カカシの受けた任務は実にCランクに近いBランク任務だった。
隣国「穂の国」の名家の当主と令嬢を、火の国の温泉町から穂の国まで護衛する…といったものだった。
それでも、カカシを指名するほどだ…
何かあるのかもしれない…と、ガイもアスマも警戒してはいたものの、道中なにもなく順調に進み、予定した時間に、予定していた宿泊町までたどり着いた。
カカシたちは依頼主の隣に部屋を取り、交代で外の見張りをしていた。
「カカシ、代わるよ」
深夜を過ぎ、交代のためアスマがカカシのもとへ来る。
「ああ。たのむ」
アスマにその場を任せたカカシは、思うことがあり、部屋には戻らず宿の庭の
そして、親指を噛み切り印を組み、タンッ…と地に手をつく。
「口寄せの術」
呼んだのは忍犬の『パックン』だ。
「なんだ、カカシ…こんな時間に…。
追跡か?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあってね…」
パックンはじろりとカカシをにらむ。
「おい、お前わしをなんだと思っとる…。
こんな時間に、話し相手にするために呼び出したのか…」
「まぁまぁ、そう言わないで。
ちゃんとお礼はするから。
ほら、これ」
カカシの手には…
「おぉぉぉぉぉ!
わしの好きな木の葉特性高級犬缶!
むぅ…まぁ、仕方ない。手を打ってやる」
カカシが缶詰を開けると、パックンはすぐに飛びついた。
「で、何が聞きたいんだ」
一瞬であらかた食べ終わり、カカシに視線を投げる。
「この間の話を聞かせてくれ…」
「というと、あの砂の忍のことか…」
「ああ」
缶詰をきれいになめきり、ふぅと息をつく。
「あやつ、見事な活躍だったぞ。
まさかあんなちんちくりんが妙木山のガマを口寄せするとはな」
「いや、違うんだ。
ナルトの話は、大体聞いてる」
その言葉に、一瞬間を置く。
「ふむ…サスケ…か」
カカシは頷いた。
我愛羅との戦いが何かサスケに変化をもたらしたのは間違いなかった。
それを探るために、サスケのいない場所で一度確かめておきたかったのだ。
パックンは神妙な顔で口を開いた。
「わしらがサスケを見つけた時、すでに倒れて動けんようになっとった。
意識はあったがな。
で、我愛羅の攻撃をくらう寸前にナルトが助けに入り、そのあとはおそらくお前も聞いとるように、ナルトがあの砂のをたおした」
「その時のサスケの様子は…」
「どうにも、苛立っておるようだった」
「何に…」
「ナルトに…だろうな」
やはり…そうか…
「まぁ、自分が敵わなかったヤツを相手に、あれだけの戦いを目の前でされたんだ…。
…悔しかったんだろうな…」
カカシは大きくため息をついた。
「なるほど…」
カカシの中で色々なことがつながった気がした。
我愛羅との戦いではナルトの力に驚きと悔しさを感じ。
イタチとの再会では、イタチの目的が自分ではなくナルトであることにある意味嫉妬し、その上千鳥が通用しなかったことにショックを受け…。
自分が強くなっていないような、そんな感覚に陥ったのだろう…。
まして落ちこぼれと言われてきたナルトに助けられて…
それが焦りを生み、ナルトへの苛立ちを大きくしたのか…。
それにしても、精神的に不安定になりすぎなような気もする…
入院中も、徐々に落ち着いたとはいえ、間ではその感情が妙に揺れることもあった…
「カカシ」
その疑問にパックンが答える。
「ありゃぁ、大蛇丸の呪印だろ…。
厄介な代物だぞ」
「何か知ってるのか…」
「他でちょっと見たことがあってな…。
あれは怒りや憎しみに呼応するだけではない。
ほんの小さな火種を、大火にする力を持っとる」
カカシの背中を汗が伝った。
「それは…」
「本人の意思に関係なく、そして本人も知らぬ間に、ほんの少しの闇が勝手に大きくなるという事だ」
だから…か…
呪印の力に精神をコントロールされて…
「カカシ、あの目…あまりよくないぞ…。
早めに手を打てよ…。
取り返しのつかんことになるぞ…」
「わかった。
ありがとう」
その言葉を聞き、パックンは姿を消した。
早く…里に帰らなければ…
あいつのところに…
カカシの心に焦りがにじんだ。
そして次の日、宿泊した街で観光を予定していたが、依頼主が急ぎ国に帰る事となったため、朝早くに出発して穂の国に送り届け、任務は終了した。
気持ち早足で歩くカカシにペースを合わせ、一行は予定より早く昨夜宿泊した街を越え、里へと向かっていた。
「なんだか、こんな任務は久しぶりだな」
体を伸ばしながら歩くアスマ。
「ああ。
不謹慎だか気分転換になった。
なぁ、カカシ」
「ん?
あ、ああ…」
心ない返事をかえす。
その様子にガイとアスマは顔を見合せ笑う。
「なに…?」
顔をしかめるカカシ。
「いや…なぁ…ガイ」
「ああ。
カカシ、お前がこうも過保護なやつだったとは思いもせなんだ」
「な…何の事だよ…」
「俺はお前の永遠のライバルだぞ。
わからんわけなかろう」
「いや、誰でも分かるぞ」
二人は声をそろえる。
『サスケが気になるんだろ』
カカシは言葉に詰まる。
「まぁ、あの大蛇丸に目をつけられとるんだ…。
当たり前と言えば当たり前だがな」
今やその事実は、数人だが里の上忍には知らされている。
「ああ、オレもシカマル達が同じ事になったら…と考えただけでも恐ろしいよ…」
二人は、何かできることがあれば言ってくれ、とカカシの肩をたたいた。
「しかし、暗部時代は『冷血カカシ』と名を馳せたお前がなぁ…」
ガイはどこか嬉しそうだ…。
「やめてくれよ…。そんな昔の話…。
でも…感謝するよ。
付き合わせて悪かったな…」
「気にするな」
アスマがタバコに火をつける。
ガイはその隣でニヤリと笑い立ち止まる。
「よし、カカシ。
悪かったと思うなら付き合え。
ライバル対決だ!」
その場で勝手にストレッチを始める。
「え…やだ」
「そう言うな。
アスマ、お前も付き合え」
「ああ。面白そうだな」
ガイの意図に気づき、同じく準備体操をするアスマ。
「お、おい。
やらない…」
「里まで競争だ」
カカシの言葉を遮るガイ。
屈伸して立ち上がったアスマがニッと笑う。
「早く帰りたいんだろ」
ようやく二人の気持ちに気づく。
「お前ら…」
本当に感謝するよ…
「よし!スタートだ!」
ガイの合図と共に、3人は同時に地を蹴った。
数時間後、真っ先に里についたのはカカシだった。
「今回は…オレの勝ちってことで」
珍しく息を切らすカカシにガイが舌打ちする。
「くそ!あと一歩のところで!」
「退院したばかりだというのに…。
やはりカカシのスピードには敵わんな…」
ガイとほぼ同時にアスマも到着する。
「じゃ、オレは綱手様に報告に言ってくるよ」
すでに息を整え、カカシは二人に向き直る。
「本当に助かったよ」
「気にするな!」
「またいつでも言ってくれ」
ガイがいつものポーズを決め、アスマはタバコに火をつけて笑う。
カカシは仲間のありがたみを感じつつ綱手のもとへと向かった。
しかしそこで思わぬことを聞くこととなった。
「え?あいつらだけで任務…ですか?」
一通り報告を終えたカカシに伝えられたのは、サスケ達だけで今朝隣国『茶の国』へ任務に向かったという話だった。
「ああ。要人警護…Bランク任務だが、依頼主は私の知り合いで信頼できる相手だ」
「しかし、サスケは今朝退院したばかりですよ…
それに、上忍を付けず下忍の3人だけで行かせるなんて…」
「里は今人手不足だ…。
それに下忍といっても、あいつらの成長は目覚ましいものがある。
十分対応できるとの判断だ」
たしかに、十分力はついてきている。
サスケにも修行中任務での戦略や、場面に合わせたフォーメーションの組み方をかなりレクチャーしてきた。
その点では心配はない…
だが、今のサスケに自分なしでナルトとともに任務というのは、別の不安が大きい。
「すぐに、行かせてください」
しかし、
「だめだ」
すぐに却下される。
「心配するな。
もうすぐゲンマが任務から戻る。
すぐに応援に行かせる予定だ」
そして一枚の紙を突きつけられる。
「お前はこっちだ」
受け取り目を通して顔をしかめる。
「これは…」
綱手が「うむ」と頷く。
「指名だ」
…また指名…
確かに、カカシにとって任務の際に指名されることは珍しいことでもない。
だがそれは、以前任務で関わり信頼されて…という事例ばかりだ…
しかし、先ほどの任務も、今回の任務も、依頼人は初めて見る名だ。
「どうして…」
こんな時に限って…
しかも、茶の国と先ほどまでいた穂の国は近い…
だが、次の任務が決まっていたため、あいつらの任務のことを知らされなかったのか…
カカシは奇妙な苛立ちに襲われていた。
任務内容はAランク…。
順調に行けば2日…いや3日かかるか…
とにかく早く行って、少しでも早く戻るしかない…
「すぐに行きます」
「ガイとアスマをそのまま連れていけ」
「分かりました」
カカシは頭を下げてすぐに二人を探す。
幸いにも、二人はあの後一緒に茶屋に入り休憩していた。
事情を話し、3人はすぐに里を出た。
サスケ…呪印に飲まれるなよ…
カカシはそう願いながら、自身は形の見えない何かに飲み込まれそうだった…