アカデミーのそばにある大きな木…。
そこはサスケがよく来る場所だった…。
高く、長く伸びたその幹からは里がよく見渡せる。
だが、生い茂る葉で、里からこちらを隠してくれる。
サスケにとって一人になれる場所だった。
ここに来るときは、嫌なことがあった時のほうが多かったかもしれない…
一族を失ったあの忌まわしい出来事の後も、よくここに来ていた…
ここなら、誰にも涙を見られることがなかったから…。
イタチへの憎しみが溢れて止まらない時も、この木の上でそれがおさまるまで一人耐えた…
そして今、様々な感情を抱え、そこに座り込んでいた。
サスケは左手を固く握り、その手を見ていた。
つい先ほど、ナルトに向けて千鳥を放とうとしたその手…。
我愛羅との戦いで…そして任務で…
どんどん強くなっていくナルト…
そんなナルトに苛立ちと焦りを感じ、サスケはナルトに勝負を挑み、確かめようとした。
どちらが強いのか…
いや…
果たして自分は強いのか…を。
復讐のため、イタチを倒すため、強さを求めて修業に励んできた…。
過酷な修業の末、千鳥も修得した。
だが再会を果たしたイタチにはまったく敵わず…
また自分が勝てなかった敵に、ナルトはことごとく勝利をおさめてゆく。
自分がナルトに劣っているわけがない。
その思いが押さえられなかったのだ…。
しかし、カカシと自来也によってそれは止められ、答えは出なかった。
だが、ナルトの繰り出した術…螺旋丸の威力が、自分の千鳥を上回っていることを、サスケは感じていた。
そのことに怒りが溢れ、この場所に来た。
だが、カカシの言葉を受け、今その感情は別の物へと形を変えていた。
少しずつ日が落ち、薄暗くなってきたこの場所で、サスケは先ほどのカカシの話を思いだす。
「サスケ、復讐なんてやめとけ」
カカシの口から初めて聞いたその言葉が、何度もサスケの頭の中で繰り返される。
復讐は自分を傷つけ…残るのは虚しさ…
そんな思いをさせたくない…という カカシのその気持ちはサスケに伝わっていた…。
だが、素直に聞き入れることはできなかった。
そして反発し、声を荒げた。
「黙れ!あんたに何がわかる!
知った風なことうを俺の前で言ってんじゃねぇよ!
なんなら今からあんたの一番大事な人間を殺してやろうか!」
しかし、カカシは笑って答えた…。
「もうみんな殺されてる」
その言葉を聞き、サスケの脳裏には、カカシの部屋に置かれていた古い写真が思い浮かんでいた。
自分たち第七班の集合写真の隣に並べられたもう一つの集合写真。
そこに映っていたのは、今は亡き4代目火影…そして、子供の頃のカカシと、二人の仲間…
サスケはその姿をこの里で見たことがない…
それがどういう事なのか、その意味は分かっていた。
そして、カカシの家族も見たことがない…
「時代も悪かった…
…失う苦しみは嫌ってほど知ってるよ」
カカシが自分と同じ年の頃は、大きな戦の真っ最中だった。
そこでいったいどれほどの『大切な人』を失ってきたのか…。
自分が失った物ばかりを見てきたサスケは、考えたこともなかった。
自分だけがすべてを失ったと、思ってきたから…。
そんなサスケに投げかけられた言葉…
「オレにもお前にも、もう大切な仲間が見つかっただろ」
サスケの心の中には、ナルトとサクラが浮かんだ。
一人だと思っていた自分に見つかった、仲間という居場所…
だがそれを居場所と認めてしまえば、今までのすべてを否定することになる…
イタチを討ち、復讐するためだけに生きると決めたその心を…
そして、それこそが自分の生きる場所だと、その心に刻んだ誓いも…。
深く打ち込まれた復讐という杭は…抜けない…
「千鳥は、お前に大切なものができたからこそ与えた力だ。
その力は仲間に向ける物でも復讐に使うものでもない。
何のために使う力かお前ならわかってるはずだ…」
その言葉の意味も、サスケの心にしっかりと届いていた。
届いたからこそ苦しいのだ。
「分かってる…」
顔をゆがめて小さく呟く。
そして、
「分かってんだ!」
声を荒げて、力いっぱい木をたたきつける。
そしてまた小さく、今度は絞り出すように言う。
「分かってる…」
叩きつけた拳に血がにじむ。
千鳥の修行中、カカシがサスケに語った…
この術はつらい思い出をよみがえらせる…
それでもこの術で大切な仲間を守ってゆくと決めた…と。
その術を自分に教えたその意味が何なのか、サスケには分かっていた。
「あんたの気持ちは…わかってる…
でも…あいつが…あいつは…オレの中から消えない…っ」
苦しそうに言葉を吐き出すと同時に、あの日の記憶が駆け巡る。
そしてイタチのあの瞳がサスケを苦しめる。
「消せないんだっ!」
抑えられない怒り…
捨てられぬ憎しみ…
復讐への
心に巣食った闇は、サスケを捉えて離さない…。
そして、抗えない大蛇丸の呪印による闇への導き…
サスケの心は混乱を越え、混沌とした闇の中をさまよい始めていた。
それでもどこかで光を求め、その心の中にナルトとサクラの顔を思い浮かべる。
俺だって、あいつらと…
が、すぐにかき消されてイタチの姿へと変わる。
「…ちくしょう…」
何度繰り返しても、どうしても離れないイタチの存在に、サスケの表情は苦悩を極めていた。
…消えない…!
あいつを殺すまで!
だが、そんな事をさせたくない…というカカシの想い…
そして、憎しみに生きるのではなく…仲間と光の中を…という、心の深くに芽生えてしまった自分の気持ち…
「ちくしょう!」
いっそ張り裂ければ…
そう思うほどの胸の苦しみ…
サスケはきつく目を閉じた。
「俺は…どうすれば…っ…」
身を固くしたそのとき、
チリン…
サスケのポケットの中で鈴が鳴った。
その音に、心うつろに聞いた、去り際のカカシの話を思い出す。
「オレはこれから任務だ。3日程かかるだろうが…なるべく早く戻る。
だから、オレの家で待ってろ。
この先お前が何をどうするにしても、オレが戻ってからにしろ」
そして姿を消す前にもう一度言った。
「待ってろよ」
…と。
「カカシ…」
つぶやき、しばらくしてからサスケは立ち上がった…。
そしてカカシの家のほうへと体を向けた…
が、その時、頭上にただならぬ気配を感じ見上げる。
黒い影が4つ…。
音もなくサスケの前に降り立った。
一瞬の静寂が落ちる…。
この里の人間ではない…。
「何者だ…お前ら…」
人手が不足しているとはいえ、そう簡単に里には忍びこめない…。
只者ではない…
サスケの額に汗が浮かぶ。
奇妙な空気を発しながら、侵入者は名乗りを上げた。
「音の四人衆」…と。
そして次の瞬間、一瞬のうちに仕掛けてきた。
サスケはその拳を受け止めて、相手の体を抑え込んで飛び越える。
そして、背後からの攻撃より早く、そのままの姿勢で蹴りを繰り出す。
次なる攻撃を腕で受け止めて、抑え込んでいた敵の服の帯に腕をくぐらせ、二人同時に投げ飛ばす。
その先には動けず立ち尽くす敵二人。
仲間同士をぶつけて一網打尽にする。
が、巻き起こる砂煙の中から現れたのは丸太。
「く、変わり身!」
背後に感じる気配に、振り向かぬまま視線だけを向けてにらみつける。
「俺は今機嫌が悪いんだ…。
これ以上やるってんなら、手加減しねぇぜっ」
その言葉に、敵の一人がサスケを挑発する。
「てめぇ、弱いくせにほざいてんじゃねェよ」
そして指でサスケを誘い、その心を逆なでする。
サスケの瞳が怒りに燃え…地を蹴った!
すっかり日が沈み、薄暗くなった里の中…
音の忍とサスケの戦いが始まった。
しかし、はじめはサスケの優勢と見えたその戦いが、徐々に劣勢へと追い立てられていく。
特殊な術なのか、目に見えない攻撃に撃たれ、サスケは木に叩きつけられる。
それでも反撃し、繰り出した連続体術「獅子連弾」に手ごたえを感じるが、まったくダメージを与えることができない。
そして、戦いののち…サスケは足を捉えられ、宙づりににされていた。
…く…なんだ…手ごたえはあったのに、こいつ…まったくダメージを受けてない…
サスケの足を持つ敵がにやりと笑う。
「仲間とぬくぬく忍者ごっこじゃ、お前は腐っていく一方だ」
そしてほかの敵も、次々とサスケに揺さぶりをかける。
「うちらと一緒に来い。
そうすれば大蛇丸様が力をくれる」
「…っ」
その名にサスケの呪印が熱を放つ。
「無理やり連れて行っては意味がないそうだ…。
お前が決めるんだ」
「さぁ!来るのか…こねぇのか!」
言葉と同時に、サスケは壁に叩きつけられた。
「ぐあぁっ」
うずくまり、その心が怒りに震える。
俺は…こんなわけのわからない奴らにも勝てないのか…
こんなやつらに…!
サスケの体に呪印が広がる…
そして、敵に向かう。
が、その攻撃さえも簡単に跳ね返された。
見れば、相手も体に呪印を浮かび上がらせていた。
その体から湧き出る凄まじいチャクラ…
サスケは目を見開いた…。
…勝てない…
サスケの体から戦意が消えていく…
代わりに、どうしようもなく力を求める欲望が湧き上がる…
…力があれば…!
その感情に、畳み掛けるように言葉が浴びせられる。
「何かを得るには何かを捨てなければならない。
お前の目的はなんだ」
俺の…目的…?
「この生ぬるい里で仲間と傷をなめあって、そして忘れるのか…。
うちはイタチを!」
「…っ!」
サスケの目が見開かれた。
「目的を忘れるな。
この里はお前にとって枷にしかならない。
それを切れば、お前はもっと素晴らしい力を得ることができる」
…力を…
音の忍は、サスケの瞳の揺れを見逃さなかった。
さっと飛び上がり、最後にもう一度強く言い放った。
「目的を忘れるな!」
その影は怪しく光る月の中に消えた…。
残されたサスケは力なく座り込んでいた。
…目的…
ざわり…
と、サスケの気付かぬところで呪印がその心の闇を膨らませる。
…力…
ざわり…
今度はサスケにもその音が聞こえる。
もう…止められなかった。
加速するサスケの闇を、呪印がさらに加速させていく。
俺は、この里で…あいつらに求められていた…
強い存在として…サクラに…そしてナルトに。
だから俺はあいつらを守れる人間になろうと思った…
復讐のためだけに力を求めた訳ではなかった…
そのために…強くなるために…俺はカカシを求めた…
だけど…
ナルトは…強くなった…
守られたのは…俺だ…
そしてサクラを守ったのも…あいつだ…
二人が俺を求める理由は、もうない…
そして、カカシに教わった千鳥はイタチには届かなかった…
俺があいつを求める理由も…もう…ない…
俺を求めるのは…誰だ…
誰に求められている…
俺は誰を求めている…
何を求める
…愚かなる弟よ…
あの声が響いた。
お前は弱い…
なぜ弱いか…
憎しみが足りないからだ…
俺を倒したくば、恨め…憎め…
そして俺と同じ目を持って、俺の前に来い!
ドクンッ!
激しく体が脈打つ。
サスケは全ての事を、一つずつ組み立て、導き出す…
答えを…
俺を求めるのは…
俺が求めるのは…
あいつらじゃない…
カカシ…あんたでもない…
うちは イタチだ!
そして、サスケの中を、イタチが埋め尽くした。
ドクン!
全身の血がたぎった。
その目は赤く…それでいて闇の色に染まる…。
「俺の目的は…復讐だ!」
俺は…行く!
サスケの心は…決まった…
サスケは自宅へ戻り、忍具をかばんに詰め、窓際に置いていた集合写真を見つめていた。
その表情はさみしさをたたえ、涙はないが、まるで泣いているようにも見えた。
しばらくして、サスケはそっと写真立てを…伏せた…。
…もう…ここへは戻らない…
そして、置いたままの忍具を取りに、カカシの家へと向かう。
鍵を開けるときに、あの鈴が鳴った。
しかし、サスケはその音から心を背けた。
そっとドアを開け中に入る。
「サスケ…遅かったじゃないか」
不意に聞こえたカカシの声に、サスケはビクリとした。
だが、それが記憶の中の物だとすぐに悟る。
その声を振り払って、一歩足を踏み入れると、自分の体からもう一人の自分がするりと抜け出て家の中に入ってゆく。
そして、その先に…カカシがいた…
サスケは茫然と立ち尽くしその様子を見つめた。
その光景は、夢の中を客観的に見ているような、そんな感覚…。
「なんか飲むか?」
そう言って冷蔵庫を開けるカカシ。
「牛乳」
俺の差し出したコップに牛乳を入れながら
「大きくなれよぉ」
と、冗談交じりに笑う…
「うるさい…」
俺はめんどくさそうに返した…
今度は食卓に姿が浮かぶ。
「うまいだろ」
作ったポテトサラダを得意げに自慢するカカシ…
そんなあいつに俺は、
「普通」
そう短く不愛想に答えた…
次は窓際に置かれた小さな机と椅子に…
「いいか、この場合、警護対象者の安全を確保し、かつ敵を撃退して突破するにはこのフォーメーションだ」
任務での戦略を紙に書きながら教えるカカシ…
「このフォーメーションでの作戦はどうだ?」
問いかける俺に、カカシが頷く。
「ああ。悪くない。
よく考えたな」
頭を撫でられて「やめろ」と払いのけた…
浮かび上がるその光景を見ていたサスケの瞳から、ぽたり…と涙が落ち、床に跡をつけた。
いつも、どこか少しうっとうしくて、面倒で…
俺は適当に返事をしていたつもりだった…
だけど…
俺は…あんな…嬉しそうな顔をしてたのか…
カカシは…あんな…柔らかい目で俺を見てたのか…
こぼれる涙と共に、次々と記憶が至る所に浮かび上がる。
過去の任務の話をいくつも聞いた
くだらないライバル対決の話に笑った
術の本を一緒に読み、基本やその仕組みも教わった。
遅くまで、戦略の立て方について話し合った…
将棋は一度も勝てなかった…
そして…
…あんたの作る朝飯は…うまかった…
「くっ…う…」
ぽたぽたと…こぼれる涙をサスケは拭おうとはしなかった。
まるで、その涙と共に、すべてをここに置いていこうとしているかのように…。
そして、忍具を置いている寝室に入る。
自分が寝ていたソファには、いつでも使えるように布団が置かれていた。
それを見て、サスケは思い返す。
修行を初めて間もないころ、イタチの夢にうなされ…自分を見失いそうになった夜…
その意識を呼び戻したカカシの声…
そして中忍試験の当日。
仲間との未来を夢に見て、涙が止まらなかった自分を抱きしめたぬくもり…
サスケは覚えていた…
「…っ…く…」
溢れる涙は止まらない。
「あの時、俺は…選ぼうとした…」
目を閉じてあの夢を思い浮かべる。
差し出されたカカシの手を取ったあの夢…。
「あんたは…言った」
お前はオレ達と共に生きろ…と。
「選ぼうとは…したんだ…」
体の震えが止まらない…
「でも、俺は…俺は…っ。
あんたたちとは…行けない…」
同じ未来には…行けない…
その心は、もう何者にも引き止めることはできなかった…。
開いた瞳に、第七班の写真が映る。
とめどなく…とめどなく涙があふれる…
「うっ…うぅ…」
必死に声をこらえる。
どれほどそうしていただろうか…
サスケは不意に思い出した…
「あなたは立派な忍ね」
母と同じ黒い髪の女性…。
どこかその笑顔が似ていた…。
思い出したその言葉に、あの時と同じように、サスケの涙が少しずつ引いてゆく。
そして最後の一粒が床に落ちたとき…
「待ってろよ」
カカシの声がした…
サスケは、写真の中のカカシを見つめ、様々な思いを込めて…つぶやいた。
「…カカシ…俺は…行く」
ゆっくりともう一度目を閉じる…
そして大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した…
静寂が落ち、サスケの心から…カカシとのあたたかい記憶が抜け落ちてゆく。
まるで、満ちていた海の水が、静かな波と共に引いていくように…
そしてすべての想いを打ち消し、目を開けると、サスケの心は恐ろしいほど澄み切っていた…。
何の感情もなく、サスケはかつての自分が映っている写真を伏せた。
「じゃぁな」
無機質な言葉を部屋に残して家を出、鍵をかけて…サスケはそのカギを鈴と共に握りつぶした。
するりとその手から滑り落ちた鈴は、ジリ…っと鈍い音を立てて転がった…。
サスケは振り返ることなくその場を後にし、里を出るために門へと向かう。
そして、そこに立つ人物を目に捉え、やはりな…と心でつぶやいた。
何故かはわからないが、きっといるだろうと思っていた。
「夜中に、こんなところで何うろついてる…サクラ」
サクラは視線を落とし、答えた。
「里を出るには…この道を通るから…」
「帰って…寝ろ」
立ち尽くすサクラの横を、サスケは通り過ぎてゆく。
「どうして…」
サクラの頬を涙が伝う。
「どうして何も話してくれないの…」
「なんでお前に話さなきゃならないんだ」
その言葉を遮り、サスケは立ち止まる。
「余計なお世話だって言ってんだよ。
いちいち俺にかまうな」
…もう俺に…関わるな…サクラ…。
しかしサクラはサスケに向かって言葉を紡ぐ。
「サスケ君…初めてここで会った時のこと覚えてる?」
サスケの脳裏にその光景は浮かんでいた。
だが、冷めた声で返す。
「覚えてないな」
「そうだよね…。
もうずいぶん前のことだもんね…。
でも、あの日から始まったんだよ。
私とサスケ君。それに、ナルトに…カカシ先生…。
四人で色々な任務を一緒にこなして、大変だったけど…楽しかった」
その言葉に、置いてきたはずの記憶が呼びさまされる…
が、そこには感情はなく、まるで絵本をめくるような心境だ。
サクラは少し間を置いて、静かに想いを伝える。
「…復讐だけなんて…誰も幸せになれない…誰も。
サスケ君も…私も…」
雲が、月を隠し…影を作った…
「俺はお前たちとは違う…」
自分に言い聞かせるかのように…言葉を続ける。
「四人でやってきて、確かにそれを自分の道と思おうとしたこともある。
だが、俺の心は結局復讐を決めた」
一つ一つ確かめていく…。
「俺はそのために生きてきた…。
俺は、お前やナルトのようにはなれない」
「また、サスケ君は自分から孤独になるの?
サスケ君は私に孤独はつらいって教えてくれた…。
今ならその意味が解る。
私には家族も友達もいる…でも、サスケ君がいなくなったら…私にとっては…孤独と同じ…」
涙で震えるその声に、サスケの瞳がわずかに色を帯びた。
だが、よぎった何かを振り払う。
…もう…後には引けない…引かない…
俺は…そう決めたんだ…
足を踏み出す。
「私は!」
歩き出しそうなサスケを、サクラは必死で繋ぎ止める。
「サスケ君が好きで好きでたまらない!
私、サスケ君のためだったらなんだってする!
復讐だって手伝う!だから…お願いだから、ここにいて!
それがダメなら、私も一緒に…連れて行って…」
サクラの必死の願いにも、サスケの心はもう揺れなかった…
…自分の行く先は決まっている…
ゆっくりとサクラに振り向く。
「やっぱりお前…うざいよ」
切り離そうと、冷たく言い放つ。
そして、なおも追いかけてくるサクラの背後にサッと回り込む。
もう、俺の気持ちは変わらない…
だけど…
雲が晴れて、月の光が二人を照らす…
…サクラ…
お前はいつも、こんな俺を求めてくれた…。
冷たくあしらっても、遠ざけても…
呪印にも、あの我愛羅にも…恐れながら、それでも俺のために必死になって…
そして、ただ一人今の俺に気付き、ここに来た…
…ふわり…と…里に流れる風が二人を包んだ。
サスケはその優しい風と、月の光の中、ただ一つだけ、置いてきた感情を呼び戻した。
これが…最後だ…
「サクラ…ありがとう…」
そして、サクラの首の後ろをトンッとつく。
ゆっくりと意識を失っていくサクラを抱き留め、ベンチに寝かせる。
そして里を振り返り、見つめ、今度こそすべてをそこに捨て置き、門を…里を出た…。
俺は…忍じゃない…
復讐者だ!
闇の中へと、サスケの姿が静かに溶け込んでいった…。