「タァ!」
ファイズの蹴りがサイガの腹に突き刺さる。彼は手首をスナップすると更に拳をその胸に浴びせた。のけ反りそうになったサイガはファイズの肩を掴むと懐に引き寄せる。
「フンッ!」
サイガの拳がファイズの顔面に直撃する。彼はサムズダウンするとファイズに膝蹴りを放つ。ファイズは崩れそうになる意識を繋ぎ合わさんとサイガに頭突きした。
「なかなかやるね。少しは強くなったんじゃない?」
「そういうお前は少し弱くなったんじゃないか」
「まだまだ手加減してるだけだよ」
様々なモンスターやフェンサーと戦いレベルが上がったファイズは単純な肉弾戦だけならサイガと互角に戦える。そもそもサイガは武装を除けばデルタよりもスペックが劣る。一度怒りに身を任せて北崎デルタを圧倒したファイズがサイガに勝てない道理はなかった。単純な肉弾戦だけなら、だが。
「ラァァァ!」
「おっと」
勢いよく繰り出されたファイズのハイキックをサイガは飛翔して回避する。彼はフォンブラスターをサイガに向けて発砲した。だがフライングアタッカーを翼のように扱うサイガには当たらない。逆にフライングアタッカーから放たれた光弾の飽和射撃にファイズは晒される。
「うわあああ!」
「あはははは」
地面が爆発し、ファイズは吹っ飛ばされる。サイガは笑いながら更に光弾を発射した。ファイズは横に転がると瞬時に駆け出す。サイガは彼を追う。だが直ぐに見失った。
「あーあ、どこ行ったのかな?」
光弾によって巻き起こった砂煙によってファイズの姿が隠されたからだ。サイガは適当に光弾を発射する。
『battle mode』
背後で電子音が聞こえた。サイガは空中で1回転して振り返る。
『ピロロロ!』
バジンだ。変形したバジンがサイガにバスターホイールの銃口を向けていた。銃弾の雨がサイガを襲う。半ば不意打ちで放たれた射撃を彼は回避することが出来ない。
「うわっ!」
まともに直撃したサイガは地面に吸い寄せられる。落下しながらもサイガは光弾でバジンを迎撃した。バジンはビークルモードに戻る。そして地面に激突する直前、フライングアタッカーを逆噴射させて墜落を防いだ。
────complete
「おいおい、それはいくらなんでもずるいんじゃない・・・・・・?」
砂煙の向こうから見える銀色のフォトンブラッドに流石のサイガも冷や汗を流した。
────start-up
「っ!」
目の前に現れたファイズアクセルの拳をフライングアタッカーを加速させてサイガは回避した。後ろ向きに飛びながらサイガはファイズアクセルに光弾を発射する。だが高速の力を持ったファイズアクセルは残像を残しながら軽々とそれを避けた。いや避けるという感覚すら今のファイズにはない。バーナードにこそ破れたがそれだけこのアクセルフォームの力は絶大だ。
「キミと僕、どっちが速いか勝負だ!」
それは奇しくも別の世界のサイガがファイズに放った言葉と同じものだった。サイガはファイズに背を向けると一目散に飛んだ。
アクセルにこそ劣るがフライングアタッカーの速度も尋常ではない。後追いではなかなかその距離は縮められないはずだ。サイガは砂煙を巻き起こしながらアクセルから逃走する。視界を隠すことによって少しでも時間を稼ぐ。10秒しかファイズアクセルは使えないからだ。だがそんな小細工はファイズアクセルには通用しない。
「タァァァァァァ!」
ファイズの飛び蹴りがサイガのフライングアタッカーを捉えた。フライングアタッカーは小規模な爆発を起こし、サイガは地面に落下した。
────ready
使い物にならなくなったフライングアタッカーからトンファーエッジを引き抜いてサイガは振り向く。────目の前にファイズがいた。彼の拳がサイガの顔面に迫る。
────3
サイガは上体を反らして拳を回避する。ファイズは彼に足払いを掛けた。サイガは後ろに倒れる。
────2
ファイズはその拳にファイズショットを装着した。倒れたサイガに向かって強化されたフォトンブラッドの拳が迫る。流石のサイガもこれを喰らえばただではすむまい。
(今だ!)
北崎はサイガの中でドラゴンオルフェノク龍人態と化した。
────1
ファイズは驚愕する。サイガに、北崎にアクセルフォームの攻撃が封じられたからだ。サイガはファイズを蹴り飛ばした。
────time out
「流石に寿命が縮むと思ったよ」
「ちっ!」
アクセルフォームの間に決着をつけられなかった。巧は舌打ちする。持久戦に持ち込めば有利なのは北崎だ。まだ彼にはドラゴンオルフェノクもある。勝ち目は薄い。とっとケリをつけなくては。
「さて、これでおしまいにしようか」
────exceed charge
サイガはトンファーエッジにフォトンブラッドを纏う。必殺の一撃を放つ気だ。
「ああ」
────ready
ファイズはその足にファイズポインターを装着した。
「ハァァァァ」
サイガはファイズに向かって駆け出す。挙動が大きいクリムゾンスマッシュに対してサイガスラッシュは圧倒的に有利。巧は選択を誤っている。最も通常形態ではサイガにグランインパクトが通用しないのでそれも仕方がないのだが。
「────巧さん!」
「果林!」
窮地に追いやられた巧を救ったのは果林だった。彼女はバジンから回収したファイズエッジを巧に投げ渡した。彼はファイズフォンに装着されたアクセルメモリーをそれに挿入する。
────ready
銀色のフォトンブラッドを纏ったファイズエッジで巧はサイガを迎え撃つ。
「ハァァァァ!」
「ヤァァァァ!」
二人の刃が交差する。激しいエネルギーのぶつかり合い。このままだと暴発する。ファイズは刃を滑らせ、サイガの腹を狙う。抜き胴。以前、剣の修行をしていたファングからたまたま巧が習ったものだ。この土壇場で彼はそれを完成させた。サイガはその無慈悲な一撃を容赦なく────
「・・・・・・なんで振り抜かないの?」
────受けない。ファイズはサイガに直撃する直前で寸止めした。北崎は不思議そうに首を傾げる。
「なら、お前はなんで撃たない?」
ファイズは気づいている。彼が刃を滑らした瞬間、何をするか悟ったサイガが片方のトンファーエッジを放り投げ、フォンブラスターに持ち変えたことに。そしてそれはファイズの腹に突きつけられていた。サイガの光弾は並のオルフェノクなら数発で灰と化す。ファイズとてただではすむまい。もしかしたら巧がファイズエッジを振り抜くよりも早く迎撃出来るかもしれない。だが北崎は撃たなかった。
「キミが振らなかったから」
「お前が撃たなかったからだ」
巧と北崎はフっと笑う。
「俺の負けだ。一人で戦った訳じゃない」
「全員でかかっても良いって僕は言ったよ。・・・・・・絶対に僕が勝ってたと思うけど。ま、いいや。今回は引き分けで良いよ」
巧と北崎は変身を解除した。
「キミが・・・・・・いや『僕たち』がどれだけ足掻いてもきっと世界から争いは消えない。僕たちのやっていることにはなんの意味もない」
「そうかもな。でも、誰かが支配するような世界で幸せになれる奴はいねえよ。だから自由のために俺は・・・・・・『俺たち』は戦うんだ。そこに幸せになれる奴がいるなら俺たちのいる意味は、ある」
「僕にはまだその意味が何なのか分かんないね。・・・・・・まあ好きにすれば良いさ。エミリちゃんや孤児院の子どもたちがキミの言うように幸せになれるなら僕はどんな世界になろうが構わないよ」
北崎は竜巻に包まれると消えた。エミリの下に帰ったのだろうか。それとも子どもたちのところか。
「巧さん、大丈夫でした・・・・・・?」
果林が巧の顔を覗き込んだ。彼女がファイズエッジを渡していなかったら巧は負けていただろう。
「ああ、大丈夫だ。助かったよ。果林、エフォールは?」
パートナーがいない妖聖は基本的に戦うことが出来ない。これだけ敵味方が入り乱れた戦場で彼女が単独行動するのは危険だ。
「エフォールならガルドさんと一緒にハーラーさんとピピンさんを助けに向かいました。今頃、合流していると思います。私だけ無理を言って巧さんの所に来ちゃいました」
果林は視線を後ろに向ける。ミサイルやレーザー、暴風に吹き飛ばされる兵士が目に入った。ハーラーとガルドの仕業だ。
「・・・・・・みたいだな」
やりすぎだろ、巧は額から汗が流れるのを感じた。
「でもお前、なんで俺の所に来たんだよ」
一人で戦うと言って果林も納得したはずだが。いや来てくれなかったら大ピンチだったので助かったのだけど。
「巧さんに早く会いたかったからです」
◇
「巧はん、無事だったんか」
「ああ、お前らも無事だったんだな」
「果林、おかえり」
「ただいまです」
巧はガルドたちと合流した。
「いや、助かったよ。皆とはぐれて囲まれちゃってさー。あと一歩遅かったら不味かったかもね」
「あんなんぶっぱなした後に言われても説得力ないわ」
「うぬ。歩く戦車と思ったわ」
「ハーラー、強い」
殲滅に長けたハーラーはこういった大量の兵士との戦いでこそ力を発揮する。普段の戦いではファングたちを、巻き込みかねないため意図的に戦闘から離脱しているのだ。本来なら彼女もこれくらいの力はある。
「それよりお前らティアラとシャルマンは何処だ?」
「シャルマンさんがハーラーさんの援護を頼んだんです」
「せや。ティアラはんもシャルマンの奴がいるなら心配ないからそっちに向かえって」
「そうか。なら次はティアラとシャルマンを助けに行くか」
確かにシャルマンはファングに匹敵する実力がある。彼が傍にいれば安全────
『ティアラァァァァァァァ!』
『!』
ファングの絶叫に巧たちは目の色を変える。
「今のは・・・・・・」
「ダンナやな・・・・・・。それよりもティアラはんって」
「行ってみよう」
◇
「なんだよ、これ・・・・・・」
巧は目の前の光景が理解出来なかった。いや、したくなかった。
────ティアラだったモノ
「なんだよ、これえええええええ!?」
巧は叫んだ。狂ったように。叫ばなければ本当に狂ってしまう気がした。
「『リバイブ』ティアラはん、起きろ! 『リバイブ』・・・・・・なんでや、なんで治らんねん!? なんで・・・・・・なんで」
「ガルドちゃん、しっかりして。大丈夫、私が傍にいるから大丈夫」
ガルドは必死に瀕死の傷でも治る魔法を唱えた。だがリバイブで治るのは死に瀕したものだけ。死したものを治すことは、出来ない。それを知っている彼はティアラの死を理解する。ガルドは頭を抑えてしゃがみ込んだ。
「・・・・・・いや。ティアラ、起きて。ねえ、起きて」
「エフォール・・・・・・ティアラさんは、もう」
必死になってティアラを揺さぶるエフォールを果林は抱き締めた。パートナーである彼女はエフォールの心がかつてのように冷たく塞がっていくのを感じる。だが今の彼女が出来るのは大丈夫とエフォールに囁くことくらいだ。果林自身も身体が震えているのだが。
「これは、いくら、なんでも、想定外だ」
「しっかりするのだ、ハーラー殿。お主と我輩まで取り乱したらこのパーティは終わりだぞ」
かろうじて正気を保っているのはハーラーとピピンだ。
「分かってるよ、それくらい! でも、この状況は訳分かんないよ!?」
「我輩だって訳がわからん。だが・・・・・・」
ピピンとハーラーの視線の先には集まりつつある兵士がいた。
「こやつらを始末しなければ弔うことも出来ん」
「・・・・・・ティアラちゃんを殺したのは誰か分からない。だから今からするのは」
『八つ当たりだ!』
ハーラーとピピンが兵士と交戦する。
(あいつらがやったのか?)
巧はぼんやりとそれを眺めていた。
(ティアラ・・・・・・)
巧はティアラの遺体を見た。彼女の死に顔は腹を貫かれたにも関わらず不思議と穏やかだ。
(なんでだよ、死んだってのになんで幸せそうなんだよ。死んで、死んで辛くないのかよ)
────真理が死んだ。
────澤田が死んだ。
────結花が死んだ。
────草加が死んだ。
────木場が死んだ。
巧の脳裏に様々な人々の死が浮かび上がる。
誰かが死ぬ度に彼は強く後悔した。目の前で死んだ命、間に合わなくて死んだ命。消えていく誰かを思えば思うほどに巧は深い悲しみと自責の念に包まれる。
────ああ、時を戻せたなら。巧は願う。
巧の腕に巻かれたファイズアクセルの時間が戻り始めた。
世界が闇に包まれる。巧の目の前には誰もいない。ガルドも、エフォールも、ハーラーも、ピピンも、そして果林も誰もいない。巧はかつてのように孤独になった。
でも、これで良いんだ。ティアラが、仲間が生き返るならなんだって良い。自分自身がまた消えてしまっても構わない。元々自分はこの世界に存在するはずの人間ではない。巧は静かに目を閉じた。
「────それは止めておけ。何の解決にもならん」
誰かがファイズアクセルのスイッチを押した。闇に包まれていた世界に光が戻る。
「巧さん!」
「どうしたんや!?」
「だいじょう、ぶ?」
果林たちの声に巧はハッとする。
「お、れは何を?」
巧は自分が何かとんでもない過ちを犯そうとしていたような気がした。
「巧はん、急に魂が抜け落ちたように膝をついたんや」
「そうです、心配したんですよ」
「巧、無事で良かった」
巧の異常に三人が少しだけ正気に戻った。それでもまだティアラの死のショックは抜けていないが。それはが仕方ない。
「大丈夫であったか、巧殿」
「あ、ああ」
「顔に生気も戻ってきたし、もう心配なさそうだね。ま、今はそれどころじゃないけど」
倒れた無数の兵士たちを尻目にハーラーとピピンも巧に駆け寄った。
「お前ら、身体が・・・・・・?」
ガルドたちは身体から光の粒子が溢れていた。巧自身もだ。彼らの身体はみるみる薄くなっていく。ハーラーがそれどころではない、と言った理由が分かった。
「うぬ。人知を越えた何かが起きてるようであるな」
「恐らくは女神の仕業だろうね」
「女神、だと」
「私たち、消えちゃうの?」
「きっと大丈夫ですよ、エフォール」
「いったい、何が起きようとしてるんや?」
「────時が戻ろうとしている」
『っ!』
突然現れた男に巧たちは驚く。
その男は作務衣に身を包んだ端正な顔立ちの美青年だ。エフォールを除いた女性陣はちょっとだけ彼に見惚れた。下駄を踏み鳴らして彼はこちらに近づいてくる。
「誰だ・・・・・・?」
巧の問いかけに男は天を差した。
「俺は天の道を往き総てを司る男。『天道総司』だ」
それだけで巧たちは天道がどういう男なのかなんとなく察した。コイツは色々な意味で凄い人間だ、と。
「時が戻るとはどういうことだい?」
「お前たちの仲間、ファングと言ったか? そいつが女神の力を使って時を戻そうとしている。今は剣崎一真によって足止めされているが・・・・・・それも直に終わる。間もなく時は戻るだろう」
この現象はファングによって起こされた物だと知り、巧たちは驚く。
「そうか、ファングはティアラを見て時を戻そうとしたのか」
「やっぱりダンナ、ティアラはんに惚れてたんやな」
「惚れてるとかそういう問題ではないと思うのですが」
それでは巧もティアラに惚れていることになる。決して時を戻すこととイコールではない。
「それで、お主は何故に我輩たちにそのようなことを教えるのだ? 見たところそんなお節介を焼く人間には見えんのだが」
「お節介を焼く人間たちに頼まれたとだけ言っておこう。俺の本来の目的はある男の救出だ。・・・・・・これを受け取れ」
天道は何かを巧たちに放り投げた。
「これは・・・・・・」
「なんや、これ」
「オモチャ?」
「いや、ガルドくんのと私のは精密な機械のようだ」
「むむっ、面妖な」
巧には赤い宝石の指輪。ガルドには白いバイクのオモチャ。エフォールには緑と黄色のカード。ハーラーには赤いミニカー。ピピンには銀色の戦士の仮面。
「これ、巧さんと同じ物?」
そして果林に渡されたのはファイズと同じような白い仮面の戦士のメモリーだ。それぞれが行き渡った物を不思議そうに眺める。
「それを持っておけ。お前たちもファングと共に過去に戻れるだろう」
「マジか!? ワイらはおいてけぼりかと思ったわ!」
ガルドが驚く。巧たちも気持ちは同じだ。女神の一部であるアリンのパートナーであるファングはともかく、自分たちも過去に戻れるということに。天道はまた天を指差した。
「おばあちゃんが言っていた。卓袱台をひっくり返して良いのはよほど不味い飯だった時だけだ、と。舞台はこの俺が用意してやった。誰かを失う悲劇はもういらない。今こそ大団円を巻き起こすんだ」
「ああ。こんな下らない悲劇なんかハッピーエンドに変えてやる!」
「へへ、上等!」
「絶対に、ティアラを救う・・・・・・!」
「必ず皆で生き残りましょう!」
「私に何が出来るか分からないけどやってみるよ」
「我輩も全力を尽くそう。皆で笑い合える世界を作るのだ、かっかっか!」
巧たちは不敵な笑みを浮かべた。
やがて世界は暗闇に包まれた。巧は目の前に見える光に向けて歩き始める。
────乾巧、もうお前に絶望は許されない。
背後から聞こえる天道なりの激励に巧は頷いた。
◇
────絶対に私のことを好きにならないでください
────僕たちなら負けない!
────あなたは私と結婚出来るなら、したい?
────ファングを殺すのは私
────ダンナとは気が合いますなー
────ひゃはははは。やっぱり戦いは良い!
────仲間の夢くらいなら守ってやるさ
時が遡っていく。ファングはかつての日々の記憶が巻き戻っていくのを感じた。
────旅のお方。見れば随分とお疲れのご様子。ちょうどカモミールティーを淹れた所です。よろしければ、どうぞご一緒に。
今、全ての時間が巻き戻った。ファングとティアラが運命の出会いをしたその日へと彼は導かれた。これより先の未来は未知数となる。ファングの意志に、剣によってこの先の運命は変わっていく。
────さあ全ての始まり《ラウンドゼロ》だ。
ファングは目映い光に包まれた。
「・・・・・・う、うう」
ファングは目を開けた。見上げれば穏やかな青い空が広がっている。
「おい、起きろ! アリン!」
ファングは横で眠っているアリンを揺すった。
「う、うーん。は、ここは!?」
アリンは跳び跳ねるように起き上がった。ファングと違って状況を理解してない彼女は不思議そうに周囲を見渡す。
『我らがいたのはカヴァレ砂漠だ。だがここはカヴァレ砂漠ではない』
「どうしてあたしたちソーヨル草原にいるの?」
『えー、なんで? どうして? ファング、みんなはー?』
ファングはアリンたちにこれまでの経緯を説明した。
「それ、本当なの?」
『しんじられないよー』
アリンとキョーコが怪訝な表情でファングを見る。無理もない。いきなり女神の力で過去に戻って全てをやり直すと言っても信じる人間はいないだろう。だが彼女たちと違いブレイズは考え込む仕草をとる。
『・・・・・・本当に剣崎一真と会ったんだな、ファング?』
「ああ。先生が俺の行くべき道を教えてくれた。ティアラも世界も両方救えって言った」
『ならば間違いないだろう。俺は信じる、ファング』
ファングと同じく剣崎を知るブレイズは今のこの状況に納得した。それだけ剣崎一真という存在の異常さが窺える。彼なら女神と繋がっていてもおかしくはなかった。
「とにかく本当に過去に戻ったならティアラが生きてるはずだろ。この先にアイツがいるはず」
「あ、待ちなさい。別にあんたを疑ってる訳じゃないわよ!」
ずんずんとソーヨル草原を進んでいくファングをアリンは慌てて追いかけた。
「でも、あんたの先生って何者なの? 女神様の知り合いならあたしも心当たりがあっても良いと思うんだけど・・・・・・」
『剣崎一真。以前お前が思い出した黄金の剣は恐らくヤツだ。この星に女神が現れるよりも更に前から生きている不老不死の男ならばありえない話しではない』
「何歳よ、それ・・・・・・」
「俺の二百倍は生きてるって言ってたな」
ファングは今二十歳だからそれを二百倍にするとざっと四千歳となる。どれだけ長生きしてるんだ。アリンは頭が痛くなるのを感じた。
『すっごい。わたしたちよりもとしうえだねー』
「そういやお前たちって何歳なんだよ。アリンって女神の一部ってことは女神と同い年ってことだろ?」
「女の子に年齢を聞くんじゃないの!」
「あ、やっぱり女神と同い年なんだな」
アリンの張り手がファングに飛んだ。
「いってえ」
『今のはファングが悪い』
ちなみにアリンは十七歳だ。眠っている期間も含めてカウントするなら妖聖は全員千年以上は生きていることになる。妖聖の、特に女性に年齢を聞くのはやめた方が良いな。ヒリヒリする頬を抑えてファングは思った。
「・・・・・・でも、あんた本当に良かったの?」
ソーヨル草原をしばらく歩いているとアリンがそんなことを言った。
「何が?」
「ティアラはあんたのことを全部忘れてるのよ。今まで通りの関係には絶対に戻れないわ。時間を戻すにしたって何も最初からじゃなくても良かったのよ」
アリンの言っていることはごもっともだ。ファングが少なからずティアラを思っている。むしろそれで何度も焼きもちを焼いているくらいだ。だから彼女との出会いをやり直すことがファングにとってどれだけ残酷なことなのかアリンは知っている。だがファングには最初に戻らなければならない理由があった。
「なあ、お前らはティアラを殺したのは誰だと思う?」
「そんなのドルファに決まってるじゃない」
『フェンサーだね。それもそうとうなつよさじゃないと』
アリンとキョーコの推理にファングは首を振る。
『・・・・・・巧たちの誰かだ。誰とは予想出来んがな。剣崎の話しから推測するならシャルマンかピピンが特に怪しいが、これも憶測にすぎない』
「ああ、そうだ」
ブレイズに頷くファングにアリンは目を見開いた。
「どういうこと!? あんたシャルマン様にピピン・・・・・・仲間を疑うの!?」
「考えてみろ。ドルファのフェンサーだとありえねーんだよ。ティアラは胸を一突きで貫かれてたろ。アイツが抵抗してないんだよ」
「・・・・・・!」
アリンの背筋が冷たくなっていく。今まで当たり前のように共に戦ってきた仲間の誰かがティアラを殺したかもしれない、その事実に目の前が真っ暗になりそうだ。
「おかしいだろ。ティアラの奴、誰にやられたか俺に教えなかった。きっとソイツを庇ったんだ」
「で、でも」
「ああ、もちろん俺の勘違いならそれで良い。あくまで可能性の話しだ」
ファングはアリンの頭をポンポン叩く。
「見極めるんだ、俺たちが。ドルファか裏切り者。誰がティアラを殺したのか。そうじゃないとアイツの運命は変わらない」
「でも、それをするってことはティアラだけじゃなくて皆との関係も変わっちゃうじゃない」
「良いんだ。世界を敵に回すって決めた。その結果、俺が孤独になってもティアラを守れるならさ」
アリンはファングに抱きついた。彼はアリンの思わぬ行動に目を丸くする。
「・・・・・・あなたを絶対に孤独にしたりしない。あたしが、あたしが傍にいる」
「・・・・・・アリン」
「パートナー、でしょ?」
アリンはファングに微笑む。
『我らも忘れるな』
『ずっと、ずっといっしょだよ』
「ふ、そうだな。お前らがいるなら俺は孤独になる心配はねえな」
どんな時でも傍にいる妖聖たちにファングの肩の荷が少し軽くなる。
「さて・・・・・・フューリーを見つけた訳だが」
ファングはフューリーの有りかにたどり着いた。記憶が正しければこの近くにティアラがいるはずだ。
「あの時と違って巧もいないし、どうすんの?」
「さあな。どうにかするさ。つーか巧はどこに行ったんだろうな」
まさか一人でソーヨル草原をさ迷っているのか。後で携帯に電話を掛けよう。ファングは苦笑を浮かべた。
「・・・・・・よし、行くか」
「────そこのお方、お待ち下さい」
ファングは聞き覚えのある少女の声に動きを止める。分かっていた。彼女がそこにいることは。過去に戻ったのだ。死んだ彼女が生きているのはおかしくない。だが頭で理解していてもファングは心臓がばくばくと高鳴った。まるで初恋でもしたかのように。
振り向くとティアラが微笑んでいた。ファングは目眩がする。今すぐに何時ものように軽口を叩いてしまいたかった。だがこの時間の彼女とはファングはまだ初対面だ。それをしてしまってはティアラに警戒心を持たれてしまう。
「旅のお方、見れば随分とお疲れのご様子」
「ああ・・・・・・なんか凄く疲れちまったよ」
「まあ、それは大変です」
本当に疲れた。マリアノと戦って。兵士と戦って。ティアラが目の前で死んで。師の剣崎一真と戦って。ここにもう一度来るまでの間に本当に色々あった。ありすぎるくらいだ。疲れるに決まっている。小さくため息を吐きながらファングはうっすらとティアラに微笑んだ。
「よろしければこちらのお茶をお飲み下さい。疲労回復に効果がありますのよ」
「カモミールティーだろ? サンキュー、もらうよ」
「ちょっとファング、それは!?」
ファングはティアラの淹れたお茶を飲んだ。だがそれにしびれ薬が入っていると知っているアリンは困惑する。
「美味いな、これ」
「それはよかった。私、お茶には自信があるんです。おばあさまから習いましたから」
「・・・・・・え?」
カモミールティーを飲んでも何の異変も起きないファング。しびれ薬が入っているはずではないのか、アリンは首を傾げた。
「ど、どういうこと!?」
身をのりだしそうになるアリンをファングは抑えた。様子を見るんだ、視線で彼は訴える。
「お前もフェンサーなのか?」
「ええ。この世を悲しみのない世界にするためにフューリーを集めています」
そこは変わっていないのか。ファングは自分の知っているティアラと彼女との違いを分析する。
「・・・・・・旅人さん、あなたは何故フューリーを集めているのですか。よろしければ、私に教えてください」
ティアラの視線がアリンとブレイズたちに向けられる。ファングが自分と同じくフェンサーだと彼女は気づいたようだ。
「・・・・・・世界平和を願っていたヤツがいた。そいつの夢を叶えるために、笑顔を守るために俺はフューリーを集めていたんだ」
「私と同じ理想を持った人がいるのですね。・・・・・・少し嬉しいです」
目の前で興味深そうに話しを聞くティアラにファングは胸が締め付けられそうになる。彼女の顔を見る度にあの時の光景がフラッシュバックし、ファングは苦い表情を浮かべる。
「では旅人さんの願いはなんだったのですか?」
「え?」
「その人のためじゃなく、あなたが叶えたかった願いはなかったんですか? 願いがあるから人はフェンサーになるはずです」
ティアラはじっとファングの目を見る。言われてみれば彼女の夢を叶えるために彼は必死になっていた。自分自身がフューリーを集めてでも叶えたい願いとは何なのかファングは考える。
「なりたかったんだ、誰かを守れるヒーローに」
ファングの脳裏に人々を救う剣崎一真の姿が浮かんだ。勇ましく、優しく、そしてカッコいい。子どもの頃に誰も憧れ、誰もが夢描いたであろう英雄。彼は善でもなければ悪でもない。正義の味方だった。ファングは剣崎に憧れていた。
「見つけたかったんだ、人間も怪物もない、誰もがぐうたら昼寝出来るような場所を」
だがファングが憧れた剣崎一真は他の人間から見れば怪物だった。ジョーカーアンデッド。緑色の異形。剣崎の真の姿を見た者は彼に石を投げた。その中には剣崎に救ってもらった者もいる。石を投げなかった者も彼を恐れ、拒絶した。剣崎は悲しげな表情を浮かべながらもこれで良いんだと微笑みファングの故郷から行方を眩ました。ファングは彼が人々と裏表なく笑い合える世界を望んだ。だから旅に出た。
「・・・・・・世界中の人が自由に生きられますように、それがきっと俺の願いだ」
食いたい時に食って、寝たい時に寝る。それが当たり前のように皆で出来るような世界になってほしい。ファングはそう願った。
「・・・・・・旅人さんはお優しい方ですね」
「ほんっとにね。悪ぶってる癖にイイヤツすぎるのよ、コイツ」
無言で菓子を摘まむファングを尻目にこそこそとティアラとアリンは話した。
「旅人さんに守ってもらえる方が少し羨ましいです。・・・・・・私には誰も守ってくれる人がいないので」
ティアラは悲しそうに呟く。その声は誰にも届かない。
「私はもう行きます。もしまだお疲れなら向日葵荘という宿屋に向かってください。私の縁者が営んでいてとても快適なんですよ」
「何から何までありがとうな。お礼にそのフューリーはお前にやるよ」
「ありがとうございます」
フューリーを持って立ち去っていくティアラをファングは見送った。
『なんかティアラのようすへんだったね』
「うん、前の時は確かにファングにしびれ薬を盛ってたはずなんだけど・・・・・・」
アリンとキョーコは微妙な過去の変化に首を傾げる。ティアラは以前の腹黒お嬢様からただの優しいお嬢様にチェンジしていた。
「どういうことだ、ブレイズ?」
『過去が変わった、と考えるべきだろう。ファングの影響か? だがそれにしても早すぎるぞ。言葉一つでこうも変わるものなのか?』
「いや、でもそれならお茶はどうなんだよ。だって前のは最初から毒入りだったぞ」
なら何が要因で過去が変わったのだろうか。
「巧がいないから、か?」
『それは関係ないだろう。どちらかと言えばお前よりももっと先になんらかの干渉があったと考えるべきだ』
「俺以外にも誰かが過去に戻ったのか?」
どれだけ考えても答えは出そうになかった。誰も時を遡る経験なんてしたことがないのだから無理もない。
「それよりファング、ティアラを追いましょう。このあと確かティアラはチンピラに絡まれるはずよ」
「ああ。あのティアラだとチンピラでも負けるかもしれねえしな」
「────いやああああ!」
『っ!』
遠くから聞こえるティアラの悲鳴に向かってファングは駆け出した。
「ティアラ、今度こそ絶対に俺はお前を守る!」
◇
「ひ、人が・・・・・・人が」
ティアラは震えていた。絡んできたチンピラが突然灰色の怪物と化した、その理解しがたい現実に震えが止まらない。フロッグオルフェノク。カエルの特性を持った怪人。初めて見るオルフェノクに彼女は顔を青白く染めた。
『へっへっへ。あんたが怯える姿見るだけで興奮してきたよ。ああ泣かせるのが楽しみだ』
フロッグオルフェノクの手がティアラに伸びた。彼女は悲鳴を上げる。
「────俺はてめえが泣き叫ぶ姿のが見てえな」
『な、なんだてめえ!?』
「それはこっちのセリフだ。どうやら過去は随分と変わっちまったみたいだな」
ファングはフロッグオルフェノクの手を掴むと彼を蹴り飛ばした。
「た、旅人さん。に、逃げてください。あなたまで死んでしまいます」
「お前は死んだりしない。大丈夫だ、俺が傍にいる。いてやる!」
「旅人さん・・・・・・」
────大丈夫だ。俺が、それに巧も傍にいる。いてやる!
ティアラは前にもこんなことがあった気がした。ファングとは今日初めてあったはずなのに。彼女は頭がずきずきと痛み、失神した。
「おい、しっかりしろ! キョーコ、ティアラを頼む」
『うん!』
ファングはティアラをキョーコに任せる。
「大人しく引き下がるのと、ここで倒されるの、どっちが良い?」
『てめえをぶっ殺して、そこの姉ちゃんの泣き顔を拝ませてもらうぜ!』
突っ込んで来るフロッグオルフェノクにファングは剣を構える。
「てめえに良いことを教えてやる。こいつは泣いているより笑っている方が可愛いんだよ!」
『ぐっ』
ファングはフロッグオルフェノクの突進を横に避けると剣を振る。硬い。刃が通らない。飛び散ったのは血ではなく火花だ。だが苦痛の声を上げたならダメージはあるはず。彼は続けざまに連撃を放つ。拳で、銃で。様々な武器でフロッグオルフェノクにダメージを与える。
『くそがっ!』
「うおっ!」
フロッグオルフェノクは得物の水鉄砲を放った。ファングは身体を反らして避ける。強力な酸性の水は近くに生えていた木々に無数の穴を開けた。
『お決まりのキャラの癖に厄介な武器を持っているようだな』
「へ、こんなの当たるかよ」
『attack effect フレイムアサルト』
『そんなの当たるかよ!』
炎を纏った剣をファングはフロッグオルフェノクに袈裟斬りを放つ。彼は優れた跳躍力でそれを回避した。
「ちっ!」
『俺を使え!』
ファングはフロッグオルフェノクの跳躍に舌打ちした。四方八方。どこから繰り出されるか分からない攻撃に劣勢に追い込まれる。回避で精一杯だ。何時仕掛けてくるか。ファングはどこから来ても迎撃出来るように二刀流になる。
『死ねえええぇぇぇ!』
「っ!」
────後ろか。ファングは振り向きざまに二剣の一撃を浴びせる。フロッグオルフェノクは勢いそのままに吹き飛ばされた。
『ぐはっ!』
「バカか、てめえ。奇襲仕掛ける奴が声出してんじゃねえよ」
ファングはフロッグオルフェノクを挑発するように目の前で剣をくるくると回し、逆手に持ち替えた。
「どうした、もう終わりか? 大人しく引けよ」
『くそっ! 俺様はもうただのチンピラじゃねえ! 無敵の力を手に入れたんだ!』
「その程度で無敵と思うのがただのチンピラの証拠だ。お前は俺に勝てねえ。絶対にな」
『舐めんなぁぁぁ!』
フロッグオルフェノクはファングに水鉄砲を放った。
「『フェアライズ!』」
ファングは紅炎真紅の戦士へと変身した。こうなったら強力な酸性水だろうと避ける必要はない。彼の装甲に水は当たると高熱によって蒸発した。
「喜べ、やっぱりお前はただのチンピラじゃねえよ。ただの怪物だ」
ファングはゆっくりとフロッグオルフェノクに近づく。何度も何度もフロッグオルフェノクは水鉄砲を発射した。だがファングの身体から溢れる炎にことごとく無効化される。今の彼は灼熱の炎そのものだ。
『死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねよぉぉぉぉ!』
「ハァァァァ!」
『グアアアアアァァァァ!』
炎を纏った斬撃がフロッグオルフェノクを真っ二つにした。彼は炎を上げ、灰と化す。
「どうして心まで怪物になっちまうんだよ・・・・・・」
◇
────暖かい。
ティアラは誰かの温もりに包まれていた。こうして誰かに背負われるのは初めてなのに、また初めてじゃない気がした。彼女はその背負ってくれる誰かの首にゆっくりと手を回す。
「う、うう」
「お、目が覚めたみたいだな」
ファングは目覚めた彼女に笑みを浮かべる。
「たび、びとさん?」
「もう大丈夫だ。お前を怖がらせる者は倒した」
あの怪物を倒したのか、ティアラは驚く。
「あの、ありがとうございます。私のせいで怪我をしてませんか」
「心配すんな、俺の剣はおま───人を守るためにあるんだ」
「私のために剣を振る必要なんてないんですよ」
ティアラの声が冷たく、悲しいものになる。
「何言ってんの、あんた?」
「私は存在してはいけないんです。こうやって生きているだけであのような怪物や人間がきっと私を殺しにやってきます。だからあなたはこれ以上私に関わらないで。さあ、離して。今日あったことは忘れてください」
随分と過去は変わってしまったようだ。ティアラは心の奥底に今まで隠していていたネガティブさを全面にさらけ出していた。以前のティアラならこの奇襲にこじつけてファングに下僕になれと言っていたはずだ。今の彼女は本心から彼を拒絶している。
「それは約束出来ねえな。俺はお前を守る」
「な、何を言ってるんです!? 私とあなたは初対面ですよ!」
「・・・・・・お前にとってはな」
え?とティアラは首を傾げる。
「さっき言っただろ、世界平和を願うヤツのために戦っていたって。それはお前だよ」
「何を、言っているのですか? 私はあなたと会ったことなんて一度もありませんわ」
「お前にとっては、だ。俺はお前と何度も顔を合わせている」
「や、やっぱり! あ、あなた私のストーカーですか!?」
ティアラはファングの背中で暴れる。まあいきなりこんなことを初対面(と思っている)男から言われれば大抵の女性はこうなるだろう。
「お、おい! お前は勘違いしてる! 落ち着け!」
「私のことを愛するあまり頭が変になったんですね!?離しなさい! 変態!」
「くそ、ちょっと大人しくなったと思ったけどやっぱり変わってねえ! 話しを聞け! バカ! アホ! 腹黒女!」
ティアラは顔を真っ赤にして大人しくなった。
「な、なんて酷いことを。で、でも! 凄く新鮮です・・・・・・」
「出た、ティアラのM属性。やっぱり変わってないのね」
『むしろ変わって欲しかったがな』
どれだけ世界が変わってもこれだけは変わらないな。アリンとブレイズはため息を吐いた。
「落ち着いたか?」
「はい・・・・・・そうですよね。私なんかにストーカーする男性なんているはずがないんです。勝手に勘違いしてすみません」
「そこまで言ってねえよ・・・・・・向日葵荘に着いたら色々説明してやるから」
ファングはティアラを背中から降ろした。
「それでも納得しないなら俺をストーカーと思ってくれて構わねえよ」
「別にあなたがストーカーとは思ってませんわ。・・・・・・むしろちょっとカッコいいと思ったり」
「ん、何か言ったか?」
なんでもありません、ティアラは慌てて首を振った。
「どうしても嫌なら俺はお前の前から消える。でもお前が夢を叶えるまでは傍にいさせてくれ」
「旅人さんは何故私にそこまでしてくれるんですか」
仮に初対面じゃなくてもここまでするだろうか。いや。しないだろう。
「俺はお前のために戦うって決めた。お前を傷つける者がいるならそいつからお前を守る。お前を苦しめる物があるならこの手でぶち壊す。世界がお前を拒絶するというなら俺は世界の全てを変える、そう決めたんだ」
ティアラは目を見開く。
(これって告白、なんでしょうか?)
ティアラは頬を紅く染めた。今までこんなことを言ってくる人は彼女の周りにいなかった。むしろ、これと真逆のことを言われ続けた結果が今のティアラなのだ。彼女は何だか気恥ずかしくなる。
「ねえ、ファング。あれ見て!」
「あれは・・・・・・」
アリンの指差した先には向日葵荘がある。見知った宿屋だ。だが一つ。決定的に違う所がある。本来ならこの時この場に存在してないはずの者、いや物。
『ピロロ!』
────庭で掃除をしているバジンがいた。
向日葵荘に巧がいる。ファングは思わず走り出した。
まさかの全員記憶を失わずに女神編に突入です。この展開はずっとやりたかったのでここまで書けて良かったと安心しています。