あれから1週間…サスケの千鳥の修行は順調だった。
まだ完成してはいないが、かなりうまくチャクラを
「あと少しか」
カカシが見守る中、サスケが左手にチャクラをうまく集約してゆく。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
バチバチと激しく暴れるチャクラを、何とかコントロールしようとするサスケの額には、大粒の汗…。
「くっ…」
しばらくして、あらゆる方向に不規則に伸び縮みするそのチャクラが、少しずつ形を変え始めた。
「お…」
岩に座って様子を見ていたカカシの体がピクリと動く。
いい形だ…
この術の開発者である自分だけが分かる、その形状。
「いけるか…」
しかし…
「…くそ…っ」
サスケが言葉を吐き出したと同時に、
バヂィィィ!
激しい音を立ててチャクラがはじけ飛び、消え去った。
「…惜しいな…」
カカシの視線の先では、サスケが膝をついて、荒い呼吸で体を大きく揺らしている。
「休憩だ!サスケ!」
サスケはしばらくその場で息を整え、ゆっくりとカカシのもとへと戻ってきた。
「くそ!あと少しなのに!」
ドサッと勢いよくカカシの横に座り、タオルで汗を拭く。
「ああ。あと少しだ。
今のはかなり良かったぞ」
そう言いながら、カカシはサスケの前にしゃがみ込んだ。
「手、見せろ」
差し出されたカカシの手に、サスケは左腕を乗せる。
「つ…」
少し触れるだけで痛みが走る。
何度もはじけるチャクラの衝撃に、数日前からサスケの左腕には火傷のような症状が出ていた。
カカシはカバンから出した軟膏を、腕に塗り込む。
「う…」
サスケが顔をしかめる。
「かなり痛むか…?」
「いや…大丈夫だ…」
ま、痛くてもお前は言わないか…
「少し体をほぐすぞ」
カカシは傷に触らぬよう、サスケの左腕をマッサージする。
そして、次に右腕のツボを押さえてゆく。
「なぁ、カカシ…」
素直に腕を預けたまま、サスケがつぶやいた。
「ん?」
「あんたは、いつこの術を会得したんだ?」
サスケの視線は、この間カカシが雷切で破壊した岩に向けられている。
カカシはしばし記憶をたどり、初めてこの術を実践で使った日を思い起こす。
「上忍になったころだったから12歳…。
ちょうど今のお前と同じくらいだな」
「あんた…12歳で上忍になったのか?」
初めて聞く事実に驚愕する。
「まぁ…ね」
答えて、足のマッサージにうつる。
「初めてこの術を実践で使ったのは、上忍としての初任務の時だった…」
あの日の光景がよみがえる。
「当時の上司だったミナト先生…後の四代目火影と、彼が率いるスリーマンセルの4人小隊で、オレが隊長となり任務遂行にあたった。
あの頃のオレは、チームワークなんて言葉を全く意識してなくてな…この術を手に、一人きりこんだ。
もちろん自信があったからだが、天才ともてはやされて、何でも一人でできるつもりになってた」
サスケは静かに話に聞き入っている。
「だけど、あの時まだオレは写輪眼を持っていなかったから、敵のカウンターを見切れず、危うく死ぬところだった。
そのことから、ミナト先生にはこの術を禁じられた。
そして、勝手に飛び込んでいったオレに仲間の一人は怒り、言い争いになり、その上必死になだめようとする、もう一人の仲間の言葉をオレは聞こうとせず…ばらばらだったよ…。
その時、ミナト先生から言われたのが『忍にとって、何より大切なのはチームワーク』という言葉だ」
あの日の恩師の顔が思い出される…。
「だけど、気付くのが遅かった…。
そのせいでオレは大切なものを…失った…」
カカシは視線を伏せたまま言葉を続ける。
「だがそれと同時に、千鳥は完成した…」
写輪眼を手に入れたことで…。
その言葉は口にしなくとも、サスケには分かった。
しかし、その経緯をなぜか聞いてはいけない気がして、口に出せなかった。
「この術はオレにとって、つらい記憶が深く刻まれている術だ…
だが同じくらい深く、チームワークの大切さを思い出させてくれる術でもある。
オレはこの術で仲間を守り、二度と大切なものを失わぬよう強くなろうと誓ったんだ」
カカシはすっと立ち上がり、サスケの頭に手を乗せた。
「お前ならこの術を使いこなせる。
信じてるよ…」
仲間を守る力としてな…。
「さ、もう少し休憩してチャクラを回復させろ」
しかし、サスケは「いや…」と立ち上がる。
「もういける」
カカシのマッサージのおかげで体もかなり軽くなった。
「物にしてみせる」
瞳に決意を浮かべ、サスケは先ほどの場所へサッと飛び、移動する。
そして、しばらく何か考え込むように自分の左手を見つめ、大きく深呼吸し、再び術の修行を始めた。
この日、千鳥を完成させることはできなかったが、もうそれは目の前…
カカシもサスケもその手ごたえをつかんでいた。
「明日こそ、物にしてみせる」
帰り道、グッとこぶしを握り締め、サスケは意気込んでいた。
「そうだな」
ポンッと頭に手を乗せるカカシ。
すっかり違和感がなくなり、そこには穏やかな空気が流れている。
「カカシ、中忍試験が終わったら、ほかの忍術も教えてくれ」
「ああ。そのつもりだよ。
お前のチャクラの性質もきちんと把握したいしな。
今回みたいに、焦る必要もない…ゆっくり時間をかけて鍛えてやるよ」
サスケは嬉しそうに「ああ」と返す。
ここ最近、サスケはよくしゃべるようになった。
今までの体術の修行とは違い、千鳥はその都度莫大なチャクラを放出するため、先ほどのように間でそれなりの休憩が必要となる。
チャクラが回復するまでのその時間、二人は色々なことを話すようになり、これまで以上に距離が縮まってきたのだ。
カカシは、自身のアカデミー時代の話や、ガイとのライバル対決の話、任務の話など、サスケの精神面に影響が出ないよう内容を選び色々な話をしてきた。
中でもサスケが特に興味を持つのは、任務での作戦の組み立て方…いわゆる戦略だ…
もともと頭のいいサスケは、アカデミーで十分学んできていたが、それをいかに実践で応用できるか…
状況によってどのように変化させ、組み立てるのか…
そういったことに興味があるようだった…
「なぁ、この間の、ガイとアスマとのスリーマンセルで行ったAランク任務の話…」
サスケが不意に口を開いた。
「もし、タイプの違うメンバーだったら、あんたはどう作戦を立てる…」
「この間のって、水の国での任務のことか?」
数日前、昨年ガイ達と行った任務の話をしたのだが、どうやらそのことを言っているようだ。
「ああ。
あの二人はどちらも肉体派の忍だ。
それがもし全く違うタイプの編成だったら、作戦はまた変わってくるだろ?」
…違うタイプ…ね…
カカシはサスケの聞きたい事がわかっていた。
サスケは任務の話を聞いた数日後に、よくその質問をする。
おそらくシュミレーションしているのだろう…
もし、その任務に自分たちが行ったらどうなるだろうか…と。
そして、カカシを自分に置き換え、後の二人がナルトとサクラだったら…
そう考え、自分自身で作戦を立て、まるで答え合わせをするかのように、カカシに聞くのだ…
『違うタイプの編成なら…』と。
サスケは、どうすれば二人を守り、任務を遂行できるか…
そう考えているのかもしれない…。
それが意識的なのか、無意識なのかはカカシにもわからない…
そしてそれを喜んでよいものなのかも…
おそらくサスケの心の根底にあるイタチへの復讐は消えてはいないだろう。
この質問でさえも、もしかしたら、任務で自身を鍛え、復讐のために、段階を踏んで強さを得ようとしての事かもしれない…
それでも、そうして過ごす間に、心から復讐を取り除き、この里で忍びの道を歩む未来を選んでくれれば…
カカシはそんな風に考えていた。
大事なのは、サスケから焦りを取り除くことだ…
じっくりと時間をかけることで、その心をほぐしていかねばならない…
今はしっかりと向き合ってやらなければ…
「そうだなぁ…あの二人の場合、とにかく力で押す戦いだから、オレはどちらかというと後方支援に回ったが、もしそれが瞬発力と回避能力に優れた陽動係と、冷静な判断力を持った後方支援役だったとしたら…」
頭の中でナルトとサクラをイメージしながら話す。
サスケは時に頷き、時に問いかけ、そして「もしそれがこうなら」と、自分なりの考えを投げかけてくる。
時折、カカシでさえも感心する策を出してくることがある。
その力を正しく導いてやりたい…
カカシは目を輝かせながら話すサスケを優しいまなざしで見つめた。
サスケのその心が…真意が、どこへ向かっているのかは、正直カカシにもわからない…
それでもカカシは信じて共に進もうと心に決めた。
サスケの向かう先が、光にあふれていることを願って…。