僕は好きです。
草加役の村上幸平さんがジュウオウジャーでいよいよ登場するらしいので皆さんも是非見てください。
「ちっくしょ~。騙されたぁ! 何が三ツ星シェフだよ! 赤の他人じゃねえか!」
「ミツボ・シィとかいう名前の人間がこの世に存在してるとはな。俺はそっちの方が謎だ」
『偽名ではないのか?』
宿屋の一室でファングは巧に愚痴っていた。彼は三ツ星シェフ詐欺に引っかかったとさっきからずっとその調子だ。『向日葵荘』────ティアラの縁者ミツボ・シィが経営している宿屋だ。彼女は所謂女将さんというヤツである。宿で出されている料理は全てミツボが作っている。この時点で大多数の人間がティアラがファングを騙したと思うだろう。だが彼女曰くミツボの従兄弟のお姉さんのお兄さんの友人が三ツ星シェフだから実質三ツ星シェフらしい。どう考えても他人だが。
「三ツ星だかミツボ・シィだかどうでも良いんだよ。別に美味けりゃ良いだろ」
ファングは不満を漏らしているが巧からしたら宿屋と食事がタダなだけで十分ありがたい。一応、少し変だが真面目そうなティアラだ。彼女の言うようにミツボの料理の腕は確かなものなのだろう。
「お前はネームバリューがわかってねえんだよ。同じ味でも三ツ星シェフとミツボ・シィシェフが作った料理、どっちのが気分が良い?」
「まあ、そりゃ三ツ星シェフだな」
「だろ? 三ツ星よりミツボ・シィのが『逆になってるぞ』・・・・・・三ツ星のが良いだろ!」
ファングは三ツ星シェフじゃなかったことがとても不満のようだ。食べ物の恨みは大きいというヤツだ。ミツボの料理を実際に食べるまでは彼の気は晴れないだろう。さっさと食事にしたい、と巧は思った。
「それよりあのティアラとかいう女が部屋に来いとか言ってたけど何を企んでるんだ? 俺はそっちの方が気になるんだが」
「さあな。三ツ星シェフサギの落とし前は何時か絶対につけさせてやる」
『お前はまだ根に持っているのか?』
巧とブレイズはため息を吐いた。
「話って、なんだ一体?」
ティアラの部屋にファングたちは集まる。彼らがここにこうしてここに集まったのは彼女に部屋に来いと呼び出されたからだ。なんでも重要な話しがあるらしい。
「・・・・・・ちょっと目を瞑ってください」
「別にいいけどよ」
「何の意味がある?」
「すぐに分かりますわ。ですから目を」
ティアラに疑いの目を向ける巧とは裏腹にファングはすんなりと目を瞑った。もう少し疑いを持てと彼は思ったが彼女に巧も目を閉じろと、言われ渋々それに従う。
「アリンさんもお願いします」
「わ、わかってるわよ。変なことしたら承知しないからね」
アリンも目を閉じる。彼女は目をうっすらと開けようとするがティアラに睨まれ出来なかった。
「では・・・・・・」
ティアラが何かをした瞬間、一同は唐突な浮遊感を感じた。どこか遠くへと引っ張られている。そんな感覚だ。
「うわ! なんだこの浮遊感!?」
ファングが驚きの声を上げる。
「何が起こってる!?」
巧は驚きのあまり目を開こうとした。
「まだです! まだ目を開けないで!」
ティアラの必死の制止に巧は開こうとした目を再び閉じる。
『このかんじ、ブレイズ!』
『ああ。我らが向かっているのは恐らく・・・・・・』
妖聖たちは何かを感じたのか冷静さを保っていた。傍にいるファングはこの状況に心当たりがあるらしい彼らに首を傾げる。やがて浮遊感は終わりを告げた。ファングたちの足元には踏みしめられる地面があることを感じる。
「・・・・・・もう良いですわ」
「なんだってんだ。いっ、たい?」
ファングは目を開くと見たこともないような枯れた大地に立っていた。困惑して周囲を見渡せば彼はその目に映った存在に己の目を疑う。石像、のようなナニか。この世のものとは思えない超越した存在がそこにはいた。巨大な闇の化身。無数の剣によって鎖付けにされその底知れぬ邪悪を封じ込められた怪物。巨大な光の化身。無数の剣によってその身を貫かれ眠りに就いた美女。
「あれは・・・・・・?」
巧はその二つの存在に心当たりがあった。以前、まだ岩に突き刺さっていたアリンの剣を抜こうとした時だ。その時に見た幻覚の一つが彼らだった。互いに剣と剣を打ち合っている姿と今の身体に突き刺さった剣はその時の幻覚と一致している。
「石像か、ありゃ?」
ファングはイマイチその存在がどういうものか理解してないのか者が物に見えたようだ。
「め、女神様?」
「! お分かりになりますの。流石は妖聖・・・・・・の、はしくれさんですわ」
妖聖のアリンは瞬時にその正体を見抜いた。
「ティアラ、ここはただの空間ではないな。なぜ世界から消失した神々が存在している?」
「この空間は時間と時間の狭間にある意識空間。まあ、夢のようなものですね」
ブレイズの疑問にティアラが答える。彼女はパチパチとまばたきをした後ファングにこう言った。
「この美形の落ち着いた大人の男性はどなたですか、ファングさん?」
「俺のフューリーのブレイズ、の実体化した姿だ」
「この姿になるのも久しぶりだな。あらためて自己紹介しよう。妖聖ブレイズだ、よろしく頼む」
「そ、そんな姿をしてらしたんですか。こ、こちらこそよろしくお願いしますわ!」
ブレイズが実体化した姿を見るのが初めてのティアラはかしこまって頭を下げた。ティアラのファング一同の評価は巧は比較的マシだが無愛想でそっけない同年代の青年、アリンは妖聖の割りに間抜けな女。ファングに至っては食いしん坊のお馬鹿さんという認識だ。帯剣されてる妖聖二人は男と小さな女の子程度にしか思っていなかったので驚かされる。
「お前ら何で急に出てきた?」
「ここにきたらわたしたちもふつうにでてこれるみたい」
「アレが関係してるのか」
実体化したキョーコに巧が聞く。彼女の返答からしてこの空間はやはり特殊なのだろう。
「我らですら女神と邪神がどこに消えたのか知らなかった。どうやってここにたどり着いた?」
「これは、私・・・・・・いえ、キュイの特殊能力です」
「キュイ!」
キュイが右手を上げて返事をした。
「へー、あんたすごいのね」
「・・・・・・Sランクの妖聖にもそんな力はないはずだが。いやもし女神が自身を解き放つために誰かに己の力を残したならあるいは・・・・・・?」
素直に驚くアリンに対してブレイズはキュイの能力に疑問を持つ。強力な妖聖にも不可能なことがキュイに出来るとは思えなかった。
「ここは女神、そして邪神が封印された場所です」
「・・・・・・封印ってことはだ」
邪神を見上げて巧が呟く。
「ええ、まだ生きています」
「ほんとだ。微かに魔力の波動を感じる・・・・・・」
「めがみさまも!」
アリンは邪神にキョーコは女神に近づいてその力が健在されてることを確認する。
「あの刺さってるトゲトゲはなんだ?」
「フューリーです。動力源の妖聖はもう力を使い果たしてしまったようですけど」
「微かに覚えている。無数に飛び交う剣の波の中から落ちていった己の記憶がな」
「この世界に残ったあたしたち妖聖とフューリーは女神と邪神から外れたものってこと?」
アリンの問いにブレイズは頷く。
「それで、何の意味があって俺たちを呼んだ?」
「乾さんたちには手伝っていただきたいことがありまして」
巧が気になるのはそこだ。わざわざ全員を連れてくるからには何か理由が必要だ。フェンサーではない巧までこの場にいる意味がない。
「先ほど手に入れたフューリーを使って女神に刺さった剣を抜きます」
「封印を解くってこと?」
「ええ、中の妖聖を移して女神に刺さった剣を起動して抜きます」
「お、ならもう終わりだな。俺は一生自由に生きていけるようにしてもらおう!」
「バカ! 一本や二本抜いたくらいで封印が解ける訳ないでしょ!」
勝手にもう願いが叶うと勘違いしたファングに突っ込むアリン。
「封印を解くには全ての剣を抜くしかないんだろ」
「ええ。ですが全て抜いただけでは何かが足りないと思いますわ」
「それだけで解けるなら苦労して封印した邪神が簡単に生き返っちまうか」
巧が腕を組んで女神を見上げる。鎧を着た女性の姿をしている女神は神々しくとてつもない力を秘めているように見えた。
「でも、あんたなんでこんな場所知ってんの? あたしたちも知らなかったのよ」
「そ、それはキュイのおかげですから。限られた特殊な妖聖にしか知られていないのでしょう」
「あ~や~しーい。どうおもう、ブレイズ?」
「その力が女神に託された物なら我らが知らなくてもおかしくはない。・・・・・・人語を解せないタイプの妖聖なのが痛いな。何も調べようがない。おそらく邪神の復活を企む者に利用されないためにキュイが選ばれたのだろう」
「なるほどな」
相変わらずブレイズは頼りになる、と巧は思った。面倒くさがり屋が揃ったファングたちの中で唯一知的と明確に言えるのは彼くらいのものだ。ブレイズがいなかったらと考えるとここまでの旅路はめちゃくちゃなものになっていた気がする。
「あんたはどう思うの、ファング?」
「フューリーを集めるのは同じだろ。なら当初と目的はなんも変わらないんじゃねえか? 妖聖に女神の封印を解いてもらえば良いんだろ」
「そうだな。別に邪神の封印さえ解かなければ問題ない。とっとと女神の封印を解いちまうか」
ファングからしたらアリンの記憶を取り戻すことが終着点であり、女神の復活が終着点ではない。だからキュイやティアラの素性など知ったことじゃないのだ。そもそもティアラに付いてきたのも三つ星シェフがいると騙されたからである。彼女や妖聖たちはともかく自分は神々には興味がない。
「まあ、そうですわね。あ、でも封印を解く時には何かが襲ってくるから気をつけてください。ファングさんの強さは信頼してますけど万が一ということもありますので」
「ふ、分かってるじゃねえか。俺がいるなら何だろうとねじ伏せてやるよ。・・・・・・ところで何かって何だよ?」
「神の眠りを妨げる者を排除する防衛装置、といったところか」
フューリーを集めるのも神の封印を解くのも楽ではなさそうだ。ファングは憂鬱な気分になる。
「とても強いので抜くなら気をつけてください」
「あんたはどんなヤツがいるか知ってんの?」
「いえ。残念ながら契約してる妖聖は無理なようです。パートナーとの絆が継続中だから、でしょうね」
「ワナじゃないでしょうね、なーんか怪しいんだけど?」
アリンはじろりとティアラに疑いの目を向ける。彼女はその視線にムッとしたようで
「私そんな手は使いません!」
と声を荒げて言った。
「ここに来るまでを振り返って本当にそれが言えるのか・・・・・・?」
「あのお茶の件忘れたとは言わせないわよ」
巧が首を傾げ、アリンがそうだそうだと指を指す。
「こ、細かいことは良いですわ! 女神を復活させるという目的はあなたも同じなのでしょう。とにかく! 私たちはフューリーを集めて女神の封印を解く! いいですわね」
「まだ気になることはあるけど・・・・・・」
「目的はわかりやすい方が良い」
「そういうこったな」
三人は概ねティアラの意見に賛成した。
「じゃあひとまず一本抜いてみるか」
「それは乾さんに頼みたいのですが」
「別に良いがフェンサーじゃなくて大丈夫か?」
「いえ、防衛装置が襲ってきた時に女神の近くにいれば安全なはずです」
防衛装置が守る対象を攻撃する訳がない。ティアラはそう言った。
「なら俺が適任だな」
「すいません。本当は乾さんまで巻き込みたくはないのですが。ファングさんと分散されるリスクを考えるとそれが一番良くて」
「何もしないのも飽きるだけだ。気にすんな」
こうして神々の封印を解く時は解除は巧、戦闘はファングたちということになった。
『本当に襲ってくるとはな。我々妖聖も攻撃の対象のようだ』
『あー、びっくりした』
「お前らは剣の中に逃げれば良いだけだろ。ま、俺にかかれば楽勝だけどな」
「キュイキュイ!」
「防衛装置つっても普通のモンスターと変わんなかったな」
襲ってきたモンスターを倒したファングたちの元に巧は戻った。
「本当に、倒した。封印を一つ解いた・・・・・・・。やりましたわ、おふたかた! ありがとうございます!」
感極まったようにティアラは大喜びする。よほど女神の封印を解いたことが嬉しいようだ。
「へえ、やけに素直ね」
「・・・・・・はっ! ぶ、部下を労うのが上司の務めですからね」
「誰が部下ですってー!」
ティアラの軽口にアリンは顔を真っ赤にする。
「おい、ファング。この剣見てみろ」
手に持った剣を興味深げに巧は見つめる。
「な、なんだこりゃ。すっげえパワーだ」
「え、うそ? ほんとだ!」
「女神の力の一部、と考えるべきか」
「レゾナンスエフェクトが強化されたみたいですわね」
レゾナンスエフェクト────共鳴効果。フューリーとフューリーが干渉しあってフェンサーの力をより高める神々が遺した神秘の力の象徴の一つだ。
「レゾなんたらエフェクトってなんだよ」
「惜しい。スだけ言えてない」
『以前言っただろう。お前の力を高める物だ』
「覚えておいて便利ですよ? ファングさんは頼りになる妖聖が二人もいるんですから」
「ふ、二人、ですって!」
ファングの仲間の妖聖は三人。なのにティアラが言ったのは二人。アリンからすれば誰がカウントされてないかは明白だった。
「あんたねえ! 言わせてもらうけど・・・・・・・!」
「どうでも良いからメシにしようぜ。腹減った」
「どうでも良い!? あんたパートナーがバカにされて良いの!?」
腹をさするファングにアリンは怒る。
「・・・・・・あくまでレゾナンスエフェクトを出来るのは未契約の妖聖って言うべきでしたわ」
「アリンのヤツ完全に勘違いしてるぞ、お前もう少し言動に気をつけろよ。いや、あいつらもだけど」
「はい・・・・・・」
巧に言われティアラは少し反省した。
◇
「私以外にこの空間に入れる者がいたとはな」
遠くからファングたちを見つめる者がいた。銀髪の男性。凄腕のアポローネスやエフォールの気配も察知したファングに気づかれないことからその強さが窺える。
「目的は私と違って女神復活か・・・・・・もしそうなら」
「殺戮対象ですね、マスター」
「そうだ『ブラッディ』」
秘書風の女性に男は妖艶な笑顔を浮かべる。
「だが今はまだ早い」
あの空間で戦おうとしても追い詰められれば逃げられてしまう。殺すのは今はまだ先だ。
「どうしたの、バーナードくん?」
男────バーナードの前に一人の少年が現れる。歳はファングや巧より幼くエフォールくらいか。
「いや、少し面白いモノを見つけてな」
バーナードは少年に笑みを浮かべる。
「へえ・・・・・・面白い、ねえ」
少年は無邪気な顔に不気味な笑みを浮かべた。
◇
────翌日
「いらっしゃーい。また会ったねお兄ちゃん。こっちのお姉ちゃんは初めましてだね。情報屋のロロでーす!」
ファングたちはフューリーの情報を買うためにロロに会いに来た。
「こんな小さな子が情報屋!? 危険な目に逢ったりするのに大丈夫なのですか?」
「大丈夫大丈夫、これでもあたし結構強いから」
心配ないと笑顔を浮かべるロロだがなおのことティアラは心配した。
『結構強い、か。・・・・・・だろうな』
「あ、妖聖のお兄ちゃん。あたしの情報売ったりしたらお金取るからね」
『安心しろ。他人の素性を探る趣味はない。お前と違って、な』
「あんたたち何訳わかんないこと言ってんの?」
ブレイズとロロの会話がイマイチ理解出来ずアリンは首を傾げた。出会ったばかりの彼らがまるでお互い知り合いのように見える。
「便利屋じゃなかったか?」
「似たようなものだよ、無愛想なお兄ちゃん♪」
子どもに無愛想と言われ巧は地味にショックを受けた。
「ちなみに今日のフューリーのお値段はこんな感じになってまーす!」
「高っ。常連になってやるからマケろ。飴やるから」
「・・・・・・いらないよ」
「それでマケたらとんでもなく高い飴代になるだろ」
願いを叶えるフューリーの情報代を飴で安く買おうとする人間がいることにロロ、さらに巧は驚きだった。
「ファングさん、全額お支払いしましょう。こんな小さな女の子から値引こうなんて大人として恥ずかしいですよ」
「・・・・・・お前って意外と優しいんだな。見た目だけの優しさだと思ってたぞ」
「そ、そんな二重で喜ばせること言わないでください」
どこに喜ぶ要素があった、ファングは眉を歪めた。
「ほら、ロロ。情報代だ」
「毎度あり~。フューリーはクラヴィーセ洞窟のどこかにあるって話だよ」
「サンキュー。ほらっ、飴やるよ」
「・・・・・・次も安くはしないからね」
「たかが飴くらいでそんなデカい顔しねえよ」
「えへへ、ありがとうお兄ちゃん!」
ロロは笑顔で飴を口の中に入れるとまたどこかへ消えて行った。
「洞窟か、面倒くせえな」
「つべこべ言わずに行くわよ!」
「へいへい」
「・・・・・・洞窟ならライトが必要だな」
◇
「着きましたわ。さあお二人のお手並み拝見いたしますわ」
「何よ、偉そうに! あんた上から目線すぎよ」
「私、おチビのアリンさんより身長が高いので」
「精神的な話よ、あんた絶対分かってんでしょ!」
ティアラとアリンがまた言い争いを始める。この二人は犬猿の中なのかちょっとしたことからすぐに喧嘩になる。
『お前ら喧嘩は後にしろ』
『たっくん、そのほそいのなにー?』
「携帯と一緒に入ってたライトだ。必要だと思ってな」
『いいなー。わたしもほしいなー』
「あとで貸してやる」
巧のトランクケースの中には他にはカメラが入っていた。携帯にライトにカメラ、全て家電製品だ。もしかして自分はスマートブレインの社員で誰かに配達する途中だったのでは、と一つの仮説が出来たが今時スマートフォンではなく携帯を販売する企業なんてあるのだろうか。銃に変形する携帯なんて聞いたことがない。
「はいはい。どうでも良いからさっさと行くぞ」
ファングはため息を吐いて二人に言った。
「なによ。ファングはティアラの味方なの?」
「当たり前ですわ。ファングさんは私を愛してしまったのですもの」
「止めろ、女同士の喧嘩に俺を巻き込むな」
「照れ隠しはお止めになって。いかにも気味の悪い虫が出そうな場所です。ファングさん先を行って私を守ってくださいますね?」
ティアラが笑顔を浮かべてファングに言った。彼は面倒くさそうに頭の後ろを掻いた。
「調子に乗んな。アホバカマヌケ」
「はぁ・・・・・・! 雑ななじり方なのにやっぱりいい!」
「またこんな反応。引くわ~、ねえファング」
「お前もうるせえ」
「酷い! いつあたしがうるさくしたの!? ねえ、いつ!」
「なんか、すっげえ疲れる・・・・・・」
ファングは早くも帰りたくなってきた。
『あの中にだけは絶対に入りたくない』
『えー、たのしそうだよ』
「見てるだけなら、な」
『?』
『大人になれ。多分、分かる』
『へんなのー』
「つーか、虫が寄り付くのってライト持ってる俺だよな・・・・・・帰りてえ」
巧も帰りたくなった。
「殺、殺殺殺・・・・・・!」
そんな彼らを見つめる者がいた。
「ファングさんと乾さんは私と出会う前は何をしてらしたんですか?」
「縛られて生きるのは嫌でな。自由を求めて旅をしてた」
「俺は成り行きでだ。記憶をなくして何も出来なかったところをファングに助けられてから一緒に旅することになったんだ。ウダウダ悩むのにも飽きてな」
薄暗い洞窟の中を歩いているとどうしても退屈になる。自然と彼らの口数は多くなる。
「ティアラは何でフューリーのことにそんな詳しいんだ?」
「・・・・・・古い文献を調べました」
「へー、文献なんてあるのか。そんな物読んだことねえや」
「ファングさんなら必要なさそうですものね」
「褒めるな」
もちろん誰も褒めていない。
(文献なんて本当にあるの? どうにもこの女怪しいのよね)
アリンはますますティアラへの疑惑を深めた。彼女は妖聖のアリンやブレイズの知らないことまで知っている。それが自分たちをはめようとしてるのではないかと、そう思った。
「・・・・・・深いな」
巧が少し深めの細道を前に足を止める。不安定な足場の洞窟だ。うっかり滑っただけでも身体に深い傷が出来るかもしれない。
「ちょっと待ってろ。俺が先に降りてお前らを照らす」
「気をつけてください、乾さん」
『たっくんがんばれー!』
巧が傾斜を下る。やはり少し高い。それに足場が滑る。戻る時に苦労しそうだ。彼は慎重に下った。
「次は誰だ?」
「ファングさん、先行してください」
「へいへい」
ファングはこういったことに慣れてるだけあってすんなりと滑り下りた。砂漠を渡った経験は無駄ではなかったようだ。
「・・・・・・どうした、ティアラ?」
「い、いえなんでもないです」
「滑っても俺たちが受け止めてやるから安心しろ」
逆にティアラはお嬢様育ちというだけあって下るのに躊躇ってるようだ。ファングと巧が手を伸ばして来い、とジェスチャーする。ティアラは意を決して滑り下りた。足がもたれて躓きそうになるのを慌ててファングが受け止める。
「おいおい、フューリーを集めるのにそんなんで大丈夫かよ? もっと危険な場所もあるんだぞ」
「ふぁ、ファングさんに言われなくても分かってますわ!」
「アリン、お前も下りてこい」
巧がアリンを呼んだ。
「あたしはこんなの飛べるから関係ないわ」
アリンが背中の羽根を使って悠々と下りる。心配はなさそうだ。そう思っていた巧の顔が驚きに変わった。
「あ、バカ! 上だ上!?」
「いった~!」
巧の警告は間に合わずアリンは通路状になっていたため低くなっていた天井に頭をぶつけた。
「はは、何やってんだ、お前?」
「いたた! うっさいわね! 笑わないでよ!」
ファングは頭を抑えるアリンを笑う。巧も笑いを堪えていた。
「もう、たんこぶが出来ちゃいそう・・・・・・」
「大丈夫ですか? アリンさん。傷を見せて下さい」
「どうせあんたも笑い物にする気で『いいから見せてください!』・・・・・・はい」
「こぶになってますわ。『ヒール』」
ティアラがアリンの頭に出来た傷口に魔法を使う。ヒール───人の傷を癒やす魔法。簡単な傷ならたちまち治る回復魔法。魔術学院にいたティアラなら造作もない魔法だ。
「へー、お前回復魔法使えんのか」
「便利そうだな」
「これくらい当然ですわ」
「あ、ありがと」
「さ、行きますわよ」
ティアラは自慢げな笑みを浮かべる。アリンもこれには素直に礼を言った。
「殺殺殺殺」
四人のその様子を憎々しく睨む者がいた。
「・・・・・・ちょっと待て。なんか誰かの視線を感じた」
ファングがその視線に感づいた。
「誰かって誰よ?」
「私たち以外にもフューリーを狙う輩がいるのでしょうか?」
「いや、なんか違うような・・・・・・とりあえず出て来い!」
ファングに気づかれたことによってその者は姿を現した。彼はその視線を送っていた者の正体に驚かされる。
「げ、エフォール」
「殺殺」
『あの時の少女か』
エフォール。奇妙な縁からファングに殺意を向けるようになった少女だった。彼女はファングを鋭く睨みつけた。
「久しぶりだな会いたかったよ死ね、とエフォールは申しております。あらあら、この子ったら」
「よお果林、久しぶりだな」
「巧さん、お久しぶりです。・・・・・・また会えて嬉しいです」
果林。奇妙な縁から巧の正体を知ることになった少女。彼女は巧に微笑んだ。
「こいつら誰?」
「ファングさんたちのお知り合いですか?」
「まあな。こっちがフェンサーのエフォール」
「こっちがパートナー妖聖の果林だ」
ティアラとアリンは彼女たちと面識がないのか首を傾げていた。エフォールは二人をキッと睨む。
「殺殺」
「お前らはウザくて嫌いだから惨たらしく死ね、とエフォールは申しております」
「ええっ、その二文字にそんな恐ろしい意味があるの!?」
エフォールの口調に隠された意味に驚愕するアリン。
「殺殺、殺」
「私はお前らみたいな男女でいちゃつく奴らが大嫌いなんだ殺す、とエフォールは申しております」
「てか通訳入れずに普通に喋りなさいよ」
「エフォールさんは普通に喋れないのですよ。きっと悲しいことがあったんです。だからそんな変な言葉を・・・・・・お気の毒に」
「・・・・・・!」
ティアラは本当に気の毒そうにエフォールに言う。彼女はエフォールが何らかの悲しい事情があってそんな喋り方になったのだと思い真剣な目線を彼女に送る。
『ふむ、変わった口調だと思ったがやはりそういう事情があったか』
『エフォールかわいそう』
「・・・・・・!」
「あー、あんたにはパートナーの果林がいる。だからその変な喋り方も少しずつ治していけばいい」
巧たちもエフォールに同情的な目線を送った。
「ちなみにエフォールがこんな喋り方なのはシャイなアンチキショウだからです」
「それ余計に恥ずかしくね?」
「・・・・・・殺!」
エフォールはファングたちから逃げるように洞窟の中に消えていった。
「ああ、エフォール待ってください! 巧さん、皆さんまた会いましょう」
果林もエフォールを追いかける。
「なんだったんだ、一体?」
「さあ? お前を殺しに来たんじゃないか?」
「あの果林という方は乾さんの方に用があったみたいですわね」
三人は首を傾げながらも洞窟を進んでいく。
「殺しに来たって・・・・・・あの子に何したのよ?」
◇
「エフォールさんがファングさんを狙う理由はそんな悲しいことでしたのね。少しあなたを見直しましたわ」
「もっと見直せ。他の人間は殺されるかもしれねえが俺を殺すのは不可能だからな。無駄な血は流さないに限る。それにあいつあのままだったら遠からず死んじまう気がしたんだ」
ファングはエフォールとの出会いの経緯を語っていた。
「壊すことしか知らない、か」
────僕が世界で一番強いんだ
そんな人間がいるならエフォールのように無感情、あるいはどこまでも無邪気になるのだろうか。何となくそんな人間に心当たりがある気がする。
「巧は苦しんでるところに声を掛けてくれた果林がごろつきに絡まれてるところを助けたなんてロマンチックな出会いをしたのね。なんか映画みたい」
『おお~たっくんかっこいい』
巧は果林との出会いを語った。もちろんウルフオルフェノクのことは隠して。
「私もそんな出会いをしたいものですわ」
やはり女性はそういう話が好きらしい。ファングとエフォールの出会いでしんみりとした雰囲気から一変巧と果林との出会いに目を輝かす。
「痺れ薬を盛った男と女神を復活させる旅をすることになるのも映画みたいな出会いじゃね?」
『前者はラブロマンス、後者はコメディだな』
「別に、そんなんじゃねえよ。たまたま気が合ったから助けただけだ」
巧はあまり色恋沙汰には興味がない。記憶をなくす前から今に至るまで彼女というものがいない。それは自分が親しくなった、好きになった人間を裏切るのが怖いからだ。
「巧ったら素直じゃないんだからっ。あ、フューリー発見! いただきー!」
アリンは突き刺さったフューリーを見つけた。笑顔で取りに行こうとする。
「殺殺、殺殺殺」
「さっきはよくもバカにしてくれたな。絶対に許さない、とエフォールは申しております」
「げ、またあんたたち!? ちょ、ちょっと。まさかそれであたしを斬るつもりじゃ・・・・・・!?」
エフォールが死神をイメージする鎌を手にアリンの行く手を阻んだ。
「おい、アリンには手を出すなよ」
「ふぁ、ファング~」
剣を抜いたファングがアリンの前に立つ。
「殺殺」
「分かっているお前を殺してからだな、とエフォールは申しております」
「分かってんのか、それ?」
「一応そういう約束ですので・・・・・・」
『ファングがしたんだよ~』
そう約束したのはファング自身だ。俺を殺すまで誰も殺すなという約束は要は彼自身を殺せれば誰を殺しても良いということだ。
「ちょっとあんたのテキトーな約束のせいであたし巻き添えで死ぬかもしれないの!?」
「あなたは契約した妖聖だから良いじゃないですか。ファングさんが死ねばそのまま消えられます。むしろ巻き添えになるのは私と乾さんですわ」
「はあ? 俺も殺されるのかよ! 俺はフェンサーじゃないだろ!?」
ティアラと巧はファングへ非難めいた視線を向けた。
「うるせーな、勝てば良いんだから問題ねーだろ」
「殺殺殺」
「ちなみにそこの男は果林のお気に入りだから『生かしては』おいてやる、とエフォールは申しております。・・・・・・だ、大丈夫です。巧さんがどんな姿になっても今度は私が守りますから」
エフォールは巧にだけ殺意以外の不気味な目線を送る。彼は背筋に寒気を感じた。
「ちょっと待て。二人揃ってなんだその含みのある言い方は」
『極端な話四肢をもがれても死ななければ生きてはいるからな。・・・・・・うむ』
「うむじゃない!」
エフォールもそうだが果林もどこか価値観がズレている。本当に彼女を普通の女の子にしたいのか疑問だ。
「いくら何でもそんな姿になったら好きな人間でもキツいだろ。恩があるくらいの人間なら尚更無理じゃね?」
『・・・・・・』
「な、なんだよお前ら」
ファングの言葉にティアラやアリンが考え込む仕草を見せ彼は汗を流した。
「ま、まあ良い。物騒な言葉遣いのガキに大人の厳しさを教えてやる!」
「・・・・・・殺」
「来るよ、ファング!」
エフォールはファングに鎌を振り下ろした。彼は横に避ける。完璧に避けたつもりが袖を掠めた。早い。この前より格段に動きが早くなっている。この前はただの人間のエフォールだったが今はフェンサーのエフォールだ。戦うならまったくの別人と考えた方が良いだろう。ファングは剣を真横に振る。難なくかわされた。僅かに出来た隙を見逃さずエフォールは追撃の一撃を放つ。下か上への切り上げ、剣で防ぐのは不可能。ファングは後ろに跳ぶ。今度は彼女に大きな隙が────
「殺!」
エフォールがニヤリと笑った。
「ファングさん避けて!」
「・・・・・・変形した?」
ティアラと巧の警告にファングはハッとした。気づけばエフォールの武器が鎌ではなく弓になっている。一度引けば二度と戻らぬ必殺の矢を携えた暗殺者の弓が彼女のその手に握られていた。いつの間に弓に持ち替えた、ファングは困惑した。
『フューリーは万能武器、使用者の思いのままに姿を変えるぞ!』
『あぶない!』
引き絞られた矢が一直線に放たれる。当たればどうなるか明白だ。
(ち、早く言えよ!)
ファングはとっさに剣を盾にした。斬るより次の攻撃に繋げるなら防御のが良い。矢が剣に直撃する。強い痺れをその手に感じた。
「ファング、不味いよ!」
「っ!?」
アリンの慌てる声に目線を向けるとファングは自分の右手から先が凍っていることに気がついた。妖聖果林の属性は氷。放たれる必殺の一撃は直撃したモノを氷結させる力を秘めていた。完全にファングは身動きを封じられた。
「殺殺殺!」
エフォールが急速に接近する。今度はその手に鎌を持っていた。ファングの首を切り落とす気だ。彼は驚愕に顔を歪め────
「バァカ!」
ニヤリと笑った。エフォールは目を見張った。氷が溶けている。ファングの手はずぶ濡れになりながらも元通りになっていた。
「あたしの力よ!」
『ううん、わたしだよ!』
『我ら、の間違いだ阿呆』
妖聖果林の属性が氷ならば妖聖アリン、ブレイズとキョーコの属性は炎。必殺の斬撃はありとあらゆるモノを焼き尽くす火炎の力を秘めていた。
「くらえ!」
「殺!」
炎を纏った剣と氷を纏った鎌がぶつかり合う。激しい衝撃が二人を襲い、その手に持っていた武器が離れる。引き分け、ではない。ファングにはまだ剣がある。武器を取りに行こうとするエフォールの手を掴んで首に剣を向けた。
「俺の勝ちだ」
「・・・・・・殺殺」
「私の負けだ殺せ、とエフォールは申しております」
エフォールは降参と両手を上げる。
「俺に殺してほしけりゃもっと強くなれ」
「殺、必殺」
「覚えていろ、必ず殺してやる、とエフォールは申しております」
ファングは剣を下ろす。彼は最初からエフォールを殺す気はない。彼女は子どもだ。殺意を向けて良い相手ではない。
「前にも言ったろ。ガキはガキらしくしてれば良いんだよ。俺みたいに好きな時に食って好きな時に寝ろよ」
「お前は大人だろ」
「うるせ」
ファング二十歳。この場で唯一成人してる男だ。
「エフォールさんは可愛らしいお顔をしてるのですからファングさんの言うように普通の女の子らしくすれば良いと思います。そうしたら私のように世の男性を魅了する女性になれますよ」
「殺殺殺」
「だからそれはファングを殺してからだ、とエフォールは申しております。これでもこの子にしては大分進歩したんですよ」
エフォールは身体に付いた汚れを落とすとゆっくりと立ち上がる。
「誰が殺されるかよ」
「殺殺殺。滅殺」
「次に会える時を楽しみにしている。その時がお前の最後だとエフォールは申しております。こんな可愛い女の子が会いに来てくれるなんてファングさんは幸せですね」
「前置詞に殺しがなければな」
ファングはため息を吐く。
「・・・・・・ちょっと巧」
「なんだ、アリン?」
「果林になんか言ってあげなさいよ」
「・・・・・・嫌だね」
「絶対喜ぶから」
「なんだよ、たく」
アリンは意図的に黙っている巧の背中を押す。果林の前に彼は出る。
「巧さん・・・・・・?」
果林は目を見開き首を傾げる。
「・・・・・・お前もやってみろよ。普通の女の子らしいことってヤツを」
「・・・・・・え?」
「お前もエフォールみたいに────してるんだからよ」
巧の言葉は途中小さく聞こえないところがあった。だがエフォールみたいに、という部分だけで彼が何を言っているのかが分かった。果林の顔は少しだけ紅くなる。
「そ、それはエフォールが普通の女の子らしくなってからにします」
「殺?」
「い、行きますよエフォール。・・・・・・では皆さんまた会いましょう」
エフォールと果林は洞窟の外へと消えていった。
「ね、喜んでたでしょ!」
「そうだったか?」
『うんうん! うれしそうだった』
何だかよく分からず巧は首を傾げた。
「女ってのはそういうのほんとに好きだよな。・・・・・・よっと!」
『これで二つ目のフューリーだな』
ファングは手に入れたフューリーをティアラに手渡す。
「意外と順調ですね。いい働きですよ、ファングさん」
「偉そうに言うな。俺を怒らせたら恐ろしいことが待ってるぞ」
「お、恐ろしいこと♪」
「・・・・・・なんで声が弾むんだよ」
ティアラはよく分からない。ファングが首を傾げる。
「腹減ったな。帰るぞ、お前ら」
「三つ星シェフが待ってますよ」
「もうそのネタはいい」
ファングはそのことを思い出すだけでげんなりする。あっさりと騙されていた自分を思いだすととても情けなくなる。
「・・・・・・それにしてもエフォールさんは本当に可愛らしいお顔をしてるのにもったいないですわ」
「あー、ほんとね。将来凄い美人になりそう」
「何とか出来ると良いんだけどな」
出口に向かっているとエフォールについての話題になる。壊すことしか知らない彼女をどうにか出来ないものだろうか。エフォールを見ていると果林が心配する理由も分かる気がする。
『やっぱりあれしかないよ』
『ファングが死ねば、な』
「おい、お前らふざけんな」
二人に抗議をするファングだが彼以外のメンバーは笑顔でそれだ!と頷いた。ファングは肩を震わせる。
「お前ら冗談でも本気でもぶっ飛ばす! あ、逃げんな!」
逃げる三人をファングが追いかけ回す。彼らは洞窟を出るまで楽しそうに鬼ごっこをした。
草加がいないと仮面ライダー555は面白くなくなる変わりにそこそこ平和だと気づきました。シャルマンがいないとフェアリーフェンサーエフはただの王道RPGだと分かりました。つまり現状はかなり平和ということです。
まあ、草加はともかくシャルマンは普通にいるのでこの平和は長続きしないんですけどね。ちなみにバジンは巧を一生懸命探してますがあっちへ来たりこっちへ来たりでなかなか合流出来てません。次回辺りで再登場します。
関係ないですけどたっくんは井上ライダーの中では一番恋愛と遠いキャラですよね。翔一くんや渡くんは結構想像つくんですけど。
謎の新キャラも出たりしましたが555の登場まであと二話です。期待していてください