はたけのかかし 【カカシ×サスケ】   作:かなで☆

5 / 25
其の五   鈴取り

 「サスケ~。起きろ~」

 のんびりとしたカカシの声に、サスケはゆっくりと起き上がる。

 声のしたほうに目をやると、すでに支度を整えたカカシが朝食をテーブルに並べていた。

 時計はまだ6時だ。

 「やけに早いな…」

 「まぁね」

 というか、ずっと起きてたんだけどね…

 カカシは結局あの後一睡もせず、サスケのそばについていたのだ。

 幸い、同じことは起こらず、無事に朝を迎えた。

 「顔洗って早く着替えろ~。

 今日はちょっと早く出るぞ」

 「わかった」

 あくびをしながらソファから降りるその様子は、普段と変わらない。

 どうやら昨夜のことは覚えていないようだ。

 すべて無意識か…

 それはそれで厄介だな…

 自覚があるならまだ防ぎようもあるが…な…

 サスケをついと見つめる。

 「なんだ?」

 その視線に気づきサスケが顔をしかめる。

 「いや…」

 ハッとして、カカシは冷蔵庫を開けた。

 「牛乳でいいか?」

 「ああ」

 答えて食卓につくサスケ。

 テーブルにはパンと温かいスープ。

 そしてポテトサラダ…

 「また作ったのか?」

 まだ少し眠そうな顔でサスケはつぶやいた。

 「ホントあんたマメだな…」

 修行を始めてから今日まで、昼と夜は外食が多いが、朝食に関しては毎日カカシが何かしら作る。

 昨日はオムレツ…

 その前は野菜たっぷりのポトフ…

 カカシ(いわ)く『朝食をきちんと食べるか食べないかで一日は決まる』

 任務の時は別として、普段の生活を規則正しく過ごすことも忍びとして大切なことだと、カカシは事あるごとにそう言う。

 中でも朝食を食べることを重要視しており、できうる限り何か作るようにしているのだ。

 しかも上手い…

 特にこのポテトサラダは…

 「お前それ好きだろ」

 「………………」

 サスケに否定する理由はなかった…。

 「ほら」

 差し出されたコップを無言で受け取る。

 「よし、食うか」

 カカシも席に着き、律儀にも「いただきます」と手を合わせる。

 サスケもそれに続くが、その声は聞こえるか聞こえないか…

 本当に小さな声だ…

 カカシとのこの生活にもずいぶん慣れたが、こういう気恥ずかしさは、まだ抜けずにいた。

 「で…」

 その恥ずかしさを紛らわせるように、サスケはパンに手を伸ばしながら口を開く。

 「今日はあの術を教えてくれるんだな」

 ピクリ…と、コップに伸ばしたカカシの手が揺れた。

 そして一瞬言葉に詰まる。

 カカシはまだ少し迷っていた。

 サスケにあの術を教えることに…

 だが、いまさらサスケはひかないだろう。

 カカシは意を決して顔を上げる。

 「ああ。教える」

 その言葉に、サスケは満足そうにうなづいた。

 「じゃぁさっさと食べて、早く…」

 「まぁまて。慌てるな」

 気持ちの急くサスケをなだめて、カカシはパンをかじる。

 「朝食は落ち着いて食べろ」

 いつものペースで食事を進めるカカシに、サスケは何かを言いかけてあきらめる。

 そしてポテトサラダを口にし、ぴたりと動きが止まる。

 ……腹が立つくらい……

 「美味いだろ」

 得意げなカカシに無言を返し、サスケは黙々と食べ進める。

 そして、食事がひと段落してからカカシは口を開いた。

 「いよいよ千鳥の修行を始めるが、それは今日の午後からだ。

 午前中は、これをやる」

 そう言ってサスケの前に手を突き出す。

 その手元で、「チリン」と音を立てて、小さな鈴が揺れた…。

 「それは…」

 「そうだ。あのときの鈴だ」

 もう一度鈴が小さく鳴り、サスケの脳裏に懐かしい記憶をよみがえらせた。

 アカデミーを卒業して、下忍になるために行われたあの演習の光景…

 カカシからあの鈴を奪うために、初めは個々に動いていたサスケたちだったが、まったく手が届かず…

 『3人での協力』をはじめに口にしたのはサスケだった。

 サスケにとって、初めて仲間を…チームワークを意識した瞬間だ。

 「昼までに、オレからこの鈴を奪え。

 それができたら、次は千鳥を教える」

 カカシの真剣な表情に、サスケはフッと笑みを浮かべる。

 「いいだろう。

 あのときとの違いを確かめるのにちょうどいい」

 「ただし、今回は里全体が演習場だ。里の中のどこかにいるオレを見つけて、鈴を奪え。

 まぁ、さすがに、どこかに身をひそめたりはしないから」

 カカシはサスケが里の中を巡ることで、ナルトたちとの思い出に触れることができれば…とそんな風に考えていた。

 「それから、いくつか条件を設ける。

 まずは、オレとお前共通のルール。

 里の建物、そして里の人間を一切傷つけない」

 「ああ」

 「そしてこれは、オレが自分に設けたルールだが…オレは一切術を使わない。

 もちろん写輪眼もだ。

 今回お前は一人だからな」

 その言葉にサスケは明らかに不満そうな表情を浮かべる。

 「ハンデなんかいらない」

 「まぁまぁ。これはオレにとっても修行なわけよ。

 術も写輪眼もなしで、お前から鈴を守るって言うな。

 もし、ルールを破った場合、即負けだ。もちろんオレが自分のルールを破った時もだ」

 サスケは腑に落ちない様子だったが、こういう時何を言っても、カカシが意見を変えないのはもうわかっている。

 「わかった」

 「よし。食器を片づけて、家を出たら、スタートだ」

 

 

 こうして、懐かしいあの演習が始まった…。

 

 

 それから1時間後…

 サスケは里の中を駆けていた。

 「カカシのやつ…卑怯なまねしやがって…」

 吐き捨てるように言う。

 あのあと、「準備するから」と言ってカカシは部屋に入っていった。

 だが、サスケがしばらく待つも、なかなか出てこず、不審に思い部屋を見に行ったら、すでにそこにカカシはいなかったのだ。

 「ふざけやがって!」

 気持ちが焦る。

 時間は今8時過ぎ…

 まだ昼までは充分余裕があるが、午後からの修行のことを考えると、あまり時間をかけるわけにはいかない。

 千鳥の修行には、かなりのスタミナが必要になるだろう…

 長引けば、後に響く。

 それに、カカシを相手に術を使わずに済むとは思えない。

 そうなると、修行前にチャクラを回復する時間も必要になる。

 短時間で、そして最低限のチャクラの使用でカカシから鈴を奪う…

 かなり至難の業だ…

 この広い里の中から見つけ出すだけでも困難な状況。

 サスケは思考をめぐらせ、最善の策を探す…

 「策…か…」

 そしてふと立ち止まり、行き先を定めて再び駆け出した…。

 

 

 その頃、サスケに気づかれぬよう窓から家を出たカカシは、なるべ人通りの少ない場所を選んで、里の中を歩いていた。

 「さて、どう来るか…」

 警戒を怠らず、歩みを進めていると、

 「よう、カカシじゃないか」

 声をかけてきたのは、自称カカシの永遠のライバル、ガイだ。

 朝早くから鍛錬でもしていたのか、汗を拭きながらこちらに歩いてくる。

 「サスケと修行中じゃなかったのか?」

 「ん?今一応修行中」

 「とは言え…」

 きょろきょろとあたりを見回すガイ。

 「一人じゃないか。

 かくれんぼでもしてるのか?」

 笑いながら冗談めかす。

 「まぁ、そんなとこだ。

 どっちかというと鬼ごっこかな」

 「ほぉ…面白そうだな。俺も混ぜろ」

 「だめ」

 即答して歩き出す。

 そのあとを、しつこくガイがついてくる

 「いいではないか」 

 「だめ」

 「そう言わず」

 「だめ」

 「ちょ…」

 「だめ」

 しばし黙り、ガイはこぶしを握りしめた。

 「くぅ!そのストイックな返し!

 相変わらず、なういなぁ!カカシ!」

 「…あのねぇ、邪魔だから、あっち行ってくんない?」

 煙たそうに振り向き、カカシは一瞬固まる。

 ガイの少し後ろ…細い路地に、見覚えのある人影がするりと入っていくのが見えたのだ。

 「バカな…あいつは…」

 額に汗が浮かぶ…

 いや、そんな…まさか……

 「どうしたカカシ?」

 様子が一変したカカシの視線の先を追って、ガイが後ろを見る。

 そこにはすでに誰もいない。

 「何もないではないか」

 「ガイ…今…」

 言いかけて口をつぐむ。

 いや、見間違いかもしれない…

 はっきりしない状況で、言うべきではないか…

 「なんでもない。

 ガイ、やっぱりお前も混ぜてやるよ。

 先にサスケを見つけて、火影様のところへ行ったほうが勝ちだ」

 その言葉を聞き、ガイは一瞬で燃え上がる。

 「よぉぉぉぉぉぉぉし!

 負けんぞ!カカシ!」

 叫んだかと思うと、一瞬で姿を消す。

 サスケは頼んだぞガイ!

 俺はあいつを追う!

 カカシは先ほど人影が消えた路地に走った。

 ちらりとしか見えなかったが、あれは…

 …つぅっ…と額から汗が一筋走った。

 もし、見間違いでなければ……

 「大蛇丸…」

 サスケの呪印を封印したときのことを思い出す。

 音もなくカカシの前に現れた大蛇丸はこう言った。

 「サスケ君はいずれ私を求める」

 その言葉から考えて、力ずくでサスケを連れて行こうとしているとは考えにくい…

 そのつもりなら、あの時オレを殺してでもそうしただろう…

 それに、中忍試験に紛れて何かをたくらんでいるあいつが、ここで下手に動くとも考えられない…

 だが、もし見間違いでなければ…

 さっと、路地の入口の壁に身をつけ、懐から取り出した小さな鏡に路地を映し出す。

 「っ!」

 路地の奥…角を曲がる後ろ姿が見えた…

 今度ははっきりと…

 間違いない!

 カカシは思わずそのあとを追った。

 本来ならまず火影に報告し、作戦を練るべき場面だ…

 だが、サスケを渡すものかという気持ちが、完全にカカシから思考を奪っていた。

 くそ!こんな時間に動いてくるなんて!

 …サスケ…無事でいてくれ!

 カカシは祈るような気持ちで駆けた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。