乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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仮面ライダーシリーズでおなじみの三条陸さんが冒険王ビィトを連載再開しました。とても面白いのでぜひ読んでください。オススメです


彼女たちの異変

(平和だな)

 

 ベランダから心地よい日光を浴びて巧は欠伸をした。キダナス地域の戦いからはや数日。ロロの情報を頼りにフューリーを集める日々が変わらず続いていた。100本にはまだ遠く及ばないがそれなりの数のフューリーが集まると面倒くさがり屋のファングもフューリー集めに意欲的になってくる。そうなってくるとティアラもアリンも機嫌が良くなり、彼らのフューリー探しは正に順調と言えた。

 

(腹減ったな、食堂にでも行くか)

 

 巧は部屋の戸を開け、食堂に向かう。

 

「これうめえ!」

 

 ファングの部屋から賑やかな声が聞こえる。おや、と思い巧はノックもしないで彼の部屋に入った。女性陣の部屋ならともかく彼らは互いの部屋に入る時にノックはしない。暇ならどちらかがどちらかの部屋に遊びに行く。いつの間にか数多くの遊び道具が彼らの部屋には置いてある。この前のトランプも巧が暇つぶし用に買ったものだ。

 

「よお、お前ら何やってるんだ」

 

 部屋を開けると甘い匂いがした。色とりどりのスイーツが並べられたティーセットをいつもの面々と見知らぬ男女が囲んでいた。

 

「お、巧。ほまえもふえよ」

「ほうよほうよ」

 

 ケーキを口の中に詰め込んだファングとアリンが笑顔で言った。

 

「飲み込んでからしゃべれ」

「お行儀が悪いですよ」

 

 ティーカップを持ったブレイズとティアラが彼らを咎める。良いんだよ、気にしないでと見知らぬ女性が言った。

 

「あ、お前! カダカス氷窟の時の女か!?」

「やあ、思い出してくれたかい」

「たっくんたすけて~!」

 

 女性は笑顔で言った。そう巧と彼女は一度邂逅している。彼がカダカス氷窟の情報を集めていた時にあそこには近づくべきではないと警告したのが彼女だ。その彼女がどういう訳かファングの部屋にいた。膝の上にはもみくちゃにされたキョーコがいる。彼女は涙目で巧に手を伸ばした。

 

「君が噂の巧くんで、あってるよね?」

「どの噂かは知らないが乾巧なら俺であってるぞ」

「いやー、君には是非一度会ってみたかったんだ」

 

 女性はキョーコを解放すると巧の前に来た。

 

「さっそくだけど・・・・・・脱いでくれないか?」

 

 巧は555フォンを取り出した。変身するためではない。警察を呼ぶためだ。彼は無言で通報コード110を押した。

 

 

 女性の名はハーラー・ハーレィというらしい。本人曰くしがない妖聖研究家をやっているようだ。拳骨を振り下ろした横の男性のバハスがそう言った。彼らはフェンサーとそのパートナー妖聖という関係にある。

 

「いくらなんでも脱げはねえよ、脱げは」

 

 ガトーショコラを片手に持ったファングが頭を抑えるハーラーに言った。

 

「すまない。キミのベルトがどうしても気になってつい言葉が足らなくなってしまったんだ」

「どうベルトが気になったら脱げになるんだ・・・・・・?」

 

 どう考えても言葉足らずでは片付けられない。巧は首を傾げる。

 

「こいつはそういう変なとこがあるんだ。許してやってくれ」

「今度はブレイズが増えた」

 

 巧はどことなく苦労人っぽい雰囲気のバハスにブレイズの姿を重ねた。これでファングやアリンがボケた時のツッコミを自分がやる必要はなくなったかもしれない。

 

「うめえか、兄ちゃん?」

「ああ、俺甘いもの結構好きだから」

「そりゃ良かった」

 

 バハスの作ったスイーツはとても美味い。所謂ほっぺたが落ちる味というヤツだった。しかも、それぞれ種類が豊富でケーキ以外にムースやタルトもある。巧は目の前に置かれたチョコケーキに頬を緩め口に入れた。

 

「ほおいへばほまえらおれたちにはんのようだ」

「「飲み込んでから喋れ」」

 

 相変わらず口一杯にケーキを押し込んでるファングにバハスとブレイズはため息を吐いた。

 

「そういえばお前らは俺たちになんのようだ、とファングさんは申しました」

「おい、お前それ」

「もちろん果林さんを真似しましたわ」

 

 どや顔のティアラに巧はイラっとした。

 

「いや、最近あちこちでフューリーを集めるイキのいい若手フェンサーたちの噂を聞いてね」

 

 なるほど。ドルファの立食パーティーはそれが理由で招待されたのか。フューリーを二桁単位で持っていれば否が応でも目立つのだから。ティアラは納得した。

 

「それを言うなら私の噂ですわ」

「いいえ、あたしの噂よ。あんたたち二人なんてあたしのサポートがないとまるでダメなんだから」

「どの口でそれを言うんです。私がいなかったらあなたたちはここにいなかったと言っても過言ではないでしょう?」

 

 火花を散らすティアラとアリンに男性陣はため息を吐いた。ちなみに宿を提供しているのはティアラのおかげであるし、ファングはアリンがいなければフェンサーとして戦えないのである意味両方とも言っていることは正しい。

 

「あっはは! キミたちちょい面白いねえ! 珍しい妖聖がいるって聞いて立ち寄ってみたが無駄足ではなかったみたいだ」

 

 ファング一同の賑やかな様子にハーラーは楽しげに笑った。

 

「やはり妖聖研究家だけあって妖聖に興味がおありのようですわね」

「なあ妖聖研究家ってなんだ?」

「知らないんですか? 生物的見地から謎の多い妖聖を研究する方々のことですわ。学術的にもきちんと認められた学者さんもいるんですよ」

 

 妖聖を研究する学者もいるならオルフェノクを研究する学者もいるかもしれない。巧は何が何でも自分の正体がバレないように気をつけようと思った。研究用のモルモットにでもされたらたまったもんじゃない。もしかしたら人間に戻す手段を考えてくれる心の優しい研究者もいるかもしれないがデメリットが多すぎる。それにファングや果林のおかげでこの身体が自分のプライドと思えるようになってきた彼はそこまでしようとは思えなかった。もちろん出来ることなら人に戻れるのに越したことはないが。

 

「キョーコと初めて会った時にぶっ飛ばしたロリコン学者も妖聖研究家ってことか」

「え、何その話。すごい気になるわ」

「いつか話してやるよ」

 

 つくづくファングという男は破天荒な人生を送っているみたいだ。ティアラは引きつった笑みを浮かべる。

 

「はは。とにかく私は妖聖に興味があるんだ。それにしてもキョーコちゃんとアリンちゃんは可愛いねえ」

「今絶対視線で脱がされた・・・・・・」

「あのひとこわいよ、ファング~。たっくん!」

「よしよし、怖かったな」

「もう大丈夫だ」

 

 アリンはハーラーと距離を取り、キョーコはファングと巧に抱きついた。

 

「妖聖ってヤツは面白い生き物でね。パートナーと不思議な関係を築くんだよね。親友だったり、師弟だったり、恋人だったり」

「妖聖と人間のカップル!?」

「種族を越えた愛・・・・・・ああ、なんてロマンチック」

 

 アリンとティアラの視線が巧に向けられた。何が言いたいのかは分かっている。彼は首を振った。

 

「俺と果林はそういうのじゃねえって言ってんだろ」

 

 それに一つ訂正すると巧と果林は人間と妖聖のカップルではなくオルフェノクと妖聖のカップルだ。両者ともに人外でバランスがとれてなくもないが。とにかく越えなければならない壁が大きすぎる。

 

「まあ結局は人それぞれさ。このバハスなんか私の親代わりさ。部屋を片せだの、服を洗濯しろだの、歯を磨けだのうるさくてね」

「お前が何にも出来ないからだ。炊事! 洗濯! 掃除! 毎日やってるオレに感謝しろ!」

「はいはい。感謝してるよ」

 

 バハスは本当にハーラーの親代わりのようだ。それもだらしない息子とおかんという古い関係に近い。

 

「ところでキミたちはなんでフューリーを集めてるんだ」

「女神の封印を解いて世界を平和にするためですわ」

「成り行きだよ」

「俺はこいつの記憶の手がかりを探してるだけだ。ついでにティアラの夢を叶える手伝いもしてやってるけど」

 

 ファングはアリンに視線を向ける。最近は色々とあって忘れかけていたが本来この冒険の目的はアリンと巧の記憶を取り戻すことにある。

 

「記憶ってことはあれかい。アリンちゃんは記憶喪失ってことかい!?」

「そ、そうだけど・・・・・・」

「俺も記憶喪失なんだが」

「なに!? ・・・・・・ってキミは病院に行きなさい」

 

 ハーラーが目を見開いて驚く。

 

「これは珍しい。長年妖聖研究家をやっているが、記憶喪失の妖聖を見るのは初めてだ。おい! ファングくん、私のと取り替えっこしない?」

「は?」

「え・・・・・・?」

 

 興奮した様子のハーラーにファングとアリンは首を傾げた。

 

「無茶言うな、ハーラー! だいたい俺はこんなヤツとパートナーになりたくなんかない!」

「俺だって嫌だね。口うるさいのはブレイズで間に合ってる」

「あたしも遠慮しとく・・・・・・。なんか身体の隅々まで調べられそうだし」

 

 満場一致の拒否にハーラーは残念、と肩を落とした。

 

「あ、そうだ。良い情報があったんだ。あんたたちが欲しがっているフューリーの一本がシュケスーの塔ってところにあるんだ」

「ホントに! 今すぐ行きましょう」

「情報を提供したんだ。私も同行させてもらうよ。じっくり観察しよう」

「え・・・・・・? なんか嫌だ・・・・・・」

 

 何を企んでるかわからないハーラーにアリンは露骨に嫌そうな顔を浮かべた。

 

「おい、ハーラー・・・・・・」

「記憶喪失の妖聖を近くで観察出来るまたとないチャンスだ。研究家としての血が騒ぐんだよ。それに私もフェンサー。仲間にして損はないと思うよ」

 

 一理ある。ティアラは内心でハーラーを利用できると考えた。

 

「まあ頼もしい。よろしくお願い致します」

「よろしくねー」

「まあ、妖聖に詳しいなら記憶探しの役に立ちそうだし」

「俺は別に構わねえよ。そもそも変身しないとまともな戦力になれねえしな。フェンサーが増えるなら助かる」

「色々と迷惑をかけるかもしれないが仲良くしてやってくれ」

 

 ファングとキョーコ以外はハーラーが仲間になることに納得した。

 

「なんか、このおっさん暑苦しそうなんだよな。男だけで集まる時とか地獄絵図だぞ」

「おじさんはいいけどハーラーがいや」

「そう言うなよ。死ぬほど美味いメシを毎日食わしてやる」

「よろしくな、おっさん!」

「またけーきたべたいー!」

 

 二人は目を輝かせてハーラーたちを歓迎した。実に現金なヤツらだ。

 

 

 

「着いたよ、ここがシュケスーの塔だ」

 

 ファングたちはシュケスーの内部に侵入した。シュケスーの塔は五階建ての謎の多い古代遺跡で様々な伝承が残っている。一説によるとフューリーで地脈を刺激するとどんどん塔の階が増えていくという噂がある。

 

「ここにフューリーがあるのか?」

 

 巧は塔の中を興味深げに眺めていた。彼はこういう建築物に少しばかりの興味がある。サンドミージのビルやドルファのビルも実はこっそりと見学しに行ってたりする。

 

「あるよ。このシュケスーの塔は各階ごとに強力なモンスターがいてそいつらを全て倒せば最上階にあるフューリーがゲット出来るって訳さ」

「五重塔かよ」

「今まで何百人ものフェンサーが挑んだけど誰一人攻略出来なかったって話だよ」

 

 それほど強力なモンスターがいるのか。今回のフューリーを手に入れるのは難しそうだ。最悪555に変身しなくてはならない場面も来るかもしれない。巧は気を引き締めた。

 

「何百人ってことはここで待ち伏せしてればフューリーが100本手に入るってことか」

「そんな卑怯な手段は人道に反します!」

「ああ、心配しないで良いよ。ちょっと盛ったから」

『この女・・・・・・』

 

 盛ったのかよ、とファングが珍しくツッコんだ。

 

「ファングさん、そろそろあなたが活躍してくださることを期待してますよ」

「へいへい、シャルマンみたいに活躍してやるよ」

「シャルマン様とファングさんは別ですよ。みたいではなく以上を目指してください」

 

 ティアラはファングを高く評価している。シャルマンは確かに凄腕のフェンサーだが本気を出した彼はそれよりも上かもしれない、と彼女は思っていた。

 

「・・・・・・やってみるか!」

 

 ファングはニヤリと笑った。

 

「それにしてもここ暑くない?」

 

 ハーラーは額から汗を滲ませて言った。パタパタと手を団扇のようにして風を身体に送る。あまり効果はない。

 

「確かにちょっと暑い気がする」

「多少は、くらいですけど」

 

 言われてみると急に暑くなってきた。巧はコートを脱ぎ半袖のTシャツ一枚の姿になる。

 

「私も・・・・・・どっこらしょ」

 

 はてハーラーは元々薄着だったはずだが。ティアラと巧が振り向く。

 

「きゃあああ!? ハーラーさん、何をしているのですか!?」

「なんだ、この女・・・・・・?」

 

 なんとハーラーは自分のTシャツのボタンを大胆に開け、ズボンを下ろしていた。黒髪美人の彼女の豊満な肢体が堂々とさらけ出される。ティアラは口元を両手で抑え、巧は目を伏せた。二人とも彼女の奇行に困惑する。

 

「あん? どうした、おめえら」

「あんたは見ちゃダメー!」

「前が見えねえよ!」

『みなくていいの~!』

 

 ファングも振り向くがアリンが慌ててその目を塞ぐ。彼の価値観に格差社会を誕生させることだけは防がなくてはならない、と彼女は思っていた。

 

「こら、早く着ろ!」

「んっしょ。・・・・・・ほらこれで良いでしょ」

 

 バハスに促され、ハーラーはしぶしぶ服を着た。

 

「どうしてお前は所構わず服を脱ぐんだ!?」

「あー、ごめんごめん。わかったから青筋立てないでよ」

「まったくお前って奴は・・・・・・!」

 

 バハスはため息を吐いた。

 

「ハーラーって美人だけど残念なのね」

「ちょっぴり先が思いやられますわ」

「ちょっぴりで済むと良いんだがな」

 

 巧たちはこのあとの戦いに早くも不安になってきた。

 

『・・・・・・西瓜、か』

「ブレイズ、あんた今なんか言った?」

『いや、なんでもない』

 

 

 シュケスーの塔、最初の敵は巨大な機械だった。オートバジンの十倍はあるかもしれない。ヤツがファングたちを認識すると襲いかかってきた。

 

「来るわよ、ファング!」

「へん! 返り討ちにしてやる」

 

 ファングは剣を構えると機械に走り出した。

 

「私たちも行きますわよ、キュイ」

「キュイキュイ」

 

 ティアラも後に続く。

 

「俺たちは援護だ」

「ぬかるなよ、二人とも・・・・・・!」

「任せときな」

 

 ハーラーと巧は遠距離から銃を構える。人数が増えると自然と戦いやすくなる。

 

「ダァァァァァ!」

 

 ファングの拳が機械のモンスターを叩き潰した。ティアラと彼の抜群のコンビネーション、巧たちの援護があればこの程度の相手、造作もない。

 

「よっしゃー! まずは一体目」

「こんなデカいだけのオンボロより俺のバイクのが強いな」

『ばじんちゃんはおりこうだもんね』

『ヤツの名はバジンというのか、知らなかった』

 

 幸先良く敵を倒し彼らは上機嫌だ。

 

「このメンツならいけそうだな」

「油断するな、ファング。シュケスーの塔は甘くないぞ」

「上に行けば行くほど敵は強くなる。常識だろ?」

 

 どんな常識だ。巧はツッコむ。強い順に守らせた方が効率が良いのだろうけど常識とは一体なんなのだろうか。

 

「やっぱりそう上手くはいかねえか」

「さあ次の階に行きますよ」

「いちいち面倒くせえ」

 

 何故こういう場所の敵は一斉に襲ってこないのだろう。防衛システムなら戦力は分散させない方が良いと思うのだが。巧は長い階段をまた登ると思うとうんざりした。

 

「これが二階の敵。・・・・・・つ!? なんですの、この感覚!?」

「キューイ」

 

 ティアラは自分の胸を押さえる。ちくりとした痛みが走る。胸の中を何かぞわりとしたものが蠢く感覚を覚えた。思わず冷や汗を流す。

 

「いけません・・・・・・戦いに集中しなくては!」

 

 翼を生やした二体の騎士を前にティアラは薙刀を構えた。

 

「セイヤー!」

 

 ファングが変形させた大剣から放たれた放射状の炎が纏めて騎士を飲み込んだ。ティアラの不調もあり、少し手間取ったが苦戦自体はしなかった。

 

「なんとか・・・・・・倒しましたか。それにしてもあの感覚は、まさか・・・・・・」

「ティアラ、どうした?」

「い、いえ。なんでもありませんわ」

「なら、良いけどよ。次の階に行くぞ」

 

 ティアラは巧と談笑しているファングの背中を見つめる。戦闘の疲れなんてまったくないように見える。自分と大違いだ。彼なら一人でもこの塔を攻略出来るかもしれない。いっそ自分をおぶってくれたら良いのに、と彼女は思った。

 

「・・・・・・またです」

 

 身体の中の違和感は収まるばかりか増える一方だ。ティアラの呼吸はだんだんと不規則に乱れ始める。額から流れる汗を拭う。今にも目眩がしそうだ。

 

「・・・・・・おい、ファング。俺が前に出るからティアラを下がらせろ」

 

 巧はティアラの異変に気づきそう言った。

 

「な、なにを言ってるんですの?」

「・・・・・・ああ。別に構わねえ。つーか、下がれ。お前は休んでろ」

 

 ファングもまたティアラの異変に気づいていた。二人パーティーならともかく今はハーラーもいる。彼女に無理をさせる意味はない。

 

「強がんなよ。俺やファングが気づかないとでも思ってたのか?」

「そ、それは。・・・・・・不本意ですが私ここのモンスターは生理的に受けつけないようなのでお言葉に甘えます」

「たく、しゃーねえな。そういうことにしといてやるよ」

 

 こういう時に頼りになる人たちだ、ティアラはゆっくりと深呼吸して笑顔を浮かべた。

 

(お、これはベルトの力を見れるチャンスかな?)

「・・・・・・なんか飽きちゃった。ファングくん後は任せた」

 

 ハーラーも戦線を離脱する。これにはファングもはあ!?っと困惑した。流石の彼も一人で戦うのは厳しい。なら巧が変身しなければならないはず。ハーラーはそう思った。だが一つ予想外の事態が起きる。

 

「・・・・・・ま、頑張れ。ファン『グォォ!』」

「ば、バハス」

「の、飲み込まれた!?」

 

 ハーラーのパートナーであるバハスがモンスターの大きな口に丸飲みにされたことだ。

 

「ふ、ファング。助けないと!」

「さっさと出してくれー! とびきりうめえメシ食わしてやるからー!!」

『巧、お前もいけるか?』

「いや、俺の武器だと中のバハスまで灰に・・・・・・大変なことになっちまう!」

「言い直さんで良い!」

 

 結局、ファングが一人で戦うことになってしまう。巨大な鳥人を前に彼は不敵な笑みを浮かべる。

 

「久しぶりに本気出すか!」

 

 ファングは鳥人に斬りかかる。なんと彼は一撃で鳥人を真っ二つに切り裂く。巧には何をしたのか分からなかった。ただファングがヤツの身体を通り過ぎたと思ったらその鳥人が真っ二つになった、そういう風にしか見えない。目にも止まらぬ早業。これが彼の本気か。

 

「ふう、助かった。今日の晩飯はとびきり美味いのを期待しとけ!」

「肉だ、肉が良い!」

「これで三体目か。あと少しだ」

『油断は禁物だ』

 

 ファングたちはシュケスーの塔を早くも3つ制覇した。数多くのフェンサーが挑んで、そして諦めたこのシュケスーの塔をなんなく制覇していくのは彼らの実力があることの何よりの証明だった。

 

「凄いわ。ファング、あんたにこんな力があったなんて!」

『ファングかっこいい!』

「まだまだ俺様の本気はこんなもんじゃない。今ならシャルマンどころかあのアポローネスすら越えられる気がするぜ!」

 

 実際、ファングが本気を出すのは久しぶりだ。最後に本気を出したのはアポローネスの戦い以来。あの時に感じた大きな差が今なら互角くらいになったかもしれない。それほどにファングは強くなった。

 

「私の見立て通りです。やれば出来るじゃないですか」

「ファングくん、やるねえ。噂は本当だったかな」

「噂・・・・・・?」

「彼は変わり者のフェンサーだよ」

 

 この場合のフェンサーは剣士という意味だ。ファングは集めるのが面倒でフューリーを集めてこなかった。それはフェンサーにとっては有り得ないことだ。ファングのフューリーを手に入れようと襲ってきたフェンサーがそれを証明している。彼らをことごとく返り討ちにし、しかもフューリーをとらないことから無欲で凄腕の変わり者の剣士(フェンサー)がいるという噂がいつの間にか広まっていた。実際は強欲な男だが。とにかくフェンサーじゃなかった頃のファングはそれなりに有名という訳だ。

 

「よっしゃ! 次だ」

 

 次の相手は三体の宇宙人のようなモンスターだった。

 

「珍しいね。ぜひ解剖してみたい」

「やめてください。気味が悪いですわ」

「あれ食えると思うか?」

「さあな。少なくともオレは調理したくない」

 

 もはや巧たちはただのギャラリーだ。手伝う気など微塵も感じられない。

 

「お前ら手伝え」

『もうこうなったらあたしたちだけでやりましょう、ファング!』

「おう! 『フェアライズ』!」

 

 ファングの身体を灼熱深紅の鎧が包み込む。今日はとことん本気だ。負ける気がしない。彼は拳を握りしめる。

 

「セイハァァァ!」

 

 ファングは地面に剣を突き立てた。燃え上がる爆炎が火柱になり宇宙人のようなモンスターを跡形もなく焼き尽くす。

 

「新しい技だな」

「思いつきだけど意外と上手くいったな。よし、次で最後だ!」

「あたしたちなら楽勝よ!」

 

 意気揚々とファングたちは階段を駆け上がった。

 

「コイツで最後だ」

「強そう、だな」

「そりゃね。この系統でも最強クラスのモンスターだから気をつけなよ」

『油断するなよ、本気になるとすぐ調子に乗るのがお前の悪い癖だ』

 

 ファングは巨大な魔人を前に剣を構えた。

 

「負ける気がしねえんだけど!」

「そうよそうよ。切り刻んでやるわ!」

「完全に調子に乗ってやがる」

「単純バカですわね・・・・・・でも」

 

 ティアラはファングが勝つ姿しか想像出来なかった。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 

 勇猛果敢。ファングは魔人に斬りかかる。固い。刃が通らない。強い。彼は剣を強く握った。ジャージーデビルを巨大化したような魔人は本来の姿ではなかった。骸骨のような姿になっている。これは魔人の遺体。遺体ですら最強クラスの力を秘めているのだから生前の魔人はとんでもない強さだったのだろう。ファングは単純に斬りつけるのを止め、背中にのしかかる。勢いよく剣を魔人の背中に突き立てた。手応えあり。深々と背中に沈みこむ。

 

「グオオオオオ!」

「うわっ!」

 

 魔人は激しい痛みにのた打ち回った。暴れまわる魔人にファングは吹き飛ばされた。彼はなんとか着地したがファングとのフェアリンクが解除されたアリンは頭を打ち付ける。

 

「あたた!」

「大丈夫か、アリン!?」

「う、うん」

「よし! 『フェアライズ!』」

 

 ファングは再び灼熱深紅の鎧を纏った。

 

「悪いがやらせてもらう!」

『ひっさっーつ!』

「ウェェェェイ!」

 

 ファングは燃え上がる剣をガムシャラに振り回す。ただ目の前の敵を倒す。それ以外の意志はそこにない。彼は魔人を殴りつけた。仰け反った魔人に追撃の回し蹴りを叩き込む。ファングが拳を握り締めると激しい爆発が巻き起こる。バーニングストライク。ファングとアリンの必殺技だ。

 

「やったな、ファング」

「へ、俺にかかればこのくらい余裕だ!」

 

 ファングと巧はハイタッチした。

 

「シュケスーの塔のフューリー取ったわよ!」

 

 アリンが満面の笑みでフューリーを両手に持つ。ファングは機嫌が良いのか高笑いした。

 

「流石はこのあたしのパートナーね。合格点よ」

「やれば出来るじゃないですか」

「食い意地張ってるのが玉に瑕だな」

「面白い子だ」

 

 ティアラたちはファングを賞賛する。

 

「お前ら俺を讃えろ! 崇めろ! 神と呼べ!」

「「は?」」

「女神なんか必要ねえ! このファング様が新たな神になったのだー!」

 

 ファングはよほど機嫌が良いのかとんでもないことを言った。途端に皆の目つきが呆れたものになる。

 

「邪神だってぶっ飛ばしてやるぜ、はっはっは!」

「・・・・・・!」

 

 高笑いしたファングの一言にティアラは目の色を変えた。

 

「調子に乗るな!」

「あたっ! 何する、巧!?」

『お前は神の器ではない』

『それにじゆうがなくなっちゃうよ』

「・・・・・・それもそうだな」

 

 巧に頭を叩かれ、ファングは正気に戻る。冷静になった彼は帰るか、と言った。彼に呆れながらも彼らは踵を返す。

 

「ちょっと待って、ファング。・・・・・・聞いてほしいことがあるの」

 

 

「なんのようだ、アリン? 皆行っちまったぞ」

「あんたたち以外に聞かれたくなかったから良いの」

 

 誰もいなくなったシュケスーの塔最上階にファングとアリンはいた。珍しく神妙な表情のアリンにいつもと違った雰囲気を感じたファングは真剣な表情で彼女が口を開くのを待つ。

 

「さっきの頭ぶつけたので思い出した。あたし女神様と一緒に戦ってたの」

『・・・・・・それは本当か』

『んえ? わたしたちもたたかったよ』

「ううん。もっと近い本当に傍で戦ってたの」

 

 どういうことなのだろうか。せっかく記憶が少し戻ったというのにアリンの謎は深まるばかりだ。女神の傍で戦うというのと剣として射出されるのには大きく違う。王を守る護衛と王が率いる軍勢。それほどの差があるのだ。そしてアリンはその護衛側の存在だったという。ファングは頭の後ろを掻く。

 

「お前がなんであろうと俺様のパートナーには変わらねえよ」

「うん・・・・・・。そう言ってほしかったの」

 

 アリンはファングに微笑む。彼は彼女の頭を撫でた。アリンは猫のように目を細める。

 

「お前、他に何か思い出したことあるか?」

「一個だけある」

 

 それは良かった。もう少し記憶を取り戻すヒントがほしい。せめて手がかりさえあればアリンの記憶探しにも進展があるかもしれない。彼女は首を傾げながらこう言った。

 

「・・・・・・金色の大きな剣」

 

 

「女神・・・・・・金色の大きな剣・・・・・・」

 

 ファングはベッドの上で考え込んでいた。アリンのこと、彼女の言っていた二つのキーワードが頭から離れない。いつもならとっくに眠りに就いている時間にも関わらず彼は眠れなかった。

 

「先生・・・・・・俺どうすれば良いかな」

 

 窓の外、星空に目を向ける。師もこの空を見上げているだろうか。ファングは少し不安だった。フューリーを集めて記憶を探すだけだと思っていた、にも関わらず話がどんどん大きくなっている。俺の運命は俺が決める、師からその姿勢を学び、それを信条としている彼は何が来ようと自分の道を行くつもりでいる。だが運命はどんどんとファングを翻弄しようと、自分の手から離れようとしている気がした。

 

「なんか腹減っちまったな」

 

 ファングは部屋を出た。巧の部屋にでも行って何かお菓子でももらおう。ついでにこのことを彼に話すのも悪くはない。

 

「あ、ファングさん」

「ティアラ・・・・・・」

 

 部屋から出るとティアラが目の前にいた。こんな夜中になんの用だろう。規則正しい生活を送っている彼女は普段ならとっくに眠っている時間だ。ティアラはその顔に不安の色を浮かべている。彼女は時々そんな顔になる時があった。またか、とファングは思う。うーんと彼は唸る。

 

「お前も巧の部屋、来るか?」

 

 ティアラは無言で頷いた。

 

「お前ら二人揃ってなんの用だよ」

 

 欠伸をかみ殺しながら巧は言った。ちょうど眠ろうとした矢先に二人が来る。起こされてしまった彼は昼間にババスからもらっていた茶菓子をテーブルの上に置いた。

 

「腹減ったんだよ」

「お前はいつもと変わんねえな」

 

 相変わらず食いしん坊な男だ、と巧は笑う。

 

「私は一人でいたくなくて」

「で、寂しくなってファングの部屋に?」

「からかわないでください!」

「お前にだけは言われたくない」

 

 日頃から果林のことでからかってるのはどっちだ、巧はジト目で睨む。ティアラは視線を反らした。

 

「・・・・・・私は時々悩むことがあるんです。自分はここにいて良いのか、ここは私がいていい場所なのか分からなくなるんです。気づいたらどうしようもない孤独感を感じて・・・・・・」

「「情緒不安定か」」

 

 二人同時にツッコむ。

 

「ひ、酷い。私は真剣に悩んでいるのに」

「・・・・・・真剣に悩む必要なんてねえよ」

「え?」

 

 ファングはクッキーをかじりながら言った。その姿に真剣さなど欠片も感じない。何だか悩んでいる自分がバカらしくなる。

 

「俺も自分が本当に自分なのか分からなくなる時があるよ。記憶もねえし、この力は謎だし。でもそんな時は悩んでない奴を見ることにしている」

 

 巧はファングをチラリと見た。

 

「安心しろ、とは言わねえよ。だけどそんな時は安心している奴を見ろ。安心している奴がいると自分も不思議と安心出来るぞ」

「乾さん・・・・・・」

 

 ティアラはファングの顔を見る時に抱く想いの理由が少しだけ分かった気がする。

 

「どうしても不安なら何時でも俺や巧のところに来いよ。この間言ったろ、傍にいてやるって」

「ファングさん・・・・・・」

 

 ティアラは二人の姿がとても頼りがいのあるように見えた気がした。うっすらと彼女は笑みを浮かべる。

 

「カモミールティーを淹れました。お二人とも飲んでください」

「ああ」

「・・・・・・ああ」

 

 ティアラは二人前のお茶を渡して席を立つ。もう胸の中に抱えていた不安が嘘のように気持ちが晴れやかになったから。

 

「どうした、添い寝してやっても良いけど?」

「ご冗談を。私はもう眠らせてもらいます」

「じゃ、おやすみ」

「また明日な」

「お休みなさい」

 

 ティアラはパタリと静かに扉を閉じた。

 

「・・・・・・熱そうだな」

 

 

「ファングさんなら私を・・・・・・」

 

────受け入れて、好きになってくれるかもしれない

 

 ティアラは自分しかいない部屋で一人そう思った。 

 

 




基本的にファングは誰がヒロインと決まっている訳ではありません。なのでティアラ個別イベントもアリン個別イベントを両方やる場合があります。

今回はたっくんの存在感が少し薄かったですがその分次回は少しはっちゃける予定です。基本的にこの物語は巧視点の主人公がファングのフェアリーフェンサーエフなので今後もこういう展開があります。しかしながらちょくちょく挟む予定のオリジナルストーリーでは巧がメインの話しをガッツリやる予定なので安心してください


よい子の皆はジュウオウジャーを見ましたか? 僕は見ました。見なかった人は特別にカイザへ変身する権利を草加さんがくれるそうです。
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