特別地域の日本に繋がる門……アルヌスの丘に陣取る陸上自衛隊は5度目となる異世界軍の攻勢を退いた。それまで簡易的な塹壕やテントだったものを災害派遣の度に作ってきたプレハブ住宅の建物を建設し、少しずつ近代的な要塞へと変わっていく。その形は六芒星の形をしており日本人が見ると観光地の一つである五稜郭みたいと声が出るだろう。要塞化が進む外側の土地は先の攻防で死亡した異世界軍の死体が転がる。銀座事件の武器から相手の文明クラスは中世ヨーロッパに近いものと判明している。それに今まで空想の類でしかなかった生き物が存在していただけだ。だが、それを踏まえても銃火器相手には敵わなかった。闘いの上で間合いの長い武器があれば戦闘を有利に進められる。また、敵と距離を取ることで恐怖心を弱める効果もある。最初期の物ならまだしも発展した銃火器の前に異世界軍は成すすべもなかった。
死体の中にはワイバーンと呼ばれるドラゴンも横たわっている。人の死体の処理だけで手いっぱいなうえ、ワイバーンの死体は大きいため自衛隊の死体処理班たちはワイバーンはそのままほっとくことにしていた。
だが、1人だけワイバーンの死体に目を付けた男がいた。
何体目かもう忘れた龍の解体に入る。体の構造はユクモで狩ってきた龍とあまり変わらないためそんなに苦戦しない。鱗を一枚づつ爪も傷つかないように剥がしていく、甲殻の間にナイフを刺し肉を切りながら甲殻を取っていく。肉を筋の方向に合わせて裁いていき、骨まで到達したら一本一本丁寧に付着する肉を斬りおとす。ここまでが現場でできること。肉はもう腐っているから捨てる。鱗、甲殻、骨と分別した袋をトラックの荷台に載せる。
「お願いします」
「了解しました」
操縦する自衛官に出るようお願いする。自衛隊の迷惑を掛けたくないため運ぶのも自分1人でやりたかったが車の免許を持っていないため無理だった。特地だから大丈夫だろと反論したが、政府は特地は日本国内と言っているから違法、駄目だと突っぱねられた。
車に揺られること数分。ついた場所は新たにつくられた部署で入口には【特殊生物研究部】の立て札が掲げられている。とは言うものの実態は解体したドラゴンの素材置き場になっている。ここで持ってきた素材を洗い、乾かし、綺麗にする。ハンター家業で習った知識がここで生かされるとは思いもしなかった。そこでは数人の自衛官と一匹のネコが作業している。
「ご主人。お疲れさまだニャ」
「ニャン吉もな」
ワシャワシャと頭を撫でる。ハンター家業を始めるに際に契約を交わしたアイルーだ。
「もう戻ってきたのですか? まだ1時間も経ってませんよ」
「大きさの割に薄いから思ったよりも簡単に剥がれるんですよ」
一体を解体する速さに自衛官たちは驚きを隠せない。ドラゴンの大きさは個体差はあれどどれも一般的な自動車よりも大きい。体積で見ればゾウと同じか少し大きいはずだ。それを1時間もせずに解体することに驚いていた。おかげで仕事が終わらない。部屋に置いてある電話が鳴る。近くにいた自衛官が取り、少しのやり取りがあった後受話器を置いた。
「ジンさん。狭間陸将から出頭命令です。ニャン吉君も一緒にとのことです」
「分かりました。あとはお願いします」
「言ってくるニャ」
二人が出て行ったあと、残った自衛官たちは話し始める。
「やっぱり普通の日本人にしか見えないな」
「ですね。聞いた話だとマスコミからの取材やテレビの出演依頼が絶えないそうですよ?」
「皇居の目の前であれだけやったんだ。そりゃあ良くも悪くも注目されるだろ」
「世間じゃ『半蔵門の守護神』とか呼ばれてるそうだぞ」
自衛官たちはあの日のことを思い出す。ことの発端は銀座事件だ。
原因は不明だが、異世界との門が東京の銀座に繋がり、帝国軍の侵略を受けた。一般人の多大な死傷者を出しながらもこの件で『二重橋の英雄』と呼ばれるようになった陸上
自衛隊の自衛官“伊丹耀司”の活躍により市民たちを皇居へ避難させる。元が江戸城であるため城を守るために作られた堀池は守るに最適だった。まさか、400年前に作られたものが現代になって役に立つとは思いもしなかった。だが、逆に言えば逃げ場のない場所まで追い詰められたとも言える。入口である半蔵門を突破するため帝国軍が集まり戦闘が始まろうとしていたその時、間に割り込むように1人現れた。
青く蒼く輝く衣装。細部の形が違くともまるで現代に伝わる武者姿に芸術を取り込んだような姿。そのあまりの美しさに帝国軍側は息を呑んだという。それも数瞬の出来事、目覚めたように動き始める。兵士たちは剣を片手に我先にと彼に襲い掛かる。後の捕虜の話だと彼を高名な武人つまりは大将クラスの大物と思い込んだらしい。討ち取って名を上げろ! ということだ。異世界でも強い敵を討ち取った者には褒美があるのは共通らしい。自分が! 俺が! いや我こそが! と押し寄せる人の津波。それを目の前にしても彼は動じず、背中に背負う大太刀を手にかける。その時、走る歩兵たちより先に突撃した者がいた。空を飛んでいた竜騎兵の1人。手柄に目が眩んだためだった。突き出される長大な槍。その切先が顔面へと届きそうになり竜騎兵の顔がにやける。それが彼が最後に見た光景だった。
彼は少し重心をずらして槍を躱す。彼にとって……否、ハンター達から見れば竜騎兵の動きは緩慢で避けることなど容易かった。モンスターとの闘いは二手三手先の動きを読まないといけない。それが出来なければドスジャギィの取り巻きで大苦戦するだろう。後に聞こえるは風を斬る音。振り下ろした巨大な太刀はワイバーンごと竜騎兵を真っ二つにした。勢いは止まらず、竜騎兵の二つの体は中身をぶちまけながら石橋を転がり半蔵門に激突、ワイバーンの二つの体は両脇の堀へ落ちる。その所業を目の当たりにして歩兵たちの足が止まる。
相手が物凄く強い?―――敵の大将だ。そんなの当たり前である
ワイバーンを両断する大剣?―――魔法の剣だ。そんなものも存在するだろう
では、何が彼らを駆り立てたのか? それは根源的な恐怖。
人間の奥底に眠るまだ野を駆ける獣の一員だったころにあった感覚。こいつには勝てないと、自分は喰われるのだと、絶対的な相手を前にしたときに駆け巡る衝動。長らく失われていた感情を引きずり出された彼らは恐怖で身が震えていた。ここに年配の者がいたら炎龍に襲われた時と同じだと語っただろう。その姿に恐怖したんじゃない。兜の奥、黄色く光る双眼が巨大な狼の眼光を彷彿させ恐怖したのだ。
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――――――――!!!!』
腹の底から出る、まるで拡声器でも使ったかと思うほどの大きい声。発せられた咆哮が伝播する。
それに反応したのは人間ではなく異種族や動物たち。
馬たちは暴れ乗せている人を落とし、周りにいた兵士たちを踏みつぶし、ぶつかり合いながら逃げ出す。
オークたちは持っていた武器を手放し、括目し、歯をガチガチ鳴らして全身が震えだす。
ゴブリンたちは額から脂汗を噴き出し、咄嗟に声の出した人物の方を向いて身構える。
ワイバーンたちは威嚇の声を出し、一斉に騒ぎ出す。
各々の反応に帝国軍は混乱する。落馬で首の骨を折る将も少なからずいた。頭を失ったことによる部隊の統率力の低下。頭を失うことで大軍は烏合の衆と化す。歩兵たちは恐れて前に出ようとしない。
男が前に一歩進む。歩兵は後ろへ1歩退く。蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことを言うのだろう。
戦線が膠着するかに見えたが、帝国軍は攻め手を変えた。弓兵部隊による一斉攻撃。後方にいるまだ士気を挫かれていない部隊からの攻撃だ。突然の作戦変更に歩兵部隊の反応は遅かった。頭を失ったことでの情報伝達の低下も原因の一つ。味方の犠牲を厭わない矢が降り注がれる。逃げ遅れた歩兵たちを容赦なく味方の矢が貫く。中には攻城用の大型弩弓も含まれていた。矢の雨が終わる。攻城用の矢が石橋に刺さっている。事切れた歩兵の死体はハリネズミのよう。その中で立っていたのは蒼1人。攻城用の矢が直撃してもビクともせず、尚且つその鎧は傷一つ着かなかった。輝きを失わないその姿に帝国軍はどよめいた。味方ごと攻撃したことよりも自分たちが相対する敵に畏怖の念を抱かせた
ここでこの話は終わり。膠着状態に入ったところで、自衛隊が介入し事件は一応の幕を下ろすことになる。多くの屍の山を築くことになったこの事件で陸上自衛隊は門の向こう側へ進出することになる。そんな中ある噂が生まれた。皇居へと進軍する敵を1人の男が守ったという噂だ。あの後彼は自衛隊に保護され(刃物を持っていたため最初は逮捕という形で)一切の情報が規制された。初めはただの噂でしかなかったが、人の口に戸は立てられぬ、という諺があるように噂が噂を呼び拡大していく。やがて、場所が皇居ということもありいつしか男のことを『サムライ』と呼ぶようになった。
「ご主人の後を追ったら目の前死体だらけでびっくりだニャ」
「俺は最初から混乱しまくりだったぞ。目の前によく分かんない奴らいていきなり襲い掛かってくるんだからな。それに人殺したことがな……」
「あれは仕方ないニャ。ご主人はルール違反になってないニャ」
そういってもらえると少しだけ助かる。自分専用としてもらったプレハブ小屋で共にユクモS装備に着替える。狭間陸将のもとへ足を運んだ2人に依頼されたのは偵察隊の同行だった。理由は彼らが特地語を話せる少ない人物だからだ。最初から分かったわけじゃない。単語レベルで翻訳できてる特地語を短時間で且つ捕虜たちの会話を聞いて覚え習得した。ユクモで最初のころ苦労したことがあるためこの手の理解力は高かった。選んだ武器は弓。
「剣にしないニャ?」
「自衛隊は銃が主だからね。1人近接武器はやりずらいでしょ」
「ご主人ボウガンだけ苦手だったニャ」
「うるせー」
ギュッと紐を縛る。数ある装備の中で一番着こんだ物だ。
「ボクのバックまだ戻らないニャ?」
「あれはびっくりしたな。バックから家にあった物全部出てくんだから」
「4次元ポケットって聞くけど何ニャ?」
「日本が100年後に開発するタヌキの袋だよ」
「マジかニャ!? 日本のタヌキすごいニャ!」
装備を整えたジンは持っていく荷物を選別する。回復薬と携帯食料、対モンスター用に閃光玉、麻痺ビンを選び袋に詰める。麻痺さえできれば痺れさせる間に車のスピードで逃げられるだろう。支度を整えて家を出る。伝えられた集合場所に到着すると自衛官たちが集まりなんかしていた。
「じゃんけんぽん! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこ(ry」
なんか盛大にじゃんけんしていた。片方はやる気なさそう、というか顔を見て元からどこか抜けているあの人だった。
「何やってるニャ?」
「じゃんけんだ」
「何のためニャ?」
「分からん」
しばしあいこの応酬が続き、気が抜けた男に軍配が上がる。
「あ。勝った」
「いよっしゃああああああ!!!」
じゃんけんの勝敗を見ていたおそらく女性自衛官の中で一番胸がでかいであろう女性が雄叫びを上げる。なんだこれ。
「いやぁどの部隊も君をほしがってね。特地語が話せるのはアドバンテージあるから」
「なるほど。ということは自分は伊丹さんの部隊に決まったわけですか」
「そうなるね。早速で悪いけどニャン吉くんだけ栗の車に乗ってくれない? あいつ君と一緒になれなかったら後ろ玉するとか言うからさ」
伊丹が指さす。彼女はニャン吉を見てめちゃくちゃ目を輝かせている。
「何かちょっとこわいニャ……でも頑張ってくるニャ」
彼女が乗る車へ歩いていく。それを見送った2人は第3偵察隊の指揮者となる高機動車に乗る。ジンは吹き抜けになっている部分に立った。ここなら空も周囲も見やすい。何かが近づいてもすぐに見つけられるだろう。
「あー聞こえる? これより第3偵察隊はコダ村呼ばれる村がある方角に偵察するよ」
≪了解≫
≪了か「あーかわいいいいい!」「ニャ゛ー!傷物にされるニャ゛ー!」栗林うるさい!≫
伊丹二等陸尉の通信にもう2台の車両に乗る隊員から返事が来る。途中変な声が聞こえたような気がするが気にしない。
「それじゃ第3偵察隊出発!」
ジン・マツナガ(本名:松永仁)
29歳男性
日本人であり、幼いころモンスターハンターの世界に迷い込み、日本へ戻る。だが、とある理由で特地へ行くことni。連合諸王国軍の戦闘のときに現地入りした。ハンターだったころの癖が抜けず、転がっていたワイバーンの死骸を解体することに。顔はいたって普通。だが、戦うときはハンターの顔(イケメン)になる。
近接武器全般を使いこなせる。一番使うのは太刀。弓も使えるがほどほどで貫通はそれほどで同時に打てるのは2本までの技術しかない。ただし狙いは正確。
ボウガンは超が付くほど苦手。というかボウガンに嫌われていると思うほど使えない。攻撃弾が味方に、回復弾が敵へ飛ぶほど。
ユクモ時代で一般人から逸般人へ進化した。
ニャン吉
アイルー
ジンがハンターを始めるに当たり契約したアイルー。ブーメランと爆弾を武器にしている。大好物はこんがり魚。