その後部屋に戻り、カカシは荒れた呼吸を整えながら焦りを覚えていた。
「体がかなり重いな…。
早く戻さないと…」
大きく息を吐き、ベッドに入る。
と、その時、バサッと入り口の辺りで何かが落ちる音がした。
振り向くと、目を見開き立ち尽くすソラがいた…。
足元には花が落ちている。
「ソラ…」
呼ばれてハッと我にかえり、ソラはまるで出席をとるような口調でカカシの名を呼ぶ。
「カカシ!」
「はい!…?」
思わず返事をするカカシに、ツカツカと歩み寄りながら、ソラは
「ごめん!先に謝っとく!
だから…今だけ…許して…っ!」
そして、涙を流しながらカカシに抱きついた。
「ソ…ソラ…お前…」
その言葉に、深く関わりを持ってはいけない…という自分の覚悟に、ソラが気づいている事をカカシは知る…。
「もう…目を覚まさないかと…っ…」
震える肩に回しかけた手を、カカシはぐっと握りしめこらえる…
…が…
「すまない…オレも先に謝っておくよ…。
…今だけ…」
そう言ってソラを抱きしめた。
自分の身を案じ、無事を喜んでくれる存在がこんなにもありがたいなんてな…
サスケも同じように感じているだろうか…
ふと、サスケの病室の方に視線を上げ、
「…っ!」
カカシは固まった。
ニヤニヤと笑いながら、自来也がドアにもたれて立っていたのだ。
カカシの様子に気づきソラもそちらに視線を向け、慌てて飛び
「自…自来也様!」
よりによって…一番見られたくない人物に…
カカシは顔を引きつらせる。
カカシにとって自来也は、昔からなぜだか少し反発してしまう存在であり、苦手な人物だ…。
「いやぁ…ええのぉ。若いというのは」
自来也はおもむろに紙とペンを取りだし何やら書き綴る。
「先に謝っておくよ…今だけ…か。よいセリフだ…次の新作の小説に使わせてもらうとするか」
「~ッ…!」
二人とも真っ赤だ…。
「一体何の用ですか!」
カカシが声を荒げる。
「何だ、聞きたくなかったか?」
その言葉に真顔に戻る。
サスケと…イタチの…
「いえ、お願いします」
「うむ」
頷き、自来也はソラの用意した椅子に座る。
「ワシも先に謝っておくとするか…。
カカシ…すまんかったな…もっと早くに止めてやるべきだった…。
サスケの気持ちを汲んだつもりだったが、そのせいで、ひどい目に合わせてしもうた」
サスケの身を思ってだろう。
自来也はスッと頭を下げた。
カカシは驚き、慌てる。
「よして下さい…。
ナルトの事もありましたし、それに…オレも…同じ事をしたかもしれません…」
それは正直な気持ちだった…。
サスケにとって、イタチはずっと恨み、追い続けてきた存在だ…
実際その場に居合わせたら一矢報いさせてやりたいと、そう思ったかもしれない…。
「それで…」
話の先を待つカカシに、自来也は顔をあげる。
「あやつ…イタチのやつ、容赦なしだ…。
サスケの千鳥を簡単に受け流して、印を組めぬよう手首の骨を折りよった。
そして幾度も殴り付けて、罵り感情を傷つけ…あげくの果てに幻術だ…」
「…サスケ…」
「ひどい…」
その様子を想像して、ソラも辛そうに顔を歪める。
「必要以上に揺さぶりをかけておった…。
お前には興味はないと、挑発するような言葉…
そして、お前は弱い…憎しみが足りない…とな」
自来也は鋭い眼差しでカカシを見る。
「完全なる敗北感…届かぬ焦燥…。
カカシ…気を付けてやれ…」
「はい…」
「うむ。
…しかし…あれだのぉ…」
急に声のトーンを上げて、いつもの調子でニカッと自来也が笑った。
「お前らがうまくいっとるようで安心したぞ」
「…え?」
一瞬カカシとソラが顔を見合わせる。
そしてすぐにソラがそれを否定した。
「違うんです!あれは私が勝手に。
ほら、突然目を覚ましたので驚いてしまって。
だから違うんですよ!」
自来也に向かってニコリと笑い、持ってきた花を生けようと、窓辺の花瓶を取りに行く。
…ソラ…すまない…
その様子を見て事を悟ったのか、自来也はカカシをジトリとにらんだ。
「お前…」
「な…なんですか…」
「まだ下らんことを言っとるのか…」
「何のことです…」
「まったく…
だから、先に…今だけ…か…。
そういう所がいかんのだ、お前は!」
「…どういう所ですか…」
「
自来也は大きく息を吐いた。
「そんなことだからイタチなんぞにしてやられるんだ」
「なっ!
それは関係ないでしょう」
「かつての部下にいいようにやられおって…。
なっさけないのぉ」
「あなただって!逃げられたんでしょう」
「むっ!わしは撃退したんだ!」
「おかしいですね…ずいぶん簡単に術を破られたと聞きましたが」
「なっ!くそ、ナルトか…
あやつ…余計なことを…」
「里への侵入者は捕らえて尋問するのが基本だったと思いますがね…。
オレの覚え違いですかね…」
「お前…言うようになったではないか…」
「いえいえ、伝説の三忍自来也様には敵いませんよ」
しばしにらみ合う。
が、自来也が「ガハハ」と豪快に笑った。
「ふん。まぁそれくらい口が回ればじき退院できそうだのぉ」
そして、再び真顔に戻る。
「カカシ…サスケも気になるだろうが、ナルトを頼むぞ…。
あれには里の未来がかかっとる…いろんな意味でな…」
「と言いますと…?」
しかし自来也は意味ありげに笑みを浮かべ立ち上がる。
「いずれわかる。
じゃぁの。
ソラ、カカシを頼むぞ」
静かに頭を下げるソラを満足そうに見つめ、背を向け際に、何かの包みをカカシの布団の上に投げてよこす。
そして、
「糖分を取れ」
そう言い残して部屋から出て行った…。
「なんだ…?」
カカシが包みを開けると…
「団子…。
オレ甘いの嫌いなんだけど…」
ソラが「フフ」と小さく笑う。
「ん?」
「これ」
包み紙を指さす。
「このお店のお団子、甘さ控えめなのよ」
「…あ…そ…」
またソラが小さく笑った。
「あなたと自来也様って、何だか…サスケ君とあなたを見てるみたい…」
カカシは心底嫌な顔をする。
「やめてくれよ…」
あの人は…妙におせっかいで、事あるごとに何かと口うるさくて…
そのくせ、肝心なことは言わず、『自分で答えを見つけろ』と言わんばかりにいつも含みを持たせた物言いで…
どこか癇にさわる…
オレにとっては面倒な存在だ…
「でも、ここぞという時には必ず来てくれる…でしょ」
言われてはっとする…。
そして、カカシは過去の自来也との事を思い出していた。
オビトとリンを失い…恩師ミナトまでが死に…喪失感に捕らわれていた時。
カカシは無理やり自来也に旅に同行させられたことがあった。
その旅で、カカシは大切なものに気付き、それが大きな人生の岐路になった…。
ほかにも、自分の色々な場面に自来也がいたことを、カカシは思い起こす。
…オレがサスケに感じるのと…同じ気持ち…?
思いもしなかったことだが、そう考えると、スッと心に収まる事が多々あった…
そして、あの旅の中で自来也に言われた言葉が浮かぶ。
「お前は木の葉の大事な若葉だからのぉ」
それはまさしく、カカシがサスケ達に抱いている感情だ…。
カカシは団子に目を落とし、小さく笑った。
想いは…こうして受け継がれてゆくものなのか…