巨大な大陸の東の端。太古の自然が残るこの地は古くから温泉村としてひっそりと栄えていた。この地から湧き出る水は入る人の体を癒し、古傷を治し、噂では不治の病をも完治させたとも伝えられている。それ故に遠方からはるばるやってくる人が後を絶えない。これだけ見ると温泉一つで村を大きくすることもできたが、自然と共存する、という古くからの決まり事を守りつづけてきた。ここをよく好んでやってくる国のお偉いさん方も理解してくれたこともあり、この「ユクモ村」は昔からそうして成り立ってきた。
だが、ただ自然と隣り合わせになっていたわけではない。時に自然は自分たちに牙をむく。この世界には獣の上に立つ存在がいる。モンスター、沢山種類があるためそれらの総称として呼ばれている。モンスターはそのほとんどが生態系の頂点に君臨し、その猛威は人間にとって脅威である。ユクモ村だけでなく、この大地にある村、街、都市は幾度となくその脅威にさらされてきた。
それらに対抗する人たちがいた。モンスターに関わる仕事を生業とし、非力な人のためにモンスターのいる土地へ赴き、人々の脅威となる存在を狩る人達。中にはたった1人で、都市を飲み込むほどの巨大なモンスターやかつて神と崇められた存在をも打倒する。
人々は彼らを敬意をもってこう呼ぶ。
『モンスターハンター』と。
ユクモ村の温泉宿の隣にある一軒家。そこは代々ユクモ村に住むハンターの家である。
「お婆ちゃん! お婆ちゃん! あの御話聞かせて!」
まだ10歳手前の少年は居間に座る一人の老婆にしがみつく。
「なんだい? ま~た聞きたくなったのかい?」
「うん! みんなも聞きたいって」
外を見ると村の子供たちがこちらに顔を見せている。よっぽど聞きたいのだろう。まあ無理もない。この子たちが聞きたいのはかつてこの村に実際にあった英雄のお話なのだから。
「しょうがないねぇ。外は寒いだろう? さ、中に入って」
老婆の言葉に皆笑顔で入ってくる。老婆の前にきれいに並び集まる。老婆は持ってきた道具を取り出す。何枚も描かれた絵を並べ収めたそれは紙芝居みたいな物と思ってもらえれば分かりやすいだろう。
「さあ、さあ。良い子の諸君。今から話すのはこの村に本当にあったことだよ」
『そんなの知ってるよー』
『はやくはやく~』
「そう急かすんじゃないよ。こういうのは始まりが胆なんだ。それでは『蒼光の武士』はじまり~はじまり~」
昔、昔。ユクモ村に1人の男が運ばれてきました。
その男は不思議な人でした。見たことない、伸び縮みする服を着ていました。
目が覚めましたが言葉が通じません。男はまず言葉を学びました。
ようやく話せるようになり、男は自分の正体を話しました。驚くことに男は違う世界からやってきたというのです。
誰も男の話を聞きませんでした。ですが、その中で1人だけ信じた人がいました。彼を村まで運んだハンターさんです。彼は面白い話が大好きで男を気に入りました。
ハンターさんの家に泊まることになった男は恩返しに彼のお世話をして暮らすようになりました。ハンターさんは家事がまるっきりダメでまだ幼い娘がやっているのを手伝うのがに仕事になりました。また、男はハンターさんから狩猟の手解きを教わります。
そんなある日、渓流に出かけたハンターさんがモンスターとの闘いに敗れ、亡くなりました。男は話を聞くや否や、1人渓流へと走りました。村人たちも遅れて彼を追います。辿り着くと、そこにはハンターさんの仇を仕留め、1人男は大声で泣いていました。恩を返せなかったと泣き続けました。
ハンターさんを弔ったあと、男が新しい村のハンターになりました。幼かった娘も成長し男の指導のもと、一人前のハンターへと成長していきます。ギルドから新たなハンターを要請し、3人でやっていきました。
それから何年かたったある日。村にある異変がおこります。
霊峰を住処とする雷狼龍ジンオウガが村にほど近い渓流に出てきたのです。3人は力を合わせて追い払います。が、ジンオウガの力は強大です。追い払うことは出来たものの3人は酷く疲れました。
それから、3人はジンオウガを調べ始めます。物陰に隠れ、一体何を食べているのか?寝床としている場所はどこか? ジンオウガに見つからないように行動します。ジンオウガは彼らに気づかず、霊峰を見、遠吠えをあげています。何故か、男にはその姿が悲しそうに移りました。
ジンオウガとの戦いは苛烈を極め、半年の月日を経て、倒すことができました。
村はお祭り騒ぎ、誰もが喜ぶ中。男だけが首をかしげました。
「川の様子がおかしい」
男は言います。いつもより水の量が多かったのです。あのジンオウガも霊峰の山頂を住処にし村の近くまで降りてくることは今までありませんでした。今も霊峰は雲に隠れています。
すべての原因は山頂にある。そう確信した男は皆に黙り1人山頂へと登ります。山頂に近づくにつれて雨風が激しさを増していきました。そして、彼は目にしたものに驚きました。
そこには今まで見てきたモンスターよりもさらに大きい何かがいました。2本の角、薄い白銀の羽衣を纏い、その巨体で翼がないのに宙に浮いている。
古龍種:嵐龍アマツマガツチ
古来より神と崇められていたモンスターだった。
すぐさま山を下りた男は村にこのことを伝える。村でも異変が起きていた。川が氾濫していたのである。このままでは村は流されてしまう。
「アマツマガツチを討伐する」
男の言葉に村の誰もが止めた。しかし男の決心は変わらない。それを見て誰かが言った。
どうしてそんなことをするのか?
男は曇り一つない瞳で答えた。
「この村が好きだ。村の皆が好きだ。この村で関わった全部好きだ。ハンターのおっさんもこの村が大好きだった。俺はおっさんに何一つおっさんに恩を返せなかった。だから、おっさんが大好きなこの村を守る。それが―――俺のできる恩返しだ」
男の決意に村の皆は押し黙まった。
戦う準備を始めます。そして、男は武具を身に着けます。
それは、自分たちが打ち取ったジンオウガの素材から作られた武具。ユクモ地方に伝わる古の兵士たちの武具を参考に作られた装備。その姿はあの雷狼龍の輝きを取り込みうっすらと輝いていた。妹弟子と仲間のハンター2人も準備を終えていた。2人も男と同じ思いだった。ギルドの援助の元、山頂に近い場所まで気球で移動する。彼らを村人たちは心配そうに見つめていた。
そして始まったアマツマガツチとの闘いは壮絶なものとなった。口から放たれる水弾は土をえぐり、その巨体ゆえただ移動するだけでもぶつかると脅威となる。3人は長年の経験を最大限に生かし戦う。
ついにアマツマガツチの怒りが頂点に達した! 白銀の羽衣は黒く染まり赤い模様が浮かぶ。嵐がさらに強くなる。打ち付ける雨粒は滝のように降り注ぐ。それでも3人は攻撃をやめない。愛する村を守るために。竜巻を掻い潜りその衣を斬りおとしていく。
アマツマガツチが風を集め始めた。嵐龍を中心に竜巻が起こり周りにあるものを吸い込んでいく。3人が踏みとどまる。が、妹弟子が足を滑らせた。ヘビィボウガンだったため地面に固定できるものを持っていなかったのがまずかった。肉裁き用のナイフを地面に刺すがどんどん吸い込まれていく。
動いたのは男だった、地面に突き刺した大太刀を抜き一直線に走る。妹弟子の前に突き刺す。これに捕まれ。2人太刀にしがみつくも吸い込む力が強すぎる。吸い込む力が大きすぎる。このままでは太刀が抜けて2人ともやられてしまう!
またしても動いたのはあの男だった。妹弟子のナイフと取り、アマツマガツチへと走る。嵐龍が笑った。大回転と共に大竜巻が生まれる。男は天高く吹き飛ばされた!
まだだ!
男は諦めていなかった。天地真っ逆さまとなり落ちていく体の体勢を直し、両腕を広げる。アマツマガツチは気流を身に纏い動いている。なら、体を曲げることで落下する動きを変えることができるはずだ! 手のひらを動かし、わずかに空気の動きを変えることで軌道を変える。当の嵐龍は地面にいる2人に気を向けてこちらに気が付いていない。男はナイフを構え―――嵐龍に突き刺した!
落下の衝撃も合わさり、突然の上からの攻撃に耐え切れず地面に叩きつけられる。その間にもナイフは双剣の如く舞い、嵐龍の体を切り刻む。それに黙っているアマツマガツチではない。男を振り落とそうと必死に暴れる。
仲間のハンターが男を呼ぶ。彼はバリスタの射出機にいた。何をするか察した男は嵐龍から飛び降りる。ワイヤー付きのバリスタを放つ。体中に刺さり、嵐龍は地面に縫い付けられる。
(今しかない!)
男は大太刀:王牙刀【伏雷】 を拾い、嵐龍へと走り、奔り、疾る。
アマツマガツチは暴れ、ワイヤーをちぎりった。
すでに必殺の間合いまで近づいていた。
右斜めから振り下ろした太刀はアマツマガツチの左目を切り裂き、その刃が深々と刺さり電撃が生まれる。その雷光はかつての雷狼龍の一撃か。全身に回るそれを浴びて嵐龍は断末魔の叫びをあげる。
バタンと倒れる巨体。嵐龍は完全に事切れていた。山頂を覆っていた分厚い雲が散り、日の光が顔を見せる。嵐龍アマツマガツチを倒した。それを実感するには十分すぎる証拠だった。歓喜を雄たけびを上げる。自分たちは村を救ったのだと。
だが、それを他所に少しだけ不思議な事が起こった。一部、霞が晴れない場所があったのだ。不思議に思いその場所に近づく。靄がかかるその向こうには見たことない光景が広がっていた。天高くそびえ立つ摩天楼。鉄の馬、鉄の鳥、鉄の船。そこから見える風景は男の故郷。
男は武具から溢れるほどの涙を流す。故郷に帰れると。家族に会える。
妹弟子たちに別れを告げ、男は霞へと飛び込んだ。オトモのアイルーも主と共にするといい一緒に飛び込む。
霞が消える。異変を討伐した霊峰はかつての輝きを取り戻した。
そのころ、村はちょっとした騒ぎになっていた。あの男が関わった物がすべて失われていたのである。だが、人々の心に焼きついた記憶は消えることなく、村を救った男の英雄譚として語り継がれることとなる。最後の姿から村の者は男をこう呼ぶ。
『蒼光の武士』
と。
紙芝居を終え子供たちを見ると、日の光がよほど気持ちよかったのか皆気持ちよさそうに寝ていた。その光景に微笑み、老婆はふと外を見る。窓の外からはあのころと全く変わらない姿の霊峰が輝いている。
「あちらでも、元気にしてますかい……お兄さん」
彼の妹弟子だった彼女はふふっ、と微笑む。もう会うことない彼を懐かしく、思いを馳せるのであった。
広大な草原を3台の車が疾走していた。車体には『陸上自衛隊』の文字。
「怪獣と戦うのは自衛隊の伝統だけどよ! こんなところでおっぱじめることになるとわな! 倉田走れ走れ!」
「分かってるっすよおやっさん! いいから蹴らないで!」
自衛隊員たちは突如現れた赤い鱗のドラゴン―――炎龍に対し攻撃を加えていた。だが、12.8㎜弾を撃っても堅い鱗に弾かれる。そんな中、一台の車から一人の和風の服装をした男が飛び降りる。
「ちょっ! 危な―――っ!?」
周りに指示を出していた男性はそれを見て声を上げるも次の光景を見て驚きに息をのむ。飛び降りた男性はその2本の足で地面を滑り、しっかりと大地に立っていた。時速50㎞を超える速さの車から飛び降りたら普通は大ケガものだが、その男にとって大したことではない。鍛え上げた彼の体はそんなことで壊れるほど柔ではない。
「ニャン吉! ひたすら回復笛だ!」
「はいニャ!」
男の声に車に残った猫が返事を返す。
男は背中から折り畳まれたものを取り展開する。ガチャ!と開き弦がビィンと張る。腰にある筒から太さ2~3㎝もある太い矢を取り出し、隣の小さい筒に先を差し込む。出てきたのは手のひらよりも大きい矢じり。邪魔な日笠をとり、展開された弓、その名も霊弓ユクモ【破軍】を構える。狙うは自衛隊に気を引き付けられてる赤い龍。弦を引き絞る。
「喰らいなレウスモドキ」
今まさに火を噴こうとする口へ矢を放った。