中忍試験…本選当日…
いまだ目を覚まさないサスケのそばで、カカシは椅子に座り本を読んでいた。
ソファの上では、サスケの治療にかなり疲労したのか、ソラもまだ眠っている。
時間は11時。
「そろそろ起きろよ~サスケ」
しかしその声に目を覚ましたのは、サスケではなかった。
「カカシ…」
「ん?ソラ、目が覚めたか」
「ごめん…寝ちゃった」
「構わないよ」とカカシは本を閉じる。
「サスケ君は?」
二人でサスケを覗き込む。
「お前の薬が効いたようだ。
熱はすっかり下がってるよ」
ソラがそっとサスケの頬に触れ、笑みをこぼす。
「うん。大丈夫そうね。
よかった…」
「腕もすっかり良くなったみたいで…本当に助かったよ」
「どういたしまして」
ソラが少しおどけた仕草で頭を下げる。
「あとは目覚めるのを待つばかりね…」
本選開始まであとわずかだ…
「ああ」
二人の視線の先では、夢を見ているのかサスケが時折表情を変える。
「…サスケ」
…またあの夢を見ているのか…
カカシはサスケの頭を撫でながら、自分がその夢の中へ助けに行ければ…と思わずにはいられなかった。
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何もない広い空間に、サスケは一人佇んでいた…。
「ここは…」
辺りをゆっくりと見回す。
次第に霧が出始め、少しずつ黒く色づいてゆく。
「……っ!」
サスケはギクリとした。
「また…」
あの夢だ…
一歩後ずさり、出口を探すように視線を慌ただしく移動させる。
しかし、抜け出せる道は…ない…
辺りの霧はどんどん濃さをまし、気付けばサスケは深い闇の中…。
このままだとまたあの場所へ…あいつのところへ行きついてしまう…
「くっ!」
自分でも気づかぬままに駆けだす。
だが、もうサスケには分かっていた。
無駄だということが…
それでも逃げねばならなかった。
あそこにだけは行きたくない…!
その恐怖がサスケを支配してゆく。
「うわっ!」
不意に何かに
それが何なのかも、もう分かっている。
何度も見た夢だ…
同じうちは一族の…動かなくなった誰か…
闇の中にいるはずなのに、点々といくつもの場所に人が倒れているのがはっきりと見える。
中には見知った顔も…
「やめてくれ…」
俺はいつまで…いつまでこの夢に…あの日の恐怖に怯えて生きなければならないんだ!
この闇に…出口は…ないのか…
サスケは立ち止まり、目を固く閉じる。
そしてもうすぐ聞こえてくるであろう声を拒否するように、両手で耳をふさいだ。
無駄だとわかっていながら…
-- サスケ --
その声は頭の中に直接響く…
「くっ」
もう…もうやめてくれ…
-- サスケ --
「もう俺の中に入ってくるなぁ!」
俺は…俺にはもう…あいつらが……
ふと、声が聞こえなくなる。
恐る恐る目を開けると、そこには大きな扉があった…
あの扉だ…
「やめろ…だめだ」
腕が勝手に扉へと伸びる…。
この扉を開けたら、俺はまた闇に染まる…
もう…いやだ…あの恐ろしく冷たい孤独の中に堕ちるのは…!
カチャリ…と、ゆっくりと扉が開いてゆく。
「くそ!目を覚ませ!」
自分に向かって叫ぶ。
この扉の向こうには…あいつが……イタチが!
サスケの意思に反して、扉がギィッと嫌な音を立てて開ききる。
「っく」
サスケは目をつぶり、顔をそむける。
あの目を見たら…終わりだ…
-- サスケ --
「う…」
助けてくれ…
サスケの中にある人物が浮かぶ…
と、次の瞬間。
-- サスケ --
「………っ?」
再び聞こえたその声は、イタチの声ではなかった。
サスケはゆっくりと目を開ける。
誰かが闇の中にたたずんでいるが顔が見えない。
しばらくして、その人物の後ろからゆっくりと光が差し込む…。
そのまぶしさにサスケは目を細める。
そして次第にその顔が見えてきた。
そこにいたのは…
「…カカシ…」
驚き呆然とするサスケの前で、カカシが笑っている。
「なんで…ここに…」
「なんでって…当たり前だろ。
お前がここにいるなら、オレだっているさ」
その後ろからまた誰かが顔を出す。
「サスケ君、私も~」
「サクラ…」
「早く来いってばよ、サスケェ!」
「ナルト…」
サスケの心が震えていた。
あの扉の向こうに、イタチ以外の誰かがいるなんてことを、想像した事がなかった。
自分には復讐以外に生きる道はないと…
「いいのか…」
言葉が零れ落ちた。
俺は…別の道を…選べるのか…
それが許されるのか…
だが、サスケはその場に縛り付けられたように動けなかった。
選びたい…だが、選べない…
あの日の苦しみは…あの憎しみは…消えない…消えてくれない…。
「行けない…足が…動かないんだ…。
俺は…行けない…」
「サスケ」
カカシの声が響いた。
「お前はどうしたい」
「っ!」
はじかれたように顔を上げる。
カカシの手が、サスケに向かって差し出された。
「カカシ…俺は…」
自分の手を見つめる。
「サスケ」
いつのまにか、カカシはすぐ近くにいた。
「俺は…っ!」
サスケは…差し出されたその手を…取った。
「サスケ、お前はオレ達と共に生きろ」
カカシのその声と同時に、何かに引きずり込まれるような感覚に陥り、サスケは目をつぶった。
そして、次に目を開けた時、サスケの目に映ったのは、心配そうなカカシとソラの顔…。
「お、起きたかサスケ」
サスケはゆっくりと体を起こし、カカシを見る。
「カカシ…」
次の瞬間、サスケの瞳から大きな涙が零れ落ちた。
それはとめどなく…ぽたぽたと溢れ続ける。
「え?サスケ君…ちょ…なに?どうしたの…どこか痛む?」
驚いて声をあげたソラに、サスケは首を横に振りながら、声を絞り出す。
「う…カカ…シ…。俺は…いいのか…あんたと…あいつらと…」
「サスケ…お前…」
「俺は…俺は…っ…」
拭うその手が追い付かないほどあふれ出る涙。
いったいどんな夢を見ていたのか…カカシにはすべては分からない。
だが、サスケにとって大切なものが見えたのであろうことは想像できた。
「いいんだよ…それで…いいんだ…」
カカシはそっとサスケを抱きしめる。
その腕の中で、サスケは必死に声をこらえる。
「っ…うぅ…」
本当なら声をあげて泣きたいだろう…
だが、忍としての覚悟がある者に、それは許されない。
「あなたは立派な忍ね」
カカシの後ろから流れてきたソラの言葉が、サスケの胸に落ち着きを取り戻させたのか、次第に呼吸が整ってきた。
「大丈夫か?」
「ああ…」
カカシの言葉に小さくうなずき、ソラに手渡された水を気まずそうに飲む。
「サスケ君、腕の調子はどう?」
サスケは左腕を動かして確認する。
「大丈夫だ。痛みはほとんどない」
「よかった。
でも、念のためこれを…」
ソラがサスケの左腕をとり、包帯を巻いていく。
「この包帯には、カカシがあなたのために調合した薬を塗りこんであるの。
これを巻いておけば、千鳥の影響で傷を負っても、痛みや症状を少しは軽減できると思う」
サスケは小さく頷く。
「激しい戦いになるだろうから、包帯をベルトで固定しておくわね。
そらから、足も…。
あの技は足にも負担が大きいから…」
左手と両足に巻かれた包帯の上から、ソラは黒いベルトを要所要所に巻き、パチンとボタンを留める。
「普段の腕の感覚と少し違うから、千鳥を使うときはボタンをはずして、ベルトを緩めるといいわ」
「わかった」
腕を動かして動きを再確認し、ベッドから立ち上がる。
「早く会場に…」
しかし、すぐにふらつく。
「おっと」
手を出して支えるカカシ。
「もう少し…だな」
そっとベッドに座らせる。
「くそ…!今、何時だ?」
「13時20分。ちょうど第一試合…ナルトの試合の最中か、終わったころか…」
サスケの試合は次だ…。
その表情には焦りが浮かんでいる。
「心配するな、お前の試合は各国の影たちも注目している。
そうそう失格にはならんだろうよ」
それに、よほどのことがない限り、大蛇丸がそうさせないだろうからな…。
「私、様子を見てくるわ」
不安そうなサスケを見て、ソラが言う。
「悪いね。頼むよ。…あ、それから…」
「ナルト君…ね」
「ああ」
カカシの言葉に頷き、ソラは印を組み、さっと姿を消す。
「瞬身…じゃない…。今の印…」
サスケがつぶやく。
「飛雷神だよ」
「なっ…」
二代目火影が考案し、四代目が得意としていた術…
「一人で使える忍がいたのか?」
サスケが驚愕する。
上忍の中に使える者は数人いるが、何人かの力を合わせなければ発動することができない、かなりの高等忍術だ。
「いったい何者なんだ…」
「オレと同じ、ミナト先生の弟子だよ。
お前が言ったように、今この里で一人であの術を使えるのはソラだけだ。
一日2回が限度らしいけどね。
使用するチャクラの量が半端じゃないからな。
ちなみに、飛雷神だけじゃなくて、かなりの水遁の使い手だよ」
「なんで…薬屋やってるんだ…?
医療忍術…水遁…その上…飛雷神…。
それだけの力があるなら最前線で戦えるだろ…」
「ま…色々あってね…」
含みのあるカカシのその言葉と同時にソラが部屋に戻る。
…が、勢い余ってバランスを崩す。
「わ…っととと……きゃ!」
そして本棚に向かって倒れ込んだ。
…バサバサ…っと何冊かの本がソラの上に落ちる。
「大丈夫か、ソラ!」
「いてて…」
「なにやってんだ…相変わらずだな…」
カカシがソラの手を取り、立ち上がらせる。
「はは…これ久しぶりだから。
…それより、試合は大丈夫よ」
軽く服装を整えながら、サスケに向き直る。
「あなたの試合は最後に回されていたわ。
あと30分か40分くらいは大丈夫そうね」
「そうか…」
「よかったな、サスケ」
「ああ」
安堵してすぐにハッとしたように声をあげる。
「ナルトはっ?」
「勝ってたわよ」
「あいつ…」
「ネジに勝つとはね…」
カカシの言葉を聞き、サスケは窓の向こう…会場のほうを見やる。
その瞳には試合に向けての意気込みが見える。
「次は、お前だな」
ポンッと頭に手を置くカカシ。
「ああ」
サスケは力強く答えた。
「んじゃまぁ、今のうちに飯にするか」
「あ、手伝うわ」
部屋を出るカカシにソラが続く。
そして、台所に並びサンドイッチを作りながら、カカシはサスケに聞こえないよう少し声を落とし、視線を向けぬまま真剣な表情で口を開く。
「ソラ、状況は聞いてるな」
「ええ」
少し緊張した面持ちで頷くソラ。
「私は今日アカデミー生の避難にあたることになってる」
「そうか。
…気をつけろよ」
「あなたも…」
不安を隠し切れないその瞳に、カカシはいつもの笑みを向けた。
「心配するな。
やつの好きにはさせないよ」
…里も…サスケも…
カカシは自身に固くそう誓った。
食事を済ませ、少し体を休めてから、二人はいよいよ本戦会場へと向かおうとしていた。
時刻は14時少し前。
「行けるか?」
そう問うカカシに、サスケは頷いた。
「ああ。体が軽い」
軽く跳ねて体を動かす。
そしてソラを見て、照れながらではあるが、しっかりとした声で言う。
「あんたのおかげだ…ありがとう…」
ソラは優しく微笑んで返す。
「どういたしまして」
そんなサスケを見て、カカシはフッと笑った。
…サスケ…変わったな…
「よし、行くぞ」
「ああ」
頷き、部屋を出る。
玄関のドアを開けると、青い空と太陽がまぶしく輝いていた。
「ソラ、行ってくる」
「うん。行ってらっしゃい。サスケ君も。」
サスケが頷きを返し、背を向け足を踏み出す二人。
「カカシ!サスケ君!」
背中にかかったその声に同時に振り向く。
そこには満面の笑みを浮かべたソラ…
「勝ちなさい!」
その言葉に、二人は力強い笑顔で声をそろえた。
「任せろ!」
そしてカカシの瞬身の術で姿を消した。