今回から555らしい実に爽やかなストーリーが幕を開けます。
「な、なに! アポローネスがドルファを抜ける!?」
「うん。退職金は妹のエミリちゃんの口座に振り込んどいてって言ってたよ」
アポローネスの離脱は花形に大きな衝撃を与えた。北崎と違って過去の記憶を有していない彼は事情がまったく分からない。特に忠誠心を誓っていたはずのアポローネスが裏切ったことに驚かずにはいられないのだろう。予期せぬ事態だ。彼は頭を押さえ唸っている。普段の豪胆な姿が嘘のように余裕が・・・・・・。
「困った。三人ではドルファ四天王ではなくなってしまうではないか。どうする。追加で人員を増やすべきか?」
意外と余裕はありそうだ。
「それは今考える時ではないです、社長。最悪バーナードを四天王に降格してバランスを取れば良いだけです」
「なるほど」
「パイガ、それは本気か? それとも冗談か?」
「ひ、ひい!」
笑い半分で提案したパイガの首にバーナードは剣を突きつける。
「ガルドを四天王に加えるというのはどうだ? 実力も十分で貴重な回復魔法を使える。アポローネスや北崎に並んで女性社員からの人気も高い。四天王になればドルファ社特製フェンサーブロマイドの売上も向上するだろう。何よりこのドルファに所属するフェンサーの中でも一番性格が良いのが魅力だ」
「あら? 社長、私を忘れているのではなくて」
「う、うむ。訂正しよう。ガルドはマリアノに次いで二番目に性格が良いのが魅力だ」
黒いオーラを放つマリアノに花形は冷や汗を流す。今日はいつもの定例会議よりも賑やかだな。北崎は笑みを浮かべる。
「あれ、そういえばザンクくんは?」
いつもは必ずいるはずの男がいない。基本的に戦闘以外で働かないザンクは四天王で一番の暇人だ。他のメンバーが欠席する時でも彼だけは必ず出席している。その彼がいない。さっきから感じていた違和感はこれか。北崎は納得した。
「奴ならソルオール村のフューリーの回収に向かっているぞ」
「あれ、それって一週間くらい前じゃなかったけ。ザンクくん、遅くない?」
「言われてみれば・・・・・・」
四天王のザンクにしては仕事が遅い。性格に難があるが腕は確かな男がこれほどまでに帰還が遅れるとはよっぽどフューリー捜索に難航しているのだろうか。
「パイガ、後で確認に向かってくれ。連絡が途絶えている訳ではないがもしものこともある。その時はお前がフューリーを回収しろ」
「了解しました!」
このあとパイガはソルオール村にてザンクのありえない行動に爆笑することになる。
「しかし、本当にアポローネスの後釜に誰を当てるべきか悩ましいな」
「それなら私、一つ良い案があります」
「言ってみろ」
マリアノが手を上げる。
「立食パーティーを開いてください。運が良ければアポローネスを凌ぐ人材が手に入ります」
◇
「おっさんの飯はやっぱうめえな!」
「ほんっとさいこー!」
向日葵荘の食堂。ここでアポローネスの歓迎会が行われていた。ファングたちはグツグツと煮立った鍋に舌鼓を打つ。
「また鍋か・・・・・・」
「熱そうですね・・・・・・」
約二名を除いて。バハスにはご馳走と言えば鍋という固定観念でもあるのだろうか。エフォールの時といい狙い済ましたかのように猫舌の二人が苦手な物をピンポイントでチョイスするのは悪意しか感じられない。
「すまんな、余っていた材料から作るなら鍋が一番良かったんだ。許してくれ。後でデザートにかき氷作ってやるからよ」
もっともバハスは悪意など抱いてないのだが。
「こうして誰かと食事をし、酒を飲み交わすのは久しぶりだ」
アポローネスは感慨深そうに言う。エミリと離れてひとり暮らしを始めてからは基本的に孤独だった。上司であるバーナードは高い店しか選ばないから論外、パイガは延々と暴走気味の部下の愚痴を言い聞かされて辟易するから面倒、ザンクとは馬が合わないからそもそも誘うことがない。マリアノ以外の同僚と食事や酒飲みをするのは本当に久しぶりだった。
「お前、やっぱ友達少ないんだな」
「この身は剣となると誓ったのだ。友など必要ない」
「・・・・・・あんた、それでなんでも通用すると思ってない?」
剣を言い訳に使うアポローネスにアリンは呆れた表情を浮かべる。
「黙れ。そもそも貴様らには友がいるのか?」
ムッとしてアポローネスは反論した。友達が少ないと言われたのは意外とショックだったようだ。
「俺はいたのかもわかんねえな。記憶ねえし。まあ、でも『親友』はいたと思う」
「私、全然いない」
「エフォールは仕方ないでしょ。ファングは、たくさんいるわよね。多分」
「ああ。危険な遊びしたり、危険ないたずらしたりでしょっちゅう親父や先生に拳骨くらってたよ」
大人に説教される子どもの頃のファングの姿は容易に想像がつく。
「ハーラーはどうなの?」
「私は友達自体は多かったよ。趣味が合う子たちで集まってたから」
「・・・・・・あんたの友達とだけは会いたくないわね」
『うん、せくはらされそう』
『同意』
ハーラーそっくりの友人たちを頭に浮かべ、妖聖組は身震いした。
「となると後は」
「ティアラ、ね」
「・・・・・・!」
視線を向けられたティアラは肩をギクッと震わせる。
「ゆ、友人はいませんでしたわ。皆から真面目と思われていてファングさんのように遊びやいたずらには誘われなくて、私自身内気だったので・・・・・・」
「で、でも一人くらいはいたわよね?」
「いえ・・・・・・。引っ越しに引っ越しを重ねていたので」
和やかだった空気が一瞬にして凍りつく。暗い顔でテーブルを見つめるティアラにファングたちは気まずくなる。ファングはアポローネスに視線を向ける。お前のせいだろ、と言いたいようだ。彼は目を反らした。だから友達少ねえんだよ、ファングは内心毒づく。
「ティアラ。私、ティアラの友達」
「エフォールさん・・・・・・」
ティアラにエフォールは抱きつく。前の世界で彼女にしてもらったように。エフォールはティアラに誰かを愛するということを教えてもらった。今度は彼女が教える番だ。
「そうです。昔は昔、今は今です。私もティアラさんのお友達です。巧さんもそうですよね!」
「ま、まあな。前の世界から俺達はダチだ」
「あたしもあたしも。・・・・・・だからそんな悲しくなんないでよ。あたしたちも悲しくなっちゃうからさ」
「皆さん・・・・・・ありがとうございます」
仲間に、友達に囲まれてティアラは笑顔を浮かべた。
「なんか一件落着したみたいだな」
「うん。良かった、良かった」
『アポローネス、はんせいしなよ』
「元を正せばファングが原因だろう」
どっちもどっちだ。
「それにしてもシャルマンの奴に何があったんだろうな」
向かい合って盛り上がっているティアラたちに聞こえないようにファングは言った。酒を出す関係上成人と未成年とで分かれているので向かい合った彼らには聞こえないだろう。ハーラーとバハス、アポローネスは箸を置いて腕を組む。特にハーラーとバハスは難しい顔をしていた。やはりあのシャルマンは二人にとっても衝撃だったようだ。
「うーん、なんか気持ち悪くなってたよね。口振りからしてシャルマンくんも一緒に過去へ戻ってきたみたいだけど・・・・・・」
「何があったらあんな風に豹変するんだ? ハーラーが真人間になるくらいの変化だ」
「ちょっとそれ酷くない? ・・・・・・とにかく過去に戻る前に何かがあったんだよ。あんな変化をする何かがね」
しかし、その何かとは一体。元から悪を許せないという思考はシャルマンにはあった。だが危うさこそあれど一応一貫した正義感があったはずだ。何があればそれがあそこまで変化するのか。原因が分からない。
「あれが奴の本性。いや、それで片付けられたら苦労しないか。剣に全てを捧げてきた私から見ても奴は異質。悪を排除すると言いながらも悪に手を染める人間など見たことがない。独善的で独創的な正義感を持った男だ。同じ人間とは思えん」
『人間とは思えん、か。・・・・・・あるいは奴はもう人間ではないのかもしれん。ただの人間にオルフェノクが手を貸すとは思えん。奴自身がオルフェノクになったと考えるべきか、もしくは』
「利用出来る何かがシャルマンにあるのか。それは分からねえ。けどどっちにしてもアイツは俺達の敵に回った。もし、また戦うことになるなら俺がアイツのネジ曲がった根性を叩き直すだけだ」
シャルマンには聞きたいことが山ほどある。ティアラを殺したのは彼なのか。何故オルフェノクと手を組んでいるのか。そしてオルフェノクと手を組んで何をする気なのか。アポローネスを殺す気ならこれから何度もシャルマンたちと交戦することになるだろう。
「なら取り巻きのオルフェノクのことは俺に任せろ」
「聞いてたのか、巧?」
「あん中に一人いるのは性に合わねえよ」
確かに女性陣の中に一人巧がいるのは中々にシュールだ。元から一匹狼の性質のある彼は居心地が悪くなってこっちに来たのだろう。
「お前なあ。何度も言うけど一人で戦おうとするなよ。もっと仲間を頼れよ」
「普段一人で戦ってる奴には言われたくねえな」
「・・・・・・お、俺は良いんだよ。そ、そのリーダーだからな!」
痛い所を突かれたな。ファングは頭の後ろを掻く。
「お前の言いてえことは分かってる。だがな、奴らがこうして敵として現れたのは俺が元々いた世界で奴らをきっと取り逃がしたからだ。俺に責任がある。だから俺が奴らを倒すんだ」
「・・・・・・お前の覚悟はよく分かった。だけどお前には俺たちがいることを忘れるなよ」
「それも分かってる」
ファングと巧は笑い合った。
◇
翌日。
「ロロ、いるかー?」
ファングたちはいつもの広場を訪れていた。度重なる過去の変化によってこれまでの記憶が参考にならなくなりつつある。シャルマンがオルフェノクと手を組み、敵に回った今では不確かな情報を頼りに闇雲にフューリーを捜すのは危険だ。彼らはこっちの手の内を知っている。村上のように先回りして襲撃される可能性がある。更にカダカス氷窟やキダナル地域のようにフューリーが消えることもあるのだ。シャルマンたちの襲撃を掻い潜りながらたどり着いた先にフューリーがなかったのなら気が狂うかもしれない。結局のところ以前のようにロロの情報を頼りにダンジョンを渡り歩くしかフューリーを手に入れる方法がなくなってしまった。
「いらっしゃーい。今日も活きの良い情報を大好きなお兄ちゃんのために仕入れといたよ。このお値段で買ってかない?」
「大好きなのは俺の財布だろ」
そう言いつつもファングは料金を払った。
「うんうん、あたしのこと分かってる分かってる。だからお兄ちゃん大好きなんだよね」
「だから大好きなのは財布だろ。ほら、金払ったんだからさっさとフューリーの在処を教えろよ」
「んとねえ、ソルオールって村にフューリーがあるんだけど・・・・・・」
(ソルオールってことは)
歴史の通りならザンクとガルドがいるはずだ。
「そこはドルファ四天王のザンクが」
「支配してるんだろ? 知ってる」
あの時のザンクの愉悦に満ちた顔は忘れられない。村人を牢屋に閉じ込め、ストレス発散に暴力を振るう。正に残虐非道の男だった。
「ううん。村のフューリーを付け狙う悪いフェンサーや灰色の怪物からフューリーを守ってるんだって。正義の味方だよ。だからお兄ちゃんも戦うことになると思うから気をつけなよ」
「「は?」」
「「え?」」
ティアラとエフォールを除いたファングたち全員が目を丸くする。
「やっぱり良い人じゃないですか」
「いやいやいやいや! ちょっと待って!」
「ありえねえって。ありえねえって!」
ファングと巧は大きく動揺した。以前とまるで違うどころかもはや180度一回転した変化に驚愕するしかない。村に現れる悪いフェンサーやオルフェノクと戦っている。それではまるで勇者みたいではないか。いくらなんでもザンクが勇者をやっている姿は想像がつかない。
「過去の変化には何度も驚かされたけど。今回ほど驚くことはないわ」
「ほんとにね。ザンクくんがどんな風になったのか気になるなあ」
「むしろオレは見たくねえな。あのツラで『俺たちは人間の自由と平和を守る!』とか言われた日には混乱で頭がおかしくなりそうだ」
「うわ、それ滅茶苦茶見てえな」
愛と正義に目覚めたザンクの姿を想像するだけでファングは笑いそうになる。これは例の満面の笑み以来の衝撃が待ち受けているかもしれない。
「・・・・・・妙だな。私の記憶が正しければこの世界のザンクはザンクのままだったのだが」
「ザンクは元から優しい」
「流石にそのレベルに達するほどの優しさではなかったと思いますよ」
ザンクの持っている優しさはヒーローみたいな優しさではない。精々、捨て犬に傘を差し伸べる不良程度の優しさだ。
「優しいなら優しいで構わねえよ。仲間にしやすいしな」
「アイツと戦うのはめんどくせえからな。それよりガルドに会えるかどうかだ」
「ま、それは何とかなるだろ。最悪呼び出せよ」
オルフェノクはドルファ以上に厄介だ。仲間は一人でも多いほうが良い。特にティアラのようにサポートにも適し、戦闘でもファングやエフォールと並んで前に出て戦うスーパーサブの役割を担うガルドの存在はこれからの戦いに必要不可欠になるだろう。
「よし、お前ら行くぞー! 俺様に続け! びゅびゅーん!」
「「おー!」」
ファングたちはソルオール村へと向かい歩き出した。
「びゅびゅーんとは一体・・・・・・」
「・・・・・・なんなのでしょうか?」
アポローネスとティアラは首を傾げた。
◇
ソルオール村はワインの名産地として有名だ。水源豊かで農作業に適したこの村はワインの原材料となる葡萄を作るには最高の土地だった。しかし、肝心の村自慢の葡萄畑は荒れ果てている。葡萄の木一つない。それもそのはず。現在の季節は春。ちょうど畑の整地をし、葡萄の苗木を挿し木する時期なのだ。
「おら、若けえの! キリキリ働かんかい!」
「へいへい、めんどくせえ」
堅気とは思えない筋肉質な男性の指示にうんざりしたようにザンクは頷く。異形のフューリーフォームと化した彼は一心不乱に巨大な爪で雑草を刈り取り、土の整地をやっている。
「たく、どうしてこの俺が畑仕事なんてしてるんだァ?」
『キャハハ! だっせえ、ザンク』
心の中から聞こえてくるパートナーのデラの笑い声にザンクはまたうんざりした。どうしてこうなったのだろう。
「何で俺がこんなことを・・・・・・」
一仕事終えたザンクは農夫から渡された弁当を片手にぶつくさと文句を言い続けた。仮にも世界的大企業であるドルファでもトップクラスの権力を持っているはずの四天王である自分が何故こんな寂れた村で農作業なんてやっているのだ。こんなことはあってはならない。さっさと戻らなくては
「・・・・・・この村を滅ぼすか。うん、それが良い」
「お、良いね! 良いね! 久しぶりの虐殺だあ! キャハハハハ!」
「ひゃははははは!」
ザンクとデラは一目も憚らず高笑いした。
「あ、ザンクくん。子どもたちが川に遊びに行くから危ないことしないように見張っといてくれる?」
「あ、はい。じゃあ後で向かうんで」
「切り替え早っ!」
通りかかった主婦に営業スマイルを浮かべたザンクにデラは思わず突っ込んだ。
「ザンク兄ちゃん、もう遊んでもいい?」
「好きにしろ、適当に遊べ。ゴミはちゃんと袋に入れろ。あときちんと周り見て走り回れよ。危ねえからな」
「「はーい!」」
涼しくて気持ちが良いな。ザンクはその場にだらんと転がる。川辺で無邪気に遊ぶ子どもたちを彼はぼんやりと見つめた。水鉄砲で遊んだり、泳いだり、追いかけっこをしたり皆楽しそうだ。マリアノや北崎は子ども好きだがザンクは子どもの何が良いのかさっぱり分からない。やたらとギャーギャーうるさい、ちょっと怒ればすぐに泣く。泣いて反省したにも関わらず同じ過ちをまた繰り返す。ザンクからすれば子どもは愚者であり、強者の庇護がなければ生きることの出来ない弱者であった。今だってこうして大人である自分が見張っていなければ彼らは簡単に過ちを犯すだろう。
「ガキってのは遊ぶのが仕事で良いねえ、楽そう。ドルファから奴隷のようにこき使われるあたしらとは大違いだ」
「そうでもねえよ。ガキは俺たちなんかよりでけえギャンブルしてんだからなァ」
「ギャンブル?」
デラが首を傾げる。
「あそこで泳いでるアホガキ。大した運動神経もねえ癖に流れの強い方に向かってるなァ。このまま誰も止めなかったら流されて溺れるぞ。その近くで水鉄砲で遊んでるクソガキは顔にかかった水をバカみてえにごくごく飲んでやがるなぁ。真水でもねえし腹下すぞ。運が悪けりゃ食中毒だ。遊び一つでも間違えれば簡単に病院行きだ。こいつら毎日こんなだぜェ。ギャンブルだろ? 大人なら考えてなくても分かることだってガキは分かんねえんだよ。こいつらは大人になるまでなんもかんも賭けてんだよ」
「へえ、子どもって本当にバカなのね」
「ああ、すっげえバカだろ」
ザンクは立ち上がった。
「おい、アホガキ! それ以上進むな! 溺れてえか!? クソガキ! 川の水は飲むんじゃねえ! 親に言われてんだろ!」
「「はーい、ごめんなさい!」」
子どものテキトーな返事にザンクはこめかみを押さえる。絶対に反省していない。今だけ話しを聞き入れてどうせ後でまた同じことを彼らはするだろう。断言してもいい。ザンクはため息を吐く。
「すっかり近所の兄ちゃんみたいになったわね」
「はあ? 俺様のどこが近所の兄ちゃんなんだァ?」
「・・・・・・自覚ないの?」
デラは呆れた表情を浮かべる。
「たく、どこを見ればそうなる『いってえ!』『うえええん、痛いよぉぉぉ!』・・・・・・だから周り見ろって言ってんだろ! 大丈夫かァ!?」
ぶつかった子どもたちにザンクは駆け寄る。そういうところが近所の兄ちゃんなんだよ。デラは思う。ただいるだけの保護者に見えながらもきちんと子どもたちを見ている。何か危ないことがあればすぐに注意する。怪我をした子どもがいるものなら真っ先に駆け寄る。近所に一人はそういう兄ちゃんが必ずいるだろう。ザンクの今の姿は正にそれだ。
「本当にいい人そうですよ、ファングさん」
「ああ、ロロの情報は間違いなかったみたいだ。まさか過去にここまで変化があるとはな」
「でも、なんか思ってたのとは違うわね。なんか近所の兄ちゃんみたい」
『いやあ、人は変わるものだなぁ』
『ブレイズ、そのせりふなんかおじさんみたいだよ?』
彼をよく知っているファングたちが断言するのだから間違いない。いや、何故ここにいる。彼の突然の登場にザンクは目を見開く。
「・・・・・・ひゃははははは! てめえ、死にに来たか?」
「ねえ、ザンク兄ちゃん。サクヤがお腹すいたって。おやつちょうだい!」
「デラからもらえ。ザンク兄ちゃん今大事な話をしてるから。あっち行ってなさい」
ザンクは剣を向けた。
「さあ殺り合おうぜ、ファングさんよォ! 」
「いや、無理だろ! 戦えるか!? バカか、お前!?」
いくらなんでも子どもの前で殺し合いなど出来るはずがない。しかも何をとち狂ったかザンクを慕っている子どもたちの前で、だ。流石のファングでも子どもに囲まれたアウェイの中で戦う勇気は持っていない。こっちが悪人になってしまう。
「はあァ!? 戦わねえだと、ふざけんじゃねえぞォ!?」
「ザンクお兄ちゃん、大変大変! ケイスケがいじめっ子のタケシと喧嘩してるー!」
「デラに頼め。ザンクお兄ちゃんも今喧嘩しようとしてるからな。あっち行ってなさい」
再びザンクは剣を向けた。
「さあやろうぜェ」
「だから出来ねえよ! 保護者のお前が喧嘩したらソイツら真似すんだろ!」
全力で勝負を拒否するファングにザンクは舌打ちした。久しぶりにイライラを発散出来る相手が見つかったと思ったのにやる気の感じられないファングの間抜けな顔に殺意が芽生える。
「・・・・・・おい、てめえ、やけに俺に馴れ馴れしいなァ。忘れたのか、俺とお前は敵だろォ?」
「あ、やっぱザンクは記憶がないのか」
「はァ?」
ザンクは目を丸くする。これまで記憶を保持していた者ばかりを見てきたファングにとって記憶を持たないザンクは貴重だ。ある意味でこの世界の変化に最も詳しい存在なのだから。
「・・・・・・なんでもねえよ」
(エフォールたちを別行動にさせといて正解だったな)
万が一にもファングがザンクと一戦交えることになれば彼と親しい関係にあったエフォールには酷な戦いになるだろう。もしかしたらエフォールの仲裁があれば戦い自体を避けられるかもしれない。だがそれが失敗に終われば彼女自身がザンクに剣を向けられることになる。そうなってしまえばまた彼女の心は閉ざされてしまうかもしれない。絶対にそんなことはあってはならない。だからガルドを捜す名目でエフォールたちを別行動にさせた。
「カカカ! さァて、戦り合おうぜェ!」
「ザンク兄ちゃん、大変!」
「だァから、ザンク兄ちゃんは今戦いを始めようとしてるんだよ。デラが何とかするからあっちに行ってなさい」
二度あることは三度ある。またまた戦いを止められたザンクは青筋を立てた。
「違う! フューリーを寄越せって怪物が村で暴れてるんだ!」
「なに? 分かった。すぐに行く」
ザンクは剣を納めるとデラに視線を向ける。
「ほら、並んで並んで。お菓子は山ほどあるから。ほら、喧嘩はダメだよ。やるからには本気の殺し合いじゃないと」
「・・・・・・なにやってんだァ! 行くぞォ!」
「ふぎゃあっ! あんたが全部押し付けたんでしょ!」
子どもたちに囲まれているデラの首を掴むとザンクは走り出した。
「ファングさん、私たちも!」
「ああ、行くぞ!」
◇
ソルオール迷宮。ソルオール村の地下に広がる巨大な迷宮。いつからそこにあるのか。誰が作ったのか。何の意味があるのか。何もかもが全て謎に包まれたダンジョン。古びた祭壇にフューリーが奉られてることから女神に関する重用な何かが隠されているのでは、と研究者は考えている。とは言っても迷宮内部に存在する無数のモンスターが行く手を阻み研究は進んでいない。物理的にも学術的にも謎の迷宮だ。
「どりゃああああ」
ソルオール迷宮最深部。フューリーが刺さった祭壇の周りをガルドは懸命に磨いている。易々と立ち入ることの出来ない村人に代わって彼は祭壇の掃除を任されていた。
「ふう。どや、綺麗になったやろ」
「偉いわー、流石はガルドちゃんね」
ピカピカになった祭壇を前にガルドは満足気に頷く。わざわざ朝早くから掃除した甲斐があった。これなら村人たちも満足してくれるだろう。
「わざわざすみません、ガルド」
「かまへんかまへん。これくらいお安い御用や」
頭を下げる白髪の妖聖にガルドは微笑む。
「あなたたちには本当に感謝してるんですよ。危機に瀕していた村を救ってくれたのですから」
「ザンクはんのあれはただの気まぐれや。そんな恩に感じる必要はあらへん」
「ですが・・・・・・」
「困った時はお互い様やろ、『リタ』はん?」
一週間前。以前のようにフューリー回収を言い渡されたザンクとガルドはソルオール村に向かった。今回もまた村人たちに非道を働くようなことがあればザンクを斬る覚悟でいたガルドだったがその心配は杞憂で終わる。村は既にオルフェノクによって滅茶苦茶にされていた。子どもを人質に取り、大人たちに決闘をさせ見世物にする。ちょうどかつてのザンクがしていたようなことを彼らは行っていた。
流石の彼もこの状況で村人に非道を働いたりはしない。即座にオルフェノクと交戦を始めた。ドルファ四天王であるザンクなら下級オルフェノクなど何体いようが負けはしない。異形のフューリーフォームであっという間にオルフェノクを殲滅した。その結果、ザンクは村人たちのヒーローになった。
「でも、なんでこの村はやたらめったらオルフェノクが襲撃するんや? ソルオール村みたいに他にもフューリーがある村や街は山ほどあるけど全然そんな情報は聞いたことないんやけどな」
ザンクたちがオルフェノクを退治してから何度も襲撃があった。これほど強力なフェンサーがフューリーを守護しているにも関わらずしぶとく回収しようとする姿は悪いオルフェノクでなければ見習いたいくらいだ。普通は一度失敗すればその時点で諦めるのが常識である。相手が強者なら尚更だ。事実、ファング一向は大量にフューリーを保持しているがそうそう何度も襲撃を受けていない。それは圧倒的な戦力があるからだ。勝てない相手に挑むくらいなら他のフューリーを集めた方が早い。だから今回のように何度も何度もしつこく奪い変えそうとするのは非常に珍しいのだ。ガルドはそれが不思議で仕方なかった。
「彼らのお目当てはこの私です。ここの村人には申し訳ないことをしてしまいました」
「フューリーを狙う輩がいるのは当たり前や。気にすることはあらへん」
忘れがちだがフューリーは100本集めれば願いが叶うのだ。そのフューリーが奉られている村があれば狙われて当たり前である。ここまでの頻度は確かに異常ではあるが。
「違います。この村だけ何度もあの怪物たちに襲われる原因が私にあるのです」
「・・・・・・どういうことや?」
「原因はフューリーではありません。フューリーに宿った私にあるのです」
ガルドは首を傾げる。意味の違いが分からない。
「ガルド。私は唯一無二のSランク妖聖なのです」
「Sランク妖聖? なんや、それ。マリサ、分かるか?」
「うーん。ごめんね、ガルドちゃん。私にもよく分からないわ」
マリサはブレイズのように知識に長けた妖聖ではない。そういった知識には疎く、ランクとやらが何なのか分からなかった。
「強力な妖聖がA。優秀な妖聖がB。普通の妖聖がC。通常はこの三つに妖聖は分類されるのです」
「へー、なんや分類とかランクとかゲームみたいやな」
「そして私はこの三つから逸脱した特殊な妖聖。Sランク妖聖。女神や邪神を復活させる最後のカギが私なのです」
リタは女神の一部であるアリンのような妖聖ということか。ガルドはようやくこの村や彼女が付け狙われる理由を理解した。だがそれでも疑問が残る。何故フェンサーではなくオルフェノクが彼女を狙うのか、だ。村上の行動から考えるに彼らの目的はオルフェノクの数を増やすことだ。オルフェノクは生まれながらの素質に左右される。巧からガルドは聞かされていた。この世全ての人間の素質を操作する。果たしてそんな願いを叶える力まで女神や邪神にあるのだろうか。とてもじゃないが出来そうにない。そもそもドルファという巨大な組織に属している自分にすらそんな情報は入っていないのに何故彼らがそれを知っているのか。気になることが山ほどある。
「リタちゃんって凄いのね、ガルドちゃん。アリンちゃんみたいに不思議な力があるのかしら?」
「どうなんやろ? そもそもアリンはんが不思議な力を使うところを見たことがないんやけど」
「ね、リタちゃん。ちょっと見せてくれないかしら」
強いていうならこの時間の遡りこそがアリンの起こした奇跡だ。
「ふふ、ではお見せましょう。そうですね、何が良いかな。そうだ、あれにしましょう。・・・・・・あと数十秒ほどでガルドさんのご友人たちがこちらへ来ます」
「なんやなんや。もしかして未来予知か?」
「さて、どうでしょう?」
ガルドは祭壇に続く階段へと目を向ける。ここに来れる道は一つしかない。もし本当にリタが言っていることが正しいのなら彼らはここにやって来るはずだ。
「しっかしここは随分入り組んでいるんだな」
「時間が掛かる分には良い鍛練になって私としては助かる」
「アポローネスくんは真面目だねえ。いっつも鍛練ばかりで疲れないの?」
「は、ハーラー! 私に近づくなと言っているだろう! 貴様といると煩悩が刺激される・・・・・・!」
「煩悩って、なに?」
「ヤらしいことを考えることですよ、エフォール」
リタの予知は当たった。かつての仲間である巧たちの登場にガルドは驚愕する。それ以上にアポローネスが仲間になっていることに衝撃を受けているが。
「こ、これがリタはんの力なんか!?」
「これが、ではないですよ。これも、です」
自慢気に笑うリタにガルドは更に衝撃を受ける。
「久しぶり、ガルド。元気、だった?」
「皆はん、お久しぶりやな。ワイは元気や」
祭壇にたどり着くとエフォールがガルドに手を振った。
「お隣の方はどちら様ですか?」
「見ない顔だな」
簡単な挨拶が済むと視線は自ずとリタに向けられる。
「初めまして。私はリタと言う妖聖です」
◇
「ち、クソがァ!」
村の惨状にザンクは舌打ちした。無数のライオトルーパーが誰かの家や誰かの店を破壊し、誰かを傷つけていた。村人を殺すのがライオトルーパーたちの目的ではなさそうなのがせめてもの救いだ。
「どうするの、ザンク?」
「決まってんだろ、皆殺しだァ!」
「よっし、いくわよ! デラデラデラデラ! 『フェアライズ!』」
異形のフューリーフォームと化したザンクは目の前にいたライオトルーパーを踏み潰す。嬲り殺す普段の戦い方とは違う。容赦のない殺意が一撃にしてそのライオトルーパーを殺した。
「ひゃははははは! てめえら皆殺しだァァァァァ!」
『殺されたくなかったらあたしたちを殺してみなぁぁぁぁぁぁ!』
物言わぬ死体となったライオトルーパーをザンクは彼らに向けて蹴り飛ばす。彼らの目の前でライオトルーパーは爆散した。ライオトルーパーズの標的は村人からザンクへと一瞬にして変化する。
「あ、相変わらず野蛮な奴ね」
「村人たちを逃がす時間を稼いでんだよ」
「私たちも一緒に戦いましょう」
薙刀を構えたティアラにファングは頷く。
「いくぞ、お前ら! 『フェアライズ!』」
「いきますわよ、キュイ! 『フェアライズ!』」
ファングは紅炎真紅の戦士と化し、ティアラは純白戦姫の鎧を纏うとライオトルーパーズと交戦を始める。
「おい、ファング! 俺様の獲物を盗るんじゃねえ!」
「早い者勝ちだ!」
ザンクとファングは争うようにライオトルーパーを倒していく。ザンクの腕がライオトルーパーを貫き、ファングの大剣がライオトルーパーを斬り裂く。圧倒的なまでの強さを誇る二人の姿は正に無双。一騎当千の力を持った二人にとってライオトルーパーなど倒されるだけの雑魚でしかない。あっという間にライオトルーパーは壊滅状態へと追い込まれる。
「ひゃははははは! もう終わりかァ?」
『おっと、まだ終わりじゃねえぜ。やれ!』
「あァ・・・・・・?」
高笑いするザンクに向けてミサイルやレーザーが降り注ぐ。
『切り札は温存しとくもんだぜ、野蛮な兄ちゃん』
サイドバッシャー。カイザ専用マシン。バトルモードになったそれに跨がったライオトルーパーを引き連れてバットオルフェノクは現れた。
「あ、あなたは!?」
『こいつシャルマン様と一緒にいた奴よ!』
「またお前か・・・・・・! お前には聞きたいことがあるんだ。洗いざらい吐かせてもらう!」
ファングは大剣の切っ先をバットオルフェノクに向ける。彼は指を立てるとちっちっちと舌打ちした。
『その程度で俺に勝てると思うか? 本気で来い!』
◇
「ほら、これお前にってさ」
「お、ちょうど喉乾いてたんや」
巧は村人から渡された差し入れの缶ジュースをガルドに渡した。
「ダンナとティアラはんはザンクはんのところに行ったんか?」
「ああ」
巧とガルドは定期的に連絡を取り合っていた。ティアラのこと、過去が変化していること、アポローネスを仲間にしたこと。それらは全て巧から送られてくるメールによって把握していた。それでもこうしてかつての仲間と再会出来ると情報では感じられない嬉しさがこみ上げてくる。ガルドはパーティを見つめ、笑顔を浮かべる。
「良かったですね、ガルド。ずっとご友人のことが心配だったのでしょう?」
「おおきに。・・・・・・ってそれもSランク妖聖の力なんか?」
「さあ、どっちでしょう?」
「Sランク?」
不思議な雰囲気のリタに巧は首を傾げる。どうにも彼女は他の妖聖と違う気がする。
「な、ななな! え、Sランク妖聖だってぇ!?」
「なに、それ?」
ハーラーは驚愕に目を見開く。妖聖研究家である彼女はガルドたちとは違ってリタの存在がどれだけ特異なのか理解している。
「・・・・・・前の世界ではこの村にあったフューリーは普通のだったはず。それがどうしてSランク妖聖なんて代物になっているんだい!?」
「だから、Sランクってなに?」
「伝説のフューリーだ。その力をあまりにも絶大で手に入れたものは神にすら到達すると言われている」
エフォールの疑問に答えたのはアポローネスだ。強さを求めていた彼もまたSランク妖聖についての知識は持っていた。
「へー、あんた凄いんだな」
「同じ妖聖として尊敬します」
「そ、そんな褒めないでください。照れてしまいます」
「流石はSランクだ! 可愛い! この可愛さ、正に伝説!」
「ちょ、ちょっと! 何処を触ってるんですか!?」
ハーラーはリタに抱きつくと身体を撫で回す。鼻息を荒くしたその姿はもはや妖聖研究家ではなくただの変態だ。こうしていると過去に戻る前を思い出す。ガルドはふっと笑った。
「・・・・・・お前たちはいつもこんなに賑やかのか?」
「せやで。賑やかなのは苦手なんか?」
「ふ、嫌いではない」
妹のことを思い出したアポローネスは笑顔を浮かべる。
「む、貴様電話が鳴っているぞ」
「ん? ザンクはんからメールや」
ポケットに入っていた携帯電話をガルドは開いた。
『化け物どもの襲撃だ、来い』
手短に書かれた文章。その内容だけでガルドは全てを察した。彼は隣にいたアポローネスに視線を向ける。無言で頷いた。
「巧はん、村にオ『大変です! 皆さん、ここに無数の敵が向かってきます!』っ!?」
「それは本当なのか?」
「はい。変わった鎧を着た人たちとライオンの怪物です」
「確かに。何か気配が近づいている」
エフォールが言っているのだから誰かがこちらに向かってるのは間違いないのだろう。だがライオトルーパーズにライオンオルフェノク。リタは知るはずのない存在をピンポイントで当てている。先ほどから彼女が使っている予知能力は本物のようだ。
「どういうことや・・・・・・?」
「・・・・・・同時に我々を襲ってくるとは奴らは一体何を企んでいるのだ?」
巧たちの視線が階段へと向けられる。音。無数の足音がこちらに向かっていることに彼らは気づく。巧はベルトを巻き、アポローネスたちは武器を持つ。
『Hello,I came to have treasure』
階上から現れたライオンオルフェノクとライオトルーパーズに巧たちは身構えた。彼が強敵なのは先日の戦いで痛いほど理解している。気を抜けば即座に殺されてもおかしくはない相手だ。しかも今回は更に無数のライオトルーパーがいる。油断は決して許されない。緊迫した空気が巧たちを飲み込む。
「・・・・・・ねえ、あの人はなんて言ったの?」
「この状況でそんなくだらないことを気にしている場合か!?」
「ぐだらなくないもん」
首を傾げるエフォールにアポローネスはずっこけそうになる。
「やあ、お宝をいただきに来たよと彼は申したんですよ、エフォール」
「あ、そうなんだ。ありがと、果林」
「はあ、本当に貴様らは呑気だな」
アポローネスはこめかみを押さえる。どれだけこのパーティに馴染んでもこの緩い雰囲気だけは絶対に馴染めそうになる。自然とため息が出た。
「でもおかげでええ感じに肩の力は抜けたやろ」
「うん、危うくこの空気に飲まれるところだったよ」
恐怖心を持つのは悪いことではない。だが恐怖心に飲まれることはあってはならないことだ。恐怖が常に頭の中を支配されれば戦闘に集中出来なくなってしまう。一流と呼ばれる戦士だろうと恐怖心に負ければ二流以下と成り下がるのだから。
『Try it if you can do it(やれるもんなら、やってみな)』
「何言ってるかわかんねえよ」
────555
────standing by
「変身!」
────complete
巧はファイズに変身すると階上のライオンオルフェノクに飛びかかる。力強く握られた拳をファイズは彼へと振り下ろした。
『フンッ』
ライオンオルフェノクは得物の槍でそれを軽々と受け止める。不意を突いたつもりだったが彼には無意味なようだ。やはりこの男は強い。巧は気を引き締める。
「巧はん、こいつの取り巻きはワイらに任せてや!」
「この程度の相手ならすぐに蹴散らせてくれよう!」
「絶対に負けない・・・・・・!」
ガルドたちはライオンオルフェノクの取り巻きであるライオトルーパーたちと交戦を始める。
「ガルド、無茶だけはいけませんよ!」
「こらこら、リタちゃん。あまり前に出ないで」
「あ、すいません」
地下の迷宮という関係上、その力を存分に発揮することの出来ないハーラーはリタの護衛に回る。口ぶりからして彼らの狙いは彼女だからだ。
「ハァァ!」
ファイズは拳のラッシュをライオンオルフェノクに繰り出す。だが不規則で放たれてるはずのその攻撃を彼は片手で軽々といなし、受け流す。不良の喧嘩そのものな巧の戦闘スタイルはライオンオルフェノクのように優れた兵士には相性が悪い。何度も戦い続ければ北崎の時のように食い下がることも可能だが、初見の相手ではそれも出来ない。勝機が薄い。巧は内心で舌打ちした。
『Is it this degree?(この程度か?)』
ファイズの実力をある程度把握したのかライオンオルフェノクは攻めに転じる。高速で放つ槍の乱舞が彼を襲う。蹂躙。一方的な攻撃は確実にファイズを追い詰める。流石は上級オルフェノクだ。村上に匹敵している。いや、それ以上の強さだ。間違いなく彼はまだ本気を出していない。余裕を持って圧倒されている事実に巧は戦慄する。
『I will make fun a little(少しからかってやろう)』
ライオンオルフェノクはファイズを吹き飛ばす。飛ばされていた先にいた無数のライオトルーパーに彼は囲まれる。ライオンオルフェノクはそれを尻目にエフォールへと標的を変える。
『っ!? エフォール、来ます!』
「分かってる。お前っ、殺!」
『attack effect ワクシングクレセント』
氷を纏った必殺の鎌がライオンオルフェノクの槍を迎撃する。下から上へと振り上げられた一撃はライオンオルフェノクの身体を凍らせた。好機。更に追撃を加えようとしたエフォールだがライオンオルフェノクは一枚上手だった。彼は胸のライオンの顔から放たれた炎で身体を拘束していた氷を一瞬で溶かす。
「嘘!?」
『True(真実だ)』
間合いに入られたエフォールは窮地に追いやられる。今の彼女に長物を得意武器とする相手と戦う手立てはない。銃や弓は効果が薄い。剣では槍に勝てない。鎌では勝負にならない。手甲は論外。今、ライオンオルフェノクと戦うのに選べる武器は一つしかない。同じ槍だ。エフォールは槍を器用に使いこなして彼の攻撃を防ぐ。だが本職が槍のライオンオルフェノクに対し、暗殺者であり飛び道具を中心としたエフォールでは実力に大きな差がある。力強く放たれた突きを受け止めきれなかった彼女は大きく吹き飛ばされた。
「う、うう」
「エフォール、しっかりしてください!」
膝をついたエフォールにフェアリンクを解除した果林が駆け寄る。ライオンオルフェノクの槍は僅かに露出した彼女の腹を掠めたのかジワリと血が流れていた。治療をしなければとてもじゃないが戦闘続行は厳しいだろう。
『There is not yet it by the end(まだ終わりじゃないぞ)』
ライオンオルフェノクは両手を頭上に掲げると巨大な火球をエフォールたちに向けて放った。
「果林! エフォール! くそ、どけ!」
────complete
目の前のライオトルーパーを蹴り飛ばすとファイズはアクセルフォームにフォームチェンジした。
────start-up
高速の世界に突入したファイズは取り囲んでいたライオトルーパーズをアクセルグランインパクトで倒す。更にガルドとアポローネスと交戦していた無数のライオトルーパーを強化スパークルカットで切り裂く。
「巧さん!」
「巧!」
ファイズは両手を広げると果林たちの盾になる。
「ぐわああああああ!」
「「きゃあ!」」
激しい爆風に巻き込まれた三人は吹き飛ばされる。
「果林はん!」
「エフォール!」
ガルドとアポローネスが二人をキャッチした。
「く、うう。あ、ありがとな、二人を助けてくれて」
防衛装置が働き、変身を解除された巧が二人の元に転がる。
「感謝などいらぬ。それよりも貴様は自分の心配をしていろ」
「せや。回復魔法を使うからじっとしててや」
「・・・・・・助かった」
「ありがとうございます」
「エフォールはんも」
ぼろぼろの巧と果林にガルドは回復魔法を施す。エフォールにも回復魔法を掛けなくては。視線をアポローネスにガルドは向ける。アポローネスはエフォールをガルドの横に寝かせるとライオンオルフェノクに剣を向けた。
「・・・・・・そのベルトを返してもらおうか」
ライオンオルフェノクはファイズギアをその手に持っていた。
「It is not made(それは出来ないね)」
ライオンオルフェノクは筋肉質な美形の人間『レオ』に姿を変えるとベルトを腰に巻いた。
「ま、まさか。う、嘘やろ」
「なんで・・・・・・? だってそれは巧さんの・・・・・・!」
「巧の、力なのに・・・・・・!?」
驚愕に目を見開くガルドたちにレオはニヤリと笑う。
「This is not only power for you(これはキミだけの力ではない)」
────555
────standing by
「HEN-SIN!」
────complete
「It's show time!(さあ、ショータイムだ!)」
「ふん。一人で踊っていろ」
レオは────ファイズは巧たちにサムズダウンした。アポローネスは前に立つと剣を構える。
「アポローネス・・・・・・」
「必ず取り返してやる。あの力はお前にこそ相応しい。そんな気がするからな」
アポローネスはファイズに向かって駆け出した。
────この日、この場所で、この世界で最初のベルト争奪戦の幕が開けた。巧は奪われた力を取り戻すことが出来るのか、レオはファイズの力を自分のものにするのか。真のファイズの適合者はどちらになるのか、その結果を知る者はまだ誰もいない。
こんなに更新が停滞気味になるのは全部レオって奴の仕業なんだ。本気で。いや、セリフ全部が英語って本当に凄まじい時間が掛かりますね。でも巧に変わったファイズに変身する大役を任せられるのは彼しかいないので頑張りました。
今回の話を読み終わったゲームクリア済みの方は驚いたと思います。Sランク妖聖リタの登場です。本来このタイミングではありえない彼女の登場によって今後はしばらくオリジナルストーリーが繰り広げられることになります。とても熱い展開になるのでお楽しみにしていてください