乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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そしてまた旅に出る

「おっせえな」

 

 ファングが倒したモンスターの素材を近くの村まで頼まれてバイクで運んだ巧は酒場に入っていた彼を待っていた。あのモンスターはどうやらこの村から近くの村へと繋がる道を通る人々を襲っていたらしい。被害者が冒険者に討伐の依頼を出していたようだ。ちょうど纏まった金が欲しかったファングは依頼に食いついた。モンスター狩りなんて腕に自信がある者しかやらない。リスクが多い上に真っ当な職で働いてる人間ならそっちの方が金が手に入る。しかし、その日その日をテキトーにダラダラと過ごしているファングにとってモンスターを狩るだけの仕事はまさに天職だ。幸い剣の腕は立つ。・・・・・・ファングが依頼を受けなかったら巧はどうなっていたのやら。

 

「よお、待たせちまったな」

『いっぱいおかねもらえたよー』

 

 ファングは上機嫌で酒場から出てきた。バイクに寄っかかっていた巧は一伸びすると立ち上がる。こっちは一転して不機嫌だ。

 

「で、お前に心当たりがある奴はいたか?」

 

 村に着いた時にファングは言った。この村に巧の家族や友人がいるかもしれないと。結果は態度が物語っていた。

 

「・・・・・・いや、誰も」

「あー、残念だな。見つかれば良かったんだけどなあ」

 

 目に見えてテンションが下がっている巧にお気楽なファングも少し同情する。どうしたものか。手当たり次第に街や村を回るのは効率が悪すぎる。第一ファングにはファングでやりたいことがあるのだ。そこまで協力するのは難しい。かといって巧に一人でなんとかしろというのも厳しいだろう。記憶もなければモンスターや旅の知識もない。いくら快楽主義者のファングとてこのまま見捨てるという選択肢を選ぶのは気分が悪かった。

 

『巧、という名前からして住んでる地方あるいは国が違うのだろう。妖聖にもお前と同じような名前の者がいたがやはり珍しい服装をしていた』

 

 ブレイズの意見は正しいように思える。巧はそもそも自分が住んでる国と違うのではどうにもならないことに気づいた。八方塞がり。自然に記憶が戻るのを待つしか方法はない。巧は悩む。

 

「ファング、お前ならどうする?」

 

 自分でどうしようもないんだ。他人に聞くしかない。

 

「・・・・・・ただ記憶が戻るのを待つのだけは面倒だな。普段なら喜んでゴロゴロするとこだが記憶がないのに何もしねーってのは落ち着かねえ。何かやらないといけないことが絶対にあるはずだ」

 

 しかし、ファングの出した答えは巧の感じている焦燥感そのものだった。

 

『ファングのばあいはやらないといけないことがごろごろすることだよね』

「うるせえ。例え同じことでも分かる分からないで大きく違うんだよ」

『認めるな、阿呆が』

 

 いっそファングたちについて行けたらと、そう思ったが首を振る。他人と一緒に行動するのは苦手だ。面倒なのもあるが何より他人の期待を裏切るような真似は絶対にしたくないからだ。巧はまた思案する。そして何も思いつかなかった。

 

「・・・・・・考えるのも飽きた。メシにしよう」

「じゃあ俺、肉が食いてえ!」

 

 ファングは食べ物のことになると目を輝かす。例えどんなに暗いことがあった後でも。せめてこれくらいのお気楽さが自分にも備わってれば記憶がなくても何とかなるのにな。巧はため息を吐いた。

 

 

「ステーキセット二人前お待ち!」

 

 結局何を思いつくこともないまま昼になってしまった。昼食はファングの要求していた通り肉だ。熱い物が苦手な巧も切り分けてるうちに自然と冷めるステーキは好きだ。

 

「おぉ~、うっめえ」

 

 ファングは大きめに肉を切り豪快にかじりつく。辛めのタレは肉との相性が良く備え付けのごはんの箸が進む。巧は焼きたてでは食べれないので先にサラダを食べてから肉を食べた。巧の口にもステーキの味は合ったのか勢い良くかきこむ。

 

「・・・・・・ブレイズたちは食わないのか」

 

 昨日の夕飯の時は実体化していたのに今は何故一緒に実体化しないのだろうか。巧は疑問に思う。

 

『そうそう人前で実体化など出来ん。フューリーというだけで我らを狙う輩がいる』

『とくにファングはフェンサーじゃないからかっこうのえじきなんだ』

「そんな奴らは全部返り討ちにしてやったけどな。ま、俺じゃないと死んでたかもな」

 

 願いを叶える力は人を変える。他者を殺してでも叶えたい願いを持ってる人間は山ほどいるはずだ。例えば恋人を失った者や不治の病に悩まされる者などは関係ない他人なら迷わず殺せるだろう。ファングは単純な欲望しか持たないから他人のフューリーを奪う気はない。だがそういう人間は何処までも残酷で恐ろしい存在だと理解している。ブレイズとキョーコを彼が持ち手放さないのは無用な争いを避けるためというファングなりの善意なのかもしれない。

 

「巧は記憶を取り戻す以外で叶えたい『夢』とかあるのか」

 

 一足先に食事を終えたファングが言った。

 

「・・・・・・洗濯物が真っ白になるみたいにみんなが幸せになってほしい」

「・・・・・・なんだそりゃ」

「夢って聞かれて浮かんだのがそれだ」

 

 ファングが目を丸くする。巧が自分で言っていてもよく分からない夢だ。だって乾巧は夢のない男なのだから。この夢はきっと優しい誰かの夢だ。巧の夢ではない。無愛想である自分が自身や身内ではなく他者の幸福を願える、そんなことありえないと思う。もし本当に自分の夢なら何を経験すればそんな夢を抱けるようになるのだろう。記憶を失う前の巧が誰からその夢を教えてもらったのかは分からない。とても難しく、そして優しい夢だ。

 

『ほお、どうやら完全に記憶がなくなった訳ではないようだな。断片的には覚えているのか』

「らしいな。ファングが戦ってる時にも何か感じた」

『じゃあたっくんのしってるものがあればなにかおもいだせるかも』

「お、なら巧も旅をすれば良いんじゃねえか」

 

 ファングの提案は良い考えだった。じっとしていても思い出せる保証がないなら自分から動いた方が記憶の戻る可能性は高い気がした。しかし、巧は浮かない顔をしている。何か旅に出るのに抵抗感でもあるのだろうか。記憶が戻るかもしれないのに。

 

「あー、でもお前旅の仕方とかモンスターの戦い方も知らないんだよな」

『ファング~たっくんをたすけてあげようよ』

『そうだ。記憶をなくした若者を一人放置するなど俺は認めん』

「・・・・・・いや、足手まといになるから気持ちだけもらっておく。俺はここに残る」

 

 巧はこれ以上ファングに迷惑をかける気はなかった。本当は頼んだ方が良かったのかもしれない。だがどうしても抵抗感を感じてしまう。記憶をなくす前から多分そういう性格だったのだろう。他人と深く関わるのは、怖い。

 

「足手まといとかじゃなくてよ、お前がどうしたいんだよ」

 

 ファングの目が巧の身を固めさせる。まるで彼が逃げようとするのを見透かしたようなそんな目で睨んでいた。

 

「俺は・・・・・・」

 

 記憶を取り戻したい。その一言が出ない。もしかしたら記憶を失ったのにはとても恐ろしい何かがあったからとか、何か大事な者を失ったとかそういう思い出したくない何かがあるからかもしれない。だから巧は踏み出せない。

 

「・・・・・・俺が旅をしてるのはな、世界ってのが面倒くせえからだ」

 

 そんな巧に何かを感じたのかファングは何故自分が旅をしているのかを語った。

 

「人間ってのは自由に生きられねえ。社会が広ければ広いほどルールも厳しくなる。何をやっても常にそれは『正しい』それは『間違ってる』とようするに善悪で決められちまう」

「善悪?」

「女神と邪神がいるから善悪が分かれるっていうが俺はそうは思わねえ。人がいるから善悪が分かれる。俺はそういうルールに縛られんのが面倒くせえ。例えそれが正しくても、間違っててもどうするかは俺の自由だ」

 

 ファングの旅の理由と巧が旅をするしないは直接関係ない。だが巧はファングの言葉に耳を傾ける。

 

「別に犯罪をしてえとか正義の味方になりてえとかそんなんじゃねえ。俺が言いたいのは『俺の運命は俺が決める』ものだ。そこに誰かの横槍はいらない。だから俺は旅をするんだ。自由にぐうたら生きるために、な」

 

 俺の運命は俺が決める────巧はその言葉を胸の中で反芻する。そうだ、俺もそうやって生きてきた。自分が変われば世界も変わる。不屈の意志で何かに立ち向かい続けた。記憶がなくなる前の乾巧はそういう男だった気がする。ファングのおかげで巧は少し気が楽になった。

 

「どうするかはお前が決めることだ。ここのメシは奢ってやる。これまでのタクシー代だと思ってくれ」

 

 そうやってファングが会計を済ませた後も巧は座って何かを考え込んでいた。

 

『ファング~、ほんとにたっくんおいてっていいの?』

「俺が無理強いすることじゃねえんだよ。あいつ自身がどうするか決めなきゃならねえ。記憶喪失の奴に道を用意しちまえばその道を進むしかねえだろ。他の道を、下手すれば歩き方すら知らねえんだからな。それは駄目だ。何の解決にもならねえ」

『一理ある。だがファング。お前自身は巧をどう思っている? 我らもお前が旅をしている理由を聞いたのは初めてだぞ』

「さあな。天才でイケメンの俺は困ってる奴を見過ごせないんだよ」

 

 ファングは何故あんなことを言ったのだろう。彼の発言の大半は心から思っていることだ。決められた道を進むのが大嫌いだからファングは旅をしている。無謀なことではあった。危険も困難も何度経験したか分からない。これからもそれは旅をする限りずっと続くのだろう。それでも好きな時に食って好きな時に寝る、という単純なことが出来た喜びは言葉にならないものだった。だからこれからもファングは旅を続ける。

 

『たっくんどうするのかなあ?』

「ま、あいつなら大丈夫だ。絶対にな」

『ほんと、ぜったい? ファングはうそつきだからしんじられないよ~』

「公明正大清廉潔白な俺の何処が嘘吐きなんだ」

 

 そういうところが嘘吐きなんだ。ブレイズとキョーコは同時に突っ込んだ。

 

「心配すんなよ。あいつの目を見たら誰でも分かる」

『根拠のないことをやけに自信満々に言うではないか』

「そこがこの俺の凄さだ」

『でもたっくんならだいじょぶだよ、きっと』

 

 巧の心配はもうしないで良いだろう。それにしてもこの村も大分長居したな。そろそろ潮時だ。また移動しよう。さて次はどこへ行こうか。旅の資金も手に入れたし遠くに行くのも悪くないか。ファングは思案する。

 

「お前らは何処か行きたい場所とかあるか?」

『ふういんされてたんだからわかんないよー』

『・・・・・・ゼルウィンズ地方』

「何処だ、そこ?」

 

 ファングはポケットサイズの地図帳を取り出してブレイズが言っていた地方を探す。あった。大企業を中心に大きな街や村が取り巻く地方らしい。北東は寒冷な地域、北西は熱帯の地域と自然に富んでいるようだ。悪くは、ない。だが・・・・・・。

 

「随分遠いな。途中小さな村を経由してもひと月近く掛かるぞ。こりゃ移動費だけで資金が飛ぶな」

『無理なら構わん。だが彼処には数多く我らの同胞がいる』

「・・・・・・へえ」

 

 それは良いことを聞いた。願いを叶える力に興味はないがフェンサーという存在には興味がある。かなりの剣の腕を持つと自負しているファングでもブレイズたちを狙って襲ってくるフェンサーに苦戦を強いられることがある。フューリーが集まる場所にはもっと強力なフェンサーもいるのだろうか。戦いたい、という訳ではないがそれ程の強さを持ってなお叶えたい願望が何なのか見てみたい。巧の語ってたような純粋な夢か、あるいは世界征服といった広大な野望か。快楽主義者のファングが目を見張るような人間が見れるかもしれない。そう考えるとフューリーが集う地方というのはとても面白そうだ。多少値は張るが行ってみる価値はあるな。

 

「じゃあ次の行き先はゼルウィンズ地方にするか」

『え~またのじゅくばっかのせいかつはやだ~!』

 

 キョーコは精神的に幼い。長旅を強いるのは気の毒だ。

 

『それは同胞に会うより、重要なのか・・・・・・?』

「んなこと言っても遠いんだから仕方ないだろ。お前だけ置いてく訳にもいかねえし。つか俺が困る」

『ぶーぶー!』

 

 せめて移動手段があれば話しは別なのだが。ファングとしても面倒なのが嫌なのは変わりない。出来ればとっととゼルウィンズ地方に行きたい。

 

「おい、ファング」

 

 しばし悩んでいると巧が追ってきた。バイクに乗っている。

 

「巧・・・・・・」

「ここにちょうど良いタクシーがある。乗るか?」

 

 後部座席を指差して巧が言う。その顔は少し笑っていた。思い詰めていた時が嘘のように吹っ切れてるようだ。

 

「ああ、頼む」

『のるのる~。たっくんありがとう!』

「目的地は何処だ?」

『ゼルウィンズ地方。案内はファングがする』

 

 さっそくファングは後ろに乗り込んだ。

 

「言っとくが俺のタクシー代は高いぞ」

 

 巧が笑って言う。ファングもニヤリと笑う。

 

「この俺がお前の旅の用心棒をやってやる。それで十分だろ?」

 

 巧は勢い良くバイクを走らせた。もう迷いはない。ここから二人の旅が始まるのだ。




巧を牙-KIBA-の世界に転生させようか迷ったけどマイナーな上に異形の花々並に爽やかになるので明るい作風のFFFにしようと思いました。もしくはその作品の主人公のゼッドをFFFの世界へ転移させようかと思ったけど明るい作風が爽やかになるので止めました
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