はたけのかかし 【カカシ×サスケ】   作:かなで☆

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其の四   二つの葛藤

 すっかり寝入っているサスケとは逆に、カカシは何故かなかなか寝付けず、愛読書『いちゃいちゃパラダイス』を手に、ベッドの上に座っていた。

 時々サスケに目をやると、何とも気持ちよさそうに寝息を立てている。

 その姿を見るたびに、笑みがこぼれた。

 

 このまま、落ち着けばいいんだがな…

 

 そんなことを思っては、本を読む。

 そうしてしばらく起きていたが、明日のことを考え、そろそろ無理にでも寝ようかと本を閉じた。

 その時。

 サスケが小さくつぶやいた…。

 「………ろ…」

 「サスケ?起きてるのか?」

 声をかけるが返事はなく、しばらくしてから「やめろ」と、今度ははっきり言葉を口にする。

 「夢を見てるのか?」

 ベッドから降り、顔を覗き込む。

 サスケは苦しそうに顔をしかめ、うっすら汗をかいていた。

 そして、息苦しそうに声を絞り出した…

 「う……いた…ち…」

 「っ!」

 まさか、あの日の…

 カカシはそっと腰をかがめ、サスケの肩に手を当てる。

 「サスケ、起きろ。サスケ」

 何度か肩をゆすられ、サスケは目を開いた。

 そしてゆっくりと起き上がり、しばし放心する。

 まだ眠りからさめきっていない様子だ。

 「大丈夫か」

 「カカ…シ」

 弱くつぶやきながら、カカシを捉えたうつろなその瞳が、ゆっくりと窓のほうに移動する。

 ハッと、嫌な予感を覚え、カカシは慌ててサスケの顔を自分の胸に押し当てた。

 「見るな!」

 しかし、すでにサスケの瞳は怪しげに輝くあの月を、しっかりと映していた。

 

 

 ドクンッ!

 

 

 サスケの体内の血が脈打つ。

 カカシにも伝わるほどの激しさで。

 「う…くっ…」

 胸を押さえてうめき声をあげる。

 「サスケ、しっかりしろ!」

 しかしその声は届かない…

 サスケの頭の中に響いたのは凍てつくような冷たい色を浮かべた、兄の声だった…

 

 

 -- 愚かなる…弟よ --

 

 

 ドクンッ!

 

 

 闇が広がる…

 あの日の光景とともに…

 

 

 「やめろ…」

 

 

 -- 貴様など殺す価値もない --

 

 

 ドクンッ!

 

 

 辺り一面を深い闇が覆い尽くしてゆく

 足元には血まみれの父と母

 

 

 「父さん…母さん…」

 

 

 -- この俺を殺したくば --

 

 

 底知れぬ恐怖が空間を支配する…

 何度も押し寄せる血のたぎりの合間に、次々と人が殺されてゆくその光景がフラッシュバックする。

 

 

 「やめてくれ!」

 

 

 -- 恨め…憎め --

 

 

 兄、イタチの手には血に濡れた刀…

 

 

 「来るな!」

 

 

 -- そして醜く生き延びるがいい --

 

 

 ドクンッ! 

 

 

 「は…ッ…あぁ…」

 

 

 瞳が赤く染まる…

 

 

 -- 逃げて逃げて 生にしがみつくがいい --

 

 

 「やめろぉぉぉぉ!」

 

 

 黒い記憶に襲われ、サスケは叫んだ。

 あの声がよみがえるたびに、体中が震える。

 

 

 「やめろ!オレの心に入ってくるなぁっ!」

 

 

 「サスケ!落ち着け!」

 頭を抱えて大きく体を揺らすサスケのその肩を、カカシは必死に抑えた。

 まるで幻術にかかったかのように精神ダメージを受けている。

 

 …やはり、あの時!

 

 カカシは先ほど銭湯の前で月を見ていたサスケを思い出していた。

 

 あの時、無意識に心の中の闇がうずいていたのか…

 

 くそ!

 カカシは見抜けなかった自分を責めた。

 「サスケ!オレを見ろ!サスケ!」

 頬を両手で包み込み、無理やりサスケの顔を自分に向ける。

 赤く写輪眼となったサスケの瞳からは、涙があふれている。

 「っ…」

 その表情にカカシは胸が締め付けられた。

 「戻ってこい!オレのところに!」

 祈るような気持ちでその名を呼ぶ。

 「サスケ!」

 ビクリッ…と、サスケの体が揺れた。

 見開いたその目に、ようやくカカシが映る。

 「カカシ…」

 ふっと、瞳の色が元に戻り、サスケはそのまま意識を失い、カカシの胸に倒れ込み再び眠った。

 カカシはほっと溜息をつき、頭に手を添えてそっと抱きしめる。

 「大丈夫だ。大丈夫」

 サスケに言ったのか、自分に言ったのか。

 何度もそうつぶやいた。

 

 …油断してたな…

 

 今夜の月のせいもあるだろうが、もしかしたらサスケは千鳥を見て、イタチに対抗する手段になると、本能で感じたのかもしれない。

 そしてそれが知らぬ間に、闇を引き出したのか。

 サスケが力を欲したのは、中忍試験のこともあるが、根底にあるのはやはりイタチへの復讐。

 「やめるべきか…」

 サスケを寝かせて、布団をかけ直す。

 このまま千鳥を教えるべきかカカシは迷っていた。

 しかし、先程のサスケの言葉…

 

 『俺の心に入って来るな』

 

 その言葉は、ただ恐怖を感じて言ったものではない事を、カカシは悟っていた。

 「サスケ。お前も迷っているな…」

 復讐を…

 

 かつてのお前は、人との関わりを避け、孤独に身を置き、復讐を果たすためだけに生きてきた。

 それがお前にとっての生きる意味だったんだろう…

 だが、今は違う。

 ナルトとサクラと出会い、ともにスリーマンセルとして過ごす中で、お前は見つけたんだろ…?

 新たな生きる意味を…

 無茶苦茶で、いつも無理をするナルト…

 頼りないながらも、必死に強くなろうとするサクラ…

 そんな二人を見て、お前は『自分が何とかしなければ』と、いつも二人の前を歩き続けてきた。

 そして、お前の心は、ナルトとサクラを、守るべき存在として認識している。

 きっとお前は気づいてないだろうが、そんなお前はまるで弟妹(きょうだい)を守る兄のように見えるよ。

 その反面、両親の…そして一族の仇を取るためにイタチを倒す…という復讐心を捨てきれず…そうすることを許せず…

 (ここ)で生きるか、復讐に身を投じるか…そのはざまで葛藤しているんだろう…

 だが、あの時…再不斬(ザブザ)(ハク)…あの二人との戦いの時、お前は命を(かえり)みず、ナルトを救おうとあいつをかばい、敵の攻撃をその身に受けた。

 復讐を果たすまでは、死ぬわけにはいかないと言っていたお前がだ。

 …勝手に体が動いた…とお前はそう言ったらしいな…

 それは、お前が心からあいつを、仲間を大切に思っているからだ…。

 

 「だからオレは…」

 お前を信じて、あの術をお前に授けようと、そう思ったんだ。

 今のお前なら、千鳥を仲間を守るための力として使ってくれるだろうと、そう思ったんだ。

 「なぁサスケ、あいつらにはお前が必要不可欠だ」

 頬に涙のあとを残し、眠るサスケを見つめる…

 「お前もそうだろ?」

 そっと髪を撫で、カカシは窓の向こうで輝く月をにらみつけた。

 「こいつを、連れて行かせはしない」

 ナルトも、サクラも、サスケも、オレにとって大事な部下であり、仲間だ。

 そしてなにより、木の葉の里の、守るべき若葉だ…

 「渡すわけにはいかない」

 その脳裏には大蛇丸と、イタチの顔が浮かんでいた。

 「サスケ、お前はここで生きろ。オレ達と共に…」

 カカシの言葉がサスケの夢の中へと溶け込んでいく…

 しかし、それは心に届く前に、闇によってかき消された。

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