「あと少し、あと少しや」
ギャザーは天を仰いだ。聖域から天へと伸びる光が儀式の始まりを告げていた。もう直ぐだ。日没までは残り僅か。後少しで女神が降臨する。その時が来るのが本当に楽しみだ。彼は妖しい笑みを浮かべる。
「ギャザー、今ならまだ間に合います。全ての悪を滅ぼすなんて不可能です。女神は絶対にあなたの願いを叶えたりはしません」
円形に五亡星を描くように建てられた柱。その中心に縛られたリタはギャザーに言った。その口調は怒りよりもどちらかといえば彼を心配する思いの方が強い。
ギャザーがこうなってしまった原因をリタは知っている。本来なら彼はとても心優しき妖聖だ。エルモの死という悲劇がなければギャザーはこんなことをするような者ではない。だからこそ彼が叶わぬ願いによって身を滅ぼす姿を見たくないのだ。
「余計な心配なんていりません。ギャザーさんは最強の妖聖。必ずこの世全ての悪を滅ぼしてくれるでしょう」
柱にフューリーを突き刺していた狐の妖聖『クーコ』はリタを鼻で笑う。リタは彼女の心の中を覗き見る。ギャザーの洗脳によって理性を失ったドォンやフェンサーや人間に復讐心を燃やす妖聖たちとは違う。彼女は洗脳されていない。自分の意思を持って行動していた。
分からない。クーコはギャザーに心酔していて何を考えているのかまるで理解出来ない。正常な思考が出来るなら気づくはずだ。全ての悪人を滅ぼすなんて願いを女神が叶えてくれるはずがないと。
女神は普通の生命体とは異なる次元の存在だ。究極の善と言っても過言ではない。エルモの人類愛は彼女のそれを色濃く受け継いだものである。善そのものである女神は例え悪人であろうとそれが命を奪うという行為ならば絶対にその願いを叶えたりはしない。人を愛しているから。それこそ同じ次元に到達しようとした者が現れた時に初めて彼女は人に手を下すことになるだろう。
「リタはんは勘違いしとるなあ」
「っ!」
自分の思考が読まれていた。リタは心臓を鷲掴みにされたように背筋がヒヤリとする。
「女神がエルモの願いを叶えてくれないことくらいハナから分かっとるわ」
「どういう、ことですか?」
リタは目を見開く。願いが叶わないのは分かっている、だと。それならばどうして女神を復活させようとしているのだ。何がしたい。彼女はギャザーの不気味な視線に恐怖した。
「分かんないなら教えたるわ。女神にはワイの願いを叶えてもらうんや」
「無駄なことを。女神があなたの願いなんて叶えてくれるはずが『黙れ』────っ!」
有無を言わさぬ眼光にリタは居すくまる。
「女神が叶えてくれないなら誰がエルモの願いを叶えるんや? リタはんが叶えてくれるんか?」
「それは・・・・・・」
「無理やろ。リタはんが出来るならワイが最初からやっとるわ」
ギャザーは寂し気な笑みを浮かべる。
「リタはんには分からんやろな。どれだけ言っても私欲のために争うことを止めない人間の欲深さを何年も味わい続けた絶望はな」
きっと自分が封印されている間も彼はずっとエルモの願いを叶えようと奔走していたのだ。彼女を壊した世界を変えるために。そしてその全てが無駄に終わったのだろう。
「完全に悪を滅ぼす方法なんて一つしかない。人間から心を奪うしかないんや。でもそんなことが出来る力はワイにはない。だからワイは神々の力が欲しいんや。神になれば何でも出来るからな。せやから神の力を女神から手に入れてワイはこの世界の全てを支配する」
「今のあなたをエルモが見たら悲しみますよ! 神になるなんて止めてください!」
リタは思わず叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
「悲しんでる姿でもエルモにまた会えるならワイは神にだってなるわ、はははははははは!」
ギャザーは狂ったように笑いだす。ああ、そうか。リタは気づく。あの村で壊れてしまったのはエルモだけではなかった。ギャザーも壊れていたんだ。彼女は確信した。どのような手段を使うのかは分からないがこの男は神になろうとしている。
不可能だ。絶対に神になんてなれるはずがない。次元の違う力を手に入れようとすれば神々を敵に回すことになる。そうでなくとも神に至るレベルの力に耐えられる妖聖なんてこの世にいるはずがない。どう転んでもギャザーはその身を滅ぼすことになるだろう。諦めるしかないのか。リタは俯く。
「────ギャザーさん、敵襲です!」
リタは顔を見上げる。彼女の人並外れた視力が聖域の先、夕日に照らされたカヴァレ砂漠の地平線から人影が飛んでくるのを捉えた。きっと晴人たちだ。
「・・・・・・ついに来たか。お喋りはここまでや。じゃあな、リタはん」
「ギャザー、今ならまだ間に合います。こんな儀式止めにしましょう。あなた、死にますよ。如何にSランク妖聖と云えど神になるのなんて不可能です」
「可能性があるならそれだけで試す価値はあるわ。それにもし死んでもあの世でエルモに会えるやろ。どっちにしろワイが勝つ未来しかないやん」
ダメだ。どれだけ無謀と言ってもギャザーは引き下がる気はない。誰か彼を止めてくれ。リタは祈った。
◇
「グオオオオオオオオオオ!」
赤き飛竜の姿をした炎の妖聖『ボゥアー』は上空からウィザードたちを睨み付ける。とてつもない咆哮だ。その咆哮だけでガルドはビリビリとした威圧感を感じる。こいつは恐ろしく強い。強力なモンスターの象徴として数多く存在するドラゴンの中でもボゥアーは抜きん出ていた。帝金竜や帝青竜、フェンサーですら恐れる怪物たちと比べても遜色のないレベルだ。どう戦う。ガルドは鎌を持つ手に力を込める。
「ご立派な妖聖だねえ。是非ともサンプルが欲しいよ」
「今はそんなこと言ってる場合とちゃうやろ」
「分かってるって。でも、あのふさふさした毛が私を誘惑するんだよぉ」
相も変わらずヨダレを流すハーラー。聖域から神々しい光が漏れ、今にも女神が復活しそうな雰囲気にも関わらず呑気なものだ。ガルドは苦笑を浮かべる。
「ドラゴンは俺の希望なんだ。悪さする前に倒さしてもらうぜ」
ウィザードはボゥアーにウィザーソードガンを向けた。
「ゴオ!」
ボゥアーは巨大な口を開くと火球を発射する。僅かに混ざった岩が燃え盛る姿は隕石のようだ。降り注ぐ隕石を彼らは跳んで回避する。ウィザードは懐から四つの宝石が散りばめられた指輪を取り出す。
「ドラゴンにはドラゴンだ」
『スペシャルラッシュ プリーズ! フレイム! ウォーター! ハリケーン! ランド!』
ウィザードの身体がドラゴンのシルエットを象ったモノへと変わる。ウィザードラゴンの全能力を解放したフレイムドラゴンの更なる強化形態『ウィザード・スペシャルラッシュ』だ。強大な炎の魔力を解放したウィザードは翼を羽ばたかせ高々と飛翔する。
「ボオオオオオオオオオオ!」
「悪いけどこんな所で足止めを食らう訳にはいかない」
放射状に放たれる炎の中をウィザードは突っ切っていく。今の彼に炎の攻撃は通用しない。ウィザード・スペシャルラッシュはフレイムドラゴンの強化形態。炎そのものと言っても過言ではないからだ。
「とっとと終わらせてやる」
ウィザードは依然として炎を吐き続けるボゥアーの懐に潜り込んだ。巨体のモンスターは人間よりも遥かに優れた身体能力を有している。だがその身体の大きさが災いして小回りが利かない。
「グオッ!?」
つまり至近距離の攻撃には無力だ。無防備となったボゥアーの腹に巨大な爪────ラッシュヘルクローを振り下ろした。
「やるぞ、ガルド!」
「がってん!」
落下するボゥアーを地上にいるガルドが迎撃する。彼の鎌が巻き起こした竜巻にボゥアーは飲み込まれた。天上天下。ガルドの必殺技だ。
天上天下によって再び宙に巻き上げられたボゥアーに向けてウィザードも大技を発動する。胸部から伸びたウィザードラゴンの頭部────ラッシュスカルから不死鳥すら焼き付くす業火『ドラゴンブレス』を放った。
炎属性の妖聖であるボゥアーもこの二つの合わせ技にはダメージを避けられない。彼の硬い装甲とも言える全身の鱗を砕いていく。今なら一気に大ダメージを与えることが出来るだろう。
「フィナーレだ」
『チョーイイネ! キックストライク サイコー!』
爆炎の大嵐に向けてウィザードは急降下した。突き出された足は炎を纏って宙を舞うボゥアーに突き刺さる。ストライクウィザード。ウィザードの必殺技だ。数多くの怪人や怪物を葬ってきたその一撃は凶悪な強さを持つボゥアーすら軽々と貫いた。
「ふぃー」
ウィザードは変身を解除すると一息吐く。
「やったな、晴人はん!」
「おう」
ボゥアーを撃破した晴人とガルドは腕をコツンと合わせる。
「ほら、これで魔力を回復しなよ」
「お、サンキュー」
晴人はハーラーから渡されたエーテルマックスと呼ばれる魔力回復薬を口にする。それにしてもこの世界の魔法や回復アイテムというものは実に革新的だ。文明レベルは晴人の世界よりも遥かに遅れているのに薬品回りの技術だけは彼の世界の水準を軽々と越える。一瞬にして身体の傷が癒える薬なんて晴人の世界であったら間違いなくノーベル医学賞ものだ。
特にこの魔力回復の薬は晴人からしたら驚きだ。彼の世界では魔法は過去の遺物。とっくに廃れたものだ。魔力を回復するような便利な薬はない。
「・・・・・・仁藤が見たら驚くだろうな」
晴人は友人の仁藤の驚く姿を想像した。仁藤の変身する仮面ライダービーストは晴人と違って魔力がそのまま自分の命に直結している。彼は魔力で生まれた怪人のファントムの魔力を食べなくては死ぬ。だから魔力を回復するこの薬は仁藤からしたら喉から手が出るほどに欲しいだろう。元の世界に帰る時が来たら土産としてこの薬を持っていこう。晴人はそう思った。
「今のが最後の敵か?」
「最後、ではないと思う。最強の敵ではあるだろうけどね。今の妖聖はAランク妖聖だよ。普通ならドルファ四天王でも苦戦するレベルの相手だ」
地面に突き刺さったフューリーをハーラーは分析する。このカヴァレ砂漠の道中でも数多くの妖聖と戦ってきたがこれほどまでに戦闘力の高い妖聖はいなかった。ギャザーの戦闘に備えて魔力を温存しているウィザードでも十分に倒せた相手だ。
そのウィザードが大幅に魔力を消耗するスペシャルラッシュを使わざるを得なかったボゥアー。戦いこそ一瞬で終わったが彼は相当な強敵だったのだ。聖域の前で待ち構えている妖聖の中では恐らく最強で間違いないだろう。
「つまりこれより上はギャザーだけなんやな」
「みたいだな。だけどそのギャザーがとにかく強いんだよ」
「この妖聖も含めてこれまでの相手とは比べものにならないだろうね」
「こいつよりも強いんか・・・・・・。ワイ、ちょっと震えてきたわ」
そのボゥアーもギャザーの前ではただの妖聖でしかない。今回の黒幕であるギャザーが今までの強敵たちと一線を画す存在なのだと改めて考えなければならない。その事実は先ほどボゥアーに重圧を感じていたガルドにとっては晴人とハーラーよりも大きい。彼は僅かに身震いした。
「怖じ気づいている場合じゃない。ファングや巧たちがいない今、ギャザーと戦うことになるのは俺とお前なんだからな」
「私はバハスがいないと満足に戦えないしね」
「わかっとる、わかっとるんやけどなあ」
「肩肘張んなよ。心配すんな。お前が絶望しそうになったら俺が希望になってやるからさ」
晴人はガルドの肩を叩いた。彼の柔和な笑みにガルドは肩の力が抜けていくのを感じた。きっと元の世界でもこうやって晴人は多くの人の希望になっていたのだろう。ファングや巧とはまた違う頼りがいのある彼の姿に彼は勇気を貰う。
「よっしゃ! 燃えてきたわ!」
気合い十分。先ほどまでの弱気が嘘のようにガルドは聖域に向けて駆け出した。晴人とハーラーは何時もの調子を取り戻した彼に続く。
しかしガルドの足は直ぐに止まることになった。それは彼だけでなく晴人もハーラーも同じだ。彼らは目の前に現れた男に険しい表情を浮かべる。
「────へえ、ボゥアーをこうもあっさり倒すなんてびっくりしたわ」
ギャザー。やはり最後に待ち受けるのはこの男であった。後少しで女神の聖域へと近づいてきたタイミングで現れる辺りこちらの行動は筒抜けだったらしい。彼の背後にはクーコやその他の妖聖たちもいる。まだまだ戦力を温存していたようだ。
「ね、やっぱり最後の敵じゃなかったでしょ?」
「出来れば外れてほしかったわ」
「ああ。流石に想定外だ。こんなにたくさんの妖聖が残っているなんてな」
晴人とガルドは内心で舌打ちする。ギャザーだけでも手一杯なのに更に妖聖が加わるとなると厄介だ。彼らは二人掛かりでギャザーと戦う算段を立てていた。妖聖がいてはその計画が崩れてしまう。
「・・・・・・妖聖はワイに任せて晴人はんはギャザーを頼む」
「そうするしかないよな、やっぱ」
反則的な強さを誇るギャザーと互角以上に戦えるウィザード。彼が前衛に回り後衛のガルドが回復魔法を使ってサポートする。シンプルだが着実に勝利を狙える戦法を本来なら使うはずだった。
しかしながらこれに妖聖が加わるとウィザードは一人でギャザーと戦わなくてはならない。ガルドは複数の妖聖を抑えなくてはならないからだ。異様なまでの手数を誇るギャザーを相手に回復役がいなくなるのはあまりに大きい。それが裏目に出ないと良いのだが。
「来い、妖聖。ワイがお前ら全員正気に戻したる!」
「余計なお世話を。私たちは正気です。皆さん、行きますよ! 彼らを殺して妖聖が自由に生きられる世界を作るのです!」
空を飛んだガルドに向けて一斉にクーコの率いる妖聖が向かっていく。ただ一人を残して。
「さて、オレたちも戦うとするか」
斧を片手にバハスはハーラーに近づく。
「バハス・・・・・・」
ハーラーは寂しげな目でバハスを見つめる。前回は唐突で気づかなかったが親代わりだった彼に刃を向けられるショックは想像以上に大きかった。今更ながらに彼女はもっと日頃からバハスに言われていたように整理整頓しておけば良かったと後悔する。
「そんな顔をしても戻る気はないぞ。オレだってあいつらと気持ちは同じだ。誰にも縛られず、自由に生きるためにお前さんを殺す」
「私が、バハスをそうさせたのかい? 私がだらしないから・・・・・・?」
「別にハーラーだけの責任じゃない。原因の一つはお前さんだが全てとは言わん。人間と妖聖はどこまで行っても違う種族なんだ。オレたちはいつかこうなる運命だったんだ」
バハスがハーラーを裏切ったのは何も彼女がだらしないからというだけではない。根本的な問題は他の妖聖たちと同じなのだ。人間に対する不信感がバハスにはあった。
「お前さんなら分かるだろ。今、人間と妖聖がどういう関係なのか」
バハスは人間と妖聖の関係に疑問を抱いていた。傲慢な言い方になるが今の世界があるのは女神と妖聖のおかげだ。彼らがいたから邪神を封印出来たのである。にもかかわらず人間はその恩を仇で返している。彼らの妖聖に対する認識は願いを叶えるフューリーに宿った不思議な生き物程度でしかない。世界を救った恩人に対してだ。
「オレたちは皆生きてるんだ。心があるんだよ。楽しければ笑うし、悲しければ泣く」
「それくらい知ってるよ。アリンちゃんや果林ちゃん、あんたを見てれば気づかないはずがないさ」
「だけど人間の中にはそれに気づかない奴らがいる。妖聖を都合の良い神にする奴や奴隷のように扱う奴らだ。オレは他の妖聖みたいに人間を憎んでる訳じゃない。だがな、だからといってこのまま黙っている訳にもいかない。愚か者たちに気づかせるためにもオレは妖聖の側に立たせてもらうぞ」
それだけならまだ納得出来たかもしれない。種族が違えば多少の偏見はある。ピピンとあった時はバハスも彼を好機の目で見た。それと変わらないのなら仕方がない。でも現実は偏見ではすまない。エルモのように人の悪意によって傷つけられる妖聖は増え続ける一方だ。今この場所にいる無数の妖聖こそがその証明である。納得出来ない。こんなことが許されて良いのだろうか。いや、許されていいはずがない。何故なら人間と妖聖は・・・・・・。
「オレたち妖聖はフェンサーと、人間と対等じゃなかったのか? なら対等に、自由に生きられる権利があるはずだ!」
「・・・・・・本当に人間と対等ならこんなやり方が許される訳ないよ! バハスのやり方は絶対に間違ってる!」
「だったらオレを止めてみせろ!」
バハスはハーラーに斧を振り下ろした。彼女はそれを銃で受け流す。人間を守るためにハーラーは、妖聖を守るためにバハスは本来共に戦うはずのパートナーと望まぬ争いを始める。
「このまま女神を復活させたらお前は心まで怪物になっちまうぞ。今ならきっとまだ間に合う。多くの人を巻き込む前に儀式を止めろ」
口で言っても無駄だと分かっていても晴人はギャザーと戦いたくはなかった。ギャザーと同じように彼は大切な人を失っている。彼女を生き返らせることが出来たらと思ったこともあった。今だって彼女を救えなかった後悔が消えた訳ではない。それでも晴人は踏みとどまった。過去に戻ろうとするのではなく全てを受け入れて前へ進む。人々を守る希望の魔法使いになったのだ。
ギャザーに自分と同じ選択をしろと言う気はない。だからといって人を愛したエルモのために人を殺す選択だけはさせたくなかった。この世から悪をなくすというのなら滅ぼす以外にもっと他に選べる道はあるはず。彼女の心を救う方法は他にもあるはずなのだ。
「ふん、知ったような口を聞くんやない。ワイからしたらお前ら人間の方が怪物や。自分のくだらん欲望のために他人を平気で傷つけ、そして殺す。同族だけならまだしも時には他の種族まで自分の欲望に巻き込むんやから救いようがないわ。人間はみんな欲望に囚われた哀れな存在や。・・・・・・そんな哀れな奴らを愛していたからエルモは死んだんや」
言葉の端から見えるギャザーの深き絶望に晴人は背筋が冷たくなる。底知れぬ憎悪だ。長年戦ってきた彼も思わず仰け反ってしまう。思えば復讐心に支配された者と戦うのは初めてだ。これまでも愛する人を失った者と何度も戦ってきた。それでも彼が戦った相手の中に愛する人を殺された者はいない。不治の病や不慮の事故などどうしようもない死であって誰かの悪意によって殺された訳ではなかった。
晴人が戦ってきた彼らの目的は愛する人を失ったことへの悲しみ。愛する人を生き返らせるというものだ。一方で今戦おうとしているギャザーは愛する人を奪った人々への復讐。人間の心をなくすというものだ。そこへと至った道は似ていても終着点は大きく異なる。想いの強さだけならかつての強敵たちよりも上かもしれない。彼はギャザーへの警戒心を強めた。
「そやからワイが神になって人間を導いてやるんや。誰も争うことのない、悪なき理想の世界を作ったる」
「・・・・・・確かに人間は欲望に囚われているのかもしれない。平気で人を傷つけるし、戦争だってする。俺のいた世界にだってそういう奴らは嫌になる程いるよ」
晴人は少しだけギャザーの言っていることに魅力を感じた。世界から欲望がなくなれば悪が栄えることはない。もしも彼が神になれば誰かによって傷つけられる人も戦争もこの世から全てなくなるだろう。心が、欲がなくなるとはそういうことだ。誰も傷つかない世界。彼が作る世界は客観的に見れば確かに理想的なのかもしれない。
・・・・・・だけどその世界に生きる人々に幸せはない。夢を持つことも、喜びに笑うことも、悲しみに泣くこともない。心を、欲をなくすということはそういうことだ。誰も感情に動かされることのない世界。それは絶対に理想的な世界などではない。やはりギャザーは止めなくてはならない。晴人は軽く頭を振ると強い目で彼を睨んだ。
「・・・・・・でも欲望は必ずしも誰かを傷つけるものじゃない。誰かを救う力に、前に進む力になる。希望にだってなるんだ。俺は知っている。世界平和を願う女の子を。その子を守るために一生懸命に戦う男を。世界中の人が幸せになることを夢見る男を。希望という欲望を持った人たちを俺は知っているぞ」
「はあ? だからなんやねん?」
「だから・・・・・・」
『ドライバーオーン プリーズ! シャバドゥビタッチヘンシーン! シャバドゥビタッチヘンシーン! シャバドゥビタッチヘンシーン!』
晴人はウィザードライバーを起動すると白銀の指輪を取り出す。
「・・・・・・お前が導く必要はない! 変身!」
『インフィニティ プリーズ! ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーン!』
晴人の身体をクリスタルのように透き通ったドラゴンが飲み込む。彼は白銀のウィザードに変身した。ダイヤモンドのような輝きを放つ神々しき力は晴人の希望が生んだ奇跡。涙のように流れ落ちていった希望を一つ残らず宝石に変えた最強の姿。ギャザーの圧倒的な絶望すら無限の希望の前には霞んで見える。『ウィザード・インフィニティスタイル』最後の希望へと彼は変身を遂げたのだ。
「・・・・・・それが奥の手か」
膨大に膨れ上がったウィザードの魔力にギャザーは目の色を変える。確かにこの力は脅威だ。邪神の力を使っていたあのファングにも匹敵するかもしれない。斧と剣の融合した専用武器────アックスカリバーを構えた彼にギャザーは警戒心を強めた。油断すればこの前のように一方的にやられる。今日は最初から自分の全てを出しきる。彼はその手に剣を握った。
「さあ、ショータイムだ」
「ふん。ショーはショーでもワイの殺戮ショーや!」
ウィザードとギャザー。愛する者を失いながらも希望を失わなかった男。愛する者を失い絶望に支配された男。対極的な立ち位置にいる二人の戦いの火蓋がここに切って落とされた。
◇
晴人がギャザーと交戦を始めたのと同時刻。
女神復活が近づいていることに気づいた巧たちはカヴァレ砂漠の聖域に向かおうとしていた。ギャザー相手にどこまで自分たちが役に立つのか分からないが戦力は多い方が良いはずだ。
「とりあえずバイクを拾いにいかねえとな」
巧はマシンウィンガーの停めてあった場所へと向かう。聖域へはまだまだ遠い。なるべく早く向かうには足が必要だ。
ウルフオルフェノクの力を使って移動することも考えたがそうなると普通の人間である三原の移動手段がない。エフォールかティアラに抱えてもらうことを提案したが何故か彼は血相を変えて断った。そんなことがバレたらアイツに殺されてしまうと三原は言っていたが一体誰に殺されてしまうのだろう。謎だ。
「バイクと言えば私たち何か忘れてませんか?」
「忘れるって何を?」
「そこまでは思い出せないんですけど。とにかく何かを忘れている気がするんです」
果林は気になることでもあるのか首を傾げている。バイクに関して何か忘れていることでもあっただろうか。巧も腕を組んで考えてみたが思い出すことが出来ない。おかしい。全ての記憶を思い出したんだから忘れていることなんてないはずだが。彼も引っかかる何かを感じた。
まあ、忘れているということは大したことではないのだろう。そんなことよりも今は急がなくてはいけないんだ。忘れてることなんてまた後で思い出せば良い。もう少しでマシンウィンガーのあった場所にたどり着く。巧は歩を早める。そして何を忘れているのか思い出した。
『ピロロロロ!』
オートバジンだ。間違いない。巧が目の前に来た瞬間マシンウィンガーを蹴り飛ばして『何を忘れているんだい。真の相棒は僕だろ?』と言わんばかりに自己主張してるのだから。
「・・・・・・これだな」
巧は遠い目で言った。今のバジンのキックで凹んだマシンウィンガーのカウルの修理費は幾らになるのだろうか。晴人曰くマシンウィンガーは魔法の力を使うために貴重な宝石を使って作られたらしいが・・・・・・。いっそのこと敵の攻撃で傷つけられたことにでもして誤魔化そうか。バレないだろうし。彼は真面目にそう考えた。
「・・・・・・これですね」
『ピロロロロロロ!』
果林は遠い目で頷く。バジンの視線は巧に向けられてない。間違いなく自分に向けられている。彼女は僅かに震える。マシンウィンガーを踏みつけながら『次は君だよ』と言わんばかりに電子音を鳴らす姿に恐怖を感じてしまったのだ。
「へー、乾だけじゃなくてそのバイクも生き返ったんだな」
「バジンちゃんが戻ってきて良かった」
「やっぱり乾さんのバイクと言えばバジンさんですものね!」
そんな水面下の争いに気づかない三原たちはバジンの復活に素直に笑顔を浮かべる。彼らにはバジンも敵意がないのか嬉しそうに電子音を鳴らす。
「これで足が手に入ったな、乾!」
「・・・・・・三原はそっちの方に乗れ」
「えっ? 最初からそのつもりだけど」
よし、罪を擦り付けられる相手が見つかった。これで責任は全部三原だ。深く考えずマシンウィンガーに跨がった彼に巧は内心でガッツポーズした。
「二台あるなら無理してフェアライズしなくても済みそうだな」
「私はともかくエフォールさんは先ほどの戦いで大分疲弊してますものね」
「別に、いい」
「エフォール、あなたはとても疲れているのですから。休ませてもらいましょう」
エフォールは先ほどの戦闘で瀕死の重傷を負った。ティアラの魔法で傷こそ癒えたが体力や精神的な疲労を回復することまでは出来ない。フェンサーと云えど人間だ。疲労を抱えた状態でフューリーフォームになることは難しい。事態が事態なだけに多少の無理も考えていただけにここでバジンが戻ってきたことは本当にありがたかった。
「休む必要なんてない。私は平気だもん」
「遠慮する必要はありませんわ。ファングさんだってあなたが無理をすれば悲しみますよ」
「ファングが・・・・・・! 分かった!」
「切り替え早いな、おい」
パッと笑顔を浮かべてエフォールは頷く。
「たく、アイツの名前を出した途端に素直になりやがって」
「はは。子どもってそういうもんだぞ、乾」
「お前に子どもの何が分かるんだよ」
「分かるさ、君もいつか分かる日が来るよ」
しみじみとした感じで笑う三原に巧は怪訝な表情を浮かべる。何というか以前に比べてジジくさくなった。そういえば彼は孤児院で働いていたはず。日頃から子どもと触れ合っているからそう見えるのかもしれない。
「君もあまり無茶はするなよ。アレの負担は相当大きいんだからな」
「別に俺は平気だ。・・・・・・お前も大人になったんだな、三原」
「若いままの君が羨ましくなるくらいにはね」
暫く見ない内に成長したものだ。あの三原が他人を気遣う余裕を見せるなんて。出会った頃の臆病な彼からは想像もつかない。十年以上の歳月はやはり長いのだろう。肉体的にも精神的にもすっかりと大人になった三原に巧は感慨深いものを感じた。
「まだまだお若いように見えますよ」
「そうかな? そろそろおじさんって呼ばれる年頃なんだけどね」
三原は冗談めかして微笑むとマシンウィンガーを起こした。
「三原おじさん・・・・・・?」
エフォールはヘルメットを胸に抱えると首を傾げる。バハスやパイガがおじさんの基準になっている彼女からしたら三原はまだ普通の大人だ。実際に見た目からしてアポローネスより少し上くらいにしか思えない。
「あ、でもやっぱりおじさん呼びはショックだからやめて」
「自分で言ったんだろ、おっさん」
「君だって本来ならおっさんじゃないか。たっくんじゃなくてたっさんだろ」
「はあ、なんだそれ?」
聞き覚えのない新しいあだ名に巧は目を丸くする。また啓太郎が付けたのだろうか。誰がそう呼んでいるのか非常に気になる。
「なんでもないさ。ほら、急がないといけないんだろ?」
「だからたっさんってなんだよ?」
「その内分かるよ」
本当に分かる時が来るんだろうか。疑問に思う巧を尻目に三原はマシンウィンガーのエンジンを起動した。
「さ、乗ってくれ。えっと、エフォールちゃん」
「ありがと、三原」
三原の後ろにエフォールが座る。バジンに蹴られてもマシンウィンガーは健在のようでこのまま普通に発進出来そうだ。
「ティアラ、乗れよ。お前も疲れてんだろ?」
「えっと、私で良いのですか? 果林さんを乗せて差し上げれば良いじゃないですか」
「いや、なんか果林がこいつに乗りたくないって言ってるからさ。エフォールの弓にフェアリンクするから良いんだってよ」
いつの間にか果林はエフォールの鎌にフェアリンクしていた。今のバジンに乗るのは危険だ。バジンは基本的に優しい子?だから大丈夫だが万が一のことがある。彼女は出来る限りバジンと距離をとりたかった。
「・・・・・・お気持ちはありがたいのですが。私はここまでです」
「ここまでってお前・・・・・・?」
ここまでです。そう言うとティアラは彼らから一歩離れる。おかしい。この中では三原の次に疲労の少ない彼女が何故離脱しようとしている。ここからの戦いはきっとさっきのオルフェノクとの戦いよりも更に過酷になる。回復のティアラは確実に必要となる場面が来るはずなのだ。
「・・・・・・そういうこと。気づかなかった」
「なに?」
巧が首を捻っているとエフォールがハッとしたように目を見開いた。気配察知の能力に長けた彼女のことだ。何者かが近づいていることに気づいたのだろう。誰だ。まさか逃亡したライオンオルフェノクたちが仲間を引き連れて戻ってきたのか。
巧は意識を集中させた。オルフェノクの力を使うのだ。ウルフオルフェノクの超感覚が高速で接近している男を捉える。木々を飛び越え現れた彼に巧は驚愕した。
「────お久しぶりですね」
シャルマン。かつての仲間。オルフェノクと手を組み行方を眩ました男。剣を片手に不敵な笑みを浮かべた彼に巧は目付きを鋭くする。
『どうしてあなたがここに・・・・・・!?』
「・・・・・・誰だ、あいつは?」
「シャルマン。俺たちの元仲間だ」
「今は敵」
「敵? 一人で何が出来るっていうんだ。オルフェノクはもういないんだぞ」
三原は目を丸くする。理解出来ない。既にシャルマンの仲間であるオルフェノクたちは撤退している。彼の仲間は一人もいない。何故このタイミングで彼が現れたのか本当に謎だった。目的はなんだ。巧が疑問を口にするがシャルマンの意識はこちらに向くことはない。
「あの方の目的は私ですわ」
シャルマンの意識はティアラに向けられていた。
「気づいていましたか」
「ええ。先ほどの戦いから私を見ていたでしょう」
オルフェノクとの乱戦の最中、戦況をずっと窺っている者がいた。それがシャルマンだ。気配を殺していたからか、あるいはライオトルーパーの中に上手く紛れ込んでいたのかエフォールにも気づかれることなく彼はあの激闘を覗き見ていた。
それでもシャルマンはエフォールのような元暗殺者ではない。彼女のように完全に気配を消すことなど不可能だ。あくまで剣士である彼にはどうしても抑えきれないものがある。
「こんなに強い殺気を向けられたのは初めてでしたもの」
殺気だ。どういう訳かシャルマンはティアラに殺意を抱いている。あれだけ激しい戦いを繰り広げながらも彼が興味を示していたのはティアラだけ。エフォールが気づかなかったのも彼の殺気が自分に向けられることがなかったからだ。
「奇遇ですね。僕もこんなに殺してしまいたいと思った人は初めてですよ」
何が奇遇なんだ。被害者と加害者では同じ初めてでもまるで意味が違う。そもそも前の世界で仲間だったティアラを何故オルフェノクに寝返ってまで殺したがる。彼女にシャルマンは好意を持っていたのではなかったのか。彼が過去に戻る直前でその想いをティアラに伝えていたことを巧は知っている。
それがどうしてここまで豹変しているんだ。まさか過去の世界でティアラを殺した犯人は────。そこまで考えて巧は首を振る。今は余計なことを考えている場合ではない。シャルマンが敵として現れたならやるべきことは一つ。
「ティアラ、下がれ。ここまでなのは俺だ。お前は三原と一緒に先へ行け。こいつとは俺が戦う」
シャルマンは剣だけならファングにも匹敵する実力だ。事実過去の世界ではエフォールとガルド、そしてファイズを相手どって優勢だった。彼女が戦って勝てる相手ではない。
ましてやシャルマンはティアラを殺す気だ。彼女をこのまま戦わせるのはあまりに危険すぎる。巧はファングにパーティのことを頼まれているのだ。みすみす仲間を危険な目に遭わす訳にはいかない。ここは自分がシャルマンと戦う。巧はベルトを片手にティアラの前に出ようとした。
「ダメですよ、乾さん。ここからの戦いに必要なのは私ではなくあなたですわ」
しかし、ティアラが広げた手によって巧の道が遮られる。
「何言ってんだよ。俺なんかお前みたいに怪我を治せる魔法が使える訳じゃないんだ。必要になる場面なんてない。それにシャルマンには聞きてえことが山ほどあるんだ。お前が行け」
「回復役ならガルドさんがいるじゃないですか。晴人さんが本当にギャザーさんに勝てる保証がない以上、今一番必要なのは乾さんや三原さんのあの力ですわ。大丈夫です。私だって強くなったのですから。・・・・・・それに聞きたいことがあるのは私も同じですわ」
危険だというのがどうして分からないんだ。既に固い決意を固めているティアラに巧は食い下がる。絶対に彼女を行かせてはならない。あの悲劇を繰り返してはならないのだ。何としてでも自分が代わらなくては。
「乾さんが行かなくて誰が果林さんを、皆さんを守るのですか? あなたはファングさんに皆さんのことを任されているのですよ」
「その皆さんの中にはお前もいないとダメなんだよ。お前を守る奴がいないだろ!」
「心配しなくとも大丈夫ですわ」
声を荒げる巧にティアラはクスリと笑う。
「────私のことはファングさんが守ってくれますから」
巧は面食らう。似たようなことを以前も聞いたことがある。
「お前、またそんなことを・・・・・・」
「大丈夫です。ファングさんは本当に私がピンチになったなら絶対に助けに来てくれます。もし、ファングさんが来てくれないならそれはきっと私一人でどうにか出来ることですわ。だから乾さんは私のことは気にせず行って下さい」
笑顔のティアラに巧は毒気を抜かれた。普段は少々ネガティブな彼女がこうして明るく笑っていると何だか本当にどうにかなってしまいそうな気がする。
「たく、もう勝手にしろ。その代わり絶対に死ぬんじゃねえぞ」
「ええ。必ず生きて追いつきますわ。約束します」
「・・・・・・その約束絶対に守れよ」
巧は渋々とバジンに乗った。
「行くぞ、三原」
「良いのか?」
「ああ。あいつは絶対に生きて追いつく。そう信じるしかねえよ」
巧と三原はバイクを発進させた。後ろ髪を引かれる思いはある。それでも今は迷っている暇はなかった。恐らく女神復活までそう時間はないだろう。全速力で飛ばしても間に合うかどうか怪しいかもしれない。彼らはアクセルを全力で振り絞った。
「信じるって大丈夫なのか、それ?」
『大丈夫ですよ、きっと』
「うん、ティアラは嘘吐いたことないから」
「三星シェフのこと以外な」
◇
「もう終わりですか?」
やはりシャルマンは強い。まがりなりにも上級オルフェノクである冴子を圧倒していたティアラが一方的に追い詰められていた。剣より有利な武器である薙刀を使っているにも関わらず、だ。彼女は巧が何故あれほどまでに必死になって自分が戦うと言っていたのか理解した。
「くっ!」
「終わりみたいですね」
膝をついたティアラの眼前にシャルマンは剣を突きつける。敗北だ。彼女はあっという間にシャルマンに敗北した。抵抗を止めたティアラを見下ろしたシャルマンが口を開く。
「間もなく女神が復活します」
「だから、何だと言うのですか?」
「浄化される世界に悪は必要がない。この意味が分かりますか?」
オルフェノクと組んでいるシャルマンがどの口でそれを言うんだ。何が言いたいのかまったく分からない。ティアラは首を傾げる。
「僕は知っているんですよ。あなたの『正体』をね」
「っ! ・・・・・・だから私を殺したいのですね」
どうりで自分に執着している訳だ。今までどうしてこんな簡単なことに気づかなかったのだろう。自分を殺したがる人間の動機なんて何度も何度も嫌になるほど見てきたというのに。やはり自分はこうなる運命なのか。ティアラは自嘲気な笑みを浮かべる。
「平和な世界にあなたのような存在は不要なんです。・・・・・・死んでくれますね、ティアラさん」
「・・・・・・もちろん」
向けられた剣にティアラは目を伏せる。いつかこうなる日が来るとは薄々思っていた。その時どう返答すれば良いのか。答えはもう決まっていた。
「お断りします」
絶対に死んでたまるものか。ティアラは首を振った。
「・・・・・・何故です」
シャルマンの剣を持つ手が震える。断られるなんて思ってもいなかったのだろう。動揺と怒りに彼は顔を歪めていた。
「私がいないと怠け者でダメ人間になってしまう人がいますから。その人より先に死ぬ気も殺される気もありませんわ」
どんな状況になっても生き残ることだけを考える。ティアラはファングとそう約束した。だから自分が世界にとって不要な存在になろうと彼女は絶対に生きることを諦める気はない。
「そう、ですか。・・・・・・何故だ! 何故あなたは僕ではなくファングくんを選ぶんです!? あの時もッ! 今もッ! 彼はここにはいないんだ! ここには僕しかいないんだ! だから今は僕を、僕だけを見てください!」
「きゃあっ!」
シャルマンはティアラを突き飛ばした。ファングの存在が彼の琴線に触れたのだろう。完全に怒り狂っている。殺意に支配されたシャルマンは剣を振り上げた。本当に自分を斬る気なのか。ティアラは目をぎゅっと閉じた。
それでも不思議と恐怖感は感じなかった。目の前に剣という名の死が迫っているにも関わらず、だ。大丈夫だ。ティアラがファングと交わした約束は一つだけではない。もう一つ約束したことがある。彼女がピンチになったのなら────。
「────させねえよ」
────絶対に助けに来る。ティアラはファングとそう約束したのだ。彼の声にティアラは目を開ける。
「残念だったな、俺はここにいるぞ」
ファングの剣がティアラに迫ったシャルマンの剣を受け止めていた。
番外編も使えるところはきちんと本編に組み込みますよ。もったいないですから。流石にバーナード(草加)とか丸太の魔法使いみたいのは組み込めませんけど。
さてこのオリジナルも残すところあと数話となりました。まだまだ助っ人組のライダーの登場も何人か控えているので楽しみに待っていてください。