いったいどれほどの敵を倒しただろうか…
果てなく思われたこの場所での戦いは、徐々に終息しつつあった。
試験会場の敵の排除にあたったカカシやガイ、そしてその他の忍が一か所に集まり、会場内を見回す。
ふと、先ほどまで試合が行われていた場所に、鷹の影が浮かぶ…
そして、幾度か鳴き声を放ちながら上空を旋回する。
「あれは…」
ガイが空を見上げその姿を確認する。
その隣でカカシが小さく息を吐く。
「ようやくか…」
それは、緊急事態における合図の一つだった。
『非戦闘員の避難の完了』
そしてそれが終了次第、里の総力をあげて敵を排除する。
今まで避難優先にあたっていた暗部を含むすべての忍による戦い。
「ここからが本当の反撃開始だ!」
『おう!』
しかし、しばらくして、火影を閉じ込めていた結界が消え去り、大蛇丸が数人の忍に支えられ撤退していく姿をカカシたちが捉えた。
そして、会場内でカカシたち上忍と対峙していた大蛇丸の配下、薬師カブトも引き際と察し、その身を引こうとしていた。
「また俺から逃げるのか」
カブトとはこれが2度目の対戦であるカカシの低い声が響く。
「今は…ね。
うかつに手の内を見せると、コピーされちゃうのが関の山ですから。
まぁもっとも、うちは一族ほど完璧にその目を使いこなせてはいないようですが…」
「では」
すっと、その場から姿を消した…。
カカシは相手の余裕ある態度に苛立ち、グッとこぶしを握りしめた…。
しかし、苛立ちの正体はそれだけではなかった。
…勝てるか…
一瞬そんな事がかすめた自分への腹立たしさのほうが大きかった。
「おい、カカシ火影様のところへ」
ガイの言葉に我に戻り、カカシは頷いた。
そして三代目火影のもとへ駆けつける。
が、火影はすでに帰らぬ人となり、横たわっていた。
体には封印術『
それを見た者すべてが悟った。
三代目火影が己の命と引き換えに里を守ったのだということを…
「ガイ…ここは任せる」
カカシのその言葉にガイは頷く。
「ああ。早く行ってやれ」
「すまない」
カカシはそう言い残して、サスケ達を探しに走った。
その場所は、戦いの後を追えばすぐに見つけることができた。
なぎ倒された木々、大きく削られた大地…
それらが事の激しさを物語っている。
が、今や戦っている様子も、敵の気配も感じない。
…どうやらこちらも終わったみたいだな…
しかし、
「一体どんな戦いを…」
あいつらは無事なのか…
カカシは嫌な予感を胸に、足を速めた。
そしてしばし走り、木の上に、カカシが追跡役として口寄せした忍犬のパックンと、そのそばに横たわるサクラを見つけ、駆け寄る。
「パックン!サクラ!」
「カカシ!」
さっとサクラのそばに降り立ち様子を見る。
どうやら命ににかかわるような怪我ではなさそうだ。
ほっと息を吐き、周りを見回すと、少し離れた場所に、ナルトを抱えて歩くサスケの姿を捉えた。
「サスケ!」
サスケは自分に駆け寄ってくるカカシの姿を見つけて、ほっとした表情を浮かべた。
「無事か!」
サスケに近寄り、その体に呪印が広がっていることに気付く…
「サスケ…お前」
サスケはうつむき、力なく言う。
「すまない…」
「いや…いいんだ」
サスケはそっと顔を上げる。
「大丈夫だから。
よくやったな」
その笑顔を見た途端に、すぅっと呪印が引いてゆく。
それとともに、緊張が消えたのか、サスケはナルトを抱えたままカカシに向かって倒れ込んだ。
ナルトも意識を失ってはいるが、無事なようだ…
二人をしっかりと受け止め、カカシはもう一度言う。
「よくやった」
そして、ガイが手配した医療班がその場に到着し、彼らは里へと戻った。
里のあちらこちらから煙が上がり、いたるところで動かなくなった敵味方の姿が見て取れた。
…また大勢の命が…戦いによって奪われた…
この戦いの連鎖は…切れない…
カカシは背負ったサスケにちらりと目をやり、そんなことを思った。
これからの里を担っていくこいつも…ナルトも、そしてサクラもまた、その戦いの中で生きてゆくのだろう…
少しでも、それを減らしたい…
大事な里の若葉であるお前たちが歩く未来から、少しでも闇を取り除いてやりたい。
そのためにできる事なら、オレはなんだってやるよ。
だから、サスケ…
お前はオレから離れるなよ…
こうして、長い一日が…ようやく終わりを迎えた…
あれから…いくばかの時間が流れた…
三代目火影をはじめ、命を奪われた者たちの葬儀が滞りなく進められた…
そしてその命は、里に…カカシたちに、未来を担う者たちに、様々なものを託し旅立っていった…。
涙をこらえ、命を見送るサスケ、ナルト、サクラ…3人のその表情から、皆それぞれに、三代目火影が守り抜いてきた『火の意思』をしっかりとその胸に刻んだようだった。
葬儀のあと、カカシとサスケはナルトたちと別れ、家に向かっていた。
「サスケ、お前…大丈夫か?」
「何が?」
顔を向けぬまま言葉を交わす。
「我愛羅に…また何か言われてないかと思って…ね」
ピクリとサスケの体が小さく揺れる。
やっぱり…か…
カカシは内心でため息をつく。
あのあと、目を覚ましてからサスケは時折ぼんやりしたり、険しい顔で考え込んだり…と様子が少しおかしかったのだ。
「何かあったんだな」
サスケはしばらく黙っていたが、ポツリと呟くように言った。
「別に何もない」
感情をまったく感じさせない口調だ。
「あ…そ…」
チラリとサスケを見ると、その瞳は無機質な空気から徐々に怒りをまじえたものに変わっていく。
「サスケ…」
「………っ!」
はっとしてそれを隠すサスケ。
「何があった」
しかしサスケは答えない。
顔を背けて口を閉ざし…しばらく歩いてからサッと塀に飛び乗り、行き先を変える。
「おい、どこ行くんだ」
サスケは背を向けたまま、チラリと一瞬だけカカシを見た。
「帰る」
そしてそのまま姿を消した…。
「帰る…って」
自分の家に…か…
確かに、千鳥の修業も一応は終わったしな…
だからといって、すぐに帰ることもないのに…
カカシはサスケが去った方をしばらく見つめていた。
…あの目…
先程の怒りを含んだ目…
そして別れ際の、どこか冷めたような目…
カカシは出会ったばかりの頃のサスケを思い出していた。
自分は人とは違う…
誰にも近寄らせない…
あの頃のその空気を感じさせる…。
我愛羅に何を言われたのか、ある程度想像はできたが、それをこちらから投げ掛けるのは逆効果だろう…
カカシはしばらくサスケから話して来るのを待つことにした…。
そして歩きだし、ふいに、三代目…ヒルゼンから言われた言葉を思い出し、再び立ち止まる…
『お前ならサスケを救える』
「三代目…」
あの時オレは切れ良く返事を返したが…
本当に…オレに…
カカシは胸に浮かんだ不安を必死に振り払った。
「オレが揺れてどうする」
揺れるサスケの隣で一緒に揺れていては、サスケを支えることはできない。
カカシは決意新たに歩きだした。
サスケ…お前を闇に渡したりはしない…