はたけのかかし 【カカシ×サスケ】   作:かなで☆

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其の二十二 記憶の中の笑顔

 すっかり日の堕ちた暗い森の中、カカシは小さく焚いた火の前に一人座り、里の方角を見つめていた。

 任務は無事に終わったが、里への岐路…夜の闇が濃くなり始めたため、ここで野宿をすることにしたのだ。。

 ガイとアスマは別の任務へと発ち、シズネは任務中に捉えた襲撃者を引き取りに来る木の葉の隊を待つため、依頼主をお送り届けた街に留まった。

 カカシはパチリと音をたてる火の中に木の枝を投げ入れ、ため息をつく。

 任務の緊張から解かれたためか、蓄積された疲れが一気に体を重くしていた。

 「明日の午前中には里につくか…」

 つぶやき先日のことを思い出す。

 衝突するナルトとサスケ…涙を流し震えるサクラ…

 チームワークはどこへやら…だな…

 戻ったら、どういう風に関わるべきか…

 カカシは木に背を預けながら火をながめ、悩んでいた。

 「ミナト先生なら…どうするんだろうな…」

 しかし、そう考えたところで、自分が同じようにできるわけでもない…

 「考え込んでても仕方ないか…」

 とにかく、家に戻ったらサスケとゆっくり話をしよう…

 そして、あいつの気持ちがすっきりしたら…また修行をして…

 ナルトとは一楽に言って…サクラには何か甘いものをご馳走して、あいつらとゆっくり…話を…

 

 そんなことを考えながら、カカシはいつの間にか眠りに落ちていた。

 

 

 

 …カカシ…

 

 

 小さく呼ぶ声がした…

 それは、かつて共に過ごした親友と仲間の声…

 

 「オビト…」

 

 

 カカシ…

 

 

 「…リン…」

 

 

 姿は見えない…

 だが確かに二人の声だ。

 その声は少しずつ大きくなっていく…

 

 

 カカシ…急いで…

 

 

 「リン…どうしたんだ?」

 

 

 急げ…カカシ…

 

 

 「なんだ?オビト…」

 

 

 二人の声が強くなり…重なる。

 

 

 カカシ…早く!

 

 

 次の瞬間、サスケの顔が浮かんだ。

 「…っ!」

 カカシはハッと目をさまし、あたりを見回す。

 「夢……」

 呟いて、まだ暗いままの空を見上げ、急に不安が広がった。

 「サスケ…」

 ふいに別れ際のサスケの姿を思いだし、妙な胸騒ぎを覚える。

 なんだ…この嫌な感じは… 

 カカシはまだ小さくくすぶっている火を慌てて消して、何かに追い立てられるかのように、走り出していた。

 

 

 

 次の日の早朝、カカシは里についた。

 そのまま、火影室より先に家に戻る。

 「サスケ…いるのか?」

 呼びかけながら中に入るが、返事はなく、寝室を覗くが姿は見えない。

 「自分の家に帰ってるのか…」

 そちらを見に行こうと部屋を出ようとして、カカシはギクリとした。

 枕元に置いてある、班の集合写真が倒れていたのだ。

 …振動で…倒れたか…

 だが、倒れているのは一つだけだ…

 …何故か…胸が波打つ。

 そして、元に戻そうと手に取った時、ふいに、その写真を伏せるサスケの姿が浮かんだ。

 「…………」

 正体のわからない不安に、どんどん心臓の音が大きくなる。

 「サスケ…」

 カカシは慌てて家を出る。

 そして、玄関を出てすぐ、何かが足に当たって転がったのを感じ、目をやる…

 また、ギクリと胸が音を立てた。

 それを拾い上げ、息を飲む。

 サスケに渡した家の鍵…

 それはつぶれて変形していた。

 そして、鍵につけていた二つの鈴も…形をゆがめていた…

 「…っ」

 カカシはそれを握りしめ、サスケの家へと向かう。

 「サスケ!」

 玄関の鍵は開いていた。

 が、中にサスケはいない。

 そして、窓際には…先ほどと同じく、伏せられた写真…

 「まさか!」

 はじかれたように、カカシは外へ飛び出した。

 向かったのは火影室。

 バンッ…と音を立ててドアを開け中に飛び込む。

 「綱手様!」

 朝早い時間ではあったが、すでに中で執務にあたっていた綱手とシズネが、ビクリと体を揺らし、手に持っていた書類を落とした。

 「な!なんだカカシ!

 ノックをせんかぁ!」

 怒鳴り声に構わず、カカシはそのままの勢いで詰め寄る。

 「サスケは!サスケはどこですか!」

 綱手の目が厳しく揺らぎ、書類を拾っていたシズネの手がぴたりと一瞬止まる。

 そして、小さく息を吐きながら綱手がカカシを見据える。

 「気付いたか…」

 その先を、カカシは知りたいはずなのに、なぜだか聞きたくない…

 妙な恐怖を感じていた。

 ギッ…と椅子を鳴らして姿勢をただした綱手が、低い声で告げる。

 「一昨日の深夜…うちはサスケが里を抜けた」

 そんな…

 口に出したつもりだった…

 だが言葉になっていなかった…

 「……っ」

 カカシはめまいを通り越し、吐き気を感じる…

 「…サスケ…」

 一瞬で乾いた喉から、かすれた声がこぼれる…

 サスケが…里を抜けた…

 混乱する頭の中でその事実を反芻(はんすう)し、ハッとする。

 「まさか追い忍を!」

 里を抜けた忍には、国の機密事項などを守るため、暗殺命令が下される…

 そのために送り込まれるのが追い忍…暗殺の専門家(スペシャリスト)だ。

 しかし、綱手は首を横に振った。

 「いや、出していない」

 ほっと胸をなでおろす。

 「サスケに最後に会ったサクラの話では、自分の意思で出て行ったようだ。

 行き先は…おそらく…」

 「大蛇丸…」

 「うむ」

 …自分の意思で…

 サスケとサクラの事を思い、胸が痛む。

 「サクラの話を聞く限りでは、可能性は低いが…大蛇丸に操られているということも考えられる…。

 まずは追い忍は立てず、極秘任務としてサスケを追うべきだ…と、ダンゾウが進言してきた」 

 カカシは顔をしかめた。

 「ダンゾウ様が?」

 もう一つの暗部組織『根』の責任者だが、その活動内容と同様、闇に包まれている部分が多い人物で、三代目火影もその行動には目を見張らせていた…。

 油断ならぬ影がある人物だ。

 …サスケとは接点がなかったはずだが…

 何か思惑があるのか、本当にそう考えているのか…

 気になるところではあるが、どちらにせよ救われたのは事実だ…

 「それで、誰がサスケを…」

 綱手は椅子の背もたれに身を預け、シズネから書類を受け取り、めくりながら答える。

 「此度中忍となったシカマルを隊長とし、あ奴に人選を任せた。

 メンバーはシカマル、ネジ、チョウジ、キバ、そしてナルト。

 以上の五名だ」

 カカシはその言葉に声を荒げた。

 「何ですって!

 それじゃぁ、新米たちだけでサスケを…」

 綱手は、眉間にしわを寄せて答える。

 「仕方ないだろう。

 里の状況が状況なんだ」

 だからと言って…

 カカシはそう言いかけて、言葉を飲んだ…

 …里を守る火影としての判断なのだ…

 「それに、必要最低限の手は打ってある」

 里内から人が出せない状況での策…

 他里からの増援…

 しかし…あいつらには…あまりに危険すぎる…

 それに、今のサスケにとってナルトは…

 その関係の複雑さを考え、やりきれない思いがため息となって現れた。

 カカシは大きく息を吐き一瞬黙する。

 

 …サスケ…

 お前を行かせはしない…

 

 そして無言のまま綱手に背を向ける。

 「コラコラ!

 お前の次の任務はもう決まってる!」

 その背に綱手の声が飛ぶが、カカシは足を止めなかった。

 「まぁ、すぐ用済ませて戻ってきますんで…

 ご心配なく」

 振り向かぬまま言葉を残し、火影室を出る。

 そして、サスケを追う。

 

 

 …オレが甘かった…

 

 

 駆けながら、カカシは思いだしていた…

 

 「あんたに何がわかる!」

 

 憎しみと怒りに染まったあの表情…言葉…

 その通りだ…

 オレは何もわかってなかった…

 

 カカシはすでに限界まで上げているスピードを、少しでも速くと足に力を込めた…

 

 

 サスケ!

 

 

 行くな!

 

 

 何としても行かせたくはなかった…

 大蛇丸のもとへ…なにより、復讐という名の闇へ…

 サスケの心に芽生えた『仲間との未来』を歩ませてやりたかった…

 そのそばで寄り添い、共に生きてゆきたいと…そう思った…

 

 

 その想いを胸に、カカシは必死に駆けた…

 

 

 …しかし…その想いは届かなかった…

 

 

 サスケとナルトが激戦を繰り広げた終末の谷…

 カカシがたどりついた時には、すでにサスケの姿は…なかった…

 

 

 …時は…間に合わなかったのだ…

 

 

 その現実はナルトに…サクラに…カカシに…

 そして仲間たちに…重くのしかかった…

 

 サスケが行き、傷を負ったナルトたちが里に戻ったその日、木の葉の里には季節外れの冷たい風が吹き荒れた。

 それが一層、悲しみを増した…

 

 

 

 

 …サスケ…

 お前が里を…オレのもとを去ったあの時、オレは思い出していた…

 いつかお前が言った言葉を…

    

 

 「あんたはいつも遅いからな」

 

 

 そしてそう言って浮かべた、いつもの…少し強がった笑顔を…

 

 

 その笑顔の奥で、お前はいつもオレに救いを求めていたのにな…

 

 

 そして、あの憎しみにそまった言葉の向こうで、オレの手を待っていたのに…

 

 

 オレは…遅かった…

 

 

 なぁ、サスケ…

 お前の心の中には、もうオレはいないのか…

 共に過ごしたあの日々は…もう…消えてしまったのか…

 

 オレの心の中には、鈴を手に笑う…曇りのないお前のあの笑顔が、こんなにもはっきりと残っているのに…

 

 

 …サスケ…

 お前は…お前の心は、今どこにいるんだ…

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