乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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今週のジュウオウジャーに鳥男こと村上幸平さんが登場します。全国の草加ファンの皆さんは是非見てください。ついでに明後日更新のイチゴマンも見てください




狼は狐にまた救われる

────何故殺した? 人を襲うから。

 

────何故殺した? 夢を守るために。

 

────何故殺した? こんな夢のない自分でも誰かを守れると思ったから。

 

 青い炎が吹き出る度に自分と同じオルフェノクたちは死んでいく。人々は彼を救世主と、夢の守り人と称えた。この身に浴びるのは血ではなく灰。化け物らしい化け物を殺して責める人間は誰もいない。ただ安心したように笑っていた。人を守るために555は戦い続ける。気づけば巧の、555の身体を灰が埋め尽くす。巧は、ウルフオルフェノクにはその灰が真っ赤な血に見えた。それでも戦う。戦っている内に血にまみれたオルフェノクが彼にしがみつき助けを求めた。振りほどいて倒す。倒したのはウルフオルフェノクである自分自身。巧は自分自身を殺したのだ。彼は絶叫する。周りにいた人々は巧を怯えた目で指差しこう言った。消えろ、化け物!────彼は灰の山に、血の海に溺れた。

 

 巧は悪夢から目を覚ました。

 

 

「あ、乾くん。あなたにお手紙が届いてるわ」

 

 ある日の朝、巧は珍しくファングより起床するのが遅れた。欠伸混じりに食堂に向かうと女将のミツボが彼に封筒を手渡した。

 

「俺に、ですか?」

「うん」

「ありがとうございます。・・・・・・もしかしたら俺の知り合いとかからか?」

 

 巧は朝食のお盆をテーブルに乗せると期待混じりにその小綺麗な封筒を開けた。

 

「ええっと乾巧様とファング様をドルファ・ホールディングスの立食パーティーにご招待いたします。なんだよ、パーティーなんか興味ねえよ」

 

 記憶を取り戻す手がかりにはなりそうにないな。明らかにがっかりした様子の巧だったが手紙の差出人が誰か分かるとうっすらと笑みを浮かべた。

 

(これおっさんからかよ)

 

 手紙の差出人はサンドミージで出会った楽器屋の店長だった。所謂スタッフからの特別な招待状というヤツだ。理由は分からないが何らかの形でパーティーの運営の一人になったのだろう。場末の楽器屋から随分と出世したみたいだな。巧は手紙を封筒にしまう。

 

(あとでファングたちにも教えてやろう)

 

 巧は上機嫌で朝食にありついた。

 

「よう、ティアラ」

「あ、乾さん。おはようございます」

「ファングのヤツがどこにいるか分かるか?」

 

 食事を終えた巧はファングを探す。彼は宿の窓拭きをしていたティアラを見つける。

 

「ファングさんならサボってなければ屋根の修理をやっていらっしゃいますわ」

「は、あいつが働くなんて珍しいな」

「立食パーティーの招待状を盾にしたら喜んでやってくれましたわ。単純なところが可愛いらしい方ですね、ふふ」

「招待状? お前ももらったのか?」

 

 巧は持っていた招待状をティアラに見せた。

 

「・・・・・・どうやってこれを?」

「ああ。前話したろ。サンドミージのこと。あの時の楽器貸してくれた店長がくれたんだ。関係者をやってるらしい」

「お二人とも人望が意外とあるんですね」

 

 人望、といって良いのか分からない。あの店長との出会い方は少々特異だ。

 

「その手紙が乾さん宛で良かったですわ」

「メシで釣らなきゃぜってえあいつ屋根の修理とかやらないからな」

「あとでファングさんにもきちんと教えてあげてくださいましね」

「修理が終わったらな」

 

 巧はティアラと別れると庭へと出た。カンカンとトンカチを叩く音が聞こえる。食べ物が関わるとファングは本当によく働くな、と巧は思った。彼は屋根に目を向ける。

 

「おーい、ロボ。釘取ってくれよ」

『ピロロロ』

「お、それそれナイスだ!」

 

 バジンが様々な工具を片手に宙を浮いていた。ファングに指示された物を一つ一つ器用に手渡している。すっかりとバジンもファング一行に馴染んだようだ。

 

「本当にアイツはなんなんだ?」

 

 555やその他のツールの記憶を取り戻した巧だがオートバジンの詳細だけは把握してなかった。555をサポートするためのバイクらしいがどうやって変形しているのかは原理がまったく分からない。

 

「おーい、ファング!」

「なんだ、巧。そうだ、お前も立食パーティー来るか? 食い放題だってよ!」

「その立食パーティーなんだけどよ・・・・・・」

 

 巧は屋根の修理が終わったファングに手紙を渡した。

 

「な、なんだこれ・・・・・・!」

「あのおっさんからの招待状だ」

『繁盛してるようだな』

「そういうことを聞いてるんじゃねえ。俺がここまで頑張ってきたのが全部ただ働きじゃねえか!?」

 

 巧とティアラの予想通りファングは憤慨した。やはり屋根の修理を終えてから手紙を渡したのは正解だったようだ。ファングのテンションは露骨に下がる。彼は価値のない労働が大嫌いな人間である。こうなることはわかりきっていた。

 

『どの道行けるのだから問題ないだろう』

「この俺様が働いてやったってのに何も報酬がないことが気に食わねえんだよ。あー、無駄な時間過ごした」

『うつわのちいさいおとこはきらわれるよ!』

『ピロロロ』

 

 キョーコの指摘にバジンが頷く。子どもと機械に説教されたファングは顔を屈辱に歪める。

 

「うっせーよ! 同じ立場になって考えてみろ!」

『えー、だってわたしはけんだもん』

『ピロロロ』

「こいつは機械だろ」

「くっ!」

 

 言い返せないファングは落ち込んだ顔でため息を吐いた。よっぽどただ働きが嫌だったらしい。

 

「・・・・・・ティアラがお前に屋根の修理のご褒美としてアイスを買ってたぞ」

「え、マジで! よっしゃああ!」

 

 ファングは先ほどまでの落ち込みようが嘘のように満面の笑みを浮かべ宿の中に入った。

 

「たく現金なヤツだ」

 

 

「すごーい・・・・・・人がいっぱい」

 

 煌びやかなパーティー会場にアリンが目を輝かせる。ドルファ社内に設けられたパーティー会場は細部から細部まで徹底的にこだわっていた。飾られている花一つ挙げても軽く五桁は行きそうな見たこともない物が並べられている。来客の身分からしても一目で上流階級と分かる者たちばかりだ。

 

「わざわざ暇な奴らだな」

 

 巧はかしこまった場所があまり好きではないのか興味がなさそうだ。むしろドルファ社の外装の方が彼にとっては興味深い。

 

「あまり騒いではいけませんよ。ここに集まっているのは皆街の名士ばかり。なんせ『あの』ドルファ主催のパーティーなんですから」

「ドルファって世界でも有名な会社なんでしょ? なんであたしたちが招待されたの?」

「お前の知り合いにここの関係者でもいたのか?」

「それは私たちがフェンサーだからですわ。どこかで噂でも聞きつけたのでしょう」

 

 巧は周囲を見渡す。所々に武器を持ったフェンサーと思わしき者たちがいた。

 

「そういえばあたしたち以外にもあちこちにフェンサーがいるわね」

「俺が昔倒した奴らもいるな」

「流石はあたしのパートナーね。良い働きよ」

 

 近くにいたチンピラフェンサー、盗賊フェンサー、山賊フェンサーをファングが軽く睨みつけると彼らは慌てて逃げていった。

 

「そのお話はあとで詳しくお聞かせください。とにかくフェンサーは特殊能力者。この世界では希有な存在」

『神々の一部とも言えるその力を利用したいのだろう。あるいは100本のフューリーを手中に収めたいのか・・・・・・』

「面倒くせえな。ま、フェンサーじゃない俺には関係ないことだけどな」

 

 世界的に有名な企業がフェンサーやフューリーを集めて何を企んでいるのか。巧はこの時もっと深く考えるべきだったと後悔することになる。

 

「どうでも良い。せっかくのメシが不味くなる」

「そうそう。このおにくおいしいのにだめになっちゃうよ」

 

 ファングとキョーコが皿を片手に言った。能天気な二人だ。

 

「キョーコちゃん、出てきて大丈夫なのですか? ここには怖いフェンサーもいるかもしれませんよ」

「だいじょぶ。ファングがいるから」

「そうそう心配すんなって。俺が傍にいるからな」

「だから心配なんだよ」

 

 逆によくそれで安心してもらえると思ったのか疑問だ。今までの数多くの失態を忘れているのだろうか。

 

「あ、いた。ファングさん、巧さん。お久しぶりです」

 

 ファングが食事を満喫しているとこの場に招待してくれた店長がやって来た。きっちりとした高そうなスーツを着込んでいることからやはりあれから繁盛しているようだ。あとで知った話だがあの街ではカジノの代わりに歌劇場が出来たらしい。たまたまあの店に寄った音楽家がその年代物の楽器の多さに驚愕し、今ではかなり人気の楽器屋になったようだ。

 

「お、おっさん。招待状サンキュー。ここのメシうめえぞ」

「飲み込んでから喋れ、バカ」

「はは、乾杯前ですが既に楽しんでもらえて何よりです」

 

 ファングは主賓の挨拶まで待つことなど考えていない。既に勝手に食事を始めていた。まあ別に社員でも名士でもない彼に汚れる顔などないのだが。

 

「でもおっさんがなんでドルファのパーティーの運営にいるんだ?」

「ああ、それは今日のパーティー用のピアノを提供したのがわたしなんです。ふふ、アンティーク物で中々お高いんですよ」

「へー、ギター以外も売ってんだな」

「楽器集めは祖父の趣味でしたから。倉庫の中で大事に保管していたものなんですよ」

 

 楽器一つにまでこのこだわりとは本当にドルファという企業は大きいらしい。その割りに食べ物の味はそこそこ美味い程度なのが疑問だ。

 

「これはわたしからのお礼です。是非飲んでください」

 

 店長は高そうなボトルの酒をグラスに3つ注いだ。わざわざ用意するなんて律儀なものだ。

 

「あ、俺は未成年だから遠慮しとく。ファング飲めよ」

 

 勘違いされることも多いが巧はまだ18歳だ。地方の差はあるがゼルウィンズ地方の法では酒を飲むことは出来ない。

 

「じゃあせっかくだからいただくぞ」

『アルコール度数40パーセント越えの蒸留酒・・・・・・お前も店主も本気か?』

「一杯だけなら問題ねえよ」

「酔うために酒はあるんですよ」

 

 成人しているファングはグラスの酒を飲む。あまり嗜まないが酒は強い方だ。彼は酒をさっさと飲み干すと近くのテーブルに置かれた料理に手を伸ばした。

 

「あの、少しよろしいですか?」

 

 ティアラが店長に話しかける。店長は彼女に見覚えがないのか首を傾げた。

 

「なんですか、お嬢さん?」

「ファングさん・・・・・・それと乾さんをどのようなご縁で招待なさったのですか?」

「店で暴れた地上げ屋を追い返してくれたんですよ」

「それだけで、ですか?」

「一番の理由は違います。お二人はわたしの、村人たちの夢を思い出させてくれたんです」

 

 店の前で即席で行った演奏会は村人たちの心にかつての希望を取り戻させた。あれからどことなく暗かった村人の雰囲気は明るくなり富裕層の街の人々とも良好な関係を築き上げられた。全てが彼らのおかげとは言わないがお礼にパーティーへ招待するには十分すぎる恩を店長は感じていた。

 

「夢・・・・・・」

 

 ファングと巧は夢に深く関わることが多い、とティアラは思った。

 

「皆さんお集まりいただきありがとうございます。ドルファ・ホールディングスのパイガでございます。総帥・花形に代わってご厚礼申し上げます。」

「お、乾杯するみたいだな」

 

 重役と思われる眼鏡を掛けた男がドルファ・ホールディングスについて説明する。ドルファは衣食住、様々な事業に手を出しているようだ。近年はそういった孤児院経営などの慈善事業にも取り組んでいるらしい。世間的には大層立派な企業と思われているらしいが巧は直感的にそういう企業をあまり信用出来なかった。

 

「それにして総帥の『花形』か」

 

 花形という名は何となく巧の心に引っかかる。記憶を失う前に関わりでもあったのだろうか。

 

「『みんなの心に太陽を!』それがドルファの精神なのです」

「け、良い話すぎて嘘くせえよ」

『ああ、信用ならん』

 

 ファングは食事をしながらも一応はパイガの演説に耳を通していたようだ。反応は巧と大して変わらないが。

 

「少なくとも社会貢献の話は事実ですよ。世間からの評判も上々。フェンサーの入社したい企業ナンバーワンですわ。まあ、私も信用はしてませんけど」

「フェンサーを集めることの意味を考えたらな」

「自分のことを白いって宣伝しまくる奴らが一番怪しいんだよ。ま、メシの味は認めてやるけどな」

 

 ファングはそう言うと更なる料理を求めて何処かへ行った。

 

「ファングさん、大丈夫でしょうか? 少し顔が赤かったみたいですが」

「酒が入ったからだな。まあ酔ってもいつもと大して変わんねーだろ」

「それもそうですわね」

 

 とは言っても寄った勢いで暴れられてもそれはそれで困る。巧とティアラは念のためにファングを探す。

 

「あら、なんて素敵な音色でしょう」

 

 雅なパーティー会場に穏やかなピアノの演奏が流れる。弾いている人間はさぞ高貴な者なのだろう。ティアラはうっとりとそのピアノに耳を傾けた。

 

「ああ・・・・・・けどちょっと音がズレてるな。おっさん調整ミスったか?」

 

 巧もピアノの演奏自体は評価したが音色に僅かに存在する違和感に首を傾げた。

 

「分かるんですか?」

「なんとなくな。ファングかおっさんなら確証も持てるんだろうけど俺はそこまで相対音感が身についてないから何とも言えねえ」

「ファングさんが音楽を嗜んでるなんて驚きましたよ」

「これがクラシックならアイツはロックンロールで方向性は真逆だがな」

 

 ファングは型にはまる生き方ではないと音楽の方向性でも示していた。しかし、その件の彼はどこにいるのだろう。アリンもさっきから見かけない。よほど食べ物に夢中になっているのだろうか。巧は容易に想像出来る光景に苦笑する。

 

「やはりファングさんはじゆう、じん?」

「あ? どうしたてぃ、あら?」

 

 二人は固まった。ファングがいる。それだけなら良い。むしろ見つかって安心したくらいだ。だが問題なのは彼が親しげに会話をしている相手だ。

 

「な、なな。ふぁ、ファングさん。私というものがありながら。あ、あんな・・・・・・」

「・・・・・・美女ってヤツと楽しそうに話してんな。あとお前のものではねえだろ」

「わ、私を愛していると以前ファングさんは『言ってねえだろ』・・・・・・言ってませんでした」

 

 二人は自分の目を疑う。あのファングが黒いドレスに身を包んだ金髪の美女と話していることに驚愕する。ありえない。あのファングが女性と、しかも美女と会話をするなんて信じられなかった。ティアラの方は動揺で視線が泳いでいる。

 

「あ、巧いた! 探してたんだけど何してるの?」

「なんでもない。あれは見ない方が良い」

「え、ええ。きっと幻覚です」

「・・・・・・? 変なの?」

 

 アリンは訳が分からず首を傾げる。

 

「それで、どうして俺を探してたんだ」

「出来ればファングも一緒が『ここにはいない』なら巧だけで良いわ」

「なんだよ」

 

 首を傾げる巧にアリンは意味深な笑みを浮かべる。

 

「ほら、果林。こっちよ! 巧がいたわよ」

「・・・・・・おい、ちょっと待て」

 

 聞き覚えのある名前に巧は思わず頭を抑える。

 

「・・・・・・また、会いましたね」

 

 妖聖果林。巧にとって色々と縁の深い少女がそこにいた。彼女は巧の姿を確認するとその可愛らしい顔立ちににこりと笑顔を浮かべる。彼は今どんな顔を浮かべているか自分でも分からなかった。

 

「ああ」

「ちょっと巧。ああってだけじゃないでしょ!」

「・・・・・・久しぶりだな」

 

 巧は正直、果林にどうやって接すれば良いのかよく分からなかった。これを含めても彼らは三度しか会ってない。他人か、知り合いか、友人か。自分と彼女の関係は一体なんなんだろう。距離感が少し、分からない。

 

「お久しぶりです」

「お久しぶりですわ。エフォールさんもお元気そうで何よりです」

 

 ティアラは果林と隣にいるエフォールに挨拶する。エフォールはキョロキョロと視界を動かしていてティアラのことを気にかけてないようだ。

 

「殺? 殺殺」

「ファングはどこだ? 今日こそ殺してやる、とエフォールは申しております」

「乾さん。いっそ今ここでファングさんを殺してもらっても『落ち着け』」

 

 ファングが美女と会話していることがよっぽどショックだったようだ。もっとも巧も自分ですらあんな美女と会話したことなんてないのに、と内心ショックを受けているのだが。

 

「果林とエフォールは何しにここに?」

「私たちも最近はすっかりと裏稼業から離れましたから。フェンサーとして招待されたんです」

「しっかりとファングの言いつけは守ってるみたいだな」

 

 エフォールは無言で頷く。

 

「最近は折り紙をやってみたり他のことにも少しずつ興味を持つようになったんです」

「エフォールはかわいいんだから壊すことよりもそういう女の子らしいことをした方が良いわ」

「殺、殺殺殺」

「かわいくない、それと折り紙はアイツへの冥土の土産用だ、とエフォールは申しております」

 

 それ意味が違うだろ、巧は思わず突っ込みを入れた。果林も苦笑を浮かべる。

 

「殺殺殺殺」

「見つけた、とエフォールは申しております」

「あーあ、見つかっちまった」

「ファングさんもこれで終わりですね」

「え、なに。あんたたちファングが何処にいるか知ってたの?」

 

 巧たちが黙っていてもファングをエフォールが探し出すのにそう時間はかからなかった。

 

「げ、エフォールじゃねえか」

 

 エフォールはファングと出会った瞬間に強い殺気をぶつける。彼は露骨に嫌そうな声で彼女の名を呼ぶ。大好きな食事の時間を邪魔されたせいなのか美女との楽しい一時を邪魔されたせいなのか、どちらで不快になったのだろう。ティアラはそれが気になった。

 

「てめえまたほかのおんなとなかよくいちゃつきやがってむかつくんだよしね、っていってるよ」

「別にいちゃついた記憶なんてねえよ」

 

 巧と楽しそうに会話をしている果林に変わってキョーコが通訳する。

 

「あなたの知り合い? 随分珍しい喋り方をしてるのね」

「まあな。コイツはシャイなアンチキショウだから仕方ねえよ」

「何よそれ、フフ」

 

 金髪の女性はクスクスと上品に笑う。エフォールは彼女をキッと睨みつけた。

 

「殺殺」

「ファングをころしたらすぐにおまえのばんだ」

「お断りするわ。私、これから予定があるの。また会いましょうファング。良い返事を待っているわ」

「期待すんなよ。そう簡単に俺は気移りしたりしねえ」

 

 金髪の女性は上機嫌でパーティー会場を出て行った。入れ違いにティアラがファングの元にやって来る。何をしていたのか、聞き出すつもりだろうか。

 

「・・・・・・あの女性はどなたですか?」

「さあな。強いていうなら俺様の溢れ出る魅力に引き寄せられた女とだけ言っておこう、へへ」

「へー、それは良かったですね!」

 

 ティアラは声を荒げながらファングから離れていった。

 

「なんだ、アイツ。こんなに美味いメシがたくさんあるのにどうして不機嫌なんだ?」

『お前のせいだ』

「殺殺」

「そうだそうだしね、だって」

「やれるもんならやってみろ。お、このエンガワうめえ」

 

 ティアラのことが気になったファングだったが目の前の寿司に夢中になるとそのことは記憶の片隅に追いやられてしまった。

 

「よ、アリンも満喫してんな」

「あ、ファング。ほのフカヒレおいひいわよ」

「この大トロもうめえぞ」

 

 新しい料理を探しているとファングはアリンを見つけた。二人は互いに気に入った食べ物を交換してそれを笑顔で食べる。

 

『お前たちは遠慮というものを知らないのか?』

「余って捨てるくらいなら俺様が全部食う。捨てるなんてもったいねえ。世界には飢えてるガキがゴマンといるんだ。恥なんて知らねえよ」

「ほうよほうよ。遠慮する方が最低よ」

『・・・・・・一理あるが飲み込んでから喋れ』

 

 口一杯に食べ物を入れてる二人にブレイズがため息を吐く。

 

「てかあんた顔赤いわよ。風邪?」

「いや、酒飲んだ。二杯だけどな」

『だが強い酒だ 』

「もう、大丈夫? ほら、お茶飲みなさい」

「ああ。ありがとな」

 

 ファングは差し出されたお茶を飲もうとして────

 

「殺殺殺殺」

 

 エフォールの攻撃に阻まれた。

 

「おっと、あ」

 

 ファングはヒョイと軽く避ける。だが酔いのためか何時もより反応が遅れその手に持っていた湯呑みが鎌に弾き飛ばされた。

 

「お、お茶が」

「やべ・・・・・・おっさん、わりい」

 

 よりにもよって湯呑みはピアノに直撃した。中身はピアノにぶちまけられ、演奏が止まってしまう。にわかに周りがざわめきファングたちは注目を集める。

 

「あなたたち何をやっているのですか!?」

 

 騒ぎの元凶がファングたちにあると知ったティアラが慌てて喧騒の中をかいくぐって現れた。

 

「さ、さつ」

 

 もともと人目に晒されるのを嫌う恥ずかしがり屋なエフォールは自分が原因でこうなったことにすっかり怯えてしまっている。

 

「なにって。それはエフォー『俺がふざけて湯呑みを投げてしまったんです』ふぁ、ファング!?」

「酔っていて周りが見えてませんでした。すいません」

『酒の勢いでやってしまったことだ。どうかこの阿呆を許してやってほしい』

 

 ファングは注目の中で頭を下げる。非難めいた目が彼に向けられる。アリンは何故エフォールを庇ったのか分からず彼の背中を引っ張る。ファングはそれでも無言で頭を下げた。

 

「詫びる必要はありませんよ」

 

 ピアノの演奏をしていた青年がファングの肩を叩く。彼が振り返れば一目で美形と分かる青年がいた。

 

「このピアノはドの音が少しズレていました」

「え?」

「お詫びしなければならないのは不完全な演奏を披露した僕の方です。ですからあなた方もお気になさらないでください」

「な、なんて優しい方なんでしょう」

 

 ティアラは青年の寛容さに驚かされる。音がズレているというのは巧から聞いて知っていたが、だからといってそれで演奏を邪魔されたことを笑って許せるのとは話が別だ。彼自身の演奏は完璧だったのだから。

 

「よかったわね、ファング。弁償しろとか言われなくて。あんた変なとこで優しいと損するわよ」

「まあな。とりあえずおっさんには謝っとこう。しかし、お前あの音ズレに気づくなんてやるな」

「いきなりお前呼びできるなんてファングさんは流石ですね、一周回って尊敬します。・・・・・・調律が乱れていてもあなたの演奏は素晴らしかったです。心に虹がかかったような気持ちになりました」

「ありがとうございます。そう言われると僕も救われた気分になります」

 

 青年は爽やかな笑顔を浮かべる。端正な顔立ちにうかぶ笑顔はどこかの国の王子か何かと錯覚を起こしてしまいそうだ。

 

「なんか俺、アイツ苦手だ」

「あんなイケメンで良い人そうなのになんで?」

『真逆のタイプだからだろう』

「美味すぎるメシはすぐに飽きるんだよ」

 

 なんとなくあの青年と自分は相性が悪そうだとファングは思った。

 

「殺殺」

 

 人がまばらになるのを確認するとエフォールはファングの袖を掴む。

 

「どうしてかばった、だって」

「俺は大人、お前は子ども。それくらいしか理由はねえよ。それに所構わず襲ってもいいような約束したのは俺だしな」

 

 ファングはエフォールの頭をポンポンと叩く。

 

「これに懲りたら俺を狙うのは止めるんだな」

「殺殺殺、殺」

「それはむりだ、だけどおそうばしょはえらぶって」

 

 全然懲りてないようだな。ファングは苦笑した。そもそも殺殺としか話せないエフォールを差し出したところでよけい事態がややこしくなっていただろう。何故か今日は通訳の果林がいないのだから尚更だ。

 

「あれ、そういえばお前果林はどこだ? それにこっちは巧がいねえ」

 

 二人揃って姿を見せないことにファングは首を傾げた。

 

「そういえば・・・・・・」

「見てないわね」

「まさかあいつら二人でどっか抜け出した、とか?」

「え、ないない」

 

 巧に限ってそれはない。アリンが全力で否定する。彼らも頷く。乾巧という男は常に人と一定の距離感を作る人間だ。自分と親しくなった人を、自分のこと好きになってくれた人を裏切るのが怖い。それはオルフェノクとして生まれ変わった彼にとって決して拭うことの出来ない不安、いわば呪いのようなものだ。だからそんなことは・・・・・・

 

「巧さんとあの狐のお嬢さんなら会場から出て行きましたよ」

 

 ・・・・・・ないはず、だが。現れた店長の一言が場の雰囲気を変える。

 

「あ、おっさん、ピアノわりい。ダメになっちまったかもしれねえ。オーバーホールするなら金は出すから」

「良いんですよ、あなたがやったことではないんでしょう。それに水浸しになったのならともかくこれなら多分大丈夫だと思います。かかった瞬間は失神するかと思いましたけど」

「ちょ、ちょっと! それより巧と果林に何があったのよ!?」

 

 アリンにせかされて店長は慌てて何があったか語った。

 

「実は先ほど・・・・・・」

 

 

 少し前。

 

「エフォールも少しずつ笑顔を見せるようになりました」

「良かったな」

 

 思ったよりも饒舌な果林に巧が相槌を打つ。ファングとの約束はエフォールにとって少しずつプラスに働いているようだ。このまま彼を殺すことを諦めてくれれば彼女も果林が望んでいた普通の女の子らしくなれるだろう。

 

「それでファングさんのプレゼントにって折り紙を覚えたり」

「冥土の土産、だっけ?」

「照れ隠しですよ」

 

 どんな照れ隠しだ、巧は内心突っ込む。やはり果林も少し価値観がズレている。

 

「この間、エフォールが『・・・・・・なあ』・・・・・・はい?」

「エフォール以外に話すことはその、ねえのか?」

 

 果林が首を傾げた。彼女はエフォールのことしか話題に出さない。

 

「えっと・・・・・・」

「俺はお前の方が気になるんだよ。エフォールのことが大事なのは分かるけどよ。俺が今話してるのは果林であってエフォールじゃねえだろ。大事なのはお前自身のことだ」

「私の方が、気になる・・・・・・?」

 

 果林は顔が熱くなるのを感じた。意味が違うのはもちろん分かっている。エフォールの話題より自分のことを話してほしいという意味だ。でも果林にとっては常にエフォールが第一で自分のことは二の次。それが彼女の根底に根付いていた。それは周りの人間も変わらない。果林は妖聖であり人に近い存在といっても人外だ。戦う相手も出会う人々も向かう視線は基本的にフェンサーのエフォールにある。だから巧の優先順位がエフォールより果林のが上だという事実は彼女にとって大きな衝撃だった。まあ、少なからず好意を寄せている相手だというのもあるのだけど。

 

「・・・・・・果林?」

「は、はい!」

「ボーッとしてどうした? 熱でもあるのか、変な顔してるぞ」

 

 怪訝な表情の巧に果林は慌てて首を振る。

 

「な、なんだか暑くて。水分をとれば大丈夫です!」

 

 果林はテーブルの上に置かれたグラスを手に取って口に寄せる。巧はグラスの中身を見て顔色を変える。

 

「あ、飲むな。それは酒だ!」

 

 一見するとジュースのようにも見えるそれは赤ワインだった。アルコール類の飲み物と普通の飲み物は分けられていたのだがテンパっていた果林はそのことに気づかなかった。既にグラスの中身は半分ほどなくなっている。

 

「・・・・・・え?」

「だ、大丈夫か」

 

 巧は果林の顔を覗き込む。頬は上気しフラフラと目の焦点は合っていない。彼が近寄ると彼女は巧に寄りかかった。

 

「少し、頭が熱いです。巧さんに触れているから、ですか?」

「酔ってるからだ。落ち着け」

「・・・・・・なんだか立つのも苦しいです」

 

 まさか急性アルコール中毒か、巧は額から汗を流す。

 

「どうしたんですかね、巧さん。おや、そのお嬢さんは?」

「おっさん、こいつうっかり酒飲んじまったんだ。医務室かなんかの場所分かるか?」

 

 果林が倒れないよう巧は支える。たまたま近くを通りかかった店長に彼は助けを求めた。彼は少し考えた後にポケットからある物を取り出す。

 

「気付け薬です。これを飲ましてあげれば治ると思います」

 

 気付け薬────混乱症状を治す薬。液状の瓶詰めになっていて冒険者や飲み会後のサラリーマンの欠かせない必需品だ。度の強い酒をファングや巧に奢ろうとした店長が念のために持ってきた薬が思わぬ形で役に立った。

 

「助かった。ほら果林、口を開けろ」

 

 巧は果林に気付け薬をゆっくりと飲ませる。

 

「大丈夫、か?」

「う、うう。まだ身体が熱いです」

「効果が出るのには少し時間が掛かりますから外の空気でも吸わせて休ませてあげなさい」

 

 仕方がない。会場から出るか。巧は果林を背負う。一応彼女は意識はしっかりしてるのか彼の首に手を回した。

 

「・・・・・・お楽しみに、と言っておけば良いですかね」

「お大事に、にしておけ。そういう仲じゃねーよ」

「ではお大事に。・・・・・・お似合いだと思うけどなあ」

 

 店長のぼそりと呟いた言葉は背を向けてる巧には聞こえなかった。

 

「ああああああああああああああああ!?」

「な、なんだぁ?」

 

 店長の絶叫は背を向けている巧にもはっきり聞こえた。

 

 

「すいません、ご迷惑をおかけして」

「気にすんな。同じ猫舌のよしみと思っとけ」

「ふふ。なんですか、それ」

 

 果林を背負った巧は出来るだけ揺らさないように歩いていた。社内でのパーティーだ。外への道はそれなりに長い。

 

「巧さんはやっぱり優しいんですね」

「俺が優しいって言った奴はお前を入れて二人しかいねーよ」

「例え一人でも私は巧さんを優しいと思い続けますよ。むしろ一人でも良いくらいです」

 

 巧は外へ出る。果林の酔いは少しずつ醒めてきたようだ。口数も多くなってきた。

 

「なあ、迷惑かけるかもしんねえけど聞きたいことがあるんだ」

「同じ猫舌のよしみで聞いてあげましょう」

 

 巧はフッと笑った。

 

「俺、少しだけ記憶が戻ってよ。それから夢を見るようになったんだ」

 

 巧は最近よく見る悪夢の内容を語る。オルフェノクと戦い続けた自分の過去。ある時は成り行きで。ある時は夢を守るために。ある時は人々を守るために。ある時は────。夢の中の彼はたくさんのオルフェノクたちを倒した、いや殺した。巧は心まで怪物になりたくないと思っているからだ。どれだけ恐ろしい化け物にその身を変えようと人であろうとする、人を守ろうとする意思がある限り彼は自分が人間である証明なのだと思っていた。だが、何処まで精神が人間であろうと周りから見れば自分が怪人と呼ばれる者たちと同族であるのには変わらない。ならば同族を殺そうとする自分こそが間違っているのではないのか。人間を守るのは間違っていたのではないか。乾巧は人間からもオルフェノクからも怪物と呼ばれる異形の存在だったのではないか。自分自身が呪いとなって巧を苦しめる。それでも戦うしかなかった。守りたいものがあったから。戦いの果て最期に怪物になった自分を殺すところで夢は終わる。自分が誰なのだか分からない。巧は内心で抱えていた不安を果林に吐露した。

 

「・・・・・・巧さんは間違ってませんよ」

「冗談はよせ。俺が戦ってきたことは・・・・・・」

「間違いなんかじゃないです」

 

 背負われた果林は巧の身体を優しく包む。

 

「巧さんが守ってきたのは本当に普通の人たちだけだったんですか?」

「いや違う、と思う」

 

 巧の記憶の中に馬と蛇と鶴のオルフェノクが浮かび上がる。彼と同じように人の心を失っていなかった者たちだ。

 

「その人たちの存在は間違っていますか? 巧さんが守ってきた全てのことが間違いだと思うんですか?」

「それは・・・・・・絶対に違う」

「なら巧さんの戦いもきっと間違いではないんです」

 

 巧の中の憑き物が落ちていく気がした。見なくても後ろで果林が微笑んでいるのがなんとなく分かる。

 

「巧さんは巧さんだから、大丈夫です。これからも、きっと・・・・・・!」

 

────出来るよ! 巧は巧だから・・・・・・!

 

 果林が耳元で囁いた。巧はうっすらと笑みを浮かべる。今日は久しぶりに普通に眠れる気がした。

 

「・・・・・・冷えてきたな。そろそろ中に戻るか」

「はい。もう歩けますから下ろしてください」

 

 果林がそう言っても巧は彼女を背負ったままだ。

 

「は、恥ずかしいですから離してください!」

「遠慮すんな。まだ顔赤いだろ」

「あ、紅いのは酔ってるって訳じゃなくて・・・・・・うう」

 

 そこから先の言葉はとても口に出せなかった。

 

「悩みを聞いてもらった礼だ。気にすんなよ」

「ほ、本当に違うんですよ・・・・・・」

 

 このあと会場に戻った巧と果林にファングたちからあらぬ疑いをかけられるのだが二人はまだそのことを知らなかった。




一度目偶然、二度奇跡、三度目必然、四運命

紅音也さんの名言です。覚えておきましょう

ゲームでは一瞬で終わる立食パーティーの話しがかなり長丁場になってしまいました。しかもシャルマン様の出番も少ない。それもこれも全部乾巧って奴の仕業なんです。次回からは再びフューリー探しの冒険に戻るので安心してください

人生は短い、だが夜は長いみたいな展開にしたら15が18になってしまうところだった。危ない危ない
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