乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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久しぶりに一週間以内に投稿出来ました。

夏が終わった方が早くなるなんて不思議な感覚ですね。自分でも驚いてます。


なくした光

────翌日。

 

「・・・・・・これはどういうことだ?」

 

 食堂。何時もは賑やかであるその空間を重い沈黙が支配していた。誰もが悲痛な面持ちで口を結ぶ中、アポローネスがゆっくりと口を開く。悲しみによるものか、怒りによるものか。その声は僅かに震えていた。彼は閉じていた目を開くとテーブルに置かれた物を静かに見つめる。

 

────真っ二つになったファングの剣。

 

 大地に潜っていたために無事だった琥珀色のウィザードから届けられたそれは残されたアポローネスたちに衝撃を与えた。折れたフューリー。それが意味する物はフェンサーにとってあまりに大きい。

 

 フェンサーと妖聖は一心同体だ。妖聖の力で変幻自在に形を変える万能武器フューリー。このフューリーは壊れても実は修復することが出来る。あくまでフューリーは妖聖の魂をいれるための器でしかない。莫大な費用と合成という技術が必要になるが器を直すだけなら不可能ではないのだ。

 

 だがこのフューリーからはアリンの魂を感じることが出来ない。ファングの剣は色褪せて妖聖とのリンクが絶たれていた。それはアリンの魂が消えたことの証明である。フェンサーが死ねば妖聖の魂も消滅する。それはつまり・・・・・・。

 

 ファングとアリンの死。目の前にある残酷な現実を前にアポローネスは思わず拳を震わせる。彼だけではない。ガルドも同じく拳を震わせていた。

 

「ファングさんは私たちを助けてくれたんです」

 

 俯いて無言を貫くリタ。泣いているエフォール。腕を組んで何かを思案する晴人。そしてここにはいない巧とティアラ。彼らの代わりに果林が答えた。

 

「ファングさんはギャザーの自爆から街の人たちを、私たちを助けるために『果林はん、無理しなくてええ』・・・・・・すいません」

「果林はんはエフォールはんを支えてくれや」

 

 ファングは死んだ。あの場にいなかったために殆んど状況を掴めていない果林にその事実を言わせるのは酷である。ガルドは彼女の肩を優しく叩く。果林は彼に内心で感謝すると隣で泣いているエフォールを抱きしめた。

 

「リタ、貴様は何故ファングを見殺しにした」

 

 アポローネスの鷹のように鋭い目がリタを睨む。彼女はびくりと震える。

 

「アポローネスはん、その言い方はいくらなんでも・・・・・・」

「黙れ、事実だ。瞬間移動を使えばファングは死ななくても済んでいたのではないか。そうでなくとも貴様には他にも数多くの能力がある。それを使えばファングは死なずに済んだはずだ。何故やらなかった」

 

 ギャザーの自爆から逃れるために瞬間移動を使うのはおかしくはない。離脱するのに最適な能力だ。一瞬で移動出来るのだから。それは逆に考えれば彼という爆弾を人のいない無人島なりなんなりに飛ばすことも出来たということ。ファングを救う手立てはあったのだ。何故それをしなかったのだろう。アポローネスの疑問は至極当然のモノだ。

 

 状況が状況なだけにティアラたちがそれに気づけないのは仕方がない。だが冷静な判断を下せるはずのリタ、己の能力を知り尽くしているはずの彼女がそれをしないのは不自然だ。ファングを殺したかったとしか思えない。アポローネスはリタに不信感を抱いていた。

 

「何を言っても言い訳にしかなりません」

「ダメだ、答えろ」

「・・・・・・ギャザーはファングさんを撒き餌にして私ごと殺すつもりだったと思われます。すぐに自爆しなかったのはきっと私の様子を窺っていたからです。それに仮に人気のない場所に飛ぶことが出来ても無駄だったでしょう。私の出来ることはギャザーの出来ること。何処へ行っても彼は地の果てまで私を追っていたはずです。最悪の場合、街中で自爆をされた可能性すらあります」

 

 ファングのためだけに多くの人を犠牲にする選択は出来ない。最善を尽くした結果だ。だから見殺しにした訳ではない。リタの言い訳は言い分としてはまともに筋が通っていた。

 

「・・・・・・こうなったのは貴様が元凶ということか」

「っ!」

「アポローネスはん!」

 

 ガルドがテーブルを叩いた。ファングが死んで怒っているとしても言って良いことと悪いことがある。期間は短いとはいえ仲間であるリタを元凶と呼ぶ。それはここにいる全員の抱えた怒りや悲しみを彼女に押し付ける行為である。

 

 ガルドだってファングの死は悲しい。それでも仲間や街の人を守ろうとした彼の選択を尊重したい。その守った仲間の一人であるリタを非難の的にすることなんてあってはならないのだ。ガルドは彼女を庇うように前に立つ。アポローネスはふんと鼻を鳴らすと彼を睨む。

 

「ガルド、お前は疑問に思わんのか。この女は隠していることがあまりに多い」

「それは・・・・・・」

「何故ギャザーやオルフェノクは襲ってくるのか。リタ、貴様は本当は知っているのではないか。心を読む能力があっただろう。分かっているのなら何故それを説明しない。理由があるなら言え。・・・・・・はっきり言って私は貴様を敵として見ている。返答次第では貴様を斬る!」

「何しとるんや、アポローネスはん!?」

 

 アポローネスが剣を抜く。このままでは不味い。ガルドも鎌に手を掛けた。

 

「何やってんだ! アポローネス、ガルド! 今は争っている場合じゃないだろ!」

 

 武器を構えたアポローネスとガルド。今にも一戦交えそうな二人を食堂に入ってきた巧が慌てて止める。

 

「す、すまんな。巧はん」

「乾。貴様、何処へ行っていた?」

「買い出しだよ。傷薬とか必要な物を用意してたんだ」

 

 巧は袋一杯に詰め込まれた道具を見せる。どれもこれも戦闘中や探索中に必要不可欠のものだ。ここ最近は忙しく回復アイテムなどは消耗に消耗を重ねていた。底を尽きそうになった貯蓄を補充するために彼は買い物に出掛けていた。

 

「こんな時に買い出し、だと? 貴様は何を考えている」

 

 アポローネスはピクリと眉を動かす。仲間が死んだのに呑気に何をやっている。彼は怒気を込めて立ち上がると巧の肩を掴んだ。

 

「こんな時だからこそだ」

 

 アポローネスを無理やり椅子に座らせると巧は言った。

 

「ファングがいない今、誰がこの街を守る?」

「乾・・・・・・?」

「俺たちしかいないだろ!」

 

 巧は叫ぶ。皆の視線が彼に向いた。普段は無愛想な巧が声を荒げている。何処かぼんやりとしていた彼らは彼の大声に目を見開く。

 

 ドルファは北崎の負傷によって大きく弱体化している。オルフェノク一派とドルファ、拮抗していたパワーバランスは一夜にして崩壊した。もしこのまま都市ゼルウィンズがシャルマンやギャザーに攻め込まれればあっという間に壊滅状態に追い込まれるだろう。

 

 ギャザーは恐らく生きている。考えなしに自爆したとは思えない。そうなると圧倒的な力を持ったギャザーに対抗出来るのは彼と同じ力を持っているリタと切り札を使った晴人しかいない。街を守れるのは自分たちしかいないのだ。ファングの死に悲しんでいた彼らの意識が僅かだが切り替わる。

 

「あのバカと約束した。あいつが戻ってくるまで俺はお前らを任されてるんだ。仲間割れなんてすんじゃねえよ。俺がファングに笑われちまうだろ」

「巧はん・・・・・・」

 

 巧は自分のことを棚に上げて己を責めるファングの姿を想像して苦笑を浮かべた。まるでファングが本気で生きていると信じているようだ。ありえない。ファングは死んだ。彼に誰かがそれを告げようとした時、晴人が口を開いた。

 

「────まだ絶望するには早すぎるだろ」

 

 巧がファングとの約束を守ったのだ。自分も彼らと交わした約束を果たそう。最後の希望になるという約束を。今まさに絶望に直面している彼らの心を希望に変える。晴人は目を閉じて己の胸に手を置く。彼女が微笑み頷いた気がした。

 

「そうだよ、皆。まだ絶望するには早いさ。考えてもみなよ。アリンちゃんは女神の一部だ。そう簡単に死ぬはずがないよ。剣が折れたから咄嗟にファングくんがフェアリンクを解除したんだ。そうじゃないとブレイズくんやキョーコちゃんがいない説明がつかない」

 

 悲痛な表情を笑顔に変えてハーラーが立ち上がった。研究者である彼女は他の面々に比べると客観的に物事を見ている。だからブレイズとキョーコがいないことに違和感を感じた。ファングは他にもフューリーを持っている。アリンのフューリーが残っているなら彼らのフューリーも残っているはずだ。

 

 ハーラーに言われて彼らはハッとする。もしかしたらファングは生きているかもしれない。彼らに小さな希望が芽生える。晴人はそれを見逃さない。芽生えた希望を皆に届けるのだ。彼は一人一人に問いかけていく。

 

「アポローネス、ファングがギャザーに殺されたりすると思うか?」

「ふ、我が好敵手があの程度の相手に遅れをとる訳がないだろう。奴は私が斬る」

 

 怒りに満ちていた表情を好戦的な笑みに変えてアポローネスが立ち上がる。自分に勝った男がSランク妖聖にそう簡単に遅れをとったりはしない。自爆程度の攻撃に命を落としたりするはずがない。

 

「ねえ、エフォールちゃん。ファングはこんなところで死ぬ男なのかな?」

「・・・・・・違う。ファングは私の帰る場所になるって約束した。私が殺すまで絶対に死なないって約束した。だから絶対に生きているもん」

「そうだ、ファングは生きている」

 

 エフォールは涙を拭って立ち上がる。彼女はファングの元に必ず生きて帰ると約束した。エフォールの帰る場所である彼が消えたりするはずがない。だってファングが勝手に死んだら彼を殺す約束が守れないじゃないか。エフォールはファングが生きていることを確信した。

 

「ガルド、お前は俺が希望を届ける必要なんてないな」

「せやな。ワイはダンナも巧はんも信じとる。ダンナが帰ってくるって巧はんが言うならそれを信じるだけや」

 

 既に立ち上がっていたガルドはニッと晴人に笑う。本来こうやって絶望的な空気を壊すのはムードメーカーの彼の役目である。ファングと同じだ。少しでも希望が見えればそれに縋ってみる。ガルドとはそういう男だ。

 

「なあ、少しは信じる気になったか? ファングは生きているって」

 

 巧が問いかけると彼らは皆頷く。その顔は先ほどまでの悲痛な表情が嘘のように晴れやかなものになっていた。

 

「ありがとな、晴人」

「礼なんていらないさ。・・・・・・それよりお前の出番、もしかして奪っちゃったか?」

「そんなキャラじゃねえよ。こうやってこいつらを纏めるのだって本来俺の役目じゃない。頼まれなかったらやってねえよ」

「そうか? 『俺たちしかいないだろ!』って言ってたお前は結構カッコ良かったぞ」

 

 他人から言われるとなんだか恥ずかしい。巧は気恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

「皆さん、お待たせしました」

 

 暫くするとティアラが帰宅した。

 

「ティアラさん、その格好は・・・・・・?」

 

 果林は目を見開く。ティアラは普段の黒色のフリルドレスとは正反対の真っ白なフリルドレスに着替えていた。スカイフリル。エフォールに新しい服を買った時に雑貨屋でそれを見かけていた果林はティアラが外に出掛けていた理由に気づく。この服を新調しに行っていたのだ。しかし、どうしてこのタイミングで。彼女は首を傾げる。

 

「何時までも暗い気持ちになっていたらいけませんので。服装から明るくなってみようと思いまして。似合ってますか?」

「ティアラ、可愛い」

「悪くねえんじゃないか」

「やっぱりティアラはんはべっぴんさんや。ダンナが見たら惚れるで!」

「そ、そんな。惚れるだなんて・・・・・・!」

 

 服を変えたのは効果覿面のようだ。辛気臭い雰囲気が嘘のように明るいものになる。

 

「リタさん、私たちはファングさんが生きていることを信じています。だからあなたの選択を咎める気はありませんわ」

「ティアラさん・・・・・・」

「アポローネスもそれで良いだろ」

「・・・・・・やむを得ん。今は戦力は多い方がいいだろうからな」

 

 これで一件落着だ。巧は俯いたリタの顔を覗き込む。

 

「・・・・・・俺たちはギャザーを、シャルマンを何とかして止めないといけないんだ」

「リタさん。あなたの知る限りの情報を教えてください。私たちはあなたを信じます。だから教えてください。・・・・・・私の言っていることが嘘じゃないって分かりますわね」

「・・・・・・はい」

 

 こうなったら全てを話すしかない。リタはゆっくりと顔を上げた。

 

「ギャザーの目的は女神様を復活させること。女神様の力でありとあらゆる悪人を滅ぼす気なのです」

 

 ◇

 

 闇が迫っている。今の彼にそれから逃れる術はない。何時もなら引っ張ってくれる彼女が彼の手から離れた。彼を闇から守ってくれる光は遠く遠くに離れてしまったのだ。彼は闇に飲み込まれてしまう。深く、深く沈んでいく。闇の中に沈んでいく。

 

 それでも不思議と闇に恐怖心はなかった。むしろ心地のよい気分だ。彼は静かに闇へ身を委ねる。この闇は恐れるものではない。闇は彼女だ。彼にとって誰よりも守りたい彼女なのだ。大切な彼女と一緒になれるのなら闇になるのも悪くはない。

 

 彼は彼女の姿を確認するために目を開いた。

 

────そっちに行ったら危ないぞ

 

 彼の目の前に緑色が広がる。ジョーカーアンデット。緑の生き物。闇に溺れていたファングに彼は手を差し伸べる。先生。小さく呟くとファングはジョーカーアンデットに手を伸ばす。溺れていた彼をジョーカーアンデットは優しく引きずり上げた。

 

 

 

 

「────先生!?」

「お、目が覚めたかの。ファング」

 

 ファングの目の前に緑色が広がる。ピピン。緑の生き物。目が覚めたら目の前に彼の笑顔が差し迫っていた。このまま少しでもファングが動けば彼はピピンと接吻することになるだろう。彼は悲鳴を上げる。

 

「うわあああああああ!? 緑の生き物だあああああ!?」

「ぐふっ!?」

 

 ファングはピピンを蹴り飛ばした。勢いの乗ったキックに彼は思いっきりぶっ飛ばされる。涙の軌跡を描きながら宙を舞う姿はある種の芸術的な何かを感じる。数秒経ってファングはハッとした。あ、これピピンだ。彼は蹴ってからそれがモンスターではなくピピンであることに気づいた。

 

「お、おい。だ、大丈夫か、ピピン」

「な、なんのこれしき。若者が拳で語り合おうと言うならそれに正面から向き合うのが我輩のような大人というものよ」

「気が動転してたんだ。語り合う気はねえよ」

 

 ピクピクと蠢くピピンをファングは起こした。

 

「我輩が日没から日の出まで眠らず看病したというのに。その恩を蹴りで返すとはな。我輩がどれだけお主を心配したのか分かっておるのか」

「わ、わりいな。ありがとよ」

 

 一晩中付きっきりで看病してくれたのか。ファングはピピンに頭を下げる。どうりで服がピピン柄のTシャツになっている訳だ。ていうか着替えさせられたということはピピンに自分の裸を見られたのか。ファングは何とも言えない気持ちになる。

 

「感謝ならお主を救った店主に言うのだな」

「店主?」

「我輩の昔馴染みだ。各地にいるオルフェノクどもを成敗するために今はここを拠点にさせてもらっている。この店の店主が打ち上げられていたお主をこの店まで運んだのだ。下にいるから挨拶をしてくると良い。ブレイズ殿とキョーコ殿もおるぞ」

 

 見ず知らずの他人を助けるなんて心の優しい店主がいるものだ。それも明らかに訳ありとしか思えないファングたちを。ピピンに言われた通りきちんと礼を言わなくてはならないな。ファングは部屋から出ると突き当たりの階段を降りる。

 

「ほら、リボンが巻けたぞ」

「ありがとー、おにーちゃん」

「ははは、似合っているよ」

 

 一階は写真館になっているようだ。階段から降りるとフィルムやら写真やらカメラやらがところ狭しと敷き詰められた店内が目に入る。

 

 少しカビ臭いニオイのするその店内にキョーコはいた。ファングと同年代の青年に彼女はリボンを結んでもらっている。彼が店主だろうか。関係ないが二十歳を越えた男が笑顔で小さな女の子のリボンを結ぶ姿は何となく絵面が少し犯罪染みて見える。

 

「あ、ファングだ」

「・・・・・・目を覚ましたようだな」

 

 青年はファングの姿を確認すると彼に無愛想な顔を向けた。あの笑顔よりはどちらかというとこちらが素に見える。少し巧に似た雰囲気のある男だ。

 

「あんたが助けてくれたのか?」

「ああ。たまたま海の写真を撮ろうと遠出をしたら倒れてるお前を見つけた」

「ありがとな」

「別に構わん。目の前で死なれたら目覚めが悪くなるから助けてやっただけだ」

 

 笑顔で頭を下げるファングにそっぽを向いて青年は答えた。少し口悪いが照れ隠しで言っていることがすぐに分かる。あれこれと理由をつけながらも人を助ける。それが彼の人柄なのだろう。ますます巧に似ている。

 

「それよりももう起きて大丈夫なのか? 俺がお前を見つけた時は頭から血を流していたが」

「怪我?」

「ああ、頭がぱっくりと割れていたはずだぞ」

 

 ファングは頭に触れる。特に痛みは感じない。傷があるようにも思えなかった。ピピンが回復魔法でも使ったのだろうか。既に完治しているようだ。

 

「いや、もう大丈夫みたいだ」

「治っているのなら良い。この家には医者の居候もいるから後で診てもらえ」

「おう、サンキュー。・・・・・・医者の居候ってあんたの人望はなんなんだ?」

「ピピンが連れてきただけだ。俺の人望ではない」

「いやピピンと知り合いな時点で人望の厚さが既にやべえよ」

「そうなのか?」

 

 人外の知り合いがいる人間なんてそうそういるものではない。不思議そうな顔を浮かべる青年にファングは少し呆れた。オルフェノクと妖聖に囲まれている男が言っても説得力がないのだけど。

 

「ファング、ほんとにぶじでよかったよー」

「心配かけて悪かったな、キョーコ」

 

 嬉しそうに抱きついたキョーコにファングは微笑む。丸一日眠り続けるなんて随分と心配をかけたものだ。彼は優しくキョーコの頭を撫でた。

 

「ふ、良い一枚が撮れた」

 

 青年はクスリと笑うとその二人をカメラに収めた。

 

「若い頃を思い出したのかの? 少し遠い目をしておるぞ、店主殿」

「さあな。俺はまだまだ若いぞ、気分的にはな」

「かっかっか。幾つになっても若い心は失わんか! うぬ、我輩もお主に負けぬように若き心を持ち続けるぞ!」

 

 そもそもお前は何歳なんだ。年齢どころか何もかもが不詳のピピンに青年は怪訝な表情を浮かべる。

 

 

 

「大変ですよ、皆さん!」

 

 和やかな空気を打ち破るように店のドアが力任せに開けられた。慌ただしく入ってきたソウジとブレイズに彼らは驚く。何か事件でもあったのか。普段は落ち着いている二人が血相を変えていた。

 

「ソウジ、ブレイズ殿。何があった?」

「オルフェノクが街で暴れている!」

「な、なんと!? ついにこの街にも被害が!?」

 

 ピピンは顔色を変えた。とんでもないことだ。これまでもゼルウィンズ地方各地でオルフェノクは密かに活動していた。ライオトルーパーという巨大な戦力を持った彼らは数々の小さな街や村を襲撃していたのだ。より多くの戦力を得るために。

 

 誰よりも早く過去に戻っていたピピンは真っ先にその異変に気づいた。人々を滅ぼそうと画策するオルフェノクは支配を企むドルファよりも凶悪だ。強い正義感を持った彼は一人でも多くの人を守るために戦うことを決めた。ファングたちの知らぬところで彼らとの戦いに一人身を置くことを決意したのだ。

 

 その過程でピピンは神敬介と出会ったのだがそれはまた別の機会に話そう。

 

 とにかくピピンや敬介の活躍によってオルフェノクは少しずつ数を減らし、弱体化しつつあった。にも関わらずドルファというゼルウィンズで最も戦力が揃っている総本山に勝負を仕掛けるなんて予想外だ。こちらも弱体化してると言っても北崎とアポローネスの喪失以外はあくまで健在だ。自棄になったのか、それとも勝てる勝算でもあるのか。どちらにせよ非常事態というのは間違いない。ピピンはソウジと視線を交わすと頷く。

 

「店主殿、我輩はオルフェノクを倒しに出かける。罪のない人々を傷つける輩を見逃す訳にはいかんのだ!」

「ああ、必ず生きて戻ってこい。お前の武勇伝で酒でも飲み交わそうじゃないか」

「うむ! 良い酒を用意しておけ!」

 

 ピピンは青年にサムズアップをすると店から飛び出していった。

 

「・・・・・・俺たちも行くぞ!」

「ダメだ」

 

 ピピンに続いて店から出ようとしたファングをブレイズが止めた。

 

「ブレイズ、どうしてだよ!?」

「病み上がりに無茶をさせる訳にはいかん」

「何言ってんだよ!? オルフェノクは街で暴れてるんだぞ! 俺たちが行かなかったら何人の人が犠牲になると思ってるんだ!?」

「きみがいってもいみがないんだよ」

「キョーコ、お前も何を言って・・・・・・!?」

 

 そこでファングは気づいた。二人が今まで見たこともないような悲痛の表情を浮かべていることに。そして目覚めてから一度もアリンの姿を確認していないことに。彼は背中から嫌な汗が流れるのを感じる。

 

「おい、まさか・・・・・・」

「ファング、今のお前には戦う力はない」

「ファングはもうフェンサーじゃないんだよ。さんにんでたびしてるころにもどっちゃったんだ」

 

 ファングは今すぐこの耳を引きちぎってしまいたい衝動に駈られる。聞かなければファングはその事実を知らなくて済む。知らなければそれが事実にならないで済む。そんな気がしたからだ。

 

「ファング、いいか? よく聞くんだ────」

 

 それでもファングは現実から目を反らしてはいけない。ブレイズたちだって辛い。彼らだけにその悲しみを背負わせてはいけないのだ。ファングには聞かなくてはいけない義務がある。例えその先にどんな悲劇があろうとも。ファングはブレイズの顔を見る。彼は小さく息を吸って言った。

 

 

 

「────アリンはもうこの世にいない」

 

 ああ、やっぱり聞かなければ良かった。ファングは後悔した。

 

 ◇

 

「女神様は眠りに就く前、私たちのような特別な力を与えられた妖聖をこの世に残しました。アリンさんのように己の力を与えた妖聖。私とギャザーのように女神や邪神を復活し、また封印させる力を与えた妖聖。そのSランク妖聖を封印し、人類を見守るために命を与えられた妖聖たちがいました。その一人がエルモです」

「その名前は確か、エフォールの友人の?」

「エルモ・・・・・・!?」

 

 エルモ、という名にエフォールが反応した。彼女にとってその名は馴染みが深い。彼女が果林と出会う前に友人だった妖聖だ。ちょうどファングでいうところのブレイズやキョーコのような関係にあった妖聖。それがエルモだ。何故ここで彼女の名が出るのだろう。エフォールは困惑した。

 

「知り合い、だったのですか。・・・・・・私たちはかつてエルモと共に旅をしていた。彼女は少年のような活発さを持った可愛らしい少女の妖聖でした」

「うん。エルモ、男の子みたいだった」

「エルモは人を愛していた。美しいところも醜きところも全て合わせて人は素晴らしいと、慈愛に満ちた心で人類を見守っていました。そんな人類に献身的な愛を持った彼女にギャザーは恋をした。それからというもの彼は毎日毎日、エルモに愛していると囁いていました。彼女も鬱陶しがっていましたが満更でもなかったようです」

 

 エルモは善人も悪人も全て引っくるめて人そのものを愛していたのか。中々にとんでもない妖聖だ。例え同じ人間であろうと全ての人類を愛せる者など普通はいない。それが出来るのは究極の善人か、あるいは異常な狂人か。そう簡単に不変の人類愛は身に付けられるものではない。そういう意味では彼女もまた別次元の存在と言えるだろう。女神に人類の監視を頼まれただけはある。

 

「妖聖同士の恋愛なんてロマンチックですわ」

「女はそういうの好きだな。・・・・・・でも、ちょっと待って。ギャザーの目的が見えてこないぞ。ヤツは何がしたいんだ?」

「そうだ。普通なら一緒に見守るんじゃないかな?」

 

 晴人の言う通りだ。何故ギャザーはこの世全ての悪を滅ぼすなんて極端な思考になったのだろうか。エルモのために、と彼は言っていた。人そのものを愛している彼女にとって悪人ですら滅ぼす行為は心を傷つけることになるだろう。ギャザーはエルモに恋をしているはずだ。そんなことをする理由がない。

 

 まさか好きな女の子につい嫌がらせをしたくなる、なんて下らない動機でもあるまい。

 

「巧さんも操真さんも少し待ってください。エルモの残した最後の言葉を聞けば分かりますよ。でも、覚悟して聞いてくださいね。これはとても悲しく、そして恐ろしいことです。エフォールは耳を塞いでいた方が良いですよ」

「ちゃんと聞く。エルモがどうなったのか、私は知らないといけない。友達だから・・・・・・!」

「本当に後悔しないでくださいよ。・・・・・・『もう嫌だよ! 全部終わらして! お願い、お願いだよ! 壊して! 壊して! 全部壊して! いやあああああああ!!』」

 

 リタの声が別人のように変わる。これがエルモの声なのか。巧たちは目を見開く。悲哀。憎悪。嫌悪。失望。恐怖。空虚。ありとあらゆる少女の絶望が込められた声。リタの口から放たれた言葉は闇そのものだ。あまりに生々しい闇に空気が凍りつく。

 

 信じられない。これが人類を愛していた者の紡ぐ言葉なのか。彼らは顔色を真っ青にした。特にエルモを知っているエフォールの様子は酷いものでガタガタと震えている。無理もない。様々な人々の絶望を救ってきた晴人ですら顔色が少し悪くなっている。この中で一番幼い彼女がそうなるのは仕方のないことだ。果林は自分も強い恐怖を感じながらも彼女を抱き締めた。

 

「私やギャザーが眠りに就いている間にエルモは人の悪意によって壊された。それもつい最近のこと。眠りから覚めた彼は手遅れになった彼女から最後に出された言葉の通り全てを壊そうと決意しました。これがギャザーがこの世全ての悪を滅ぼそうとする理由です。彼女の心を壊した巨悪への復讐。それが彼の目的なのです」

「エルモちゃんの心はどうして壊れたんだい?」

「それは────」

 

 ハーラーがリタに問いかける。これ以上聞かせたら不味い。エフォールたちの心まで壊れてしまう。巧はガルドと視線を合わせる。巧は果林の耳を、ガルドはエフォールの耳を塞いだ。

 

「────拷問でも性的暴行でも食人でも構いません。あなた方がイメージする狂った人間が起こす行動を想像してみてください。今想像したことの全てがエルモに行われたことです」

 

 彼らの背筋がぞわりと冷たくなる。

 

「そんな、そんなバカなことがあってたまるか!」

「なんて、なんて残酷なことを・・・・・・!?」

 

 晴人とティアラが声を荒げる。 二人は嫌になるほど狂った人間を知っている。警察と協力関係にあった晴人や特殊な出生を辿ったティアラは狂人というものを何度も見てきた。怪人が人を殺すことすら生易しく見えるほどの凶行。それらを一人の少女にやったというのか。彼らは理不尽な悪意に腕を強く震わせる。

 

「自分の好きな女の子にそんなことをされたのなら、ギャザーくんが邪神や悪人を根絶したいって気持ちもわからなくもないかな」

「せやかて、それはいくらなんでも極端やろ。そもそもダンナも北崎も悪人とちゃうやん。何で殺そうとしたんや。・・・・・・自分の基準で善悪決めるならエゴやで、そんなん」

「でもさあ。私だって大切な人が同じことをされたらギャザーくんと同じことをすると思うよ。そんな状況になったら邪魔する人は皆悪人に見えるって、きっと」

「私だってガルドちゃんを虐める人は許せないわ。もしもガルドちゃんが同じことをされたらきっとギャザーちゃんみたいになっちゃうわ」

「私たちは他人事だからこうやってヤツを否定出来るのだ。当事者になったら同じ道を辿ることになるだろう」

 

 知らない方が良かったのかもしれない。ギャザーの、エルモの壮絶な過去に彼らは苦々しい気持ちになる。愛する者がいればきっと誰しも彼になりうる可能性があるのだ。それを咎める権利が果たして自分たちにあるのだろうか。何とも言えない空気が流れる。誰もが俯いて考え込んでしまう。

 

「俺も大切な人を生き返らせようとするためにたくさんの人を犠牲にしようとしたヤツを見たことがある。そいつもギャザーと同じなのかもな」

 

 晴人はギャザーのように愛する者のために狂ってしまった男を知っている。彼との戦いは自分にとっても壮絶なものだった。あの男の選択は確かに間違っていた。でもあれはあったかもしれない晴人の姿なのだ。彼もまた愛する者への未練から一度彼女を悪の魔法使いとして蘇らせたことがある。

 

 戦いにくい。彼らの気持ちが痛いほど分かる晴人はそう思った。悪人になってしまった善人より単純な悪人の方がよっぽど戦いやすかった。

 

「・・・・・・俺だってギャザーと同じだ」

「巧・・・・・・?」

 

 巧は静かに顔を上げる。彼は苦い表情を浮かべていた。その巧の様子に晴人は心当たりがあった。彼はバダンとの戦いを思い出す。死者への未練を持っていた平成ライダーの中でも巧はその未練が一際大きかった。仲間を生き返らせようと一度裏切るほどに。まさかギャザーに共感してしまったのか。晴人は嫌な予感を覚える。

 

「俺だって大切な人が死んだら後悔する。きっとその人への想いが強ければ強いほどにその後悔は大きくなると思う。ひょっとしたらギャザーみたいにとんでもないことをしでかしちまうかもしれない」

「乾さんはギャザーさんに味方するのですか?」

 

 ティアラの疑問に巧は首を振る。どんな理由があっても巧は人を滅ぼすことだけは絶対にしない。例え悪人であろうとも。憎むべきは罪であって人ではない。元いた世界から巧は基本的には人間の起こした行動にはなるべく口を出さないスタンスでいる。

 

「お前らは俺が死んじまった人のために間違ったことをしようとしたらどうする?」

「止めますよ。巧さんが間違ったことをしようとするのなら私は止めます。私は誰かを傷つけるような巧さんは見たくありません」

「ワイもや。巧はんが誰かを傷つけるようなことをするならワイが全力で止めたる。仲間がそんなことするのを見過ごす訳にはいかんわ」

 

 巧は満足そうに頷く。自分がもしも過ちを犯しても彼らが止めてくれる。そう分かっただけで彼はとても安心した。

 

「エルモってヤツだってきっとギャザーが人を傷つけることなんて望んでいないはずだ。だから俺はあいつを止めるぞ」

 

 巧には止めてくれる仲間がいる。だがギャザーにはいない。彼の仲間は同じように人間に裏切られた妖聖と人間を滅ぼそうとするオルフェノクしかいない。ギャザーの協力者しかいないのだ。

 

 彼らの行動が本当に間違っているのか。それを決める権利は巧たちにはない。裏切られた妖聖は気の毒で復讐したくなる気持ちは分かる。オルフェノクだってそうだ。寿命が短く数の少ない彼らは自分たちが人間を滅ぼさなければ己が滅びる運命にある。一見すると悪にしか見えない彼らにも少なからず正当性はあるのだ。

 

 それでも巧は彼らを止めなくてはならない。間違ってると言われても構わない。悩んでいる間に誰かが傷つくくらいなら彼は戦う。例えそれが罪だったとしても。巧は罪を背負う覚悟はとっくに出来ていた。

 

「私も一緒に戦います。人間を愛したエルモさんのために人間を傷つけるなんて悲しすぎますわ」

「ワイも戦ったるわ。人間は確かに間違うこともある。取り返しがつかないことをする時だってある。でも誰にだってやり直すチャンスはあるんや。可能性すら与えず滅ぼすなんてワイは絶対に認めないわ」

「私も、戦う。エルモは友達だもん。エルモの好きな人が間違ったことをしてるなら友達の私が代わりに止める」

「私だって戦うさ。バハスにまだ私は謝ってないんだ。汚れた部屋を掃除して分かったけど私はずっとあいつに甘えていた。もう一度パートナーになってもらうために私は戦う」

「私は目付け役だ。貴様らが戦うというのならそれについていくだけだ」

「俺も戦うよ。俺だってギャザーと同じような絶望を味わったことがある。だから世界に復讐しようとするヤツの気持ちも分かる。でもそれが間違っていることはそれよりもっと分かるんだ。だから必ずギャザーを止めてみせる」

 

 決意は固まった。そうと決まれば話しは早い。シャルマンたちの居場所を突き止めてギャザーの野望を打ち砕く。まずは情報屋に言ってロロから彼について何か知っていないか聞きに行こう。そう巧が提案しようとしたその時。

 

「────止められるもんなら止めてみろや、ダボハゼどもが」

 

 リタの影の中からギャザーが現れた。

 

「ギャザー!?」

「リタはんがおらんと女神を復活出来ひんやろ。迎えに来たんや。さ、行こか」

「い、嫌です。うぐっ!」

「はは、断わんなや。ワイは仏さまと違って穏便なのは一回目だけやで」

 

 不気味な笑みだ。ギャザーは笑顔でありながらもその目がまったく笑っていなかった。後ずさったリタの首を彼は締める。

 

「おい、待てよ。リタちゃんを離せ」

「ワイらが黙って見てると思うんか?」

「私たちの目の前に現れたことを後悔させてやる。この場で始末してくれよう」

 

 ギャザーに向けて晴人はウィザーソードガンを発射する。それを引き金にガルドは鎌を、アポローネスは剣を構えると左右から同時に攻撃を仕掛けた。晴人の銃弾には追尾能力がある。例え時間の流れを操ろうと回避は難しいはずだ。

 

「無駄や、無駄。そんな攻撃でワイの障壁を抜けると思っとんのか」

 

 三人の攻撃はギャザーが張ったバリアに阻まれる。硬い。並大抵の攻撃では破ることは不可能だろう。

 

「下がって!」

『attack effect フリーズミーティア』

 

 エフォールは必殺の矢を放つ。高い威力を持ちながらも破壊力は控えめなこの技なら向日葵荘の中でも使うことが出来る。他の者の大暴れするような必殺技は宿の中で使う訳にはいかない。

 

 これならギャザーのバリアも破れるだろうか。バリアに直撃したエフォールの矢は氷の結晶を周囲に撒き散らす。ギャザーとリタの回りに霧が巻き起こった。

 

「・・・・・・ごめんなさい、逃がした」

 

 瞬間移動をしたのだろう。霧が晴れると二人の姿は消えていた。やはり取り逃がしてしまったか。エフォールはシュンと項垂れる。

 

「気にするな。確かにリタは連れ去れちまったけど・・・・・・」

「これで彼の居場所が分かったからね」

 

 巧はエフォールの頭をポンと叩く。女神を復活させると言うのなら彼の向かった先は一つしかない。

 

「ギャザーさんかどちらに向かったのか、ハーラーさんは心当たりがあるのですか?」

「うん。私たちは過去の世界で一度女神を復活させようとしているからね」

「確か以前にもファングさんからその話しを聞いたことがありますわ。その場所は確か、えっと・・・・・・」

 

 ティアラは首を傾げる。随分と前のことだからどこで儀式をしたのかすっかりと忘れてしまった。この中で記憶のない彼女と既に死んでいたアポローネス、別世界の住人である晴人は女神復活のことを知らない。ギャザーが向かった場所。そこはどこだろうか。

 

「・・・・・・ギャザーが向かったのはカヴァレ砂漠だよ。女神の聖域さ」

 

 ◇

 

 カヴァレ砂漠・聖域。

 

「ついにSランク妖聖を手に入れたんですね、ギャザーさん」

「ワイが本気出せばこんなもん余裕やねん」

 

 既に一通りの儀式の準備を済ませたシャルマンはギャザーを迎え入れた。彼の肩に担がれたリタにシャルマンは笑顔を浮かべる。

 

「きちんとフェイスドロップもセットされとるし、これなら何時でも女神復活の儀式が始められるわ」

「復活にはどれほどの時間が掛かりますか」

「だいたい半日くらいやな。日没までには復活すると思うわ。その間の時間稼ぎは任せたで」

「ええ、僕にとっても女神復活は悲願ですからね。既にバットさんとレオがライオトルーパーを引き連れてゼルウィンズを襲撃しています。彼らは絶対に襲われてる人々を見過ごすことが出来ない。僕らの勝利は決まったも同然ですよ」

 

 間もなく女神が目覚める。そうすればギャザーの願いは叶えることが出来る。邪魔者となりうる彼らもファングや北崎という切り札がなければここまでたどり着くことも出来ないはずだ。ファングと互角の力を持っているらしい晴人が唯一の懸念材料だが女神さえ復活してしまえば彼も敵ではない。飛車角落ちで勝負に挑んだところで詰むだけだ。

 

「では僕は用があるので少し席を外します」

「ん、なんや? せっかくの女神復活を見届けなくてええんか?」

「女神が復活する前に、穢れなき世界を作る前に殺さなくてはならない人がいるんです。僕は僕自身を救うために彼女を消さなくてはならない」

 

 シャルマンは腰に刺された剣に手を伸ばす。結局最後まで彼がどうしてオルフェノクと組んだのかは分からなかった。一切の穢れのない世界を作りたいという目的も自分に似てはいるが根本的に何かが違う気がする。その消さなければならない相手とやらが元凶なのだろうか。

 

「・・・・・・ふうん。まっ、ええわ。約束通り女神が復活したらこの世全ての悪を根絶したるからな。期待して待っててくれや」

「オルフェノクの寿命の件についても頼みましたよ」

「わかっとるって。女神の力ならそれくらい造作もないわ、・・・・・・待っててくれや、エルモ。必ずお前の望んだ世界を作ったるからな」

 

 胸の内にいる少女に語りかけるギャザーを尻目にシャルマンは都市ゼルウィンズへの道へと歩く。彼女を殺すために。

 

『本当にあんなヤツが神を制御出来るのかしら?』

「さあ。それは僕にも分かりませんよ。ですが女神は邪神と違って凶悪なものではありません。ギャザーさんが本当に清らかな心を持っているのなら女神は彼に力を貸してくれるでしょう。それにもし彼が女神の器として失格だったとしても僕が女神の器になれば良いだけのことですよ」

『王にも神にもなる気? ふふ、頼もしいわね。私が見込んだだけあるわ』

「冴子さんにそう言ってもらえると僕も嬉しいですよ」

 

 シャルマンは粘着質な笑みを浮かべる。

 

「待っていてください、ティアラさん。あなたのために僕は今度こそ世界を救ってみせますよ」

 

 




そろそろこのオリジナルストーリーも終わります。きちんと本編に繋がるように作っているのでゲームクリア済みの方は安心してください。

さて次回はいよいよブラスターの登場になるのでご期待ください。
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