乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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壊れそうな未来をただ見つめた


壊れそうな未来を守るのは誰なの?

「・・・・・・」

 

 ティアラはぼんやりと空を見上げた。何処までも綺麗な星空が広がっている。この空をファングの先生も今見上げているのだろうか。もしそうなら自分の悩みもファングのように聞いてほしい。

 

「私は本当に忌み子なのでしょうか・・・・・・?」

「んな訳ねえだろ」

「ひゃい!?」

 

 こっそりと呟いた言葉に返事をされ、ティアラは変な声を出す。振り向くとそこにはファングがいた。

 

「ふぁ、ファングさん。ぬ、盗み聞きなんて良くないですよ」

「別に。なんだ独り言だったのか。それは悪かったな」

「いえ、厳密に言えば独り言ではないのですけど・・・・・・」

 

 あなたの先生に悩みを聞いてもらってました、と言う訳にもいかない。

 

「で、ならお前は何やってたんだ?」

「星を眺めてました。あまりにキレイでしたので」

 

 ティアラは穏やかな目で空を見上げる。ファングも見上げた。二人に自然と笑顔が浮かぶ。

 

「昔の人間はあそこまで行ってたんだってな。先生が言っていた。スペースシャトルとか人工衛星とか。そういう機械があったんだってよ。信じられねえな」

「そうですね」

「女神が復活したら、行けるようになるかもな。お前が望む、平和な世界ってヤツになったら」

 

 この世界に女神は文明をもたらした。なら失われた古代の文明を取り戻すのは不可能ではないだろう。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 ファングとティアラはお互いを無言で見つめ合う。

 

「・・・・・・ファングさん、ありがとうございます」

「ん? なんだよ、いきなり」

 

 急に頭を下げられ、ファングは目を丸くする。

 

「明日、女神復活の儀式を行えば世界は浄化され、私の夢は叶います。最初はあなたのこと頼りない人だって思っていました。いい加減で、怠け者で、フェンサーとしても全然ダメで・・・・・・」

「あのな・・・・・・」

「でもここまで来られたのはあなたのおかげです」

 

 ティアラはファングの顔を見つめる。

 

「あなたと出会ったから今の私がいる。私はずっと人と交わるのが怖かった。だからずっと一人で生きてきました。でもあなたと出会い、ともにフューリーを探し、仲間と呼べる人たちも出来ました。乾さんは初めて出来た友達です。アリンさんは初めて出来た仲間です。ブレイズさんも、キョーコちゃんも。みんな大切な人たちです」

 

 ティアラはファングに微笑んだ。彼は少しだけティアラの笑顔にドキリとした。

 

「ファングさん、あなたに会えて良かった」

「ティアラ・・・・・・俺もお前に会えて良かったよ」

「ファングさん・・・・・・」

 

 ファングもティアラに微笑む。彼女はファングの笑顔にドキリとした。

 

「ティアラと出会って俺は成長した。俺はずっと自由を求めて旅をしていた。ルールに縛られたくなくて、ただ生きているだけじゃ誰も救えない現実に嫌気が差したんだ。でもそれはどこに行っても同じだった。結局、俺は誰も守れなかったんだ」

 

 ファングはティアラの隣に腰掛ける。

 

「ティアラに会って、お前と一緒に旅をしていくうちに俺はお前を守りたいと思うようになった。その思いが強くなればなるほど俺自身も強くなって、ここまでたどり着いたんだ。もしも本当に世界が平和になったならお前だけじゃなくてもっとたくさんの人を俺は守れたことになる。俺はお前と一緒にここまで来れて良かったよ」

「・・・・・・!!!」

 

 ティアラはファングから顔を反らした。このまま彼の顔を見ていたらまだ願いが叶った訳でもないのに嬉しくて泣いてしまう。

 

「なあ、ティアラ」

「・・・・・・なんですか?」

「世界が平和になったら先生に会いに行かないか? アリンも巧も、皆でよ。先生に戦わないで済む世界を作ったんだって自慢してやろうぜ」

 

 ティアラは笑顔で頷いた。

 

 ◇

 

「月が、星がキレイですね。エフォール、見てください」

「うん、キレイ」

 

 果林とエフォールは星を眺める。

 

「ファングさんたちと出会った日もこんな星空でしたね」

「懐かしい。私、あの時はファングのこと嫌いだった」

「そうですね。でもエフォールをファングさんを好きになって、今では仲間になれたんです。私は嬉しいですよ」

 

 果林は星を眺める余裕が出来たエフォールに喜びを覚える。

 

「よう。果林、エフォール」

「巧さん、どうしたんですか?」

 

 二人の前に巧が歩み寄る。

 

「バハスのおっさんがメシだってよ。呼んでこいって頼まれたんだ」

「そういえばお腹、すいた」

「もうそんな時間ですか。早いですね」

 

 エフォールはよほどお腹がすいているのか目を輝かして走り出す。転ぶなよ、巧は苦笑を浮かべた。

 

「巧さん、月がキレイですね」

「ああ。星もキレイだよな」

 

 巧と果林は空を見上げる。焚き火以外の光源が存在しないこの砂漠の星空はどこまでも輝く。

 

「そうだ、果林。手を出せ」

「はい?」

 

 果林の手のひらに巧は水色の髪飾りを乗せる。それは彼が果林にプレゼントしたあのネモフィラの花の髪飾りだった。

 

「ここに来る前に街で買ったんだ。お前、この間海東に髪飾り渡しちまったろ。どうだ? キレイだろ、それ」

「・・・・・・はい、とっても可愛いです」

 

 果林は嬉しそうにそれを見つめる。

 

「もしよければ着けてもらえませんか?」

「ああ、構わねえよ」

 

 巧は果林のさらさらとした艶のある髪の毛に手を添える。髪に顔を近づけると彼は果林と目が合った。思ったよりも顔が近い。巧はさほど意識していないが果林はもう顔が真っ赤だ。緊張しているのか、首を傾げつつ彼は元々果林が着けていた場所に髪飾りを着けた。

 

「ほら、これで良いか?」

「は、はい。た、たぶんだいじょぶです」

「・・・・・・ホントに大丈夫か?」

「大丈夫です!」

 

 呂律が回っていない果林に巧は不安を覚えた。

 

「ふふ、似合ってますか?」

 

 果林は上機嫌だ。髪飾りを指さして巧に微笑む。こんな笑顔が見れるなら髪飾りの一つや二つ安いものだな。巧も笑顔を浮かべた。

 

「ああ、可愛いと思うぞ」

「・・・・・・!!!」

 

 巧らしからぬストレートな称賛に果林は目を丸くする。そしてその意味を理解するとぼんっと顔に熱がたまっていく。果林は頭が沸騰しそうになった。目がぐるぐると回る。そこで初めて巧は彼女の異変に気づく。

 

「お、おい。どうした、果林?」

「にゃ、なんでもないです」

 

 心配した様子の巧にぶんぶんと果林は首を振る。ちなみに言わなくても分かるだろうが、彼は髪飾りを可愛いと言っただけである。無論、本人を可愛いと言える度胸がないだけだが。

 

「わ、私先行きますから」

 

 果林は巧から逃げるように走り出す。彼は制止することすら出来ない。

 

「なんだったんだ、一体?」

 

 巧は首を傾げる。

 

「あ、そうだ。ティアラとシャルマンにもメシだって言わねえと」

 

 二人ともどこにいるのだろう。とりあえず巧は足跡を辿ることにする。

 

「ティアラさん、僕はあなたのことが・・・・・・」

 

 しばらく巧は歩いているとシャルマンの声が聞こえた。言葉からティアラと会話していることが分かる。

 

(二人一緒ならラッキーだ)

 

 手間が省けて良かった。巧は声の方へ歩みを進める。

 

「シャルマン様と出会えて私も本当に嬉しかったです。あなたがいなかったら私たちの旅はもっと困難になってたでしょう。それに・・・・・・あなたのおかげでファングさんもちょっとだけ大人になった気がします」

(フラれたな、シャルマンのヤツ)

 

 会話の内容はよく分からなかったがなんとなく察した。巧は苦笑を浮かべる。

 

「なぜ彼の名が出るのです? あなたの目の前にいるのは僕だ。もっと僕を見てください」

「しゃ、シャルマン様?」

 

 だがその苦笑した表情は一瞬にして凍りつく。明らかにシャルマンの様子がおかしい。嫌な予感を覚えた巧は歩く速度を早める。

 

「指輪です。地への回廊に皆さんが向かっている間に買っておきました。もらってくれますね・・・・・・?」

「や、やめて! ダメっ! やめてください・・・・・・っ!」

 

 ティアラの声が悲鳴に変わる。巧はオルフェノクの力を使った。彼女はシャルマンに押し倒されていた。嫌な予感は確信になる。巧は叫んだ。

 

「ティアラー! シャルマンー! メシだぞー!」

 

 巧の大きな声はシャルマンとティアラの耳に入った。彼はティアラを押さえていた手を離す。巧が近くにいることに気づいた彼はティアラから離れた。

 

「・・・・・・お前ら今まで何やってたんだ、もうメシだぞ?

 

 巧はあくまで何も知らないフリを装う。騒ぎになると非常に面倒な事態になる。そんな予感がしたからだ。

 

「何でもありません。ただティアラさんと星を眺めていただけです」

 

 シャルマンはそれだけ言うと逃げるように立ち去った。

 

「・・・・・・大丈夫か、ティアラ?」

 

 シャルマンが完全に遠ざかるのを確認すると巧はティアラに手を差し伸べた。

 

「はい・・・・・・。ありがとうございます」

「あいつ、お前に何をしようとした? ことと次第によってはパーティから追い出すか?」

  「それが、私に指輪を渡しただけで・・・・・・」

 

 ティアラは釈然としない顔で立ち上がる。

 

「はあ、指輪?」

「はい」

「どんな指輪だよ」

 

 ティアラは巧に指輪を手渡した。

 

「乾さん。それは・・・・・・!?」

「・・・・・・っ!」

 

 ティアラは手鏡を巧に見せた。彼の顔にオルフェノクの紋章が浮かび上がる。彼の顔が驚愕に染まった。

 

「なんだよ、これ」

「・・・・・・恐らくは人の本質を見れる指輪なのでしょう」

「本質、だと」

 

 この世界には魔力を高める指輪、魔法を無効化するネックレスなど様々な不思議な力を持った道具がある。この指輪もその一つなのだろう。しかし、紋章が浮かび上がっただけなのが幸いだ。もしもオルフェノクになっていたら、と思うとゾッとする。ティアラが果林やガルドのように巧を受け入れられるか分からないのだから。

 

「こんなのお前に使ってアイツは何がしたかったんだよ」

 

 巧とティアラは首を傾げた。

 

 ◇

 

「大丈夫、ガルドちゃん? こんな夜明け前から出発だなんて。まだ眠いんじゃない?」

「平気やへーき! もうバチっと目ぇ覚めとるわ! ドルファの連中より先に動かんとな。よっしゃー! 準備完了!」

「おい、ガルド。靴紐ほどけてんぞ」

 

 ガルドは咳払いして靴紐を結んだ。

 

「こっちもオッケーだ」

「皆の衆、忘れ物はないか? ゴミは置いていってはいかんぞ」

「エフォール、大丈夫ですか。おやつの飴はちゃんとポケットに入ってますか?」

「うん。準備出来た」

「俺もだ。ま、一番荷物少ないから準備も何もねえけどな」

 

 ファングは全員の準備が完了していることを確認する。

 

「よし、アリン! 行くぞ!」

「うん! 女神の聖域に出発ー!」

『おー!』

 

「・・・・・・」

 

 皆がみなテンションを上げる中、シャルマンだけが浮かばれない表情を浮かべていた。

 

 ◇

 

「しっかし、ここまであっという間だったな」

「私もたった半年程度で女神を復活出来るなんて予想してませんでしたわ」

 

 フューリーは100本集めないといけない。その固定観念がフェンサーにはある。ファングたちもそうだった。こんな手順で女神が復活するなら地道にフューリーを集めていた多くのフェンサーが怒り狂うだろう。

 

『ねえ、もうおわりなの? これでたび、おしまい?』

 

 キョーコが寂しそうな声で言った。

 

「まだ終わりじゃねえよ。本番は世界が平和になってからだろ。見に行くんだよ。平和になった世界がどれだけ美しいかどうかをな」

「せや。平和になってもワイらにはまだまだやるべきことがあるんやで。何処までもついて行きまっせ、ダンナ!」

『あ、そっか。まだまだやることがあるんだね!』

 

 この旅が終わってもまた新しい旅が始まる。キョーコは期待に胸を膨らませた。

 

「私も、ファングに何処までもついて行く」

「エフォールに私はついて行きます。巧さんは?」

「正直またファングと二人旅になると思ってた。お前らがいるならそれも悪くねえな」

 

 以前よりも騒がしくなりそうだ。巧はうっすら笑みを浮かべた。

 

「皆、着いたわ!」

 

 しばらく砂漠を進んでいるとアリンが突然足を止めた。

 

「・・・・・・え?」

「なんもあらへんで?」

「アリンさん、どういうことです?」

 

 何故突然なのか。それはここが本当に何もない所だからだ。

 

「ファング、剣を・・・・・・!」

「ああ」

 

 アリンの指示にファングは頷く。

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

 ファングは地面に深々と剣を突き刺した。────閃光。目を開くことすら出来ない光が周囲を包み、大地が隆起する。彼らが目を開くとそこには祭壇が出現していた。どうやったのだろうか。人が作ったとは思えない。神々しく光輝き続ける祭壇だ。

 

「す、すごい」

「これが女神の聖域・・・・・・」

「キレイ」

 

 ティアラたちは女神の聖域を前に感嘆の声を出す。

 

「ファング、フェイスドロップをセットして。女神が降臨するわ」

「わかった」

 

 ファングは聖域の中心へと進んでいく。

 

「いよいよですね」

「・・・・・・」

「女神がついに目覚めるんだな」

 

 彼らは固唾を飲む。

 

「いくぞ」

 

 ファングはフェイスドロップをセット────

 

 

 

「オラオラオラオラッ! 勝手なことしてんじゃねーぞっ!」

「っ!」

 

 しようとしたが突如現れた男に遮られた。

 

「たくっ! 調子こきやがって! マリアノ様を差し置いて女神復活だぁ!? ふざけんじゃねーぞ!」

「ふざけてるのはキミだよ、ザギくん。僕を差し置いて先に登場するなんて生意気だよ」

「こら、あなたたち勝手な行動は控えなさい」

 

 マリアノとその親衛隊。更に北崎の登場にファングたちは身構える。

 

「ドルファの戦力を集結させたんか? なんつー数の兵士や!?」

「オラオラ! 怖じ気づいたかっ!!」

 

 強力なフェンサーが集まったファング一向でも流石にこの人数を相手にするのは厳しい。

 

「マリアノ、薄々感づいていたがやっぱりお前が最後の四天王だったんだな」

「ええ、そうよ。・・・・・・私もあなたたちとこうして戦うことになると薄々感づいていたわ」

 

 ファングは無言でマリアノに剣を向ける。

 

「世界が平和になるならあんたにとっては願ったり叶ったりだと思うんだがな」

「甘いわね。勘違いしてるんじゃないかしら。邪神は深い眠りについているのよ。今を生きている人間に邪神の影響があると思うの?」

「・・・・・・それは」

 

 ない、だろう。眠っている邪神が世界に影響を与えているというならこの世界はもっと混沌としているはず。そう。争いを生んだのは人間たち自身だ。

 

「あなたなら分かるでしょう? 人がいるから善悪が分かれるのだと。善悪を決めるのは神じゃない。人間よ。人間の醜い心が争いを起こす。・・・・・・この世から争いを止めることが出来るのは神々ではない。同じ人間による支配、それしかないのよ」

「一理ある。だけど支配が争いを止めるとは俺は思わねえ。人の意志が、可能性が争いを止めるんだ。俺はそう信じてる!」

 

 マリアノは無言で剣を抜いた。同じように世界の平和を願いながらも彼らは争う。

 

「人を信じられるあなたが羨ましいわ。・・・・・・『フェアライズ!』」

 

 マリアノの身体が変貌した。彼女のパートナー妖聖であるクララが巨大化し、その内部にマリアノは収納された。彼女は上半身をさらけ出し、ファングに向かって叫ぶ。

 

「天に召しませ・・・・・・召しませ、天にっ!」

 

 ファングはマリアノと交戦を始める。

 

「さて、僕の相手は誰がしてくれるの。なんなら全員でも僕は構わないよ」

 

 北崎はティアラたちに殺意を向ける。

 

「俺一人で十分だ」

「巧さん、私たちも手伝います!」

「任せて」

「せや! あの北崎相手に一人で戦うなんて無茶や、巧はん!」

 

 巧の隣に立とうとするガルドたちを彼は手で制す。

 

「まだ兵士もいるんだ。お前らはそれを頼む。いくらなんでも数が多すぎる。そっちを抑えられなかったら俺たちの負けだ。俺たちが負けたら全てが水の泡になるんだよ。世界はドルファなんかに支配されちまう。それだけは許すんじゃない」

「でも巧さんが『わかった、巧はん』・・・・・・ガルドさん!?」

「果林はん、大丈夫や。巧はんなら必ず勝つ。だからワイらも絶対にこいつらを倒す。倒して誰一人欠けずに生きて皆で帰るんや」

 

 ガルドは鎌を片手に兵士たちと交戦しているティアラたちを援護に向かう。

 

「果林、行こ」

「・・・・・・はい」

「待て、果林」

 

 渋々引き下がる果林を巧は呼び止めた。

 

「なんですか、巧さん?」

「その髪飾りの花、えっと。ネモフィラの花畑は凄くキレイ、らしいぞ」

「ネモフィラの、花畑・・・・・・?」

「この戦いが終わったらみんなで見に行こうぜ」

 

 果林はパアっと顔を明るくする笑顔で頷いた。

 

「ずいぶんと待たせてくれたね、乾巧」

「待つって分かってたからな」

「言ってくれるね、それ挑発かい?」

 

 ふん、と北崎は鼻を鳴らす。巧はふ、と笑った。

 

「木場からもらったベルトじゃなくて良いのか?」

「あれを使う資格は僕にはない。だけどキミ程度ならこれで十分さ」

 

 巧と北崎はベルトを巻いた。

 

「北崎、お前は何で戦う?」

「・・・・・・幸せになってほしい女の子がいる。彼女は今、争いのせいで悲しんでいる。これ以上の悲しみを味合わせたくはない。そのために僕はこの世界の王様になる。王様になって・・・・・・悲しみのない世界にエミリちゃんを連れていく!」

「だったらこの世界に王なんて必要ない! 人の心を支配した世界に未来はないんだよ!」

 

────555

 

────315

 

────standing by

 

────standing by

 

『変身!』

 

────complete

 

────complete

 

 巧はファイズに、北崎はサイガに変身した。

 

「はぁ!」

 

 マリアノの巨大な腕がファングに振り下ろされる。彼は大剣でそれを受け止めた。重い。流石にドルファ四天王だけあって恐ろしい強さだ。パワーだけなら今まで戦った誰よりも強い。エラスモテリウムにも匹敵するかもしれない。だがその他の四天王、ザンクとアポローネスを倒したファングにとっては苦戦はしても負ける相手ではない。

 

「ハァァ!」

 

 ファングはマリアノの腕を弾く。浮遊している彼女は大きく揺さぶられる。ファングはその腕に召喚した無数の剣を突き刺した。クララが悲鳴を上げる。あまりの痛みにクララはマリアノの意思に反してその場でじたばた暴れる。真下にいれば押し潰されるだろう。

 

『危ない、ファング!』

「おっと!」

 

 ファングはフェンサーの特殊能力である滑空を使い、マリアノと距離をとる。

 

「クララ、落ち着きなさい!」

『痛いです! 痛いんですよ、マリアノさまー!』

 

 激痛によって暴走したクララは主人であるマリアノが何を言っても大人しくならない。これでは通常のフューリーフォームで戦った方がまだマシだ。だが相手がファングである以上この形態以外では勝ち目が薄い。せめてアポローネスやバーナードのようにサイズは小さくパワーはファングに匹敵するような姿なら状況は変わってくるのだろうが。この巨大な身体では俊敏性に優れた彼には勝ち目がない。

 

「てめえ、マリアノ様に何する気だ!」

「よしなさい、ザギ!」

 

 マリアノが窮地と悟ると親衛隊であるザギはファングに斬りかかった。武骨に鍛えられた力強い剣が彼を襲う。

 

「おらおらおらおらっ!」

「・・・・・・やっぱつええよ、お前」

「当たり前だっ! この身の全てはマリアノ様に捧げると決めたんだからな!」

 

 ファングは片手剣でその攻撃を軽々受け流しながらもザギを強者と評価する。守りたいと思った者のためなら例え勝ち目のない相手だろうと躊躇わず向かう。己の命も省みず。その確固たる信念を持った人間が強者でないのならこの世にいる人間は全て弱者だ。

 

「だけど俺だってティアラのために戦うって決めてんだ!」

 

 ファングは剣を握る手に力を込めると勢いよく振り抜いた。受け止めたザギはそのまま吹き飛ばされる。

 

「マリアノ、あとはお前だけだ」

 

 ファングはゆっくりと剣先をマリアノに受ける。まだ突き刺さった剣のダメージが彼女は抜けていない。勝利は決まったようなものだ。

 

「させるかよ! うおぉぉぉぉぉ! マリアノ様、俺ごとやってください!」

「な!?本当に命まで捧げるつもりかよ!?」

 

 ザギがファングを羽交い締めにした。とんでもない馬鹿力だ。フューリーフォームのファングすら動けない。

 

「感謝します、ザギ。あなたが作った好機無駄にはしません」

「待てよ! ここまでお前に尽くす仲間を殺すのか!?」

「・・・・・・多くを救うためにはひとつを切り捨てなくてはならない時がある。大切な人だろうと。・・・・・・それが今よ!」

 

 クララの口が大きく開かれる。強大な魔力のエネルギーの収束にファングは嫌な汗が流れる。

 

『いかん、ファング! あれを喰らったらいくらお前でも・・・・・・!』

「分かってる。分かってんだよ!」

『じゃあなんでよ!?』

 

 ファングはザギに視線を向ける。意地でも離す気はないだろう。

 

「俺は自分が生きるためにコイツを切り捨てる気はねえ!!」

「・・・・・・あなた本当に大バカよ」

 

 ファングとザギを漆黒の光線が飲み込んだ。

 

「ザギ、ごめんなさい。私が弱いせいであなたを犠牲にしてしまった。・・・・・・本当にごめんなさい」

 

 巻き起こった激しい砂ぼこりを前にマリアノはポツリと呟く。

 

「────謝る必要はねえよ。まっ、気絶してるから聞こえてねえけどな」

「ファング!? あなた何故!?」

 

 砂ぼこりの向こうから聞こえるファングの声にマリアノは驚愕する。バカな、あの攻撃を喰らって何故無事なんだ。

 

「なによ、それ・・・・・・盾!?」

「便利な形のフューリーがあって助かったぜ」

 

 砂ぼこりが晴れるとマリアノは目を丸くする。ファングの目の前でフューリーが宙を浮いていた。花の形をしたチャクラム。高速で回転したそれがマリアノの放った光線を分散させたのだ。

 

「くっ、まだよ!」

 

 マリアノは拳を振り下ろした。ファングは彼女の拳の上に飛び乗る。

 

「ウェェェェイ!」

『ふぎゃああああ!』

 

 ファングはクララの胴体を切り裂いた。

 

「・・・・・・殺しなさい」

 

 フューリーフォームを強制的に解除されたマリアノ。彼女は両手を広げると目を瞑る。

 

「こいつは任せた。・・・・・・死にたいなら残念だな。俺はあんたを殺す気はねえよ」

 

 ファングはマリアノの前にザギを寝かせると背を向けた。

 

「ザギも私もあなたを殺そうとしたのに、何故・・・・・・?」

 

 ファングはニヤリと笑う。

 

「世界平和を願ってるお嬢様とそれを必死になって叶えようとする大バカ。それを殺したら自分自身の否定になんだろ?」

 

 ◇

 

「くそ、数が多すぎる」

 

 ファングは次々と迫り来るドルファの兵士たちを次々と倒していく。だがその勢いは増すばかりだ。どれだけの兵士が集まったのだろう。あちこちで激しい爆発音や怒号、そして悲鳴が聞こえる。

 

「悲鳴・・・・・・!?」

『ファング、今の声は!!』

 

 待て。今の悲鳴は誰の悲鳴だ。聞き覚えのある少女の声にファングの頭の中が急激に熱くなっていく。それは怒りか、焦りか。彼の身体が激情に支配される。

 

「てめえら、どけえええええ!」

 

 ファングは押し寄せる兵士の波を押し返す勢いで剣を振った。だが圧倒的な物量を前にはそれも一瞬のこと。直ぐに彼は劣勢に立たされる。

 

「くそ! どけ! どいてくれ! 頼む! どかないなら殺すぞ!!!!」

 

 ファングが追い込まれているのは彼が殺すのを躊躇っているからだ。フューリーフォームになればこの程度の相手全滅に追い込むことすら造作もない。それをしないのはただの人間ではあのフューリーフォームの一撃に耐えられないからだ。

 

「・・・・・・ちっ! てめえら撤収しろォ! 俺様直々の命令だ! 下がれ!」

 

 一人の男の命令によってファングを襲っていた兵士たちは次々撤退を始める。

 

「ザンク・・・・・・?」

 

 ザンク。その男の登場にファングは目を丸くする。

 

「さっさと行けェ」

「お前、どうして?」

「さっさと行けって言ってんだろうが! 殺されてェか!?」

「あ、ああ。ありがとな、ザンク!」

 

 ザンクの怒号にファングは慌てて走り出す。

 

「感謝なんてすんじゃねえよ、気持ち悪い。・・・・・・俺が『あの野郎』を殺してればこんなことにはならなかったのによォ」

 

 誰もいなくなった砂漠の真ん中でザンクはポツリと呟いた。

 

 ◇

 

 ファングはがむしゃらに走る。悲鳴の先に向かって。大丈夫だ。きっと勘違いのはず。彼女はフェンサーだ。そんじょそこらの相手にやられたりはしない。ドルファ四天王だってパイガという男以外は倒した。大丈夫だ。逃げに徹していれば彼女がどうにかなる心配はない。ガルドやエフォール、ハーラーだっているのだ。彼女がピンチになればきっと助けに入るはず。だから大丈夫だ。

 

「ファング・・・・・・!! あれ見て!」

『嘘、だろう』

『なんで、なんで!? やだ、やだ! やだやだやだやだやだ! いやあああああ!?』

 

 アリンが指差した先をファングは見る。そして後悔する。見なければ良かったと。あまりにも理解をしたくない現実に彼は頭が真っ白になる。今すぐこの二つの眼球を潰して目の前にあるものを視界から消してしまいたいとすら思った。だがもしもこの先、彼が暗黒の世界で生きることになっても生涯この光景は脳に焼き付いて決して消えはしないだろう。

 

「ティ、アラ」

 

────胸を剣で貫かれたティアラ。守ると誓った彼女の成れの果てにファングの心は砕けそうになる。

 

「しっかりしろ、ティアラ! 今、ガルドのところに連れていく。ガルドに治してもらえばきっと、きっと・・・・・・」

「・・・・・・ファングさん・・・・・・」

 

 ファングはティアラをその手で抱き上げた。

 

「・・・・・・私のために涙を流してくれたのもあなたが初めてです」

「涙なんていくらでも流してやるよ。まだお前の人生は、未来は始まったばかりだろ?」

「ありがとうございます。でも、やっぱり泣いてはいけませんよ。あなた男の子でしょう?」

 

 ティアラの真っ白く綺麗な指がファングの目から流した涙を優しく拭った。彼は余計に涙が溢れてしまう。

 

「ねえファングさん。私、実はファングさんのことちょっぴりカッコいいなって思ってたんです。・・・・・・あなたは私のことどう思ってますか?」

「可愛いと思ってるよ。笑ってる時も、怒ってる時も、喜んでる時も何時も可愛いって思ってる」

「ありがとうございます。ふふ、やっぱりファングさんは私のことを愛してしまったんですね」

 

 ティアラは儚げにファングに微笑む。彼はこんな時にも関わらずやっぱりティアラを可愛いと思ってしまった。

 

「でも、私を好きになってはいけませんよ。世界中がファングさんを嫌いになってしまいます」

「俺はとっくに世界と戦う決意をしたんだ。その警告はもう遅い」

「それは私を好きになってしまったということ、ですか」

 

 ティアラはうっすらと頬を紅くした。

 

「ファングさん、私もあなたのことが────」

 

 

 

 

 

 ティアラはファングに想いを告げることが出来なかった。彼女は死んだ。もうティアラは笑うことも、泣くことも、喜ぶこともない。

 

「あ、ああ。ティアラ、ティアラ! 起きろ、死ぬな! 死なないでくれ!」

 

 ファングは抱えていたティアラが重くなったことで彼女の死に気づく。

 

「キュイの存在も感じない。ファング、ティアラはもう」

 

 アリンがファングの背中にそっと触れる。

 

「な、なぜだ・・・・・・どうして、こんなことに・・・・・・ティアラァァァァァァァ!」

 

 女神の聖域にファングの絶叫が響き渡る。慟哭。絶え間なく流れる涙が彼の心をどこまでも黒く染めていく。

 

『心を強く持て、ファング! 飲まれるな、今お前が考えたことに飲まれてはならん! その先に待っているのは光ではない、闇だ!』

『それは、それはぜったいにしちゃだめ!』

 

────ブレイズたちの声が聞こえない。何かを喋っているのは分かるのに何を言っているのかが分からない。理解したくない。

 

────分からないのは何もかもだ。どうしてティアラが死ななければならなかった。誰が殺した。答えは出ない。

 

────これが運命だというのか。ティアラの死は決まっていたものなのか。避けようがなかったのか。いや、避けられたはずだ。もっと自分が強ければ。ティアラの傍にいてやれれば。彼女を守れたはずなのだ。ファングの胸を後悔が支配する。

 

 

────ああ。もしも時が戻せたなら。ファングは願う。

 

 

 

 

 

 

────この剣と共に運命も未来も変えていくのに。

 

 

 光に包まれたファングはこの世界から消えた。

 

 

 ◇

 

 ファングは目を開く。いくつもの星が輝く真っ白な空間に彼はいた。

 

「どこだ、ここ?」

 

 ぼんやりとした頭でファングは呟く。

 

「ここは時の狭間。過去現在そして未来が全て入り交じった空間だ」

「誰だ?」

 

 ファングの疑問に答えたのは一人の青年だ。水色のジャンパーを着た彼は首を傾げるファングに人懐っこい笑みを浮かべる。どことなく自分や巧と似ている、気がする。性格はまるで違うのに何故だろうか。

 

「俺は城戸真司。『仮面ライダー龍騎』。ちょっとした事情でこの空間に囚われてるんだ」

「俺はファング。フェンサーだ。理由はわかんねえけど気づいたらここにいた」

「忘れてるのか? 君は過去に戻ろうとしてるんだろ?」

 

 青年───真司に言われてファングはハッとする。忘れていた。とても大事なことを。

 

「そうだ、ティアラは!? それにアリンたちもいねえ・・・・・・」

 

 ファングはこの空間に来る前のことを思い出した。

 

「過去に戻ろうと考えるなんて何があったんだ?」

「・・・・・・守りたいと思った女が死んだ」

 

 ファングは目の前で死んだティアラのことを思い出し、腕を強く握りしめる。

 

「そっか、好きな子を取り戻したいのか。君なんだか『あいつ』に似てるなあ」

 

 あいつ? ファングは目を丸くする。

 

「それより戻れるのか、過去に?」

「ああ。あれは君が作ったんだ。戻れるよ」

 

 真司の視線の先には時空の歪みが生まれていた。穏やかな草原が広がる世界へとその歪みは繋がっていた。

 

「あれは、ソーヨル草原か?」

 

 自分とティアラが初めて出会った場所。思えばここから旅は始まったのだ。そうか、最初の出会いからやり直すということか。ファングは何となく察する。

 

「早く行きな。あれが消えちゃう前にさ。ちゃんとその子を救うんだよ」

「ああ。ありがとな。でも、あんたどうしてそこまで俺に親切にしてくれるんだ?」

 

 真司はファングの疑問に少し考え込む。

 

「君の話を聞いているとなんだが俺の友達を思い出してさ。ついお節介しちゃった」

 

 照れくさそうに真司が笑う。ファングも自然と笑みを浮かべる。人を笑顔にする、なんとなくそれが真司の魅力なのだとファングは思った。

 

「俺も、君と同じなんだ。悲劇を変えたくてやり直した。それも何度も。色んな悲劇と戦ってそれを全部打ちのめして来た、らしい。でも色々がむしゃらに頑張ったんだけど死んで、気づいたらここに囚われていた。でも、今でも俺は後悔していない。悲劇よりハッピーエンドのが絶対に良いからさ」

「悲劇よりハッピーエンド・・・・・・。そうだな、俺も悲劇をハッピーエンドに変えてやる!」

 

 真司の言葉にファングは勇気づけられる。彼は空間の歪みへと歩き出した。

 

「それにしてもここは・・・・・・」

 

 ファングは歪みに近づく間にいくつもの戦士の歴史を見た。仮面の下に涙を隠し、鋼の身体に優しき心を秘めた戦士たちの記憶を。度重なる不運に合いながらも己の境遇を呪わず戦い抜いた戦士がいた。なんだか巧と雰囲気が似ている。父の想いを受け継ぎ音楽を奏でる戦士がいた。ネガティブなところが少しティアラに似ている。どこまでも憎くて仕方がなかった機械生命体と友になった戦士がいた。彼のように北崎とも何時か分かり合えるだろうか。世界を敵に回しても守ると誓った愛する者のため願いを叶えた戦士がいた。彼が真司の言っていた友だろうか?

 

「いよいよ、だな」

 

 やがてファングは歪みの目の前にたどり着いた。彼が歪みに飛び込もうとしたその時────。

 

「ウェェェェイ!」

 

 一人の男の剣によって阻止された。

 

「・・・・・・なんなんだよ!?」

 

 ファングは咄嗟に後ろに跳んだ。もしも当たっていたら彼は死んでいただろう。

 

「お前をここから先に行かせる訳にはいかない」

 

 その男は顔にぼろ布を巻き、素顔を見ることは出来ない。何者だ。ファングは強い警戒心を持つ。

 

「・・・・・・どいてくれ。俺はティアラを救うんだ。邪魔をするな」

「邪魔? ふざけるな。お前は世界を滅ぼす気か?」

「世界を、滅ぼすだと?」

 

 男の怒気を込めた言葉にファングは怪訝な表情を浮かべる。

 

「そうだ。あの娘が生きていれば世界は崩壊する。お前が思っている以上にあの娘の存在は世界に影響を与えるものなんだ」

「普段なら鼻で笑ってやるところだがこんな場所で嘘を吐く意味はねえよな」

「なら話しは早い。あの娘は諦めろ。大人しく死を受け入れて元の世界へ引き返せ」

 

 時の狭間。こんな人知を越えた空間に来れるものがわざわざファングを騙そうとしてるとは思えない。

 

「で、ティアラを知ってるなら俺のことも知ってるんだよな?」

「ああ。嫌というほど知っている」

「なら、俺がここで引き下がる人間じゃねえって分かるだろ?」

「それも知っている」

 

 男は剣をファングに向けて放り投げた。

 

「ここを通りたければ俺を倒して通るんだな」

「言われなくてもやらせてもらう。・・・・・・世界を敵に回しても守りたいって思ったんだ。それが間違っていたとしても、俺はこの剣で運命を切り開く!」

 

 ファングは男に向かって駆け出す。先手必勝だ。アリンがいない今、彼が出来ることはただ剣を振ることだけ。ファングは男の懐に潜り込んだ。

 

「変身!」

『Turn up』

 

 だがファングは目の前に出現したナニかによって弾き飛ばされる。視線を向けると金色のオーラが男の前に出現していた。なんだ、これは。ファングが驚愕していると男はそのオーラを潜り抜けた。

 

「おいおい、何者だよ。あんた・・・・・・!?」

 

 ファングは目を見開く。男は金色の戦士へと変身していた。剣士。騎士。皇帝。ありとあらゆる英雄譚の象徴のような鎧の戦士がファングに剣先を向ける。

 

「俺は『仮面ライダーブレイド』お前の世界をずっと守り続けた英雄だ」

「へ、誰かを犠牲にする道を選ばせようとする奴が・・・・・・英雄を名乗るんじゃねえ!」

 

 ファングは戦士────ブレイドに斬りかかった。並のフェンサーなら目で追うことすら難しい剣をブレイドは軽々と受け流す。

 

「そうだ。誰かを犠牲にしてまで世界を救おうとするのは決して正しいことではない。だが誰か一人のために世界を滅ぼす道を選ぶのは間違っている」

 

 ブレイドはファングの剣を受け流しながら彼に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「は、両方とも間違ってるなら俺はより大切な方を選ぶね!」

「それが間違っているんだ! どちらも大切なものには変わりがないだろう!?」

「ぐっ!」

 

 防御に徹していたブレイドが攻撃に転じる。重醒剣キングラウザーの一撃は今まで戦ったどんな敵よりも重い。そして心に響く。ティアラを失うのは嫌だ。世界を滅ぼすのも嫌だ。そう考えているファングの心の中を呼んでいるかのようにブレイドは訴えかけてくる。

 

「ウェイ!」

「うわっ!?」

 

 勢いよく振り抜かれた剣の光線にファングは飲み込まれる。彼は大ダメージを受けて崩れる。

 

「・・・・・・ファング、お前がすべきことはなんだ?」

「わかんねえよ。ティアラを救いたいし、世界だって守りたい。どうすれば良いんだよ」

「何が分からないんだ? 答えはもう出ているじゃないか」

「え・・・・・・?」

 

 急に優しい声色になったブレイドにファングは目を丸くする。彼の真っ赤な複眼がファングの両目を捉えた。

 

 ファングの脳裏に一人の戦士の歴史が見えた。

 

────灰色の怪人と戦う黄金の戦士。

 

────女神を守るために邪神と戦う黄金の戦士。

 

────黒い石板を打ち砕くために戦う黄金の戦士とその仲間たち。

 

────戦場で傷ついた子どもを救う戦士。

 

────かけがえのない親友も世界も救うために永遠に運命と戦い続ける道を選んだ戦士。

 

 ファングは仮面ライダーブレイドの歴史を見た。永遠の切り札となり世界を守り続ける宿命を背負った戦士の歴史を。彼の生き様はファングの八方塞がりになっていた道を切り開いた気がした。

 

「お前が行くべき道、分かったか?」

「ああ。分かったよ。俺が何をすれば良いのか」

「なら見せてみろ、お前の意思を」

 

 ブレイドとファングは正眼の構えになる。二人の構えはとても『似て』いた。

 

「俺はティアラも、世界も両方とも救う!」

 

 ファングとブレイドは交差する。────一閃。

 

「そう、それで良いんだ」

 

 ブレイドの剣は空を切り、ファングの剣は彼の腹を捉えていた。負けたにも関わらずブレイドは仮面の下で笑っている。ファングもうっすら笑みを浮かべた。

 

「運命と戦え、ファング! そして勝て!」

 

 ブレイドはファングの肩を叩いた。彼はブレイドの言葉に目を見開く。

 

「その言葉・・・・・・まさか、あんたの正体は!?」

 

 仮面の下で笑い、ブレイドは変身を解除した。

 

「俺の名は仮面ライダーブレイド。またの名を・・・・・・『剣崎一真』!」

 

 ファングの顔が驚愕に変わる。剣崎一真。その男の名前を、顔を彼は知っている。

 

「強くなったなあ、ファング。驚いたよ」

「先生!? どうしてここに・・・・・・!?」

 

 先生。ファングの師匠。彼に剣を教えた男。それが剣崎一真だ。

 

「見ただろ、俺の過去。それが全てさ。昔馴染みの女神に頼まれたんだ。お前の願いを叶えるべきかどうかな」

 

 思わぬ形で師匠と再会したファングは剣崎がサラッととんでもないことを言っているのに気づかない。彼はただ再会の喜びを噛み締めていた。

 

「じゃあ、やっぱり緑の生き物は先生だったんだな」

「まあな。でも俺以外にももう一人(?)いるからどっちが噂の緑の生き物かは分かんないけどな」

「くそ、ピピンのせいでややこしいことになってたんだな。ち、あの着ぐるみめ」

 

 剣崎はクスリと笑った。ファングも笑う。だがすぐにその笑顔が凍りつく。剣崎の身体が消滅しかかっているからだ。

 

「先生、その身体・・・・・・!?」

「ん? ああ、もう限界か。流石にこの布があっても無理があったな」

 

 剣崎はスカラベアンデッドの力でこの空間に来ていた。しかし、神々の領域ではアンデッドとて万能ではないようだ。全てのライダーの中でも最強レベルの剣崎ですらこの空間には長居出来ないようだ。

 

「もう、お別れか? せっかく会えたのに。俺、ずっと・・・・・・ずっと先生を探してたんだ。なのに、こうして会えたのに!」

「大丈夫だ、俺はずっとお前の傍にいる。傍にいない時はもっと傍にいるんだ。それでも寂しいなら」

「星を見ろ、だろ?」

「そうだ。なら心配ないさ」

 

 剣崎はファングの肩を力強く叩く。

 

「ファング、さっきの言葉忘れるなよ。あの娘も世界も救う。そう願い続ければきっと出来るさ。今の俺が出来ないことをお前がやるんだ」

「先生、俺は絶対にティアラを救う。世界も守るよ」

「ああ。頑張れよ。だけどファング、自分を犠牲にするのもダメだからな。・・・・・・俺みたいに」

 

 剣崎にファングは頷く。彼は満足げな笑みを浮かべた。

 

「お前がピンチになったら絶対に助けに行くからな、安心しろ。・・・・・・じゃあな、ファング」

 

 剣崎はこの空間から消えた。ファングは一人ポツンと残される。

 

ファングはフッと笑う。

 

「・・・・・・俺は運命と戦う。そして勝ってみせる」

 

 ファングは歪みに飛び込む。

 

────さあ往こう

 

────世界が彼女を嫌うなら、俺が彼女をそれより好きになろう

 

────彼女を傷つける者がいるなら俺が彼女の盾になろう

 

 

────悲しみが彼女を傷つけるというなら俺がその悲しみをうちのめそう

 

────君を連れていこう、争いがない未来へ

 

 

 

 

────剣士《フェンサー》のように

 

 




ファングの師匠が判明したことにより共通ルートが終了しました。当たっていた人は何人いるでしょう?

といってもファングの共通ルートが終わっただけでまだたっくんたちの共通ルートはちょっとだけ残ってるんですけどね。

さて次回は冒頭でたっくんたちの共通ルート終了。そして女神編が始まります。
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