はたけのかかし 【カカシ×サスケ】   作:かなで☆

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其の九   扉の向こう

 中忍試験…本選当日…

 いまだ目を覚まさないサスケのそばで、カカシは椅子に座り本を読んでいた。

 ソファの上では、サスケの治療にかなり疲労したのか、ソラもまだ眠っている。

 時間は11時。

 「そろそろ起きろよ~サスケ」

 しかしその声に目を覚ましたのは、サスケではなかった。 

 「カカシ…」

 「ん?ソラ、目が覚めたか」

 「ごめん…寝ちゃった」

 「構わないよ」とカカシは本を閉じる。

 「サスケ君は?」

 二人でサスケを覗き込む。

 「お前の薬が効いたようだ。

 熱はすっかり下がってるよ」

 ソラがそっとサスケの頬に触れ、笑みをこぼす。

 「うん。大丈夫そうね。

 よかった…」

 「腕もすっかり良くなったみたいで…本当に助かったよ」

 「どういたしまして」

 ソラが少しおどけた仕草で頭を下げる。

 「あとは目覚めるのを待つばかりね…」

 本選開始まであとわずかだ…

 「ああ」

 二人の視線の先では、夢を見ているのかサスケが時折表情を変える。

 「…サスケ」

 …またあの夢を見ているのか…

 カカシはサスケの頭を撫でながら、自分がその夢の中へ助けに行ければ…と思わずにはいられなかった。

 

 

-------------------------------------------------------

 何もない広い空間に、サスケは一人佇んでいた…。

 「ここは…」

 辺りをゆっくりと見回す。

 次第に霧が出始め、少しずつ黒く色づいてゆく。

 「……っ!」

 サスケはギクリとした。

 「また…」

 あの夢だ…

 一歩後ずさり、出口を探すように視線を慌ただしく移動させる。

 しかし、抜け出せる道は…ない…

 辺りの霧はどんどん濃さをまし、気付けばサスケは深い闇の中…。

 このままだとまたあの場所へ…あいつのところへ行きついてしまう…

「くっ!」

 自分でも気づかぬままに駆けだす。

 だが、もうサスケには分かっていた。

 無駄だということが…

 それでも逃げねばならなかった。

 あそこにだけは行きたくない…!

 その恐怖がサスケを支配してゆく。

 「うわっ!」

 不意に何かに(つまづ)き転ぶ。

 それが何なのかも、もう分かっている。

 何度も見た夢だ…

 同じうちは一族の…動かなくなった誰か…

 闇の中にいるはずなのに、点々といくつもの場所に人が倒れているのがはっきりと見える。

 中には見知った顔も…

 「やめてくれ…」

 俺はいつまで…いつまでこの夢に…あの日の恐怖に怯えて生きなければならないんだ!

 この闇に…出口は…ないのか…

 サスケは立ち止まり、目を固く閉じる。

 そしてもうすぐ聞こえてくるであろう声を拒否するように、両手で耳をふさいだ。

 無駄だとわかっていながら…

 

 

 -- サスケ --

 

 

 その声は頭の中に直接響く…

 「くっ」

 もう…もうやめてくれ…

 

 

 -- サスケ --

 

 

 「もう俺の中に入ってくるなぁ!」

 俺は…俺にはもう…あいつらが……

 

 

 ふと、声が聞こえなくなる。

 恐る恐る目を開けると、そこには大きな扉があった…

 あの扉だ…

 「やめろ…だめだ」

 腕が勝手に扉へと伸びる…。

 この扉を開けたら、俺はまた闇に染まる…

 もう…いやだ…あの恐ろしく冷たい孤独の中に堕ちるのは…!

 

 

 カチャリ…と、ゆっくりと扉が開いてゆく。

 「くそ!目を覚ませ!」

 自分に向かって叫ぶ。

 この扉の向こうには…あいつが……イタチが!

 サスケの意思に反して、扉がギィッと嫌な音を立てて開ききる。

 「っく」

 サスケは目をつぶり、顔をそむける。

 あの目を見たら…終わりだ…

 

 

 -- サスケ --

 

 

 「う…」

 助けてくれ…

 サスケの中にある人物が浮かぶ…

 と、次の瞬間。

 

 

 -- サスケ --

 

 

「………っ?」

 

 

 再び聞こえたその声は、イタチの声ではなかった。

 サスケはゆっくりと目を開ける。

 誰かが闇の中にたたずんでいるが顔が見えない。

 しばらくして、その人物の後ろからゆっくりと光が差し込む…。

 そのまぶしさにサスケは目を細める。

 そして次第にその顔が見えてきた。

 そこにいたのは…

 「…カカシ…」

 驚き呆然とするサスケの前で、カカシが笑っている。

 「なんで…ここに…」

 「なんでって…当たり前だろ。

 お前がここにいるなら、オレだっているさ」

 その後ろからまた誰かが顔を出す。

 「サスケ君、私も~」

 「サクラ…」

 「早く来いってばよ、サスケェ!」

 「ナルト…」

 サスケの心が震えていた。

 あの扉の向こうに、イタチ以外の誰かがいるなんてことを、想像した事がなかった。

 自分には復讐以外に生きる道はないと…

 「いいのか…」

 言葉が零れ落ちた。

 俺は…別の道を…選べるのか…

 それが許されるのか…

 だが、サスケはその場に縛り付けられたように動けなかった。

 選びたい…だが、選べない…

 あの日の苦しみは…あの憎しみは…消えない…消えてくれない…。

 「行けない…足が…動かないんだ…。

 俺は…行けない…」

 「サスケ」

 カカシの声が響いた。

 「お前はどうしたい」

 「っ!」

 はじかれたように顔を上げる。 

 カカシの手が、サスケに向かって差し出された。

 「カカシ…俺は…」

 自分の手を見つめる。

 「サスケ」

 いつのまにか、カカシはすぐ近くにいた。

 「俺は…っ!」

 サスケは…差し出されたその手を…取った。

 「サスケ、お前はオレ達と共に生きろ」

 カカシのその声と同時に、何かに引きずり込まれるような感覚に陥り、サスケは目をつぶった。

 そして、次に目を開けた時、サスケの目に映ったのは、心配そうなカカシとソラの顔…。

 「お、起きたかサスケ」

 サスケはゆっくりと体を起こし、カカシを見る。

 「カカシ…」

 次の瞬間、サスケの瞳から大きな涙が零れ落ちた。

 それはとめどなく…ぽたぽたと溢れ続ける。

 「え?サスケ君…ちょ…なに?どうしたの…どこか痛む?」

 驚いて声をあげたソラに、サスケは首を横に振りながら、声を絞り出す。

 「う…カカ…シ…。俺は…いいのか…あんたと…あいつらと…」

 「サスケ…お前…」

 「俺は…俺は…っ…」

 拭うその手が追い付かないほどあふれ出る涙。

 いったいどんな夢を見ていたのか…カカシにはすべては分からない。

 だが、サスケにとって大切なものが見えたのであろうことは想像できた。

 「いいんだよ…それで…いいんだ…」

 カカシはそっとサスケを抱きしめる。

 その腕の中で、サスケは必死に声をこらえる。

 「っ…うぅ…」

 本当なら声をあげて泣きたいだろう…

 だが、忍としての覚悟がある者に、それは許されない。

 「あなたは立派な忍ね」

 カカシの後ろから流れてきたソラの言葉が、サスケの胸に落ち着きを取り戻させたのか、次第に呼吸が整ってきた。  

 「大丈夫か?」

 「ああ…」

 カカシの言葉に小さくうなずき、ソラに手渡された水を気まずそうに飲む。

 「サスケ君、腕の調子はどう?」

 サスケは左腕を動かして確認する。

 「大丈夫だ。痛みはほとんどない」

 「よかった。

 でも、念のためこれを…」

 ソラがサスケの左腕をとり、包帯を巻いていく。

 「この包帯には、カカシがあなたのために調合した薬を塗りこんであるの。

 これを巻いておけば、千鳥の影響で傷を負っても、痛みや症状を少しは軽減できると思う」

 サスケは小さく頷く。

 「激しい戦いになるだろうから、包帯をベルトで固定しておくわね。

 そらから、足も…。

 あの技は足にも負担が大きいから…」

 左手と両足に巻かれた包帯の上から、ソラは黒いベルトを要所要所に巻き、パチンとボタンを留める。

 「普段の腕の感覚と少し違うから、千鳥を使うときはボタンをはずして、ベルトを緩めるといいわ」

 「わかった」

 腕を動かして動きを再確認し、ベッドから立ち上がる。

 「早く会場に…」

 しかし、すぐにふらつく。

 「おっと」

 手を出して支えるカカシ。

 「もう少し…だな」

 そっとベッドに座らせる。

 「くそ…!今、何時だ?」

 「13時20分。ちょうど第一試合…ナルトの試合の最中か、終わったころか…」

 サスケの試合は次だ…。

 その表情には焦りが浮かんでいる。

 「心配するな、お前の試合は各国の影たちも注目している。

 そうそう失格にはならんだろうよ」

 それに、よほどのことがない限り、大蛇丸がそうさせないだろうからな…。

 「私、様子を見てくるわ」

 不安そうなサスケを見て、ソラが言う。

 「悪いね。頼むよ。…あ、それから…」

 「ナルト君…ね」

 「ああ」

 カカシの言葉に頷き、ソラは印を組み、さっと姿を消す。

 「瞬身…じゃない…。今の印…」

 サスケがつぶやく。

 「飛雷神だよ」

 「なっ…」

 二代目火影が考案し、四代目が得意としていた術…

 「一人で使える忍がいたのか?」

 サスケが驚愕する。

 上忍の中に使える者は数人いるが、何人かの力を合わせなければ発動することができない、かなりの高等忍術だ。

 「いったい何者なんだ…」

 「オレと同じ、ミナト先生の弟子だよ。

 お前が言ったように、今この里で一人であの術を使えるのはソラだけだ。

 一日2回が限度らしいけどね。

 使用するチャクラの量が半端じゃないからな。

 ちなみに、飛雷神だけじゃなくて、かなりの水遁の使い手だよ」

 「なんで…薬屋やってるんだ…?

 医療忍術…水遁…その上…飛雷神…。

 それだけの力があるなら最前線で戦えるだろ…」

 「ま…色々あってね…」

 含みのあるカカシのその言葉と同時にソラが部屋に戻る。

 …が、勢い余ってバランスを崩す。

 「わ…っととと……きゃ!」

 そして本棚に向かって倒れ込んだ。

 …バサバサ…っと何冊かの本がソラの上に落ちる。

 「大丈夫か、ソラ!」

 「いてて…」

 「なにやってんだ…相変わらずだな…」

 カカシがソラの手を取り、立ち上がらせる。

 「はは…これ久しぶりだから。

 …それより、試合は大丈夫よ」

 軽く服装を整えながら、サスケに向き直る。

 「あなたの試合は最後に回されていたわ。

 あと30分か40分くらいは大丈夫そうね」

 「そうか…」

 「よかったな、サスケ」

 「ああ」

 安堵してすぐにハッとしたように声をあげる。

 「ナルトはっ?」

 「勝ってたわよ」

 「あいつ…」

 「ネジに勝つとはね…」

 カカシの言葉を聞き、サスケは窓の向こう…会場のほうを見やる。

 その瞳には試合に向けての意気込みが見える。

 「次は、お前だな」

 ポンッと頭に手を置くカカシ。

 「ああ」

 サスケは力強く答えた。

 「んじゃまぁ、今のうちに飯にするか」

 「あ、手伝うわ」

 部屋を出るカカシにソラが続く。

 そして、台所に並びサンドイッチを作りながら、カカシはサスケに聞こえないよう少し声を落とし、視線を向けぬまま真剣な表情で口を開く。

 「ソラ、状況は聞いてるな」

 「ええ」

 少し緊張した面持ちで頷くソラ。

 「私は今日アカデミー生の避難にあたることになってる」

 「そうか。

 …気をつけろよ」

 「あなたも…」

 不安を隠し切れないその瞳に、カカシはいつもの笑みを向けた。

 「心配するな。

 やつの好きにはさせないよ」

 …里も…サスケも…

 カカシは自身に固くそう誓った。

 

 

 食事を済ませ、少し体を休めてから、二人はいよいよ本戦会場へと向かおうとしていた。

 時刻は14時少し前。

 「行けるか?」

 そう問うカカシに、サスケは頷いた。

 「ああ。体が軽い」

 軽く跳ねて体を動かす。

 そしてソラを見て、照れながらではあるが、しっかりとした声で言う。 

 「あんたのおかげだ…ありがとう…」

 ソラは優しく微笑んで返す。

 「どういたしまして」

 そんなサスケを見て、カカシはフッと笑った。

 …サスケ…変わったな…

 「よし、行くぞ」

 「ああ」

 頷き、部屋を出る。

 玄関のドアを開けると、青い空と太陽がまぶしく輝いていた。

 「ソラ、行ってくる」

 「うん。行ってらっしゃい。サスケ君も。」

 サスケが頷きを返し、背を向け足を踏み出す二人。

 「カカシ!サスケ君!」

 背中にかかったその声に同時に振り向く。

 そこには満面の笑みを浮かべたソラ…

 「勝ちなさい!」

 その言葉に、二人は力強い笑顔で声をそろえた。

 「任せろ!」

 そしてカカシの瞬身の術で姿を消した。

 

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