乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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小説仮面ライダーマッハを読み終わりました。とても面白かったです。


狂人VS牙 盗賊VS狼 龍VS龍 

「ちょっとファング、あたしのプリン返しなさいよ!」

「しょーがねーだろ。腹減ってたんだよ」

「どうお腹すいてたら人のプリン食べるのよ!?」

 

 シュケスーの塔攻略から数日。巧が朝食を食べに食堂に向かうと何やら騒がしい声が聞こえる。ドアを開けるとファングとアリンがギャーギャーと言い争っていた。またか、と彼は呆れた目つきになる。

 

「おい、どうしたんだよ。朝っぱらからやかましいな」

「アリンさんのプリンをファングさんが食べてしまったそうです」

「・・・・・・なんだ、それ。小学生か?」

 

 カモミールティーを優雅に口にしているティアラの近くに巧は腰を下ろした。まったくもって低次元な争いだ。二人ともたかがプリン一つであそこまで騒がなくても良いだろうに。まさしく小学生のする喧嘩そのものだ。被害者からすればたまったものではないけど。

 

「ちょっとあんたこれで何回目だと思ってんの!?」

「忘れるくらい? たくさんだ、たくさん」

「その切り返しはちょっと予想外だわ。・・・・・・とにかくあたしのプリン返しなさいよ」

 

 食べ物は恨みは恐ろしいという言葉は偉大だ。ここにその言葉を証明する少女がいるのだから。

 

「こら、お前ら喧嘩してるんじゃない。このオレ特製のプリンを作ってやったぞ」

「わー、美味しそう」

 

 お盆の上に載せられたたくさんのプリンをバハスは持ってきた。先ほどまで怒っていたアリンは怒りなど何処を吹く風だ?と言うくらい穏やかで目を輝かした顔でプリンを手に持つ。

 

「お前さんは食べられた分も含めて特別に二つやるよ」

「え、良いの? ありがとうバハス!」

 

 アリンは二枚の皿に載せられたプリンを満面の笑みで口に入れた。

 

「・・・・・・これ、すっごい美味しい」

 

 口元を抑えてアリンは頬を緩める。えへへ、と見る者の心を癒す満面の笑みを彼女は浮かべた。

 

「へー、そんなに美味いのか。俺も一つもらって良いか?」

「おう。食え食え」

「では私も」

 

 巧とティアラもプリンをもらった。二人ともそれを食すとアリンのようなリアクションになる。あの巧まで満面の笑みを浮かべている。

 

「じゃあ俺も」

「ダメだ」

「はあ、なんで俺だけ!?」

「逆にどうしてお前が疑問を持つのかオレは気になるよ」

 

 元を正せば誰のせいでアリンが不機嫌になったと思っているんだ。寄越せと暴れるファングを抑えてバハスは苦笑した。

 

「大人しく自分の非を認めるなら食わしてやる」

「はい、ごめんなさい!」

「・・・・・・清々しい奴だ、色々と」

 

 平身低頭と頭を下げるファングにバハスはプリンを渡した。食べ物のためなら何でもしそうな男だ、と彼は思う。食う、寝る、遊ぶ以外でファングが自分から何かをするところを見たことがない。

 

「うめえ、これ。めっちゃうめえ!」

「もっとお行儀よく食べてください。・・・・・・そう言えばハーラーさんは?」

「巧のベルトを調べるって言ったきり部屋に籠もってる。たく、あいつ夢中になると寝る間も惜しんで研究するからな。わざわざサポートするオレの身にもなれ」

 

 バハスの目にはうっすらとクマが浮かんでいた。お疲れ様、とファングは言う。

 

「そろそろロロが何か情報を仕入れてないか気になっていたのですが」

「あー、じゃあオレが呼んでくるから待っとけ」

 

 バハスはハーラーを迎えに食堂から彼女の部屋に向かった。

 

「あんなお父さんがほしいわ」

「面倒見が良くて優しそうですものね」

「それにメシも美味い」

「正に理想だな」

 

 四人はバハスが仲間に加わって良かったと思った。

 

「いい加減にパンツをはけー!!」 

 

 バハスの大きな叫び声が食堂にまで届く。四人はびくりと肩を震わせる。

 

「ハーラーみたいな子どもは世話が焼けそうね」

「ちょっと変態でガサツですからね」

「それにところかまわず平気で脱ぐからな」

「正にダメ息子だな」

 

 

「ロロの情報屋に来るのも久しぶりな気がするな」

 

 ファングたちはロロを探す。ゼルウィンズ一大きい広場に彼女はいる。特徴的な緑色のリボンとリュックサックがロロのトレードマークだ。たくさんのフェンサーや通販番組をこよなく愛する人が彼女の商品を求めているので儲かっているらしい。それなら少しくらい常連の俺をマケろよ、とファングは思う。

 

「あ、お兄ちゃん。いらっしゃーい。いつもごひいきにしてくれてありがとー」

 

 ファングが来店するとロロは満面の笑みで彼を迎え入れた。羽振りの良い上客のファングは彼女にとっても来てくれるのが楽しみな客だ。

 

「大好きなお兄ちゃんのために良い情報を仕入れといたよ。このお値段でどう?」

「ほらよ」

 

 ファングはロロに料金を支払った。

 

「チャリーン! まいどありー! んとねえ、ソルオールって村で管理されてるフューリーがあるんだって」

「この間おっさんが奢ってくれたワインがあそこの村のだったな」

「あそこのワイン有名だからね。でも最近荒くれ者のザンクっていうフェンサーが村を乗っ取っちゃったんだ。それでフューリーを自分のものにしたらしいよ」

 

 村を乗っ取るレベルのフェンサーとは恐ろしい。いかに特殊能力者のフェンサーといえど普通ならそれだけの人々を支配するのは不可能なはずなのだから。

 

「ザンク・・・・・・あの野郎」

『よりにもよってあの男か』

『うええ。ザンクきらいー』

 

 ファングはその男の名に心当たりがある。彼はザンクを思い出すと顔を歪めた。あのアポローネスよりもたちが悪いフェンサーだ。強さでは彼のが上ではあるがどちらと戦いたくないかと聞かれればファングは間違いなくザンクと答えるだろう。

 

「その無法者とお知り合いなんですか」

「ああ。なんどか戦り合ったことがある。化け物だよ、アイツは」

「あ~、そんなヤツに先越されたってこと!?」

 

 ファングが恐れる相手にアリンは焦る。

 

「勝てないのか?」

 

 巧は村人のことを考えると見殺しにするという選択肢を選びたくはなかった。罪のない人々が傷つくのはやはり気分が優れない。

 

「関わり合いたくねえんだよ。でもアイツの被害に遭うヤツらのこと考えるとなー」

「頼みます、ファングさん」

「・・・・・・なんか俺ばっかり戦ってね?」

 

 ティアラが最後にまともに戦ったのは何時ごろだろうか。遡るとカダカス氷窟の辺りになるかもしれない。ファングは露骨に嫌そうな顔を浮かべる。

 

「君が化け物と言う相手と私たちのようなか弱い女子を戦わせたりしないよな?」

「ファング、男ならやってみせろ」

「勝手なこと言いやがって。俺が男のプライドをかけて特大ステーキを食いきるって言ったらそんなプライドは捨てろって言った癖に」

「そう思うなら都合の良い時だけそれを持ち出さないでください」

 

 二人の軽口の叩き合いが始まる。しかし、いつもならとっくに諦めるファングがここまで渋るとはザンクという男は本当に厄介な相手なのだろう。

 

「でもそのザンクを倒したらきっと村の人感謝してフューリーをくれるわ」

「もしかしたら勇者とか英雄になれるかもな」

「勇者? 英雄? そんなモノには興味ないね」

 

 誰かのために強くあろうとする者が勇者や英雄なのであってそれらは自分からなろうとしてなれるものではない。なろうとして勇者や英雄になれるのは子どもだけだ。ファングは痛いほどそれを理解していた。

 

「でも勇者なら豪勢な食事をご馳走してくれるかもね」

「な、なにぃ!?」

「もしもらえなくても男らしいファングさんには乾さんが特大ステーキをご馳走して差し上げますわ」

「俺かよ」

「お前ら、この勇者ファング様についてこい」

 

 ファングは目を輝かして言った。

 

「その意気その意気」

「今回は俺も協力してやるよ、勇者様」

「相変わらず単純ですわね。まあ、そこが良いところなんですけど」

「よし、勇者に続けー!」

「おーう!」

 

 意気揚々と彼らは立ち上がった。

 

「ねえねえお兄ちゃんたち、ついでに人型お掃除ロボット買わない?身体を清潔に保たないと自分がお掃除される緊張感があるよ」

「いらん」

「もっと優秀なロボットがいるからな」

「ざーんねん♪」

 

 

「どうした、お前ら? 俺を殺せよ、憎いだろ! ははははは!」

 

 ソルオール村の大きな広場にザンクはいた。身体は血にまみれ、彼は不気味に笑う。周りにはザンクを何とか止めようと立ち上がった村の男たちが地に伏していた。その身体は所々骨が折れてまがり、今すぐにでも病院に連れて行かなければ最悪死ぬ、だろう。

 

「お前らを見てるとイライラするんだ。戦え、俺と戦え。ひゃはははは!」

 

 また一人向かって来た男がいた。ザンクはその男の顔面を殴りつけ、蹴り飛ばし、踏みつけた。男は白目を剥いて失神した。

 

「ああ? もう、終わりかぁ? ガルド、こいつらを治しとけ。俺を一発でも殴れるようになるまでこいつらもこの村も解放しねえからな! ははははは!」

「キャハハ。こいつの腕の形面白ぇ」

 

 ザンクに命令された男は複雑な表情で村の男たちに回復魔法を掛ける。ザンクのパートナー妖聖のデラは目の前の男たちの治りかけの腕で遊んでいた。

 

「あー、つまんねえ。フェンサーでもいりゃ少しでも楽しめんのによー」

「相変わらずだな、ザンク」

「ああっ!? 文句があるなら俺のイライラをてめえが発散するか?」

 

 メガネを掛けた男が大暴れしているザンクを戒める。しかし、彼に睨みつけられると肩をすくめた。

 

「・・・・・・ガルドも苦労しているな」

「これが自分の仕事なんで」

「私も同じだ」

 

 二人はため息を吐いた。

 

「で、パイガ。お前はフューリーを手に入れたオレに褒美でも持ってきたか」

「上からのお達しだ。穏便に事を済ませるようにとのことです」

「するとてめえらはオレにケチをつけようってか?」

「と、とんでもない。私ではなく上の通達です。ですがザンク、あなたはドルファの幹部だということを忘れないで下さい。もし万が一世間にでもバレてしまえば社の信用は何処までも沈んでいくんですよ」

 

 メガネの男────パイガの警告もザンクはどこ吹く風だ。面倒くさそうに欠伸をした。

 

「ゴチャゴチャうるせーよ。・・・・・・そういえばお前、嫁と娘がいたな。ボコボコになった顔で家に帰ったらきっと嬉しくて泣いて喜ぶぜぇ!」

「ちょっとーあんまコイツを虐めないでよー。ただでさえ奥さんにボコボコにされてるんだからさー」

「こら、黙ってろ!」

「ははは! 面白え!」

 

 パイガは自分のパートナー妖聖のビビアに自宅での彼の扱いを暴露され、慌てて口を塞いだ。だがすでにザンクの耳には入っていたのか彼は大笑いする。パイガは青筋を立ててビビアの頭に拳骨を落とした。何するのよ、と彼女は視線で抗議したが抗議したいのはパイガの方である。普段からこのようにプライベートをベラベラと喋るビビアに彼はいつも困らされている。彼は深いため息を吐いた。

 

「・・・・・・ところでフューリーは?」

「あ? その辺にあるんじゃねえの? どこかに放り投げちまった」

「さすがの私でも怒りますよ・・・・・・!」

「怒ってみろ」

「す、すいませんでした」

『だせー』

 

 情けないパイガの様子を見たデラとビビアの二人の声が重なった。

 

『う、うわあ!』

 

 広場の入り口の方から誰かの悲鳴が聞こえた。

 

「ざ、ザンク様。勇者ファング一行を名乗る者たちの襲撃です!」

「・・・・・・ファング、だと。面白え通せ!」

 

 見知った名にザンクはニヤリと笑う。

 

「我々は隠れた方が良さそうだな」

「りょうかーい」

「・・・・・・フューリーの回収と村人の解放は『彼』に任せましょう」

 

 パイガとビビアはこっそりとその場を離れる。ザンクに背を向けた彼はこっそりと携帯を取り出した。

 

「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 悪を倒せと俺を呼ぶ! 勇者ファング見参!」

 

 剣を構えたファングがザンクに名乗りを上げる。彼は調子に乗っているのか思いっきり格好つけている。一度その気になれば彼はノリノリだ。もはやファングの頭の中では自分が本気で勇者になった気でいる。普段の彼を見知ったザンクはぽかんと口を開けた。

 

「罪のない人々を傷つけるのを見過ごす訳にはいかないな! ・・・・・・乾巧だ」

『たっくんがこわれた』

 

 そしてファングに乗せられて巧も名乗りを上げる。180度ズレた彼のキャラに敵どころか味方までもが首を傾げた。

 

「びゅびゅーん!」

 

 二人の背後に爆煙が巻き起こる。ファングのスモークの魔法だ。ここまでこだわるといっそ清々しくなる。

 

「ひさしぶりじゃねえか、ファング! やっとオレに殺される覚悟が出来たようだなぁ。ところでびゅびゅーんってなんだ?」

『かぜのおとだよ』

『音は気にするな』

「うざっ!」

「ザンク、てめえの手に入れたフューリーを賭けて俺様と勝負しろ!」

 

 ファングはザンクを指差して言った。

 

「てめえと戦うのも懐かしいなぁ。くかかかか! いいぜ、やってやるよ」

『相変わらず気味の悪い男だ』

「上等よ。かかってきなさい!」

 

 アリンはふんと鼻を鳴らした。数々の修羅場を乗り越えてきた彼女はザンクに向けて不敵な笑みを浮かべた。

 

「待てせっかくだから御前試合にしようぜえ」

「御前? 誰が王様だ?」

「オレ様だ。そっちの四人とこっちが用意した五人と戦い勝ったらオレ様に挑む権利をやる。それにも勝てたらフューリーはやるよ」

 

 五対四では少し不利に見えるがフェンサーが三人いるこっちのが遥かに有利だ。更にこっちは変身すればこのメンバーで最高レベルの巧もいる。もっとも人に555の力もオルフェノクの力も使う気は彼にはないが。

 

「良いぜ、その条件飲んでやるよ。つーか俺と巧だけで十分だ」

「え、俺も戦うのか? 面倒くせえ」

「協力するって言ったばかりだろ! あれだけ格好つけてギャラリーとかありえねえよ!?」

 

 困惑する巧の頭をファングが叩く。こうして五対二の御前試合は決まった。彼の指摘に今更ながら先ほど巧がしたことがどれほど恥ずかしいか彼は知る。チラッとティアラたちを確認すると本気で心配する目で見られた。巧は内心ショックを受けた。

 

「で、お前らが負けた場合は俺に何をくれるってんだぁ?」

「じゃあファングくんの命で頼む」

「ハーラー、お前俺のこと嫌いなの?」

 

 サラッと自分を売られてファングは汗を流す。

 

「あ? 俺はコイツを殺す気はねえよ。そうだそこの女ァ!」

「え、私?」

「おい、ティアラは関係ねえだろ!」

「やっぱりてめえら恋愛関係か。俺は男女でいちゃつくヤツラが大嫌いなんだ! だからてめえを殺す!」

 

 ザンクがティアラを睨みつけた。ファングが庇うように前に立つ。

 

「ちょっとザンクはん、いい加減に」

「オレにはオレの考えがあるんだ、黙ってろ! それともお前が代わるか?」

「ちょ、グーは反則や反則!」

「じゃあチョキなら満足か?」

「グーでええです」

 

 ザンクは止めに入った男を殴った。

 

「この男、仲間まで殴ってる・・・・・・」

「ちょ、ちょっと待ってください。私はファングさんとは恋人関係ではありません! 訂正してください! 彼が私を愛してしまっただけです!」

「そうだ。だれがこんな内心クソブスと恋人になるか」

「えへへ」

「「じゃあどういう関係だ」」

 

 ファングの罵倒に赤面して笑うティアラにザンクと男のツッコミが重なる。

 

「面倒だから恋人で良いだろ」

「話が纏まんないよ。ファングくんなら負けないから大丈夫だって」

「そうそう。楽勝楽勝。あいつの手の内は知り尽くしてる」

「あなたの手の内も知り尽くしてるんですよ。向こうは。とにかく負けたら承知しませんわ。あなたと私が恋人同士になってしまうのですから」

『論点がズレているぞ』

 

 ティアラにとって命よりファングと恋人になることのが重要なのか。ブレイズは困惑した。しぶしぶ御前試合が始まる。

 

「か、勝手なことを。このことが社にバレたりしたら。・・・・・・早く来てくれえ、『北崎』」

 

 

『あれ、ティアラがいないよ~』

「まさかあの女逃げたんじゃないでしょうねえ」

「本当に逃げたなら賢い判断だけどな」

 

 村人やごろつきを引き連れたザンクが御前試合の会場に現れる。

 

「野郎ども、御前試合を始める!」

 

 ザンクの宣言にごろつきたちは歓声を上げる。

 

『荒れ馬は荒れ馬に人気があるようだな』

「ファングやっちまえ」

「て、やっぱり巧もギャラリーかよ!」

 

 ファングは巧を睨みつけつつ、現れたごろつきを瞬殺する。今更ただの人間に苦戦する彼ではない。フェンサーと人間にはそれほどの差がある。

 

「はい、まず一人目ー」

「・・・・・・いいねえ。やっぱりてめえ最高だよ。早く本気のてめえと殺し合いてえ」

「誰が殺し合いなんてするか」

 

 ファングはザンクを睨んだ。

 

「さァて? それはどうかな?」

「・・・・・・あ?」

「あの女、どこに行ったと思う?」

 

 ザンクの一言でファングの顔から表情が抜け落ちた。それと反比例するようにザンクは不気味な笑みを浮かべる。この二人は同じ快楽主義者だ。だが決定的に違うところがある。目の前にいる人に手を差し伸べることに喜びを感じられるのがファングなら、ザンクは目の前にいる人を壊すことに喜びを感じる。同じような性質を持っていながら彼らは水と油の存在なのだ。

 

「・・・・・・殺す」

「その前にオレが殺す」

 

 ぎゃははとザンクは高笑いした。

 

「ファングくん、敵に乗せられ・・・・・・る心配はないか」

『やっぱりザンクだいっきらい』

「おい、ティアラは無事だろうな」

「心配すんな。ファングがオレに勝てたら解放してやるよ。勝てたらなあ!」

 

 

「・・・・・・ん。・・・・・・ここは」

 

 ティアラは見知らぬ場所で目覚めた。かび臭い匂い、埃の積もった床。それが長らく使われていない地下牢と思われる場所だと彼女は気づく。

 

(そうです。私、兵士に襲われて・・・・・・)

 

 ファングたちが少し目を離した隙にティアラは敵に捕まった。その時のことを彼女は思い出し、沸々とした怒りを感じる。

 

(あのザンクという男。血反吐を吐かせて泣いて謝らせてやります)

 

 ティアラは地下牢の中で一人決意した。

 

「うわっ、何をする!?」

 

 叫び声が聞こえ、ティアラは牢屋の外に視線を向ける。兵士と思われる男が白い子犬に倒されていた。キュイ。彼女のパートナー妖聖だ。

 

「キュイ! 無事だったんですね!」

「キュイキュイキュイー!」

「え、この人たちに助けられたのですか?」

 

 牢屋の外には大勢の村人がいた。彼らは牢の鍵を開ける。

 

「お願いします、フェンサー様。あのザンクという男を倒してください」

「言われなくとも。私が、いえ本日限り私の恋人であるファングさんがきっと倒してくれます」

「それは頼もしい。・・・・・・この地下牢と繋がった地下迷宮のどこかにフューリーがあります。きっとフューリーはあなた方に力を貸してくれます」

 

 村人はティアラに深く頭を下げた。

 

「良いんですか・・・・・・?」

「きっとあなたたちが村を救ってくれる勇者なんですよ。だから頼みます! ザンクを倒してください」

「はい、必ず!」

 

 ティアラは地下迷宮を進む。一人っきりの冒険は何時もと違う。常にモンスターに見つかるリスクや崩落の可能性を考えなければならない。慎重に確実に彼女は進む。普段と違い先導してくれるファングや巧はいないのだから。ふとどうしようもない孤独感をティアラは感じた。目を閉じてファングの顔を思い浮かべる。巧のアドバイスを実践した。効果は、よくわからない。でもなんとなく自分の足で前に進める気がした。

 

(既にザンクを倒した、という報告を期待してますよ。一日限りの恋人さん)

 

 入り組んだ迷宮を上へ上へと登っていく。アテはない。すべて自分の勘が頼りだ。正しい道を辿っているのか不安を感じる度にファングの顔を思い浮かべる。それに意味があったのか分からないがやがてフューリーを見つけた。

 

「こ、これがソルオール村のフューリー。凄まじいエネルギーを感じます」

「キュイキュイ」

「力がみなぎるようです。待っていてくださいファングさん。今行きますから!」

 

 ティアラは笑顔で迷宮の出口へ向かう。・・・・・・その行く手を阻む者がいた。

 

「やだなあ。ダメだよ。そのフューリーは僕たちの物なのに」

「あ、あなたは・・・・・・?」

 

 ティアラの前に一人の少年が現れる。肩をだらしなく出したTシャツに穴の空いたGパンに身を包んだ中性的な顔立ちの美少年。平常時なら彼女も目を輝かしていたかもしれない。だが今は違う。気を引き締めていた彼女には少年の異常を瞬時に見抜いた。彼の通ったと思われる道の草や花が灰になっている。底知れないオーラが少年にはあった。ティアラは冷や汗を流す。恐らく彼は敵。それも決して自分が戦ってはならないレベルの相手。それでもティアラは薙刀を構える。

 

「ごめんね。パイガ君に助けろって言われたのは村の人たちなんだ。だからフェンサーは」

 

 先手必勝。少年が全てを話すよりも早くティアラは高圧力の水で鋭くなった薙刀を彼に振り下ろした。不意打ち気味に放たれた一撃は直撃する────

 

「・・・・・・殺していいよね」

 

 ────かに思えた。ティアラの薙刀は何かに阻まれ、少年を切り裂くことはなかった。見れば彼の腕が灰色の龍を型取った巨大な爪に変貌している。なんだ、この力は。焦りとは別に彼女は疑問を感じた。フェンサーではない。グナーダのように寄生生物に身体を奪われたのでもない。ではこの力はいったい・・・・・・?

 

「あなたはな、何者なんですか!? いきなり現れて邪魔をしないでください! 私は行かなければならないんです!」

「怒鳴らないでよ。怖いなー。僕、人に怒鳴られるの苦手なんだよね。だってさ」

 

 ティアラの顔を見つめ少年はにこりと笑った。彼女はぞわりと戦慄する。彼の目つきが鋭いものに変化したことに、ティアラに殺意を向けたことに気づいたから。

 

「俺より弱いヤツが調子に乗るなよ」

「っ!? 『フェアライズ!』」

 

 ティアラが純白戦姫の鎧を形成するのと少年が拳を振りかぶったのはほとんど同時だった。決して折れない高潔の意志と絆で固められた鎧に激しい衝撃が走る。鎧で守られていたはずなのに焼け付くような痛みを彼女は感じる。殴られた装甲部を見ると爪によって凹みが出来ていた。この鎧に傷をつけるなんてありえない。だが確かにそこに少年がつけた傷痕があった。何というパワーだ。

 

「あれ? もしかしてキミ、そんなに強くないの?」

「・・・・・・くっ!」

「つまんないなあ。ま、良いや」

 

 少年の顔が灰色に染まり、光に包まれる。ティアラは思わず目を閉じた。

 

「飽きちゃったから・・・・・・もう終わりにしよっと」

「・・・・・・!」

 

 ティアラが目を開くと少年の姿は消えていた。代わりに彼がいた場所には灰色の怪物がいた。龍人。その姿は古より恐れられし幻獣が人の形になった者。それを知る者は少年をこう呼ぶ。────ドラゴンオルフェノクと。

 

「ばいばい、お姉さん」

 

 ドラゴンオルフェノクが両手を空に掲げると雷雲が彼の周りに集まり出す。その手を振り下ろすと雷がティアラに降り注いだ。彼女は目をギュッと閉じた。

 

(ごめんなさい、ファングさん。私ここまで────)

『ディフェンド! プリーズ』

 

 雷がティアラを直撃するかしないか、そのタイミングで不思議な電子音声が彼女の耳に入った。

 

「・・・・・・え?」

「良かった、間に合ったみたいだな」

 

 恐る恐る目を開くとティアラを守るように一人の青年が立っていた。その周りを火、土、風、水の障壁が雷から彼らの身を守っていた。

 

「あ、あなたは・・・・・・」

「へえ、キミ誰?」

 

 ティアラとドラゴンオルフェノクは予想だにしていなかった青年の登場に首を傾げた。

 

「俺? 俺は・・・・・・」

 

 青年は自分の手を掲げる。キラリと輝く宝石の指輪が二人の目に映る。

 

「通りすがりの魔法使いだ」

 

 その宣言は堂々としていてまるで彼が本当に魔法使いなのではないかと信じてしまいそうな説得力があった。現に青年が手に持つ剣や指輪からは妖聖武器のフューリーと同じような力を感じる。だがそれよりも直感的に彼がただものではないとティアラの本能が告げていた。確固たる信念を持った真っ直ぐな目をしているのだから。彼女は無意識に青年にファング、それに巧の姿を重ねていた。

 

「へえ・・・・・・面白そうだね、僕と遊んでよ」

「『遊び』なら喜んで引き受けてやる」

『ドライバーオン プリーズ』

 

 ドラゴンオルフェノクの標的がティアラから青年に変わる。彼はふっと笑うと指輪を腰のベルトにかざす。するとベルトが機械的なごちゃごちゃしたドライバーに変化した。

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン! シャバドゥビタッチヘンシーン! シャバドゥビタッチヘンシーン!』

「変身!」

『フレイム ヒー! ヒー! ヒーヒーヒー!』

 

 やけにハイテンションな歌と共に青年の身体を赤色の魔法陣が包み込む。気がつくと彼の姿は指に付けられた赤い宝石を人型にした魔法使いの姿へと変貌していた。絶望を希望に変える魔法使い。最後の希望。遠い世界でそんな異名を持つ戦士の名は『仮面ライダーウィザード』。突如変わった青年の姿にティアラは驚愕し、ドラゴンオルフェノクは新しいおもちゃを見つけた子どものように不気味に笑う。魔法使いはドラゴンオルフェノクに向けて黒いコートを翻して構える。

 

「さあ、ショータイムだ」

「へえかっこいいなあ。僕も何か決めゼリフでも作ろうかな」

「決めゼリフを使っていいのは正しいことに力を使うヤツだけだぜ」

 

 どことなく緊張感のない会話をしながらもドラゴンオルフェノクとウィザードは交戦を始めた。

 

「お嬢ちゃんは行きな」

『バインド プリーズ』

「わ、すごいすごい」

 

 鋼鉄の鎖がドラゴンオルフェノクを拘束した。バインド。ウィザードの魔法だ。しかし、身動きを封じられながらドラゴンオルフェノクは喜んでいた。

 

「で、ですが。あなたは何故赤の他人の私を」

「俺はあいつの希望になるって約束したんだ。ならあいつの仲間のピンチを助けるのは当たり前だろ」

「あいつ・・・・・・?」

 

 首を傾げながらもティアラは拘束されたドラゴンオルフェノクを追い越し、迷宮の出口へ向かう。

 

「あ、そうだ。伝言預かってるんだ。『悩んだら海をみろ』って巧に伝えといてくれ! 俺は多分無理だから」

 

  

 ティアラがドラゴンオルフェノクやウィザードと遭遇している頃。

 

「これで後一人か」

 

 ファングは一人で四人を倒していた。あと一人倒せばティアラを取り戻せる。彼は剣のグリップを強く握り締めた。

 

「かは、かははははは!」

 

 しかし、ザンクは御前試合が終了していないにも関わらずファングに攻撃をしかけた。振りかぶったねじ曲がった曲剣を彼は受け止める。とてつもない怪力。受け止めたファングの腕が痺れた。

  

「っ! ザンク、てめえ・・・・・・! 話が違うぞ!」

「もう待てねえ! ルール変更だぁ! 二対二で行くぞォ!」

『やはりこうなるか・・・・・・。くそ、この男を倒さんとティアラは取り戻せんぞ、ファング!』

「わかってる。とっとと終わらせてやる!」

 

 ファングとザンクの激しい斬り合いが始まる。洗練された剣技とどこまでも荒削りで暴力的な剣技のぶつかり合いは見ているギャラリーを盛り上げた。

 

「あんさんら、どっちが相手なんか?」

 

 ザンクに殴られていた男が鎌を巧たちに向ける。

 

「私がいくしかないかな?」

「いや、俺が行く。協力するって約束だからな」

「あの力は負担が強いから気をつけなよ」

 

 銃を構えたハーラーを制し、巧が前に出る。

 

「フェンサーでもない相手に武器を向けるのは不本意や。せやけどワイも仕事や。テンション上げてくでえええ!」

「いちいちうるさい奴だ」

「ごめんなさいねー、うちのガルドちゃんがご迷惑をおかけします~」

 

 戦いを前に大騒ぎするガルドに巧はイラつく。その雰囲気を察したのか彼のパートナー妖聖が頭を下げた。

 

「ほないくで~。『フェアライズ!』」

 

 ガルドの身体を鎌が貫いた。激しい疾風が巻き起こると太鼓のようなものを背負った金色の鎧が彼の身体に形成される。疾風金色(しっぷうこんじき)の鎧を纏ったガルドは巧に切っ先を向けた。

 

「フェンサーには容赦しねえよ」

 

────555

 

────standing by

 

「変身!」

 

────complete

 

 巧の身体を紅鉄不変の鎧が包み込む。彼はだらんと構えるとガルドに殴りかかる。

 

「お、なんやそれ!? かっこええなあ!」

「戦いの最中にやかましい奴だ!」

 

 巧の拳はガルドの鎌に阻まれる。フェンサーだけあってやはりくぐり抜けてきた修羅場は多いのだろう。盗賊のような無骨なスタイルのガルドは不良の喧嘩スタイルの巧と非常に相性が良かった。巧が仕掛けた攻撃に全てカウンターを入れて返している。ソルメタルと呼ばれる特殊な金属によって高い防御力を秘めている555の装甲をもってしてもフルスイングで放たれたガルドの一撃にはダメージを免れることはできない。今のところこの世界で戦ってきた中で一番の強敵は間違いなくガルドだ。巧は小さく舌打ちした。

 

「ほらほら、見かけ倒しなんか? もうちょい気張れや!」

「うるせー!」

 

 巧はもう何度目か分からないパンチを放つ。それは軽々と回避される。即座に回し蹴りを繰り出す。これは直撃したが鎧によってダメージが入っているようには見えない。苛立ちを誤魔化すようにそのまま突き飛ばす。追撃にタックルを仕掛けようとしたが薙払った鎌から放たれた突風に阻まれる。厄介な相手だ。巧は攻め倦ねる。何か手段はないのか。

 

────カッコ悪いねえ。ま、所詮君はそんなもんだよね

 

 不意に巧は一人の男の顔が頭に浮かんだ。誰かは分からないのに無性に腹が立つ。きっと巧とよほど仲が悪かったのだろう。だがそれと同時にガルドを倒す手段も思いついた。

 

「何度同じことをしても結果は変わらんちゅーとるやろ」

「同じなら、な」

「な、なんやて!?」

 

 放たれたハイキックを腹に受け止めても余裕の笑みを崩さないガルド。だが巧にも考えがある。仮面に向こうでニヤリと笑った巧の異変にガルドは気づく。だがもう間に合わない。鎧に突き刺さった足を彼が確認すると555フォンのエンターキーを押す。エネルギーが充填される。

 

────exceed charge

 

 紅い三角錐状のエネルギーがガルドの身体を拘束した。どれだけ身軽でもゼロ距離ならば必中する。巧がとっさに思いついた攻撃手段だ。この戦法はかつて彼と共に戦った草加雅人が多用した必殺技のゴルドスマッシュとまるで同じものだった。

 

「負けを認めるか」

「まだや! まだ終わりやない!」

「・・・・・・手加減はする。ハァァァァ!」

 

 巧は勢い良く跳ぶと必殺の蹴りを放った。ガルドは身体を拘束されながらも風を纏った鎌を構える。迎撃するつもりだ。戦車をも容易く砕く一撃とガルドの必殺の一撃が激突する。

 

「ぐっ!」

「うわああああ!」

 

 巧は弾かれ、ガルドの鎌はその手から離れた。相討ち、という訳ではない。

 

「・・・・・・あんさんの勝ちや」

 

 巧は555のままだがガルドはフューリーフォームが強制解除されていた。このまま戦えばどちらが勝つか明白だ。ガルドは両手を上げた。

 

「・・・・・・ファングを手伝わねーと」

 

 

「くっ、なんて強さだ・・・・・・!」

 

 ザンクの突進を全身に受けたファングのフューリーフォームが強制的に解除された。

 

「な、何よ。あのフューリーフォーム!? は、反則よ!」

 

 ザンクのフェアライズしたフューリーフォームは通常のフェンサーのそれとまるで違うものだった。ファングの鎧も少し特異だがザンクの姿はもはや鎧ではない。言うならば緑色のカメレオンを巨人にした姿。人とかけ離れた怪物。かろうじて民族風の鎧を身体に纏っていることからそれがフェンサーの力によって起こされた物だと分かる。

 

「恐らく融合系数を極限まで高めているんだろうね。ぜひ観察したいなあ」

 

 ハーラーは特技の分析を使いそれが妖聖の力と限りなく一体化したものであると気づく。よほど珍しいのか涎を垂らしてザンクを見つめる。

 

「ち、あん時から更に厄介になりやがって・・・・・・!」

「あの時ってなんなのよ! あの化け物と何があったのよ!?」

 

 アリンはザンクに震え上がる。

 

「・・・・・・昔、狂った村に行った。妖聖の力で奇跡を起こせると本気で思っていた奴らが作り上げた気味の悪い村。俺はそこであいつに出会った」

「なに、それ」

『あの村人たちは確かに頭がおかしかった。だが叶えたい願いに囚われた哀れな者たちだった。それをあの男は』

「皆殺しにしてやったよ! 男も女もッ! 老人も子どもッ! あの時は流石のオレも震えたぜえ! 生きてることの素晴らしさがどれほどのものか実感出来たからなァ!」

 

 怪物と化したザンクは心まで怪物になっていた。人を殺すことに躊躇いを持たない彼にアリンは戦慄する。

 

「に、逃げましょう。ファング、ここは一旦引くべきよ」

「俺は勇者だ。・・・・・・こんな奴のせいで涙を流している人たちがいる。傷ついている人たちがいる。それを救わないで何が勇者だ!?」

「それが何よ! 何時まで勇者にこだわってるの!? あたしにとってはあなたが全てなの! あなたが死んだらあたしも死ぬ。あなたが傷つけばあたしも傷つく。一心同体だから辛いのも分かる! でも、だから・・・・・・だからお願いだからわかってよお」

 

 アリンは目に涙を浮かべていた。既にファングの身体はボロボロだ。このまま戦い続ければ本当に死ぬかもしれない。にも関わらず彼は会ったこともない村人のためにまだ立ち上がろうとしていた。

 

「アリン・・・・・・でもダメだ」

「ど、どうして」

「ティアラが、ティアラがいるんだぞ。勇者は魔王を倒して囚われのお姫さまを助けるもんだろ」

 

 額から流れる血を拭ってファングは構えた。

 

「やっぱりあの女を人質にとって正解だったなァ。これでどちらかが死ぬまで戦いを続けられるぜ」

「てめえ、やっぱりそれが目的だったな!」

 

 ファングは基本的に誰であろうと人を殺す気はない。どれだけの強敵でも極悪人であっても。アポローネスにはそれを指摘されて敗北を喫した。彼は人を殺すことに躊躇いがある。しかし、大事な人たちの命に関わるならその躊躇いすらファングは捨てる。

 

「さあ、殺し合いの続きをしようかァ!」

「その必要はありません! この腐れ外道!」

 

 今にも殺し合いを始めようとした二人の間にティアラが割って入った。

 

「ああっ!? てめえ、どうやってここに?」

「簡単ですわ。私は囚われたままのひ弱なヒロインではない、ということですわ」

 

 睨みつけるザンクにティアラは小馬鹿にしたような笑いを浮かべる。

 

「はあ? ヒロインはあたしよ、あたし! ・・・・・・でも、無事で良かった」

「たく心配かけやがって」

「ファングさん、これを!」

 

 ティアラはソルオール村のフューリーを投げ渡した。

 

「これがソルオール村のフューリー・・・・・・すげえパワーだ」

「てめえ、人の物を盗む奴は本当に大切な物をなくすっておばあちゃんに習わなかったのか!?」

「どの口でそれを。私は村人から託されたんです『うるせえ! くそアマがっ!』きゃあ!」

 

 ザンクはティアラに巨大な腕を振り下ろした。

 

「お前も女に手を上げる奴は男として失格だとおばあちゃんに習わなかったのか?」

「誰だ、てめえ!?」

「乾さん・・・・・・!」

 

 ガルドを倒した巧がその腕を剣────ファイズエッジで受け止めた。

 

「やるぞ、ファング!」

「ああ。『フェアライズ!』」

 

 ファングの身体を灼熱深紅の鎧が包み込む。二人は肩を並べてザンクに向けて構える。ファングはかけ声と共に駆け出し、巧はフンと鼻を鳴らすと手首をスナップさせて駆け出す。

 

「クソクソクソクソ! イライラする! イライラするんだよ! お前ら皆殺しダァ!」

 

 強化されたザンクの肉体は強靭だ。フューリーの力でパワーアップしたファングの剣でも僅かなダメージしか通ってない。ザンクの蹴りにファングが吹き飛ばされる。巧は後ろからファイズエッジの斬撃を放つ。フォトンブラッドによって強化された刃は深い傷口を作る。だがそれすら意に介さないのか、それとも痛みを感じていながらも戦いを優先しているのか止まることなくザンクは尻尾で巧を叩き飛ばす。

 

「ぐっ!」

「ち、やっぱつええ」

「ひゃはははは。やっぱり戦いは良い。戦ってる時だけはイライラが、この世全ての憎悪を忘れられる!」

『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!』

 

 ファングと巧は立ち上がると両サイドから攻撃を仕掛ける。ファイズショットによって強化された拳で巧は殴り、巨大な手甲に変化させた拳でファングは殴る。流石にこの攻撃にはザンクも仰け反る。コンボが繋がり更に二人は攻撃を重ねる。巧が蹴り飛ばし、ファングが炎を纏った剣の連撃を放つ。

 

「ぐっ・・・・・・ウラァ!」

 

 かなりのダメージを受けたはずにも関わらずザンクは飛びかかる。なんというタフネスだ。不意を打たれた二人に巨大な手が振り下ろされる。押さえつけられ二人の動きが封じられた。

 

「ファングさん!」

「来るな、ティアラ!」

「これは俺たちの戦いだ、邪魔すんな」

 

 激痛に耐えながらも二人は助けに入ったティアラを止める。

 

「律儀にルール守るなんてバカかァ?」

「俺はお前みたいな外道と違うんだよ」

『ピロロ!』

 

 ザンクの背後から現れたオートバジンがバスターホイールを発射した。凄まじい衝撃が彼を襲い二人を抑えてた手が離れる。転がって巧は脱出し、ファングはザンクの顔面を殴り飛ばした。

 

「こいつは人じゃねえからルール違反じゃねえよなあ?」

「ああっ!? ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!!」

 

 凄まじい速さで突っ込んでくるザンクに巧はファイズエッジを構えるとエンターキーを押した。

 

────exceed charge

 

 巧はエネルギーが充填されたファイズエッジを振り抜く。紅いマーカーがザンクの身体を拘束した。

 

「がっ! う、動けねえ」

「一気に決めるぞ」

「ああ!」

 

 フォトンブラッドを纏ったファイズエッジを巧は、灼熱真紅の炎を纏った剣をファングは手に持ち駆け出す。

 

「ダァァァァァ!」

「ハァァァァァ!」

 

 巨大なザンクの身体を二つの真紅の剣が切り裂いた。

 

「ぐああああああああ!」

 

 ザンクは獣のような悲鳴を上げ、その巨大な身体から青い炎が吹き出した。がむしゃらに暴れ、彼はその炎を振り払う。まだやる気か、彼らは構えたがザンクのフューリーフォームが強制解除されるのを確認するとファングと巧も変身を解除した。

 

「何故だ・・・・・・」

 

 ボロボロになりながらもザンクの殺意が衰えることはない。彼は背筋が冷たくなるような視線をファングに向ける。

 

「何故だ! 何故殺さない! オレはお前を殺す気だったァ! ならお前も殺す気でやるべきだろォが!」

「別に。ティアラが無事ならお前を殺す意味もねえからな」

「・・・・・・っ!? 何処までもオレをバカにする気か。てめぇぇぇぇぇ!」

 

 ザンクはふらふらとファングに近づく。

 

「ザンクはん、無茶や。ここは一旦引くべきや!」

「くそ、ガルド。てめえまでオレを裏切るのか? 離せ、離しやがれええええ!」

「ワイを救ったあんさんを裏切ったりせえへんから安心しい!」

 

 ガルドに引きずられてザンクは消えた。彼は視界から消える最後までファングを殺してやると叫んでいた。

 

「あいつもエフォールと同じで悲しい人間、なのかもな」

 

 ファングはぽつりと呟いた。

 

「やった! やったわ! ファングあなた本当に村を救った勇者よ!」

『わーい、ごちそう』

『見事だ』

「ま、俺のおかげでもあるがな」

「男を上げたな、ファング」

「かっこよかったよ」

「私を救うために頑張るなんて殊勝な心がけですよ」

 

 一同はファングを賞賛した。しかし、彼は腑に落ちない顔をしている。色々と思うことがあるのだろう。

 

「ファングさん、疲れてるなら帰りますか?」

「ああ、疲れてるからって訳ではねえけど帰るよ・・・・・・」

 

 ファングはフウと一息吐いた。

 

「俺は勇者ってガラじゃねえよ。民を傷つける魔王を殺すことも出来ねえんだからな」

「当たり前です。ファングさんはファングさんなんですから。悪い人だから容赦なく殺す、そんな勇者のファングさんよりも私はただのファングさんのが好きですわ」

 

 ティアラの一言にファングは笑った。

 

「ならとっととズラかるか。バジン、先に戻ってろ」

「ご馳走ならオレが作ってやるよ」

『おじさんのけーきたべたーい』

「さ、帰りましょう」

「汗かいちゃったしこの服も脱ぎたかったしちょうど良かったよ」

『ここで脱ごうとするな、阿呆』

 

 一同は広場から抜け出す。

 

「・・・・・・あとでファングさんには特大ステーキを奢ってあげますわ」

「マジ! なんで?」

「今日限り、あなたと私は恋人関係ですから」

 

 

「ふぃー。俺の役目はここまでだな」

「えー? もう終わり。つまんないなあ」

 

 ウィザードは変身を解除すると青年────操真晴人の姿になる。ドラゴンオルフェノクもまた少年────北崎の姿に戻る。

 

「やりすぎちゃったな」

「そう? キミも僕もお互い全力は出してないでしょ? 分身したのはすごかったけどあと二つくらい何か隠してるよね」

「そっちも早くなる奴には驚かされたけど二つくらいなんか隠してるだろ」

 

 そういう晴人の背後には灰の砂漠が広がり、北崎の背後には焦土が広がっていた。これは互いが加減をしながらも作り上げた戦闘の被害だ。晴人は苦笑を浮かべ、北崎は満面の笑みを浮かべる。ともあれ誰の被害もなければ晴人にしても戦いが悪いものとは言うまい。

 

「キミも同じドラゴンなんだね、楽しかったよ。でもどうして僕の邪魔をしたの?」

「・・・・・・この世界に異物が入った。お前と巧の二人。いや、もしかしたら他にもいるかもしれない」

「ああ、それ冴子さんたちかな。僕、裏切っちゃったんだよねー。王様は僕なのにわかってないんだもん」

 

 北崎は一瞬だけ鋭い目つきになった。

 

「ま、誰が異物とかは関係ない。問題はそいつらのせいで歴史に深いダメージを与えるかもしれないことだ。そうすると次元にまで影響が出る」

「あ、もしかしてお姉さんを殺すのもその影響を与えるものなの?」

「少しだけ、な。あの娘の死はもっと先だからな。それに巧の仲間ってのもある」

 

 晴人は敵かもしれない北崎に何故か重要な情報を教えていた。だが彼はなんとなく歪みとは違う気がする。巧の敵になっても世界の敵になることはない。北崎は純粋な少年と変わらない。もしかしたら世界の危機を救う役割は巧だけでなくこの少年にもあるかもしれない。そう晴人の直感が告げていた。

 

「じゃ、後は他の奴に任せるから」

「えー、これで終わり?」

「ああ。終わりだ。もっと強い奴とその内戦えるから心配すんな。なんならお前の希望になってやっても良いけどな」

 

 名残惜しそうな北崎に手を振って晴人は灰色のオーロラに消えていった。

 

「あーあ。つまんないなあ。ま、いっか」

 

 北崎は上機嫌でスキップをしながら迷宮だった場所から出る。

 

「冴子さんには悪いけど邪魔させてもらうよ。王様になるのはアイツでも乾巧でもない。この僕だ」

 

 

   




ザンクのキャラはぽっと出で捨てるにはもったいない設定なのでもう少し出番があります。ガルドは経緯が少し変わりますがちゃんと次回には仲間になります。

まさかの555組参戦二人目は北崎さんになりました。僕のユーザー名から登場するのがわかった人もいるかもしれません。それ以前に少しだけ登場シーンはありましたが。草加もガルド攻略のシーンでちょっぴり出演してて少し詰め込みすぎたかも。

さて新たなスポット参戦はウィザードになりました。最初はXライダーにしようと思ってましたが流石に早すぎてボツに。

それといつの間にかお気に入り登録数が100を越えていました555とFFFにまだまだ人気があるとわかり嬉しいです。

次回は更に驚く展開になると思うので期待していてください。
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