乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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たっくんがニコ生やって、草加さんが編集者になって、北崎さんが魔戒騎士になるなんて時代も変わりましたね。


加速する本能 前編

「なあ、店長いるか?」

「なんのようだ、乾?」

 

 巧は古びたカビ臭い写真館に来店した。この写真館はゼルウィンズで最も古い店と噂になるだけあってとてもボロっちい。ある程度補強はされているから崩れる心配はないが客を呼ぶならもう少し小綺麗にするべきだと巧は思う。しかし、この写真館の店長はぼろぼろな雰囲気に相応しくない若くそれでいて美形の青年だった。彼は巧から手渡されたファイズショットに眉間を寄せる。

 

「また現像頼みたいんだよ、貯まっちまってさ」

「もっと早く来いと何時も言っているだろう。・・・・・・待っていろ」

 

 巧は適当に置かれた椅子に腰を下ろす。ギシギシと不穏な音が鳴るが崩れることはない。最初の内は恐る恐ると立ち上がったが今ではほとんど無心で座れるようになった。

 

「しっかしきったねえ店だな。いい加減建てかえろよ」

「余計なお世話だ。この店にはたくさんの子どもたちの思い出があるんだ、壊す訳にはいかん」

「また増えてんな」

 

 店長はフリーのカメラマンもやっている。彼が撮った写真はマニアからの評価も高いという噂だ。店内の壁を見ればところ狭しと店長の撮った写真が敷き詰められていた。一番新しい写真には戦災孤児と思われる少年の笑顔が写っていた。良い写真だ。子どもの笑顔を撮らせれば彼は世界一だった。巧がこの写真館も気に入っているのもこの写真が見れるからだ。ここには人々の笑顔がある。

 

「なあ、あんた紛争地に行ったんだろ」

「ああ。何か問題があるか?」

「いや。・・・・・・緑の生き物って知ってるか?」

 

 巧はファングが以前話していた緑の生き物についてふと気になった。たまたま少年の写真が戦場で撮ったものだからか思い出したのだ。店長は複雑な顔で腕を組む。少し思い当たる伏があるようだ。

 

「・・・・・・兵士の兵器だけを破壊して戦争を止める怪物がいると聞いたことがある。なんでも人間同士が争うことを快く思っていない女神がこの星に残した最後の切り札なのだと。一種の伝説だ」

「切り札? 随分壮大な話しだな」

「まあ、その正体は頭に剣が刺さった間抜けな着ぐるみという話しもあるがな」

 

 それはそれで見てみたい、巧はますます緑の生き物の正体が気になった。

 

「ほら、現像出来たぞ」

「サンキュー。あ、あと新しいフィルムを頼む。必要なんだよ」

「合計でこの値段だ」

 

 巧は料金を支払う。写真の入った封筒とフィルムを受け取った。

 

「毎度あり。写真は定期的に現像するんだぞ。時を刻むものだからな」

「ああ。その内また来るよ」

「定期的、と言ったんだがな」

 

 巧は写真館のボロい扉を開けた。

 

「緑の生き物か・・・・・・いったい何処にいるんだろうな」

 

 ◇

 

「お帰りなさい、巧さん」

「おかえり」

 

 向日葵荘に帰った巧を果林とエフォールが迎える。

 

「ああ、ただいま。ほらエフォール、約束のフィルムだ」

「ありがとう、巧」

 

 巧がわざわざ写真館に行ったのには理由があった。それはエフォールが首にぶら下げた古びたフィルムカメラにある。ミツボに頼まれて倉庫の掃除を手伝っていた彼女はたまたま見つけたそれをいらないからとミツボからもらった。しかし、ファングや巧の持っているカメラはデジカメでフィルムなんて持ち合わせていない。ちょうど旅の記録として撮り貯めていた写真を現像したかった巧は一緒にフィルムを買いにいくことにした。

 

「でもカメラなんて何処で使うんだ?」

「思い出、いっぱい撮りたい」

「エフォールは色々な趣味に手を伸ばしてるみたいなんですよ」

 

 今まで殺し以外にまともに何かをしたことがないエフォールは何をするのも新鮮だ。この前の遊びのように新しい楽しみを見つけられるなら協力はいくらでもする。

 

「良い心がけだね。ボクの知り合いの旅人もカメラを愛用しているよ。ま、撮る写真はつくづく酷い出来だけどね」

「えっへん」

 

 見慣れぬ男の称賛にエフォールは胸を張る。

 

「・・・・・・巧さん、誰ですかこの人」

「知るかよ。客だろ、ここ宿屋だぜ」

 

 今更ながら向日葵荘は宿屋だ。ファングたち以外にも利用客はいる。毎日暮らしていると感覚が麻痺するがこのように他の客もいるのだ。この男のように見ず知らずの他人に声を掛ける者は早々いないが。

 

「乾巧、何をこそこそ話しているんだい?」

「巧さんの知り合いっぽいですよ」

「え、こいつ俺の知り合いなのか?」

「だから何をこそこそ話しているんだ?」

 

 巧を知っている素振りを見せる男に二人は首を傾げる。

 

「なあ、あんた俺の知り合いか?」

「知り合いと言えば知り合いだし、他人と言えば他人だ。ボクはキミの存在は知っているけどこうして顔を合わせるのは初めてさ」

「はあ?」

 

 この男は一体なんなんだ。言動が意味不明で掴み所がなさすぎる。

 

「────ここにいたか、こそ泥」

「もう逃がしませんわ」

「ボクはこそ泥じゃない。怪盗と呼びたまえ」

「ファング、ティアラ?」

 

 ファングとティアラが二回から飛び降りた。二人ともその手に武器を持っている。男はニヤリと笑った。

 

「巧、エフォール。ソイツ取り押さえろ」

「その下着泥棒は私たちのフューリーを盗んだんです」

「だから怪盗と呼びたまえ。というか下着なんて盗んでない」

「なに!? こいつがフューリーを!?」

 

 視線を改めて向けると男の背中に背負った武器袋の中に確かにフューリーのような武器が入っていた。本当に盗んだのか。巧は彼の肩に掴み掛かる。場馴れしているはずの彼の手を軽々と男は避けた。巧の顔に張り手を入れると男は出口に向けて走り出す。

 

「動く、な」

「おっと。その物騒なものをしまってくれないかな?」

「お前、泥棒。殺!」

 

 エフォールの鎌が男の首を捉えた。少しでも不穏な動きをすれば彼の命はないだろう。

 

「泥棒じゃなくて怪盗だ。更に言うならボクは」

「っ!?」

 

 エフォールは男と距離をとった。見たこともない拳銃を向けられていたからだ。彼は彼女が悟るよりも早く銃口をエフォールに向けていた。撃たれていたらどうなっていただろう。ヒヤリとする。

 

「逃がすか」

「大人しくお縄につきなさい!」

 

 ファングが剣を、ティアラが薙刀を男に振り下ろす。

 

「────通りすがりの仮面ライダーさ。覚えておきたまえ」

『アタックライド インビジブル』

 

 二人の攻撃が空を切る。男が姿を消した。

 

「くそ、逃がしたか!」

 

 ファングは苛立ちを抑えきれず、壁を殴った。

 

「落ち着きなさいよ、あんたが焦ったって何の解決にもならないわ」

 

 アリンはファングの肩を叩いた。彼はふうと深呼吸すると頭を掻く。

 

「んなもん分かってるよ」

「お前ら何があったか教えろよ」

「実は・・・・・・」

 

 ファングとティアラが回想する。

 

『私の部屋には10本あります』

『俺の部屋には確か4本だ』

『へー、そんなにたくさんの妖聖が。ぐふふ、楽しみだなあ』

 

 妖聖研究家であるハーラーは妖聖のサンプルが欲しいとファングたちに頼んだ。彼女は度重なる激闘によっておろそかになっていた本職を久しぶりに取り組みたくなった。本来インテリ派のハーラーは溜まりにたまった鬱憤を晴らすべく立ち上がった。

 

『それじゃあまずはファングくんのフューリーから堪能しよう』

『語弊がありそうな言い方ですわね』

『ハーラーの場合はあながち語弊でもねえけどな』

 

 どうせハーラーがするのは研究と称したセクハラだ。

 

『ファングさん、ちゃんと片してるんですか?』

『ハーラーよりはましだ。ブレイズが口うるさいからな』

『バハスさんも口うるさいけど部屋が汚いじゃないですか』

 

 といってもファングは自分の部屋を意外と丁寧に扱っていた。寝床は快適な方が良い。趣味の楽器は壁に立て掛けられているし、置きっぱなしになっていた漫画や旅雑誌はブレイズに言われて本棚に戻したばかりだ。今は一番綺麗な時である。

 

『ほら、やっぱり汚いです。ハーラーさんと大して変わりませんわ』

『はあ? なにいっ、てんだ』

 

 ファングの顔が固まる。部屋が荒らされている。一番綺麗にしていたはずのベッドはひっくり返ってシーツがぐちゃぐちゃになっている。本棚からは漫画雑誌や旅雑誌、小説が床にぶちまけられていた。唯一楽器だけは無事だが一番大切に保管していたものがない。

 

『盗まれた!』

『・・・・・・え? ま、まさか強盗ですか!?』

 

 フューリー。苦労して集めたそれが一つ残らずなくなっていた。いや、一つだけ残っている。実体化して倒れているブレイズだ。

 

『ブレイズ! キョーコと他のフューリーはどこだ!?』

『う、うう。見たこともない男が持っていてしまった。抵抗した俺はやられた。・・・・・・奴はどこだ!?』

『うーん、もう逃げちゃったんじゃない? もぬけの殻だよ』

『そんな呑気なこと言ってる場合じゃねえだろ! 探すぞ!』

 

 ファングたちは飛び出すように部屋を出た。

 

『くそ、どこにいると思う?』

『やはり外ではないでしょうか? この近辺にまだい、る、はず』

 

 ティアラは自分の部屋が開いていることに気づく。いや、まさかそんなはずはない。普通泥棒なら目当ての品を手に入れたらすぐに現場から離れるはず。彼女は恐る恐る顔だけ部屋に入れる。

 

『うーん、どこにフューリーがあるかなあ? 流石にここを探すのは罪悪感があるんだけど。ま、いっか』

 

 見たこともない男がクローゼットの中を漁っていた。ティアラは悲鳴を上げそうになる。その口をファングは抑えた。彼は無言で男の背後に回る。ファングは拳骨を握りしめ

 

『何やってんだ、バカ』

 

 振り下ろした。

 

『あいた!? く、もう見つかってしまったか。流石はフェンサーだ・・・・・・!』

『いや、てめえが間抜けなだけだろ』

『間抜けではない。フューリーは100本なければお宝としての価値はない。なら全ていただいていこうと思ったまでさ』

 

 泥棒のくせに欲張りとは致命的な欠点を持った男だ。本来の彼は引き際を分かっているのだが今回のお宝は特異なものである。

 

『ファングさん、その下着泥棒を絶対に逃がさないでください!』

『分かってる。ぼこぼこにして警察に突き出してやるよ』

『言っておくがボクは下着は盗んでないよ』

『漁っていたなら似たようなものでしょうが!?』

 

 真顔で否定している辺り本当に不本意なようだ。だが少なくとも今その手に持っているものを手放さない限り男の呼び名は下着泥棒のままになるだろう。

 

『ちょっとあんたたちうっさいわよ。人が寝てたんだからもうちょっと静かにしなさいよ』

『アリンさん、扉を開けないで!』

『な、なによ』

 

 騒がしい声に目覚めた隣の部屋のアリンが扉をドンドンと叩いた。

 

『泥棒だ、扉押さえとけ!』

『ファングさん、前!』

 

 扉に気をとられたファングが男に視線を戻すと既に窓の外へと身を乗り出していた。

 

『あ、てめえ! 逃げんな!』

『この世界のお宝、フューリーはいただくよ。じゃあねー』

 

 男は手をピストルに見たててファングに発砲すると窓から飛び降りた。彼は身を乗り出して下を見る。男はもういなかった。

 

「という訳だ」

「ちょっと待て。なんでアイツ宿に戻ってきてた」

「裏をかこうとしたのでしょう。大量のフューリーを持ち運ぶのは不可能ですから。私たちが追いかけようと外に出てもぬけの殻になったところであの魔法のような力を使い全てのフューリーを奪い取ろうとしたのでは?」

 

 今度はきちんとした怪盗っぽい作戦だ。巧は少しだけあの男を評価した。

 

「あいつぜってえ捕まえてやる。よくもキョーコを盗みやがったな」

「俺も手伝う。あいつは俺のことを何か知っている、聞き出さねえと。でも、あてはあるのか?」

「ねえよ。こんな時はロロだ」

 

 ◇

 

「いらっしゃーいお兄ちゃん。今日もあたしの中を幸せで一杯にしてくれる? もちろんお金でだよ」

「今までで一番やべえ表現だな、おい」

 

 何時もの広場に行くとロロが待ち受けていた。今日は何やらイベントでもあるのか何時もはまばらな広場も多くの人で賑わっている。彼女自身も何か出店を作っていた。

 

「よう、ロロ。早速で悪いんだがここらでフューリーを盗んでる男についての情報ないか?」

「その人なら知ってるよ。あたしからフューリーをたくさん持っている人の情報を買ったんだ。あー、お兄ちゃんのところに行ったんだね。よりによって一番敵に回しちゃいけない相手なのに」

「お前が原因かよ!?」

 

 ファングは思わずロロにチョップした。

 

「・・・・・・だってレア物の道具くれたんだもん。見てこれ、錠前開くとモンスター出るんだよ! これはもらわないと損だよ!」

『巻き込まれる側のことを考えろ、阿呆』

「ごめんなさい」

 

 まあ自分たちを売ったのがロロならそれは不幸中の幸いだ。彼女の情報網の広さならあの男のアジトなり住み処なりを見つけるのにそう時間は掛からないはず。ロロなら少なからずあの男の情報も聞き出しているだろう。

 

「お詫びに今日は半額だよ」

「そ、それでも金はとるんか。金にがめつい銭ゲバ姉ちゃんやな」

「もっちろん!」

 

 ファングは料金を払った。

 

「まずあのお兄さんの名前は海東大樹。本人曰く世界をまたに掛ける怪盗。本当か分からないけど異世界から来たんだって」

「は? 異世界? なんだそりゃ。ありえねえよ」

「いや、ありえない話しではないよ。私たちは既にキュイくんの力を使ってそれに限りなく近い場所に行ってるじゃないか。それに彼が逃走する間際に使った力はどんな原理なのか分からなかった。仮面ライダーというワードだって聞いたことがない」

 

 言われてみれば封印の間も異世界のようなものだ。それに男────海東が使っていた力を巧たちは今まで見たことがない。カードの力を使って戦う戦士なんてこの世界にはいないはずだ。失われた古代文明の中にはもしかしたらあるかもしれないが専門外のことは分からない。

 

「あいつが異世界人なら別の世界に逃げられちまったんじゃねえか」

「巧、それはシャレにならねえよ」

「ですがその可能性も充分に考慮しなくては」

 

 これは詰んだかもしれない。

 

「俺は諦めねえぞ。異世界に逃げたなら異世界まで追いかけてやる」

「私も、キョーコは友達だもん」

 

 しかし仲間を連れ去られてそう簡単に諦め切れる程彼らは薄情じゃない。

 

「そういうことなら大丈夫。お兄さんならまだこの世界に残ってるよ」

「本当か!?」

「うん。今日のゼルウィンズ・フラワーフェスタの特別展示品を狙ってるんだって」

 

 フラワーフェスタ? ファングたちは首を傾げた。

 

「花の祭典ですよ。様々な花を町中に飾るんです。ミツボさんも今朝、花壇の花を集めていましたよ。都市でアリーナ会場を借りてフラワーアートを作るらしいですよ」

 

 フラワーフェスタについてはシャルマンが解説した。

 

「へー、で特別展示品ってのは?」

「妖聖の花。薬にすればどんな傷でもたちまち治しちゃう不思議なお花なんだ。めったに採れないから貴重なんだよ。それにとっても綺麗な花でもあるんだ」

「そりゃお宝だな」

 

 自分が異世界を旅するならどんな傷も治せる薬になる花は是非欲しい。

 

「特別展示品の花は会場のどこかにあるよ」

「だったらやることは一つだ」

「待ち伏せ、だな」

 

 彼らは無言で頷く。

 

 ◇

 

「ほら、ザンク。笑顔よ」

「僕みたいに笑えば良いんだよ、簡単でしょ?」

「そうです。にこー!」

「てめえらぶっ飛ばされてえのか?」

 

 時を同じくしてザンクたちドルファ四天王とエミリは広場で花を売っていた。これはドルファが経営している孤児院の子どもたちが作ったものだ。花形は何を思ったか幹部たちを店員として抜擢した。もともと子どもたちの味方であるマリアノと北崎はともかくザンクまで花柄のエプロンをつけて店員をやる姿は中々にシュールだ。

 

「てめえやマリアノはともかく俺は関係ねえだろ」

「僕だって関係ないよ。でも子どもたちの喜ぶ顔が見たいじゃない?」

「俺ァ、ガキが泣き叫ぶ姿のが見てえよ」

 

 ニヤリと笑うザンク。その笑顔では客商売は不可能だな。マリアノは苦笑を浮かべる。

 

「せっかく素敵な顔をしてるんですからもっと優しい笑顔を浮かべた方が良いですよ」

「エミリちゃん、それ本気?」

「冗談だろォ?」

「本気です」

 

 どんだけ胆が据わってるんだ。流石にあのアポローネスの妹だけはある。

 

「ほら、お客さん来ますよ。スマイルスマイル!」

「「スマイルスマイル」」

 

 北崎たちがザンクに向けて満面の笑みを浮かべる。ザンクは殺意を抱く。

 

「てめえら後でぜってえ殺『あのぉ』・・・・・・いらっしゃいませぇぇぇぇええ!」

 

 話しかけられたザンクは振り向くと営業スマイルを浮かべる。それは彼の存在を知る者が見れば間違いなく爆笑するであろう顔だ。事実傍にいた北崎とマリアノが笑いを一生懸命に抑えている。

 

 カシャリ!

 

 シャッターを切る音が鳴る。・・・・・・なんだ、今の音は。ザンクが恐る恐る目を開くとそこには

 

「く、くく。撮ったか?」

「うん」

「よおやった。後でワイのとっておきの羊羮やるで!」

 

 ファングたちがいた。カメラを構えたエフォールを確認するとザンクは固まる。撮られた。自分の満面の笑みを。ザンクはひきつった笑いを浮かべる。

 

「お、お客様ァ。こちらのスマイルは1000goldになりまァす。写真は追加で1000goldになりまァす。嫌だったら即座に削除することがオススメでェす!」

「いいよ、払う」

 

 ファングは料金を支払った。

 

 ザンクはぐしゃりと料金を握りつぶした。

 

「あ、あのザンクさんがキレイな笑顔を。ふ、ふふ」

「し、信じられないわ。ぷくく」

 

 狂犬のひょうきんな顔にティアラとアリンも笑いを抑えることが出来ない。ザンクは凄まじい表情を浮かべ、肩をぶるぶると震わせる。

 

「ち、頭を冷やしてくる!」

「あ、ザンク。・・・・・・もっと話したかった」

 

 ザンクはため息を吐くと走って何処かへ行ってしまった。

 

「少し意地悪だったかなあ」

「良いのよ。普段私たちがかけられている迷惑に比べればまだまだ全然優しいわ」

 

 北崎とマリアノは肩をすくめた。

 

「あの、代金を貰うだけでは悪いんで何かお好きなお花を選んでください」

「お、悪いな。じゃあどれにしようかな」

 

 エミリがファングたちに花を指差した。現状北崎の手伝いで来たはずの彼女が一番しっかりとした店員をやっている。

 

「俺はこれにする。なんていう花だ、これ?」

「その花はグラジオラスよ。剣を意味する花。あなたに相応しいじゃない。ちなみに花言葉は勝利よ」

「へー、あんた花言葉分かるんだな」

 

 花言葉も知っているとは本当にマリアノはお嬢様みたいだ。

 

「私ももらっても良いですか?」

「大丈夫です。2000goldにはまだ全然足りませんから」

「何にするんだ、果林?」

「巧さんが選んで下さい!」

 

 いきなり花を選べと言われてもどうすれば良いのやら。巧は直感で果林に似合いそうな花を選んだ。水色の美しい花。それを彼女に手渡す。果林は微笑む。

 

「可愛いお花です。ありがとうございます」

「それはネモフィラね。花言葉は可憐。あら、あなたその娘をそういう目で見てるの?」

「ちげーよ! 花言葉なんて知らねえからな」

「か、可憐だなんてそんな・・・・・・!」

 

 照れる巧と果林にマリアノはクスリと笑う。中々にからかいがいがありそうな二人だ。

 

「ファングさん!」

「あたしたちのを選びなさい!」

「い、いいけどよ。な、なんだよ、お前ら?」

 

 食い気味の二人に首を傾げるファング。彼は適当に花の山から彼女たちのイメージに合う物を選んだ。ティアラにはピンク色の花。アリンには赤色の花。

 

「へえ、お嬢さんはサザンカなの」

「アリンちゃんはカーネーションだね」

 

 マリアノと北崎が興味深そうな笑みを浮かべる。

 

「で、どんな花言葉なんや?」

「サザンカは困難に打ち克つ」

「カーネーションは母への愛」

「なーんだ」

「思っていたのと違いましたわ」

 

 両者ともに無難な結果になった。ティアラとアリンはがっかりしつつも悪くない花言葉にほっと胸を撫で下ろす。

 

(二人ともわざと触れてないけどサザンカには永遠の愛って意味があるし、カーネーションには無垢なる深い愛って意味があるんだけどなあ)

 

 植物にも精通しているハーラーは一人、本当の意味に気づいていた。

 

「今さらだけどあなたたち何の用があってここに来たのかしら?」

「気まぐれ、って訳ではなさそうだね」

「実はだな」

 

 ファングは事の経緯を二人に説明した。

 

「・・・・・・大変そうね」

「だろ? 何とかしてヤツの狙ってる妖聖の花の保管場所を変えるとか出来ないか。待ち伏せしたいんだ」

「少し待ちなさい」

 

 マリアノは携帯を片手にファングたちから離れた。

 

「あー、キミたちも海東大樹と会ったんだ」

「北崎、お前も知ってんのか?」

「うん。だって僕のサイガはもともと海東大樹の物だもん」

 

 衝撃の事実が発覚した。巧は驚愕に目を見開く。

 

「色々あって捕まっていた海東大樹を助けた時にもらったんだ」

「いや、お前盗んだって言ってなかったか?」

「ただしくは借りパクだけどね。まあ、海東大樹には使えないんだから僕の物ってことで良いでしょ?」

 

 あの海東から逆に盗み出すとは北崎はやはりただ者ではない。

 

「それよりもアイツと何が『準備出来たわ』」

 

 巧の質問はマリアノによって遮られた。

 

「どうだった?」

「残念だけど保管場所の移動は無理だったわ」

「そうか。どうする・・・・・・?」

 

 広い会場の中で一人の人間を探すのは困難だ。

 

「話しは全部聞きなさい。ファング、あなたを警備員として雇うわ」

「まじで!? そんなこと出来んのか?」

「ええ。フラワーフェスタはドルファもスポンサーをやっているの。そうじゃないとアリーナを会場にするなんて無理でしょう?」

「言われてみれば」

「腕の立つフェンサーなら警備員にはもってこいでしょう?」

 

 流石は安心と信頼のドルファ社だ。街のイベントにも率先して参加するなんて地域密着型の大企業だけはある。ファングが警備員として花を守れるなら待ち伏せも余裕だ。

 

「じゃあファング、私についてきて」

「ちょ、ちょっと待ってください! 私たちは!?」

「・・・・・・何を言っているの?」

 

 ファングだけを呼ぶマリアノに違和感を感じたティアラが彼女を引き留める。しかしマリアノはティアラに黒い笑いを浮かべた。ゾクリと彼女の背筋が冷える。

 

「あなたたちまでは無理よ。腕が立つからファングが任されたのよ。言っては悪いけど他は足手まといだわ」

「私もダメ?」

「ワイも?」

「あなたたちは警備には向いてないわ。特にガルド」

 

 納得がいかない。なぜファングだけなのか。一応筋は通っているがもしかしたら罠の可能性もあるかもしれない。本来ドルファとは敵対関係にある。一人になったところを狙われる可能性を考えるべきだ。

 

「ブレイズとアリンは良いんだろ?」

「もちろん。武器がなくては戦えないでしょう?」

「なら俺は構わねえよ」

「ちょっとファングさん!?」

 

 無警戒なファングをティアラが止める。

 

「キョーコが戻るためなら何でもやる。俺にとってはアリンに負けないくらい大事な相棒の一人だからな」

「それは、そうですけど」

 

 納得がいかない。ティアラは不満顔だ。

 

「俺は大丈夫だ。心配なら約束するよ。お前に何かあれば俺が絶対に助けにいってやるって」

「私を心配するよりもあなた自身のことを心配してください」

「それこそ余計な心配なんだよ」

 

 ファングはティアラの頭を小突いた。

 

「じゃ、シャルマンと巧。みんなのことはお前らに任せた」

「ああ」

「任せてください」

「俺も気を付けるけど念のため会場で海東がいないか探しといてくれよ」

 

 ◇

 

『ねえ、ファングのとこにかえりたいよー』

「我慢したまえ。ボクだってタダ働きは嫌なんだ。お宝の一つや二つもらっても良いだろう?」

 

 海東は雑踏の中を歩く。キョーコは何度か叫んだが周りの人々は気づきもしない。彼が何らかの力を使っているのだろう。

 

『わたしはおたからじゃなくて妖聖だよ?』

「別に生きているからお宝にならない訳ではないよ。コアメダルやキバットバット、ドライブドライバーに英雄眼魂だってボクからしたら立派なお宝さ」

『なにそれー?』

 

 聞きなれない言葉の羅列にキョーコはない首を傾げる。ここにファングたちがいれば海東が異世界から来たと確信に至れるのだが。彼女の場合はただの泥棒という認識でしかないので彼の言動は本当に意味が分からない。

 

「恨むならディケイドを恨みたまえ。鳴滝さん風に言うならおのれディケイドというヤツさ。ボクは色々あって彼から頼みごとをされているがまだ士を許した訳ではない」

『つかさ? かいとうのともだちなの?』

「ボクはそう思っていたけどね。士に裏切られるまでは」

 

 海東は子どものように拗ねた顔になる。ファングが時々する顔に似ていてキョーコはクスリと笑った。士という友達が余程彼は好きなのだろう。ここまで彼が見せていた余裕がなくなっている。

 

『だいじょぶ。きっとなかなおりできるよ』

「知ったような口を聞かないでくれたまえ。ボクが望んだところで士は謝らないさ」

『かいとうもごめんなさい、した?』

 

 海東が首を傾げた。

 

「何を言ってるんだい?」

『つかさとけんかしたんでしょ? ならきっとかいとうもわるいことしたんだよ。こころあたり、ある?』

「まあ数えるくらいには」

 

 キョーコは何となく数えるくらいではなく数え切れない程だろうな、と思った。

 

『まずはかいとうからごめんなさいしよ』

「ボクが? なぜ謝らないといけないんだい?」

『つかさはきっとあやまるのがはずかしいんだよ。こどもだから』

「士が子ども? ふふ、言われてみればそうだね」

 

 海東は友のことを思い出しているのかニヤリと笑う。

 

『だからおとなのかいとうがさきにあやまってあげるんだ』

「・・・・・・そうだね。子どもの士と違って大人なボクなら謝るのも簡単だ。はは、単純なことだったんだ」

 

 海東は大きく笑った。街の人たちの注目も気にせずに。彼は久しぶりに友に、門矢士に会いたいと思っていた。この世界での自分の役割が終わったら会いにいこうと、そう思った。

 

「キミ、キョーコだっけ? 気に入った。ますます欲しくなったよ」

『・・・・・・しっぱいだったかも』

 

 ◇

 

「あそこにあるのが妖聖の花よ」

「うわあ、キラキラ光ってる。キレイ!」

「へえ、確かにお宝だな」

 

 アリーナの中は花で一杯になっている。本来は競技場になるはずの場所には赤白黄色と明るい色の花が色とりどりに満たされていた。中でも一際目立つのが北端に、ファングがちょうど今立っている場所に設置されたショーケース。その中に入っている妖聖の花だ。花に興味のないファングでも一目で貴重だと分かるそれに年頃の少女であるアリンは目を輝かせる。

 

「じゃあ頑張りなさい」

「待て。一つ聞きてえことがある」

「なにかしら?」

 

 呼び止めれたマリアノは首を傾げる。

 

「何で俺だけ雇った?」

「ちょっとファング? それはさっきマリアノが言ってたじゃない。腕が立つからだって」

「それがおかしいだよ。フェンサーよりも強い警備員なんてこの世にいねえよ。ならアイツらが足手まといとかありえねえよ。それに泥棒が狙ってるなら戦力は多いにこしたことないだろ」

 

 あ、とアリンはファングが言っていることに納得した。

 

「そうねえ。このままフューリーを取り返せなければあなたたちの戦力は大幅に削れるってメリットはあるけど。実のところ深い理由はないのよ」

「はあ? じゃあなんで『あなたとこうしたかったからじゃ、ダメかしら?』っ!?」

「ちょっとあんた!! なにやってんの!?」

 

 マリアノはファングの胸にそっと抱きついた。突然の事態に彼は目を見開く。

 

「・・・・・・ファング、気をつけなさい。あなたたちの敵は私たちドルファだけではないわ。」

 

 マリアノが耳元で囁いた言葉にファングは目の色を変える。

 

「・・・・・・どういうことだ?」

「すぐに分かるわ」

「あんた、さっさと離れなさいよ! あたしのファングに何で抱きついてるのよ」

「いや、何時からお前のものになった」

 

 アリンがマリアノを引き剥がした。彼女は敵意を剥き出しにした猫のようにマリアノを睨む。その様子にマリアノはクスリと笑う。

 

「ふふ、心配しなくてもあなたのパートナーのファングはとらないわ」

「当たり前でしょ!」

「じゃあね、ファング。私はもう行くわ」

 

 今度こそマリアノは立ち去った。

 

「なんなのよ、あいつ?」

「さあな。だけど・・・・・・」

 

 敵はドルファ以外にもいる。その言葉の意味はいったい・・・・・・? ファングは何とも言えない表情を浮かべる。

 

『ファング、背中に何かが付いているぞ』

「まじ?」

「黒いバラね。マリアノのものかしら?」

 

 

 ◇

 

「いたか?」

「こちらにはいませんでした。ティアラさんは?」

「残念ながら。私も見つけられませんでした」

 

 ファングが妖聖の花の前で警備を始めた頃、巧たちは海東の捜索をしていた。会場内は既に妖聖の花を一目見ようと集まった人々で満員になっている。これだけ人が集まっている中で一人の人間を探すのは非常に困難だ。森の中で木を探しているような状況で見つかるはずがない。

 

「仕方ありません。北崎さんからもらった関係者席のチケットもありますしそちらへ移動しましょう。いざというときにファングさんの援護も出来ますから」

「そうだねえ。探すのもつかれちゃったしそれで良いんじゃない? 休憩しよう」

「ハーラーはほんとにマイペースだな」

 

 仲間が連れ去られているのに呑気なものだ。

 

「私は、外を探してみる」

「ワイも手伝うで。別に花を見る趣味はあらへんしなー」

「エフォールがそうするなら私も行きます」

「巧はんはどうするんや?」

「俺も行く。一応ファングにお前らのこと任されてるからな」

 

 巧たちがパーティから離脱する。

 

「では僕たちも行きましょう」

「ファングさん、しっかり警備員の仕事をやれてるんでしょうか?」

「無理だろうな」

 

 満場一致で頷いた。

 

「しかし町中花だらけって凄いな」

「うん、綺麗」

「エフォールちゃんも花を綺麗って思えるようになったのね」

「本当に普通の女の子らしくなれて良かったです」

 

 何事にも関心のなかったエフォールが道端の花を気にかけられるようになる日が来るとは、果林は嬉しくて思わず笑みを浮かべた。

 

「あれ、お兄ちゃんたちアリーナに行ったんじゃないの?」

「ちょっと色々あって戻ってきた。お前は?」

「あたしはビジネス、するはずだったんだけど今回は失敗しちゃった」

 

 ロロは山積みになった花束を指差した。このイベントに便乗して売ろうとした花が全く売れなかったらしい。

 

「私もダメでした・・・・・・」

「お前はさっき北崎たちと一緒にいた」

「エミリです。よろしくお願いします」

 

 近くで店を開いていたエミリも悲しげな顔でため息を吐いた。

 

「せっかく孤児院の子どもたちが頑張って作ったのにかわいそうです」

「あたしだって苦労して入荷したんだよ。普段とはルート違うからお金の損も何時もの粗悪品より多いし」

「さらっと粗悪品売ったって告白してんじゃねえ」

「「はあ」」

 

 二人はまたため息を吐いた。

 

「どうして二人揃って売れてねえんだ?」

「無料で花を配ってる人たちがいるんだよー。こんなの営業妨害でしょ!」

「えっと、妨害ではないと思います」

 

 憤慨するロロをエミリが宥める。自分も納得してないだろうにこうして他人を気遣えるとは見た目は幼いが案外年齢は巧たちに近いかもしれない。

 

「そりゃ確かに花屋からすれば良い迷惑だな」

「ただの、嫌がらせ」

「どんな花なんや?」

「青色の薔薇だよ」

「・・・・・・青色の薔薇」

 

 ────青い薔薇には気をつけなよ

 

 普段なら何気なく流すであろうはずの巧は北崎の警告を思い出し表情を変える。それはあの時、彼から同じく警告を聞いていたガルドと果林も同じだ。

 

「え、青色の薔薇を本当に配ってたんですか」

「そうだよ、エミリちゃん。みんな綺麗だからってもらってくんだ。おかげでこっちは閑古鳥が鳴いてるよ」

「ありえませんよ。別の花ではないんですか?」

 

 エミリはむー、と唸る。

 

「・・・・・・何がおかしいんだ」

「青色の薔薇は遺伝子組み換えでしか作れません。販売ですら色々と細かい制限が掛かるんですよ。それを無料で配るなんて出来るはずがありません」

 

 青色の薔薇、正式名称ブルーローズは奇跡の花と言われている。それは本来青い色素を持った薔薇がこの世に存在していないからだ。誰かが手を加えないと作れない存在。花言葉には夢かなう、不可能、奇跡、そして『神の祝福』という意味がある。

 

「巧さん、ガルドさん」

「分かっとる」

「行ってみるか」

 

 青い薔薇を配っているのは会場のすぐ傍だった。何度も行ったり来たりで世話しない、と巧は思う。

 

「青い薔薇ください」

「・・・・・・どうぞ」

 

 巧たちの目の前で女性が青い薔薇をもらっていた。黒いスーツに黒いハット、サングラスを掛けた男たちが薔薇を配っている姿は見るからに怪しい。

 

「なんや、アイツら。どうみても堅気に見えへん」

「堅気どころか人かどうか・・・・・・?」

「はあ?」

「あの人たちから変な気配を感じるのよ」

 

 果林とマリサは何ともいえない表情で男たちを見る。そういえば以前、巧から妖聖に近い力を感じると果林は言っていた。それはつまり彼らは・・・・・・。

 

「ちょっとすいません」

「・・・・・・なんですか」

「あなたたち許可出してませんよね?」

 

 巧たちが動くよりも早くドルファの兵士と思われる男たちが黒服たちに声を掛けた。

 

「そろそろ潮時ですね」

「ちょっと。このまま帰れると思ってるんですか? 話しを聞かせてもらいますよ」

「やれやれ。この私まで駒の一つでしかないとは。かつての社長の肩書きから随分と落ちぶれましたね。今の私は下の下以下です」

「は?」

 

 兵士は怪訝な表情で黒服の男を見た。彼はサングラスをゆっくりと取るとため息を吐く。

 

「神の祝福を。死に行くあなたに奇跡があらんことを」

「え?」

 

 兵士がいや、黒服たちを除いた全ての人々が固まる。兵士の腹を男の指先から伸びた触手が貫いたからだ。目の前で人が絶命した姿に思考が追い付けない。

 

 

 

 兵士は灰になった。

 

「い、いやあああああ!」

 

 北崎に会いにいこうと巧たちと一緒についてきていたエミリが悲鳴を上げる。その悲鳴はこの場にいたほとんどの人間の思考がパニックに陥る。恐怖が周囲を支配し、逃げ場を求めた人々が宛もなく駆け出す。

 

「逃げろ!! エミリ、お前は北崎を呼べ!」

「は、はい!」

「果林、『フェアリンク』!」

「マリサ、『フェアリンク』や!」

 

 巧たちは逃げ出す人々を掻い潜り、黒服たちの前に躍り出る。

 

「おや、乾さん。あなたまでこの世界にいらしてたんですか」

 

 巧たちは黒服たちを前に構える。ここから先には行かせたりしない。人々を守るために彼らは武器を持った。

 

「巧はん、知り合いか?」

「いや、知らねえ!」

「お前ら、何者っ!?」

 

 エフォールの問いに男はニヤリと笑う。

 

「私の名前は村上峡児。そして彼らは私の忠実なる兵隊・・・・・・」

 

 男────村上は指をパチンと鳴らした。周りの黒服たちはそれを合図に腰につけられたバックルをスライドした。

 

「ライオトルーパーズです」

 

『complete』『complete』『complete』『complete』

 

 黒服たちは銅の鎧に身を包む。失われた楽園の世界で人類を淘汰した無慈悲な兵隊────ライオトルーパーズ。恐るべき脅威が巧たちを囲んだ。

 

「な、こいつらは!?」

「巧はんや北崎と同じや・・・・・・!」

「こいつら、強い!」

 

 ライオトルーパーは巧たちに襲いかかった。エフォールとガルドは背中合わせで迎撃する。巧は攻撃を回避するとベルトを巻いた。

 

「くそ、やるしかねえ!」

 

 ────555

 

 ────standing by

 

「変身!」

 

 ────complete

 

 巧の身体を紅き光が包み込む。彼はファイズへと変身を遂げた。村上は懐かしきその強敵の登場にふ、と笑う。

 

「流石は乾巧だ。・・・・・・かつてより衰えてはいるが上の下と言える強さは持っている」

「ふん」

『attack effect 魂狩り』

『attack effect ワクシング クレセント』

 

 ファイズは手首をスナップさせるとライオトルーパーを蹴り飛ばした。ガルドとエフォールもそれぞれの必殺技 でライオトルーパーを吹き飛ばす。人数は巧たちのが劣っているが単純な強さでは僅かに上回っている。

 

『所詮兵隊は兵隊か。やはり私も加わらないとダメですねえ』

 

 村上────ローズオルフェノクが参戦するまでは。

 

「うおっ!」

「ぐはっ!」

「きゃっ!」

 

 ローズオルフェノクのその手から放たれたバラの花弁がファイズたちの身体に降り掛かる。ファイズの装甲からは火花が飛び散り、ガルドたちの身体には無数の切り傷が出来る。更にライオトルーパーが彼らに追撃を放つ。生身の二人に直撃したらまずい。ファイズが身を呈して庇う。切りつけられたファイズは大きくダメージを受ける。あっという間に戦況が村上側に傾く。

 

「くそ、せめてファングか北崎がいれば・・・・・・!」

『それは無理な願いです。あちらには私以上の切り札を投入してるんですから』

「なに!?」

 

 巧は驚愕に目を見開く。北崎とほぼ同等の強さを持った村上以上の相手がまだいるのか。

 

『ですからファングさんと北崎くんには・・・・・・』

 

 アリーナの一角が爆発した。敵味方問わず視線がそちらに向かう。何があった。巧たちの頭の中が真っ白になる。

 

『この舞台から退場してもらいます』

 




ヒント

アリーナ。村上以上の強敵。

さてファングたちは何と戦ってるのでしょう?
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