乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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タイトルで今回のストーリー分かる人かなりいますよね。


バーナード、散華

「バーナード、フェイスドロップ、それに買い物。次から次へと面倒ごとばっか起きやがる」

 

 その日のファングの気分は最悪だった。

 

「北崎くんのバカ・・・・・・」

 

 その日のエミリの気分は最悪だった。

 

「「はあ」」

 

「「あ」」

 

 だからこうして最悪の組み合わせである彼らが出会うのは必然だったのかもしれない。

 

「えっと、あんたは確かこの前マリアノたちと花を売っていた・・・・・・エミリ、だっけ」

「あなたは確かファングさん、ですよね」

 

 ファングは知らない。エミリがアポローネスの妹であることを。今の彼らはただの知り合いでしかない。それもほとんど顔も合わせたこともない初対面も同然の知り合いだ。

 

「ため息なんて吐いてどうしたんだよ。友達と喧嘩でもしたのか?」

「・・・・・・私そんなに分かりやすかったですか?」

 

 エミリは目を丸くする。

 

「まあな」

 

 単に北崎の名前を口に出していたのが聞こえただけなのだが。

 

「少しだけ、話しを聞いてもらっても構いませんか?」

「別にいいけど。マリアノとかのが良いんじゃねえか」

「いえ。マリアノさんには少し話しにくくて。本当に聞いてもらうだけで良いんです」

 

 この抱えている悩みを聞いてもらうには友人よりは距離が遠く、他人よりは距離が近いくらいの人に相談するのがちょうど良かった。

 

「実は」

 

 エミリは何があったか語り始めた。

 

『あの、どちら様ですか?』

『へへへ、俺は所謂チンピラ。可愛い女に目がないお決まりのキャラってヤツだ』

 

 街を歩いていたエミリは毎度毎度のように登場するチンピラフェンサーに絡まれる。

 

『その、可愛いという言葉はありがとうございます。ですけど、私急いでるので』

 

 こういう男とは関わらない方が良い。兄にそう教えられていたエミリは出来るだけ顔を合わさないようにチンピラフェンサーと距離をとろうとした。その手を彼は掴んだ。

 

『へへへ。良いねえ、その態度。ますます俺の手で泣かしたくなった』

『ちょ、ちょっと。は、離して!』

 

 チンピラのいやらしくも血走った目付きにエミリは悲鳴を上げた。

 

『声を出しても無駄だよ。誰もお前を助けたりしねえ、へへへ』

『・・・・・・キミ、その娘に何をする気なの?』

 

 チンピラの手を掴んだ男がいた。

 

『北崎くん!?』

 

 たまたま通りかかった北崎。エミリを救ったのは彼だった。

 

『ねえ、教えてよ。何をする気だったのか? エミリちゃんに。ねえ。なあ教えてくれよ』

『な、なんだコイツ・・・・・・!?』

 

 チンピラを握る北崎の手の力はどんどん強まる。だんだんと痛みを感じ始めた彼は北崎の顔を殴った。

 

『・・・・・・教えろ』

 

 北崎の顔が笑顔から怒りに変わる。チンピラは自分の腕に僅かな痺れを感じた。殴った手のひらから煤が零れる。

 

『てめえ、何をした!?』

 

 北崎の胸ぐらをチンピラは掴んだ。その手から今度は痛みを感じた。ざらりとした感触に冷や汗が流れる。手を見つめると指先が灰になっていた。声にならない絶叫をチンピラは上げる。

 

『これ以上、僕を怒らせないでよ』

 

 チンピラは悲鳴を上げて逃げ出した。

 

『あ、ありがとう北崎くん』

『気にしないでよ』

 

 アポローネスに悪い虫からエミリを守る。そういう約束を北崎はしている。感謝ならアポローネスにするべきだ。彼はそう思った。

 

『でも、こんな所にエミリちゃんは何しに来たの? あ、もしかして僕に会いに来たの? 嬉しいなあ』

『違うよ』

『即答しないでよ。いくら最強の僕でも心は普通に傷つくからね』

 

 がっかりした様子の北崎にエミリはクスリと笑う。

 

『私は兄の仇をとるためにフェンサーを探してるんです』

『仇、ね。誰がアポローネスくんを殺したのかもわからないのに?』

『兄を殺せる人なんて凄腕のフェンサーくらいだから。すぐに分かるよ』

 

 ドルファ四天王であるアポローネスを倒せる人間なんて数えるほどしかいない。その人間を見つけることはさして難しいことではないだろう。実際エミリが今話している相手こそそのアポローネスの仇の相手なのだから。

 

『本当にエミリちゃんは復讐したいの?』

『私は兄を殺した人が憎いの。憎くて憎くてどうしようもないくらい苦しいよ。この手でその人を殺すまで私の憎しみは消えてくれない』

 

 エミリの目は怒りと深い悲しみに満ちていた。

 

『・・・・・・殺せないよ』

『え?』

『どれだけ復讐心に燃えたってエミリちゃんはただの女の子だよ。真っ正面からだったらさっきのチンピラだって殺すことは出来ないね。アポローネスくんを殺した人ならどんな手段を使っても無理なんじゃないかな』

 

 エミリは激怒した。

 

『だったら私はどうすれば良いの!? ただ一人の家族を奪われてもう一人ぼっちなんだよ!』

『さあ、普通に生きれば良いんじゃないかな。僕は誰かを憎むエミリちゃんは好きじゃないよ』

『私だって、したくて復讐したい訳じゃない。それでも、それでも仇をとらないと誰が兄さんの無念を晴らすの?』

 

 目じりに涙をためたエミリに北崎は困ったような笑みを浮かべる。

 

『アポローネスくんはキミがそうなることを望んでいないよ。それに彼は自分の魂が共鳴する相手と戦ってその命を燃や尽くした。無念を残した訳ではないさ。だから・・・・・・』

『北崎くんのバカ! 大切な人が奪われた悲しみがどうして分からないの!?』

『あ、エミリちゃん!』

 

 北崎に背を向けてエミリは走り出した。彼の言葉が正しいのは分かっている。それでも一人しかいない家族を奪われた悲しみや苦しみ、そして憎しみは言葉一つで消えてくれるものではない。アポローネスは後悔していない、と北崎がいくら言ってもエミリは納得できない。その気持ちは彼と血の繋がりがある者にしか理解出来ないものだ。

 

『・・・・・・あーあ、だっさいなあ』

 

 北崎はため息を吐いた。

 

「私、北崎くんに酷いこと言ってしまって・・・・・・」

「そうか? あのガキがデリカシーないように俺は思ったけどな」

 

 デリケートな話題にそこまで深く首を突っ込むとは。北崎をファングはある意味尊敬した。復讐は良くない。その気持ちは彼にもある。だが普通は少しずつ止めていくべきだ。いきなり過程を飛ばして復讐はいけないと言っても火に油を注ぐだけ。それが分からないのが子どもらしい。普通の子どもらしくなっただけ十分なのだけど。

 

(・・・・・・ま、この娘が復讐に囚われる原因を作った俺が言える立場じゃねえけど)

 

 一人の人間を復讐鬼にしてしまった。その事実にファングは何とも言えない思いを抱く。殺しに来たのは向こうからだ。やらなければ殺されていた。そもそもドルファに属する方が悪い。お互いの信念をぶつけ合った結果だ。向こうも悔いはないだろう。言い訳を考える自分に嫌悪感を覚える。どんな人間だろうと殺せば恨まれるのが世の通り。彼女は自分を殺すまで一生悲しみを背負うことになるだろう。

 

 だからといってエミリに自分の命を差し出せるかと言えば不可能だ。ファングだって守りたい者がいる。そのためにアポローネスを斬った。彼らのために、そして自分自身が生きるためにも死ぬ訳にはいかない。

 

「ファングさんはどう思いますか?」

「・・・・・・俺がもし誰かに殺されたらそいつを恨む。出来ることなら殺しちまいたいと思う。でも自分の大切な人たちに復讐してほしいかって言えばそれは違う。大切な人たちには復讐に囚われるより幸せに生きてくれた方が良いからな。それに人を殺した感触は一生忘れなくなる。その気持ちを味合わせたくはないな」

 

 これはファングがずっと感じている後悔だ。あの日からアポローネスを斬った時の生々しい感触を忘れられない。それをアリンやティアラがもしも一生背負うことになると考えたら良い気分はしない。

 

  無論、フェンサーである自分たちは殺したくなくても人を殺す。嫌でも誰かを斬らなければならない時は来るだろう。それでも出来ることなら、と彼は思ってしまう。

 

「誰かを殺した奴には報いが来る。ソイツはエミリが手を出さずとも死ぬ。いずれ死ぬ人殺しのためにあんたの人生を無駄にする必要はねえ」

「・・・・・・報い、ですか」

「ああ。間違いねえよ」

 

 因果応報という言葉がある。ファングはアポローネスを殺したツケが自分にも何時か回ってくる、そんな予感がしていた。

 

「どれほどの報いをその人が受けたとしても、私は兄を殺した人を許せません。絶対に。本当は分かってるんです。この手で殺したとしても意味はないって。だって私が苦しくて悲しいのは兄を失ったことですから」

「・・・・・・っ!」

 

 ファングは胸がズキリと痛んだ。

 

「きっとこの苦しみから解放されるには私が死ぬしかないんですよ」

「・・・・・・早まるなよ」

「ええ、分かってます。それは絶対に兄が許しませんので」

 

 エミリはスッと立ち上がった。彼女はファングの両手を握る。その手のひらにお守りを乗せた。

 

「このお守り、あげます。本当は兄に渡す予定だったんですけど。中に妖聖の花を煎じた薬が入ってるんです。どんな傷でも一瞬で治す凄い薬がなんですよ」

「どうして俺に? 北崎にやれば良いじゃねえか」

「北崎くんはとっても強いから大丈夫です。もしケガをしても私が治します。・・・・・・ファングさんは兄に似ていてよくケガをしそうなのでそれが必要かなって」

 

 俺がアポローネスに? ファングは聞き返す。

 

「はい。無愛想だけど本当は優しくって、照れ屋で、意地っ張りそうなところがそっくりです」

「・・・・・・そっか」

 

 ファングはエミリにアポローネスを殺したのは自分だと打ち明けようと思った。

 

「なあ。お前の兄を、アポローネスを『そこから先は絶対に言わないでください』まさか、お前・・・・・・!?」

「それ以上言われたら私は後戻り出来なくなります」

 

 俺が殺したと気づいていたのか、そう言おうとしたファングの口の前でエミリは人差し指を立てた。

 

「兄さんが言っていました。ファングという好敵手を見つけたと。北崎くんが言っていました。魂の共鳴する相手と戦って兄は死んだと。気づかないはずがないじゃないですか」

 

 エミリは目元に涙を浮かべながら笑う。

 

「私は生きます。生きて貴方を一生恨み続けます。貴方は忘れないでください。アポローネスという人間を殺したことで一生悲しみ苦しむ人がいるということを。貴方は死ぬまでそれを忘れないで。・・・・・・そのお守り、私だと思って大事に持っていてくださいね」

 

 エミリはファングに呪いをかけてふらりと消えてしまった。

 

「俺は────」

 

 ────消えてしまった方が良いのかもしれない。この日、生まれて初めてファングは自分がこの世に存在していたことを後悔した。

 

 ◇

 

「エミリちゃん、探したよ」

 

 北崎は公園のベンチで俯いているエミリを見つけた。謝ろう、彼はエミリの肩を叩いた。

 

「北崎くん・・・・・・!」

 

 エミリは北崎に抱きついた。

 

「どうしたの?」

 

 てっきり拒絶されると思っていた北崎は目を丸くする。

 

「兄さんの、仇が目の前に、いたのに、私、何も出来なかった。いくらでも、チャンスは、あったのに」

「・・・・・・アポローネスくんがファングくんに殺されたって知っちゃったんだね」

 

 コクりとエミリは頷く。北崎は優しく彼女の頭を撫でた。

 

「ファングさん、本当に兄さん、そっくりで。兄さんが私の復讐を、止めようとしている、みたいで。私、私・・・・・・!」

 

 ファングが自分に復讐は止めろと悲しい顔を向けるたびにアポローネスが悲しんでいるように見えた。エミリは胸が張り裂けそうな痛みを感じる。

 

「・・・・・・エミリちゃんは優しいから復讐なんて最初から出来なかったんだよ。アポローネスくんが悲しむことなんて出来るはずがないからさ。だから僕はキミに 復讐より、悲しむよりも幸せになってほしかったんだ」

「私、幸せになれるかな」

 

 北崎は優しく微笑む。

 

「なれるよ。僕が連れていく。キミが幸せになれる世界に」

 

 ドルファによる世界の統治。花形の悲願が達成されれば争いも悲しみもない世界が生まれる。その世界ならエミリも幸せになれるはずだ。そのためなら自分はいくらでもこの手を汚そう、ラッキークローバーにいた時のように。邪魔する者は誰であろうと殺す。ファングと違ってこの手はとっくに汚れている。北崎は一人決意した。

 

「もう少し、こうしてても良い?」

「もちろん。泣き止むまで傍にいろってアポローネスくんと約束したからね」

 

 ◇

 

「・・・・・・ただいま」

 

 ファングは浮かれない気分のまま帰宅した。

 

「お、ちょうど帰ってきたみたいだな」

「ナイスタイミングや! 出かけるで、ダンナ!」

 

 食堂には既に身支度を済ませていたパーティがいた。彼らは笑顔でファングを迎える。

 

「出かける? どこに?」

「カヴァレ砂漠です。アリンさんの記憶が正しければそこにフェイスドロップがあると・・・・・・」

 

 ファングは目を見開く。フェイスドロップは当分見つからないと思っていた。それの在処がこうもあっさり分かるとは。

 

「フェイスドロップがあれば女神様を復活出来るわ」

「いよいよ大詰めって訳か」

 

 ファングの沈んでいた気分は女神の復活によって少し明るくなる。

 

「ドルファが邪神を復活させる前に先手を打つ。女神を復活させる。どうだい、ファングくん?」

「悪くねえな」

 

 バーナード、ザンク、北崎、そしてまだ見ぬ最後のドルファ四天王。このボスラッシュを避けられるならそれに越したことはない。

 

「ところでファング。お主何かあったのか? 顔色が優れんようだが」

「お腹、痛いの?」

「買い物が面倒くさかっただけだ。俺、準備してくるから」

 

 心配そうな顔をするエフォールの頭を撫で、ファングは一人部屋に戻る。

 

『遅いぞ、ファング。女神の復活は目前だ。さっさと準備しろ』

『そうだよー。たっくんおそいっておこってたよ!』

「ああ、待ってろ」

 

 ファングは野営用の道具やアイテムをバックに詰め込んでいく。

 

「さ、行くぞ」

『待て。お前に何があった?』

「・・・・・・どうして分かるんだ?」

『すごいかおしてるよ。わかるよ』

 

 ファングは鏡を確認した。普段と何が違うのか分からなかった。

 

「アリンにも気づかれなかったのに・・・・・・。お前らには分かるんだな」

『俺はお前が赤ん坊のころから知っているんだ。分かるに決まっているだろう?』

『わたしだって5ねんもファングといるんだよ。きづくよ』

 

 ファングはふ、と笑った。この二人には隠し事は出来ないな。

 

「・・・・・・アポローネスの妹にあった」

『・・・・・・ふむ。それで?』

「俺を一生恨むってさ。まあ当たり前だよな。俺が殺したんだからな」

 

 ファングはベッドに寝転がった。少しだけ休んでも良いだろう。

 

「俺がやろうとしてることは本当に正しいのか?」

『まちがってはいないよ。まちがってはね』

「正しい訳ではないんだな」

 

 誰かの命を奪ってまですることに正しさを求めるのはナンセンスだ。規模が大きくなればそれが戦争になる。だからどんな理由があってもそれは間違っていないだけだ。

 

『思い悩むのなら逃げ出しても良いんだぞ。俺はそれでもお前についていく』

「ありがとよ。でも逃げちゃダメなんだ。人を殺すのは悲しい、だけど大切な仲間を殺されるのはもっと悲しい。それは皆同じなんだ。俺だけ逃げてそれを誰かに押し付ける訳にはいかない」

 

 ティアラの願いを叶えると決めた。ならその全てにファングは関わり抜く。例えその先に何が待ち受けようと。

 

「そんなこったろーと思ったわ」

「アリン・・・・・・。どうして」

「パートナーだから分かるに決まってんでしょ」

 

 ファングはドアに目を向ける。アリンが微笑みを浮かべて立っていた。

 

「あんた抱えすぎよ。もっとあたしに頼りなさい」

「余計な心配かけたかねえんだよ」

「それこそ余計よ」

 

 ファングはため息を吐くと肩を竦めた。

 

「じゃあお前はアポローネスの妹のこと、どう思うんだ?」

「どうって言われてもねえ」

 

 アリンは困ったような顔をする。

 

「アポローネスの妹は可哀想よ。家族を失ったらそりゃ一生恨むに決まってるじゃない」

「だよな。やっぱ『でも』」

「・・・・・・アポローネスにあんたが負けてたら、きっとたくさんの人があいつに殺されてたわ」

 

 アリンはファングの顔を覗き込んだ。

 

「アポローネスは誇りは高いのかもしれないけど立派な悪人よ。話し合いが通用する相手じゃない。エフォールやガルドみたいに足を洗ってくれる仲間になるならともかく。殺しをしてきた人間には報いが来んのよ。アポローネスは遅かれ早かれ死んでたわ」

 

 ファングは目を丸くする。エミリに縛られていてアポローネスがどういう人間だったか忘れていた。アリンが自分と同じことを言っている。

 

「なあ、俺はどうすれば良い」

『うーん、いつまでもおちこんでちゃだめだよ!』

『お前が出来ることはアポローネスの強さを証明してやることだ』

「そうよ。あんたはアポローネスの分まで生きて戦うのよ。女神様を復活させて、もう二度と誰かがアポローネスみたいにならないために」

 

 女神による世界平和の実現。ティアラの悲願が達成されればこの世界から繰り返される争いや悲しみを止めることが出来る。そのためならファングは何度でも剣を持つ。ティアラを守るために戦う。例えこの手を汚してでも。ファングは決意した。

 

「よし、行くぞお前ら!」

 

 ◇

 

「なんやここは。なんもあらへん」

「見渡す限り砂砂砂・・・・・・まるで我輩の故郷のようですなあ」

「またピピンさんの新しい謎が増えましたね」

 

 ピピンは砂漠に囲まれた村で生まれたのか。もしやその村の住民は皆ピピンのような不思議生物なのだろうか。実に興味深い。

 

「・・・・・・うーん。フェイスドロップがどこにあるか見当がつかないな」

「アリン、ここで間違いないのか?」

「たぶん・・・・・・」

 

 自身のなさそうなアリンに巧は不安を覚えた。

 

「多分って。お前記憶が戻ったんじゃねえのかよ?」

「巧だって戻った記憶がどういうものか詳しく覚えてるの? どんな場所で戦ってたとか」

「覚えてないな」

「でしょ? どう頑張ってもモヤがかかっちゃうのよ」

 

 アリンはため息を吐いた。

 

「随分曖昧ですわね。アリンさんは本当に女神の一部なのでしょうか?」

「そこは人間と変わらない訳か。興味深いな」

 

 舌なめずりするハーラー。アリンは彼女と距離をとった。

 

「本当にフェイスドロップ、あるの?」

「大丈夫よ、エフォール。なんとなくわかるからへーきへーき」

「なんとなくかいっ!?」

 

 ガルドが突っ込む。

 

「まあまあ皆で一度決めたことではないか。それを疑ってはいかん。仲間であろう? アリンの記憶と直感を信じてやろうではないか」

「流石は年長や! かっこええな! 見た目以外は」

「ピピンの言うとおりだ。今は四の五の言ってる暇はねえ」

「そうですね。アリンさんを信じて進みましょう。お願いします、アリンさん」

 

 任せて! アリンは意気揚々と歩き出した。

 

「そういえば巧さんはどれくらい記憶が戻ったんですか?」

 

 アリンとの会話で思い出したのか果林が言った。

 

「・・・・・・クリーニング屋でバイトしてた」

「クリーニング屋、ですか?」

「ああ。誰かと一緒にな。今みたいに騒がしい毎日だった気がする」

 

 巧はモヤがかかったその記憶を思い出すと笑顔になる。ファングたちのような笑い合える友がいたのだろうか。もしも会えるなら会いたい、と彼は思った。

 

「むー」

 

 今まで見たことのない笑顔を浮かべる巧。果林はそのクリーニング屋の誰かに少し嫉妬した。

 

「しっかしこの砂漠に来るのも久しぶりだな」

「ああ。半年ぶりくらいか?」

 

 ファングは果てしなく続く地平線を見つめ呟く。半年前、まだアリンと出会う前に彼と巧は砂漠を渡ってゼルウィンズ地方にやって来た。その時はこの砂漠にまさか女神復活の重要なキーアイテムがあるとは思ってもいなかった。今はただひたすらに懐かしい気分になる。

 

「私も、ここでファングと会った」

「・・・・・・何処かですれ違ったか?」

 

 エフォールと出会ったのはアリンがいた街のはずだが。ファングは首を傾げる。

 

「夜に、ファングと巧を殺そうとした」

 

 ファングと巧は顔を見合わせた。

 

「「お前が砂かけ娘の正体か!?」」

 

 あの時襲撃しようとしていた人間はエフォールだったのか。ファングたちは驚く。

 

「砂かけ娘?」

「いや、なんでもない。そっか、だから俺を追いかけ回していたのか」

 

 異常なまでに執着されていた理由にようやく見当がついた。

 

「あの時は、ファングを殺したいと思ってた」

「それが今では一緒に旅してるんやからわからんもんやな」

「私もまさかエフォールが普通に喋れるようになるなんて思ってませんでした」

 

 ファングと出会ってエフォールは変わった。もし彼とあの時出会わなかったら。ファングの言っていた通り本当に彼女は死んでいたかもしれない。そう考えると感慨深いものがある。

 

「ファングさんのおかげですよ。ありがとうございます」

「なんだよ。急に感謝すんな、果林。照れ臭くなるだろ」

「・・・・・・こうして巧さんに会えたのもファングさんのおかげですから」

 

 果林は頬を赤く染め笑みを浮かべる。ファングもニヤリと笑った。

 

「しかし、本当に砂ばかりで何もねえな。あーあ、俺暑いの嫌いなんだよな」

 

 額に汗を浮かべ巧はペットボトルの水を飲む。きちんとした装備を身に付けていても熱中症になりそうだ。自然と愚痴が出る。

 

「私も暑いの苦手なんです。今にも溶けてしまいそうで」

「・・・・・・じゃあ、お前も飲むか?」

「ええっ!?」

「そんなに驚くことか?」

 

 ガサツな巧は気にしないが立派な間接キスだ。彼を異性として意識している果林からしたら十分に驚く。

 

「じゃ、じゃあもらいま『おい、なにか来るぞ!』きゃっ」

 

 果林がペットボトルに手を伸ばそうとしたその時。地面から何かが飛びだした。咄嗟に巧は彼女を抱き寄せ転がる。目と鼻の先に紫色の巨大な昆虫タイプのモンスターが現れた。

 

「きゃあああ」

「な、なんだこいつは!?」

 

 ファングたちもそのモンスターに驚いていた。

 

「このような生物は見たことがないな。図鑑にも乗ってないヤツだ」

 

 研究者であるハーラーでも詳細が分からないモンスターいるのか。首を傾げる彼らの疑問にアリンが答える。

 

「ガーディアンシード。フェイスドロップを守る番人よ」

「お前なんで・・・・・・女神の記憶か?」

「たぶん」

『ゴッドリプロダクトで出現する防衛装置と同じようなものか』

 

 ファングたちはガーディアンシードを前に構える。

 

「番人だろうとなんやろうとやったるでえ」

「待って。あたしに任せて!」

「アリン・・・・・・」

 

 アリンはガーディアンシードの前に勇ましく躍り出る。

 

「静まれフェイスドロップの番人よ。女神の帰還である!」

「うむ。サマになっておる」

「それっぽいでえ!」

 

 しかしガーディアンシードの返答は雄叫びと共に振り下ろした鎌であった。

 

「うそ!? なんで!? 攻撃してきたー???」

「アリンさんの役立たず!」

「くそ、使えねえな!」

「あんたたちに言われたくないわよ!」

 

 思わず悪態を吐くティアラと巧にアリンは突っ込む。

 

「実力で突破するしかないようですね」

「いくぞ、アリン!」

 

 ファングたちは武器を構えた。

 

「大丈夫か、果林」

「・・・・・・うう、得したのに損した気分」

「本当に大丈夫か?」

「え、あ。なんでもないです。本当になんでもないです」

 

 悲しみに満ちた果林を起こすと巧はベルトを巻いた。

 

────555

 

────standing by

 

「変身」

 

────complete

 

 巧はファイズに変身するとガーディアンシードに飛びかかった。

 

「くそ、かてえな!」

 

 ファングは刃の通らないガーディアンシードに舌打ちする。昆虫だけあって装甲が硬い。斬撃はそう簡単には通らないだろう。

 

「任せろ」

 

 ファイズは拳のラッシュをガーディアンシードに叩き込む。コンクリートすら容易く砕く拳がガーディアンシードの装甲を砕く。懐に潜り込むとファイズはアッパーカットでガーディアンシードを打ち上げた。

 

「ナイスだ、巧!」

 

 打ち上がったガーディアンシードのやわらかい腹にファングは無数の斬撃を浴びせる。

 

「ハアアア!」

 

────exceed charge

 

 ファングの攻撃によって勢いよく落下するガーディアンシードにファイズは拳を構える。グランインパクトがガーディアンシードの身体を砕いた。

 

「てこずらせやがって!」

 

 ガーディアンシードを倒すとファイズは変身を解除した。

 

「アリン、フェイスドロップがどこにあるか分かるか?」

 

 守護を司るガーディアンシードが現れたのならこの辺りにフェイスドロップがあるのだろう。ファングは周囲を見渡す。それらしきものはない。

 

「それが確かに存在は感じるんだけど。はっきりとは・・・・・・」

「しっかりしろ! お前が頼りなんだぞっ!」

「落ち着け、ファング」

 

 怒鳴るファングの肩を巧が叩く。

 

「ガーディアンシードを追ってけば良いんじゃないの? 彼らはフェイスドロップのガーディアンなんだから」

「なるほど。確かにハーラーさんの言うとおりです。ファングくん、ガーディアンシードを斬って進みましょう!」

「ああ、いくぞ! お前ら!」

 

 ◇

 

「コイツで最後だったみたいだな」

 

 最後のガーディアンシードを倒したファングたちはカヴァレ砂漠の最北端にたどり着いた。

 

「ファング見て、あれ!」

 

 アリンの指差した先に光輝くフェイスドロップがあった。

 

「これがフェイスドロップか」

「よっしゃ。ついに目的達成や」

「やりましたわ。これで女神が復活します!」

 

 明るい面持ちになるティアラたちだがファングは一人張り詰めた表情を浮かべる。

 

「出てこい、バーナード。いるんだろ!」

「「!」」

 

 ファングの一言に彼らは顔色を変える。

 

「ふふ、やはり君は気づいていたみたいだな」

 

 バーナード。もっとも会いたくない敵が現れた。ファングは無言で剣を構える。

 

「ああ。毎度毎度しつけえな、てめえ」

「それも今日で最期だ。君たちを殺してフェイスドロップは私がいただく。邪神復活のためにな」

「邪神復活ですって!?」

 

 邪神復活。そのキーワードにティアラは顔を青ざめる。

 

「道案内ご苦労だったな。貴様らの旅はここで終わりだ。心置きなく死ね」

 

 バーナードが腰にベルトを出現させた。

 

「この前と同じと思うな、おっさん。あんたと違って若いもんは日々進化してんだ!」

「あんたみたいな悪者がこの世に栄えた試しはないんだよ。ここで倒させてもらう」

「僕たちの旅は終わらない。だけどあなたの命はここまでです」

「せや。ワイらの恐ろしさ見せたる」

「お前、殺」

「男子三日会わざれば刮目して見よ。侮るでないぞ」

 

 ファングたちもそれぞれその手に武器を持つ。

 

「あなたみたいな人に、ドルファにフェイスドロップは渡しません!」

 

 ティアラはバーナードを睨み付けた。

 

「ドルファ? ふ、ふふ。ふはははは」

「何を笑う!?」

 

 高笑いを始めたバーナードにシャルマンが剣を向ける。

 

「ドルファなどただの踏み台。利用出来るものを利用しただけだ。貴様らと何も変わらない。私は神の力を得てこの世界の王になる!」

 

 神に等しい力を持ったバーナードにとってもはやドルファなどどうでもいい。この瞬間、彼はドルファと決別した。

 

「────かかか。バーナードォ、てめえやっぱり裏切る気だったのかァ」

 

 だがそれはドルファを敵に回したということだ。

 

「貴様はザンクか。何の用だ?」

「社長命令で裏切り者の始末を頼まれたんだァ。裏切り者のバーナードさんよォ」

 

 花形はバーナードが野心を抱いていることに古くから気づいていた。そして謀反を企んでいることも。だから懐刀に北崎を入れていたのだ。バーナードが生きていたという情報を耳に入れてから彼はザンクに彼を処分しろ、という命令を下していた。

 

「一人二人増えたところで変わらぬ。まとめて来るがいい。今の私ならドルファ四天王だろうと敵ではない。『フェアライズ』」

 

 バーナードは純白邪心の戦士に変貌した。

 

「ザンク、やっぱり助けに来てくれた」

「ザンクはん、ほんま助かるわ!」

「・・・・・・勘違いすんな。俺はただ命令されたから来ただけだ」

 

 エフォールとガルドが笑顔でザンクに駆け寄る。彼は二人にそっぽを向いた。

 

「てめえと肩並べて戦う日が来るなんてな」

「ち、これが最初で最後だ」

 

 ニヤリと笑うファングにザンクは舌打ちした。

 

「いくぞ、お前ら」

『フェアライズ!』

「変身!」

 

 ファングたちはそれぞれ変身した。

 

 ◇

 

「ふんっ!」

「がはっ!」

 

 バーナードの拳がガルドの身体に深々と突き刺さった。彼のフェアライズが強制的に解除される。

 

「大丈夫ですか、ガルドさん!?」

「あ、ああ。けど、次元が違いすぎてついていけへん」

 

 ティアラに治癒されガルドは悔しそうに目の前の戦いを見つめる。今この場でバーナードと戦えているのはファング、巧、ザンク、シャルマン。そして援護に徹しているエフォールだけだ。

 

「シャルマン、合わせろ!」

「分かりました!」

 

 燃え上がる剛剣と光輝く聖剣がバーナードに振り下ろされる。両方とも急所を狙ったものだ。だが彼はファングの剣しか受け止めない。シャルマンの剣は避けずに直撃した。

 

「貴様はこの場に相応しくない」

 

 バーナードはファングを蹴り飛ばした。シャルマンの首を掴むと拳を握る。

 

「くっ!」

「危ない、シャルマン」

『attack effect シューティングスター』

 

 シャルマンに迫った拳をエフォールの矢が弾いた。バーナードの腕が凍りつく。

 

「・・・・・・他にも相応しくない奴がいるようだな」

「いくぞォ!」

「死ね、バーナードォ!」

 

 ファイズの飛び蹴りがバーナードを吹き飛ばし、その先にいたザンクの鋭利な腕が彼を貫かんと突き出された。

 

「無駄だ」

 

 だがバーナードには当たらない。その手を足場に彼は跳んだ。

 

「消えっ『こっちだ、ウスノロ』ぐっ!」

 

 バーナードはザンクの巨体に無数の攻撃を一気に叩きつける。腹に、背中に、頭に。高速の打撃がザンクの身体を抉る。

 

「ザンク!」

『attack effe『相応しくないと言っただろう』』

 

 バーナードの腕がエフォールの首を掴んだ。

 

「・・・・・・っ!」

「そういえば君はあの時殺し損なったな」

『エフォール! 離してください!』

「心配せずとも二人纏めて送ってやる」

 

 バーナードのエフォールを握る手がどんどん強くなる。このままへし折る気か。彼女の首から血が流れる。

 

「ちっ!」

 

 ────complete

 

 ファイズはアクセルフォームにフォームチェンジした。一か八か、バーナードを倒すにはこれしかない。

 

「ファング、エフォール頼んだ!」

「おう!」

 

────start-up

 

 ファイズの姿が消えた。常人では決して追うことの出来ない超速の世界に彼は突入する。エフォールの首を掴んでいたバーナードを引き剥がすと、ファイズは彼を蹴り飛ばした。

 

「ラァァ!」

 

 ファイズは懐に潜り込むとその腹に拳を突き出した。────だが

 

「速い、だけだな」

 

 その拳はバーナードに回避された。

 

「何ぃ!?」

 

 バーナードの天性の勘と強化された反射神経がファイズの拳を捉える。彼は次から次へと繰り出される拳や蹴りを軽々と回避する。まるで巧がいた世界のゴートオルフェノクのように。

 

「私は北崎を葬るつもりなんだ。視えて当たり前だろう?」

 

────3

 

 バーナードの拳がファイズの身体を捉える。

 

────2

 

 吹き飛ばされたファイズの腹にバーナードの蹴りが直撃した。

 

────1

 

 ファイズが地面を転がる。

 

────time out

 

「く、くそ」

 

 変身を解除された巧は膝をついた。アクセルフォームが破られるとは、完全に予想外だ。

 

「これで残ったのは君たちだけだな」

 

 バーナードの赤い複眼がファングとザンクを不気味に睨み付ける。

 

「俺は勝つ。フェイスドロップは渡さねえ」

 

 ファングは二本の剣を構える。

 

「ザンク、私と一緒についてくる気はないか? 邪神の支配する世界は貴様にとって居心地が良いだろう」

「は、冗談じゃねえ。確かに俺は人殺しをする。この世全てをぶち壊したいと思ってる。常にイライラしてしていて他人を平気で傷つける屑だ」

「ゴミを忘れているではないか、ザンク」

「ああ、ゴミ屑だ。だから同じ屑がどうこうしようと知ったこっちゃねえ」

「ふ、私が屑だと・・・・・・!」

 

「────けどなあ」

 

 ザンクは傷ついて倒れたエフォールを見つめる。

 

「ガキを傷つける奴だけはぜってえにぶっ殺すって決めてんだ! いくぞ、デラ!」

『キャハハハ! 久しぶりに殺せる! キャハハハ!』

 

 ザンクは手を天高く掲げる。

 

『グオオオオオオオオ!』

 

 ────空から巨大な竜が大剣を食わえて現れた。

 

「あれはアポローネスの妖聖!?」

「バカな、彼は死んだはず!?」

「まさか生きてるんか・・・・・・?」

 

 ティアラたちは消えたはずのセグロの登場に驚く。

 

「いや、パートナーが変わったんだろう。フェンサーからフェンサーに譲渡したんだ。そして今のパートナーはおそらく」

 

 ハーラーは視線をザンクに向ける。

 

「来やがれ、セグロォ!」

 

 ザンクの身体にセグロが吸収される。彼の身体が光に包まれた。

 

「『フェアライズ!』」

 

 ザンクは黒い戦士に変身した。蛇のような顔にアポローネスと同じ甲冑を身に纏った異形の戦士が誕生する。それはあのロブスターオルフェノクを異空間に閉じ込めた戦士だった。

 

「ザンク、お前その姿は・・・・・・?」

 

 ファングは自分のように複数のフューリーと合体したザンクに目を丸くする。

 

「本当はてめえを殺す奥の手だったんだけどよォ、事情が変わった。先にバーナードを殺す」

「バーナードはともかく俺まで殺すなよ!」

 

 ファングとザンクはバーナードに飛びかかる。

 

「その程度で強くなったつもりか?」

「つもりじゃねえ。なったんだよ」

「なにっ!? ぐっ!」

 

 ザンクの拳がバーナードの腹に突き刺さる。彼は己が進化してから初めて痛みを感じた。予想外のことにバーナードはのけ反る。

 

「ウェイ!」

「くっ!」

 

 後退したバーナードにファングの剣が迫る。彼は腕に備え付けられた刃でそれを受け止める。追い打ちに放たれたもう一つの剣がバーナードに直撃した。だが彼の硬い装甲には傷一つつかない。

 

「・・・・・・ほお、確かに強くなったようだな。だがまだ私の方が強い!」

「ぐはっ!」

「くっ!」

 

 バーナードはファングを刃で貫くとザンクに飛び蹴りを放った。彼は腹にまともにその一撃を食らい、地面を転がる。急いで立ち上がった彼の首をバーナードは掴む。

 

「これで終わりだ。たかがフューリー二本で私の進化を越えることなどあり得ないんだよ」

 

 バーナードはザンクを押し倒すと無数の拳を彼の顔面に浴びせる。何度も、何度も。それこそこのまま殺す気でバーナードはザンクを殴っていた。薄れ行く意識の中、彼はニヤリと笑う。

 

「・・・・・・知ってるんだよ、そんなこと」

 

 ザンクは首を掴んでいるバーナードの腕を強く握りしめた。まだこんな力が、バーナードは驚く。

 

「だから癪だがてめえを殺すのは俺じゃねえ。やれェ! ファング、乾!」

「なにぃ!?」

 

────exceed charge

 

 バーナードの身体を紅い三角錘状のエネルギーが拘束した。

 

「いくぞ、ファング」

「ああ!」

「ヤアァァァァ!」

「ダァァァァァ!」

 

 フォトンブラッドを纏ったファイズの蹴りと、炎を纏ったファングの蹴りがバーナードの身体を貫く。彼の身体にΦの紋章が浮かぶ。

 

「ぐわああああ!」

 

 激しいダメージによってバーナードの変身が解除された。

 

「・・・・・・ぐっ! 何故だ、何故貴様らが戦える!? ファング、貴様の身体は確かに貫いたはずだ!?」

 

 バーナードは理解出来なかった。巧はともかくファングは腹を貫かれて満身創痍だったはず。にも関わらず彼は立ち上がり、あの時のように自分を貫いた。

 

「『フルリバイブ』瀕死の致命傷でも治す魔法ですわ」

「言っただろ。おっさんと違って若者は日々進化してるんだよ」

「そうです。世界征服など諦めて大人しく隠居してはどうですか?」

 

 満身創痍のバーナードを前にティアラが笑う。

 

「バカな。貴様、忌み子でありながら他人を癒せるというのか?」

「・・・・・・っ!」

 

 驚愕するバーナードを前にティアラは顔色を変える。

 

「それで? まだやる気か、おっさん」

「当然だ! 王の座につく。それこそが我が悲願! 我がさだめ! ぐはっ!」

「立つな、次は死ぬぞ」

 

 立ち上がろうとするバーナードの顔をファイズは殴った。

 

「あんたは王になんかなれない。言ったろ、悪者が栄えた試しはないってな。何度やろうと同じだ。こうやって倒されるのがあんたの運命だ」

「てめえが王になろうとするなら俺はてめえを叩きのめす。何度だろうとな」

 

 ファングはバーナードを見下ろす。自らを王と自称する彼の自尊心は地に落ちた。

 

「愚か者どもめ。この世は闇に還る。その運命は決して変えられない。それが何故分からない!?」

「例え世界が闇になる運命だとしても俺はその運命と戦う。そして勝つ。俺の意志が俺の運命だ」

 

 バーナードの言葉にもファングは揺るがない。彼はバーナードに背を向けた。

 

「その傷じゃ二度と戦えねえだろ。一生絶望してろ」

「待て・・・・・・待て! 何故斬らない!?」

「もうたくさんなんだよ。誰かの命を奪うのは。・・・・・・どうしても望むなら殺してやるよ」

「っ!」

 

 ファングの冷徹な目がバーナードを見据えた。彼は蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来ない。バーナードは死ななかったが、死んだ。今まで積み上げてきた全てがファングによって殺された。バーナードは恐怖心に支配され走り出した。惨めに、情けなく、這いつくばるように、

 

「ザンク、ありがとう」

「ほんまに助かりました」

「言っただろ。命令されただけだァ」

 

 感謝するエフォールとガルドにザンクは頭を掻いた。

 

「腐れ外道と言ったのは訂正しますわ。あなたはちょっと優しい外道です」

「それでも外道なんだな」

「精一杯の譲歩ですわ。ほんとは外道にしたいところですから。私の慈悲深さに感謝してください」

 

 どや顔のティアラにザンクは舌打ちした。

 

「行くのか」

「ああ。まだやることがあるからな」

 

 ザンクの視線の先にはバーナードが逃げた跡があった。

 

「じゃあな。世界平和とやらを実現してみろ。その世界をぶっ壊してやるよ、ひゃははは」

「ああ。必ず世界平和を実現してやる」

 

 ザンクはバーナードを追って消えた。ファングはそれを笑顔で見送る。

 

「ファング、フェイスドロップは?」

「あ、巧。サンキュー、すっかり忘れてた」

「しっかりしろ。何のためにここに来たんだよ?」

 

 ファングはフェイスドロップを手に入れた。

 

『・・・・・・感じる!』

「どうした、アリン?」

『聖域が近い』

「聖域?」

『うん。女神様が封印されている場所。フェイスドロップが教えてくれた』

 

 アリンはフェイスドロップの力によって女神の眠る地を思い出した。

 

「よし! このまま一気に進むぞ!」

『待って、もう保たない・・・・・・!』

『ちょっと、げんかいかも』

『くっ、面目ない』

 

 ファングの変身が解除された。度重なる戦闘の疲れによってエネルギーが底をついたのだ。

 

「フェアライズアウト・・・・・・。大丈夫か、お前ら」

「大丈夫、ちょっと疲れただけ」

『おなかすいたー』

『少し眠らせてくれ。しばしの休息が必要だ』

 

 焦ったファングだが無事な様子の三人にホッと胸を撫で下ろす。

 

「限界、みたいだな。俺もだが」

 

 巧はファイズの変身を解くとその場に座り込んだ。アクセルフォームを使えば大きな負担になるにも関わらず更なる戦闘を連続で繰り返したのだ。疲れただけで済んで良かっただろう。彼はホッとため息を吐く。

 

「巧さん、お水です」

「おう」

 

 果林はペットボトルを巧に渡した。汗をかいていた彼はそれを勢いよく傾ける。

 

「・・・・・・!!!」

 

 ちなみにこのペットボトル、果林の物である。巧のはさっきのガーディアンシードとの戦いで紛失している。だから果林の物である。

 

「助かった、ありがとな」

「いえいえ」

「顔、赤いけど大丈夫か? 熱中症とかじゃないよな」

「大丈夫だよ、乾くん。それは熱中症ではないから。似てるけど」

 

 巧は訳が分からず首を傾げる。

 

「それにしてももうヘトヘトやな」

「僕たちも休みましょう」

「眠い・・・・・・」

「うむ。ちょっと休ませてくれんかのう」

 

 ガルドたちもその場に座り込む。

 

「そろそろ日も暮れる。今晩はここで夜営しよう」

 

 ◇

 

「くそっ! くそっ! くそっ!」

 

 バーナードは走る。走る。どうしようもない恐怖から逃げるために。死にたくない。生きたい。極限まで追い込まれた彼は生に異常なまでの執着を抱いていた。

 

「────やだなあ、バーナードくん。何処に行くの?」

「補佐官、ここから先には行かせないわ」

 

 だがその行く手を北崎たちが遮った。

 

「邪魔をするな。私は、私は逃げるんだ!」

「逃げられると思っているのかしら? あなたはドルファを裏切った。その意味が分かる?」

 

 マリアノの細剣がバーナードの首に向けられる。

 

「やめろ、やめろぉ!」

 

 バーナードはマリアノに背を向けて走り出す。

 

「逃がさないよ」

 

 ドラゴンオルフェノクから放たれた火球がバーナードの背後で爆発する。彼は勢いよく吹き飛ばされた。

 

「こうなる覚悟は出来てたんだろ? 大人しく諦めろよ」

 

 倒れているバーナードの首をザンクは持ち上げた。

 

「離せ・・・・・・離せ! 私はまだ死にたくない!」

「かかかか! 面白えな。てめえ、俺様を殺す気だった癖に俺様に殺される覚悟はねえのかよ」

 

 怯えた目付きになるバーナードにザンクはニヤリと笑った。彼の首を掴む力がどんどん強くなる。

 

「バーナード、てめえに教えてやるよ。悪人にはいつか報いが来るんだよ」

「やめろぉ!」

 

 ザンクはバーナードの首を握りつぶした。首の折れる音が鳴る。彼は生き絶えた。かつて仲間だった者に殺される。誰一人彼の死に悲しむ者もエミリのように殺したザンクを恨む者もいない。味方すら敵に回した彼に相応しい末路だった。

 

「言ったろ、ガキを傷つけた奴は殺すってな。それがてめえがエフォールにしようとしたことだ。ってもう聞こえてねえか」

 

 バーナードだったものをザンクは放り投げた。

 

「ドルファへの背信は許されざる行為。そしてどんな理由があろうと子どもを殺そうとするのは人間としてあってはならない行為。当然の報いですわ」

 

 マリアノは冷たい目でバーナードだったものを見下ろした。

 

「やっぱりバーナードくんは王様にはなれなかったね。王様になれるのは僕だけだ」

「あなたは王様ってガラじゃないでしょう?」

「あ、じゃあ王子様で」

 

 そういうことを言っているのではない。マリアノは苦笑を浮かべる。

 

「ザギ! ドルファの兵を集結させなさい。何としてもあのフェイスドロップの力を我々の手中に納めるのよ」

「了解しました、マリアノ様」

 

 ザギは近くの街へと走って行く。

 

「悪いわね、ファング。真に世界を平和にするには支配による秩序が必要なの。そのために私はドルファにいるのだから」

 

 




最期まで中の人に引っ張られたバーナード(CV草加雅人)

最初はブラスターフォームで倒そうか迷ったんですが絶対にインフィニティの悲劇のようになるので没に。結果はお察しの通り(首が折れる音)です

いよいよ次回で個別ルートが終わります。ゲームを既プレイの方も未プレイの方も心して読んでください。
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