…ザァァァァァァァァァ…
大きな音を立てて、雨が降り始めた。
どんどん強まるその雨足に、カカシは嫌な予感を膨らませていた。
すでに限界まで上げているスピードを、少しでも早くと力を振り絞る。
「パックン!ニオイは消えてないか!」
「大丈夫だ!」
カカシの口寄せの術によって呼ばれた
彼らは今、里を抜け大蛇丸のもとへと向かったサスケと、それを止めるべく後を追ったナルトを探していた。
さっきのあのチャクラはまずい。
先ほど感じた二つの巨大なチャクラ。 それがぶつかり合いはじけた。
あれは間違いなく、ナルトとサスケの物だ。
間に合うか。
…サスケ…行くな!
「近いぞ!…こっちだ」
パックンが崖を駆け下りてゆく。
続いて駆けるカカシ。
その視界に、倒れこむナルトの姿をとらえた。
そしてそばに降り立ち…
「遅かったか…」
そこにサスケの姿はなかった。
「ナルト…」
かなりの重傷だが、どうやら命に別状はなさそうだ。
「カカシ」
パックンがナルトのそばに落ちていた額あてに気付き、においをかぐ。
「サスケのだ」
「……………」
その額あてには横に一筋傷が入っていた。
まるで里とサスケを引き裂くかのように…
カカシは無言でその額あてを手に取り、ナルトの胸の上に乗せる。
そしてそっと抱き上げた。
「間に合わなくてすまなかった…」
…雨はまだやまない…
「お前のことだ…必死だったんだろうな」
……サスケ……お前は今……
ナルトを背に乗せ、カカシは国境の先へ目を向ける。
そこのいるはずのないサスケの背が、見えたような気がした。
雨はいつの間にか上がり、日の光が雲の隙間から広がりだしていた。
「止んだなカカシ。しかし、あの雨のあとではもうニオイじゃ追えねェ」
「そうだな」
「それに、サスケを追うよりナルトが先だ」
「ああ」
無事とはいえこの怪我だ。
すぐに治療が必要だろう。
「戻ろう…」
カカシとパックンは、地を蹴り里へと向かった。
…この日。うちはサスケが木の葉の里を抜けた。
強く降った雨のあとの日差しが、なぜだか必要以上に優しく感じ、それが逆にカカシの胸に、重く暗いものを刻んだ。
里についてすぐにナルトは集中治療室へと運ばれた。
また、サスケを連れ戻すため、その任務にあたった同期のメンバーたちも、それぞれ治療を受けていた。
中には重症を負い、生死をさまよったものもいた。
しかし、里の優れた医療忍者たちの尽力により、尊きその命は守られた。
カカシはナルトの様態がひとまず落ち着いたことを確認し、あの場所へと向かった。
自分を救うために、命を落とした親友の名が刻まれている慰霊碑の前に。
「オレも今や上忍で部下を持つ身だ。だが、昔のまま…いつも後悔ばかりだ…」
…なぜ気付けなかった…
サスケの心に…
「お前が生きてたら、今の俺になんて言うんだろうな。オビト」
…なぜ…
「いや。違うな…」
オレは気づいていた。
サスケの心の闇の深さに。
いつかこうなる事を心のどこかで想定していた。
でも、俺は…
「過信していたんだ。あいつなら大丈夫だって。オレの部下ならきっと…と」
オレにはそんな力がないって事を、あの日学んだはずだったのにな。
「自分を責めるな…カカシ」
背中にかけられた声に、カカシはゆっくりと振り向いた。
「ガイ…」
「やはりここだったか」
やっぱり来たか…
カカシは心でつぶやいた。
里の仲間は、部下が里を抜けたという状況のオレに、声をかけずらくて
しかし、おせっかいなこの男は、きっとすぐに声をかけてくるだろうと予想していた。
「オレは気の利いた事は言えんがな。その代わりに…」
「ライバル対決はやらないよ」
「むぅ…」
先読みされ、言葉を失うガイ。
「お前の言いそうなことくらいお見通しだよ」
「ふん。相変わらず食えん奴だ。ま、もし気が変わったらいつでも相手になってやろう!」
親指を立て、いつものポーズを決めてガイはあっさり背を向けた。
「ガイ…」
振り向かぬまま足を止めるガイに、カカシは素直な気持ちを言葉にした。
「ありがとうな」
手を上げ無言のまま彼は去って行った。
「オレも帰るか…」
もう一度だけ、親友の名を目に映し、カカシは帰路についた。
帰り道、誰かと言葉を交わしたような気がしたが、よく覚えていない。
家についてシャワーを浴び、何も口にせずベッドに横になる。
だがとても眠れそうになかった…。
…サスケ…なぜ行ってしまったんだ…
オレに何も言わず…
窓の向こうに輝く細い三日月を見ながら、カカシはサスケの事を思い出していた。