久しぶりに彼が登場します。
「・・・・・・本当にこいつを仲間にするのか?」
巧は真剣な表情でファングたちを見つめる。彼らは無言で考え込む。気まずい空気が流れた。
事の発端は緑の生き物ことピピンにある。彼はあの戦いから数日経ったある日、向日葵荘にやってきた。利用客の子どもたちがやけに庭に集まっているのが気になったファングがそこに行くと子どもに囲まれているピピンがいた。ピピンはファングを視界に捉えると
『探していたぞ! 良き目をした青年よ!』
と言って抱きついた。ミントの匂いがしたことに安らぎを覚えたファングは眉を歪める。ピピンを引き剥がして話しを聞いてみるとどうやら彼はファングの仲間に入れてもらいたくてこの向日葵荘に来たらしい。
「シャルマン以上に加入する理由が訳わかんねえってマジで。なに考えてるんだよ?」
「いんじゃね? 逆に今まで何か考えて行動したことあったか、俺たち?」
「私はともかくファングさんはありませんわね」
「痺れ薬盛った奴を仲間にした女に下に見られちまったよ」
漫才をするファングとティアラを無視して巧は騒動の中心にいる緑の生き物ことピピンを睨み付けた。
「かっかっか! そう警戒するでない。とって食おうなどと思ってらんわ」
「その見た目で食うって言葉使わんといてくれ。本気で怖いわ」
ガルドはピピンを本物の熊か何かと勘違いしているのかとても怯えた目で彼を見つめる。どう見ても人外だがそこまで恐れる必要はない。
「可愛い、それにもふもふ。ガルドは怖がりすぎ」
「見た目で騙されたらあかん。鉄パイプを片手に持ったマスコットに追いかけられたワイが言うんやから間違いあらへん」
「待ってください、ガルドくん。キミは一体何に追いかけられたんですか?」
そんな経験があるならお化け屋敷を怖がるのも納得だ。いや、どんな経験だ。
「そもそもなんであたしたちの仲間になりたいの?」
アリンは当然の疑問をピピンに言った。
「我輩、そこの良き目をした青年に惚れてしまったのだ! 他者を守るために己を躊躇いもなく犠牲にする姿は若い頃の我輩にそっくりだ。是非ともお主の傍でその行く末を見守らせてほしい! 変わりといってはなんだが蒼き疾風と呼ばれたこの我輩の力を惜しみ無く発揮してやろうではないか!」
蒼き疾風? ファングたちは気になる二つ名の登場に首を傾げる。緑の生き物は蒼い生き物だった時代でもあるのだろうか。本当に謎多き存在だ。
「構わねえよ。俺様の魅力に気づく奴に悪い奴はいねえ。馬車馬のように働いてもらおうじゃねえか」
「その自信に満ちた態度も威勢のよさも我輩にそっくりだ。ますます気に入った」
パット見着ぐるみのピピンがファングのように尊大な態度をとっているとは想像しがたい。ますます彼の過去が気になるところだ。
「彼の腕は確かですし、僕は賛成です」
「私も」
「エフォールが賛成なら私も賛成します」
「私は楽が出来るなら構わないよ」
巧とガルド、ティアラを除くメンバーは概ね納得してるようだ。
「仕方ありませんわ、多数決ということで納得しましょう」
「・・・・・・ま、別に構わねえよ」
「ダンナが信頼出来るならワイも別にかまへん」
こうして緑の生き物ことピピンが仲間に加わった。
◇
その日の夜、男性陣はファングの部屋に集まりピピンとシャルマンの歓迎会を行った。
「それでよ、俺たちが大人に黙ってキャンプ場から離れて虫取りに行ったら先生にバレちまってさ。たんこぶ出来るくらいの拳骨くらっちまったんだよ」
「ガキの頃から自由人だったんだな、お前」
「これくらい普通だろ。でさ。先生めっちゃ怒ってんだけど。怒りのあまり滑舌悪くなって、な、何言ってるかわかんねえの。ふざけるながフジャケルナーって。俺たち笑いこらえるのに必死だったのにそれを泣きそうになってると勘違いした先生が『反省したならいいんだ』って。もうおかしくてさ」
『あははは』
ファングは酒が入っているのか非常に上機嫌で自分の過去について語っていた。みな酒が入っているせいかちょっとした笑い話でも大笑いだ。唯一未成年の巧だけは何時も通り無愛想だが。
「巧はんは飲まんのか」
「歳を考えろ」
「ええやん、無礼講や無礼講」
お調子者のガルドは酒が入って何時も以上にテンションが高い。さっきから巧に対してやたらと飲め飲めと絡んでくる。
「これこれたっくんは未成年だ。酒を初めて飲む楽しみを奪ってはいかん」
「お、流石は年の功。年長のピピンさんやな! せやせや、楽しみはとっとくべきやな。すまんな、たっくん!」
「お前ら二人揃ってたっくん言うな」
ガルドは先ほどまで警戒していたのが嘘のようにピピンと意気投合していた。まあオルフェノクである巧を受け入れられたのだから当然と言えば当然なのだが。
(俺も今なら打ち明けられるかもな)
あからさまに人外のピピンがパーティに平然と受け入れられている今なら自分の正体を打ち明けるのも悪くないかもしれない。巧はそう思った。
「つまみが出来たぞー」
「お、美味そう」
「こういう時こそバハスはんがいて良かったと思うわ」
「おお、我輩の好物のイカの塩辛があるではないか」
花柄のエプロンを着けたバハスが持ってきた焼き鳥や塩辛などの酒のつまみをファングたちは笑顔で食べる。
「イカの塩辛が好物の着ぐるみってなんだよ」
「ピピンは着ぐるみではないですよ、巧くん」
「はいはい」
巧に今話しかけたのはピピンのパートナー妖聖のソウジ。執事風の青年の姿をしている美形の男性だ。
「ところでダンナ」
「なんだ?」
「ダンナはティアラはんとアリンはんどっちが好きなんや」
「ぶっ!?」
ファングは口の中に含んでいた酒を吐き出し、咳き込んだ。完全に不意打ちを食らった。
「て、てめえ、ふざけんなガルド!? ひ、人が口の中に物入れてる時に変なこと言ってんじゃねえよ! おかけで汚れちまったじゃねえか!」
「変ではありませんよ。むしろこういう時の定番だと僕は思いますよ」
「うるせー! お前まで余計なこと言ってんじゃねえ!」
普段あまり考えていない異性との『そういう』関係を指摘されてファングはたじたじだ。この場にいる男性陣はみなその様子をニヤニヤと眺めている。
「ふむ、確かに男ならはっきりさせておくべきだ。余計な修羅場を避けるためにもな。ファング、お前はどっちの方が好きなんだ?」
「いや、エフォールの可能性もあるぞ」
「ブレイズと巧まで調子に乗りやがって・・・・・・」
ファングは恨めしそうに二人を睨む。
「ほら、さっさと吐け」
「それとも両手に花を抱く気かの?」
「たく、めんどくせーな」
ファングはため息を吐いた。
「俺は別にどっちが好きとかそんなの考えてねえよ」
「じゃあどう思ってるかだけでも構わん」
「そうだな。なんつーか、アリンは大事なパートナーだ。何時も傍にいてくれるから安心出来る。俺が戦えるのはアリンが支えてくれるからだ。あいつは俺の考えてることを誰よりも分かってくれる。アリンが幸せなら俺も幸せだ。だから大切に思ってる」
これは本人に是非とも聞かせたいものだ、巧たちはニヤリと笑う。
「じゃあティアラは、どうなんだ?」
「どうなんだろうな。・・・・・・俺はティアラを守りたいと思ってる。世界平和を望んでいるならそれを叶えてやりたい。泣いているなら笑ってほしい。あいつが傷つくくらいなら俺が傷ついた方が良いとすら思う。ティアラを守る、そのために俺は剣を持つ」
これは本人に是非とも聞いてもらいたい、巧たちはむず痒くなった。
「結局、どっちが好きかわかんねえな」
「ティアラはんに500。完全に惚れてるやろ」
「僕はアリンさんに1000。もう既にお二人はデキてますよ」
そういうのではないと言っただろ、ファングはため息を吐いた。
「ちなみにエフォールは?」
「最初はかわいそうな奴としか思ってなかった。殺すことでしか喜びを感じられないエフォールが心配だった。いつかあいつが死んじまうんじゃねえかって。でもこうして仲間になった今はあいつが生きてくれていて本当に良かったと思ってる。エフォールが幸せになれるためなら俺もがんばるよ」
「俺はエフォールに1500。大穴狙いでいく」
ファングはまたため息を吐いた。
一方女性陣はエフォールと果林の歓迎会をしていた。
「ファングくんたち何やらとっても盛り上がってるねえ。好きな人の話しで盛り上がってるのかな?」
「い、いっしょうぶんなでまわされたかも」
女性陣で唯一アルコールが入ったハーラーは上機嫌だ。膝の上でもみくちゃになって涙目のキョーコがその証拠である。
「ねえ、アリンちゃんとティアラちゃん、エフォールちゃんはファングくんをどう思ってるの?」
「それ、私も気になってたんだよねー」
マリサがニコニコと笑顔を浮かべて言った。
「・・・・・・あたしはかっこいいと思ってるわ。バカで食いしん坊でバカだけど誰かを守る姿を見てるとドキリとするの。アイツと一緒に戦ってるからかな」
アリンは以前、温泉で語ったようなことをハーラーたちに言った。その柔らかい頬っぺたが紅くなっていることに彼女は気づいているだろうか。
「ティアラちゃんは?」
「・・・・・・私はファングさんを好きになってはいけないんです。嫌われ者の私が好きになったせいでファングさんが傷つく姿は見たくないから。今のように傷つくほど近づかずに曖昧なままで良いんです」
「深く考えすぎじゃない?」
辛気臭い表情のティアラの顔をハーラーはじっと見た。
「ティアラちゃんに何があるのかはわからないけどさ。好きにならない言い訳を作るより好きになっちゃう理由を考える方が良いと思うよ」
「好きになる理由、ですか?」
「うん。ティアラちゃんは恋愛を論理的に考えすきだね。少しは感情的に考えるのも悪くないと思うよ」
ハーラーのアドバイスにティアラは考え込む。
(ティアラさんにも巧さんみたいな秘密があるのかな?)
果林はティアラが悩む理由を一人考える。誰かと親しくなるのが怖い、自分が誰かを裏切ってしまうからとかつて言っていた巧の姿と自分が好きになってしまった誰かが傷つくのが怖いというティアラの姿はとても似ている。巧にはウルフオルフェノクという背景がある。ならティアラにはどんな背景があるのだろうか。
「エフォールちゃんはファングくんのどこが好きなの?」
「ファングがファングだから、好き」
躊躇いなくファングを好きと言えるエフォールをティアラは羨ましく思った。
◇
「皆すっかり眠ってしまったみたいですね」
腹を出して眠るガルドに布団を掛けてシャルマンは周りを見た。巧は眠っているピピンを枕にして眠り、バハスはその巨体でファングのベッドを独占している。
「ファングくんの姿が見えませんね」
それと壁に立て掛けられていたギターもない。どこかで弾いているのだろうか。
「僕も水でも飲んでもう寝よう」
シャルマンは食堂に向かう。
「これはティアラさんの鞄? こんな所に無用心だ、届けに行くか」
食堂のテーブルにはティアラの鞄が置いてあった。シャルマンは彼女の鞄を片手に食堂を出る。
「こんな時間に話し声?」
庭から聞こえる声を不信に思ったシャルマンは窓を開ける。
「お願いします、女神様。どうか私の願いを叶えてください・・・・・・世界中の人々のために」
その声の主はティアラだ。彼女はどこまでも広がる星空に祈りを捧げていた。
「この世が皆の幸せな笑い声で溢れますように・・・・・・」
全ては人々の平和のために。
「そうすれば私はこの恐れから解放されるでしょう・・・・・・」
そして自分自身を救うために。
「ティアラさん・・・・・・あなたという人は・・・・・・」
シャルマンは何とも言えない表情でティアラを見つめる。結局、彼は鞄を彼女に渡すことが出来なかった。
「お婆様、私は本当に誰よりも高潔に人を愛しているのでしょうか?」
空を見上げた。その問いに答えてくれる人はこの世にもういない。ティアラは悲しげに顔を伏せた。昔のことを思いだそうとすると何時もこうなる。心の中が雨が降ったように暗くなる。
♪─♪─♪─♪─♪
そんな彼女の淀んだ心の中に穏やかな音色が響き渡る。ティアラはうっすらと微笑む。曇り空に晴れ間が差したような気がした。
「この曲は・・・・・・」
ティアラはその音が流れる先に向かう。
「────♪」
向日葵荘の屋根の上。そこにはギターを奏でるファングがいた。彼はとても穏やかな表情で鼻歌を歌う。それは彼の奏でるギターの曲と同じものだ。
「ファング、さん?」
「ん? ティアラか。どうしたんだ、こんな夜中に」
「眠れなくて。世界中の人のために祈っていました」
「なんだそりゃ」
ファングが使ったと思われる梯子を使ってティアラは屋根の上に登る。
「ファングさんはどうしてこんな真夜中にギターを?」
「ちょっとな。先生に聴いてもらおうと思っただけだよ」
ファングは笑顔で空を見上げた。今日も何処かで自分の師が同じように空を見上げていると確信しているようだ。
「ファングさんにとって先生はどんな人だったんですか?」
「先生は俺にとって憧れで目標でヒーローだ。強くてかっこいいんだよ。とにかく。それに優しい人だ。数え切れないほど多くの人の命を救ってんのにそれでも救えない人たちがいることを悲しむようなあの人が俺は大好きだった」
子どものように目を輝かして師匠について語るファングにティアラは穏やかな笑みを浮かべた。
「先生のことだからきっと今も何処かで戦い続けてるんだろうからさ、俺の歌でも聴いて休んでもらおうと思ったんだよ」
ファングはまたギターを弾き始めた。
「・・・・・・その曲、亡くなった私のお婆様が好きな曲だったんです」
お前のばあちゃんが? 目を伏せて言ったティアラにファングが聞き返す。彼女は無言で頷いた。
「お前のばあちゃんってどんなばあちゃんだったんだ」
今度はファングがティアラに聞く番だ。彼女は祖母について語り始める。お洒落が好きだったこと、とても饒舌で色々なお話しを子どもの頃のティアラに聞かせてくれたこと。彼女は多くを祖母から教えてもらった。ティアラは祖母が大好きだった。今こうして世界平和の夢を抱くようになったのも祖母がティアラに託した願いなのだ。誰よりも高潔で誰よりも人々の平和を願う人間にお前はならなければいけないと。彼女は祖母から希望の光を託された。
「だから私は世界の平和を、人々の幸福を願うんです」
「そっか。ばあちゃんの願いだったのか」
ファングはティアラがどうしてこうも世界平和にこだわるのか納得した。死んだ祖母との約束ならあそこまで焦る気持ちも分からなくはない。
「私は早く女神様を復活させなければなりません」
ティアラは焦る気持ちが表情に出ていた。迫り来るドルファの魔の手、先のオルフェノクを名乗る怪物との決戦。そしてこの世界に溢れた戦争や紛争。それらは全て邪神がこの世に残した爪痕だと彼女は思っていた。祖母と約束した自分は一刻も早く女神を復活させ、この世を平和にしなければならない。彼女はファングにそう言った。
「・・・・・・優美に、そして歩くよりは早く」
「え?」
ファングはギターを弾きながらティアラに言った。彼女は普段とは違いやけに詩的なことを言うファングに首を傾げる。
「お前のばあちゃんが好きな曲にはそういう意味があんだよ。焦りすぎだ、くそ真面目」
「また私のことを『お前のばあちゃんがお前に託したのは願いか、呪いか?』・・・・・・願いに決まってるじゃないですか!」
「だったら焦る必要がどこにあんだよ。お前がならないといけないのは世界を平和にするために生きる機械じゃない。誰かの幸せのために世界平和を願える優しい人にならないといけないんじゃないのか」
ファングの一言にティアラは目を見開いた。確かにいつの間にか叶えなければならない願いが解かなければならない呪いへと変わっていた気がする。祖母が死んでから今までずっとそうやって生きてきたせいで大事なことを忘れていたのかもしれない。
「ファングさん、その曲。あなたの先生にではなく私のために弾いてくれませんか」
「ああ、構わねえよ」
♪─♪─♪─♪─♪
ファングはクラシカルなメロディーのその曲を弾く。シャルマンのピアノのようにプロレベルに上手いという訳ではないはずだが自分が今まで聞いたどんな音楽よりもずっと聴いていたいとティアラは思った。彼女は頭をファングの肩に乗せると穏やかに目を細める。
(優美に、そして歩くよりは早く・・・・・・)
そうだ。それくらいの気持ちで良いんだ。ティアラは憑き物が落ちたような晴れやかな気分になった。
◇
「さあ、今日もがんばってフューリー探しにいきましょうか」
ティアラは明るい面持ちで向日葵荘を出た。
「おう、しっかり頼むぜ」
「任せて、ファング」
「あんたもがんばるのよ」
「いっつも頑張ってんだろ」
アポローネスとの戦い以来久しぶりのフューリー探しにファングたちは気合い十分だ。
「あ、いたいたお兄ちゃん。まいどー!」
「お、ロロじゃねーか。珍しいな」
珍しいことが起きた。普段は噴水広場にロロを探しに行くファングたちだが今日は逆に彼女の方からファングたちを探しに来ていた。
『で、今日は訪問販売か?』
「あったりー。今日はいいネタ手に入ったから特別に常連のお兄ちゃんに教えてあげようと思ったの!」
わざわざ自ら情報を売りに来るとはよほどその情報に自身があるのだろうか。
「ホントに? あんたいい子ね!」
「でしょー? だからお金ちょーだい」
「いい子って言ったのは訂正したほうがええんとちゃう?」
ファングは料金を支払った。
「相変わらずたっけえな」
「とか言ってもちゃんと払っちゃうお兄ちゃんが大好きだよ」
「大好きだってよ、ファング」
ファングは無言で巧を蹴った。
「それでフューリーは何処にあるんや?」
「んとねえ。地への回廊で見つかったって話しだよ。強いモンスターがウヨウヨいるから気を付けてねー」
ロロはそれだけ言うそそくさと去ってしまった。
「地への回廊・・・・・・」
「アリン、どうしたの?」
「ううん、なんでもない。さ、行きましょ」
そこでアリンはあることに気づいた。
「あれ、シャルマン様は?」
「そういえば今朝から見てませんね」
シャルマンとそのパートナーのリュシンがいない。大所帯になったせいだろうか。今まで気づかなかった。
「なんやねん。一緒に酒飲んでちょっと良い奴かなって思った矢先にサボりかい」
「どうせ女かなんかだろ。色男がいない理由なんて相場は決まってる」
「あ、昨日酔っ払った勢いで言ってた娘やな」
ガルドと巧はシャルマンが留守の理由を面白おかしく推理する。
「あいつがいなくても何とかなるだろ。よし、サクッとお宝ゲットだ!」
◇
「ここが地への回廊か。なかなか歯ごたえのありそうな場所やな。腕がなるでー!」
地への回廊は古びた古代遺跡だ。かつてはなんらかの科学施設だったのか遺跡の内部は照明が点いている。噂では女神にとって非常に縁の深かった建造物であるらしいが強力なモンスターがいるためかそれは噂のままで確信には未だに至れてないらしい。妖聖研究家のハーラーがここに来るまでにファングたちへそう教えてくれた。
「シャルマンがいなくても、私たちならやれる」
「こらこらエフォール。あまりいない人のことを悪く言ってはいけませんよ」
「・・・・・・あ、ごめんなさい」
分かればよろしい、と果林はエフォールの頭を撫でた。
「どうした、アリン? 浮かない顔だな」
「ううん、なんでもない。早くフューリーを見つけて帰りましょ」
「体調が悪いならすぐに言えよ。カダカス氷窟の時みてーに倒れたら洒落になんねーからな」
ファングはアリンの頭をぽんと叩いた。彼女はうっすら笑う。
「しっかしピピン、お前って本当に緑の生き物なのか?」
地への回廊を下へ下へと進んでいるとファングはふとピピンにそんなことを言った。どう見ても緑の生き物そのものの彼に疑問を抱いたファングに巧たちは何言ってんだ、こいつ?という顔をする。
「お前、こいつが緑に見えねえのか?」
「まさか生き物に見えないんですか? いえ、確かに生き物と言えるか怪しいのですけど」
「分かった、旦那はピピンさんのことを緑の着ぐるみだと思ってるんやな!」
巧たちの冷静な突っ込みにファングは首を振る。別にふざけている訳ではないようだ。彼らは首を傾げる。
「俺が知っている緑の生き物は戦争や紛争で傷ついた人たちを救う存在。・・・・・・その姿ははっきり言って怪物なんだよ」
「確かに傷ついた人々を理不尽な暴力から救うことは何度もあったぞ。だがお主はこんなにも威厳に満ち溢れた我輩が怪物に見えるとな?」
「威厳には満ち溢れてねえけど怪物ではないよな、やっぱ」
ファングはがっかりしたようにため息を吐いた。
「俺にとっての憧れがこんな可愛い着ぐるみだったなんてな」
「なんだと! 我輩は着ぐるみではないわ!」
プンプンと擬音が付きそうな怒りを露にするピピンにファングはまたため息を吐いた。理想と現実とのギャップに彼はがっかりせずにはいられない。
「あー、お前もしかして緑の生き物は女神が残した最後の切り札って伝説を信じてたのか?」
「・・・・・・まあな」
巧はファングが何故ピピンの姿にがっかりしていたのか気づいた。以前、カメラ屋の店主が語っていた戦地に現れる緑の生き物の伝説を彼は信じていたのだ。もしそうならさぞ立派な生き物の姿を想像していたに違いない。その結果がこんな可愛いらしい着ぐるみでは落ち込むのも無理はない。
「しかし我輩は粛々と行動していたはずだがいつの間にか有名になっていたようだな」
『その風貌で無名のままいられる方法があるならぜひご教授いただきたい』
まったくだ。人外なら嫌でも目立つに決まっている。
「ふう・・・・・・」
「どうした、アリン?」
「え、あ! なに?」
しかし、ファングががっかりしていてからかい時なのにアリンはぼうっとしていて上の空だ。何時もなら軽口の一つや二つ言いそうなものなのだが。変だと思った彼はアリンの顔を覗き込む。
「体調悪いなら無理すんなよ。まだ先は長そうだからな 」
「わかってるわよ。そんなこと」
「もしかしてここに記憶の手がかりでもあるのか?」
アリンと同じく記憶喪失の巧は彼女の異変を何となく察する。
「・・・・・・わかんない。でも何か引っかかってるのよ」
「何って、何?」
「何て言うのかな。どこか懐かしくて胸がざわざわするような、そんな感じ」
女神由来の地で懐かしさを覚えるとはやはりアリンは女神となんらかの関係があったのだろうか。
「ここは女神を崇拝していた古代人が建造したからね。妖聖のアリンちゃんの手がかりがあってもおかしくないよ」
「じゃあさっさと攻略しちまうか。な、アリン」
「う、うん」
決意を新たにファングたちは更に地への回廊を進む。
「・・・・・・むっ」
「エフォールはん、どうかしたんか?」
「何か視線を感じた、気がする」
視線? エフォールと一緒にガルドは振り向いたがそこには誰もいない。彼女の気のせいか、それとも・・・・・・。まあこれだけの人数のフェンサーがいればどうにかなるだろう。
「お、あれフューリーじゃないか?」
地への回廊の最下層にファングたちはたどり着いた。そこをしばらく歩き回っていると祭壇のような場所にフューリーが刺さっていた。
「思ったよりは楽でしたわね」
「ボスのモンスターもいませんからね」
ティアラと果林はキョロキョロと辺りを見渡す。何時ものように強力なモンスターが現れないことにほっとした。
「・・・・・・いやもっと厄介な奴がいるみたいだぞ」
ファングはフューリーの近くで山のように積み重なった灰の山に表情を変える。
「出てこい!」
ファングが叫ぶとゆらりと物陰から一人の男が現れた。
「この私の存在に気づくとはやるではないか」
「お前は・・・・・・バーナード!?」
ファングたちは目を見開いた。彼らを苦しめた強敵。バーナード。ファングがかつてトドメをさしたはずの男の登場に彼らは驚愕せずにはいられない。
「その声は草加(はん)!? って誰だ?」
約二名まったく面識がない二人がとんちんかんなことを言って場のシリアスな雰囲気をぶち壊す。
「君たちの方こそ一体誰なのかなあ? まあ、構わんさ。どうせ君たちはここで死ぬのだからな」
バーナードはニヤリと笑う。ファングたちはそれぞれの得物を持つ。
「一度負けた雑魚が何言ってんだ?」
「バーナード、殺殺殺殺」
「バーナード、てめえにつけられた落とし前はきっちりつけさせてもらう、とエフォールは申しております。私も同じ気持ちです」
バーナードと因縁の深いファングとエフォールは鋭い殺気を発する。それでも彼は余裕の態度を崩さない。
「落とし前をつけるのは私の方さ。君たちの血で私の屈辱を洗い流させてもらう」
「やってみろ」
「殺!」
「ワイらを敵に回して勝てると思っとんのか!」
ファングとバーナードは剣を交わす。あの時はバーナードの方に分があったがアポローネスすら倒した今のファングなら互角に戦うことが出来る。むしろファングの方が押しているようにすら巧には見えた。更にエフォールやガルドの援護もある。彼の勝ち目は限りなくゼロだ。だがバーナードは不利な戦いを楽しんでいるように見えた。・・・・・・不敵な笑みが崩れていない。
「ち、気味が悪いな」
その不気味な雰囲気に嫌な予感を覚えた巧はベルトを腰に巻いた。
────555
────standing by
「変身!」
────complete
巧はファイズに変身する。
「それがベルトの力というヤツか、面白い」
「な、なんやあれ」
バーナードの頭に邪神の紋様が浮かぶ。────そしてオルフェノクの紋様も。
「な、それは・・・・・・!?」
巧は驚愕する。そして気づく。なぜファングに倒されたはずのバーナードがこうしてまた現れたのか。彼はなんらかの力によって生き返りオルフェノクになったのだ。
「言っておくがオルフェノクなどという下等なものには私はならんさ。北崎と一緒にするなよ」
バーナードの腰に紫色のベルトが出現した。知るものが見ればそれは『オルタリング』と呼ばれる神の力を人が発揮するための出力装置であると気づくだろう。
「『フェアリンク』!」
「いくぞ、ブラッディ」
『了解、マスター』
バーナードのフューリーから力の源である妖聖の魂が抜け落ちる。その力はベルトに吸収された。
「『フェアライズ』」
バーナードは異形の姿へと変貌を遂げた。この前の巨人の姿とは違う。ファイズやサイガ、ファングのフューリーフォームのようにスマートな戦士。まるで天使のように何処までも白き純白の鎧、地面にぶちまけられた赤い鮮血のように禍々しくも無機質な真っ赤な複眼がファングたちを捉える。純白邪心の戦士。神とオルフェノクの力が合わさった幻影の怪物がこの世界に誕生した。
「下がれ。ガルド、エフォール。・・・・・・『フェアライズ!』」
ファングは二人を後退させると紅炎真紅の戦士に変身した。あの時はバーナードを終始圧倒したこのフューリーフォームをもってしても彼は勝てる自身が湧かない。
「やるしかねえぞ、ファング」
「ああ、分かってる」
ファイズとファングはバーナードに飛びかかる。ファイズの拳がバーナードの腹に直撃する。しかし、彼は微動だにしない。背後からファングが大剣を振り下ろした。片手で受け止められる。バーナードはファイズの肩を掴むと彼に投げ飛ばす。ファイズを受け止めたファングにバーナードは回し蹴りを放つ。二人纏めて吹き飛ばされた。
「ぐあ!」
「くっ!」
巧はその衝撃で変身を強制的に解除された。ゴロゴロと地面を転がり、身体がむち打つ。
「巧、大丈夫か!?」
「貴様に他人を構っている暇があるのか?」
ファイズが抜けたことでファングの勝てる可能性はより絶望的なものになった。一方的な蹂躙が始まる。
「ち、くしょ、う」
「大丈夫かい?」
「乾さん、今回復魔法をかけます」
戦闘のダメージで立つことも出来ない巧にティアラとハーラーが駆け寄る。
「ファング、今助ける」
『attack effect フリーズミーティア』
「北崎に比べればこんな奴・・・・・・!」
『attack effect 魂狩り』
「若僧に我輩の恐ろしさを見せてやろう」
『attack effect ウコンバスラ』
一方的に痛めつけられるのを黙って見ているほどエフォールたちは落ちぶれていない。彼らはフューリーフォームになるとそれぞれの必殺技をバーナードに向けて放つ。
「よせ、お前らの勝てる相手じゃねえ!」
「貴様の勝てる相手でもないだろう?」
「がふっ!」
バーナードはファングを蹴り飛ばすとその技をあえて受けた。大きな土煙が巻き起こる。
「・・・・・・今の私は貴様らも神々をも越えた。無駄だ」
バーナードはやはり無傷だ。自分たちの必殺技をまとめて喰らったにも関わらずダメージを受けてないバーナードにエフォールたちは絶望する。
「君たちは鬱陶しいから消えてもらおう」
目の前からバーナードが消えた。身構えたエフォールたちの背後に彼はいた。いつの間に移動したんだ。振り向いた彼らは一瞬にして崩れ落ちる。
「エフォール、ガルド!」
「わ、我輩だけ忘れておるぞ。ガクッ!」
バーナード相手に辛うじて食い下がれるファング、そしてまだ戦っていないティアラとハーラーを除いてパーティは壊滅状態に追い込まれる。
「どうする? フューリーを渡して殺されるか、それとも殺されてフューリーを奪われるか? 前者のが少しだけ長生き出来るぞ、ふはは」
「誰があなたなんかに渡すものですか。私たちが集めたフューリーは女神様を復活させるために、世界平和のためにあるのです!」
『女神・・・・・・』
ティアラは勝てないと分かっていながらバーナードに薙刀を向ける。
「てめえの質問に答えてやる。お前を倒してフューリーを守る!」
「ふはは、なるほど。貴様、死にたいらしいな」
ティアラを庇うように前に立ったファングは一瞬でバーナードに拳を叩きつけられ地に伏した。その頭を彼は踏みつける。
「ファングさん!」
「おっと。動くな、この男の首が飛ぶぞ」
駆け寄ろうとしたティアラの足が止まる。
「くそ、これまでかいな」
「ちぃ、我輩ほどのマスラオがこの程度の若僧に遅れをとるとは」
「絶対に、諦めちゃダメ・・・・・・!」
「んなもん、分かってる! もう一度変身するまでだ!」
ガルドたちは悔しそうにバーナードを睨み付けた。
「威勢だけは認めてやろう」
「・・・・・・威勢だけじゃねえよ」
「なに?」
ファングはバーナードの足を掴むと投げ飛ばした。突然の攻撃で驚かされたが彼はなんなく空中で体勢を立て直して着地する。
「絶対にてめえはここで倒す!」
「ふ、面白い」
ファングはバーナードに向けて駆け出す。
「待って、ファング!」
「アリン!?」
「むっ?」
二人の間にアリンが割って入った。ファングは思わず止まる。
「あたし、思い出したの」
「なに、どういうことだ!?」
「あたしの、あたしの正体は」
アリンはまばゆい光を放った。
「消えた・・・・・・? ちっ、女神の仕業か」
◇
「ここは、何時もの宿屋じゃねえか」
「一体、何が起きたのでしょう?」
「リターンウィングを誰か使ったとかか?」
「それは違うぞ、巧。あれはダンジョンから脱出するアイテムで宿に戻るアイテムじゃない」
気がつくと向日葵荘の目の前に立っていたファングたちは首を傾げる。空はすっかり真っ暗になっていて月が街を照らしていた。
「これは女神の力の発動だね、アリンちゃん」
「・・・・・・」
ハーラーの一言にファングたちは目を見開いてアリンを見た。
「あたし、ちょっとだけ思い出したの。自分のこと・・・・・・」
「記憶とここに私たちが飛ばされたことと何が関係しているんですか?」
果林が首を傾げる。
「おそらくアリンちゃんは女神の力を受け継いでるんだろうね」
「嘘、でしょう?」
ティアラは呆然とアリンを見つめる。
「自分でもわかんない。でもあのバーナードみたいなとても恐ろしい力と戦っていた記憶があるの」
「前にシュケスーの塔で言っていたヤツか」
「うん・・・・・・」
女神のすぐ傍で戦っていた、とあの時アリンが思い出した記憶はやはり正しかったのだ。
「てことはアリンはんは女神の化身みたいなもんなんか?」
「だろうね。全てのって訳では流石にないだろうけどあのバーナードに匹敵するレベルの力は恐らくあるだろう。やはりアリンちゃんはただの妖聖ではなかったみたいだね。きっと女神の残した力がアリンちゃんという存在を作ったんだよ」
「うん、多分そんな感じだと思う」
驚愕の真実にファングたちは無言になる。
「・・・・・・アリン、お前すげえよ」
「当然でしょ、あんたのパートナーなんだから」
ファングはアリンの頭を撫でた。彼女は満面の笑みを浮かべた。
「お前女神の一部だったことを思い出したんだよな?」
「うん」
「もしかして女神を復活させる方法も分かったんじゃないのか?」
巧の言葉にファングたちはハッとした。
「うん、儀式とか儀式をするための場所とかね」
「私たちが行っているゴッドリプロダクトとは違うのですか?」
「あれよりももっと効率の良い方法よ」
フューリーを100本集める以外の方法があるのか。ティアラは驚く。
「でも、それをするにはまだフェイスドロップっていうアイテムが足りないの」
「なら次にすることは決まったな」
「ああ、フェイスドロップの回収だな」
次の目的は決まった。情報を集めてフェイスドロップを手に入れ、女神を復活させる。世界平和が本当に実現するかもしれない。珍しくファングは真剣な表情になる。
「あれ、みなさん庭で何やってるんですか」
ここでようやくシャルマンが向日葵荘に帰宅した。
「何じゃねえよ。こっちは色々あって大変だったんだぞ、お前何やってたんだよ!?」
「せや、どうせ女やろ! バーカ!」
「ばーか」
「いえ、別に。ってバカはやめてください、ガルドくんにエフォールさん」
あれだけの目に合ったファングたちは一人離脱して無事だったシャルマンに八つ当たりする。
「おやめなさい、皆さん。ファングさんが勝てなかったんです。シャルマン様がいても結果は変わらなかったでしょう。それより今は今後どうするか考えることが重要です」
八つ当たりをティアラに止められガルドたちはぶーぶーと文句を言う。
「シャルマン様、気にしないでください。さあ、皆さん宿に戻って明日に備えて休みますよ」
学級委員長のようなティアラの態度に毒気を抜かれた彼らは渋々宿に入っていった。
(ティアラさんにとって僕はファングくんより下なんですね)
シャルマンは妖しい視線でティアラの背中を見つめた。
タイトルの割りにあまり出番のないバーナードさん。パワーアップしようとした結果がこんなことに。神とオルフェノクが合わさった力。純白に赤い複眼で気づく人もいるかもしれないミラージュアギトに変身していました。他の人たちよりは説得力のある強化だと個人的には思っています。
今回のティアラの祖母のエピソードは無印特典小説が元ネタです。ADFで小説版のシャルマンのエピソードは補完されていましたがティアラの補完はなかったので個人的に補完しました。もっと気になる人は無印限定版を買って闇に咲く花を読みましょう。