

 

 士は両手を広げトボケたポーズをとる。

 

「だがお前の領域にいるヤツらが山ほどいる世界だ。どんな脅威があいつを待ち受けてるのかはこの俺にも予想がつかない」 

「巧・・・・・・」

 

 紘太はただ巧の平穏を願った。

 

────これ以上巧が世界のために自分を犠牲にしませんように、と。




おのれディケイドォォォ! 違う! 全部乾巧って奴の仕業なんだ! なんだってそれは本当かい!?

遂に555が登場となりました。これが小説一巻分くらいの内容となります。ここまで追いかけてくれた皆さんありがとうございます。

この一週間何故か巧と果林がイチャつく変なネタばっかり考えていて完全に行き詰まりを感じてましたが何と書き上げられました。

最初のスポット参戦は彼らとなりました。今後も少しだけこういう形で他のライダーが登場するかもしれないので期待していてください。

そして次回はちょっとした再会と草加と終盤の木場さんを足して遊び心の足りない名護さんで割ったような問題児との出会いになるのでご期待ください。平和なRPGはそろそろ終わり、爽やかなRPGが始まります!
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