乾巧は四度目の生を生きる   作:北崎二代目

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カイザの日に間に合いませんでした。すいません。


園田真理さん誕生日おめでとうございます。一日遅れですけど。

※今回は番外編です。声優ネタや役者ネタ、メタネタ等が多分に含まれるので苦手な方や途中で不快感を感じた方はどうか次回までお待ちください。そうでない方は存分に最後までお楽しみください。


サブイベント 皆がそっくりさんになったのも乾巧って奴の仕業なんだ

 時は晴人がファング一行に加わった頃に遡る。

 

 

 

「巧さん! 私、がんばります!」

「・・・・・・なにを?」

 

 朝食を求め食堂に訪れた巧は困惑した。何時もなら元気よく朝の挨拶をする果林からすっとんきょうなことを言われたからだ。一体彼女は何を頑張りたいのだろうか。笑顔一杯気合い十分の果林に巧は首を傾げた。

 

「もう、何を言ってるんですか? ライブですよ、ライブ! ファンが私たちを待っているんですよ!」

「は、え? お前は何を言っているんだ。ライブって何のことだよ?」

 

 自分たちがやらなくてはならないのはフューリーを集めて世界平和を実現すること。要するに冒険だ。その先に待ち受けているのは神々との戦いであってライブなどではない。

 

 いくらこの作品がガラパゴスRPGだからってこれ以上欲張ってどうするんだ。井○敏樹はアイドル物なんて小説版のマク○スくらいしか書いたことがないんだぞ。ライブは大人しく同社製品のオメガクインテットに任せとけば良いではないか。あまりに唐突なテコ入れに巧はますます困惑した。

 

「忘れたんですか? 私たちのグループ『Freshlips』のライブですよ! さ○たまスーパーアリーナを貸しきってやることが決まってるんです!」

「そのどっかのグループ名を丸パクりしたようなグループはなんだ? 初めて聞いたんだが」

 

 キュイに怒られるぞ。ていうかさ○たまスーパーアリーナってことはまた一万人のエキストラを募集しないといけないのか? 巧は内心で突っ込む。

 

「何を言っているんですか? アイドルグループですよ。ちなみにエフォールがボーカル。私はドラム兼ボーカルで巧さんがギター、ファングさんがベース。そしてガルドさんがタンバリンを担当しています」

「タンバリンいらねえだろ」

 

 どこの世界にタンバリン担当が単体で存在するバンドがあるんだ。タンバリンはボーカルに持たせて兼任させる物であってそれ単体で使う物ではない。ライブ中に明らかに浮いているであろうガルドを想像した巧は思わず突っ込んだ。もはやただの嫌がらせである。

 

「いらないなんて酷いです! ガルドさんがライブ前にトークで盛り上げてくれるから私たちのグループは安心して演奏を始められるんですよ!」

「だからタンバリンはいらねえだろ、それ」

「タンバリンの良さが分からないんですか!?」

 

 タンバリンの良さを語ってないのに何を理解すれば良いのだろうか。巧は首を捻る。

 

「タンバリンはエフォールに持たせてガルドはキーボードやらせろよ」

「ひ、酷いです。ガルドさんがタンバリンしか出来ないって知っていてそんな意地悪なこと言うなんて・・・・・・!」

「待て。意地悪なのは俺じゃない。本当に意地悪なのはタンバリンしか出来ないガルドをそのフレッシュナンチャラに引き入れた奴だ」

 

 果林はショックを受けたのか顔を絶望に染める。あ、さてはガルド誘ったのこいつだな。巧は確信した。

 

「こ、ここまで五人で頑張ってきたじゃないですか。どうして、どうしてそんな悲しいことを言うんですか!? 私の好きだった巧さんはどこに行ってしまったんですか・・・・・・うぇぇぇぇん!」

「俺が好きだった果林はどこに行ったんだ」

 

 頼むからファイズサウンダーの時のように夢オチであってくれ。泣き出した果林の背中を優しく撫でながら巧はため息を吐いた。

 

「よくないなぁ、こういうのは。果林ちゃんが泣いているじゃないか」

「いや、俺が泣かした訳ではない────!?」

 

 聞き覚えがあるような無いような男の声が背後から聞こえた。何故か自分が元凶のように批難された巧は慌てて否定する。それにしてもこのねちっこく嫌みったらしい声本当に聞き覚えがあるぞ。誰だろう。巧は振り向いた。

 

「乾くん、今すぐ果林ちゃんに謝るんだ。理由はどうあれ喧嘩はよくない。君はライダーだろ」

 

 そこにいたのは爽やかな笑みを浮かべたバーナードだった。いや、なんでお前がいる。巧は驚愕に目を見開く。

 

「てめえはなんでいるんだよ!?」

「ぐはああああああ!」

 

 巧はバーナードを勢いよく殴った。容赦のない拳だ。彼は大きく吹き飛ばされる。どうして敵であるはずのこの男が向日葵荘にいるんだ。敵の罠か。巧の頭の中は困惑で完全にこんがらがっていた。

 

「なんだ、なんだ? 何の騒ぎだ」

 

 騒ぎを聞き付けたファングが食堂に駆けつける。助かった。やっとまともな人間が来てくれたか。巧は顔を輝かす。

 

「うおっ! 『草加』どうしたんだ!? 口から血が出てるぞ!」

 

 ファングは倒れていたバーナードに目を見開く。

 

「分からない。巧くんが突然殴りかかってきて」

「な、なんだって!? 巧、お前何を考えてんだよ!?」

「お前が何を考えてんだよ。そいつ草加じゃなくてバーナードだろ」

「バカ野郎!」

「ぐおっ!」

 

 ちょっと声が似ているからって何を勘違いしているんだ。呆れた目線を送る巧をファングは殴った。

 

「バーナードって敵じゃねえか!? 草加は草加だろう! どうして仲間のことを忘れるんだ! 俺たちは真の仲間じゃないのか!?」

 

 こいつもまともじゃないのか。巧はガッカリした。

 

「い、色々と言いたいことはあるが一つだけ先に言わしてもらう。真の仲間ってフレーズだけは使うな。荒れる原因になる。特にお前は絶対に使うんじゃねえ。そこから先にあるのは悲劇だけだ」

「今この状況こそが悲劇そのものだろ! 果林は泣かせて、草加は殴って・・・・・・お前は何がしたいんだ!?」

「何時もの暮らしがしてえんだよ」

 

 確かに悲劇だ。自分は理不尽に殴られるし、果林とファングはアホだし、バーナードは草加だ。巧はため息を吐く。あの我慢強い巧が切実に平凡な生活を願うレベルだ。これが悲劇でなくて何を悲劇というのだろうか。この悲劇っぷりは真の仲間にも匹敵するかもしれない。いや、やっぱり匹敵はしない。あれは悲劇の中でも別ベクトルだ。

 

「ちょっと皆さん、これは何の騒ぎですか?」

「喧嘩はよくないぞ」

 

 騒ぎを聞き付けたティアラと晴人が食堂に駆けつける。本日二度目だ。二人は正常なのか。巧は恐る恐る彼らを見つめる。

 

「おいおい大丈夫か、巧? ファング、お前何やってんだよ?」

「巧が俺たちの真の仲間である草加を殴ったんだ。それでつい・・・・・・」

「そいつはどう考えても草加じゃないだろ。声はそっくりだけど」

「それ以前に初めてお目にかかりますわ」

「良かった、二人はまともで本当に良かった」

 

 やっと正常な人間に会えた。怪訝な表情をバーナードに向ける二人に巧はほっと頬を撫で下ろす。

 

「ティアラさん! うえええん!」

「か、果林さん? ど、どうなされたのですか?」

「巧さんが、巧さんが酷いんです!」

「乾さん、女の子を泣かせるなんて最低ですよ!」

 

 号泣している果林がティアラに抱きついた。彼女が泣くなんてよっぽどのことだ。きっと最低なことに違いない。ティアラは目を細めて巧を睨む。

 

『たっくん、さいてー』

「最低だぞ、巧」

「俺、なんか悪いことしたか?」

 

 すっかりと悪人にされてしまった巧はため息を吐く。なんでただ冷静に突っ込みを入れていただけで袋叩きに合わなければならないんだ。それもタンバリンのせいで最低扱いされるなんて訳が分からない。

 

「最低だよ、巧くん」

「てめえにだけは言われたくねえんだよ!」

 

 そして草加(バーナード)はもっと訳が分からない。どうしてドルファの人間が仲間面をしている。何が一体どうなっているというのだ。巧は痛む頭を押さえて叫んだ。

 

「いやいや。理由も分かんないのに最低呼ばわりは止めろよ」

 

 理不尽な最低コールを浴びせられた巧を晴人が庇う。

 

「・・・・・・それもそうですわね。果林さん、乾さんはあなたに何をしたのですか?」

「実は・・・・・・」

 

 果林は先ほど巧に言っていたことと同じことをティアラたちにも伝えた。最初は心身になって聞いていたティアラも経緯が分かっていくにつれその表情に呆れの色が加わっていく。しかし呆れている中でもアイドルグループFreshlipsの件だけは並々ならぬ形相を浮かべていたが何か感じるものでもあったのだろうか。謎だ。

 

「・・・・・・すいません、乾さん」

「たっくんごめんね」

「いや、なんか俺の方こそ悪いな」

 

 ティアラとキョーコは深々と頭を下げた。こんなカオスな状況に巻き込んでしまった二人に巧は申し訳ない気持ちになる。ちなみにブレイズはあまりのファングのボケッぷりに頭を痛めて部屋で休んでいた。懸命な判断である。

 

「果林ちゃん、君たちの目的は何か覚えている?」

「もちろん。忘れる訳がないじゃないですか、晴人先輩。トップアイドルに、シンデレ『先輩?』ガールになることですよ」

「先輩ってなに?」

 

 まさか人生の先輩なんて意味ではあるまい。先輩呼びされた晴人は首を傾げる。

 

「だって晴人先輩は事務所の先輩じゃないですか。芸歴も年齢も上で先輩をつけないなんて失礼ですよ」

「事務所ってなんのこと?」

 

 職業『魔法使い』である晴人は芸能人になった記憶なんてない。そもそも果林と住んでいる世界すら違う。仮に自分が芸能人だったとしても彼女と同じ事務所になったりはしないはずだ。もし同じ事務所なら何という名前の事務所なのかとても気になる。

 

 流石の晴人も少し怖くなってきた。何が起きているのだろう。まるで別世界に迷い込んだような感覚だ。いや、現に今別世界にいるのだけど。これはガンダムとかウルトラマンとか人外の方々と一緒に戦った時以上に訳が分からない。

 

「皆さんの話を整理しますわね」

(どこをどう整理すれば良いんだ?)

 

 巧は逆に気になった。

 

「果林さんはアイドルでバーナードさんが草加さんでファングさんがおバカさんということですね」

「なんかおかしい気がするけど大体あってる」

 

 相変わらずバーナードが草加という部分だけ訳が分からない。何の因果で彼が草加雅人になっているのか本当に謎だ。

 

「お前、真の仲間である俺をバカ呼ばわりするのか!?」

「でも、確かにバカだけどファングはこの中では一番まともなんだよなあ」

「ただ単に仲間思いになっただけだからな。つか元からバカなのは変わんねえしな」

「聞けよ」

 

 問題は何故真の仲間というワードを無性に使いたがるのかというところにある。何かその言葉に並々ならぬ想いでもあるのだろうか。

 

「何が起きてんだろうなあ・・・・・・」

「説明しよう!」

「うおっ!? 誰だ、おっさん!」

 

 怪訝な表情で腕を組んだ巧の横にチューリップハットを被った眼鏡の男性が現れた。今までどこにいたんだ。あまりに唐突な出現に巧は後ろへ倒れ込んだ。

 

「私は鳴滝。普段は次元の崩壊を防ぐ正義の使者。世界の破壊者ディケイドを抹殺するべく日々奔走している心優しき男だ」

「正義の使者で心優しき男性がとても使っていいとは思えない不穏なワードが一つ聞こえたのですけど」

 

 ティアラは鳴滝に不審な視線を送る。彼は軽く咳払いした。

 

「この異変には原因があるんだ」

「逆に原因がないのにこんなアホな事態になることなんてあるのか?」

 

 どや顔を浮かべて語る鳴滝に巧は突っ込む。当たり前のことを当たり前に言う意味なんてない。さっさと本題に入れおっさん、彼は視線で訴える。

 

「やかましい! こうなったのは貴様の仕業だろうが乾巧!」

「はあ?」

 

 鬼の形相で睨んでくる鳴滝に巧は首を傾げた。何故だろう。彼に責められるべき相手は自分ではない気がする。何というかもっと相応しい元凶がいるような感じがした。

 

「え、何時も通り士が悪いんじゃないのか?」

 

 晴人は鳴滝と面識があった。ライダー大戦の時に一度出会っている。彼が士を憎悪しているのはその時の言動から察していたので普段と違ってディケイドを元凶扱いしない彼に違和感を感じる。

 

 鳴滝は何があってもディケイドである門矢士を悪人にする傾向があった。海東が原因で世界の崩壊が起きかけても、平成ライダーと昭和ライダーで割りと唐突に喧嘩を始めても彼にとっては全て士が悪いことになる。某児童向け番組の妖怪ばりに全て彼の仕業となるのだ。

 

「お前も原因だ! 操真晴人!」

「え、俺も?」

 

 まさかの名指しに晴人は驚く。この世界に来て間もない自分が何をしたというのだ。これといって何かをした記憶がないのに。彼は士が普段どんな気持ちで鳴滝と顔を合わせているのか身をもって理解した。

 

「な、なに!? つまりこんなことになったのは全部乾巧くんと操真晴人くんの仕業だってことなんだね!?」

「な、なんだって! それは本当か!? ぜってえ許せねえ!」

「とりあえずお前らは黙ってろ」

『スリープ プリーズ』

『zzzzzzzz』

 

 こいつらが口を開くと事態がややこしくなる一方だ。晴人はバーナード(草加)とファングを魔法で眠らせた。

 

「で、俺たちが何をどうしたらバーナードが草加になるんだ?」

「本当に何をどうしたらそうなるのでしょうね?」

 

 改めて言葉にすると本当にシュールだ。

 

「この世界に存在してはいけないライダーが出現してしまった。その結果次元の壁が破壊されてこのような事態を招いてしまったのだ!」

「どう次元の壁が壊れたら草加がバーナードになるんだよ」

「逆になってますわ、乾さん」

「どっちでも良いだろ。似たようなもんだ」

「・・・・・・他の世界のそっくりさんの人格が流れ込んでしまったのだ」

 

 そっくりさん? 巧たちは首を傾げる。

 

「いるんだよ! 異世界には! お前の世界なら園田真理とクイーンとか、他の世界なら斬鬼と次狼やギャレンとリブラとかそういうそっくりさんがな! この世界ならそこのバーナードと草加雅人が良い例だ!」

「おい、止めろ。触れてはならないことに触れているぞ」

 

 正義のために戦う仮面ライダーに怪人のそっくりさんがいるなんて。そんな事実をお茶の間にいる全国のちびっ子たちが知ったらショックを受けるに決まっている。

 

「色々とややこしくなってますわね。・・・・・・つまり異世界人である乾さんと晴人さんがこの世界にやって来たことで次元に綻びが出来た、と。鳴滝さんはそう言いたいのですね」

 

 本来存在しない者がいることはそれだけで世界の歴史を揺るがすことになる。実際にこの世界の歴史も巧とオルフェノクが加わったことで本来の歴史とは大きく違う道を辿っていた。次元の壁の一つや二つ、壊れてもおかしくないレベルで。今回の異変もその一端なのだろう。

 

「そうですとも! おのれ乾巧、操真晴人! お前たちがディケイドのように勝手に世界を越えたせいでこの世界も破壊されてしまったではないか!」

「いや、勝手じゃないって。それ士がやったことだから」

「え・・・・・・?」

 

 血走っていた鳴滝の目が点になる。

 

「知らなかったのか? 巧がこの世界に来たのは士があれこれとやった結果だぞ。最終的に送り込んだのは別の人だけど。俺だってこの世界に来れたのは士のおかげだ」

「そ、それは本当か?」

「わざわざ嘘吐くメリットがあるのか?」

 

 鳴滝はワナワナと肩を震わせる。やはり原因が士だったのは彼にとって許しがたいことのようだ。額に青筋を浮かべている。鳴滝は口を開けると何時ものセリフを言った。

 

「おのれディケイドォォォォォ! やはり貴様のせいでこの世界も破壊されたではないかァァァァァァ!?」

 

 この時どこかの世界でマゼンタ色のカメラを首に提げた青年がくしゃみをした。門矢士。世界の破壊者ともっぱら噂のディケイドである。

 

 ◇

 

「ぶっちゃけ今回はディケイドは悪くないんだ」

 

 落ち着きを取り戻した鳴滝は神妙な面持ちで言った。あれだけ叫んでいたのに結局関係ないのかよ。巧たちは絶句する。

 

「CM明けからいきなり矛盾した発言ですね。Aパートが台無しですよ、台無し!」

「◇←これってCMだったのか。42話目にして初めて知ったぞ」

「時系列的には38話の間だからその発言も矛盾しているよ、ファングくん」

 

 

 

 

 

「おい、誰かこいつら黙らせろ。なんかまた訳の分からないことを言い出したぞ」

 

 次元の壁が壊れるよりも先に世界観が壊れてしまう。巧たちは慌てて彼らの口を塞いだ。

 

「わ、私は巧さんの唇で塞いでください!」

 

 果林はいきなり何を言っているんだ。次元の壁が壊れた影響で彼女の貞操観念まで壊れてしまったというのか。早いところ元に戻さなくては手遅れになってしまう。巧は頬を赤らめて目を閉じる果林を無視して口を塞いだ。もちろん手で。

 

「むー!」

 

 彼女は残念そうに、そしてちょっと涙目で巧を見つめた。その顔に扇情的な何かを感じた彼は慌てて視線を反らす。こんなふざけた番外編で危うく一線を越えるところだった。危ない危ない。巧はほっと胸を撫で下ろす。

 

「でも、なんで士のせいじゃないって分かったんだ?」

「ディケイドが原因ならもっと大きな変化があるはずだ。それこそこの世界にとって脅威になるレベルでな。奴の仕業だとしたらこんな些細な変化になるはずがない」

「些細な変化でバーナードが草加になるのかよ」

「なるんだよ」

 

 それは果たして些細な変化と言っていいのだろうか。結構な大事に思えるのだが。鳴滝の基準がよく分からない。

 

「で、士が原因じゃないのなら何が原因なんだよ」

 

 間接的に自分たちの無実も証明された訳だが。ではそうなると誰がこの異変の原因なのだろう。

 

「今日新たにこの世界に来た者がいる。その者のせいで今回の異変が起きたんだ」

「それってあんたってオチじゃないよな?」

「バカもの! 私が世界を滅ぼすのでは本末転倒になるだろうが!」

 

 悪のショッカーに加わり士を抹殺しようとした人間がどの口で言う。そのことを一切知らない巧たちはとりあえず納得した。

 

「どうやって世界を越えてきたんだ? 俺みたいに誰かに呼ばれたのか?」

「それは違う。人々の願いによって時空を越えたライダーが次元に影響を与えることはない。そうでもなければ毎年毎年全員集合する度に世界が滅んでしまうだろう」

 

 本当にそうなのか。ライダーが全員集合する度にいっつも世界は滅びかけている気がする。その中でも二回くらいヒーロー同士互いに争う世紀末的な状況もあった。鳴滝が言っていることが本当に正しいのか分からない。何度かオールライダーと共に戦っている晴人は頭に疑問符を浮かべる。

 

「誰か強引な手段を使ってこの世界に来た者がいる。そいつを探すのだ」

「ならさっさと元凶探して果林とバーナード(草加)を戻そうぜ。俺もいい加減に真の仲間って言うのもめんどくさくなってきた。ガラじゃねえよ」

「え、ファングさん元に戻られたのですか?」

「いや、全然。今でもバーナードは草加に見えるし真の仲間ってフレーズをやたらと口にしたくなるのは変わんねえよ。ただその状況がおかしいことを理解しただけだ」

 

 それだけで十分だ。少なくとも正常な判断が出来るだけで現状では戦力として使える。今回すべきことは戦闘ではなく人探しなのだから。バーナードが草加に見えようが真の仲間をイチイチ強調しようがこの際どうでもいい。

 

「しっかしその次元を越えてきた犯人を探すとなると気の遠くなる作業になりそうだな」

 

 そうなると今回のそっくりさん事件の黒幕はどこにいるのだろうか。この世界も広い。手がかりもなしに犯人を探すのは困難だ。せめて名前か顔でも分かれば良いのだが。

 

「心配はいらない。異世界を越えられる力を持っている者など限られている。その者が起点となってこの異変は起きている。つまり犯人はこの近辺にいるということだ!」

「そこまで分かってるならお前が探せよ」

 

 これでは二度手間になる。ディケイドの時もそうだが何故鳴滝は最終的に人任せにするのだ。海東のようにライダーを召喚する能力があるならその世界の人間に任せず自ら手を下せば済む話ではないか。

 

「私が出来るのはアドバイスだけだ。何でもかんでも私たち他所の世界の人間が問題事を解決してはその世界の人々のためにならない。君たちの世界は君たちで守るべきなんだ。どの世界にだってライダーや戦隊のような戦士が、勇気を持った人々がいるのだからな」

「鳴滝さん・・・・・・」

 

 変な男だと思っていたが意外と人類のことを考えているのだな。心優しき男というのもあながち嘘でないのかもしれない。優しく微笑む鳴滝に晴人は少しだけ目頭がジンと来た。

 

「おはよー・・・・・・」

 

 巧たちが事態の解決に出掛けようとしたタイミングでアリンが食堂に来た。彼女は眠気を抑えられないのか欠伸をしている。そういえばファングたち以外にもそっくりさんの影響を受けている仲間はいるのだろうか。既に変態のハーラーはともかくアポローネスやエフォールが変化していたら面白そうだ。

 

「おう、おはよう。・・・・・・ってその服どうしたんだ? イメチェンしたか、アリン」

「なんか今朝起きたらいつもの服がこれになってたのよねえ。ちょっと子どもっぽくて変かな」

「いや、可愛いんじゃないか。それはそれで似合ってると思うぞ」

「そう? ありがとう、ファング。えへへ!」

 

 アリンはいつもの赤いヒラヒラとしたドレススカートではなく黄色いドレススカートを履いていた。見る人が見ればそれは日曜朝8時30分から始まる変身ヒロインのものだと分かるだろう。これもそっくりさんの影響か。まさか衣装まで変わるとは。性格が変わってないのが不幸中の幸いだ。

 

「ミューズ・・・・・・!」

「どした、鳴滝さん?」

「μ's・・・・・・? エフォールがどうかされたのですか?」

「ええい、そっちのミューズではない! いい加減アイドルから離れろ! キュアミューズだ、キュアミューズ! プリキュアキタアアアアアアア!」

 

 かっと目を見開いて両手を上げる鳴滝に晴人は首を傾げた。確かにアリンは女神の一部だからミューズであっているかもしれない。だがキュアミューズのキュアとは何だ。プリキュアとはなんだ。意味は分からないがライダーにとってはとても縁の深いモノの気がする。

 

「そこのお嬢さん」

「えっと、あなた誰ですか?」

「私は鳴滝。正義の使者です」

 

 興奮したように目を輝かした鳴滝はアリンの腕を握った。彼女は状況をまったく理解してないのかいきなり大のおじさんがにこやかな笑顔を浮かべて腕を握ってきたことに困惑している。その絵面はあまりに気味が悪く犯罪染みたモノを感じてしまう。

 

「失礼ですが私と踊ってくれませんか!? 曲はイクササイズでもなんでも構いませんから!」

「イクササイズってなんなのよ? ていうか離してよ!」

「あぁっ! キュアミューズ! 待ってくれええええ!」

「あたしはアリンよ!? キュアミューズって何!? いやああああ!? ちょっと近づかないでえええええ!」

 

 鳴滝の血走った目に恐怖したアリンはファングの後ろに隠れた。彼女はあまりに鳴滝が怖かったのか涙目で震えている。可哀想に。ファングは優しくアリンの頭を撫でた。

 

 

 

「そ、そんな。私は、私はただプリキュアと踊りたかっただけなんだ・・・・・・。そんな目で見ないでくれ・・・・・・! 見ないでくれよ、うおおおおおおおおおん!」

 

 プリキュア大好きおじさんである鳴滝はアリン(キュアミューズ)に拒絶されたことで醜く号泣した。それにしても感情の起伏が実に激しい男である。

 

 

 

 

 

「うわあ・・・・・・」

「良い年したおっさんがプリキュアにフラレて涙を流してる光景をどんな目で見れば良いんだよ」

「見なかったことにするのが正解だと思いますわ」

「さっきはちょっとカッコいいと思ったんだけどな」

 

 ファングたちは涙を流し続ける鳴滝から無言で目を反らす。鳴滝なんて最初からいなかった、彼らの心は重なった。

 

「────という訳で真の仲間であるお前たちにも犯人の捜索を頼みたいんだ」

「また真の仲間と言ってますわ、ファングさん」

「え、マジかよ。全然気づかなかった」

 

 食堂に集まったガルドたちにファングは言った。彼らの中にもそっくりさんの影響を受けた者がいるのか奇妙な行動をとっている者がいる。それでも果林やバーナードほど致命的な者はいなさそうなのが幸いだ。ちなみに鳴滝はプリキュアと踊れなかったショックがかなり大きかったのかひっそりと姿を消していた。

 

「なんや知らん間に随分とややこしいことになってたんやな。アリンはんがプリキュアとかバーナードが草加はんとかおもろいわ。果林はんはアイドルやるならワイは応援するで。べっぴんさんやから絶対にアイドルくらいなれるわ」

「バカ。果林がアイドルになると自動的に俺たちもアイドルをやることになるんだよ。お前タンバリン担当で良いのかよ?」

「あー、それはあかんなあ。タンバリンのソロはキッツいわー」

「ガルドちゃんならタンバリンでも立派にこなせるわ」

 

 ガルドは明らかに浮いているであろう自分を想像して苦笑を浮かべる。彼とパートナーのマリサはそっくりさんの影響を免れたのか正常であった。しかしながらこの状況を巧たちと違って楽しんでいるようである。

 

「私は今エフォールとカードゲームをやっているのだ。人探しを手伝わせたいなら他を当たれ」

「同じく」

 

 アポローネスとエフォールはヴァ○ガードと呼ばれるカードゲームに夢中になっていた。厳格な雰囲気のある彼が真面目な顔でカードを持つ姿は中々にシュールだ。ファングはアポローネスのそっくりさんがどんな人間なのか気になった。

 

「カードゲーム・・・・・・。それもまたアイカツですね!」

「カードゲームのどこにアイドル活動の要素がある。つーかヴァ○ガードって大丈夫か? ネタにするならバンダイナ○コだけにしてくれよ。ブシ○ードなんて出したら偉い人に怒られちまうだろ」

「偉い人ってどなたなのですか、巧さん?」

「・・・・・・やべえ、俺まで変な影響受けてきた」

 

 巧は頭を押さえた。知らぬ間に自分も毒されていたようだ。無意識に出ていた訳の分からない言葉に彼は恐怖した。このままでは手遅れになってしまう。絶対に世界を元に戻さなくては。彼は決意を新たにした。

 

「頼むから手伝ってくれよ。このままだとバーナードが草加になっちまうんだぞ」

「私は別に構わん。だいたいそこの草加という奴がバーナードであろうとなかろうとどうでもいい。私は元々この男とは仲間だったのだからな。一緒にいてもどちらにせよ違和感はない。というかむしろ戦力的にはいた方が助かるのではないか?」

 

 今さら気づいたのだがバーナードが草加に見える者はそっくりさんの影響を受けた人間に限られているらしい。非常にどうでも良い新事実だ。

 

「いや、確かに草加が仲間なら心強いけどよ。中身が草加でもこいつがバーナードであるのは変わらねえ。何時正気に戻って裏切るかわかんないんだぞ」

「巧、お前は草加を買い被りすぎているぞ」

「はあ?」

 

 巧は首を傾げた。記憶を失っている彼は草加の本性を知らない。バーナードが草加であろうとなかろうと巧を嵌めようと裏切ることを。亡霊となった彼を除霊した経験のある晴人は草加が巧にあまり良い感情を抱いていないことを知っていた。

 

「知らぬが仏だな」

「なんか言ったか、晴人?」

「なんでもないさ」

 

 あれだけ酷い目に逢わされていたはずの草加も今の巧にとっては自分のピンチを救ってくれたヒーローなのだ。彼のイメージを壊す訳にはいかない。

 

「とにかく私はヴァ○ガードで忙しいんだ。貴様らを手伝っている暇などない。帰れ!」

「どこに帰るのですか。・・・・・・仕事を辞めてカードゲームに没頭している兄の姿なんて見たら妹さんが悲しみますわね。イメージしてみてください。エミリさんが涙を流す姿を」

「何をぼさっとしている! 行くぞ貴様ら! 世界がどうなっても良いのか!?」

「切り替えはやっ!?」

 

 流石はシスコンだ。エミリの名前を出しただけでここまでの腐敗っぷりが嘘のように一瞬にして正気に戻るとは。家族への愛は実に偉大だ。

 

 アポローネスが立ち上がると同時にエフォールもカードをしまって立ち上がった。

 

「お、エフォールも一緒に来てくれるのか?」

「うん。対戦相手が誰もいないから・・・・・・」

「別にその辺の子どもと一緒にやれば良いんじゃないか」

「この街でヴァ○ガードをやっているのは私とアポローネスだけ。他の子は皆ガンバライジングに夢中だから。・・・・・・どっちも面白いから良い子の皆は両方やろうね」

「誰に対して宣伝しているんだ?」

 

 虚空を見つめるエフォールにファングは首を傾げた。

 

「よし、じゃあ犯人を捕まえるぞ!」

『オー!』

 

 こうしてファングたちの世界を救う人探しが人知れず始まるのであった。

 

「ところでハーラーは?」

「部屋の中で気絶していましたわ。人格が変わっていたせいであの部屋に巣食う巨大なゴキブリに精神をやられてしまったのでしょうね」

「・・・・・・ワイ、この事件片付いたら部屋の掃除手伝うことにするわ」

 

 ◇

 

「見つからねえな」

 

 ファングたちの捜索は難航していた。バラバラに分かれて探しているが手がかり一つ見つからなかった。こういう時に限って何でも出来るリタがウルフオルフェノクの化身と散歩しているのだからツイてない。

 

「やっぱりロロちゃんのとこに行くしかないと思うの。ガルドちゃんはどう思うの?」

「せやなあ。確かにロロはんなら何か知っとるかもしれへん」

『かいとうのこともおしえてくれたもんね』

「最近しょっちゅうアイテムを買うから金欠なんだよなあ。まあ、しゃーないか」

「背に腹は代えられないもんね」

 

 ロロなら今回の事件の犯人について知っているかもしれない。彼女は以前も異世界人である海東の情報を持っていた。淡い期待に掛けてファングとガルドはロロのいる公園へと向かう。

 

「よう、ロロ」

 

 ロロは噴水の前のベンチでぼんやりと空を眺めていた。普段の彼女とどこか雰囲気が違う気がする。ファングは首を傾げる。彼が前に立つと彼女は口元に笑みを浮かべる。その姿はなんだか何時もよりもやけに大人っぽい。

 

「お久しぶりですね、お兄さん。お元気そうで何よりです」

「・・・・・・お前本当にロロか?」

「ええ、情報屋のロロですよ」

 

 畏まった丁寧口調にファングは僅かに目を見開く。お転婆娘である普段のロロと性格がまるで違う。とても冷静で知的な印象に見える。これもそっくりさんの影響か。彼女は性格が真逆になってしまったようだ。

 

「今日は何の情報を所望なさいますか。フューリーの情報もフェンサーの情報も一通り揃えてますよ」

「フューリーはともかくフェンサーなんてどうでも良いだろ」

「せやで。それに今回に限って言えばフューリーもいらんねん」

「本当にあなたたちフェンサーですか?」

 

 ロロは目を少しだけ見開く。基本的にフューリーとライバルであるフェンサー以外にフェンサーが欲しい情報なんてない。予想外の返答に驚いているようだ。

 

「珍しいこともあるんですね。では何の情報をお求めで?」

「ああ。異世界人についての情報が知りたいんだ」

「はい・・・・・・?」

 

 ロロは首を傾げる。いきなり何を言っている。異世界人なんている訳がないだろ。彼女の残念そうな視線がそう訴えていた。

 

「私も長いこと情報屋を営んでますけど異世界人の情報を求める人なんて初めて見ました。それもよりにもよって常連のあなたたちから・・・・・・」

「やっぱり無理かあ。しゃーないわ、またその辺探しに行くしかないわ」

「急がねえとバーナードが草加になっちまうからな」

 

 ファングとガルドは肩を落とすとロロに背中を向けた。やはりそう上手くはいかない。分かっていてもショックは大きい。彼らはトボトボと歩き出した。

 

「豆腐です」

「え?」

 

 背後から浴びせられた言葉にファングは歩みを止める。

 

「一つだけ心当たりがあったので。今日見かけない方が私に美味しい豆腐屋がないかと聞きに来ました。下駄に作務衣で緩くパーマを掛けた身長が180くらいの男性でした」

「どこに異世界人の要素があんだよ?」

「あー、それ絶対に異世界人や。ワイが会ったことある異世界人やから間違いないわ」

「それで正解なのかよ!」

「そうですか。それは良かった」

 

 どこかで見覚えのある特徴にガルドは今回の騒動の犯人が誰なのか理解した。

 

「でも服装とか身長とかそこまで正確によく覚えてんな」

「簡単ですよ。私は一度見たもの、聞いたものを絶対に忘れない能力があるのです」

「すっげえ便利な能力だな」

「暗記に役立ちそうやん」

 

 ピンポイントで都合のいい能力を持ったそっくりさんがいたものだ。ファングはロロに影響を与えたそっくりさんに感謝した。

 

「よっしゃ! 重要な手がかりゲットや!」

「マジで? 本当にそいつが犯人なのか? ただの豆腐好きってオチはないよな」

「特徴からしてワイらを過去に送ってくれた天道さんやで。間違いないわ」

「天道ってそんな見た目だったのか。ってなんでわざわざ異世界に豆腐を買いに来てんだよ。バカなんじゃないか、天道って」

「それは本人に聞けばええ。今は皆に連絡や!」

 

 ガルドはエフォールの携帯に電話を入れた。

 

「あ、もしもし。エフォールはんか?」

『ちょうど、良かった・・・・・・! たす、けて、ガルド。た、くみがたい、へん。オル、フェノクに襲わ、れてる』

「・・・・・・なんやて?」

 

 

 ◇

 

「くそ!」

 

 巧は走る。全速力で走る。ソードフィッシュオルフェノクから逃れるために。ファイズにもウルフオルフェノクにもなれない彼はただひたすらに逃げることしか出来ない。

 

「エフォールとアポローネスの役立たず!」

 

 早々にソードフィッシュオルフェノクに破れた二人に巧は苛立ちを抑え切れずに叫んだ。ソードフィッシュオルフェノクは本来ならエフォールやアポローネスの敵ではない。二人がかりなら余裕で退けられる相手だ。

 

 しかし彼らは武器を構えるのではなくヴァ○ガードのデッキを構えた。何故かオルフェノク相手にヴァン○ードで決着をつけようとしたのだ。そんなデュエリスト特有の意味不明な主張が怪人に通用する訳がない。本来なら楽勝で勝てるソードフィッシュオルフェノクに二人はただの張り手で倒されてしまった。

 

『あなたを殺せばたくさんの人たちがおかしくなった今回の異変は収まるらしいですねえ。関西弁になって一日中昼寝をする雑用係のバハスさんを元に戻すためにも大人しく死んでもらいますよ』

 

 オルフェノク相手に走って逃げることなんて不可能だ。巧はあっという間にソードフィッシュオルフェノクに追い付かれてしまった。

 

「知らねーよ。俺じゃねえ! 俺は関係ねえ!」

『ちゃんとあなたの仲間から裏付けはとれてるんです。嘘はいけませんよ』

「その通りだ。こんなことになったのは全部乾巧って奴の仕業なんだ」

「バーナード・・・・・・。ついに本性を出しやがったな。くそ、草加のフリしやがって! 絶対に許さねえ!」

 

 目の前に現れたバーナードを巧は睨み付ける。草加の人格が混ざっていても結局バーナードはバーナードだったらしい。ほんの少しだけ期待していたのに裏切られた巧は怒りに震える。

 

「今ここで死ぬ人間に許される必要なんてないさ」

「出たな、バーナード! よくも騙してくれたな?」

「騙してなんていないさ。途中から正気だったが言動は君の知る草加雅人とやらを真似たつもりさ」

「全然草加に似てねえよ! 草加はもっと良いヤツだ!」

 

 本当に知らぬが仏だ。

 

『マスターが正気に戻られて良かった。本当に、本当に良かったです』

「ああ、心配をかけてすまなかったな。そこの乾巧に殴られた拍子に戻っていたのだよ」

「ほとんど最初からじゃねえか!」

 

 バーナードは実に草加の特徴を捉えていた。読者でも気づかない程に。ただ一つだけ間違っていたことがある。全国にいる草加ニストの皆はその違和感に気づいていただろう。彼はずっと『乾』くんではなく『巧』くんと言っていた。本物の草加雅人は巧のことを名字でしか呼ばないのだ。そこに気づけた人は今日から草加ニストである。

 

「ふっふふ。さて、この私を傷つけた報いはその血を持って償ってもらおうか」

『おっと、ここから先には行かせませんよ』

「くそっ! 俺のおかげで元に戻れたんだろ!」

「思いの外痛かったんだ! 絶対に許さん!」

 

 巧はバーナードとソードフィッシュオルフェノクに挟み打ちにされる。万事休す。彼に二つの剣が振り下ろされた。

 

「────そうはさせるかよ」

「私たちが止めて見せます!」

「晴人! ティアラ!」

 

 ギリギリのところでウィザードとティアラが割って入る。巧は二人の姿を確認するとほっと安堵のため息を吐く。危うくこんなふざけた番外編で命を落とすところだった。

 

「君たち二人で何が出来る。ドルファ四天王を統べる私に勝てるはずがないだろう?」

「やってみないと分かんねえだろ」

「そうですわ。ドルファ四天王なんて半分解散している組織のリーダーがなんだと言うのです」

 

 しかも一人はヴァ○ガードでオルフェノクと勝負しようとするアホだ。

 

「愚か者は痛い目を見ないと分からないらしいな。どれ、相手をしてやろう」

「それはこっちのセリフだ。魔法使いの力を見せてやる」

『コネクト プリーズ』

 

 ウィザードは転移の魔法を発動すると異空間へと手を突っ込む。己の武器を取り出すのだ。邪悪な怪人を斬り裂いてきた自分の武器────刀を。

 

「えっ!? どうしてウィザーソードガンがただの刀になってんだよ!?」

『刀の魔法使い・・・・・・?』

「違う! やり直しだ、やり直し!」

『コネクト プリーズ』

 

 ウィザードは刀を放り投げるともう一度転移の魔法を発動する。こんなどこにでも落ちている刀なんかでオルフェノクに勝てるはずがない。今度こそ己の武器を取り出すんだ。さっきのは何かの手違いに違いない。彼は異空間に手を突っ込む。あった。これまで幾度も邪悪な怪物にトドメを刺してきた自分の武器────丸太を。

 

「皆、丸太を持ったか!! 行くぞォ!! ってバカ野郎! 丸太なんかで行ける訳ないだろ!?

『丸太の魔法使い・・・・・・!?』

「違うって! 違うよ! 俺は指輪の魔法使いだからっ! もうバカ! ホントバカ!」

 

 ウィザードは丸太を勢いよく放り投げると頭を抱えた。何がどうなっているんだ。どうしてウィザーソードガンが出てこないんだ。剣がなければ晴人はまともに戦うことが出来ない。

 

 まさか自分もそっくりさんの影響を受けたとでも言うのか。他の魔法もこの調子ならウィザードの攻撃手段はキックしかない。もし指輪を着けたままでパンチを使おうものならPTAのお母さんたちからクレームを入れられて仮面ライダーウィザードという作品がお蔵入りしてしまう。

 

「晴人さん、戦闘中にふざけるのは止めてくれませんか? 流石に敵のお二方に失礼ですよ」

「コントをやるなら他所でやってくれるとありがたいのだが」

「ふざけてない・・・・・・ふざけてないんだ」

 

 ウィザードは色んな意味で絶望して膝をついた。戦えば保護者からの苦情で戦わなければ仲間と敵からの苦情。苦情の板挟みになった彼の姿は何時もよりも小さく見える。晴人は変身を解除するとその場で体育座りした。

 

「ああ、晴人までポンコツになった。もう終わりだ」

「大丈夫です、乾さん。まだ私がピンチになってませんわ。何時ものパターンなら絶妙なタイミングでファングさんが助けに来てくれます。今回もそれを信じましょう」

「何時ものパターンとか言っている時点でお前もポンコツになってねえか?」

 

 もちろんこんなふざけた番外編で何時もの都合のいい井上ワープが適用されるはずがない。中途半端に巧がピンチという情報しかエフォールに伝えられなかったファングたちは彼を探して街中を走り回っていた。

 

 そんな訳でティアラはバーナードとソードフィッシュオルフェノクの連携攻撃であっという間に追い込まれてしまった。

 

「そろそろ終わりにしようではないか」

 

 バーナードが必殺技の構えに入る。このままでは容赦のない一撃を浴びることになるだろう。

 

「・・・・・・おかしいですね、ファングさんが来ませんわ」

 

 ティアラはキョロキョロと周囲を見渡す。何時もならとっくに来ているファングが今日は来ない。おかしい。このままでは普通に死んでしまうではないか。だが一向にファングは井上ワープで現れる気配はない。不味い。このまま番外編で死ぬなんてヒロインにあるまじき末路だ。彼女は冷や汗が流れるのを感じた。

 

「本当に助けが来ると思っていたお前の頭がおかしい可能性はないか?」

「だってこれ番外編ですよ。前話より過去の出来事じゃないですか。ここで死ぬはずがないんですよ」

「そうなんだよな。普通はありえないよな。ははは、俺もまさかこんなふざけた番外編で死ぬと思わなかった」

「既に確定してますわよ!? ええ、私たち本当に死ぬんですか!?」

「ああ。このまま二人とも死ねェッ!」

『っ!』

 

 ティアラと巧は目の前に迫ったバーナードの鋭利な腕に目を閉じる。

 

 

 

「ぐおっ!」

 

 バーナードの腕を何かが弾いた。巧とティアラはゆっくりと目を開ける。そこにいたのはバーナードではなく正真正銘の草加雅人だった。彼はフォンブラスターをバーナードに向けて構えている。あれでバーナードの腕を撃ったのだろう。彼の腕に僅かな焦げ目が出来ていた。

 

「────大丈夫だ。君たちは絶対に死なせたりしない」

「えっ?」

「お前は・・・・・・草加!?」

 

 目を見開いている巧たちの姿を確認するとニヤリと笑う。

 

「君が草加雅人か。私のそっくりさんというからどんなものかと思ったが中々悪くない顔だな」

「君みたいな醜い怪物に言われても嬉しくないね」

 

 草加は小さく鼻を鳴らすとカイザフォンを構える。

 

────913

 

────standing by

 

「変身!」

 

────complete

 

 草加はカイザへと変身した。

 

「どれ、少し遊んでやろう」

 

 バーナードはその巨体にあるまじき素早さでカイザの背後に回り込むとその剣のように鋭い腕を振り下ろした。ファングでも見えなかった一撃だ。カイザが反応出来るはずがない。間違いなく直撃する。巧はそう思った。

 

「遊ばれているのはどっちかなあ?」

「・・・・・・少しはやるようだな」

 

 別にわざわざバーナードの動きに合わせて反応する必要はない。アルティメットファインダーの視野は広い。全方向に向いていると言っても過言ではない。一瞬で背後に回ろうが動きを止めた瞬間にカイザはバーナードの攻撃がどこから来るのか把握することが出来る。彼はカイザブレイガンを頭上に向けるとその一撃を受け止めた。

 

『私も相手になってもらいましょうかね。あなたのベルトを冴子さんに献上させてもらいますよ』

「ちっ!」

 

 ソードフィッシュオルフェノクは剣を突き出してカイザに突っ込む。バーナードの攻撃を受け止めている彼にそれを避ける手立てはない。カイザは舌打ちした。

 

「薄汚いオルフェノク風情が調子に乗るなよ」

『なにっ!?』

 

 カイザはバーナードの腕を支えているブレイガンの銃口をソードフィッシュオルフェノクに向けるとフォトンブラッドの光弾を放つ。直撃した彼は大きく仰け反った。

 

「ふん、いい加減鬱陶しいんだよ」

「むっ!?」

 

 カイザは片手でフォンブラスターを構えるとバーナードの顔面に光弾を放った。ダメージを受けた彼の力が僅かに緩む。カイザはバーナードの腹に飛び蹴りを叩き込むとその勢いのままサイドバッシャーに股がった。

 

「君みたいな怪物を相手にするならこれが一番良い」

 

 ────battle mode

 

「ぐおっ!」

 

 バイクが変形するなんて予想外だ。呆然としているバーナードをバトルモードになったサイドバッシャーの拳が吹き飛ばす。

 

「ふっ! 死ね!」

「ぐわあああああ!」

 

 サイドバッシャーからミサイルやレーザーが放たれる。圧倒的な火力をその身に浴びたバーナードはフューリーフォームを解除された。

 

「さて後は君だけだな」

『あまり私を見くびるなよ』

 

 ソードフィッシュオルフェノクはカイザに斬りかかる。見くびるなと言うだけはある。彼の剣の腕は見事だった。武道を嗜み三ライダーの中では最も優れた戦闘能力を持つ草加を圧倒する程に。カイザは徐々にソードフィッシュオルフェノクに追い込まれる。

 

『タァァァ!』

 

 ソードフィッシュオルフェノクの剣がカイザのブレイガンを弾き飛ばした。そして追撃に放たれた斬撃が直撃した彼はゴロゴロと転がる。好機。ソードフィッシュオルフェノクはカイザに向かって勢いよく駆け出す。

 

「草加っ!」

 

 不味い。このままではカイザが敗れる。巧は咄嗟にブレイガンからミッションメモリーを取り外すと彼に向けて放り投げた。

 

「上出来だ、乾!」

 

────ready

 

 カイザは足にポインターを装着するとソードフィッシュオルフェノクに足を向けた。

 

────exceed charge

 

『ぐうっ!?』

 

 四角錘状のエネルギーがソードフィッシュオルフェノクを拘束する。

 

「でぃやあああああ!」

 

 カイザの両足を突き出したキックがソードフィッシュオルフェノクを貫く。ゴルドスマッシュ。カイザの必殺技だ。圧倒的な高エネルギーに身体を蝕まれたソードフィッシュオルフェノクは灰と化した。

 

「ありがとうございました、草加さん」

「ありがとな、草加」

「どうにも君に礼を言われるのは慣れないな」

 

 変身を解除した草加に巧たちが駆け寄る。彼は頭を下げる巧に対して苦笑を浮かべた。以前の関係なら絶対にありえない光景だ。

 

「それよりも彼らはどうするんだ?」

 

 草加の視線がバーナードに向けられる。

 

「くっ、今日のところはここまでにしといてやる」

「マスター、無理して喋らないでください。お身体に触ります」

 

 バーナードはブラッディの肩に支えられながら逃走しようとしていた。草加は無言でフォンブラスターを構える。巧はその手を止めた。

 

「見逃してやれ」

「良いのか? 彼は君を罠に嵌めようとしたんだぞ」

「あいつも被害者なんだ。殴っちまったのは俺も悪いしな。今回は許してやってくれ」

「相変わらず甘いな、乾。まあ、それが君の良いところなんだろうけどね」

 

 草加はフッと笑うとフォンブラスターを下ろした。

 

「草加、お前どうやってこの世界に来たんだ? 海東はいないんだろ」

「鳴滝だ。あの男が俺を召喚した。君たちのピンチだってね」

「変な人だと思いましたがいい人だったのですね、鳴滝さん」

 

 巧とティアラは少し鳴滝を見直した。

 

「鳴滝さんは自称全ライダーの味方だからな。ただしディケイドを除いて」

「いつの間に復活したんだよ、晴人」

「もうこの際丸太の魔法使いでもいいと思ってな。何故か丸太を持っていると希望が半端ねえんだ」

 

 それは本当に大丈夫なのだろうか。丸太を持ってハァハァと笑いを浮かべる晴人に巧は首を傾げた。彼のそっくりさんはどんな人物なのか非常に気になって仕方がない。

 

「そうだ、草加。鳴滝のおっさんに会ったってことは今回の事件についても知ってるよな」

「次元を強引に越えた人がいる・・・・・・って解釈であってるかなぁ?」

「ああ。お前なんか心当たりがないか?」

「宿に戻れ。そこに今回の犯人はいる。こんなことになったのは全部ソイツの仕業なんだ」

「なんだって! それは本当か!?」

 

 巧は目を見開く。灯台もと暗しとは正にこのことだ。まさか向日葵荘に犯人がいるとは思わなかった。街中走り回ったこれまでの苦労はいったいなんだったのだろう。散々な目にあった彼はため息を吐いた。

 

「さっさと行きなよ。早くしないと手遅れになるぞ」

「ああ。本当にありがとな、草加」

「今度またお会いになる機会があればその時にきちんとお礼をしますわ」

「俺からも感謝するよ、草加」

「どういたしまして。また会えることを期待しているよ」

 

 巧たちは宿へと戻っていく。草加は何とも言えない顔で彼らの後ろ姿を見送った。既に死んでいる彼はあそこに加わることは出来ない。巧とまた共同生活をするのなんてこっちから願い下げなのだけど。でも少しだけ寂しい感覚を彼は覚えた。

 

「ご苦労だったな、仮面ライダーカイザ。協力感謝する」

 

 草加の背後から鳴滝が現れた。本来この世界に存在してはいけない彼を迎えに来たのだろう。草加は静かに振り返った。

 

「礼なんていらない。それよりも約束は忘れていないだろうな」

「園田真理への誕生プレゼントだろう。このザリガニの格好をしたキティちゃんの絵が描かれたTシャツは約束通り必ず渡しておくよ」

「ああ。真理はあれで意外と可愛いものが大好きだからな。きっと喜ぶ」

 

 草加は驚く真理の姿を想像して微笑んだ。

 

 ◇

 

「で、どうしてお前はこの世界に来たんだ?」

「そして何故夕飯をあなたが作っているのですか?」

 

 ファングとティアラは涼しい表情で夕飯の麻婆豆腐を並べている天道総司を睨み付ける。彼のせいで散々な目にあった。自分は真の仲間中毒になり、果林はアイドルになり、アリンはプリキュアになり、アポローネスとエフォールはデュエリストになり、晴人は丸太の魔法使いになり、そしてバーナードは草加になった。思い出すだけでも悪夢のような一日だ。

 

 巧とガルドは今回の騒動についての怒りはあれど天道にとても大きな恩があるので呆れるだけに踏み留まっていた。既に食事をしていたエフォールたちに混じって彼らも食事を始める。

 

「豆腐を買いに来たんだ。しかし俺はこの世界の金がなかったのでな。一日この店の厨房を手伝う代わりとしてこの一番良い豆腐を譲り受けた。世界広しと言えど異世界の豆腐を持ち帰る男は俺が初だろうな」

 

 ファングは無言で天道に殴りかかる。まさか本当に豆腐を買いに来るバカがいるとは思わなかった。彼の目には呆れの念がある。だがやはり天道は天道だ。優れた戦闘能力を持っているはずのファングの拳を軽々と受け止める。

 

「てめえ、ふざけんな。一発くらい殴らせろよ。今日一日どれだけ俺たちに迷惑を掛けたのか分かってんのか?」

「黙って俺の料理を食え。それでお前はこの俺を許すことになる」

「はあ? そんな訳ねえだろ。・・・・・・許すっ!」

「本当に切り替えの早い方ですわね」

 

 流石は天道だ。ファングの胃袋を一瞬にして掌握して彼の怒りを静めた。

 

「マジで豆腐なのかよ」

 

 今回の異変の正体が天道で、そしてその理由が豆腐だとは完全に予想外だ。晴人はため息を吐いた。結局鳴滝の言っていたことが全て正しかった。この世界もディケイドのせいで破壊されてしまったのだ、と。天道が巧たちを助けたのも士のせいなのだから本当に笑っていられない。

 

「ふ、半分冗談だ」

「全部冗談であって欲しかったんだけどね」

 

 少なくとも半分は豆腐のせいで今回の事件は起こったらしい。自信満々に笑う天道に晴人は呆れた。

 

「じゃあ残りの半分は何なんだよ」

「桜井に乾たちの近況について調べてほしいと頼まれたんだ」

「お前にとってはそれが豆腐とハーフアンドハーフなのかよ」

 

 そっちの方が明らかに重要だ。天道の基準が分からない。何故真っ先に人を怒らせる豆腐が出るのか本当に疑問である。唯我独尊を地で行く天道らしいと言えばらしいのかもしれないが。

 

「今回は元に戻ったから良かったけど。次からは気をつけろよ。ハイパーゼクターは時の列車と違って世界を越えたりしたら時空に歪みが出来るんだからな」

「最初から時の列車が使えるなら桜井は俺に頼んだりはしないだろう?」

「それはそうだけどよ・・・・・・。ま、いっか」

 

 とにかく今回の事件が一段落して良かった。晴人は食事をしている果林たちの姿を見つめる。痛みを与えれば皆元の性格に戻るということが判明したおかげで果林たちは何時もの姿を取り戻していた。

 

「巧さん、私本当にアイドルになっていたんですか?」

「ああ。フレッシュナンチャラってグループのアイドルをやってたらしいぞ」

「まったく記憶がありません・・・・・・」

 

 ソードフィッシュオルフェノクの張り手で正気に戻った果林は今日一日のことを一生懸命思い出そうとしている。

 

「私、何か変なこと言ったりしてませんよね?」

「変なことしか言ってなかったぞ」

「えー・・・・・・。気になります」

 

 思い出さない方が間違いなく幸せだと巧は思った。

 

「アポローネスはんとエフォールはんも何やってたか記憶ないんか?」

「覚えてる。楽しかった」

「童心に帰って児戯に勤しんでいたようだな」

「なんかおもろいことはなかったんか? 」

「ううん」

「たかがカードゲームで何があるというのだ。貴様の期待するようなことはない」

 

 そのたかがカードゲームでオルフェノクと勝負しようとした男が何を言う。

 

「これホントにすっごい美味しい。バハスの料理よりも美味しいかも」

「アリンちゃんも美味しそうだねえ。その服似合ってるよ、ぐふふ」

「ちょっとあんたまで鳴滝さんみたいなこと言わないでよ。気持ち悪いわ」

 

 普段と違う服を着たアリンにハーラーはヨダレを流している。見た感じ変態そうである彼女と同系列に扱われる鳴滝にファングは少し同情した。

 

「それにしても今回の事件でまたバーナードのヤツに目をつけられちまったな」

『この世界ではまだオルフェノクの力には覚醒していないようだが邪神の力は健在か』

『ティアラ、ぶじでよかったよー』

「ええ。本当に生きて帰って来れてよかったです。もしも草加さんがいなかったら・・・・・・」

 

 バーナードは厄介な相手だ。今回は草加がいたから撃退出来たがもしも彼がいなければ今頃自分と巧は死んでいただろう。ティアラは少し顔色を青くする。

 

「・・・・・・俺が間に合わなかったせいで怖い思いをさせちまったな。悪かった」

「ファングさんが責任を感じることではありませんわ」

「責任とかの話しじゃねえよ。俺はお前を────」

「私を?」

「いや、なんでもねえよ。とにかくお前や巧たちがピンチになったら俺が助けに行く。だからどんな状況でも絶対に生き残ることだけを考えろよ」

「言われなくても分かってますわ。ファングさんは私がいないと怠け者でダメ人間になってしまいますから。あなたより先に死ぬ気はありませんわ」

「奇遇だな。俺もお前より先に死ぬ気はないんだ。俺が先に死んだらお前を守る奴がいなくなるからな」

 

 ファングとティアラは笑い合った。

 

 

 

 

「さて、俺もそろそろ帰るとするか」

「え、もう帰るのか?」

「お目当ての物は手に入ったからな。俺がこれ以上ここにいてもやることはない」

 

 天道はボウルを晴人に見せつける。綺麗な四角い豆腐がその中に入っていた。

 

「巧の近況については知らなくて良いのか」

「おばあちゃんが言っていた。『食事とは人の心を写すもの。そこに笑顔が溢れているなら人は皆幸せだ』ってな」

 

 天道は食事をしている巧たちを見つめる。今日の出来事を笑いながら話す姿はとても暖かなものだ。まるで家族のように見える。

 

「・・・・・・あの笑顔だけで十分だ」

「確かにな」

 

 天道はうっすらと微笑むと出口に向けて足を進める。

 

「行っちまうのか?」

「なんだ、俺に用でもあるというのか?」

「いや、別に用があるって訳じゃねえけど・・・・・・」

 

 天道が帰ろうとしていることに気づいたファングは彼を呼び止めた。天道には言いたいことが山ほどある。今回のことでも言いたいことはある。だがそれ以外にも巧たちを今の世界に送ってくれた礼も言っていない。ちょっと考えるだけで言いたいことだらけだ。だらけすぎて何も伝えることが出来ない。ファングがもどかしさを誤魔化すように頭を掻いていると天道が口を開いた。

 

「そうだ。お前には城戸から伝言を伝えてくれと頼まれていたんだ」

「真司から?」

「ああ。『諦めなかった先に未来がある。だから何が起きても絶対に諦めるな』そう伝えてくれと頼まれた」

 

 諦めなかった先に未来がある、か。ファングはその言葉を深く胸に刻み込んだ。

 

「乾巧。お前はもう絶望する必要はない」

 

 天道は食堂の扉を閉める前にもう一度巧たちの姿を見た。既に食事を終えたのか彼らは食堂に備え付けられたカラオケの前に集まっている。一時的にアイドルになっていた影響か果林が歌い出したのだ。

 

「────♪」

「果林、上手」

「見事だな。異世界のそっくりさんとやらがアイドルになるのも納得の腕前だ」

 

 アイドル系のポップな歌は果林の透き通るような甘い声と相性抜群だ。聞くものが癒す歌を彼女は歌っていた。巧はその心地よさに目を細める。その子どものような姿に果林はクスリと笑う。

 

「私も、歌う」

「巧さんも歌いましょう。楽しいですよ」

「俺はいいよ。ガラじゃない」

 

 差し出されたマイクから巧は顔を反らす。女の子が歌う可愛らしいアイドルの歌を自分が歌うのはあまりにシュールで恥ずかしい。顔を反らした巧の眼前にギターが突きつけられる。顔を上げるとニヤニヤと笑っているファングがいた。

 

「俺様のギターだ。貸してやる。コードは画面に出るから弾けるだろ?」

「弾けるとか弾けないとかの問題じゃなくてだな・・・・・・」

「ええやん。そう固いこと言わんでも! ほら、目指せトップアイドルや! ワイもタンバリンで盛り上げるから一緒にやろうや!」

「しょうがねえな。弾くだけだぞ。絶対に歌わねえからな」

 

 巧はため息を吐きながらも僅かに笑みを浮かべる。彼は一度深呼吸をするとギターを弾き始めた。巧のギターの腕は本当に見事なものだ。プロと比べても遜色のないレベルの彼のギターにガルドたちは目を見開く。とても優しい音だ。果林は彼の腕から流れるメロディーに微笑んだ。

 

 

 

「・・・・・・さてと俺も帰るとするか」

「侑斗や真司によろしくな」

「ああ、任せておけ。きちんと伝えておこう」

 

 食堂の扉が閉じられる。晴人はどこからか汽笛の鳴る音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 こうして豆腐から始まった別世界のそっくりさん事件は終わった。

 

 だがファングたちに休んでいる暇はない。ギャザーのことも、オルフェノクのこともまだまだ解決していないことばかりだ。こうしている今も世界は滅びへと向かっている。だからこそ彼らは日々戦うのだ。

 

 それでもファングたちの日々は戦いだけではない。普段は描かれてない空白の中に彼らの幸せな日々はきちんとあるのだった。

 

 

 




カイザの日に間に合わなかったお詫びは来年の9月13日にしますのでどうかお許しください!

来年の913の日に没になった草加雅人は二度目の生を生きるという小説を書くのでお許しください!

とは言っても誰に許されなければいけないという訳でもないんですけどね。まあ僕自身が一番自分を許せてないので来年こそは草加さんによる草加さんのための小説を書きます。

関係ないですが真理ちゃん役の芳賀優里亜さんが北崎役の藤田玲さん主演の絶狼にレギュラー出演が決まったそうなので全国の草加さんは毎週リアルタイム視聴してください。ちなみに僕は既に毎週見る予定です
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