はたけのかかし 【カカシ×サスケ】   作:かなで☆

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其の二十四 はたけのかかし

 任務を終え、カカシは報告のため火影室へと一人来ていた。

 そして一通りの報告を終え、報告書を綱手に手渡す。

 「ご苦労だったな」

 受け取って目を通し、綱手は「うむ」と頷き報告書をしまう。

 「では、オレはこれで」

 「カカシ、ちょっと待て」

 背中にかかった声に、カカシは内心でため息を吐きながら振り返る。

 「任務ですか?」

 しかし綱手は「違う」と言いながら窓を開け、外に向かって言葉を投げる。

 「お前、たまには入り口から入ってこい…」

 言われて現れたのは自来也だった。

 「いいではないか、どこから入っても。

 のぉ、カカシ」

 「は…はぁ…」

 どうでもいいことを聞かれ、カカシは気のない返事を返しながら、ヤマトの件を思いだし、少し視線をそらす。

 「お前に話がある」

 綱手はそう言って椅子に座る。

 「ナルトとサクラの事だ」

 「二人が何か?」

 「実はな…」

 綱手の言葉を自来也が継ぐ。

 「お前が任務に言っている間、大蛇丸とサスケの情報収集のため、二人を連れて音隠れの里を調査に行った」

 「なんですって!」

 カカシはあまりのことに声を荒げた。

 「なぜそんな危険なことを!」

 思わず自来也に詰め寄りそうなカカシを綱手が制する。

 「落ち着け。

 連れて行ったというより、勝手に行こうとしていた二人に気付いた自来也が、ついて行ってやった…という状況だ」

 「止めて聞くようなやつらじゃないからのぉ」

 「そう…でしたか…。

 それで…何か情報は…」

 「サスケの無事が確かめられた」

 「あいつに会ったんですか!」

 「いや…しかし、確かな情報だ。

 それから、次に大蛇丸が転生の術を使えるのは、やはり3年後だということも確かとなった」

 「3年…」

 それがはたして長いのか、短いのかカカシには計れなかった…。

 だが、とにかくサスケが無事であることが分かり、胸をなでおろす。 

 「そこでだ…カカシ…」

 と、自来也が口を開く。

 「ナルトは、ワシがしばらく育てる。

 サスケのこともあるが、暁に十分対抗できるように鍛えあげる。

 あ奴にはもう言ってある」

 …それは、なんとなく想像していたことだった。

 暁が動くのも3年後という話だが、いつまたナルトを襲ってくるかわからない。

 そう考えると自来也と共にいるのが、ナルトの身を守る上では最善だろうとカカシは考えていた。

 「わかりました。

 その間、うちの班はサクラと、別の誰かを臨時的に組ませて…という形でしょうか」

 その問いに、綱手が「いや」と答える。

 「その事だがな、サクラはしばらく私が預かる」

 「と、言いますと…」

 「数日前、サクラがここに来た。

 弟子にしてほしいとな」

 「サクラが…」

 「ああ。あいつも必死なんだろう。

 物になるかどうかはまだわからんが…

 見込みは十分にありそうだ」

 あのサクラが…

 カカシはサクラの意外な行動に驚いていた。

 自分から火影に弟子入りを志願するとは…

 「意外だったか?」

 綱手に言われ、カカシは頷いた。

 「はい。正直驚きました。

 サスケが戻らなかったことにショックを受け、ふさぎ込んでいるとばかり…」

 「お前が思っているより、あいつは強いようだね」

 カカシはギュッとこぶしを握りしめた。

 二人は、もう歩き出したか…

 オレは…どうする…どうすれば…

 サスケが去ったショックと、残された二人に何もしてやれない自分の無力さに、カカシの心は深く沈みこんでいく。

 部下の二人が前に進み始めたというのに、自分がこれではいけない…

 それは分かっている…

 頭では分かっている…が、心が追い付いてこないのだ。

 「おまえにはしばらく上忍と組んでの任務にあたってもらう」

 「はい」

 綱手に答えたその言葉は、どこか上の空だった。

 「では、失礼します」

 頭を下げて背を向けるカカシ。

 その手がドアノブにかかる前に、綱手が声をかけた。

 「カカシ」

 ピクリとその肩が揺れる。

 「単刀直入に聞くぞ。

 …お前、大丈夫か?」

 しばしの沈黙の後、カカシは振り返った。

 「オレはやるべきことをやるまでです」

 それが何なのかを見つけていないままにそう答え、深く頭を下げる。

 「綱手様、自来也様。

 二人を…よろしくお願いします」

 そう言い残して、カカシは退室していった。

 ふぅ…と深く息を吐く綱手。

 「どうにも…」

 「よくないのぉ」

 続いてつぶやく自来也。

 「あやつもわかってはおるんだろうがな…

 どうする、綱手?」

 「頼まれてくれるか?」

 「ふむ…」

 面倒なことを嫌う自来也だ…

 普段なら断るところだが、

 「あんな生気のない顔を見せられてはのぉ…

 ほっておくわけにはいかんな…。

 しかし、ワシの言葉が届くかどうかは分からんぞ」

 「珍しい事を言うな。

 仙人ともあろうお前が」

 「ま、あやつから見れば、ワシは可愛い部下を連れ去って行く年寄り…だからな」

 その言葉に綱手が立ち上がり、窓から里を見下ろす。

 「それを言うなら、私も…だな。

 本当なら今のあいつには、二人の存在が必要だろうからな…」

 その視線の先には、帰り行くカカシの背中…

 「だが、ここは踏ん張ってもらわねばならん。

 自来也…頼んだぞ。

 今あいつに潰れられては困るからな…」

 「里の未来にかかわる…か?」

 「そういうことだ」

 綱手のその言葉に、自来也はフンっと鼻を鳴らして笑い、さっと姿を消した。

 

 火影室を出た後、カカシはまたあの場所へと来ていた。

 「ここに来たからと言って、答えが出るわけじゃないのにな」

 友の名前に花を添える。

 「そうだろうのぉ。

 そこに答えはないだろうな」

 突然の声に目をやると、

 「自来也様…」

 腕を組み、大きな木の幹にもたれながら自来也がこちらを見ていた。

 「カカシよ…お主…かなりのダメージを受けているようだな」

 何にも包まぬ、ストレートな言葉…

 カカシはスッと視線をそらしながら、以前ソラが言っていた言葉を思い出した。

 

 

 『ここぞという時には、必ず来てくれる…でしょ』

 

 

 過去にも…この間の任務でも…そして今も…

 確かに…そうだな…

 カカシはそれを認めながら、認めたくないような…奇妙な気持ちだった。

 だが、しばらくしてため息交じりに小さく笑った。

 「かないませんね…あなたには…」

 そうつぶやいて、しばらく黙りこむ。

 そして、観念したように話し出す。

 「オレは…サスケの闇に…憎しみに気付いていながら何もできませんでした…。

 仲間と生きる道を選んでほしい…仲間を守れる忍になってほしい…。 

 そう思って千鳥を授けましたが、あいつはその術でナルトを傷つけ、この里を断ち切り、復讐を選んだ…」

 自来也は何も言わずカカシの言葉を受け止めてゆく。

 そんな自来也の心に触れ、カカシの口から言葉が…ため込んでいた思いが溢れる。

 「徐々に闇に染まりゆくあいつに気付きながらも、自分の部下に限って…と、過信して…

 サスケの心に寄り添っているつもりになっていただけで、結局何もわかってやれず…。

 あいつを一人にした…。オレのこの手を待っていたのに…」

 カカシは両手を見つめ、強く握りしめた。

 「オレは何もしてやれなかった。そして…間に合わなかった…。

 名前の通り、オレはただ立っていただけの…畑の中のかかしだったんです…」

 うつむき黙り込むカカシ。

 自来也は姿勢を変えぬまま、カカシに言葉を投げかける。

 「のぉ、カカシよ。

 畑の中のかかしの由来をしっとるか?」

 「え?…い…いえ。知りません」

 「久延毘古(くえびこ)という名の神の依り代という説がある。

 その神は歩く力を持っておらんかったが、知恵者で、答えられぬ事はなかったと言われている。

 ずっと立ち続け、世の中のすべてを見てきたからだそうだ。

 かかし(イコール)悪いものから畑を守る、立っている人形(イコール)立っている神…と考えられ、そのいわれができた。

 元をたどれば、かかしとは、変わらずいつもそこに立ち、万事を知り、大切な物を守る存在なのだ」

 「…変わらずいつもそこに立ち、万事を知り、大切なものを守る存在…」

 繰り返したその言葉がカカシの心にすっとおさまったような気がした。

 「それから、これはワシの自論だが…

 かかしは誰が作っておると思う?」

 「…畑の持ち主…ですか…?」

 「そうだ。大体において、畑の持ち主の手作りだ。

 ということはだ、作った者からすれば、そのカカシが立っている畑は自分の畑だと、遠くからでもわかる。

 いわゆる道しるべだ」

 自来也はカカシの目を見つめ、言葉を続ける。

 「ワシはお前とサスケのことを見ておらんから、何とも言えんがな…。

 お前が言うなら、此度は何もできんかった【かかし】なのかもしれぬ。

 実際サスケは行ってしまったしの…。

 しかし、これからはそうではあるまい」

 その言葉に力強さが加わっていく。

 「お主には歩く足が、力がある。

 今はその力でさらに知識を、術を、そして己を磨け。

 この先、あいつらが悩み迷った時、すべてに答え、導けるように」

 「自来也先生…」

 カカシの胸の奥が熱を帯びる。

 自来也はフッと笑みをこぼし、里を見回すように視線を動かした。

 「里とは…次の世代の力を…花を育てる畑のようだと思った事がある。

 ワシら年よりはさしずめ肥料といったところか。

 そして、お前らの世代は、太陽の光り、地を潤す水…かのぉ」

 カカシは一つ一つを心に刻む思いで、自来也の熱ある言葉を聞く。

 「カカシ、お前はこの里であいつらを信じて立ち続けろ。

 いつか、サスケが、ナルトが、サクラが、一つに戻るときの道しるべとなるように。

お前らが集う場所は「ここだ」と、胸を張って立っておれ。

 それがお前の役目ではないのかのぉ」

 カカシはその言葉を聞き、自来也に背を向け、肩を小さく震わせながら答えた。

 「……はい」

 そう言うのがやっとだった。

 カカシの足元に、ぽたぽたと大きなしずくがこぼれ落ちる。

 サスケが去った悲しみ、自分の無力さへの悔しさ、そしてやるべきことを見つけた希望…

 すべての物が溢れ出た…

 「…はい」

 もう一度そう返事を返し、涙を抑え込んで振り返ったカカシの目には、強い決意が浮かんでいた。

 自来也は安心したように頷き腕を組んだ。

 「それからのぉ、綱手はまだ諦めてはおらんぞ」

 「え?」

 「おまえ、あいつの話をちゃんと聞いとらんかったのか?

 あいつは確かに、人員を割く余裕はないと言った。

 だが、こう言ったんだ。

 『今の里には』…とな」

 「では…」

 その声に答えたのは自来也ではなかった。

 「そういう事だ」

 木の影からスッと綱手が姿を現す。

 「なんだ、結局お前も来たのか」

 にやりと笑う自来也に綱手は睨んで返す。

 「うるさい。

 それより、カカシ。

 前にも言ったが、サスケの写輪眼は里にとって重要だ…。

 大蛇丸などに渡すわけにはいかん。

 それに…なにより」

 綱手は強い想いを込めた瞳で言う。

 「サスケは木の葉の大切な若葉だ。

 そう簡単に諦めるわけにはいかない。

 復讐などという闇に奪われるわけにはいかないんだよ」

 「綱手様…」

 綱手のその瞳には、火影としての誇りが輝いている。

 「まずは里を立て直し、忍を育て、態勢を整えてからもう一度サスケ奪還の任務をお前たちに言い渡す。

 その時まで、しっかり精進しろ!」

 「そういうことだ」

 綱手の隣で自来也が笑う。

 カカシは姿勢を正し気持ちを引き締めた。

 「はい!」

 …これが…火影…

 そうだ…

 歴代の火影達もこうして若き力を…木の葉の若葉を守ってきた…

 ミナト先生も…三代目も…そして綱手様も…

 カカシの心は震えていた。

 いつかは…オレも…

 …憧れや、夢ではない…

 カカシにとってそれは【覚悟】

 「ありがとうございます」

 多くの意味を込めて、カカシは頭を深く下げた。

 「わかればよい」

 「じゃぁの」

 そう言って去りゆく二人の背にカカシはもう一度頭を下げ、

 

 

 必ずサスケを取り返して見せる!

 

 

 そう心に誓い顔をあげる。

 と、その時、綱手達と入れ違いにナルトとサクラがこちらに走ってくるのが見えた。

 「やっぱりここだったってばよ」

 「やっと会えた。

 先生ずっと任務だったから…待ってたのよ」

 二人はカカシのもとまで来て、はぁと息を吐き出して呼吸を整える。

 「どうしたんだ?」

 カカシは久しぶりに会う二人の顔を見て、心が和んだ。

 心なしか少し大きくなったような気がする。

 「先生に報告したいことがあるんだってばよ…」

 「あと…お願いしたいことが…」

 「なんだ?」

 報告はなんとなくわかる…

 おそらく…

 「オレ、エロ仙人と修行に行くことに決めたんだってばよ」

 「私は綱手様のもとで修業を」

 かかしは優しく笑みを浮かべて頷く。

 「そうか」

 「オレ、サスケのことは諦めねェ!

 でも、もっともっと強くなんなきゃ、あいつには届かない…だから…行ってくるってばよ!」

 目を輝かせるナルトの横で、サクラも瞳に決意をたたえる。

 「私も、諦めない!

 立派な医療忍者になって、みんなを守れる忍になる!

 そして…サスケ君を救ってみせる!」

 二人の強いその想いが、カカシにひしひしと伝わってくる。

 オレも負けていられないな…。

 「ああ。行って来い!」

 カカシのその言葉に二人は強くうなずく。

 そして、言いにくそうに口を開く。

 「それで…その…あれだってばよ…」

 「そう…その…お願いが…」

 「ん?」

 ナルトとサクラは顔を一度見合わせ、頷きあってカカシに向き直った。

 「待っててほしいんだってばよ!」

 「私たちの修行が終わるまで!」

 「え?」

 首をかしげる。

 「サクラちゃんと話してたんだけど…」

 「私たちが修行してる間に、カカシ先生がほかのチームの担当になるのは…」

 「嫌なんだってばよ…」

 カカシは言葉に詰まった…

 「お前ら…」

 「やっぱり、オレたちの先生はカカシ先生じゃなきゃダメなんだってばよ…」

 「だから、お願い。待ってて」

 二人は必死にカカシに詰め寄る。

 カカシは、目の奥が熱くなるのを感じながら笑顔で頷いた。

 「ああ。待ってるよ。心配するな。

 だから、しっかり学んで来い!」

 その言葉に、二人が息を吐き出す。 

 「はぁぁぁ。よかった。

 これで安心して修行できるわね、ナルト」

 「おう!

 やってやるってばよ!」

 嬉しそうな二人の顔にカカシの心は晴れわたってゆく。

 立ち止まってはいられない。

 二人の気持ちに恥じぬよう、オレも…前へ…

 ナルトとサクラの前に出て歩き出すカカシ。

 「よぉし、お前ら。

 ラーメン食いに行くか!」

 「やったってばよぉ!」

 「そのあとは、餡蜜ね!先生」

 そう言って隣に並ぶ二人を見てカカシは強く決意する。

 

 

 ナルト、サクラ…オレはお前たちが迷わぬよう、導ける存在となる。

 

 

 そして、サスケ…お前がいつか戻って来るための目印となれるよう、立ち続けるよ…。

 この…木の葉という名の()()()()()()()として…

 

 

 だから…戻ってこい!

 オレのところへ…

 オレたちのところへ…

 

 強い想いと願いを込めて見上げた青空に、一羽の鷹が羽ばたいた。

 まるでカカシの想いをサスケのもとへと導くかのように…力強く…まっすぐに…

 

 

                       完

 

 

 

 




はたけのかかし…完結いたしました(^^)

最後までお付き合いいただき、
本当にありがとうございました(^-^)

二人のstoryは書いても書いても足りない気がして、書いたり消したり…足したり引いたり…と、そんな日々でした(^_^)

皆様に少しでも楽しんでいただく事ができていたら幸いです(^^)

本当に本当にありがとうございました
(*^^*)


キビシイ批評をお控えいただき、感想などいただけると嬉しいです☆
よろしくお願い致します(^_^)

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