(フェンサーってのは本当にすげえな。空も飛べるのか)
兵士たちを片付けた巧たちは急いでファングたちの跡を追う。巧は呼び出したバジンをすっ飛ばし、ガルドとエフォールはフェアライズして飛ぶ。既にガルドが空を飛ぶ姿はサイガとの戦いで確認していた巧だがエフォールがフェアライズした姿を見るのは初めてだ。ファイズになっても空を飛ぶことは出来ない巧は少し彼らを羨ましく思った。
エフォールがフェアライズした姿は戦闘機のようだ。両翼機を背中に顕現させ、機械仕掛けの装甲を纏った姿はかつて殺人マシーンであったエフォールの心を体現しているようだ。
「く、ダンナたちは何処にいるんや!? ・・・・・・エフォールはん、あれ!」
「・・・・・・ザンク!?」
巧は先導して飛んでいたガルドとエフォールが急に方向転換したことに驚く。慌ててハンドルを切った先にいたのはかつてその凶悪な強さに苦しめられた男であるザンク。彼は見たこともない金髪の美形の男性と激闘を繰り広げていた。戦況は男性の方が優勢。ザンクの身体には所々に切り傷が出来ている。だらだらと大量の血を流しながらもザンクは獰猛な笑みを浮かべ、男に向かっていった。男はそんなザンクを冷徹に睨み、その剣を振り下ろす。直撃したら流石のザンクでも耐えられないだろう。巧は何故かファイズフォンを銃に変形させて、男に向けた。ザンクなんて斬られて当たり前の人間のはずなのに。
だが巧が撃つよりも早くエフォールが男に矢を放った。彼は矢を弾き落とすと後ろに跳ぶ。
「誰だ!? 出てきなさい!」
「あぁ? なんだァ!?」
困惑する二人を前にガルドとエフォールは急降下した。彼らはザンクを庇うように立つ。
「久しぶりやなあ、色男。ワイの顔を忘れたとは言わせんで」
『この間はよくもガルドちゃんを傷つけたわね!』
「お前、ガルドとザンクを傷つけた。許さない・・・・・・!」
『そうです! 私たちがザンクさんを殺させたりはしません!』
ガルドは男のことを知っていた。一見すると紳士然としているが独善的な正義に囚われた気味の悪い男。ザンクを、そして自分を殺そうとした男だ。忘れるはずがなかった。ガルドは激しく怒り男を睨み付けた。
エフォールは男のことをあまり知らない。記憶が正しければピアノのことを許してくれた善人だった気がする。だが善人であろうとザンクを、そしてガルドを傷つけたらしいこの男を許すことは出来なかった。彼女は激しい殺意を男に向けた。
「エフォール、果林・・・・・・だと!?」
「この男の仲間なら僕も君たちを許す訳にはいきません。この場で全員始末します! 『フェアライズ』」
「やってみい! そう何度もやれると思うなや!」
男の身体を純白の鎧が包み込む。神々しさすら感じるその姿は彼の不屈の正義を体現していた。ガルドは勇猛果敢に男に襲いかかった。
「エフォール、お前はどうしてここにいる・・・・・・? それに普通に話せるのかァ?」
「私はファングに救われた。だから今、私はここにいる」
「ち! つくづくムカつく野郎ォだ。俺の出来なかったことを簡単にやり遂げるだと。ふざけやがって」
ザンクは口ではそう言いながらも少しだけ笑った。エフォールも久しく見ていなかった彼の笑顔に笑う。
「ぐはっ!」
「ガルド、代わる!」
二人の目の前にガルドが転がる。やはり男とガルドとの間にはかなりの実力差があるようだ。サイガとの戦い程の絶望感はないがそれでも勝てる自信は微塵も湧かなかった。どうする、ゆっくりと近づく男を前にガルドは思案する。そんなガルドを鎌を持ったエフォールが追い越した。ファングにも匹敵する優れた剣士の男と、かつて凄腕の暗殺者として名の知れていたエフォールが激突する。
「ガルド、てめえも久しぶりだな」
「ザンクはん、探してたんやで」
「なら電話の一つでもよこしやがれ」
「軽口叩いてる場合やない。すぐにその傷治してエフォールはんを援護するで!」
力強く肩を叩くガルドにザンクは頷いた。
「君のような幼い女の子を斬らなければならないなんて僕は悲しい。大人しく引き下がってください。あなただけは見逃します。罪を償ってやり直すんです」
「ザンクもガルドもやらせない」
「・・・・・・残念です」
「きゃっ!」
かなりの実力を誇っているはずのエフォールをも男は圧倒する。彼女が握っていた鎌を彼は叩き落とす。本来メイン武装が弓である完全遠距離タイプのエフォールはメイン武装が剣の完全近接タイプの男と相性は最悪。接近戦で戦えば不利になるのは歴然だ。高速で振り抜かれた剣にエフォールは吹き飛ばされる。
「・・・・・・私は、必ず帰る。お前に殺されたり、しない!」
「すいません。出来ることなら斬りたくなかった」
「────させねえよ」
巧はエフォールに迫った男を蹴り飛ばす。ここまで黙って見ていたが仲間に手をかけるならば見過ごす訳にはいかない。彼はベルトを腰に巻いた。
────555
────standing by
「変身!」
────complete
巧は鋼鉄不変の意思を持った戦士に変身した。男は初めてファイズの力を見たのか顔を驚愕に染める。
「・・・・・・巧さん、遅いですよ」
「悪い、いまいち状況が分かんなかった」
この男が敵なのか巧は分からなかった。ガルドやエフォールは守ろうしているが彼は別にザンクと深い関わりがある訳ではない。だからファイズの力を男に使うべきか迷っていた。だが共に戦ったガルドを傷つけた相手なら話しは別だ。新しく仲間に加わったエフォールを、そしてそのパートナーである果林を殺すというなら容赦をする理由は彼にはもうない。ファイズと化した巧は手首をスナップさせると男に殴りかかった。その拳を彼はヒラリと避ける。
「何人で来ようが僕は負けない!」
「俺一人で十分だ」
◇
「ハァッ!」
「ぐッ! これしきっ!」
「くそ、さっさと倒れろ」
フェアライズしたファングとアポローネスは激しい戦いを繰り広げる。バーナードの時のように力の差は歴然。スペックではファングの方が遥かに上だ。それにこの姿になったファングはありとあらゆるフューリーを召喚し、使うことが出来る。対してアポローネスは剣しか使わない。近接戦で圧倒出来る。
だが数多くの手数を持った彼の新形態でもアポローネスに対する決定打にはならなかった。この男の鎧はとてつもなく固い。バジンのバスターホイールですら無傷だった防御力はファングの想像以上だ。どれだけ剣を振ろうと、どれだけ拳で殴ろうと、どれだけ魔法を使おうと全然効いてないように見える。とんでもないタフネスだ。
「フンッ!」
「オラッ!」
だがアポローネスの攻撃もファングには効かない。振り下ろした大剣を避ける必要すらなかった。全身に装甲を纏った今の彼を傷つけるのは不可能だ。
「よし、二人がかりならいけるかもしれん」
「お、ついにパイガもいっちゃうの?」
「北崎、出番だ!」
「あんた本当にプライドないの?」
パイガは思いの外食い下がるアポローネスに勝機を見いだし、今現在投入できる最高の切り札を切った。北崎、バーナードとザンクがいない今文句なしでドルファ最強の少年がフラりと彼らの前に現れた。どこに隠れていた、ティアラはソルオール村で遭遇した少年の登場に驚愕する。
「え、僕もやっていいの?」
「当然だ。ファングを潰せ!」
『じゃ、張り切っちゃおうかな』
「あ、あの少年は!?」
「・・・・・・凄い。怪物に変身した! あれもしかして新しい妖聖!?」
北崎はドラゴンオルフェノクに変貌する。
『あははは』
「っ! なんだ、お前!?」
突然現れた灰色の怪人の拳にファングは大きくのけ反る。そして驚愕した。自身にダメージが入っていることに。この激しき熱を放つ姿に素手で触れられる化け物がこの世にいるとは。触れた物を燃やすファングと触れた物を灰にするドラゴンオルフェノクは能力的に互角なのだろう。
だからドラゴンオルフェノクはファングにノーリスクで攻撃出来る。そしてファングもドラゴンオルフェノクをノーリスクで攻撃出来るのは同じだ。ファングは拳を握りしめると殴打のラッシュをドラゴンオルフェノクに放つ。ドラゴンオルフェノクは微動だにしない。
「今助けるよ、ファングくん!」
「そちらが二人ならこちらは三人です!」
「バカ、来んな! お前らが勝てる相手じゃない!」
言っては悪いがバーナード以上の相手二人を前にティアラたちが加わっても足手まといだ。特に北崎は触れたものを灰にする厄介な能力を持っている。ファングたちは知らなかったが好判断だった。
『やるなあ』
「誰が来ようが俺は負けねえよ。来い、ガキんちょ!」
『ふふふ、ファングくんと戦うのは初めてだね。楽しませてよ』
ドラゴンオルフェノクは龍の顔を象った爪をファングに振りかぶる。両腕をクロスして彼はそれを防ぐと回し蹴りを放つ。だがドラゴンオルフェノクはアポローネス以上に固い。ダメージが入ってるようには全く見えない。ファングは銃を召喚するとドラゴンオルフェノクに無数の弾丸を放った。アポローネスと違って彼に対して剣だけに拘る必要はない。少しは効果があるのか僅かに彼は後退する。
「北崎、邪魔をするな!」
後退したドラゴンオルフェノクの背中をアポローネスは斬りつけた。無防備な背中を攻撃され、北崎は小さなうめき声を上げる。
『うわっ! 何をするの、アポローネスくん!?』
「そうだ、二人がかりなら勝てるんだぞ。アポローネス! 血迷ったか!?」
「何を言う!? 血迷ったのは貴様らだ!」
驚く北崎と抗議するパイガをアポローネスは睨む。何という覇気だ。今の彼は鬼をも怯ませるだろう。龍である北崎はともかくパイガは萎縮した。
「私は剣士だ。正々堂々とした一対一の戦いを望んでいる。それを邪魔するなら貴様らも倒す!」
「・・・・・・しょうがないなあ。分かったよ。その変わり絶対に勝ちなよ」
「当然だ」
フッと笑うアポローネスに北崎はすんなりと引き下がった。
(エミリちゃん、やっぱり約束は守れなかったよ。ごめんね)
北崎は何の気まぐれかアポローネスの妹と一つの約束をしていた。アポローネスがピンチになったら助けてほしいと、そう彼は彼女と約束している。だがやはり誇り高きアポローネスは自分の協力を拒んだ。分かっていたがエミリの悲しむ顔は何故か見たくない。だから今、北崎が出来るのは確実な勝利をアポローネスと約束することだ。彼女の笑顔のために。
「良いのか? これであんたの勝てる可能性はゼロになったぜ」
「それはどうだろうな」
「なに?」
三つのフューリーと融合した強化形態のファングに一つのフューリーしか使っていないアポローネスでは単純な出力で勝つのは不可能なはずだ。事実ここまでファングはアポローネスを圧倒し続けている。
「セグロ! いくぞ!」
『グオオオオオオオオ!』
「私は限界を越える!」
アポローネスの身体を深淵の闇が包み込む。激しいエネルギーの暴風に近くにいたファングと北崎は吹き飛ばされる。ファングは気づく。アポローネスは力を隠し持っていたことに。ドルファ四天王は皆融合係数を極限まで高めた短期決戦型の特殊形態を持っている。ザンクの爬虫類のような異形の姿、バーナードの白銀の邪悪な姿。パイガにもある。そしてここにはいないマリアノにも。
だがアポローネスだけはそれを使うことはなかった。彼の剣士としてのプライドがそれを許さなかったのだ。平素の力で勝ってこそ剣士である証明だと思っていた。だがファングという魂が共鳴するレベルの好敵手に自分の出せる力の全てを彼は出したくなった。闇の暴風が晴れるとそこにアポローネスの姿はない。黒い戦士がいた。
「我が魂は剣に等しい」
アポローネスは深淵漆黒の戦士へと変貌を遂げる。ファングやファイズなどのライダーと酷似した体型をしている姿にファングは驚愕する。だが彼らと違って更に生物的だ。龍人のような顔。闇を鎧にした装甲。その手に握られるのは大剣ではなく二本の小振りな剣。だがあの大剣と同等の濃厚な密度を持った魔力がその二本の剣にはある。
何という怪物が誕生したのだろう。今の彼はもしかしたらドラゴンオルフェノクやサイガをも越えるかもしれない。それだけの力がある。彼の生き方に相応しい産声を上げこの世界に暗黒の龍騎兵が降臨した。
◇
「ラァ!」
「ハァ!」
ファイズのハイキックが男の身体を掠める。だが男は怯むことなくファイズの装甲に剣を振り下ろした。鈍い火花が飛び散り、巧の身体を痺れるような痛みが走る。彼は追撃で放たれた剣撃をマトモに食らう。この男・・・・・・強い。北崎程ではないが実力差では完全に巧を上回っている。こちらの攻撃はことごとく防がれるのに向こうの攻撃は確実に巧に当たる。ファイズに変身していなければとっくに斬られているだろう。
────exceed charge
「ラアアアア!」
このままではラチが明かない。一か八か、ファイズは男に必殺の殴打────グランインパクトを放った。だがその拳は男の下から振り上げられた剣によって受け流される。
「くそっ! 効いてねえ!」
「これならどうです!」
『attack effect 『サンライトスラッシュ』』
「うおっ!」
ファイズに出来た大きな隙を男は見逃したりはしない。彼は剣に光を纏いファイズに叩きつける。素早く放たれた必殺の一撃に巧は大きな衝撃を受け、後ろに大きく吹き飛ばされる。流石のファイズもフェンサーの必殺技にはダメージを避けることは出来ない。膝をつき大きく隙の出来たファイズに更なる追い打ちを男は────
『battle mode』
『ピロロ』
「っ!」
────かけることが出来ない。変形したバジンのバスターホイールの雨が降り注ぎ後退を余儀なくされた。・・・・・・巧も。バジンの狙いが中途半端になり、ちょうどファイズと男の中間に照準が合わせた結果二人に弾が当たりそうになったのだ。巧は転がるようにバジンの横に飛び込むとその頭をグーで殴った。蹴りを放った。だが頑丈なバジンには何の意味もない。
「てめえ、バカ野郎! ふざけんなよ! 俺に当たるとこだったぞ!?」
『ピロロ!』
「待ってください、巧さん! バジンちゃんに怒っている場合ではありません! あの人が逃げますよ!」
「なに!?」
バジンに激怒する巧を果林は後ろから抱きついて止める。ハッとして振り返ると男は何処かへと空を飛んで逃げて行く。
「くそ、逃がさへんで! 『フェアライズ!』」
「私たちも追いますよ、エフォール!」
「うん、『フェアライズ!』」
ガルドたちはフューリーフォームに変身すると男の追跡を始める。
「俺も行くか」
『vehicle mode』
バジンをバイクに戻すと巧は跨がった。急いで発進しなければならない状況にも関わらず彼はアクセルを握らない。頭をガシガシと掻くと振り向く。そこにいるのは
「・・・・・・乗れよ」
「あぁ?」
「お前は飛べねえだろ」
ザンクだ。ガルドの魔法によって怪我を完治したザンクが座り込んでいた。巧は彼を無視しても良かったのだがそれではせっかく再会出来たエフォールたちが気の毒だ。このまま放っておけばまたザンクは何処かへ行方をくらますだろう。
「ち、仕方ねえから乗ってやるよ」
「勘違いすんな。俺はお前を味方とは思ってない」
「俺はてめえを虫けらと思ってるけどなァ、かかか」
乗せなければ良かったと巧は後悔した。
◇
「く、なんて強さだ・・・・・・!」
ファングは想像を遥かに越えた力を手に入れたアポローネスに苦戦を強いられる。進化したフューリーフォームを持ってしてもアポローネスの暴走したフューリーフォームには歯が立たない。パワーこそ上回ってはいるが防御とスピードは完全に向こうの方が上。あの二本の小振りな剣を前にファングは既に何度も己の身体を傷つけられた。彼の武器であるアリンの大剣は身軽になったアポローネスにことごとく回避され、ただひたすらに自らの身体にダメージを受けるだけだ。
「高まる。高まるぞ・・・・・・! これが剣を極めし者がたどり着く極地。ふ、ふふふ。ははははは! 素晴らしい、これほどの力ならもっと早く使っていれば良かった!」
アポローネスは鎧から溢れる高揚感に身を委ねる。鎧の力に飲み込まれているのか? 誇り高き武人であったアポローネスの変貌っぷりにファングは目を疑かった。高笑いしながら突進するアポローネスに向かってファングは剣を振り抜く。彼はバックステップで回避した。だが剣から放たれた放射状の火炎がアポローネスを飲み込む。
エクステンドエッジ────例外を除けば最強の必殺技が直撃した。ファングは巻き起こる土煙に飲み込まれないよう後退する。倒したとは思っていない。だがこれで土煙の中から出た時に大きな隙が出来るはず。ファングは剣を構える。
『ファング! アポローネスの様子が変よ!』
「分かってる! 分かってるけどあいつやっぱりつええ! どんなに頭が狂っても剣だけは狂ってねえ!」
「良い。やはり貴様は素晴らしいぞ、ファング! 我が魂は震えている!」
だが土煙が晴れるまでアポローネスは微動だにしなかった。どれだけ力に飲み込まれても彼の本能は研ぎ澄まされたままだ。決して隙を見せたりはしないだろう。ファングはその手にブレイズの剣を持つ。素早い相手には素早く動ける武器で対応するしかない。
彼が意識を切り替えた瞬間、目の前にアポローネスが現れた。────速い。振り下ろされた剣を咄嗟に防ぐ。だが相手は二刀流。一つ防いだところで更なる追撃が待ち受ける。放たれた突きをアッパーカットで受け流す。ファングはアポローネスの腹に蹴りを突き刺した。
「ぐっ、効かぬ! 貴様の攻撃はその程度か!」
「うるせえ、よ!」
研ぎ澄まされたファングの剣舞がアポローネスの身体に直撃する。頭部、右腕、左腕。斬りつけた箇所を確認するがアポローネスにはやはりダメージはなさそうだ。こうして何度か斬りつけることには成功しているが傷一つ付けられていない現状にファングは舌打ちした。
「・・・・・・分かったよ! ファングくん、あれだ! あれ使いな! あれなら効くよ、多分!」
「あれってなんだよ!?」
「ハアアアア!」
『attack effect 『導』』
「そうだ! ランチャーだよ、ランチャー! 剣に拘る必要はないよ!」
「・・・・・・そうか!」
アポローネスが闇を纏った二本の剣で突進してくる。ハーラーのアドバイスにファングはニヤリと笑う。大剣の腹で剣を受け止めると彼は両手に新たな武器を召喚した。ランチャー。高火力のミサイルを発射するファングがこの形態になって使えるようになった新しい武器の中で最も攻撃力が高いものだ。ファングはアポローネスの腹に発射口を向ける。
「この距離なら防御も出来ねえな!」
『食らいなさい!』
「な、なにぃ!? 貴様、それでも剣し───」
無数のミサイルがアポローネスの身体に直撃して激しい爆発を巻き起こす。攻撃を放ったファングもろとも吹き飛ばすその威力はとてつもない。鋭い洞察力で相手の弱点を分析出来るハーラーが効果があると言うだけあって効果覿面だ。流石のアポローネスも片膝をついている。
『今よ、ファング!』
「ダアアアアアアアア!」
ファングは痛手を負ったアポローネスに必殺の一撃を放つ。地面に剣を突き刺し、大地のエネルギーを右足に集束させる。バーナードにトドメを刺した灼熱深紅の必殺キック。貫いた相手を爆散するフューリーフォームの限界を越えた技だ。
「ヌオオオオオオオ!」
アポローネスは両手を交差してその一撃を受け止める。────耐える。────耐える。エネルギーの暴流を前にもアポローネスは後退しない。負ける気がしなかった。・・・・・・この身は剣と等しいのだから。そうだ。誰にも負けないために心も家族も捨てたのだから。────ここで負ける訳にはいかない! アポローネスの不屈の意志がファングの必殺技を弾き飛ばした。
「嘘、だろ?」
「少しは効いたぞ・・・・・・!」
「く、くそ。ダメだ、もう立てねえ」
「ファングさん!?」
「来んな、ティアラ! お前まで死ぬ! 逃げろ!」
最後の切り札が不発に終わり、ファングは膝をつく。もう勝てる気がしない。彼の心が、折れた。フューリーフォームが解除される。人の姿に戻ったファングをアポローネスは無慈悲に見下ろす。
『立てファング! 立たねば死ぬぞ!』
『きみならかてる、かてるよ! だいじょうぶ! まだあきらめないで!』
ファングと共に戦うブレイズとキョーコが奮い立たせる。それでも彼は立ち上がれない。気力も体力もファングにはもうなかった。
『ちょっとファング! あんたあたしのパートナーでしょ! しっかりしなさいよ!』
「ちくしょう・・・・・・ちくしょう!」
『何諦めてんのよ! あんたが死んだらあたしも死ぬのよ! ううん、あたしだけじゃない! ティアラも、ハーラーも巧たちもよ! ねえお願い、ファング。あたしを殺させないで』
「っ!」
アリンの一言が折れたはずのファングの心を繋ぎ止める。濁っていたファングの目に光が灯る。
「ほお。まだ諦めていないのか」
アポローネスは静かに剣を構える。
「だが何度やろうと無駄だ。貴様の剣にはなんの信念も覚悟もないのだからな。この私と違って」
「────おい、今そいつに信念も覚悟もないって言ったか? 訂正しろ」
バイクの排気音が鳴った。
「何者だ、貴様?」
ファングの目の前に一人の戦士が立った。────仮面ライダー555。乾巧だ。彼はファイズエッジを逆手に持つとアポローネスに振りかぶる。しかしろくに剣を嗜んだことすらない巧の攻撃はアポローネスに当たることはない。軽々と避けられる。
「・・・・・・こいつのダチだ」
「ふ、面白い」
アポローネスとファイズの戦いが始まる。
「ダンナ、助けに来たで」
「ファングくん、もう大丈夫ですよ」
膝をついていたファングをガルドとシャルマンが起こす。
「お前ら・・・・・・!」
『ガルド、シャルマン様!』
予想外の救援にファングとアリンは目を見開く。
「言っとくけどワイはお前をまだ信用してへんからな!」
「キミには申し訳ないことをしました。ですが今は争っている場合ではないです。巧くんを援護しますよ」
シャルマンとガルドもアポローネスに向かっていく。
「────約束通り帰ってきた」
「エフォール・・・・・・」
呆然とするファングを前にエフォールが着地した。彼は訳が分からず首を傾げる。彼らとシャルマンはここに来るまでの間に色々とあったがそれは割愛する。結果的に互いに互いがファングが味方だと知り和解とはいかなかったが一時休戦ということになった。
「今度はファングが約束、守る番だよ」
エフォールはファングに彼が落としていた剣を渡す。
「ああ・・・・・・!」
ファングは頷く。仲間たちの登場によって彼の折れていたはずの心は完全に復活した。
「ふふ、どうやら私が勇気づける必要はなさそうですわね」
「ティアラ・・・・・・? お前逃げなかったのか?」
「あなたのことを信じてますから」
ティアラは傷だらけのファングの身体に優しく触れる。一つ一つ彼の血が流れている場所に手が触れる度にその傷は癒えていった。彼女の回復魔法だ。最後にティアラはファングの爪の割れた手を治すとその手を両手で包み込んだ。彼女は聖母のように微笑む。
「ファングさんは何時だって私の夢を守るために、アリンさんの記憶を取り戻すために戦ってきたんです」
「ああ、そうだよ。悪いか」
「いえ・・・・・・誰かのために戦える人が何の信念も覚悟もないなんてありえません。だからあの男の言うことは全部デタラメですわ」
必要ないと言いつつ俺を勇気づけているのか、ファングはうっすらと笑う。
「へ、お前の言う通りだ。嘘つき野郎に俺様の本気を見せてやる」
「お行きなさい、ファングさん! あの偉そうな男にあなたの信念と覚悟を見せておやりなさい!」
「ああ! 絶対に勝つ!」
ファングはファイズたちの元に駆け寄る。圧倒的な力を持ったアポローネスを前に三人がかりでも苦戦を強いられていた。フォトンブラットを纏ったファイズの攻撃は避けられ、シャルマンとガルドは当たったところでダメージにならないから回避すらされない。
「お前ら助かったぜ」
「たく、おせえんだよ」
「彼はかなりの手練れです。でも僕たちならやれます」
「負ける気せえへん!」
四人なら負ける気はしない。巧たちはそう思った。
「邪魔はさせないよ」
アポローネスの前に北崎が立つ。
「お前は北崎!?」
「四天王クラスが二人もかよ!?」
ガルドは現状でも不利だった戦況が更に悪くなり舌打ちをした。
「いいや、三人ダゼェ! かかか!」
「ザンクはんまで!?」
「おい、連れてきてやったのに裏切る気か?」
「いや、てめえらの味方をすることが裏切りだからな」
忘れていたがザンクはドルファ四天王だ。こうやってファングたちと敵対することが普通である。だが自分のことを嫌っているはずのザンクが味方をすることにアポローネスは目を見開いた。
「気まぐれな貴様らが何のつもりだ?」
「あぁ? そんなもん気まぐれだァ」
「素直じゃないなあ、ザンクくんは。剣士は正々堂々一対一で戦うものなんでしょ? 手伝うよ」
「つべこべ言ってんじゃねえ。いくぞ『フェアライズ!』」
北崎とザンク、二人の異形が巧たちに襲い掛かった。北崎は巧とガルドを、ザンクはシャルマンを狙う。そして最後にファングとアポローネスだけが残る。
「なあ、戦う前に聞いてくれ。俺にだって信念がある。覚悟だってある」
「言ってみろ」
「夢を探している奴がいる。記憶を探している奴がいる。そして世界平和を願う奴がいる。俺の信念は、覚悟はそんな奴らをこの剣で守ることだ・・・・・・! 『フェアライズ!』
ファングは紅炎真紅の戦士へと変身する。
「ふ、では見せてみろ。貴様の覚悟と信念を」
ファングはアリンの大剣を手にアポローネスへ向かう。アポローネスは二本の剣を構える。
「ハァッ!」
「フンッ!」
ファングはアポローネスに勝つために防御を捨てた。二本の剣を何度も身体に受けながらも大剣をガムシャラに振り回してアポローネスの身体に叩きつける。だがアポローネスも硬い。そこまでダメージはないように見える。だが一か八かで賭けるしかない。自分がどれだけ傷ついても生きていればまたティアラが治してくれる。後のことは考えない。そう、彼には倒れても支えてくれる仲間がいるのだから。
「この程度が貴様の覚悟か?」
アポローネスの連撃がファングを襲う。激しい火花が飛び散る。彼は勢いそのままにファングを押し飛ばした。剣に闇を纏いアポローネスは跳ぶ。
「この程度があんたの信念か?」
「なにっ!?」
ファングはそれを両手で受け止めた。激しい痛みを感じたはずだ。だが彼は怯まない。揺るがない。拳を握るとアポローネスの腹を殴った。これまでと変わらないはずのその一撃にアポローネスは大きくのけ反る。更に追撃で拳を叩きつける。硬直した彼の身体にハイキックが突き刺さる。
「あんたの剣にはなんの信念も覚悟もない。全てを捨てるのが覚悟で信念だと?」
「そうだ! そのために妹も捨てた! 決して折れることのない剣になるために! なのにその私に覚悟も信念もないだと!? ふざけるな!?」
「だったらお前に何が残ってる!? 今お前の立っている場所には何も残っていないだろ!」
「っ!?」
アポローネスは目を見開いた。ファングの背中に無数の人間が見える。ティアラ、アリン、巧。ファングの仲間たち。そして誰かに傷つけられた人々。彼が守りたいと思ったものの全てだ。幻覚───。いや、これが彼の覚悟で信念なのだ。誰かを守るために剣を握る。それこそがファングが戦う理由なのだ。抱える想いの大きさにアポローネスは勝機を見出だせなくなった。
ファングはアポローネスに不敵な笑みを浮かべる。彼の背中には何も見えない。アポローネスにあるのはその手に握られた剣だけ。これが彼の覚悟で信念ならばファングは負ける気がしない。彼は右手に炎を纏う。
「ハァッ!」
「グゥッ!」
ファングの拳がアポローネスを吹き飛ばした。彼のフューリーフォームが解除される。
「これで俺の勝ちだ!」
「くっ! まだだ、まだ戦いは────ごはっ!」
「アポローネス!?」
生身となったアポローネスの身体から鮮血が噴き出した。彼は膝をつく。ファングは固まる。いやこの場にいる全ての人間の時間が止まった。敵も味方も。あのザンクまでもが困惑している。
「・・・・・・やっぱり無茶な変身だったみたいだね。アポローネス、キミの身体はその負担に耐えられなかったんだよ」
ただ一人研究者であるハーラーだけがこの状況を冷静に見極める。
「短期決戦型の力なのにどれだけの時間その姿でいたんだい? キミの身体はもう限界だよ」
「こんな幕切れかよ」
ファングはフューリーフォームを解除した。
「う、うそだ。あ、アポローネスが負けた」
「どうする、パイガも戦う? 今なら北崎やザンクもいるよ」
「私が勝てるはずがないだろ! か、会社に連絡だ」
アポローネスの敗北によって大きく偏った戦況に怖じ気づいたパイガが逃走する。
「まだだ! まだ終わっていない!我が魂の一撃を受けてみよ!」
アポローネスは満身創痍にも関わらず剣を持つ。まだ戦うのか、身構えたファングは驚愕する。とんでもないエネルギーが剣に集束していた。まだこんな力を隠していたのか。いや、本当は力なんて残ってはいない。文字通りの魂全てをその一撃に捧げる気だ。ファングも静かに構える。
「巧はん、止めるで。アポローネスが死んでまう!」
「ああ、分かってる」
「いかせないよ!」
アポローネスを止めようとする巧とガルドの進路をドラゴンオルフェノクは封じた。
「邪魔すんな!」
「邪魔なのはキミたちだよ。アポローネスくんはもう手遅れだ。なら、なら戦わせてあげてよ。止めるならもっと早く止めるべきだったんだ・・・・・・!」
「北崎、あんさん・・・・・・」
北崎の真剣な様子に巧とガルドは動くことが出来なくなった。
「ハアアアア!」
「ウェェェイ!」
アポローネスとファングが交差する。───一閃。
「見事だ。・・・・・・私ももっと早く貴様のような覚悟や信念を持てていれば、な」
勝ったのはファングだ。アポローネスは静かに崩れ落ちた。
「バカ、やろうが」
◇
「おい、起きやがれェ! アポローネス!」
「わ、私は」
顔を殴打された痛みでアポローネスは目覚めた。
「何故、私はまだ生きている・・・・・?」
「ファングくんが無意識で急所を外していたみたいだね。本人は殺したと思ってたみたいだけどね」
「そうか。ふ、あの少年は私にまで情けをかけるか」
これほどまでに固い信念があるなら勝てない訳だ。アポローネスはふ、と笑う。
「ザンク、ファングは強い。おそらくドルファの誰にもヤツに勝つことは出来ない」
「は、俺様は勝つぜェ」
「真面目に聞いてくれ、頼む。ヤツはフューリーを三本使ってフェアライズしている。我々がどれだけ出力を上げようと足りぬ。だから・・・・・・」
アポローネスは自身のフューリーをザンクに渡す。
「これをやる。量ではヤツに劣るが質では勝るはずだ」
「どういうつもりだ?」
「このまま消えてしまうくらいなら、誰かに渡してしまった方が良いだけだ。本当は、不本意だ。・・・・・・セグロ、今日からお前の主人はこの男だ」
「だから、どういうつもりだァ!?」
ザンクはアポローネスの胸ぐらを掴んだ。北崎がその手を止めて首を振る。
「北崎。貴様、にも、頼みたいことがある」
「なに、アポローネスくん」
「エミリを、妹を頼む。あの娘は、きっといい女になる。悪い虫が寄り付かないように守って、やってくれ。なんなら、お前にならくれてやっても良い。あの娘も、お前を気に入っている」
「そんなの自分でやりなよ。僕なんかよりエミリちゃんは・・・・・・アポローネスくんのが喜ぶだろ!?」
今度は北崎がアポローネスの胸ぐらを掴んだ。同じようにザンクが止めて首を振る。
「なあ、ザンク」
「あぁ?」
「私は剣になれただろうか」
アポローネスの目が徐々に濁り始める。その命が尽きようとしていた。
「人は剣になんかなれねえよ。てめえはただの人間だ」
「そう、か。ただの人間か」
「だが・・・・・・お前は家族想いで仲間想いの人間だ。最低でどうしようもない屑の俺よりは、剣に近かったんじゃねえか?」
「貴様が私にそんなことを言うとはな。気持ち悪い。・・・・・・だが少し嬉しいよ」
アポローネスはふ、と笑う。ザンクも笑う。もっと早くこの男の本心を知れていればと少し後悔した。
「北崎、私が死ねばエミリは泣いてしまうかな」
「さあね。でもキミが死んだら僕は泣くかもね」
「男が、泣くんじゃない。もしエミリが泣いていたら泣き止ませてやってくれ。あの娘は泣き虫だ。放っておいたらずっと泣き続ける」
「うん、分かったよ。分かったから僕がエミリちゃんを守るから」
アポローネスは北崎の頭を撫でる。初めて出会った時は気味の悪い少年だと思った。だが北崎は変わった。子どもに優しくする姿を見た。誰かのために戦う姿を見た。妹と笑顔で話している姿を見た。北崎は純粋な子どもと変わらなかった。それも意外と優しい少年だったのだ。
「ああ、最期にお前たちと話せて────」
良かった、と言葉が続くことはなかった。
アポローネスは死んだ。
「おい、起きろ。起きろよ、アポローネス! 起きやがれェ!」
ザンクはアポローネスの胸ぐらを掴むと顔を殴った。何度も、何度も、何度も。だが彼が目覚めることはない。どれだけ殴ろうともうアポローネスが痛みを感じることはないのだ。目を開くことはないのだ。その口から憎まれ口を言われることもない。ザンクは苛立ちを押さえきれずアポローネスを地面に叩きつけると獣のように吠えた。
「あは、あはは。ははははは!」
北崎は笑う。狂ったように笑う。そうしないと本当に頭がおかしくなりそうだ。痛い。痛い。胸が痛い。息をするのも苦しい。完全にオルフェノクになってしまえばこの胸の中から沸き出る苦しき痛みから解放されるのだろうか。
ダメだ。北崎は首を振る。エミリを頼む、とアポローネスに頼まれた。彼の願いは人でなければ叶えることは出来ない。だからその誘惑に身を委ねてはいけない。人でなければならない。怪物になろうとした北崎をエミリという存在がかろうじて人間として繋ぎ止めていた。
「・・・・・・アポローネスくん、僕はキミとの約束を絶対に守るから。だから安心して、ゆっくり休んでよ」
ザワザ平野に雨が降った。その雨が止むのが何時になるのか、誰にも分からない。
アポローネスを倒したファングたちが何を感じていたかは次回で明らかになります