はたけのかかし 【カカシ×サスケ】   作:かなで☆

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其の二   堕ちるな

 「カカシ。俺に修行をつけてくれ」

 

 中忍試験、本戦1か月前お前はオレの前に現れそう言った。

 大蛇丸に付けられた呪印に頼らず、己の力で上を目指すために。

 

 里の少しはずれにある岩場で、サスケとの修行は始まった。

 「はじめに言っておく。オレがいいと言うまでは写輪眼を使うな。まずは写輪眼なしの状態で自分自身を鍛えるんだ」

 カカシのその言葉に、サスケは顔をしかめた。

 「俺は写輪眼の使い方を知りたいんだ」

 「まぁまぁ。ちゃんと教えてやるから。んじゃ、まずは体術の修行ね」

 「はぁ?なんで今更…。そんなのはいい。新しい術を教えてくれ」

 体術にはある程度自信のあるサスケだ。

 そう言うのも無理はない。

 しかし、カカシはもう一度言った。

 「まずは、体術の修行だ」

 「俺の体術はあんたも知ってるだろう。必要ない」

 「あのね…オレに修行つけてほしかったら、まず言う事を聞く。とにかく、オレを信じなさいって」

 そう言われ、サスケはしぶしぶ従った。

 カカシは、ガイの弟子であるロック・リーの体術をサスケにイメージするよう話した。

 リーの体術は今、里の下忍の中でもトップクラスであり、特にそのスピードをサスケに会得させたかったのだ。

 「とにかく、彼の動きをイメージしながら動くんだ。それが体にしみこむまで、今日は一日組手だ。来い!」

 構えてサスケと対峙する。

 「はっ!」

 いきなりトップスピードに近い速さで打ち込んでくるサスケ。

 瞬発力は群を抜いている。

 しかし、カカシはそれを上回る速さでかわし、遠慮のない蹴りをサスケのはらにねじ込む。

 「ぐぁっ!」

 

 ずざぁぁぁぁぁ!

 

 音を立てて地面を滑るサスケ。

 「っつ…」

 腹を押さえ、片手をついて起き上がる。

 予選で負ったダメージがまだ完全に癒えていないサスケにとって、今の一撃は思いのほか効いた。

 「サスケ。これは訓練じゃない修行だ。本気で行くぞ。死にたくなければ、お前ももっと本気で来い!」

 その表情と気迫に、サスケは一瞬息をのんだ。

 それは、普段自分たちに向けられたことのないものだ。

 カカシがいつも倒すべき相手に向けていたもの。

 

 …空気が痛い…

 …これがカカシの本気か…

 

 サスケはすっと立ち上がり、再び構える。

 「望むところだ!」

 そして地を蹴った。

 「イメージしろ!彼の動きとスピードを!」

 サスケの突きを…蹴りを、カカシはことごとく受け止めかわし、

 「遅い!」

 サスケの背後に回り込み、さっと沈み込んで掌底打ちを放つ。

 間髪開けずに、前に飛び、サスケが地面に落ちる前に拳を打ち込む。

 「くっ」

 サスケは両腕を胸の前でクロスさせて受け止め、何とかダメージを軽減する。

 砂埃を巻き上げながら着地し、足にチャクラを集中させ、ぐっと踏み込む。

 ひゅっ…と空気が音を立てた。

 態勢を落とし、足払いをかけ、カカシが飛び上がったところに下からこぶしを突き上げる。

 しかしカカシはそれを後ろにのけぞってかわし、その勢いを利用して蹴りを繰り出す。

 サスケもこれを後ろ向きに回転してやり過ごし、ついた手を軸に逆立ちのまま両足での蹴りを返す。

 が、やはりかわされる。

 「スピードを上げろ!極限まで速度を高めるんだ!」

 徐々に上がり始めるサスケの攻撃速度。

 その動きが少しずつリーの体術に近寄っていく。

一度写輪眼で真似ている事もあるが、それだけではない。

その感性の高さと、センスの良さ…

 

 …さすがだな。飲み込みが異常に速い。

 必死なんだなサスケ。

 

 自分の容赦ない攻撃を受け、傷だらけになりながらも飛び込んでくるサスケ。

 カカシはそんなサスケがたまらなくかわいく思えた。

 自分に似ているところを普段から感じていたせいもあるが、自分を頼ってきたことが純粋に嬉しかったのだ。

 どれほどの時間打ち合っただろうか、サスケの動きは要領を得てきたが、さすがに疲れで速度が落ちてきていた。

 途中何度か休憩を挟んだとはいえ、スタミナも切れ始め、だんだんと動きにも雑さが現れ始めた。

 

 …そろそろ限界か…

 

 やや距離を取ってサスケを見やると、かなり息が上がっている。

 それでも、その眼はまだ強い光をたたえていた。

 「…く…。このぉ!」

 何とか繰り出したこぶしを、カカシはパシッと受けとめ、

 「よし。今日はここまでだ」

 そう言って、にっと笑った。

 しかし、肩で息をしながら、サスケはカカシを見上げ

 「まだだ…」

 鋭いまなざしで構える。

 「焦りは禁物だ」

 言われてサスケは唇をギリッとかんだ。

 「まだ。まだ一発も当てていない…!」

 にらみつけた視線の先で、カカシは平然とした様子で立っている。

 砂埃や、攻撃をガードしたことで服に汚れはついているものの、一つも傷を負っていない。

 「ま、当然でしょ。オレ一応上忍だからね」

 

 そうそう簡単に食らうわけにはいかないでしょ。

 今はまだね…

 

 「とにかく、今日は初日だしここまでだ」

 その言葉に、サスケは不満そうな表情を浮かべるが、

 「俺は…まだ…やれ…る」

 言いながらふらりと崩れ落ちた。

 「おっと。大丈夫か」

 その体を受け止めて、カカシはゆっくりと近くの岩に座らせる。

 しばらく荒い息をしていたサスケだが、徐々に落ち着き、空を仰いだ。

 「俺は…強くなれるのか」

 「なれるさ」

 即答し、サスケの隣に座る。

 「お前は、今までオレが見てきたどの下忍より努力家で、優秀だ。心配するな。お前は必ず強くなる」

 ポンとサスケの頭に手を乗せ、いつものように、ニッと笑う。

 「オレの自慢の部下だからね」

 トクン…

 サスケの胸が波打った…

 そしてかつて父親に言われた言葉を思い出していた。

 

 『さすがは俺の子だ』

 

 あの時の嬉しさがよみがえる…

 しかし、そのすぐあと、血を流して倒れる両親の姿と、二人を殺したイタチの、あの闇に染まった瞳を思い出す。

 今度はドクンッと体中の血が大きく脈打った…

 グッと胸をつかむサスケ。

 一瞬にして黒いなにかが心に広がり、飲み込まれそうになる。

 知らぬ間に瞳は赤く染まっていた…

 「サスケ!」

 「…っ」

 その事に気づいたカカシの声と、頭に乗せられたその手の温もりが、かろうじてサスケをつなぎ止めた。

 サスケは目を閉じ、大きく深呼吸をする。

 そして膝の上に手を組んで置いたまま静止した。

 数分が経ち、サスケが小さくつぶやく。

 「………………てる…」

 「ん?」

 「いつまで…手を置いてるんだ!」

 頭にのせられたままのカカシの手を振り払って立ち上がり、ふんっとそっぽを向いた。

 いつもの悪態と同じく、瞳もすでに元の色だ。

 

 …戻ってきたか…

 

 サスケに気づかれぬよう小さく息を吐き、「よっ」と 勢いをつけて立ち上がると、もう一度サスケの頭にわざとらしく手を乗せた。

 「照れちゃって~」

 「なっ!誰が!触るな!」

 ばっ…と飛びすさるサスケ。

 「素直じゃないんだからぁ」

 ニヤニヤと笑いながら、カカシはサスケの背中をポンっと叩いた。

 「さ、行くぞ」

 「行くぞ…って、どこに…」

 「そりゃぁお前、決まってるでしょ。修行のあとは風呂だよ。風呂」

 その言葉に、サスケは心底嫌そうな顔をする。

 「なんでオレがあんたと風呂なんか! 断る!絶対に行かないからな!無理だ!」

 「あのねぇ、そんなに嫌がられると、さすがに傷つくんだけど…。あ、ちなみに。この修行が終わるまでオレのうちで過ごしてもらうから。よろしくな」

 「なっ!」

 絶句するサスケ。

 「ふざけるな!なんのために!」

 「これも修行のうちだから。来ないなら明日から見てやらないよ」

 背を向けて歩き出す。

 「行かないからな!」

 「あ、そ。じゃ、明日から他をあたるんだな」

 「くっ…」

 サスケはその後ろ姿をしばらくにらみつけていたが「チィッ」と吐き捨て、しぶしぶ歩き出した。

 そんなサスケをちらりと見て、カカシは先ほどのことを思い出していた。

 一瞬にして心を(むしば)む彼の闇を…

 

 サスケ…お前の闇は思っている以上に深い。

 そして俺のそれと似ている。

 お前とは状況が違うが、オレも大切なものを数多く失ってきた。父を亡くし、師を、友を、仲間を失い…大切な人の命をこの手で奪っておきながら、オレは一人生き残った…

 自分の弱さを責め、孤独に陥り、絶望し、そしてなぜ自分なんかが…と、罪悪感にさいなまれ…

 その意味を求めて闇に身を置き、『任務』という名のもと多くの命を奪ってきた。

 里の仲間たちとも距離を置き、つながりを持つことをも拒んだ。

 なぜなら、ふと幸せを感じた瞬間に、自分だけが生きていることへの罪悪感が無意識に湧き上がり、過去の闇が…思い出したくない残酷な出来事が…恐ろしいほど鮮やかによみがえるからだ。

 闇を掻き消そうと幸せを求め、その幸せが闇を呼ぶ…。

 光を浴びた後の、その闇の重さに耐え切れず、希望を捨て、闇に落ち、二度と光のもとへと戻れなかった者たちを、多く見てきた。

 オレだって、危うくそうなるところだった。

 いや、今でも下手をすれば、すぐに落ちてゆくのかもしれない…

 でもな、サスケ…

 オレはお前たちと出会い、里の仲間たちに支えられて、闇が生み出す無限のループから一歩踏み出せたんだ。

 お前もまだ間に合う。

 終わりのないように見えるその闇にも、必ず光がさす。

 

 堕ちるなよ

 

 そのためにも、普通の関わりから逃げるな。

 オレがお前のそばにいるから。

 

 

 いつの間にか隣に並んで歩いていたサスケを見つめ、カカシは、今は亡き親友を思い出していた。

 彼はサスケと同じうちは一族だった。

 

 オビト。こいつは必ず守るよ。

 今度こそ… 

 

 カカシはそう決意し、空を仰ぎ見た。

 眩しいほど美しい青空に、細く長い雲が真っ直ぐに伸びていた。

 里へと向かって…

 

 まるで、彼らを導くかのように…

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