乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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更新遅れてすいません。夏なのに何故か忙しかったです。

関係ないですけど次回作の仮面ライダーエグゼイドが発表されましたね。ゲームが題材だそうなので各ゲーム会社とのコラボイベントやタイアップイベントが今から楽しみです。・・・・・・絶対ネプテューヌとのクロス小説書く人出ますよね。


絶望を希望に変える

「なんだよ、これ」

「酷い・・・・・・」

 

 ドルファへと戻ってきた巧たちは呆然と目を見開く。本来ならそこにあるはずの巨大なビルは大きな穴を開けて半壊していた。ものの一時間。たったの一時間で世界的な大企業の本社が見る影もなくなっている。ここで何が起きた。あのギャザーという男が何かをしたのは間違いない。だがここにはファングたちがいたはずだ。マリアノやドルファの兵士だっている。にも関わらず何故ここまで大きな惨状になったのだ。

 

「・・・・・・行くぞ」

 

 巧たちはリタの能力で会場の中へと跳ぶ。

 

 パーティー会場にファングたちはいた。他の招待客は避難したのか彼らしか残っていない。彼らはそれぞれ別々の敵と戦っている。彼らはギャザーの回し者であろう妖聖たちと交戦していた。

 

「くそ、アリンがいればこんな奴ら・・・・・・!」

「ファングさん、無茶しないでください。私が、戦いますから!」

「いいから下がってろ。お前がやられたら誰が俺たちを治すんだよ」

 

 二本の剣を武器にしたファングはティアラを庇うように前に立っていた。彼らは見たこともない人型の妖聖に囲まれている。既にファングの身体は火傷や切り傷、凍傷によってボロボロだ。

 

『グオオオオォォォォ!』

「食後の運動くらいにはなるか、ガルド?」

「へ、こんなもん朝飯前や! とっとと倒してバハスはんを止めるで!」

 

 巨大な黒い妖聖や無数の妖聖を相手に不敵な笑みを浮かべるアポローネスとガルド。しかし、言葉や表情とは裏腹に彼らの身体もまた妖聖の攻撃によって大きな傷を負っていた。

 

「ねえ、バハス。もう一度聞くよ。私、あんたに何か悪いことした?」

「・・・・・・オレはもうお前の奴隷じゃない」

「ごめん、本当に意味が分からないんだ」

「胸に手を置いて考えるんだな」

 

 パートナーであるはずのバハスにハーラーは斧を向けられていた。彼女はただひたすらに困惑の表情を浮かべている。

 

「エフォール、今助けに行きます!」

「おおっと、それ以上近づけばこのガキは斬らしてもらうぜ」

「っ!?」

「果林、来ちゃダメ。逃げて」

 

 フェンサーとして戦うことが出来ないエフォールはテーブルの後ろに隠れていた。駆け寄ろうとした果林。だが彼女の声でエフォールはバットオルフェノクに見つかってしまった。エフォールに銃が向けられる。

 

「く、ギャザーめ。まさか妖聖を操る力にまで目覚めていたのですか。これだけの妖聖を支配下に置くなんてやってくれましたね・・・・・・!」

『妖聖だけじゃない。俺たちオルフェノクもだ!』

「くそ! オルフェノクまでいるのか!?」

 

 そして巧たちが来るのを待ち受けていたように新たに現れたライオトルーパーズが彼らを取り囲む。絶望。北崎の救援に向かうために戻ってきた巧たち。だが彼らに与えられたのは絶対絶命のピンチに陥った仲間たちの姿を見せられるという絶望であった。

 

「こんなところで終わるのか・・・・・・?」

 

 巧は今まで感じたことのない圧倒的な絶望を前に心が壊れそうになった。

 

 ◇

 

 時間は少し遡る。

 

「あー、皆とはぐれちまったな」

 

 食事に夢中になっていたファングはガルドたちを見失ってしまった。彼は広々としたパーティー会場の中を懸命に探すがそれらしき影は見えない。おかしいな。皆は一体どこに行ってしまったのだろうか。さっきまで一緒にいたのに。一人になったファングはいたたまれなくなり頭を掻いた。

 

『阿保。また食べ物に夢中になりおって。お前は以前もそうやって巧とはぐれただろう』

「そんな昔のこと覚えてねえよ。まだアリンに出会う前じゃねえか」

『いや、覚えているではないか』

 

 相変わらずとんちんかんなことを言う男だ。ブレイズはため息を吐く。

 

「皆さんお集まりいただきありがとうございます。ドルファ・ホールディングスのパイガでございます。総帥・花形に代わってご厚礼申し上げます」

『・・・・・・乾杯か。今さらだが乾杯の前に食事を始めるのは無礼ではないか?』

「さあな。つーか世界征服を企む企業に礼儀を弁える必要なんてねえだろ」

 

 一理ある。

 

「そういやさ。今挨拶してる北崎に命令出来るらしいあのおっさんって何者なんだろうな」

『社長の代理を勤められるくらいだ。相当な大物で間違いないだろう』

「しかもフェンサーなんだろ。今まで深く考えてなかったけどあいつ結構強いんじゃねえか?」

『だが今まで一度も戦った記憶はないぞ』

 

 結構どころではない。数多く存在するドルファのフェンサーの中でもパイガは五本指に入る実力者だ。一度も戦ってないからすっかり忘れているが彼はドルファ四天王である。ドルファに所属していたガルドとアポローネスを除いて彼らの中ではパイガの代わりに北崎がドルファ四天王の一人になっていた。無理もない。パイガは北崎に何度もファングたちを襲わせていた。もはや彼らにとってパイガとはドルファ四天王の北崎を操る人、という認識である。本人が聞いたらガッカリしそうなものである。いや、彼の場合は戦闘が避けられるとむしろ喜ぶかもしれないが。

 

「試しに勧誘するか? 自由を与えてやるっていったらホイホイついてくんじゃねえか」

『自由、か。確かにあの男は高給を盾にコキ使われてそうだ。何でも出来る自由を与えてやれば喜んで裏切るかもしれん』

「やたらめったら行く先々で会ってたのはやっぱりそういう意味だよな」

 

 世界征服を企む会社なだけはある。中年のおっさんの人生まで滅茶苦茶にするブラック企業って怖い。ファングはパイガに少し同情した。

 

「どうする。あのおっさんをドルファから救うべきか?」

『そうだな。もしかしたら数多くの不正を暴くチャンスかもしれん』

「・・・・・・あなたたちはドルファをなんだと思ってるの?」

 

 パイガを勧誘しようかファングは迷う。そんな彼の背後から聞き覚えのある声が聞こえた。彼は振り向く。

 

「マリアノ!」

「元気そうね、ファング」

 

 そこには最後のドルファ四天王であるマリアノがいた。彼女はファングの驚く顔を確認すると柔らかな笑みを浮かべる。

 

「こうしてあなたと話すのは久しぶりね」

「・・・・・・お前は記憶があるのか」

「見て分からない?」

 

 間違いない。マリアノには記憶がある。この時の彼女はファングを知っているはずがないのだから。だが何故マリアノに記憶が残っているのだろう。巧たちは天道という男に特別なアイテムを託されたから以前の世界の記憶が残っていた。しかし、彼女にはそんなアイテムなんてないはずだ。

 

「何でお前まで覚えてんだよ?」

「ふふっ、何でかしらね。正解出来たらご褒美を上げるわ」

「ご褒美? まさか肉、肉なのか!?」

 

 ファングは目を輝かす。いや、絶対に肉ではない。以前もこのような会話をした記憶のあるブレイズは相も変わらず単純な彼に呆れた。

 

「さあて、何なのでしょう。それは正解を言ってからのお楽しみよ」

「なんだよ、含みのある言い方だな。えーと・・・・・・」

「落ち着いて考えなさい」

 

 こういったことに知恵が回らない。ブレイズはこの状況を面白がっているのか何かを答える気配はない。ファングには難しい問題だ。彼は腕を組んで考え込む。それを笑顔で見つめるマリアノ。彼らは遠目で見るとまるで先生と生徒のように見える。

 

「むー、ファングの奴またあの女と仲良さそうにして〰!」

 

 それをたまたま見ていたアリンは忌々しそうにマリアノを睨んだ。アリンは前の世界からどうにも彼女が気に喰わなかった。自分ともティアラともエフォールとも違う何かがマリアノとファングの間にあった。彼がパーティの一員であるアリンたちに向ける目とマリアノに向ける目は明らかに違う。それがどう違うのかは分からない。だが見ていてモヤモヤとした気持ちになるということはきっと悪い意味なのだ。だからアリンはマリアノのことが好きになれない。彼女が傍にいるとファングがとられてしまわないか不安になってしまうから。今でもアリンは不安で胸の中が一杯になりそうだった。

 

「・・・・・・マリアノとファングはどういう関係なのだ?」

 

 アポローネスはマリアノと親しげに話すファングに目を丸くした。以前の世界からマリアノがファングに興味を持っていたのは覚えているがまさかこれほど親密な仲とは予想外だ。

 

「別に何の関係もないわよ。マリアノはファングに色々とちょっかいを掛けた敵の一人。それだけよ」

「アリンはんの反応からしてただの敵で片付けるのは無理があるわ」

「うっさいわね! あんたはお茶でも飲んでなさい!」

 

 アリンはキィーと唸り、ガルドにお茶を押し付けた。ただならぬ雰囲気の彼女に恐怖を感じたガルドは無言でお茶を啜る。

 

「だいたいファングもファングよ! あいつバカで食いしん坊でバカなのにどうしてこんなにモテんのよ!? バカなんじゃないの!」

「やけ食いは身体に悪いよ、アリンちゃん」

「アリン、バカって言う方がバカなんだよ」

「誰がバカよ!?」

 

 アリンは苛立ちを隠さずテーブルに乗せられた食べ物を手当たり次第に食べ始める。ハーラーは次々と空になっていく皿に冷や汗を流した。いくら立食パーティーとはこんなに食べていると周りの視線が気になって仕方がない。

 

「落ち着き、アリンはん。・・・・・・ワイからしたらアリンはんのがマリアノなんかよりよっぽどダンナにとって特別だと思うんやけどな」

 

 以前、ファングの口からアリンをどのように思っているか聞かされていたガルドは彼女を精一杯落ち着かせる。

 

「特別?」

「そうだ。フェンサーと妖聖は深い絆で結ばれている。まさに一心同体だ。ファングはアリンがいなかったら戦うことも出来んのだぞ。邪神の力を御しているのもお前との固い信頼があるからこそだ」

「だからね、アリンちゃん。あんまり怒っちゃダメよ。心配しなくてもファングちゃんはアリンちゃんのことをとっても大事に思ってるわ」

「そうだよ。わたしなんかさいきんはちっともかまってくれないんだよ」

「うー・・・・・・」

 

 アリンはそれでもまだ納得出来ないのか悲しそうにファングを見つめた。大事に思ってくれてるのは分かっている。でもそれでも寂しいのだ。ファングがアリンに抱いている想いはきっとブレイズやキョーコに持っているものと同じだ。人としての距離は近いけれど男女の仲としては最も遠いもの。例えるなら家族のそれに近いものだ。ティアラやマリアノに抱く想いとは絶対に違う。アリンがファングに求めるものとは違うのだ。

 

「・・・・・・あなたって本当に罪な男ね。あの娘は苦労しそうだわ」

 

 その様子を見ていたマリアノは苦笑を浮かべた。

 

「ん? 何か言ったか?」

「何でもないわ。それよりも私があなたのことを何故覚えているのか理由は分かったのかしら」

「なんとなくはな。確信はねえけど多分これであってると思う。お前はあの時女神の聖域の中にいたよな? アリンたちみたいに俺の願いに巻き込まれたんじゃないか」

 

 ファングは過去に戻りたいと願ったことを思い出す。その願いは女神の力によって叶えられた。だから女神の聖域にいたアリンたちはファングと共に過去に戻ったのだろう。恐らくマリアノもそれに巻き込まれたのだ。あくまで仮説だが少なくとも女神の力が及ぶ範囲までの人間は一緒に過去に戻ったのだろう。敵味方は関係ないのだ。巧たちはそのせいで危うく消滅しそうになったのだが。天道に渡されたアイテムによってその存在は消滅しないで済んだ。

 

「正解よ。私はあの時、あの場所で悲しみに嘆いているあなたを見てたわ。そして気づいたら過去に戻っていた」

「やっぱりそうだよな。シャルマンに記憶があったのも多分それだ」

「・・・・・・よりにもよってあの男が記憶を残しているなんてね。こんなにも世界がおかしくなってる訳だわ」

「お前、何か知ってんのか?」

 

 シャルマンの異変について心当たりがありそうなマリアノの肩をファングは思わず掴んだ。

 

「ちょ、ちょっと。落ち着きなさい」

「落ち着いていられるか!? シャルマンの奴が今何をやってるのか知ってるのか!? なあ、教えてくれよ! あいつはティアラを・・・・・・!」

「だ、だから説明するから離れなさい。こ、こんな人の多い場所で顔を近づけすぎよ。ま、周りの目を考えて!」

 

 マリアノに言われてファングは周囲を見渡す。やたらと注目が集まっていることに気づく。あれ、と彼は思った。何故こんなに自分たちは注目されているのだろうか。確かにティアラのことで頭に血は上っていたが自分だってTPOは弁えている。内容も聞かれたら不味いものだ。だから声を荒げたと言っても周りには聞こえない程度の大きさだったはず。それが何故?

 

『阿呆。お前がマリアノに迫ったからだ』

 

 冷静に考えてみれば単純なことである。マリアノは美女でこういったパーティーでは男性からの目を集めやすい。自ずと注目をされる彼女に話しかけている男がいて親しげな様子ならば誰だって注目するだろう。しかも端から見ればファングはマリアノに迫っているようにも見えた。こうなってしまえば男性だけでなく女性の目も集まる。ファング自身も中々に美形なだけに彼女らは黄色い歓声を上げた。

 

「あ。わ、悪かったな」

 

 よく分からないけどなんか恥ずかしい。ニヤニヤとした周りの目を視線が気になって痛い。男女の仲に疎いファングでも流石に自分のした行為がどういうものか気づいたようだ。彼はマリアノから慌てて離れた。彼女も気恥ずかしいのか頬を真っ赤にしている。ファングは不覚にも一瞬ドキリと胸が高鳴るのを感じた。

 

「謝るなら私ではなくあの娘に謝った方が良いんじゃないのかしら?」

 

 マリアノの視線がファングの背後に向けられる。誰が見ているんだ。気になった彼は振り向く。

 

「ティアラ・・・・・・?」

 

 そこにいたのはティアラだ。彼女は湧き立つ不安に胸を押さえて二人の姿を見つめていた。何故だろう。見られてはいけない現場を見られた気がする。このまま何もしなければ取り返しのつかない何かをしてしまった。そんな気がする。

 

「これはだな、ティアラ。情報を聞き出そうとしただけて・・・・・・」

「・・・・・・ファングさん、そのお隣の方はどちら様なのですか? とても素敵な女性ですわね。お似合いですわ。私と違って」

 

 ティアラは儚げな笑みを浮かべた。ダメだ、これは。何か明らかに誤解されている。この誤解をさっさと解かなければ非常に面倒な自体になりそうだ。

 

「べ、別にこいつはただの敵だ。前の世界でちょっと色々あっただけでそんな変な関係なんかじゃねえよ!」

「私と彼には何もありませんわ。少なくともあなたが不安に思うようなことはね」

 

 ファングは何とか誤解を解こうと一生懸命にマリアノとの関係を説明する。これが他の男なら言い訳かもしれないがバカで食いしん坊で嘘の吐けないファングの場合は本当だ。決してやましいことなんてない。そもそも別に恋人でもない相手に弁解する必要があるのかどうかも疑問だが。

 

「べ、別に気にしてなんかいませんわ。ファングさんは、その・・・・・・とても素敵な人ですから」

『ティアラよ、動揺しているからと言って嘘を吐くのはよくないぞ』

「ぶっ飛ばすぞ、ブレイズ」

「ええ、とても素敵よね。誰かを守るために必死になる姿にはとても惹かれるものがあるわ。私も夢中になってしまう程に」

「む、夢中!?」

 

 ティアラの顔が絶望に染まった。マリアノほどの美人がファングに好意を抱いている。それは少なからず彼を意識しているティアラからしたら大きな衝撃だ。

 

「おい、お前は状況をややこしくするんじゃねえ」

「ややこしくしたい訳ではないわ。事実を言っているだけ。私があなたに惹かれているのは事実。その結果のせいでややこしくなったのよ」

「何が違うんだよ」

 

 どっちにしろややこしくしているのでは同じではないか。得意気な笑みを浮かべるマリアノにファングは呆れる。

 

「・・・・・・関係がないのは分かりました。では、もう一つ聞いてもよろしいでしょうか。ファングさんはその、マリアノさんをどう思っているのですか?」

「へえ、中々面白そうな質問ね」

「どこが面白そうなんだよ」

(・・・・・・何かわかんねえけどこれヤバいヤツだ)

 

 ファングは無意識にこの質問がとても危険であることを悟った。その直感は正解だ。好意を抱いている相手にどう思われているか。それは誰もが気になることだ。特に女性はその思いが強いだろう。それだけに返答には細心の注意を払わなくてはならない。もしもファングがうっかり口を滑らせたら間違いなく荒れる。マリアノを好きと言えばどうなるだろう。ティアラがこの世の終わりくらいのショックを受ける。ついでにその後ろでフォークを持って様子を伺うアリンが何かをしてきそうだ。ではマリアノを嫌いと言えばどうなるだろう。ティアラとアリンは喜ぶかもしれない。だが背後でフューリーに手を添えたマリアノが何をするか想像すらしたくない。ならば無難に何とも思ってないと言えばいいのだろうか。いや、それは安全策ではあっても好意を抱いてくれている人に最も言ってはいけないことだ。好きの反対は無関心。絶望を突きつけるのと同義である。女性関係に疎いファングがどうこの場を乗り切るのかブレイズは息を呑んだ。

 

「俺は別にマリアノのことは嫌いじゃねえよ。敵である俺を助けてくれるような心の優しい奴を嫌いになる訳ねえだろ。それに美人だしな。むしろ好きだぜ」

「・・・・・・まあ合格点ね」

「何であんたに合格不合格を決めてもらわなければなんねえんだよ」

 

 流石は良い意味でも悪い意味でも正直なファングだ。なんだかんだでベターな返答を選んでいた。もしも好意的な発言であろうと適当に吐いた嘘だったら彼の首は冗談じゃなく飛んでいた、かもしれない。マリアノは賢い女だ。嘘に気づかぬはずがない。

 

 逆に言えば嘘偽りなく好意を示せばマリアノはそれを真実と見抜く。ファングはマリアノに好意を抱いていると証明された。合格点とはファングに対してではない。ファングに確かな好意を抱かれていると分かったマリアノ自身の合格点なのである。

 

 人間として好き。この返答は特別な異性としてマリアノを見ている訳ではない。だからティアラの機嫌を損ねることもない。結果オーライだが完璧な受け答えをファングはしていたのだ。

 

「へー、ふーん。じゃああたしのことをどう思っているかも聞かせてもらおうかしら。ねえ、ファング?」

「知ってた」

 

 まあティアラはともかくやきもち焼きであるアリンの機嫌は損ねているのだが。

 

「いや、今さら改めて言うことなんてねえよ。アリンは大事なパートナーだよ。俺はお前と一緒にいるから戦えて、一緒にいるから毎日ぐうたら過ごせるんだ。お前が傍にいるから俺は安心出来る。本当に大切に思ってるよ」

「えへへ、知ってる」

 

 あれ? 不機嫌だと思ったら急に機嫌を良くしたアリンにファングは首を傾げる。もしかして演技だったのだろうか。だとしたら何の意味があるんだ。疑問は深まるばかりだ。

 

「あたしとファングは一心同体だから。あんたのことは誰よりも分かってんのよ。誰よりも、ね」

「まあな。お前は俺の考えてることを誰よりも分かっているよ」

「でしょ。感謝しなさいよ! えへへ」

『・・・・・・っ!』

 

 アリンは意地悪な笑みをティアラとマリアノに向けた。二人はムッとした表情を浮かべる。

 

「そうね。あなたはファングをよく理解しているわ。なんせパートナーですものね。ところでファングはあなたのことをどう思っているのか事細かく正確に教えてくれないかしら? もちろん答えられるわよね」

「だ い じ に思われてるわ! ちなみにあんたは美人で優しい人って認識よ。よかったわね、マリアノ♪」

「ええ、良かったわ。家族のように大事に思われてるアリンさん」

(アリンめ、面倒なことをしたな)

 

 火花が飛び散ってるアリンとマリアノ。これが男同士なら今にも取っ組み合いの喧嘩になりそうだ。二人揃って大人げない。ブレイズはため息を吐いた。

 

「なんか知らねえけど喧嘩すんなら他所でやれよ」

 

 女同士の争いに巻き込まれてはたまらん。ファングはこっそりと二人から離れた。その背中をこれまたこっそりとティアラは追いかける。

 

「ま、待ってください」

「なんだ、ティアラ。お前もついてきたのか?」

「ええ。私、ああいうのは苦手なので」

「俺もだ」

 

 ファングとティアラは互いに苦笑を浮かべる。

 

「つーか褒美貰ってねえな。たく、この俺様の天才的な頭脳を披露してやったってのに。しゃーねえ、面倒だけど後で貰いに戻るか」

「・・・・・・あのお方からいったい何を受け取ろうとしていたのですか?」

「さあな。本当に肉より上だと良いんだけどな」

 

 低いハードルのはずだが前例があるだけに油断は出来ない。どことなく女王様みたいな雰囲気のあるマリアノならあの時みたいになるかもしれない。

 

「ふふ、ファングさんは欲がないんですね。お肉より上のものなんていくらでも用意出来ますわ」

「肉以上の物を用意出来なかったお前が言っても説得力はねえな」

「・・・・・・私、ファングさんに何かを差し上げたことありましたか?」

 

 ファングは以前の世界のことをティアラに話した。出会い頭に痺れ薬を盛られたこと。チンピラに襲われていた彼女を救ったこと。そんなティアラに下僕にして差し上げると言われたこと。ファングが彼女と初めて出会ったその日のことを彼は全て話した。

 

「私がそんなことを言うなんて、信じられません」

「俺もお前がそんなに良い子になってるなんて最初は信じれなかったぜ。優しいのは変わってねえけどな」

「ファングさんは私の知らない私を知っているのですね」

「そうだな。嫌になるくらい知ってるぜ」

「そう、ですか」

 

 ニヤニヤと笑うファングにティアラは少し胸が苦しくなる。彼女はファングが前の世界のティアラと並々ならぬ関係にあったのに薄々感づいていた。彼は時折ティアラに対して他の誰にも見せたことのない寂し気な顔をすることがある。

 

 ティアラはそのファングの顔を見ていると胸の中が恋でもしたかのようにドキドキとした切ない気分になる。こんな気持ちになるのはきっと以前の世界で自分と彼が特別な関係だったから。僅かに残った記憶の欠片がそれを思い出しているのだ。特別な関係。それを意識するとティアラは自分の顔が熱くなるのを感じた。

 

 彼女は慌てて首を振る。それは別の世界のティアラとの関係だ。今ここにいる自分ではない。アポローネスのように記憶を取り戻せれば話しは別だがそれは出来そうになかった。何もかもがリセットされた今の自分とファングはただの仲間でしかない。だからこれは一方的な────思いだ。でも、もしも彼が今も変わらずその想いを抱いているのだとしたら・・・・・・。

 

「・・・・・・あの、ファングさんは私のことをどう思っているのですか?」

「何度も言ってるだろ。俺はお前のことを守りたいと『そうではなくて!』・・・・・・?」

「そうではなくて、ファングさんは私を────!?」

「な、なんだ!?」

 

 ティアラが何かを言いかけた瞬間。パーティー会場の照明が落ちた。真っ暗になった会場では招待客が俄にざわつき出す。

 

「えー、皆さん。原因は不明ですが現在このフロア内で停電が発生しています。落ち着いて避難してください。係りの者が誘導します。とにかく今は前の人を押さないでください。そして出来ることならお子さんや女性の方を優先して道を譲ってください」

『こちらが出口です。皆さん、私についてきてください』

 

 暗闇の中からパイガの声が聞こえる。流石にドルファ四天王だけあってこういった非常事態でも冷静だ。普段の逃げ腰も一見情けなく見えるがそれは戦力の確実な見極めが出来ている証拠なのである。しばらくするとライトを片手に持ったドルファの社員と思わしき男が誘導にやって来た。招待客は彼らに皆ついていく。

 

『どうにも嫌な予感がするな。何かがあれば俺だけでは心もとない。さっさとアリンとキョーコと合流するぞ』

「ああ。ティアラ、俺から離れるなよ」

「は、はい」

 

 ティアラはファングの腕に抱きついた。え、と彼は目を大きく見開いた。

 

「おい、離れるなとは言ったけどしがみつけとは言ってねえよ」

「きゅ、急に暗くなったんですよ! こ、怖いじゃないですか・・・・・・!」

「いや、怖いのは分かるんだけどよ。その、なんというか、なあ」

「わ、私を守ってくれるのでしょう?」

「ま、まあ良いけどよ」

 

 ファングは自分の腕に当たる柔らかな感触を紛らわすように頭を掻いた。意外とあるんだな。雑念に囚われそうになった彼は慌てて首を振る。

 

「見つけたで、ダンナ」

「その声はガルドか?」

 

 ティアラを引き連れてファングが暗くなった会場の中をしばらく歩いていると背後からガルドの声が聞こえた。振り向く。暗闇に目が慣れてきたおかげで彼の姿を無事に確認することが出来た。

 

「ああ。ワイだけじゃなくて皆もおるで」

「私のおかげ」

「流石は元暗殺者なだけはある。気配の察知能力だけなら私以上だ」

「くらいとなにもみえなくてあるくのもたいへんだよ」

「皆さん、ご無事でしたか」

「よし、後はアリンと巧たちだけだな」

 

 ファングとティアラは無事に仲間と再会出来たことに笑顔を浮かべる。

 

「それが一概に無事とも言えないんだよね」

「ああ。むしろ状況は私たちが思っている以上に悪い方向に向かっているかもしれない。この停電、何か様子がおかしい」

「は? どういうことだ」

 

 しかし、ハーラーとアポローネスの顔色は優れない。

 

「このフロア一帯になんか魔力を感じるんだよねー。それも飛びっきり良くない感じのヤツ」

「それは本当なのか?」

「うん。ティアラちゃんならもっと正確に分かるんじゃないかな」

 

 ファングは剣士としては優れているが魔法はあまり得意ではない。戦闘に使う魔法以外はからっきしだ。だから魔力を感じ取る力はないに等しい。それは彼に限った話ではなくガルドたちにも言えることだった。だから現状この異変について分かるのはティアラだけだ。視線は自ずと彼女に向けられる。

 

「どうだ、ティアラ」

「・・・・・・私も魔力自体は感知していました。この魔力は妖聖たちのもの。会場にいたフェンサーのパートナー妖聖が発した魔力です。良くない魔力、というのは闇属性固有の禍々しいものでしょう。ですから直接的に関係しているとは思えません」

「うーん、ならただの異変なのかな」

「いや、それはなさそうだ」

 

 アポローネスの視線が窓へと向けられる。外は明るいままだった。つまりこの停電はドルファの中だけで起きていることになる。それは変だ。普通に考えてドルファほどの大企業なら電力は十分に供給されているはず。実際につい最近までドルファにいたアポローネスは予備電力もしっかりと備えていることを知っている。

 

「確かめてやるよ、久しぶりの魔法でな。『バーン』」

 

 ファングは頭上に炎の魔法を放った。これでこの会場で何が起きているか分かるはずだ。彼らの視線が天井に向けられる。いる。何かが。巨大な影が天井で蠢いている。ファングは更に大きな炎を放った。

 

『ゴオォォォォォ!』

 

 ────そこには見るもおぞましい怪物がいた。恐竜をイメージする強靭な肉体。鋭利な皮膚は攻撃しようと近づいた物を確実に貫くだろう。何よりも気味が悪いのはその顔。生物に本来存在するはずの目がなく代わりに顔の周りに白い角が生えていた。常人なら一目で正気を失って卒倒する姿だ。妖聖の名はドォン。強力な力を秘めたAランク妖聖である。彼は天井に張り付き、口から黒い霧を吐き出していた。

 

「なんだこいつ・・・・・・!?」

「セグロより巨大、だと」

「これが本当に妖聖なんか!?」

「珍しいなあ、是非サンプルが欲しい」

「ハーラー、こんな時くらいふざけないで」

「どうやら停電はこの妖聖の仕業のようですわね。あの霧には光を吸収する力があるみたいです」

「ってことは本当は停電なんかしてなかったってことか」

 

 わざわざ人為的に停電を引き起こして何がしたいのだ。まさか妖聖がドルファの株を落としたいということもあるまい。そうだとしても回りくどい。パーティーを台無しにするのが目的なら会場の人々を襲った方が手っ取り早いはず。つまりこれはファングたちを誘導することが目的ということだ。

 

『グオオオオォォォォ!』

 

 その証拠にドォンは自分が見つかったことに気づくと天井から飛び降りた。ドォンの巨体が落下したことによって付近のテーブルが吹き飛び床にヒビが入る。ドォンの吐いていた霧がなくなったことで周囲が明るくなり出す。ティアラの予想通り停電は最初からしていなかったようだ。明るくなったことでドォンの巨体がはっきりと見える。どうやって忍び込んだのだろうか。大型トラック並の大きさの怪物に彼らは冷や汗を流す。

 

「食い物を粗末にすんなや! しばくぞ!」

「貴様の目的はなんだ?」

『グオオオオォォォォ!』

「果林がいれば何を言ってるか、分かったのに」

「あいつの通訳本当に万能だな。・・・・・・来るぞ!」

 

 ファングたちは構える。ドォンは今にも飛びかかりそうだ。

 

「ここは一旦引くぞ! やれ、セグロ!」

『ぐおおおおおお!』

「そうだな。アリンと巧に果林。それにリタが気になる。まずはあいつらと合流しねえとな」

 

 壁を突き破ってセグロが現れた。単体でも並のフェンサーより強力なセグロはドォンと激しい戦いを始める。この隙に逃げるか。ファングたちは出口に向かって駆け出す。

 

「ここから先には行かせませんよ」

 

 だがその行く手を阻む者がいた。金髪に狐の耳を生やしたどことなく果林に似た美女。一目で妖聖と分かる彼女の放った氷によって彼らの進路は塞がれた。これでは逃げることが出来ない。ファングは無言で剣を抜く。だが妖聖は余裕の笑みを浮かべた。

 

「・・・・・・邪魔するなら倒させてもらうぞ」

「倒す、ですか。その程度の甘い覚悟で我々に勝てると思っているとは驚きです。我々はこの世全ての人間を殺すつもりなのですよ」

「我々・・・・・・っ!?」

 

 ファングは背後から強い殺気を感じた。彼は振り向き様に居合斬りを放つ。ファングの斬撃は巨大な斧によって防がれた。────バハスの斧によって。

 

「バハス!?」

「・・・・・・おっさん、何のつもりだ」

「すまんな、ファング。お前さんらとは今日限りだ」

 

 突然のバハスの裏切りにファングは目を鋭くする。ハーラーの困惑の仕方からこの行動は彼の独断で行ったものだということが分かる。だとしたら何の意味がある。妖聖はパートナーのフェンサーがいなければ戦うことが出来ない。そこで戦っているドォンやセグロのように巨大な妖聖ならともかく人型の妖聖に出来るのはせいぜい魔法を使えるくらいだ。モンスターやオルフェノクのような強力な生物には歯が立たない。単体で生きるのが難しい彼らがどうして人間を滅ぼそうとするのか理解出来なかった。

 

「バハスさん、これであなたも自由ですよ」

「ああ、やっとあの地獄の日々から解放されたよ」

 

 バハスはニヤリと笑うと妖聖の隣に並び立った。

 

「なんでさ、バハス。私はそんな話聞いてないよ!? あんたがいなかったら誰が私の部屋の掃除を、洗濯をするんだい! 深夜の研究中に食べる夜食は誰が作るの!? 戻ってきてよ、ねえ! どうして裏切ったんだ!?」

「おい、明らかに裏切りの原因お前じゃねえか」

「ハーラーさん、今すぐバハスさんに謝罪して、そして今日から自立してください」

「えー!? そ、そんなの出来ないよ!」

 

 いや出来るだろ。ファングとティアラが突っ込んだ。

 

「・・・・・・つくづくあなたに同情しますよ」

「同情なんて必要ないさ。なんせオレはもう自由なんだからな」

「それもそうですね」

 

 真に自由を与えるべきはパイガではなくバハスだったのか。ファングは強く後悔した。

 

「ハーラーの目は覚まさせるから戻ってこい、バハス。二人と一匹で俺たちを敵に回したって勝てねえだろ」

「確かにお前さんたちに勝てる訳がないよなあ。二人と一匹なら、な!」

「なに!?」

 

 ファングは目を見張る。気づいたら会場一帯に無数の妖聖が出現していた。どこから出た。考えている暇はない。無数の殺気が彼らに突き刺さる。

 

「っ!? 掴まれ、キョーコ! 避けろ! アポローネス、ガルド!」

「うん!」

「がってん!」

「承知した!」

 

 ファングはティアラとキョーコを、アポローネスはハーラーを、ガルドはエフォールとマリサを抱えると後ろに跳んだ。ファングたちが離れた瞬間、彼らがいたはずの足場に無数の魔法が放たれた。炎。水。風。氷。土。雷。闇。光。ありとあらゆる妖聖の攻撃によって生じたエネルギーの爆風にファングたちは吹き飛ばされる。

 

「わ、わわわっ!」

「ふぁ、ファングさん。この抱え方はちょっと!」

「あまり喋るな。舌噛むぞ!」

 

 ファングにお姫様抱っこをされたティアラは顔を赤くする。だが危機的状況である今、彼はそんなことを気にしている余裕はない。更に腕に力を込められ、彼女は顔を真っ赤にした。

 

「ガルド、すごい! 力持ち!」

「ほんとねー。大きくなったわ〰、ガルドちゃん」

「二人とも緊張感もうちょい持ってくれへんか?」

 

 ピンチだというのに持ち前の天然っぷりを発揮する二人。彼女らを両脇に抱えたガルドは苦笑を浮かべる。

 

「助かったよ、アポローネスくん」

「礼などいらん。それより早く離れてくれ。貴様を手に抱いていると煩悩が刺激される・・・・・・!」

 

 アポローネスはハーラーの柔らかい感触に顔を真っ赤にする。

 

「さて、こっからどうする」

 

 最初の攻撃を回避したファングたちだが危機的状況は変わらない。戦力が圧倒的に少ない。アリンがいなくても戦えるファングはともかくパートナーのいないエフォールとハーラーは戦力外だ。今、この場でまともに戦えるのは四人しかいない。対して相手は妖聖とはいえ二十人近くはいる。このまま挑んでも勝ち目は薄い。なら考えることは一つ。逃げるが勝ちだ。

 

「・・・・・・セグロがぶち破った壁、隙を見てあそこから逃げるぞ」

 

 ファングは小声でティアラたちに言う。彼らは頷く。アリンたちのことも気掛かりだが今は逃走を第一に考えなくてはならない。少なくとも彼らは自分たちよりも安全だろう。アリンはマリアノと、巧と果林、リタは北崎と一緒にいるはずなのだから。

 

『ドォン、そこの穴に誰も通すなよ』

 

 しかし、ファングたちの策は瞬時に見抜かれる。バットオルフェノクによって。命令されたドォンはその巨体でセグロの作った穴を隠した。逃走手段がなくなったことにファングは舌打ちする。

 

「お前は・・・・・・!」

『よう、昨日振りだなあ!』

「ち! やっぱりシャルマンの仕業か!」

 

 シャルマンはオルフェノクだけでなく妖聖とも手を組んでいたのか。予想以上に厄介なことになっている。ドルファと互角とアポローネスは言っていたが既にそれ以上の力を彼らは手に入れていると考えて良いだろう。本当に何があったのか。マリアノに聞きそびれてしまったことをファングは後悔した。

 

『あの相棒はいねえみたいだな、へへへ!』

 

 よりにもよってアリンがいない時にバットオルフェノクと戦うことになるとは。今のファングでは厳しい相手だ。まともに戦えるのは全力のフューリーフォームとなったアポローネスくらいだろう。危機的状況が絶対絶命の状況に変わったことにファングは眉を歪める。一か八か、アリンなしであの姿になるか。

 

「・・・・・・行くで、アポローネスはん」

「それしかあるまい。貴様ら、よく聞け。私とガルドであのデカブツと妖聖を倒して退路を作る。それまで持ちこたえてくれ」

「待て、二人とも『フェアライズ!』────!」

 

 ガルドとアポローネスはフューリーフォームになると無数の敵へと向かっていった。

 

「くそ、あいつら先走りやがって!」

「私たちも行きますよ、ファングさん。『フェアライズ!』」

「エフォール、ハーラー。お前らは隠れてろよ!」

 

 ファングとティアラも敵へと向かう。

 

 

「なんだよ、これ」

 

 巧たちはこのタイミングでドルファ社の前にやってきた。

 

 ◇

 

『ガルルルル!』

 

 聞き覚えのある獣の鳴き声に巧はハッとする。視線を向ければウルフオルフェノクの化身がエフォールを守るようにバットオルフェノクを睨んでいた。

 

『なんだ、この犬っころ!?』

 

 ウルフオルフェノクはバットオルフェノクに飛びかかった。子狼と化したウルフオルフェノクはパワーこそ下がったがその分スピードは格段に上昇している。迎撃しようとバットオルフェノクは弾丸を発射した。だがウルフオルフェノクの小さな体躯に当たることはない。彼はウルフオルフェノクの爪の攻撃に翻弄される。

 

「ワンちゃん・・・・・・!」

 

 ウルフオルフェノクの思わぬ救援にエフォールは目を見開く。

 

「あいつは!?」

「私が喚びました。まだこんなところで諦める訳にはいかない。そうでしょう、巧さん?」

「リタ・・・・・・」

 

 妖聖に囲まれて窮地に陥りながらもリタは笑顔を浮かべる。

 

「・・・・・・ち!」

「おっと、マリアノ様の命令だ。こいつらはやらせはしない」

「君は・・・・・・ザギくん!」

 

 このままでは形成逆転をされてしまう。バハスは小さく舌打ちをするとハーラーに向けて斧の一撃を放つ。その攻撃はザギの剣によって止められた。突然のザギの登場にハーラーは目を見開く。

 

「ザギ!?」

「ファングさんのお知り合いなのですか?」

「マリアノの部下だ。どうしてあいつが・・・・・・?」

 

 遠目でハーラーが救出されるのを見たファングは驚く。出入口は塞がれているはず。どうやって彼がここにこれたのだ。その疑問は直ぐに解決された。突き破られた天井。彼はそこから飛び降りたのだろう。フェンサーではないとはいえ過去の世界で上級オルフェノクと渡り合ったとてつもない身体能力は健在のようだ。

 

「次から次へと・・・・・・。少し厄介なことになりそうですね。今のうちにファングさんだけでも殺しておきましょうか」

「少しじゃないわ」

「かなりよ!」

 

 ファングに飛びかかろうとした妖聖たちをフェアライズしたマリアノの巨大な腕が吹き飛ばした。ザギがいるというなら上司である彼女ももちろんいる。マリアノの肩に乗っていたアリンはファングの元へと飛び降りる。

 

「アリン、それにマリアノ!」

「待たせたわね、ファング! このあたしが来ればもう大丈夫よ!」

「本当に待たせすぎなんだよ! ・・・・・・行くぞ、アリン! 『フェアライズ!』」

 

 ファングは紅炎真紅の戦士に変身した。

 

「アポローネス、ガルド。ちゃんと避けろよ!」

 

 ファングは無数の剣の弾丸を二人を取り囲んでいた妖聖に向けて発射する。アポローネスとガルドはフューリーフォームの力を使って飛翔し、慌てて回避する。二人のように回避出来なかった妖聖は次々剣に貫かれていく。ファングの剣に貫かれた妖聖は元のフューリーへと戻っていく。どういう訳かこの妖聖たちは倒されても死ぬのではなく元の妖聖武器であるフューリーに戻るだけだった。先ほどリタの言っていた妖聖を支配下に置く力とやらと関係しているのだろうか。だとしたらバハスの裏切りもその力の仕業と考えられる。思案するファングの頭にアポローネスの拳骨が振り下ろされた。

 

「いってえ!」

「ふざけるな! 私たちに当たるところだったぞ!」

「せや! 酷いでダンナ!」

「ランチャーじゃないだけありがたく思え!」

 

 アポローネスとガルドはファングに掴みかからん勢いで猛抗議する。温厚なガルドですら青筋を立てている。もしも一発でも当たれば致命傷になるのだから当然だ。というかここが室内じゃなかったら仲間もろともランチャーでぶっ飛ばそうとしたファングに彼らは軽く恐怖した。

 

「これで形成逆転、ね」

「くっ! な、何故あなたたちがここにいる!? 足止めの妖聖やオルフェノクはどこに行ったのですか!?」

「あなたはドルファ四天王を舐めすぎよ。あの程度の有象無象に苦戦する私ではありませんわ」

『嘘ばっかり。パイガに全部押し付けてきたくせによく言うわ』

 

 なるほど。気づかない内に分断されていたのか。どうりでアリンとはぐれる訳だ。敵と同じように足止めを引き受けてくれたパイガには感謝しなくてはならない。ファングは彼に感謝した。

 

「で、まだやるのか?」

 

 ファングは静かに大剣を構える。圧倒的なオーラを放つ彼に妖聖たちとバットオルフェノクはのけ反った。ライオトルーパーだけが無機質に彼を睨み付けている。

 

『くそ、こうなったら奴らだけでも連れていけ。人質に使う!』

「うーん、科学で作られた鎧と私の力は相性が悪いのですよね。どうしようかな・・・・・・」

「は、離してください!」

 

 圧倒的に不利な状況になったことを悟ったバットオルフェノクはライオトルーパーに視線を向ける。ライオトルーパーはリタと果林の腕を掴んだ。何やら思案するリタをよそに果林は抵抗の意志を見せる。

 

「果林、リタ!」

『グルルル!』

『おっと、不用意に近づいたらどうなるか分かってるよなあ?』

「ちっ! どけよ!」

 

 二人を助けに向かおうとしたファングとウルフオルフェノクの前にバットオルフェノクは立つ。

 

「そいつらを離せ!」

 

 巧はライオトルーパーに掴みかかる。だが生身の彼ではライオトルーパーには歯が立たない。一瞬にして振りほどかれた巧はライオトルーパーに突き飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

 巧は直ぐに立ち上がると再びライオトルーパーに向かう。今度は思いっきり殴り飛ばされた。口の中が血の味で一杯になる。それでも彼はまた立ち上がる。もう何かを奪われるのは、失うのはこりごりだ。今の巧に戦う力はない。だがファイズであった時のように、ウルフオルフェノクであった時のように人を守りたいという思いは変わらない。だから巧は立ち上がるのだ。

 

「巧さん、やめてください!」

「大丈夫、だ。おれは、まだあきらめてない」

 

 アクセレイガンの銃口を向けられながらも巧は不敵に笑う。どれだけ絶望的でも決して諦めない。諦めなかった先に未来がある。そう信じているから。だから巧は笑う。彼は静かに目を閉じてこう叫んだ。

 

「俺は絶対に絶望したりしない!」

 

 巧に向けてアクセレイガンの銃撃が発射された。果林は思わず目を閉じる。

 

 ────そうだ、巧! お前に絶望は許されない!

 

『ディフェンド! プリーズ!』

 

 ハイテンションな男性の声に果林は目を開ける。眼前には銃撃によって頭を撃ち抜かれた巧が────いない。彼は何者かが作り上げた炎の壁によって守られていた。妖聖の果林はそれが魔法によって作られた障壁だということが分かる。それもかなり強固なもの。だとしたら誰が魔法を発動したのだろう。ファング一行の中では唯一バリアの魔法が使えるティアラはあまりに距離が離れている。彼女ではない。果林は炎の向こうに巧以外の人影があることに気づく。きっとその人が巧を救ったのだ。果林は謎の青年に感謝した。

 

「────間に合ったみたいだな」

「お前は・・・・・・!?」

「俺? 俺は・・・・・・」

 

 巧は目の前に現れた男に目を見開く。黒いロングコートに茶髪の青年。それは前の世界でティアラを北崎から救ったという男の特徴とぴったりと当てはまっていた。

 

「俺は操真晴人。通りすがりの魔法使いさ」

 

 通りすがりの魔法使い。間違いない。彼は北崎からティアラを救った男だ。巧は確信する。操真晴人。とある世界で指輪の魔法使いと呼ばれた戦士────ウィザード。かつて巧と共にバダンと呼ばれる悪の組織と戦い、そして彼の希望となった仮面ライダーだ。晴人は飄々とした笑みを巧に向けると指輪をその手に装着した。

 

『ドライバーオーン! プリーズ!』

 

 晴人は指輪を構える。赤い宝石の指輪。どこかで見た記憶がある。巧はポケットから天道にもらった指輪を取り出す。同じく赤い宝石の指輪だ。晴人が今もっている指輪と意匠は少し異なるが非常に酷似していた。指輪の名はウィザードリング。操真晴人の希望の力たる魔法を発動するのに必要な魔法の指輪である。晴人が今指に装着したのはフレイムドラゴンウィザードリング。現在巧が手に持っているフレイムウィザードリングの強化形態へと変身するための指輪だ。彼はウィザードドライバーのスイッチを押した。

 

『シャバドゥビダッチヘンシーン! シャバドゥビダッチヘンシーン! シャバドゥビダッチヘンシーン!』

「変身!」

『フレイム・ドラゴン! ボー! ボー! ボーボーボー!』

 

 晴人の身体を炎の龍が貫く。彼は変身を遂げた。赤き炎の龍戦士『仮面ライダーウィザード・フレイムドラゴンスタイル』へと。ウィザードは指輪を見せつけるように構えると高らかに宣言した。

 

「さあ、ショータイムだ!」

 

 




主人公って誰なんだろうと他のライダーを出す時に何時も悩みます。かっこよく書くと主人公交代のお知らせになってしまいますし、薄味で書くとその作品のファンに失礼な気がするしバランスをとるのが本当に難しいです。

という訳でウィザードの再登場です。巧との約束を果たしにきました。それにしても他のライダーと違って魔法使いの彼はファンタジー世界と相性が良いので非常に便利ですね。

そういえば活動報告にこの作品の伏線と一部世界観の裏設定をまとめたので良かったら見て下さい。

次回はいよいよ巧復活となるのでご期待していてください
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