ようやく本編がスタートしました。あのヒロイン(?)もついに登場!
「これがこの街に眠るフューリーか」
岩に刺さった剣を前にファングが言う。昨日の一件を巧から大まかに聞いた彼は直接フューリーの前に行くことにした。この剣がもしかしたら巧の記憶の手がかりになるかもしれない。そう思ったからだ。
「なんつーか使いにくそうな形だな。こんな剣でどう戦うんだ」
『特殊な形状のフューリーは強力な力を秘めている証拠だ。使いにくさを上回る有用性がその剣にはあるのだろう』
「なるほど。つまりお前は使いやすいが有用性はないと」
『あまり調子に乗るなよ。今の今まで誰のおかげで旅が出来たと思ってる』
ファングは苦笑する。ブレイズは相変わらず冗談の通じない男だ。そもそもフェンサーじゃないファングはどの道ブレイズやキョーコの特性をほとんど使うことは出来ない。願望を叶えるためのフューリーをただの武器として使うのはファングくらいのものだ。本来契約したパートナー妖聖のフューリーはともかくその他のフューリーが下手に折れたりすればまた集め直さなくてはならない。だから武器として使うことはありえないのだ。100本という本数はそれだけ大きい。
「・・・・・・フューリーなんて後にして金をどうにかしろよ。昨日の宿代で完っ全に無一文になっただろ」
『のじゅくはやだよ~』
「俺だって嫌だね。わざわざ街の中まで野外で寝てたまるか」
巧がため息を吐く。ここ数日ファングの無駄遣いが重なり、手持ち金はゼロ。モンスターの討伐依頼か日雇いのバイトでもしないと今日の宿すらままならない状況になっていた。
「分かってるって。この剣抜いたら金の工面はどうにかするから待ってろ」
岩の前に立つとファングがそう言った。まさか誰も抜けたことのない剣を抜ける自身があるのか。フェンサーですらないファングがそんなことを出来るとは思えなかった。
『・・・・・・出来るのか? 聞けばこの剣を抜ける者は勇者の器を持っていると言われているらしいが。お前が勇者になれるとはとても思えん』
「同感だ。ファングが抜けたら俺はお前以下になるじゃないか。剣の実力はともかく流石に人間としてなら俺はお前以上だ」
『そうだよ。ファングがゆうしゃならわたしはかみさまになれるよ』
ここぞとばかりに皆ファングに言いたい放題だ。無理もない。例えば怠け者で快楽主義者のファングが人々を救う勇者になる、という姿を想像してほしい。ある訳がない。絶対ない、それは有り得ない。食いしん坊のダメ人間という称号以外にファングに似合う物はない。満場一致で三人の思いが重なる。
「お前らは俺を何だと思ってやがる。特にキョーコ! お前は神みたいなもんだっただろ・・・・・・!」
「食いしん坊のバカ」
『なまけもののばか』
『阿呆・・・・・・の馬鹿』
ストレートな悪口にファングは拳をプルプル振るわせる。何より無理やりバカと合わせようとするのに腹が立った。
「よーし! 見てろ! 抜くからな、ぜってえ抜くからな! そしたらお前ら全員俺に肉を奢れ! そして讃えろ!」
「はいはい」
ファングはフューリーに手を添える。結果としてそれはあっさりと抜けた。今まで抜けなかった人間が逆に疑問に思えるほどにすんなりと。だがいつもだったらほれ見ろと自慢するはずのファングが無言で固まっている。
────女の子の妖聖が目の前に現れた。
流石のファングもこの状況では固まらざるを得ない。だが、剣を抜いたことを思い出した彼はバッと巧へ顔を向けた。
「初めまして。あたしは妖聖『アリン』」
「よっしゃああ! お前ら肉奢れ!」
「あなたは選ばれたのよ。フェンサーとして」
「やっぱりな! 巧、この俺に勝とうなんて百年早いぜ!」
ファングがフューリーを抜けたことは衝撃的だった。実力的にはフェンサーになれてもおかしくないが彼の生来の人間性を考えると妖聖に選ばれるはずがない。願いを叶える意志がファングにはないのだ。
「ねえ、あなたの名前を教えて」
「嘘だ、ファングに負けた・・・・・・だと?」
「ファングっていうの。よろしくね。この剣もあたしももうあなたのもの」
「ざまぁみろ! この勇者ファング・ザ・ブレイブ様にひれ伏せ!」
巧は割と真面目にショックを受けていた。今の状況が理解出来ていないのか頭を抑えている。そんな彼を指差してファングは大笑いした。これではせっかくの出会いが台無しだ。本来ならファングとアリンの出会いは今頃運命的に・・・・・・いや本来の出会いも別に運命的ではないけれど。
「ちょっと! あんたあたしの話聞いてんの!?」
確認しなくともファングはアリンの話を聞いてない。どう見ても明らかである。彼は今の状況なんかより後で食べるメシのことを考えていた。もうファングの頭は肉のことで一杯だ。
『同胞よ。この男が人の話を聞かないのはよくあることだ。パートナーになるなら我慢しろ』
『わたしたちからフェンサーとかフューリーのことはおしえてるからだいじょぶ』
「え、もう二本もフューリーがいるの。もしかしてファングって大当たり?」
その逆。大はずれだ。ファングはフューリーを集める気はない。
「分かってるなら話が早いわ」
「で、お前の名前なんだっけ?」
「・・・・・・アリンよ! さあファング、あなたは選ばれしフェンサーよ。あたしと一緒に願いを叶える冒険の旅に出ましょう」
「ヤダ。俺は願いを求めて旅をしてる訳じゃねえ」
やる気満々のアリンに対してファングはやる気のかけらもない。
「ちょっとなんでよ! あなたフェンサーでしょ!?」
「はぁ? フェンサーになんてなった覚えはねえよ。コイツらはただの仲間だ」
「じゃ、じゃああたし。あたしと切っても切れない絆で結ばれたのよ! 今日この瞬間からあなたはフェンサーよ」
「剣抜いただけで結べる絆なんか絆じゃねえだろ!」
ファングの正論にアリンは涙目になる。
「そんな冷たいこと言わないでよ。ひどい!」
「おいファング。もう少し言い方があんだろ」
「お前は学級委員長か。良いんだよ、どのみち俺は願いを叶える気はねえ」
巧は頭の後ろを掻いた。ファングが嫌がる理由は分かる。彼が旅をしているのは自由を求めているからだ。それも人の善や悪に縛られるのを嫌った結果の旅。願望を叶える旅はそれとは真逆だ。もしアリンの言う通りフューリーを集めていけば他のフェンサーとの殺し合いは避けられないだろう。エフォールのような子どももいるかもしれない。自分のために誰かを犠牲にする。つまりフューリーを集める旅をするというのは他者を殺してでも願いを叶えるということだ。ファングが嫌がるのも無理はない。だからといって長い眠りから目覚めたアリンにそんなことが分かる訳がないから仕方ないのだけど。
「この剣を抜いたのはあなたでしょう? ならあなたはあたしと一緒に女神を復活させる運命なのよ」
「運命を決めるのは俺自身だ。そしてメンドクセーからヤダと俺の運命は言っている。じゃあな」
「ちょっと本当に置いてく気なの!?」
どうせファングのことだ。アリンを置いていくというより腹が減ったからどこかメシ屋に行くつもりなのだろう。腹が一杯になればもう少しキチンと話を聞いてくれるはずだ。巧はアリンにそう教えてやろうと思った。
「鬼! 悪魔! 薄情物! あたしの初めてを返せー!」
「おい、バカ! お前もファングも言い方を考えろ!」
顔を真っ赤にして怒るアリン。周りが聞いたら誤解を招くようなことを大声で叫ぶ。巧は急いで彼女の口を塞いだ。周りに誰かいないか確認する。相変わらず人通りが少ないこの道にはたこ焼き屋の店主しかいない。
「やれやれ、随分変わった勇者様が生まれたもんだね」
「おばちゃん、このことは・・・・・・」
「分かってるよ。皆が気づくまで黙っておくよ」
たこ焼き屋の店主は客がいないのに上機嫌でたこ焼きを焼き始めた。
「ファングのバカ」
「お嬢ちゃん、これあげるから機嫌直しなさい。出来立てだよ」
「美味しそう・・・・・・ありがと」
「あんたは美人さんだから怒るより笑ってる方が良いよ」
アリンはたこ焼きを口に入れる。とても美味かった。店主は笑顔で頷いている。
「おばちゃん、確か300goldだったよな」
「ううん。それはわたしの奢りさね」
「え、良いの?」
たこ焼きを両手に不思議そうな顔でアリンが言った。
「良いんだよ。あんたはね、おばちゃんが生まれる前からずうっとこの街にいたんだ。わたしも勇者に憧れてたから何度も抜けないか試したもんさ。でもダメだった」
「おばあちゃん・・・・・・」
「わたしはどうしても勇者の誕生する姿が見たかったんだ。ここでたこ焼き屋を始めたのはそれが理由。気づけばこんなに老けちゃったけど。やっと見れたよ」
そう語る店主は目を輝かした。巧より、いやアリンよりもずっと子どもに見えるような若々しさを感じさせた。
「あんたを抜けたんだ。あの男は本物の勇者だよ」
「ファングが・・・・・・?」
「いい男じゃないか。わたしと同じ目をしている。真っ直ぐな目さ。きっとあんたと一緒に戦ってくれるよ」
「ありがと・・・・・・おばあちゃん」
アリンは笑顔を浮かべた。それは店主が長年夢見た光そのものだ。店主も笑顔を浮かべる。まるで本当の祖母と孫娘のようだ。
「さ、早く仲直りしな。そしたら二人で店に来なさい」
「うん。あたし頑張るね、おばあちゃん」
店主は満面の笑みで頷いた。
「おばちゃん待たな」
「ああ、あんたもまた来な。わたしとは違うけどあんたも良い目をしている。たこ焼き作って待ってるよ」
「・・・・・・冷ましといてくれよ」
巧とアリンは店主に手を振って別れた。
「よーしファングを探すわよ! えっと・・・・・・」
「乾巧。巧で良い」
「巧! ファングの行きそうな場所は分かる?」
言われなくとも。そのために巧はわざわざここに一人残ったのだ。
「あいつのことだ。ここから一番近いメシ屋にいるはずだ」
「そうと分かれば出発ね!」
元気よく駆け出すアリンを巧は慌てて追いかける。そしてそこで気づいた。
「そういえばファングの奴、金がないのにどうやってメシ食ってるんだ?」
◇
────3日後
「もー、ファングのバカ! どうして食い逃げなんてしたのよ!?」
「俺は伝説の勇者だからパンくらいタダでくれよって言ってたらしいぞ」
「物乞いする勇者なんて聞いたことないわよ!」
「食い逃げする勇者も聞いたことがない」
あの後。巧とアリンが駆けつけてファングを見つけた頃には既に手遅れ。ちょうど店の前に野次馬が集まりファングがお縄に頂戴される場面を彼らは目撃した。公衆の面前で食い逃げ犯を助けに入ることが出来ずに巧は黙って見送るしか出来なかったのである。
「やっぱり牢屋にこっそり忍び込んで助けに行きましょうよ」
「またか。ちょっと待ってろよ。保釈金を集めるまで待て」
「そんなの何時になるか分からないでしょ! 宿代と合わしてたらそれまでに釈放されるわ! それに明日になったらしっぺ百回の刑が執行されるのよ。あ、女将さんおかわり」
それで許されるならこの街の食い逃げは後を立たない気がするが。よっぽどそのしっぺは痛いのだろうか。二度と腕が動かせなくなるくらいの。巧はむしろしっぺされた方が良いのでは、と思った。
「あのバカも痛い目みれば分かるだろ」
「嫌よ。こんなに健気で可愛いあたしのパートナーが前科持ちなんて絶対嫌!」
前科なら公になってないだけで既に一回ある。汚職市長の豪邸の泥棒だ。こんなことがバレたらアリンは卒倒するかもしれない。それにしてもこの3日間の間アリンと共に生活しているが彼女の自身に満ち溢れた言動はファングにそっくりである。
「女将さん、ごはんおかわり!」
食いしん坊なところも。似てると言えば巧と似ているところもある。
「そういえば記憶は戻ったか?」
「全然。やっぱり妖聖としての使命を果たさないとダメなのかも」
アリンは巧と同じく記憶喪失だ。フューリーとして長い眠りについていた時間の影響か彼女は記憶を失っていたらしい。ファングにフューリーを集めさせようとするのも自分の記憶が戻るきっかけになるかもしれないからだ。
「まあ、きっと何とかなるわよ。女将さん、ごはんおかわり」
「いくらなんでも食いすぎだろ・・・・・・」
「タダだから食べないと損よ」
ここは街で唯一の宿屋。大企業の幹部がお忍びで来たり巧たちのような冒険者も利用するため格安の部屋から高級な部屋まで様々な客層が泊まっている。温泉が有名で大人気だが何より魅力的なのはごはんのおかわりし放題なところだ。
「でもどうやって侵入しようかしら」
「あ、侵入は決定事項なんだな」
失敗したら纏めて牢屋行きだとアリンは気づいているのだろうか。更に言うならアリンは妖聖だから捕まるのは人間の巧だけなのだけど。
「・・・・・・おい、聞いたか。この街の収容所にフューリーがあるらしい」
「ああ聞いた聞いた。最近捕まった奴のだろ?」
『!』
巧とアリンは後ろで会話しているどこかの企業の私設兵士たちの言葉に耳を傾ける。
「そうそれ。あの『アポローネス』さんが今夜回収しにいくんだと」
「うわ、持ち主完全に死んだな」
兵士の男たちはそんな話を繰り返した後、部屋へと戻っていった。巧とアリンは顔を近づけひそひそと会話する。
「今の聞いたか」
「ええ、不味いわ。牢屋に入り込もうとするなんてきっと凄腕のフェンサーよ」
「・・・・・・助けに行くしかない、か」
巧は重い腰を上げた。
◇
『ファング、あのアリンという妖聖のことは良いのか』
「良いも何も牢屋の中だからどうしようもねえだろ」
『たっくんがいるからだいじょぶだとおもうけど』
ファングは天井をぼんやりと眺める。
『で、お前を狙っていたあの男には勝てそうか』
「どうだろうな。確実に勝てるならこの中に逃げたりしねえよ。エフォールの殺気とは比較にならねえ。あいつもかなりの凄腕のはずなのにな。ありゃ『先生』の次くらいに強いな」
『あの男よりも弱いならまだ勝ち目はある、か?』
限りなくゼロだがな、ファングはため息を吐いた。彼が食い逃げをしたのは理由がある。金がないのもあるが、むしろそれが六割くらいだが残りの四割は誰かとてつもない強者に狙われていたからだ。このままだと何時襲撃を受けるかも分からない。とりあえず絶対に安全な場所へと避難したのだ。
『せんせいってだれ?』
「故郷に住んでた俺の剣の先生。フェンサーでもないのに滅茶苦茶強くてよ。故郷を襲ったモンスターの群れを一人で倒しちまった。しかも今の俺より少し上くらいでその強さ。ガキの頃は憧れたもんだ。気づいたら弟子入りしてた。・・・・・・でも五年くらい前にいなくなっちまったな」
『あの男はただ者ではない。若々しい見た目からは想像もつかん歴戦の勇士だ。俺を扱う戦士に相応しかった。この怠け者よりな』
ファングはごまかすように大きく欠伸をした。
「代わりに天才の俺が使ってやってるんだ。ありがたく思え」
『わたしはファングがいちばんだよ~』
「じゃあ俺も今日からキョーコ一番だ。俺を怠け者扱いしたブレイズは二番だからな」
ちなみにファングが使っているのはブレイズの方が多い。両刃のブレイズのが片刃のキョーコよりモンスターと戦うのに適している。キョーコを使うのは人間との戦いの時だ。
『どうでも良い。どの道牢屋の中から出ない限り我らを使う日は二度と来ないのだからな』
「そうだった。俺、今捕まってるって忘れてたわ」
『おそとにでたいよ~』
かれこれ3日間この牢屋の中にいる。幼いキョーコが不満を漏らすのは当然のことだった。
「住めば都だ。我慢しろ。ここはタダで温かいメシが食えて雨風も凌げる。天国だ」
『追い込まれた浮浪者のようなことを言うな。先が見えない旅だからこそお前について来たのだ。その果てが刑務所だとしたら泣くぞ』
『なくぞ~』
「泣いてろ泣いてろ。こうなったら俺はここから二度と出ないぜ」
彼らがギャーギャー言い争っていると階段から足音が聞こえた。脱獄の話を看守に聞かれたら不味いと押し黙ったファングだが現れたのは意外な人物だ。
「ファング、助けに来たわよ!」
アリン。三日前に置いてきた自分のパートナーを名乗る妖聖。
「なんだ、お前か」
驚いて損した。ファングは寝っ転がる。
「なんだとは何よ。こんな可愛いあたしが助けに来たんだから喜びなさいよ」
「わーいわーい」
「そうそうその調子よ」
『ファングが増えた・・・・・・』
ブレイズはため息を吐いた。実体化していたなら頭を抑えているだろう。ますます彼がツッコむ機会は多くなりそうだ。
「待ってて。もう少しで巧が鍵を持ってくるから」
「結構だ。俺はここに永住する」
「はあ? あんた何言ってんの!?」
ブレイズたちにした話しをアリンにも語るファング。アリンは呆れたのか目を細める。
「よう、食い逃げ勇者三日ぶりだな。鍵を持ってきたぜ」
「あ、巧。見ろ。俺が求めた自由がここにはある。どうだ、羨ましいだろ?」
「・・・・・・檻の中に自由があってたまるか。開けるぞ」
巧が鍵を開ける。ファングは渋々外に出た。
「くそ、俺の暖かい寝床とタダメシが・・・・・・」
「固いベッドと味気ないごはんしかないじゃないの。そこら辺の宿のごはんのが百倍美味しいわ」
「それにこの中だと肉は食えないぞ」
「お前ら遅いぞ。俺に付いて来い」
あまりの切り替えの早さにアリンは額から汗を流した。巧はいつも通りのいい加減さにため息すら出ない。
「・・・・・・疲れた、腹減った。巧、俺をおぶれ」
「殴られて放置されるのと呆れられて放置されるのとどっちが良い?」
「ち、黙って歩けば良いんだろ」
「ちょっと! 二人ともボサッとしてたら見つかるわよ!」
『待て声がデカいぞ、アリン・・・・・・!』
ブレイズの警告と同時に警報が鳴った。
『いたぞ! お前ら何をしている!』
ゾロゾロと衛兵たちがファングたちの元に集まり出す。
「くそ、またこのパターンか!」
「お前のせいだぞ、アリン!」
「あんたにだけは言われたくないわよ!?」
「来るぞ、お前ら!」
ファングはキョーコに手を添え、巧は携帯を銃の形に変形させる。ここで撃退しなければ牢屋に逆戻りだ。
「よし、行くぞキョーコ!」
『うん!』
一番に使う、と約束したファングは律儀にキョーコを使う。
「待って、これを使ってファング!」
「コイツは・・・・・・!」
アリンから投げ渡されたのはあの時岩に突き刺さっていた剣。
「フェアリンク」
光の玉となったアリンが剣に入ると色褪せた剣が輝きを取り戻す。まるで抜け殻の器に魂が入ったようだ。ファングは胸の内から力が湧き出る感覚を感じる。
「これがフェンサーの力・・・・・・!」
『そうだ。今のお前はフェンサーだ。これより我らはサポートに徹する。お前はその剣で戦え!』
「よっしゃ、お前ら掛かってこい」
ファングは衛兵を片っ端から倒していく。身体が軽い。本気じゃないのに平素の本気と遜色ない力が引き出せる。あっという間に全ての衛兵の意識を奪った。
「凄いな。フェンサーってヤツは」
「巧、勘違いするな。俺様が凄いんだ」
「フェンサーも悪くないでしょ。さあ衛兵の増援が来る前に逃げましょう」
「デカい声は出すなよ」
巧が小さく警告すると彼らは無言で頷き監獄の中を移動する。
『いちばんはわたしだよ、アリン!』
『我らはファングのパートナーではないだろう。我慢しなさい』
『アリンずるいよ~』
「ごめんね、キョーコ。かわりばんこで戦いましょ」
それ俺が割りを食うだけだろ、ファングは妖聖たちの会話を聞かなかったことにする。いちいち武器を変えて戦うなんて面倒なことを彼がやる訳がない。
「そういやお前らどうして助けに来た」
「今日お前をフェンサーが襲うって聞いてな。なんかヤバそうだからわざわざ来てやったんだよ」
「・・・・・・不味いな。さっさとずらかるぞ」
ファングたちは駆け足で階段を上る。この上の階を真っ直ぐ進めば出口があるはず。危険な相手とは戦わずに逃げるが勝ちだ。
「よし、出口が見えたぞ」
「待て、巧!」
「なんだ・・・・・・あいつは?」
出口の前には一人の男が立っていた。黒いコートを纏い武人のような雰囲気を持った男だ。
「貴様・・・・・・フェンサーだな」
「・・・・・・だからなんだよ」
「貴様もわかりきっているだろう。フェンサーとフェンサーが出会えばやることは一つ。戦いだ」
腕を組んだ男に睨まれたファング。負けじと睨み返す。
「ファング、なんかヤバいよ。コイツと戦っちゃいけない・・・・・・。逃げようよ」
「お前は下がってろ、アリン。言われなくてもわかってる。巧、これを頼む」
「お前、これがないと戦えないだろ?」
ファングが巧に預けたのはアリンのフューリーだった。
「それはまだ使いなれてねえ。本気でやらなきゃやられる」
『やれやれ。我らの役目は終わりだと思ったのだがな』
『たっくん、もしものときはにげてよ』
「ああ。お前らも連れて、な」
ファングは腰に差していた二本の剣を抜剣した。ブレイズとキョーコだ。
「貴様、私を愚弄する気か。パートナーを使わないとはどういうことだ?」
「あんたとは本気でやらねえと勝負にすらならねえからな。今日初めて使った剣よりまだこっちのが強いんだよ」
「ほお、フェンサーとしてではなく剣士として私に挑むか。面白い。セグロ、フェアライズ!」
男の姿が変わる。手に持った剣は身の丈を越える巨大な大剣。一振りで普通の人間なら粉砕しそうな力が秘められていた。その身に纏った鎧は何者の攻撃も通さないような紫色の甲冑。巧が先日見た鎧がチープに見えるほどに洗練された武人の象徴だった。
「・・・・・・ただの攻撃は効かなさそうだな。なら俺も『バーン』」
ファングが呪文を唱えると右手に持ったブレイズの刀身に紅蓮の炎が燃え上がる。更にファングはキョーコの刀身を研ぐようにブレイズの刀身を擦った。キョーコの刀身に灼熱の炎が灯る。巧は今まで見たことのないファングに今の状況がどれほど危険か悟り固唾を飲む。
「言っとくが殺す気だからな」
「ならば私が殺しても、恨むなよ」
「へ、そっくりそのまま返すぜ」
ファングと男の戦いは柔と剛に分かれていた。二刀流で素早いファングが一見優勢に見える。実際に何度もその身体を斬りつけることに成功している。しかし、鎧で彼の斬撃が通ることはない。辛うじて火を纏っているおかげか僅かながらにダメージは入っている。それでも男の動きが止まることはない。攻め倦ねるファングに男が襲いかかる。後ろに跳んで避ける。戦いにくい。大剣は一撃一撃の動きが鈍い。が、男はそれを補うようにテンポよく連続で振ることによって迂闊に接近することが出来ない。ファングは男のように鎧を纏ってはいない。一撃でも当たればそれは彼の敗北を意味する。手数は少ないが一撃一撃が必殺の男。無数の手数だが一撃一撃は致命傷になることがないファング。正に互角の勝負。表面上はそう見えた。
「・・・・・・貴様、私を舐めているのか?」
「ああ? なんのことだよ」
「貴様の剣には信念も覚悟もッない! 何が殺す気だっ!」
「ぐうっ!」
男の動きが急に俊敏になり、ファングは吹っ飛ばされる。どうやら彼はまだ本気ではないようだった。────ファングが本気でないように。
「ファングっ!」
巧は555フォンを男に向けて発砲した。紅い閃光が彼を襲いかかる。
「・・・・・・無駄だ」
それは男の剣に弾き返された。マジかよ、と巧が目を見張る。
「邪魔をするな!」
「ガハッ!」
巧は男に蹴り飛ばされた。彼は壁に打ちつけられてせき込む。
「ファング、巧っ!」
アリンの悲鳴のような叫び声が周囲に木霊する。
「逃、げろ」
掠れた声で巧が言った。良かった、意識はあるようだ。アリンはホッとする。
「巧を連れて逃げろ・・・・・・俺様が全力で足止めしてやる」
『ファング、まだいけるか?』
「当然だ・・・・・・!」
「まだ立ち上がるか。面白い」
剣を支えにファングがゆっくりと起き上がる。男を睨みつけた。目の前にいる敵はあまりに強大だ。勝てる見込みはない。手負いの巧とアリンを逃がして自分も逃げなければこのまま殺される。
「巧、しっかりして」
「あ、ああ。大丈、夫だ」
ふらふらと引きずられながらも巧とアリンが出口へと向かっていく。男はアリンが持っているフューリーが視界に入ると目を鋭くする。
「逃がさん。『ダクネス』」
「っ! 避けろ!」
「・・・・・・え?」
アリンがファングの声に振り向くと目の前には闇が迫り────爆発した。
「アリン、巧!」
大量の砂塵が舞いファングの前から二人が消える。呆然と彼は棒立ちになる。
『battlemode』
砂塵の中から機械的な音声が鳴った。ハッとしてファングが目を凝らすと砂塵の向こう側に何かがいた。
『ピロロ!』
砂塵が晴れるとそこには人型のロボットがいた。ホイールの形をしたシールドを構え、アリンと巧を守っている。オートバジン。かつて巧と共に戦い、その果てに散った相棒がそこにいた。かつてのように巧を守り。
「なんだ、ありゃロボットか!?」
『かっこいい!』
『・・・・・・あれは巧のバイクか?』
「む、面妖な」
その場にいた全員が驚愕に目を見開く。予想だにしてなかった第三者の介入により、彼らの戦いは中断される。
「あ、あなた。あたしたちを守ってくれたの?」
『ピロロ』
驚いていたのはアリンも同じだ。彼女の問いにバジンは頷き、更にアリンは驚く。
「・・・・・・おせえよ、バカ」
巧だけが驚いてなかった。まるで来ることがわかっていたかのように彼はそう呟いた。
『ピロロ』
「おらっ!」
「く、無駄なことを!」
バジンがホイールを構える。何かをする気だ。ファングは気づく。彼は男にしがみつき突き飛ばした。彼がバジンの前に転がり込んだ瞬間、銃声が鳴る。バスターホイール。オートバジンに備わったガトリング砲。ミサイルすら迎撃するその弾丸が直撃すればひとたまりもない。ファングはやったか!?と思わず呟く。
「・・・・・・小細工が通用すると思うな」
しかし、その攻撃すら男の鎧と剣の前には通用しなかったようだ。無傷。その様子にファングは舌打ちをした。
「ファング、逃げるわよ!」
外からアリンの声が聞こえる。ファングは男に背を向け走り出す。
「逃がすか」
『ピロロ!』
「ち、邪魔をするな」
出口を守るようにバジンは立つ。巧を、その仲間を守る。バジンはこの道を男に譲る気はなかった。
「ありがとよ、後でピカピカにしてやるから絶対帰ってこい!」
『ピロロ!』
別れ際にファングが言った言葉にバジンは頷いた。
◇
「ここまで来れば大丈夫、か?」
「多分な。それよりあいつは無事なのか?」
「さあな。あー、疲れた」
ファングは街から離れた森の中でハアハアと息を吐く。
「クソ、あの野郎つええ!」
『今の我らでは勝つのは不可能だ』
『く~や~しーいー!』
圧倒的な強さを見せつけられ、ファングが悪態を吐く。
「アイツに勝つならフェンサーになるしかないわ」
「またそれか。アイツらみたいのとフェンサーになれば戦うことになるの間違いだろ。命がいくつあっても足りねえよ」
「・・・・・・ごめんね、やっぱり迷惑だった。あんな思いするのは怖いよね」
アリンが俯く。ファングは首を傾げた。巧はやれやれとため息を吐いた。
「・・・・・・ファング、アリンは記憶がないんだ」
「何っ? アリンも?」
「巧、それは言わなくて『言え、アリン』・・・・・・はい」
巧とファングに促され、しぶしぶアリンは自分の記憶について語った。目を覚ましたら記憶をなくしたこと。唯一覚えていたのは女神を目覚めさせなければならないこと。全てをファングに言った。
「もしかしたらフューリーを集めていけばあたしの記憶が戻るかもしれないの」
「・・・・・・妖聖が三人。記憶喪失は二人。ま、一人も二人も変わんねえか。しゃあねえ、フューリー探し手伝ってやるよ」
「え、ウソ! ほんとに!?」
「嘘吐いてどうする?」
ファングは記憶喪失の人間を置いていくほど薄情ではない。面倒くさがり屋で快楽主義者だが彼は悪人ではない。根本的にいい奴なのだ。目の前で悲しんでいる人がいれば手を差し伸べる。誰かが争うならそれを止める。人々を苦しめる怪物がいるなら倒す。遠い世界で戦う英雄たちと同じだ。心の奥底の優しさがファングにはあった。だからこうしてアリンが抱えている物を言えば彼は必ず協力してくれる。巧はそう確信していた。
「ただしこれだけは言わしてもらう『いたぞ!』・・・・・・ち、まだいたか。行くぞアリン!」
「うん!」
ゾロゾロと集まった衛兵たちを前にファングは剣を抜く。
「ファング、フェアライズを使うのよ! あの男と同じように戦えるわ!」
「『フェアライズ!』」
ファングとアリンの声が、心が重なる。ファングの姿が変貌する。顔に、身体に赤い鎧が形成される。その姿は炎を纏った不死鳥がそのまま鎧になったような姿だった。
「あれは・・・・・・うっ!」
────standing by
────変身!
────complete
巧の頭の中に新たなイメージが浮かぶ。暗闇の中、闇を切り裂き紅く輝く光の戦士だった。これまで以上に明確な映像に巧は頭痛を覚える。ファングが衛兵を蹴散らす姿とその戦士を重ね合わせ、その存在がよりはっきりとイメージされる。戦士は腰に特徴的なベルトを巻いていた。トランクケースに入っていたベルトだ。その中心には何かが装着され────
「すげー。今ならあいつとも良い勝負出来るかもな」
「フェアライズ。ファングとあたしの絆の証よ」
「でもフェアライズより変身! って言った方が分かりやすくね」
「そんなことどうでも良いでしょ」
ファングがフェアライズを解くとその強大な力に感嘆の声を上げる。
「お疲れさん」
「おう。って巧の方が疲れてねーか?」
「・・・・・記憶が少し戻ってな」
『何? それはどんな記憶だ』
巧は戦士のイメージについて語った。
『ふむ。巧もフェンサーだったか?』
「分からない。ただそれが記憶を戻す手がかりになる気はする」
『よかったね、たっくん』
「まだ思い出した訳じゃねえだろ」
少しずつだけど前に進んでいる、それだけで巧は十分良いことだ。
「そういえばファング。あんたさっきなんて言おうてしたの?」
「そうだった。・・・・・・良いか、よく聞け。これだけは言わしてもらう。俺の運命は俺が決める。俺の選択が俺の運命なんだ」
ファングが以前巧に言った言葉だ。彼が旅をする根底はそこにある。アリンは黙って頷く。
「つまりそれってどういうこと?」
「食いたい時に食って、寝たい時に寝る」
ファングは満面の笑みを浮かべた。
「カッコつけて結局それー!?」
『慣れろ。ファングのパートナーになるならな・・・・・・』
『わたしはもうなれたよ・・・・・・』
妖聖たちは皆ため息を吐いた。
◇
「見事だ、忠犬よ。貴様はその使命をまっとうした」
『ピロロ・・・・・・』
男───アポローネスは戦闘形態を保てずバイクの姿に戻ったバジンに言った。
「しかし、あの男面白い。この私に『殺意』を向けないとはな」
アポローネスはファングとの戦いを思い出す。互いに力を『隠した』ままの戦闘だったが心から闘争心を掻き立てられたあの剣技には一種の感動すら覚えた。
「ファングといったか。あの男なら私の魂を震えさせることも出来るかも知れぬ。奴もフェンサーならいずれはまた会う日が来るだろう。それまで更に剣の腕を磨かなくてはな」
アポローネスは期待に胸を膨らませる。機嫌が良いのか倒れたバジンを起こしてくれる。
「・・・・・・ところで貴様、主の元に帰れるのか」
『・・・・・・! ピロロ!』
このあとアポローネスはバジンが空を飛ぶ姿を目の当たりにし驚かされることになったのは誰も知らない話だ。
タイトル通りアリンが目覚めて、バジンが登場しました。巧のピンチに颯爽と現れるバジンたんマジ忠犬。やっぱりヒロインはバジンですね!
ちなみにファングの師匠はオリキャラではないです。仮面ライダーかフェアリーフェンサーエフのどちらかのキャラクターです。ヒントも結構出します。これからもセリフとして度々登場するのでもしかしてあのキャラかな?と是非推理してみてください
明日の昼間にでも活動報告にゲームのサブイベント的な物を載せようと思ってます。場面転換の間にカットされてたシーンです。セリフだけで短いので読む人は気楽に読んで下さい。読まなくてもストーリーは楽しめます。
追記
思いのほか早く書き上がってしまいました。既に投稿されています。