乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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仮面ライダーマッハ&仮面ライダーハート制作決定おめでとうございます。マッハ凄い好きですから楽しみです。


空を見上げる君の顔を覗いて知りたいその気持ちと表情

「ふー! ふー!」

「おはようございます、乾さん」

 

 立食パーティーの翌日。朝食の味噌汁に息を吹きかけ冷ましている巧に冒険用の身支度を済ましたティアラが話しかけた。フューリーの情報でも手に入ったのだろうか。今日はなんだか機嫌が良さそうだ。にこにことした彼女が何を言うのか考えながら彼は味噌汁に口をつけた。

 

「昨夜は果林さんとお楽しみだったんですか?」

「ぶっ! あちっ!?」

 

 思わず咳込む巧。ファングならともかくティアラがからかってくるとは。おかげで舌が火傷してしまった。彼女は慌てて水を飲む彼にクスリと笑った。

 

「あのなぁ! 俺はアイツと色々あったけどよ、そんなことする訳ないだろ!?」

「でも出来るならしたいんでしょう?」

「・・・・・・さあな」

 

 巧はバカ正直にはいと言ったりはしない。

 

「そんな煮え切らない態度では果林さんも報われませんわ。可哀想に」

「うるせーよ」

 

 そもそも果林とは三回しか会っていない。まだ名前と折り紙が趣味なこと、それととても笑顔が似合うことくらいしか巧は知らない。だが今のところ世界で唯一彼の真の姿、ウルフオルフェノクを知っていることを考えれば心の距離は誰よりも近いのかもしれない。もっとも巧自身にはその自覚はないのだけど。

 

「ミツボさん、ごちそうさま」

「はいよ。いつも綺麗に食べてくれてありがとうね」

「猫舌のわりに熱い物でも残したりはしないんですね」

「熱いから苦手なだけでラーメンも味噌汁も嫌いじゃないんだよ」

 

 だから冷ましてでも食べようとするのだ。最初から食べれないなら巧はフーフーしたりしない。二度手間になるからだ。

 

「あれ、ファングとアリンは?」

「洗面所でお顔を洗っていますわ」

 

 ファングたちがいなくてはフューリー探しは始まらない。巧たちは彼らを呼びに行った。待っていてもよかったがこれ以上ティアラと二人っきりだったら果林のことで何を言われるか分かったもんじゃない。

 

「おはようございます」

「よお。二人とも顔をさっさと洗え」

 

 洗面所に入ると歯を磨いているファングとアリンがいた。彼らは眠気眼で歯ブラシを動かす。

 

「身支度と準備が出来ましたら出発しますよ」

「・・・・・・あん?」

「どこに・・・・・・?」

 

 寝起きで頭がボーッとしている二人は何が何だか分からず首を傾げた。ファングは更に大きく欠伸までする。

 

「先日のドルファのパーティーで面白い話を聞きましたの。キダナル地域のどこかに御神体として祀られたフューリーがあるという噂があるそうです」

『そのフューリーわたしみたい』

「あんた・・・・・・いつの間に」

 

 アリンはパーティーの時、ティアラとほとんど

行動を共にはしていない。彼女がしっかりとフューリー探しのヒントを手に入れていたとは思いもしていなかった。

 

「本来パーティーとはそういう場です。人と出会い、話をして、親交を深める。そう、乾さんと果林さんのように。タダメシをいただく場ではありません」

「俺を巻き込むな」

 

 サラッとまた果林の名前が出てきたことに巧はため息を吐いた。

 

「ちなみに殿方にも口説かれましたわ、10人ほど」

「何よ、自慢げに。あたしだって口説かれたわ、50人に!」

「こっちは本当は100人ですの」

『お前たち見栄を張るな』

 

 ティアラとアリンは火花を散らして睨み合う。

 

「あ。口説かれたで思い出したけどファング、お前昨日話してた美女誰だよ?」

「この状況でよけーなこと思い出してんじゃねえよ・・・・・・ほら、めんどくせえ」

 

 ティアラとアリンは互いに向けていた視線をいつの間にやらファングへと向けていた。

 

「な、なんですってー!? ファング、それどういうこと!?」

「・・・・・・正直に言って下さいまし」

 

 二人に睨まれてファングはため息を吐く。

 

「勧誘だよ、勧誘。あの女がドルファに入らねえかって俺を勧誘したんだ」

『勧誘自体は断ったもののファングは思いのほかあの女と気が合ったようだ』

「ああ『緑の生き物』って話が気になってな。そのことについて話し込んじまった」

 

 緑の生き物って一体なんだ、と巧は気になるが彼女らはそんなことよりもファングと美女に何があったかの方が気になるようだ。

 

「緑の生き物とか知らないわよ。ファング、あんたその女のことどう思ってるのよ!? このパートナーのあたしとどっちのが美人なの!?」

 

 シーン、と周りの空気が固まる。あれ、とアリンは首を傾げた。これがどっちが大事と聞いたのならファングはアリンと即答していただろう。唯一のパートナーだ。だがどちらが美人かと聞かれたのならそれはもちろん・・・・・・。

 

「・・・・・・マジで聞きてえのか?」

「その、アリンさん。あの」

「止めとけ、アリン」

 

 三人揃っての微妙な反応にアリンはキィーと唸った。

 

「なによ! みんな揃って! だいたいティアラはどうなのよ!? ねえ!?」

「私まで巻き込まないでください!」

「五分だ」

 

 即答するファングにティアラとアリンから同時に張り手が飛んだ。

 

 

「随分荒れた街ねえ」

「人っ子一人いないな。サンドミージの貧民街でももっと賑やかだった」

「まるでゴーストタウンだな」

 

 キダナル地域にたどり着いたファングたちが見た物は人のいた痕跡がなくなった住宅街だった。ヒビの入ったコンクリートの道路、経年劣化したマンションやアパート。昼間だというのに遊ぶ子どもすらいない公園。彼ら以外の人間がこの世界から消えてしまったのではないか、そう錯覚してしまいそうだ。アリンは背筋が冷たくなるのを感じた。

 

『ティアラ、この街が過疎化してるとかそういう話しはあるか? 地方からゼルウィンズに引っ越す者も増えていると聞いた覚えがあるのだが』

「そんなはずはありませんわ。キダナル地域は本来閑静な住宅街のはずです。比較的ゼルウィンズからも近いですし」

 

 ティアラはあまりに異常なキダナル地域・住宅街の雰囲気に冷や汗を流しながら首を傾げた。

 

「お、人発見。おーいそこのおっさん!」

 

 ファングは顔色の悪い男性を見つけた。笑顔を浮かべてその男性は話し掛ける。

 

「ぁっぁっぁああ!」

「っ!? なにしやがる!?」

『は、はなしてえ』

 

 ファングはいきなりその男に組み付かれた。そして彼の腰に差されたキョーコに彼は手を伸ばす。

 

「ファングを離せ・・・・・・!」

 

 巧は男の腕を掴む。力が強い。業を煮やした彼は思いっきり男を殴り飛ばした。

 

「ご無事ですか!? ファングさん、キョーコちゃん!?」 

『たっくん、ありがとー』

「あ、ああ。なんだコイツ?」

 

 ファングは巧の拳によって倒れた男を見た。その男の目は真っ白。首も不自然に曲がっている。生気を感じられない形相に一同は冷や汗を流した。

 

『・・・・・・・お前たち、離れろ。そやつはもう、人ではない』

 

 ブレイズの声が震えていた。人ではないとはどういうことだ? 直ぐにその言葉の意味を彼らは理解した。

 

「コ・・・・・・テク、レ」

「おい、あんたどうし『あああああああ!!』た?」

 

 男は目から血の涙を流し叫んだ。巧はギョッとして彼から距離を取る。

 

「いや・・・・・・いやあああああ!?」

 

 男の顔がひび割れる。その身体の中から巨大なサソリが現れた。まるで雛鳥が殻を突き破るように。人から、人であったものから怪物が生まれた。アリンは絶叫すると口元から逆流しそうなナニカを無理矢理抑えた。身の毛もよだつ光景に彼女の健康的な肌色が真っ白に変わる。ティアラが倒れそうになった彼女を支える。彼女の顔色もあまり優れない。

 

「くそ! 逃げるぞ、お前ら!」

 

 巧は飛びかかってきたサソリを蹴り飛ばして叫ぶ。こういう状況に慣れている彼はいち早く正気に戻った。続いて強い精神力を持ったファングも正気に戻る。

 

「・・・・・・ひ、とが」

 

 ティアラはこの理解しがたい状況に頭が真っ白になり呆然としていた。

 

「『フェアリンク』・・・・・・行くぞ、ティアラ」

「は、はい」

  

 アリンを剣に納めるとファングはティアラの手を掴んだ。棒立ちになっていた彼女を彼は無理やり引っ張って走り出した。

 

「人が、人が・・・・・・」

「大丈夫だ。俺が、それに巧も傍にいる。いてやる!」

「ファングさん・・・・・・」

 

 ファングが優しく微笑む。彼自身胸の中をどうしようもない不安が掻き立てていた。だがそれでもファングは微笑んだ。今まで見たこともないティアラが怯える姿に、心が繋がったパートナーのアリンが感じている恐怖を前に勇気を奮い立たせた。ファングはティアラの顔を見つめる。彼女はまだ震えたままだ。だが力がなかったはずのティアラの手がファングの手を────ギュッと掴んだ。

 

 

「なんだよ、あれは!?」

 

 モンスターを振り切った巧が半狂乱で叫んだ。今まで人が怪物になる光景は何度も見てきた。自分自身が怪物になることもあった。・・・・・・嫌になるほど。だがあれは彼の知る怪物、オルフェノクではない。オルフェノクには一応の理性があった。それは巧やその仲間が証明している。しかし、あのモンスターには理性など感じられなかった。本当の意味で異形になった人間を前に流石の彼も声を荒げた。

 

「・・・・・・落ち着けよ」

 

 顔から一切の表情が消えたファングが言った。普段はお気楽な彼も流石に憔悴の色を隠せない。精神的に追い込まれると巧は怒り、ファングは冷静になる。非現実的な現状に二人の本来の精神性がさらけ出された。

 

『ファング、助けてくれてありがとう』

「礼なんていらねえ。アリン、まだそこにいろ。そこは絶対に安全だ。なんせ俺様の手の中にお前はいるんだからな」

『うん。・・・・・・なんだか今日のあんたちょっとかっこいいわよ』

 

 俺は元からかっこいいだろ、といつもならそう言っているはずのファングだが今はただ静かにあのモンスターについて考えていた。人が異形になったのはサソリ。サソリそっくりの怪物。

 

「ティアラ、ブレイズ。あれはグナーダ、だよな」

「はい。生物に寄生して自らの亜種を作る生態はグナーダに間違いないでしょう。ですが・・・・・・」

『人間を亜種に出来る力などない、だろう』

「ああ。あんなデケエのは見たこともねえ」

 

 グナーダ────寄生生物。寄生した宿主の身体を栄養とし、やがて成体になるとその身体を乗っ取るモンスター。本来ならネズミなどの小さな生き物に寄生するそのグナーダがどういう訳か人間に寄生して、しかも大量にその数を増やしている。考えられる原因は一つしかない。

 

「フューリーですわ。フューリーに間違いありませんわ!」

「だろうな」

『噂は本当だった訳ね』

「なら俺たちがやるべきことは一つだ。フューリーを手に入れちまえばあのモンスターたちがこれ以上増えることもないはずだ」

 

 ファングがそう言うと巧とティアラも頷いた。

 

「フューリーは祭壇にあるはずです。探しましょう」

「ああ。・・・・・・で、ティアラ。お前はいつまでファングと手を繋いでるんだ」

「あ・・・・・・これはそ、その違いますから。私を愛してやまないファングさんが私の手を離してくれないんです!」

「愛してねえよ。お前が離さなかったんだろ」

 

 ティアラはファングと繋いだままだった手を一瞬躊躇った後振りほどいた。彼が突っ込むと巧も頷く。少しだけ、いつもの空気が戻った気がした。

 

『名残惜しそうね?』

「き、気のせいですわ」

 

 別にやましい想いなどない。単なる吊り橋効果というヤツだ。緊迫した状況で勘違いしただけでしかない。熱くなった頭を冷ますようにティアラは首を振った。

 

「今回ばかりはモンスターと絶対に戦いたくねえな」

「ええ。グナーダに寄生された時点で手遅れとはいえヤツらを倒すということは・・・・・・」

 

 そこから先は言いたくなかった。人だったモンスターを殺す。それはつまり人を殺すのと変わらない。自分の身体が傷ついてでも誰かを救う師に憧れるファングと世界平和を願う心根の優しいティアラがグナーダと戦うのは出来れば避けたいことである。

 

「・・・・・・」

 

 巧も戦いたくないという気持ちだ。だがもしも戦いを避けられなくなったらその時は・・・・・・。

 

「そういえば今朝お前が言っていた緑色の生き物ってなんだよ」

「ああ、あの女曰く盗賊とかそういう悪い奴らを倒して改心させる不思議な生き物らしいぞ」

 

 生き物が盗賊を倒して改心させるってどういうことだ。どんな見た目なのか巧は気になった。

 

「俺も緑色の生き物について聞いたことがあってな。戦争や紛争がある場所に現れて傷ついた人たちを助けてくれる不思議な緑色の生き物がいるって話だ」

「ずいぶんと規模が大きな話になりましたわね。それにしてもその緑色の生き物はとてもお優しいんですね。いつか会ってみたいものです」

「・・・・・・まあ、な」

 

 ファングは微妙な返事をした。

 

『確かにそんな不思議な話が共通の話題になったら盛り上がりそうね』

『実際意気投合していたからな』

 

 しかし、金髪の美女が緑色の生き物について笑顔で語るのはなかなかシュールな光景だ。緑色の生き物はもしかしてマスコット的存在なのだろうか。それなら女性が興味を持つのもおかしくはない。逆にファングが緑色の生き物に興味を持つのがおかしくなるのだけど。

 

「その女ってなんて名前なんていうんだ?」

「なんだっけ。そうそう『マリアノ』っていう名前だ!」

「マリ・・・・・・アノ」 

 

 また引っかかる名前が出てきた。それも花形よりも強く。全体ではなくマリという部分が気になる。巧にとってそのマリという人物はどんな存在だったのだろう。家族か、親友か、恋人か。少なくとも絶対に恋人でないことだけは彼の直感が告げていた。恋人と想像するだけでもイライラする。逆に親友と考えると自然と笑みが零れる。

 

「マリアノさんのお誘いを何故断ったんですか、ドルファなら悪くはない条件だったのでしょう?」

「俺は俺がやりたいことしかやらねえよ」

 

 ファングは縛られるのが嫌いな男だ。だから大企業とはいえ会社勤めなんて絶対にやりたくない。社長というポストを用意して初めてやる気を見せるかもしれないくらいには彼は労働が嫌いだ。

 

『ファングってほんとに自由人ね。せっかく定職に就けるチャンスだったのに』

『え~、はたらかなくていいよ~。だってファングがはたらいてなかったらずっといっしょにあそんでくれるんだもん』

「毎日が夏休みってヤツだな」

 

 旅人じゃなかったら本当にファングはただのニートだと、巧たちは笑う。

 

(私と一緒にこうして冒険するのも嫌ではないということですね)

 

 ティアラはファングが自分といるのが嫌ではないと知り安心していた。 

 

 

『あった! フューリーよ!』

 

 グナーダをやりすごしつつ散策を続けているとファングたちはとても長い階段を見つけた。その先には祭壇に突き刺さったフューリーがある。彼らが階段に足を踏み入れた瞬間、それは目覚めた。

 

「グオオオオオオオオ!」

「きゃ・・・・・・きゃあ! 何なんですか!?」

 

 獣の叫び声がキダナル地域全域に響き渡った。ファングたちの後ろから軍隊の行進のような大きな音が聞こえた。彼らはゆっくりと振り返る。・・・・・・数え切れないほどのグナーダがいた。

 

「こ、こんなにたくさんのグナーダが・・・・・・!?」

「みんな、喰らった、ってのか?」

 

 ファングはグナーダを前に冷や汗を流した。この街が荒廃した理由、それはフューリーによって力を得たグナーダが人に寄生して、人を喰らい、そして自分たちの巣にしたのだ。

 

「くそ、やるしかねえのか!?」

 

 ファングは剣を構える。多勢に無勢。流石の彼でも相手が悪い。

 

「・・・・・・いけ、ファング」

 

 巧はファングたちの前に立った。この数を自分一人だけで足止めするつもりだ。

 

「た、巧!?」

「無茶です!」

『やめなさいよ。それにグナーダは・・・・・・!』

 

 巧は行け!と更に強く叫んだ。しぶしぶファングたちは階段を登っていく。

 

「・・・・・・巧」

「なんだよ」

「後悔、しないんだな?」

 

 巧は無言で頷く。ならいい、とファングは駆け出す。

 

「急ぎましょう、ファングさん」

「ああ、親玉のグナーダ・クイーンさえ倒せばあいつらも統率力を失うはず。それまで待っててくれ、巧!」

「ああ、任せとけ」

 

 巧はグナーダの大群を睨みつける。背中に嫌な汗が流れる。今回はフィルンバクトリテスやオルフェノクとは訳が違う。人間だったはずのグナーダだ。人であろうとするために、人を守るために彼は戦っている。そんな巧が罪のない人々だったヤツラを倒すのが正しいのか。だが彼とてこのままファングたちを見捨てる気はなかった。

 

「・・・・・・悪いな。罪を背負う覚悟はとっくに出来てるんだ」

 

 巧は555フォンを構えた。

 

────555

 

────standing by

 

「変身!」

 

────complete

 

 紅鉄不変の鎧が彼の身体を包み込む。巧は555へと変身を遂げた。彼が変身したのと同時にグナーダは巧を本能的に敵と解釈したのか襲いかかって来る。

 

「フン!」

 

 相手が軍隊であろうと巧、555が負けることはない。555が拳を振れば目の前にいたグナーダが複数の仲間を巻き込んで吹き飛ばした。555がその足から鋭い回し蹴りを放てば纏めてグナーダが崩れ落ちる。555はファイズフォンから弾丸を発射した。紅き閃光が無数のグナーダを貫く。一騎当千。今の555を表すのは正にそれだ。囚われた記憶の中で、それぞれのもう一つの歴史が輝くフィルムの中で、消滅の危機を迎えた歴史の中で向かい来る怪人の大軍からも555はその力を遺憾なく発揮した。この程度の相手に苦戦したりしない。だが変身している巧は違う。拳を振る度に身体が鉛のように重くなっていく。

 

「アアアアアアァッ!」

 

 555の中にいる巧が、ウルフオルフェノクが吠えた。無愛想で猫舌で心優しき怪物の嘆き。そして苦しみ。人の夢を、人の幸福を守るためにこの拳はあるのだ。人を傷つけるためにあるのではない。キダナル地域は閑静な住宅街だと聞いた。なら今倒したグナーダは、今殴ろうとするグナーダの中には幼き子供も・・・・・・。それ以上考えるな! 巧は首を振る。このままでは気が触れてしまいそうだった。

 

────巧さんは巧さんだから、大丈夫です

 

 それでも巧は迷わない。これ以上誰かが傷つくくらいなら、誰かが涙を流すくらいならそんな思いは自分だけがすれば良い。そんな思いにさせる者たちを倒す。それが人であったモノだとしても。

 

「戦うことが罪なら、俺が背負ってやる!」

 

────ready

 

 巧は叫んだ。この戦いにケリをつける。555はその拳にカメラ型ツール『ファイズショット』を装着する。必殺の一撃を放つつもりだ。

 

────exceed charge

 

 555は手首をスナップするとその手にフォトンブラッドのエネルギーが充填されるのを待つ。

 

「ヤァァァァァァ!」

 

 紅く輝く555の拳がグナーダの大軍を纏めて打ち砕いた。グランインパクト────555の必殺技。ゼロ距離でフォトンブラッドを流し込む強力な攻撃。苦しめないで殺す。巧が今彼らに出来る唯一の気遣いだった。グナーダたちの身体にφの文字が浮かび上がる。

 

『ア、アリガト、ウ』

 

 燃え上がるグナーダの一人から声が聞こえた気がした。

 

「・・・・・・」

 

 巧は変身を解除した。

 

「礼なんて言うなよ、ごめんな・・・・・・」

 

 

『これがグナーダ・クイーンだと?』

「デケエ」

『それに気持ち悪い見た目』

 

 ファングはグナーダのボス、クイーンを前に剣を構える。突然変異のグナーダの中でもボスのクイーンは更に特別だったらしく五メートル近い大きさの怪物となっていた。サソリのようなグナーダと違いクイーンは蜂と蟻が合わさったようなモンスターだ。虫が嫌いな人間は卒倒するかもしれない。

 

「い、行きますよ」

「いや、ティアラ。お前は下がってろ」

 

 薙刀を構えたティアラをファングが制す。

 

「ですが・・・・・・」

「お前、斬れるか? あれも人だったかもしれねえのに」

「そ、それは」

「・・・・・・俺に任せとけ」

 

 ファングは子どもっぽい一面が目立つが少なくとも自分自身が大人という自覚も責任もある。だがティアラは大人びていてもまだまだ成人すらしていない子ども。どれだけダメな大人と言われている彼でも子どもの彼女に罪を背負わせるなんてことをさせるつもりはない。それは巧にしても同じだった。本来ならあの場面はファングが戦わなければいけなかったのだ。だが覚悟を決めている彼を止めることが出来る権利はファングにはない。

 

「かかって来いよ親玉さんよ!」

『あたしたちの恐ろしさ見せてやるわ!』

 

 ファングはクイーンの鋭利な爪をかいくぐり勇猛果敢に斬りかかった。虫の甲殻は固い彼の刃は弾かれる。ならば皮膚がむき出しになった腹を狙う。剣先がクイーンの腹を掠めた。浅い切り口から緑色の体液が漏れ出す。続けざまにファングはフューリーをナックルモードに変形させる。岩のように固められた拳が深々とクイーンの腹に突き刺さった。クイーンはギシギシと小さな悲鳴をあげてその場でのた打ち回る。ファングは巻き込まれてはたまらないとバックステップで回避した。

 

『いけるよ。このまま押し切ろう!』

『ファング、フェアライズだよ~。はやくやっつけちゃおう!』

「ああ。『フェアライズ!』」

 

 ファングの身体を灼熱深紅の鎧が包み込む。彼の身体から底知れないエネルギーが溢れ出る。巧の555にも匹敵するフューリーフォームへとファングは変貌を遂げた。先ほどまで避けなければならなかった爪を彼は片手で受け止める。クイーンの固い顔面へとアッパーカットを叩き込む。その一撃で顔にヒビが入った。仰け反ったクイーンに炎を纏った蹴りを叩きつける。クイーンは崩れ落ちた。

 

「トドメだ!」

 

 灼熱の炎が燃え上がる剣を構え、ファングは飛びかかる。

 

『ァァ、タ、スケ、テ』

「っ!?」

 

 しかし、その必殺剣が振り下ろされることはなかった。クイーンからポツリと漏れ出した声に阻まれたのだ。誰かを救いたいと願うファングにとってその言葉は呪いだ。倒すべき敵から救うべき対象へとクイーンが切り替わる。

 

「クソ!」

『なにやってるの、ファング!?』

「ファングさん・・・・・・まさか!?」

 

 隙だらけのクイーンにトドメを刺さないファングにアリンが焦りの声を上げる。戦いが長期化すれば不利なのは彼らだ。にもかかわらずファングはその剣を振り下ろそうとしない。すれ違う彼とアリンの融合係数が下がりフェアライズが強制的に解除された。好機と悟ったのかクイーンが突進する。ファングはただ身構えるしか出来ない。

 

『グォォオオオ!』

「もう、バカ!」

 

 このままではクイーンの突進がファングに直撃する。アリンはフェアリンクを解除して彼の身体を抱えて転がる。ファングはハッとした。

 

「すまねえ、アリン・・・・・・!」

「しっかりしてよ、ファング。あたしのパートナーでしょ?」

 

 そうだ。躊躇っている暇はない。一度戦えば生きるか死ぬかの世界なのだ。時には自分の信念を曲げてでも守らなければならない人たちがいるのだ。飛びかかるクイーンからアリンを庇うようにファングは抱き寄せると彼はブレイズの剣を抜剣した。

 

────その時。

 

 白い閃光がクイーンの巨体を一撃で両断した。ファングは目を見張った。

 

「お前は・・・・・・!」

「奇遇ですね、こんなところでお会いするなんて」

 

 その白い閃光はあの立食パーティーでピアノを演奏していた男────シャルマン。貴公子然としたその姿は世の女性を魅了する魅力を放っていた。

 

「お前フェンサーだったのか。ピアニストかと思ったぜ」

「ボクの方こそ、君をウェイターだと思ってましたよ」

「剣を持つウェイターがいるか」

「剣を持つピアニストもいませんよ」

 

 ファングはフンと鼻を鳴らした。どうにもこの男はいけ好かない。

 

「あのクイーンを一撃で。ピアノだけではなくフェンサーとしても超一流なのですね」

 

 ティアラとアリンは美形のシャルマンに目を輝かせていた。

 

「は、俺の手柄を横取りしただけだろ。・・・・・・ま、俺はあのクイーンだけはぜってえ一撃で倒したり出来ねえからそこは尊敬してやるよ」

「どういうことですか?」

 

 首を傾げるシャルマンにファングはグナーダたちの正体を言おうとしたがその口をティアラは封じた。

 

「シャルマン様もフューリーを集めていらっしゃるんですか」

「ええ・・・・・・ですが今回本当に活躍されたのはあなた方です。このフューリーは差し上げます」

 

 シャルマンは祭壇のフューリーをどうぞ、と指差した。ファングは眉を歪めながらそのフューリーを引き抜いた。

 

「よろしければフューリーを集める理由をお聞かせ願えませんか?」

「ボクには夢があります。その夢を叶えるのにフューリーが必要なんです」

「夢・・・・・・」

 

 ティアラが呟く。やはりフェンサーなら願いを叶えるためにフューリーを集めるのだ。シャルマンもその一人なのだろう。願いを叶える気がないのはファングかエフォールくらいだ。

 

「ねえねえ、その夢ってなんなの?」

「ボクの夢。それはただ一つ・・・・・・世界の平和だ。そのために女神の封印を解き悪を排除しなければならないんです」

「一緒です。私と同じ目的ですわ!」

 

 同じなものか。ファングが内心で否定した。ティアラの願いが涙を流す者の救済ならばシャルマンの願いは涙を流させる者全ての根絶。それは同じようでまるで違う。例えばティアラなら悪に手を染めざる負えなかったエフォールを救いたいと思うだろう。だがシャルマンの場合は事情があれで悪であるエフォールは根絶しなければならない対象の一人でしかない。彼女自身が同じと言っているから水を差したりはしない。しかし、もしもシャルマンがティアラと同じ夢を持っていると言ったのならファングは彼を心の底から嫌っていたと思う。

 

「貴女と同じ目的なんてボクも嬉しいです。共に夢が叶えられる日が来れば良いですね」

「はい・・・・・・」

 

 シャルマンはそう言って去っていった。

 

「なんて紳士的な方なんでしょう・・・・・・。シャルマン様とパーティーを組めたら良かったのに」

「なに!?」

 

 ティアラの一言にファングは大きく動揺した。

 

「強くて、カッコよくて、ファングがあんな風なら良かったのに」

「おい、お前まで!?」

 

 アリンにも裏切られファングはショックを受ける。

 

「失敗しましたわ・・・・・・」

「・・・・・・ああ、そうかよ! 俺もてめえみたいなクソブス女と組むくらいならマリアノと組めば良かったぜ!」

 

 ファングが苛立ちを隠さず叫んだ。

 

「な、なんですってー! この私をクソブス女・・・・・・クソブス女だなんて♪」

「喜んでんじゃねーよ、バカ!」

「ば、バカ? お馬鹿さんはファングさんでしょう。私よりもあの女の方が良いだなんて!?」

 

 ファングとティアラは睨み合う。

 

「うっせ! バカ」

「お馬鹿さんはファングさんですわ!」

『バカバカバカバカバカ』

 

 アリンは二人の低レベルな争いにため息を吐いた。

 

「こっちも終わった・・・・・・お前らなにやってんだよ」

 

 巧が戻ってきても二人はまだ互いを貶しあっていた。

 

『ふたりともやめてよ~。ばかみたいだよ!』

『いい加減にしろ』

「バカって言う方がバカなんだぞ」

 

 この低次元な争いは巧の低次元な言葉によって終わった。

 

◇ 

 

「ファングさん、夕飯も食べないなんておかしいですわ」

 

 宿に戻ったファング一同は夕食を食べていた。だが普段なら必ず食事になればいるはずのファングがそこにはいない。

 

「お前たちがシャルマンシャルマンってうるせえからじゃねえの?」

 

 事の経緯を聞いた巧がお茶に息を吹きかけながらそう言った。呆れた話だ。いくらファングがお気楽だからっていつもの軽口とは訳が違う。他人と比較されればどんな人間だって怒る。流石にティアラとアリンも反省したようだ。

 

『たぶん、ちがう』

『あいつが一人になりたいのにはそれ相応の理由があるはずだ』

「ま、その内戻ってくるだろ」

 

 結局、この日はいつになってもファングが食堂に来ることはなかった。

 

「ファングさん・・・・・・」

 

 夜中になってもファングは姿を現さない。心配になったティアラは宿を回る。ファングは自分の部屋にもいない。ならどこにいるのだろう。

 

「失礼します」

 

 ノックしてから巧の部屋を開ける。ファング以外の全員が集まっていた。

 

「ティアラ、どうしたの?」

「あ、ブレイズ。ばばひいたー」

「くっ、騙したなキョーコ!」

「ババ抜きは騙すゲームだろ」

 

 巧の部屋でトランプに興じていたアリンがティアラに歩み寄る。

 

「ファングさんを探してるんです」

「ファングならそこにいるわ」

 

 アリンは天井を指差して言った。

 

「屋根裏、ですか?」

「屋根の上で星を見てるのよ」

 

 ファングに星を見る趣味なんてあるのだろうか。意外な一面をティアラは知った。

 

「私、行ってきますわ」

「・・・・・・今日のところは任せるわ」

 

 ティアラが部屋から出て行くとアリンは巧たちの元に戻った。

 

「お前は良いのか?」

「うん。今はファング、一人でいたいって思ってるから」

「へえ、流石はパートナーだな」

 

 アリンはファングが何を思って星を眺めているのか、今どんな気持ちでいるのか全て理解していた。だから今は彼と離れているのが正解なのだ。

 

「だけどお前、本当は行きたいんじゃないか?」

「あたしだけだから。ファングの気持ちが分かるのは」

「・・・・・・知らないのも罪だが知りすぎるのも大概だな」

 

 ティアラもアリンもいずれ後悔する時が来そうだな。ブレイズは天を仰いだ。

 

 

「そんなところで何をしているのですか」

 

 屋根の上にティアラが上がるとぼんやりと空を見上げているファングがいた。彼は彼女に視線を向けああと生返事をするとまた空を見上げた。

 

「先生にさ、悩んだ時は星を見ろって言われたんだ」

「星を、ですか」

「ああ。星はどんな悩みも聞いてくれるから。先生がどこにいても俺とお前が見上げている空は同じだからってガキの頃言われてさ」

 

 ティアラはファングの横に座った。そして空を一緒に見上げる。綺麗な星空だ。自然と笑みがこぼれる。

 

「さみいだろ。これ着ろよ」

 

 寝間着用の水色のネグリジェに着替えていたティアラにファングは自分のハードコートを渡す。まだ春先で夜になれば冷える。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 やけに優しいファングに緊張しながらもティアラはそれを着た。

 

「・・・・・・あの時クイーンがさ。俺に助けてって言ったんだ」

「やはり・・・・・・」

 

 あの状況でファングが攻撃出来ないとするなら理由はそれしかない。脳天気で食いしん坊で口の悪いファングだが本当は優しい心の持ち主だとティアラは知っている。アリンが倒れた時は真っ先に盾になった。エフォールがピアノをお茶で汚した時は代わりに責任を持って謝った。そして何よりティアラの夢を叶える価値があるものだと笑顔で言ってくれた。優しくないと出来ないことだ。

 

「俺、あいつを倒さないといけないのに人間に戻せないかって悩んじまったんだ。お前らもいたのに」

「それは恥じることではありませんよ。誰だって悩むことです」

「ああ。俺もきっとそう思う」

 

 でも誰かがその言葉を言ってしまったらこれから同じようなことが起きた時に自分は躊躇いを持たなくなってしまう気がした。だからファングは一人でここに来た。他の仲間が躊躇ってることを自分まで躊躇ったら傷つくのは他の仲間になるかもしれないから。そう思ったからこの悩みは誰に言うこともなく空に聞いてもらおうと彼は思ったのだ。

 

「心配すんな。もうあんなことは二度としねえ」

「いえ、してください」

「何言ってんだよ?」

 

 危険に晒されるのはティアラ自身かもしれないのに変な奴だ。今日だって怯えていたのに。ファングは首を傾げる。

 

「・・・・・・もし私があのような怪物になってしまったらファングさんは躊躇いませんか」

 

 ティアラはファングの顔を覗き込んだ。顔は、悪くない。それにキレイな目をしている。世間的に見れば彼は十分イケメンといえる顔だ。でも彼女はファングを見つめてもシャルマンやブレイズのように美形を前にした時の胸が高まるといった感覚にはならなかった。彼の顔を見ると心の底から安心して、心の底から温かくなるそんな気持ちになるのだ。だから彼女は胸の中で抱える不安をちょっとだけ吐露する。

 

「躊躇わねえよ」

「っ!? そうで『迷わず助けるに決まってんだろ』・・・・・・す、か?」

 

 今度はティアラが首を傾げた。

 

「俺の中でお前を斬るなんて考えはないんだよ。どんな姿になろうが絶対に見捨てたりしない。それは巧でも、アリンでも、ブレイズたちでもだ」

「ファングさん・・・・・・」

 

 ティアラは顔を伏せた。今自分は笑っているのか、それとも泣いているのか分からなかった。でも彼に自分の顔を見せたくはない。どんな顔をしても笑われる気がする。なんとなくそう思った。

 

「あーあ、なんか腹減っちまった」

「それならこれを・・・・・・」

 

 ファングが腰を起こして腹を擦る。朝から何も食べていなかった。ティアラは膝に乗せていた二つのものを彼に手渡す。

 

「おにぎりじゃねえか、美味そう」

「私が作ったものですからあまり自信はないんですけど」

「いただきまーす」

 

 ファングはおにぎりにがっつく。おにぎりの形は不安定で塩気も強かった。それでも彼は

 

「うめえ!」

 

 と言った。




この物語のファングさんは本編終了時くらいの精神力を持っています。彼の師匠のおかげです。たっくんは本編中盤くらいの精神力です。

フェアリーフェンサーエフ界の木場雅人さんことシャルマンさんの登場で物語やキャラ同士の関係性もどんどん深まっていきます。次回から新キャラの登場もあります。

いつの間にか総合評価が200を越えていました。いつも楽しんで見てくれる皆さんに感謝です。


・・・・・・明日のジュウオウジャーを見なかった人は草加さんの邪魔者になるので皆さん気をつけてください。
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