今回は様々なサービスありです。
なんとたっくんとかが水着になります。
「さあ、ショータイムだ」
希望を守る灼熱の龍戦士────ウィザード・フレイムドラゴンスタイル。威風堂々とした彼の登場はこの場にいた全ての者に衝撃を与えた。あのリタですら彼の登場は予想外だったのか大きく目を見開いている。流石に反則的な強さを持ったSランク妖聖も異世界の戦士の存在は把握していなかったのだろう。何でも出来そうだと思っていたがどうやら本当の意味での万能ではないようだ。
「まーた、お前たちか。ほんっとどこの世界にもいるよな」
ウィザードは果林とリタを掴んでいたライオトルーパーを蹴り飛ばす。彼はライオトルーパーの存在を知っているのか鬱陶しげな声を上げる。
「果林、大丈夫か?」
「平気です。って大丈夫じゃないのは巧さんの方ですよ! どうしてあんな無茶したんですか!」
「気づいたら身体が動いてただけだ。それに結果オーライだったろ」
「もう少し過程を重視してください、バカ!」
果林はふらふらとした足取りの巧を支える。彼女にしては珍しく巧に怒っていた。
『なんだ、お前は!?』
「だーかーらー、通りすがりの魔法使いって言っただろ」
『コネクト プリーズ』
「ほら、これがその証拠だ」
ウィザードは見せつけるように空間転移の魔法を発動する。彼のその手に一本の銃剣が握られていた。ウィザーソードガン。遠近両方に対応した万能武器だ。
『・・・・・・ち! なんだっていい! ぶっ殺す!』
バットオルフェノクの弾丸がウィザードに向けて放たれた。鋼鉄すら貫く彼の弾丸が差し迫ってもウィザードは回避行動をとらない。ウィザードは己の得物であるウィザーソードガンに炎の魔力を纏わせると音速を越える弾丸を叩き斬った。驚愕するバットオルフェノクに向けてソードガンの弾丸を放つ。横に転がるようにバットオルフェノクは回避した。しかし、ウィザードの放つ弾丸は避けられる物ではない。彼の魔力によって操作された弾丸は吸い寄せられるようにバットオルフェノクの胸に直撃した。射撃を得意とする自分が負けただと。彼はウィザードの強さに驚愕する。
『グオッ!』
「ふ、俺のが一枚上手みたいだな」
『舐めんなぁー!』
「おっと」
『コピー プリーズ』
バットオルフェノクの鎌をウィザードはバックステップで回避する。彼は銃剣をコピーすると二刀流になる。ウィザードは剣を主体に中国武術とマーシャルアーツを組み込んだ体術、銃撃と魔法を加えたバランスのとれた戦闘スタイルだ。その中でも彼にとって最も得意なのは剣術である。対してバットオルフェノクは狡猾な知略と銃を主体に鎌での接近戦もそつなくなすトリッキーな戦闘スタイル。既に主体の銃撃で負けたバットオルフェノクが接近戦を最も得意とするウィザードに勝てるはずがなかった。彼の攻撃は全てウィザードの剣を前にことごとく受け流され、そしてその度にカウンターの斬撃を食らう。
「あいつ、強い。まるで先生みたいだ」
バットオルフェノクをこうも簡単に圧倒するとは。ファングはウィザードの実力に目を見開く。単純な強さだけならファングとほとんど変わらない。むしろ剣の腕だけならファングのが上だ。だが戦いに関する勘は遥かに彼を上回っている。ファングを苦しめたバットオルフェノクが手玉にとられているのがその証拠だ。どれだけの修羅場を掻い潜って来たのだろう。まるで物語に出てくるヒーロー。ファングの師匠である剣崎一真のようだ。晴人自身の素の戦闘力も優れている。だが、それ以上に培ってきた経験の差がファングとは段違いだ。強者との戦いで後天的に身に付けられた超直感はそう簡単に得られるものではない。それこそ世界の崩壊と戦った剣崎のような経験でもない限り習得は不可能だろう。ウィザードが負ける姿は想像がつかなかった。
「ファイズとは、違う。あいつは、フェンサーなのか・・・・・・?」
「似て非なる物、だと思います。魔力の本質が違う。あの方は身体の中に力の源となる『ナニカ』を宿しているようです」
『ナニカ? あたしたちみたいのってこと?』
「なるほど。さっき彼が変身する時に見せたドラゴンみたいなオーラがそれかな。あの魔法使いくんは私たちで言うところのフューリーフォームを使って戦ってるんだろうね」
言われてみれば晴人の身体をドラゴンが突き抜ける姿はフェンサーの身体をフューリーが貫くのと似ている気がする。ウィザードの力とフェンサーの力は結構近しいものなのかもしれない。最もあんな騒がしい音声はファングたちのフューリーからは流れないのだが。
『いけ! ドォン!』
『グオオオオオオオオ!』
「おっ、すっげ。デカいな」
『ビッグ プリーズ』
『グオッ!』
ウィザードは突進してきたドォンに腕を突き出す。巨大化の魔法を掛けたその腕はドォンの巨体すら軽々と突き飛ばした。そしてその手を更に横に払いドォンの周囲にいた妖聖とライオトルーパーを纏めて薙ぎ払った。
「ワイらが苦戦したあいつらを・・・・・・!」
「こうも簡単に倒すとはな。面白い。一度手合わせを願いたいものだ」
「私も、あれやりたい!」
エフォールはウィザードの扱う魔法に目を輝かした。
「フィナーレだ」
『ルパッチマジックタッチゴー! チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』
「いくぞ、ドラゴン!」
ウィザードの胸から内なる力である『ウィザードラゴン』が顕現した。彼の身体から強大な魔力が溢れ出る。その力は今のファングやドルファ四天王の力にも匹敵するかもしれない。ウィザードは倒れたライオトルーパーや妖聖に向けて必殺の一撃『ドラゴンブレス』を放った。強大な炎の熱線が彼らを飲み込む。これを防ぐ手立ては彼らにはない。ライオトルーパーは無慈悲に灰と化し、妖聖たちはフューリーに戻った。
「ありゃ、一番の大物を倒せなかったか」
ウィザードは巨大な氷の盾によって守られていたドォンに目を丸くする。
「危ない危ない。ここは引きますよ、バットさん。いくらなんでも分が悪すぎます」
『ちっ、しゃーねえな。リターンウィング寄越せ』
「ほらよ。・・・・・・ハーラー、どうしてもオレに戻って来て欲しいなら部屋を掃除しろ。少しは自立するんだな」
「そんなの無理だよ!」
「お前はいい加減一人立ちしろ! こうなったら絶対に帰らんからな!」
『帰られると困るっての。だが真面目に部屋は掃除した方がいいぜ、そこの姉さん』
僅かに残された仲間を引き連れてバットオルフェノクは逃走する。アイテムによる瞬間移動を追うのは困難だ。リタの力を使えば不可能でもないだろうが。ファングたちも疲弊している。これ以上の戦闘は出来そうにない。ここは諦める方が得策だ。敵が消えたことでファングたちやウィザードは変身を解除した。
「ふぃー。・・・・・・って、え? なになに?」
一息吐く晴人の周りにファングたちは集まる。彼には聞きたいことが山ほどあった。どこから来たのか。どうして自分たちを助けてくれたのか。疑問は数えきれないほどある。
「まずは礼を言っとく。助かった、ありがとな」
「礼なんていらないさ。困ってる人がいたら手を差し伸べるのは当たり前のことじゃん」
「それを当たり前と言えるからこそ礼を言うのですよ。それよりも操真晴人。あなたは何者ですか?」
「通りすがりって言ったろ。異世界人ってヤツさ」
(それは分かってる・・・・・・。分からないのはあなたの素性なんですよ)
最初に晴人に疑問を問いかけたのはリタだ。彼女の能力を持ってしても晴人の心の中を覗くことは出来なかった。異世界人、だからという理由ではない。同じく異世界人である巧や北崎の心の中は覗けた。だが晴人だけは心の中を見透すことが出来ない。彼の心の入り口には『門番』でもいるのだろうか。リタが晴人の心の中に入り込もうとすれば必ずナニカに追い出されてしまう。こんなケースは初めてだ。操真晴人、一体何者なのだ。リタはより彼に対する疑問を深めた。
「あなたが異世界人なのは分かりました。ですが、どうやってこの世界にやってきたのですか? 出来ればその方法を教えてくれるとありがたいのですが」
「方法って言ってもな。世界を越えるっていうのはそう簡単に出来るものじゃない。俺たちみたいな力を持った奴らそれが出来るのはごく一握り。世界を破壊しちまう奴とか、時を駆ける列車に乗る奴とか」
世界を破壊、時を駆ける列車? なんだそれは。荒唐無稽な話にファングは怪訝な表情になる。しかし晴人は実際に彼らを見た経験があるので苦笑を浮かべた。しかし、世界を越えるのにそんな力が必要なら巧や北崎、オルフェノクたちはどうやってこの世界にやって来たのだろうか。
「でも、あなたは現にこの世界に来ているじゃないの」
「俺がこの世界に来れたのは巧のおかげだ」
「俺?」
「ああ、巧が呼んだから俺は今ここにいる。・・・・・・ちょっとそれ貸してくれ」
晴人は巧の手に持っていたウィザードリングを受け取る。
「誰だってピンチになれば一度は思うだろ『助けて!』って思うこと。こいつはその願いは聞き届ける鍵みたいなもんだ。誰かが救いを求めるのなら俺たちは必ずやってくる。その力は時に世界ですら越える。君らに預けられたアイテムは記憶を守るためにあるんじゃない。本当の目的は俺たちを呼び出すためのものなのさ」
「こんな小さな道具にそんな力が秘められているの?」
「せやせや。こんなんパット見ただのオモチャにしか見えんわ」
「こら、オモチャって言うな! 良いか、あんたらに預けたのは俺たちに最も縁の深い物だ。それこそ身体の一部と言っても良いくらいのな。このフレイムウィザードリングなんかは本来俺の手の中にあらなければならないものなんだ。ただ繋がりの深い物の方が異世界への道が開きやすいって『士』が言ってたからこいつを預けておいたんだ」
士。その名前は以前もどこかで聞いたことがある。そうだ。同じく異世界からやって来た海東が言っていたはずだ。自分は士に頼まれたからこの世界に来たのだと。どういう訳か知らないが士は巧たちの手助けをしてくれるらしい。きっとあの天道総司も士に頼まれて巧たちにアイテムを託したのだろう。何故自分自身で渡さなかったのかが気になるのだが。何か理由でもあったのだろうか。ファングは疑問に思う。
「そいつも通りすがりってヤツなんだよな」
「ああ。俺たちの中でも珍しい異世界を自由に行き来出来るヤツだ」
自由に行き来出来るというならますます謎だ。
「じゃあ何でこんな手間が掛かることをしてんだ。俺たちを助けたいなら直接士って奴がこの世界に来ても良いんじゃないか? 助けてくれるのはありがたいんだけどよ」
「色々あるんだってよ、色々。本人は俺が来ると面倒なことになるとか何とか言ってたな。『別次元の存在』がナンチャラとか・・・・・・俺も詳しくは知らないんだ。てか、むしろ俺だって知りたいくらいだよ」
疑問を問いかけても晴人は首を捻ってしまう。当事者の一人である彼ですら状況をイマイチ把握出来ていないのなら仕方がない。
「じゃあ、魔法の使い方教えて。私も変身したい」
「うーん、それは難しいなあ。俺の魔法って『ねえ』・・・・・・ん?」
「・・・・・・あなたたち、何時までここにいる気なの? 話したいことがあるのは分かるけどさっさと逃げた方が良いわ。直にドルファの兵士が駆けつける。見つかったら面倒でしょう。後のことは私に任せてさっさとお行きなさい」
確かにドルファの兵士に見つかると面倒なことになりそうだ。これだけの騒ぎになれば無関係と言うのは不可能だ。事態は一刻を争う。取り調べだのなんだので長時間も拘束されるのは御免だ。ここはマリアノの好意に甘えるとしよう。
「ありがとな、マリアノ。この借りはもらえなかった褒美の分でチャラにしてくれ」
「ご褒美は後で必ずあげるから貸しにしとくわ。あなたとしても気になる情報なんでしょう」
「ああ。じゃあ俺に出来ることなら何でもしてやるからシャルマンのこと教えてくれよ」
ファングたちはマリアノとザギに背を向けて会場から抜け出した。
「マリアノ様、これどうしましょうか。社長に何て説明すれば良いんですかね」
「ふふふ・・・・・・。なんでも、ね」
「はい?」
「なんでもないわ」
マリアノはクスリと笑う。ファングは背筋に冷たいものを感じた。
「な、なんだ。今の嫌な感じは」
「流石です、ファングさんも感じ取りましたか。ギャザーの魔力が膨れ上がっていることに。・・・・・・実は北崎さんがピンチなのです。宿に戻る前にそちらへ向かってもよろしいでしょうか?」
あの北崎がピンチだと。ファングは驚愕する。今まで何度も交戦し、時には共闘もしたこともあるが彼が苦戦する姿は見たことがない。ファングの中で一番の強敵は北崎だ。バーナードやアポローネスも苦戦を強いられたが彼らは全力だった。だが北崎はこれまでの戦いで一度も底を見せていない。もしも本格的に敵に回ればあの邪神の力を使わない限りファングですら北崎とは勝負にならないだろう。少なくともファングの見立てではそれくらいの強さがあった。その北崎が劣勢に陥っているのだとしたら相当に危険な敵だ。
「ああ、直ぐに行くぞ」
◇
「バカやなあ。人間を庇いながら戦うなんて。そのまま戦ってたならワイを倒せたかもしれへんのに」
ギャザーは倒れている北崎を見下ろす。既に変身は強制解除され、その身は満身創痍となっている。サイガのベルトはギャザーの手に握られていた。敗北。北崎はギャザーに敗北したのだ。何故彼は敗北したのか。それはギャザーの言う通り人間を庇ったからだ。オルフェノク最強と妖聖最強の戦いは人類にとって次元の違う脅威だった。混乱した人々が逃げ場所を求めて外へ出るとサイガに向けられていたギャザーの攻撃が彼らに向けられた。サイガですらダメージを受ける攻撃だ。ただの人間が喰らえば一溜まりもない。サイガは人々の盾となる。次々と放たれる魔法を迎撃し、時には身体で受け止めた。互角の相手と戦いながらそんな真似をしたらどうなるか。それは今の北崎の姿が証明していた。
「守った人間もあんさんを見捨てて薄情なやっちゃな。あんさんだけじゃなくて人間もバカやな」
サイガとギャザーの戦いは余程の激闘だったのだろう。まるで大災害の跡だ。この地域一帯は廃墟と化していた。こんなところに残っていられる人間なんているはずがない。
「人間を、滅ぼそうとする、君よりは、賢いと思う、けどね」
「言われなくとも分かっとるわ、ワイはアホやで。せやけど人間の方はアホやなくてバカやん」
「何が、言いたいの?」
「かー、アホとバカの違いが分からんのかい。これだから標準語の人間っちゅう奴は嫌いやねん」
「うる、さいなあ。さっさと、説明しな、よ。バカ、妖聖」
「あー、なんやねん! その態度。冥土の土産なしに今すぐあの世に送ったろか?」
生殺与奪を握られているにも関わらず北崎は何時もの笑みを崩さない。今は少しでも時間を稼ぐのだ。オルフェノクになれるまで回復出来る時間を。・・・・・・この男はドラゴンオルフェノク龍人態の存在を知らない。サイガのスピードに驚かされていたギャザーだ。龍人態の高速移動なら余裕で逃げ切れる、だろう。そうでなくてもファングの助けが来る可能性もある。だから今はとにかくこの男との会話を引き延ばし時間を稼がなければならない。
「ってお前考えてんのやろ」
「っ!?」
「はー、あんだけ強いのにまだ切り札があったんかー。ワイやなかったら完全に引っ掛かってたなあ」
ギャザーはニヤリと笑った。北崎は驚愕する。なんとギャザーは彼の心の中を覗き見ていたのだ。リタが出来ることをギャザーが出来ないはずはない。くそ、もっと早く気づいていれば良かった。そうしたら心を閉ざして戦っていたのに。北崎は舌打ちする。龍人態を使うことは出来ない。なら、どうやって逆転すれば良いんだ。彼は必死になって思考を巡らせる。
「悪あがきしても無駄やで。それとも自覚ないんか?」
「自覚? なんのこと。僕は最強だから君なんかに負けるはずがないんだ」
「・・・・・・おもろいわ、お前。だったらここから逆転してみるんやな」
ギャザーの右手に魔力が収束する。とてつもないエネルギーだ。この魔法がどれだけ強力か。魔法のことは詳しく知らない北崎でも理解した。間違いなく死ぬ。直撃すれば彼は塵一つ残すことなく消えることになるだろう。だが北崎はそれでも笑みを崩すことはない。死が目の前に差し掛かっていても彼は諦める気はなかった。
「・・・・・・冥土の土産に教えたる。ワイは心の綺麗な人間だけが生きる世界を作るんや」
「下らないね。心の綺麗な人間なんてこの世にいる訳がないよ。第一それを判断する権利が君にはあるの?」
「今はないで。せやけどワイがこの世界の神になったのなら文句はないやろ」
「なおさら下らないよ、それ。誰かが支配する世界に幸福なんてないんだよ」
それがギャザーの目的なのか。ドルファと考えていることはあまり変わらない。むしろ裁定者がたった一人の妖聖な分ドルファよりもたちが悪い。如何にも傲慢な男がやりそうなことだ。だが一つ気がかりなことがある。綺麗な人間だけが生き残る世界とやらを作りたいのなら何故オルフェノクと手を組むのだろう。目的が同じドルファなら分かるが。オルフェノクの目的は人類を滅ぼして彼らの支配する世界を作ることだ。傲慢ながらもあくまで人類を導こうとするギャザーとは目的がまるで違うではないか。奴らを欺く気なのか。それともオルフェノクの中に同じ目的を持った者でもいるのだろうか。どちらにせよ妖聖とオルフェノクが最終的に全面戦争となるのは間違いない。彼らと組むにはリスクが大きすぎる。そもそもギャザーほどの力があるのなら単独で行動した方が明らかにメリットがあるように思えるが・・・・・・。
「ほなな。躊躇いなく人の盾になるお前は結構いい線いってたで。ワイに喧嘩を売らなければ合格だったわ」
「・・・・・・ごめんね、エミリちゃん」
これまで笑みを崩さなかった北崎は最後の最後に申し訳なさそうな表情を浮かべる。彼に向けてギャザーの魔法が放たれた────。
◇
数日後。
「はあ・・・・・・」
巧は何度目か分からないため息を吐いた。
(俺が北崎に会おうとしたからだ・・・・・・)
もしもあの時北崎と一緒にいなければ彼はギャザーと戦うことはなかった。こんなことにはならなかったのだ。巧はあの時の光景を思い出す。北崎がいたと思われる住宅街は見るも無惨な姿に変貌していた。家も道も公園も何もかも壊れている。そう形容するしかない街の姿に巧たちは呆然とした。北崎とギャザーの戦いはこれほどまでに次元が違ったのか。もし仮に巧が変身出来たとしても足手まといでしかなかった。あの中に割って入れたのはファングくらいだろう。だからこそ巧は北崎に会いにいかなければ良かったと思った。そうすれば北崎は今もこの街で生きていたはずなのだ。もぬけの殻となった壊れた街で巧は強く後悔した。
「ねえ、乾くん。暇ならケーキとか甘いもの買ってきてくんない? 病院食って味気ないからお腹がすくんだよねー」
しかし北崎は生きていた。
「入院中だろ。我慢しろよ」
「えー、ケチだなあ」
絶望的な状況だった。地図から一つの街が消える魔法だ。助かるはずがない。皆が皆北崎のことを諦めていた。しかし彼はこうして生きている。巧たちは気づかなかったが何者かによってギャザーの攻撃から守られ病院に運ばれていたのだ。現在は病室のベッドの上で退屈そうにファングからの差し入れで貰った漫画を読んでいた。
「・・・・・・悪かったな」
「何が?」
「その、俺の下らない悩みなんかのせいでお前は大怪我しちまったろ」
「乾くんが気にすることじゃないよ。負けた僕が弱かっただけださ。むしろ人が助けてあげたのに全然お見舞いに来ないリタちゃんの方が悪いって」
北崎は巧に柔和な笑みを浮かべる。
「でもベルトは・・・・・・」
「大丈夫だって。必ず取り返すからさ。大体ベルトなんて元々奪い合うものだったんだよ? 今に始まったことじゃないって。君なんか何度奪われたか分からないくらい盗られてるんだよ。一回くらいでそんな重く考える必要はないよ」
巧が本来いた世界ではベルトの争奪戦は日常的に行われていた。時には巧が、時にはオルフェノクがその力を手にする。オルフェノクなら誰でも変身の出来るファイズの力は同時に誰のものでもないということの証明だ。デルタの力を巡っては人間すらその血みどろの争いに加わった。だから今回のことは北崎とってはさして大きな事件ではない。ベルトの力に飽きて他人に明け渡す暴挙にまで及んでいた北崎からすれば奪われたベルトの一つや二つまた取り返せば良いという思考に至るのは当然のことである。
「・・・・・・お前は記憶があった頃の俺を知ってるんだよな?」
「敵としてならね。知りたい?」
「頼む」
「乾くんはね────」
「ありがとうな、北崎」
「別にお礼なんていらないよ」
巧は病室の戸に手を掛ける。北崎から語られた過去の自分のことを知った彼は少しだけ目の前が明るくなった気がした。
「おっと」
「ん? すまないな」
巧が扉を開くより先に誰かが扉を開いた。巧は僅かにのけ反る。誰が入ってくるのだろう。少し待っていると白衣を着た老齢の男性が病室の中に入ってきた。
「調子はどうだ?」
「まあ悪くはないかな。今すぐにでもここから脱走したいくらいには気分が良いよ」
「ははは、あまりヤンチャはするんじゃない。そんなことをしたら女を泣かせるぞ」
「うーん、それは困るな。だったらさっさと退院許可を出してよね」
男性は北崎と随分親しいようだ。目上の人間に敬語を使わない彼とも笑顔で会話をしている。巧は何故か男性のことが気になった。もしかしたら街の何処かであったのかもしれない。不思議と彼の存在が引っ掛かった。
「あの、俺と何処かで会いましたか?」
「いや、初対面だが。見覚えでも?」
男性は首を振る。やはり自分の気のせいだったのだろうか。それにしては既視感のようなものを感じたのだが。リタのように心を読めたら真実が分かるののだが無い物ねだりをしても仕方がない。こういう時はファングのようにスパッと諦めよう。向こうが知らないというのなら知らないのだ。そう自分に言い聞かせて巧はもう一度扉に手を掛けた。・・・・・・なんとなく二人の会話が気になる。巧はじっとその場で彼らの様子を窺う。
「あー、本当に外に出たい。パイガくんをからかいたいしマリアノさんの孤児院に行きたいしエミリちゃんに会いたい。それとパイガくんをからかいたいよー!」
「からかいすぎだ。そんなに外に出たいなら外出許可を出してやる。好きなところに行け」
「やった! 何処に行こうかなあ?」
「どうせならあの娘を連れて『海』にでも行ったらどうだ? 海は良いぞ。楽しいことも苦しいことも、悩みだって。全てを受け止めてくれるんだ」
「・・・・・・」
海は全てを受け止めてくれる、か。本当にそうなら山ほど悩みを抱えた今の自分のことも受け止めてくれるかもしれない。
「良いね、海。エミリちゃんが水着を着たら可愛いんだろうなあ。でもアポローネスくんが許してくれないから無理だね。第一海に行くには砂漠を南に越えないと行けないからすぐには帰って来れないよ」
「確かにこの地方は陸地が続いているからな。残念だ。本当に海は良いものなんだがなあ」
「『瞬間移動』でも出来たら話しは別なんだけどねえ」
「・・・・・・!」
巧は目を見開くと病室から出ていった。
「・・・・・・上手くいったか?」
「多分ね。乾くんって結構人の忠告とか気にするタイプだから。行くと思うよ、海」
「そうか、なら良いんだがな」
「そんなに気になるなら『敬介』さんが聞いてあげれば良いじゃない。何か悩みはないのかって」
「俺が導いたところであいつの為にならないだろう。奴はオルフェノクで、そして人なんだ。人を守るために人を捨て、カイゾーグとなった俺とは違う。答えは自分で見つけるべきだ」
男性────『神敬介』は過去のことを思い出す。今の巧のように苦悩を抱えていたあの日のことを。自分を勇気づけるために父が自爆したあの日のことを。
────人間でない苦しみに耐え抜いてそれを誇れる男になれ!
敬介はカイゾーグとなった苦悩を父に打ち明けた。だが彼はお前に苦悩している暇はないと言い、誇りを持てと叫んだ。そしてお前に泣きつく場所があってはならないと父は自爆した。あの時だ。敬介が人々を守る誇り高きカイゾーグとなったのは。今思えばいくら自分を勇気づけるためとは言え自爆をした父は少しおかしかったのかもしれない。でも確かにこの心に宿った正義と勇気の心は父の偏屈だが深海よりも深き愛によって刻まれたのだ。敬介は過去を思い出すとフッと笑った。自分はそれでライダーになったがあれを巧には絶対にやれない。いや、あのような経験をもう一度しろと言われたら自分でも無理だ。彼は父の破天荒っぷりに苦笑を浮かべた。
「敬介さんの時代って凄かったんだね。僕もビックリしたよ。栄光って言われるだけあるね」
「俺からしたらお前たちの時代のが過酷に見えるよ。本郷さんから聞いたが今のライダーは幽霊らしい」
「僕も乾くんも幽霊みたいなものだけどね」
「あまり縁起でもないことを言うなよ。・・・・・・それよりも北崎。本当の調子はどうなんだ? 相当無理をしたようだが・・・・・・」
「うーん、大丈夫って言いたいんだけど」
北崎は自分の手のひらを見つめる。
「ちょっと大丈夫じゃなさそうだね」
────その手から灰が零れていた。
◇
「海に行きたい、だって?」
向日葵荘に戻った巧はさっそくファングたちに病院でのことを話した。
「この忙しい時に何言ってるのよ。今はあんたの力とバハスのことで一杯いっぱいでしょ」
「別に海に行くなら全部終わってからでも良いだろ。それともなんか今すぐ行きたい理由でもあるのか?」
「そうです。そもそも今はお腹が少し気になるので泳げませんわ。・・・・・・あ。い、いえ。け、決して遊びたいという訳ではないのですけど」
やはり事態が事態なだけに普段なら喜んで賛成しそうなファングも首を振る。
「それは、そうなんだけどよ」
今がそんなことをしている場合ではないのは分かっている。でも今でないと巧にとっては意味がないのだ。悩んでいる今でないと。しかし、ファングは彼がオルフェノクであること、人間に戻ってしまったことを知らない。北崎の言った通り自由に生きようにも次から次へと起きる急転直下の異変に自由なんてなくしてしまった。何をどうすれば良いのか悩んでいることを知らないのだ。巧が困っていると好物のプレーンシュガーを食べていた晴人が助け船を出した。巧が海に行きたいと言うのならきっと『彼』もこの世界に来たのだろう。なら自分もその手伝いをしてやろうではないか。
「行くか行かないかで悩むなら行けよ。行かないで後悔するよりは行って後悔した方が気分も良いぞ。それにほら。皆色々あって最近神経を張り詰める毎日だしたまにはリフレッシュしとけよ」
「だけどなあ・・・・・・」
「私も、海行きたい!」
『ワン!』
「エフォール、ちゃんと口を拭きなさい。ほら、顔をこっちに向けて」
「ん」
口の周りにプレーンシュガーの砂糖を付けたエフォールも海に目を輝かした 。彼女の腕に抱かれたウルフオルフェノクもエフォールに同意するように前足を上げる。すっかりと飼い犬が板についたな。もう一人の自分とも言えるウルフオルフェノクの可愛らしくも野生を捨てた姿に巧は悲しい気持ちになる。いつの間にやら首輪まで付いていた。果林が道具屋で買ってきたらしい。はて、彼女はウルフオルフェノクが巧の半身と知っていたはずだが。どうして首輪など付けたのだろうか。謎だ。
『日帰りなら良いのではないか? どのみち我らにギャザーを探す手立てはない。ロロの情報を待つしか我々に出来ることはないのだ』
『のんきかもしれないけどこういうときこそふつうのせいかつをおくろうよ。いざってときにちからをはっきできないよりそっちのがいいって』
「そう言われればそうなんだけどよ。そのギャザーって奴がまたこの街に現れたら止められるのは俺たちしかいねえだろ」
それがファングが海に行きたがらない理由だ。
「リタ、ファングたちを海に連れてってくれないか。俺が残ってこの街は守るからさ」
「ふむ。それが巧さんの悩みの解決に繋がるのなら構いません。不安の種であるギャザーの狙いもおそらく私の力です。この地から離れるのは悪くない考えですね。彼の計画は私がいなければ達成出来ないはずですから・・・・・・」
ここはあえて危ない橋を渡った方が良いかもしれない。ギャザーは何を企んでいるのか分からない。ならば何かが起きるよりも早く先手を打つ。巧を復活させるのだ。彼がまた戦えるようになればギャザーも打ち砕ける。リタはそう確信していた。
「分かりました。私の力で皆さんを海に連れていきます。ああ、それと晴人さんも一緒に来てください。万が一にもギャザーが襲撃してきたらあなたの力が必要になりますから」
「でも俺まで離れちゃって大丈夫か?」
「ええ。街を守る人ならきちんといますから」
リタは天井を見上げた。
『『磨穿鉄硯』作『アポローネス』』
『『摩頂放腫』作『ガルド』』
『『磨斧作針』作『マリサ』』
ハーラーの部屋の扉に立て掛けられた三つの掛け軸はそう書かれていた。磨穿鉄硯(ませんてっけん)。物事を達成するまで変えないこと。摩頂放腫(まちょうほうしゅ)。人のために自分を犠牲にしてでも尽くすこと。磨斧作針(まふさくしん)。諦めず努力をすれば目標は必ず達成出来るということ。ガルドとアポローネスの故郷の言葉である。彼らはバハスを取り戻すためにゴミ屋敷同然となったハーラーの部屋を掃除していた。
「ハーラーはん、最後に掃除したのいつなん?」
「うーん一ヶ月前にバハスがやってくれたよ」
「こ、これでい、一ヶ月だと? い、一年前の間違えではないのか」
一月でここまで部屋を汚せる人間がいるのか。壁に生えたキノコや見たこともない奇妙な形をした虫がいる部屋など潔癖性の人間なら卒倒するだろう。これを一ヶ月でどうやって作り上げたというのだ。明らかにモンスターではないか。ある意味ではオルフェノクより恐ろしい女だ。裏切る理由も分かる気がする。脱ぎ散らかされた下着を見つけたアポローネスは顔を歪めた。
「ねえ、こんなことするよりバハスの洗脳を解いた方が早くない?」
「いや、普通なら部屋の掃除した方が早いはずなんやけどな」
「さっさと手を進めろ。少しは反省して掃除をするんだ。今回のバハスの裏切りは自分への戒めと思うんだな」
リタから聞いた話しだがギャザーの能力は妖聖の抱える不満を増幅させるものと彼の強大な魔力を妖聖に与えるものらしい。魔力を与えられた妖聖はフェンサーがいなくとも単独で行動出来るようになるようだ。バハスの言った通りなら彼女の部屋がキレイになれば彼は戻ってくるはずだ。
「ハーラーちゃん、部屋はキレイにしないとメっ! よ。虫が沸いちゃうし、身体の健康にも良くないのよ」
「だいじょーぶ大丈夫。私、こう見えて生まれてから一度も風邪を引いたことないんだ」
「それは貴様を見ていれば分かる」
バカは風邪をひかない。頭が良くてもこれほどまでに汚れた部屋で暮らせるハーラーは間違いなくバカであった。
『きゃああああ!』
『うわああああ! なんやこのゴキブリぃぃぃぃぃ!?』
『草履よりもでかいぞ!!!???』
『あー、実験中だった妖聖用の成長促進剤を食べちゃったのかな?』
リタにつられて天井を見上げたファングたちの耳にガルドたちの大きな悲鳴が聞こえた。思わず彼らは身を竦める。助けに行った方が良いのだろう。だが絶対に近づきたくなかった。
「ということでこの街の防衛はハーラーさんの部屋を掃除しているアポローネスさんとガルドくんに任せましょう」
・・・・・・鬼だ。笑顔で三人を見捨てるリタを前にファングたちの心が重なった。
◇
海は本当に綺麗だった。透き通って珊瑚礁が見えるエメラルドグリーンの水面を眺めていると吸い寄せられてしまいそうな気分になる。敬介の言っていた通りだ。海は全てを受け止めてくれる。オルフェノクであることに悩んでいた巧を、人間であるのか悩んでいた巧を優しく包み込んでくれる。彼は穏やかな笑みを浮かべると砂浜に腰を下ろした。
「どうだ、悩みは解決出来たか?」
その隣に晴人が腰を下ろす。
「いや、まだだ。・・・・・・でも、なんか悩みとかどうでも良くなっちまった」
「なんか分かるな。俺も海は結構気に入ってんだ。色々あってある女の子との願いを叶えるために穏やかな場所を探していたことがあってさ。何度か色んな海に行ったんだけどその度に不思議な気持ちになったよ」
「ああ、本当に海ってのは良い場所だな」
巧と晴人は後ろに倒れ込んだ。風が心地よい。このまま寝てしまいたい気分だ。
「・・・・・・で、お前は一体何に悩んでいるんだ?」
だが眠ってしまえばここに来た意味がない。晴人が半身を起こした。自分自身に決着をつけなければならない。そろそろウダウダと悩むのにも飽きてきた頃だ。ここで悩むのは終わりにしよう。
「俺は自分が何なのか分からないんだ。人間なのか、オルフェノクなのか。出来ないんだ。俺が俺を、乾巧をオルフェノクって認めることが。認めたら本当に奴らみたいな怪物になっちまう気がして・・・・・・」
「オルフェノクであることが怖いんだな」
「なあ、俺はどうすれば良い?」
「・・・・・・これから俺が言うのはあくまでアドバイス。それを聞いてどうするかはお前自身が決めるんだ。だから俺と同じ選択はしなくて良い。俺は俺で。巧は巧なんだからな」
笑顔を浮かべる晴人に巧は少しほっとする。何かと他人に影響されて自分を苦しめる節のある巧にとって自分自身で何をどうするか選択して良いと言ってくれるのは本当にありがたかった。晴人はライダーの中では珍しく一般的な優しさを持ち合わせている人間なのだと巧は思う。これまでも仮面ライダーという存在は何度か見てきた。草加雅人に木場勇治、天道総司。彼らは常人とは違った何かを持っているイメージがある。常人と違わなければヒーローなんてやってられないのだから仕方がないのだけど。ファングたちにもその雰囲気はあった。その違う何かのせいで巧はこの悩みをファングたちに言い出せなかった。それに対して晴人は近所の優しいお兄さんがそのままヒーローをやっているようなイメージだ。だから親しみやすく自然と悩みを打ち明けられる。
「・・・・・・俺たちの力は悪と同じ物なんだ。クロス・オブ・ファイア。炎の十字架を背負った者たち。それが仮面ライダーだ」
「悪と、同じだと・・・・・・!?」
「ああ、だからお前が怪物になっちまうって思ってるのは間違いじゃない。オルフェノクの力こそがファイズの、ライダーの力なんだからな」
「ファイズの力、まで」
巧は目の前が真っ暗になった気がした。これまで行ってきた全てのことが台無しになってしまう。絶望的な表情を浮かべる巧に晴人は首を振った。話はまだ終わりではない。
「でもさ、悪と同じ力だからそのまま悪って訳ではないんだよ。正義や悪はそんな単純なもんじゃない。結局は使い方次第なんだと俺は思う」
「使い方次第?」
「例え仮面ライダーの力が悪と同じであっても、俺は信じる。人は自分の力で正義の味方に、光にだってなれるんだ」
晴人は自分の胸に手を置いた。その奥にいる『彼女』の笑顔が彼の脳裏に浮かぶ。自分も闇に落ちそうになったことは何度もある。でもその度に彼女と共に乗り越えてきた。今でも無限の希望を手に入れたあの日のことを、全ての希望を心の奥底の彼女に託した時のことを忘れることはない。
「俺は絶望を希望に変えた。そしてなったんだ。希望の魔法使いに、仮面ライダーに」
だから晴人は今ここにいる。希望の魔法使いとして、仮面ライダーとして希望と絶望のその瀬戸際にいる巧に光の象徴として助言を託しているのだ。彼は真っ暗になっていた巧の心を照らし上げた。
「絶望を希望に・・・・・・か。あんたすげえよ」
巧は晴人がとても眩しく見えた。自分の何歩も先に行っている気がする。
「これでも結構必死なんだぜ、俺も」
晴人は苦笑を浮かべた。
「なあ、晴人。俺はお前みたいになれるか?」
「さっきも言ったろ、これはアドバイスだって。お前はお前にしかなれないんだ。俺の真似をしたって意味がない。俺は魔法使いで、お前はオルフェノク。このまま人間として生きるか。オルフェノクとしてどう生きれば良いかの答えは自分で出すんだよ」
答え、か。晴人のおかげで巧の心は明るくなった。だが答えという道はまだ不透明なままだった。・・・・・・リタの言ったようにオルフェノクとしての自分をしっかりと見た方が良いのかもしれない。
『ワンっ!』
「うおっ!」
巧がそう思った瞬間、ウルフオルフェノクが彼の腹に飛び乗った。
「ははは、本当に犬みたいだな。そうだ、こいつにもどう生きれば良いのか聞いてみたらどうだ?」
「本当に犬みたいだったら喋れないだろ」
『ワンワンワンっ!』
巧がウルフオルフェノクを抱き上げる。こうして見ると本当にただの犬のように見える。しかし、つい先日にエフォールを守るために勇ましく戦っていた姿を彼はこの目で見た。実際はオルフェノクとしての力は子狼になっても健在なのだ。
「・・・・・・エフォールを守ってくれてありがとうな」
『わうっ?』
巧はウルフオルフェノクの頭を撫でた。人間となった今の彼には戦う力がない。本来なら巧がエフォールのために戦うところを代わりにウルフオルフェノクが戦ってくれた。彼がいなければエフォールはバットオルフェノクに斬られていただろう。本当にウルフオルフェノクには感謝しなければならない。
「エフォールちゃんを守った、か。もしかしたらそれがオルフェノクとしてのお前が出した答えなのかもな」
「えっ?」
「本当にそいつがただのオルフェノクなら人を守ったりするか?」
「あ・・・・・・!」
巧は不透明になっていた道が開けた気がした。そうだ。このウルフオルフェノクが本能に忠実な存在だとすればそれは・・・・・・。
「ワンちゃん、一人で先に行っちゃダメ」
「そうですよー。迷子になったらどうするんですかー?」
目を見開いた巧の背後からエフォールと果林の声が聞こえた。そういえば着替えると言ってさっき更衣室に行っていたな。巧と晴人は振り向く。
「あ、巧と晴人だ」
「お二人は水着に着替えないんですか?」
そこには水着姿の二人がいた。エフォールは黒いすくみずを果林は白いすくみずに身を包んでいる。なんともマニアックな水着だ。
「後で着替えとく」
(・・・・・・えっ? え、何でスク水!?)
さらっと流す巧に対して晴人はとても動揺していた。普通は海水浴にスクール水着を着てくる人間なんていない。それは学校で着るものであって校外で着ていけば非常に目立つものだからだ。今みたいに男女で海水浴に来た場合は男には侮蔑の、女には好色の視線を浴びることになる。少なくとも彼の世界ではそれが常識だ。
「どうです? 巧さん、似合ってますか? エフォールとお揃いなんですよー!」
「あ、ああ。わ、悪くないと思うぞ」
「えへへ!」
(マジか。巧ってそういう趣味があったのかよ・・・・・・)
照れた顔で果林の水着を誉める巧に晴人は驚愕する。無愛想で猫舌に更にスク水大好き属性まで加わるのか。いくらなんでもマニアックすぎる。晴人は巧にドン引きした。念のため彼の名誉に掛けて否定しておくが巧は別にスク水が大好きな訳ではない。ただ単に元の世界の記憶がないのでこの世界の価値観で判断しているだけだ。そうでなければ流石に突っ込んでいる。まあ実際この世界でもマニアックな方ではあるのだけど。
「私も、似合ってる?」
「ああ。似合ってんじゃないか」
「・・・・・・こっちは別に違和感ないか。似合ってると思うぞ」
少し子どもっぽい雰囲気のあるエフォールはすくみずが似合っていた。これには晴人も微笑ましい雰囲気を感じ笑顔を浮かべる。
「じゃあ、これでファングも悩殺出来る?」
「いや、それはちょっと」
「ええ、出来ますよ。ファングさんは意外とエフォールの好感度が高いんです。こんな可愛いエフォールを見たら悩殺間違いなしですよ」
「出来んの!?」
スク水を好きな奴多すぎだろ。晴人はまた驚愕した。
「じゃあ、私もファングのとこに行く」
「ええ、ご武運を祈りますよ」
「あ、エフォール! ちょっと待て!」
『ガルーダ』
ファングを探しに行こうとしたエフォール。彼女の肩に赤色の小さな鳥が乗った。レッドガルーダ。晴人の魔法で作られた使い魔だ。
「そいつがいればピンチになった時に助けてくれるぞ」
「ありがとう、晴人。ガルちゃん、行こっ!」
エフォールは一足先にファングの元へ向かった。
「よし、俺たちも着替えて行くか」
「それなら任せとけ」
『ドレスアップ プリーズ』
「・・・・・・つくづくお前の魔法って便利だよな」
一瞬で水着姿になった自分の姿と晴人を見て巧は目を丸くする。
「これでも他の魔法使いよりは使える魔法が少ないんだぞ」
「他にも魔法使いがいるのか?」
「四人な。一人だけちょっと違うけどな」
四人か。晴人の世界は魔法使いが当たり前にいるのだと思っていたがそうではないようだ。まあどうやら顔見知りであるらしい自分が魔法を使えないのだからそれも当然か。
「さて俺たちも行くか」
「ええ。きっと修羅場になっているファングさんをからかいましょう」
「あいつも色々と大変だな。・・・・・・あ、エフォールちゃんから電話だ。先に行っといてくれ」
「分かった」
『ワンっ!』
「あ、また勝手に。ダメですよ、イヌイちゃん」
晴人は携帯を手に取る。魔法使いでも携帯を使うのか。意外と現代的な彼の連絡手段に巧と果林はクスリと笑うとファングの元へと走るウルフオルフェノクを追いかける。余談だが果林はウルフオルフェノクが巧の半身だと知ってからイヌイちゃんと呼ぶようになっていた。
『晴人、大変!』
「どうしたんだ、エフォールちゃん?」
『急いでこっちに来て! お願い!』
「・・・・・・落ち着いて。何があったんだ」
危機迫った様子のエフォールに晴人は顔色を変える。嫌な予感がする。戦士としての彼の直感がそう告げていた。
『ギャザーが、それと巧の変身したヤツが襲ってきたの。今ファングとティアラが戦ってる・・・・・・!』
「なんだって!? 」
晴人は携帯を閉じると巧たちに視線を向ける。襲撃だ。急いでこのことを伝えなくては。
「妖聖、それとライオトルーパー!? くっ、こっちもか!?」
『フレイム ヒー! ヒー! ヒーヒーヒー!』
襲撃はこちらにもやって来ていた。どこから現れたのか。眼鏡を掛けた炎の妖聖とライオトルーパーが巧たちを囲んでいた。妖聖は彼らに手を向ける。魔法を放つ気か。助けなくては。だが彼らは走っていたウルフオルフェノクを追いかけていた。晴人とはかなり距離が離れている。彼はウィザードに変身するとマシンウィンガーを召喚した。間に合うか。
「果林、俺から離れるなよ・・・・・・!」
「た、巧さん。無理をしないでください、ここは魔法を使える私が戦いますから」
「氷の魔法でどうやって戦うんだよ。心配すんな。俺がお前を絶対に守る。命に代えてもな」
「で、でも」
「人間と妖聖の種族を越えた愛か。素晴らしいな。だが貴様らはギャザーの作る世界にはいらない。ここで死んでもらうよ」
彼らに向けて妖聖は魔法を放つ。巧は果林を守るように抱き締めた。激しい爆発が巻き起こる。
「巧ー! 果林ちゃんー!」
視界を覆い尽くす砂塵を前にウィザードは思わず叫ぶ。間に合わなかったか。仮面の下で晴人は歯ぎしりをした。しばらくすると砂塵が晴れる。ウィザードは変わり果てた二人の姿を想像し項垂れた。
『ガルルル』
「ウルフオルフェノク・・・・・・!?」
だが巧と果林は無傷だ。ウルフオルフェノクが身を盾にして魔法の攻撃から二人を守っていた。
「やっぱり、助けてくれたか・・・・・・!」
「イヌイちゃん!」
『ワン!』
巧はウルフオルフェノクに笑顔を浮かべる。
「・・・・・・今までずっと否定してきてごめんな。お前は俺と同じで誰かを守るために力を使っていたのに」
巧は昼間、北崎に言われたことを思い出す。
────乾くんはね、何時だって何かを守るために戦ってたんだ。人間もオルフェノクも関係なくただ守りたいもののためにファイズの力を使ってたんだ。
やっと分かった。自分は人間であってもオルフェノクであっても変わらないということに。巧はこれまで何度もオルフェノクを倒してきた。人々を襲うオルフェノクを倒すことで自分は彼らと違い人間なのだと安心するために。その一心で戦っていた。
でも実際は違ったのだ。オルフェノクを倒していたのは人間であろうとするためではなかった。オルフェノクとしての本能が実体化された巧の半身であるウルフオルフェノク。彼はエフォールを、果林を守った。もし巧が思うようにウルフオルフェノクが人を殺すただの怪物だったら、彼女らを守るだろうか。
オルフェノクになったから人を殺すのではない。強大な力を手に入れたのにそれを使うことが出来ない苛立ち。抑圧された心が自由を求めた結果人を殺すようになるのだ。巧はオルフェノクになっても誰かを襲ったことはない。火事の中でオルフェノクになって一人の女の子を救ったその日からずっと巧の心は満たされていたのだ。だからリタの言った通り人間としての巧も、オルフェノクとしての巧も何も変わることはない。彼はウルフオルフェノクの頭を抱いた。
「く、何をする気だ!?」
妖聖は巧に向けて魔法を放とうとした。
「させねえよ」
「っ! なんだ、お前は!? 邪魔をするな!」
「黙って見てろよ。これから巧のショータイムが始まるんだぜ」
「やれ、お前ら!」
攻撃をしようとする妖聖をウィザードは蹴り飛ばした。これから巧はなるのだ。人間でも、オルフェノクでもない新たな存在に。悪の力を持ちながらも、悪として生まれながらも人々を守るために戦う戦士に、仮面ライダーになるのだ。ウィザードは巧の前に立つ。妖聖だろうとライオトルーパーだろうと邪神だろうとここは通す気はない。なにせ晴人は巧の希望なのだから。ウィザードは向かってくる敵を前に武器を構える。せっかくの彼のショータイムだ。邪魔は誰にもさせない。
「なあ、お前」
『ワン?』
巧はウルフオルフェノクの目をじっと見つめる。彼の目は澄んでいて、まるでこのキレイな海のようだ。海は全てを受け止めてくれると敬介は言っていた。なら、海のように優しき目をしたウルフオルフェノクも巧の全てを受け止めてくれるのだろうか。
「頼む。俺に皆を守る力をくれ」
────ああ! お前のためならこの命、刃と化そう!
ウルフオルフェノクは力強く頷くと光となって巧と一体化した。彼は立ち上がると力一杯叫んだ。
「人間とか、オルフェノクじゃない! 俺は俺なんだ! 『変身!』」
巧はウルフオルフェノクに変身した。それは以前までのウルフオルフェノクではなかった。本来ならオルフェノクは灰一色であるはずだ。だが今の巧が変身したウルフオルフェノクは灰一色ではない。灰色の身体の至る所にファイズのような紅いラインが入ったまったく新しい姿になっていた。進化。強大な力を持ちながらも溺れることなく人を守ろうとする巧の強い意思がウルフオルフェノクを進化させた。言うならば『ウルフオルフェノク・激情態』だ。
『・・・・・・俺はもう迷わない。迷っている間に誰かが傷つけられるなら・・・・・・怪物になってでも俺は戦ってやる!』
ウルフオルフェノクは視線を横に向けた。果林が穏やかな表情で自分を見つめている。
『なあ、果林』
「なんですか、巧さん?」
『俺は今、どんな姿に見える』
「ふふ、怪物になんて見えません。巧さんは巧さんですよ♪」
『・・・・・・行ってくる』
微笑む果林の頭をウルフオルフェノクは撫でると一気に駆け出す。ウィザードと鍔迫り合いになっていたライオトルーパーに彼は飛び蹴りを放った。あまりの威力だったのかその一撃だけでライオトルーパーは爆散する。相当なパワーアップだ。今のウルフオルフェノクの強さはドラゴンオルフェノクに匹敵するかもしれない。溢れ出る力を巧は実感した。
「へえ、かっこいいじゃん」
『お前も悪くはねえぞ』
「そこはかっこいいって言えよ」
軽口を叩きながらも二人はライオトルーパーを倒していく。今の彼らを止められる存在はここにはいない。あっという間にライオトルーパーはその数を減らす。気づけば数えるほどしか彼らは残っていない。ウルフオルフェノクとウィザードは肩を並べた。
『一気に決めるぞ』
「ああ・・・・・・フィナーレだ」
『チョーイイネ! キックストライク! サイコー!』
ウルフオルフェノクはその足に青い炎を、ウィザードは赤い炎を纏うと妖聖とライオトルーパーズに向けて駆け出す。ウルフオルフェノクとウィザードの必殺のキックが彼らに炸裂した。
「そ、そんな。ぼ、ボクは自由に、なる、んだ」
『誰かの自由を奪おうとするヤツに得られる自由なんてねえんだよ』
妖聖はフューリーと化した。自由を求める彼にも抑圧された何かがあったのだろうか。
「やりましたね! 巧さん!」
「ああ。ありがとな、果林」
「お礼なんていりませんよ。かっこよかったです、巧さん!」
果林は巧に駆け寄ると勢いよく抱きついた。満面の笑みを浮かべる彼女の頭を巧はもう一度撫でた。果林が妖聖に襲われそうになった時、巧は彼女を守りたいと思った。何の力もない人間としての巧が、だ。そしてウルフオルフェノクも果林を守った。彼女を守りたいという想いが一致したことで巧は人間とオルフェノクが変わらないことに気づけた。そしてどれだけ姿が変わっても果林は巧を巧と言ってくれる。それが巧にはとても嬉しかった。だから彼女には本当に感謝している。
「・・・・・・あー、果林。そろそろ離れてくれ」
「ダメ、ですか」
「ダメとかじゃなくてお前の格好が、だな」
「え? あっ・・・・・・!? ひいやあああ!? た、巧さん、ごめんなさい!」
果林は自分たちが水着であることに気づいた。これではほとんど裸同然で抱き合っているではないか。そう自覚した瞬間、彼女は顔を真っ赤にして巧から離れた。なんてことをしてしまったのだろう。嫌われたらどうしよう。離れても巧と触れあった感触は残っていた。果林は胸がドギドキと高鳴っていくのを感じる。彼女は恥ずかしさのあまり顔を両手で隠した。
「お取り込み中悪いんだが。ファングたちを助けに行かないとさ」
「あ、ああ。わ、分かってる」
「え、ええ。い、 今すぐ行きましょう」
巧と果林の距離はまだまだ遠そうだな。すっかりと顔を合わすことが出来なくなった二人に晴人は苦笑を浮かべた。
ようやく巧の復活です。でもまだファイズにはなりません。何故なら次に彼がファイズになる時はブラスターになる時だからです。ということでウルフオルフェノク激情態登場です。ウルフオルフェノクの化身とこの激情態の元ネタは駈斗戦士仮面ライダーズのグレイヴォルグからとりました。このグレイヴォルグに気づけた人は相当なライダーマニアです。
次回も多数の衝撃展開があるのでご期待ください。
なんとファングとかが水着になります。