コダ村に訪れた第3偵察隊は村の村長からいろいろなことを聞いていた。村の暮らしや収入、農業などの情報を集めていく。通訳のジンがいるだけあってスムーズに進んだ。見慣れない乗り物(車)に乗っている自衛隊たちに村の人たちが集まる。馬などの動力が無いのに動く不思議な乗り物と興味津々だ。乗せることは無理なため片言だが伝わる特地語で話す。言葉が通じる大人はいいが、車に興味津々な子供たちが乗ろうと車を守る自衛官たちのと攻防戦を繰り広げている。手荒な手段など出来ないし、相手が子供であるのもあって自衛官たちは大苦戦。いつの時代、違う世界であっても子供相手はとても苦労するのはどの世界も共通のようだ。村の男の子が集まるのに対し、村の女の子はアイルーのニャン吉に集まっていた。ネコなのに言葉を話し、二足歩行で歩くニャン吉に女の子たちは夢中だ。毛を撫でたりワシャワシャしたりとしている。それに対しニャン吉は気持ちよさそうに「くすぐったいニャ」と呟く。離れたところで栗林が残念そうにして周りの自衛官に慰められていた。一通り聞きたいことが終わった後、ジンは個人的に聞きたいことを質問する。
『村長さん。ここには軍の人が乗るドラゴンより大きいのがいますか?』
『なんじゃ? おぬしら古代龍も知らんのか?』
『東の果てから海を渡ってきたもので、ここの情報を知らないのです。情けない話で自分たちの故郷はドラゴンはいませんが、人間同士仲が悪いのです。毎日殺し合いしてます』
かなり曲解した紹介をしているが故郷=日本=地球だからあながち間違っていない。
『ずいぶん物騒な国じゃな……まあよい。龍の話じゃったな』
村長は龍について説明してくれた。
龍の分類は大きく4つ。
翼竜、飛龍、亜龍、新生龍そして古代龍
翼竜は軍隊で騎兵として飼われているワイバーン。野生と人に飼いならされた2種が存在する。ドラゴンの中で一番小さい種だ。凶暴だが、それでも龍のカテゴリーでは脅威度は低い。
古代龍は最上位の存在であり、古来より天災と見なされてきた。体も巨大でこの村を飲み込むほどではないが、仮に襲われたら口から吐く炎であっという間に火の海になるだろうとのことだ。聞いているうちに分かった。村長は実際に古代龍を見たことがある。
『失礼ですが、その龍を見たことがありますね?』
『う、何故わかったのだね?』
『話し方がまるでその目で見てきたように思えましたので』
『……………ああ。お前さんの言う通りじゃよ。今から50年前のことじゃ。儂がまだ子供だった頃に古代龍……炎龍に会ったんじゃ。その時は近くの森に両親と出かけてたこともあって難を逃れたのじゃが……一瞬の出来事じゃった。何もかも焼かれ、みーんな喰われちまった………』
『すみません……つらい記憶を思い出させてしまって』
『いいんじゃ。もう過ぎたことじゃ。それに次、炎龍が姿を現すまで後50年先だとカトー先生の言葉じゃ。今は安心じゃよ』
村長の言葉は落ち着いているが、声には哀愁が漂っていた。他の龍の種類や話に出てきたカトー先生のことを聞きたかったが、これ以上聞くのは無粋だと判断した。
『ありがとうございました。明日、またこの村に寄ります』
『お主たちもな。旅の無事を祈るよ』
村長に深くお辞儀し村を後にした。
コダ村を後にした第3偵察隊は一路、コダ村での情報収集で仕入れた森にある集落へと車を走らせていた。いくら中世ヨーロッパに近い文化であっても今彼らがいる場所は敵地。油断などせず、馬が走る速度と同じ速さで周囲を警戒しながら進んでいた。
「空が蒼いね。さすが異世界」
「こんなの北海道でもあるっすよ。もっとファンタジーな世界を想像してたのに。ケモ耳とかケモ耳とかケモ耳とか……」
高機動車の操縦を任されている倉田はぶつぶつと文句を言い始める。倉田は上空を警戒しているジン話を振る。
「ジンさんの世界は居なかったんですかケモ耳?」
「ケモ耳……?」
話を振られたジンは聞きなれない言葉に首をかしげる。
「ああ、犬とか猫とかの耳をもった人間ですよ。ニャン吉くんがいるならケモ耳も」
「いないな。自分の故郷は人間がほとんどで極少数に竜人族がいた」
いないのかぁ……と残念そうにつぶやく倉田をよそに伊丹が話を繋げる。
「竜人族っていうのは?」
「竜の血を受け継ぐ人間たちの一族。耳が長く尖がっているのが特徴。あと人によって鱗があったり、手足が竜だったりと様々だが理由はわからない。それ以外は俺たちと変わらない」
ジンの話に気を取り直したのか倉田はへー!と興味深そうに返事をする。今の時点でそれだけでもここよりそっちがファンタジーだ。
「おい。関係ない話はそこまでにしておけ。倉田、この先の小川を右折して川に沿って進め。その先の森がコダ村で聞いた集落がある」
「了解、おやっさん」
「伊丹二尉。意見具申します。森の手前でいったん野営しましょう」
「賛成」
「一気に行かなくていいんスか?」
「俺たち国民に愛される自衛隊だよ? そんな相手を威圧するような真似しちゃダメでしょ? それに他にもドラゴンがいることがコダ村の情報収集で分かったんだ。森に何があるか分かんないでしょ?」
「そういえば言ってましたね。確か古代龍でしたっけ? 火を吐くらしいですけど50年先のはずですよ?」
「用心に越したことはないでしょ。それに森に入ったら夜になっちゃうからね。俺たちの任務は現地の人との交流と情報収集。ハーツ&マインドでしょ」
「はぁ……」
運転席の会話を聞き流しながら、空を見渡す。雲はあるがほぼ快晴。見通しはいい。そのためか、それとも鍛えられた眼によるものか。進路先、地平線に小さい黒煙をすぐに見つけた。
「伊丹さん! 前方に煙!」
「え……全車停止!」
隊長である伊丹の号令一言で3台とも止まる。周囲を警戒し安全を確認してから車を降りた。双眼鏡を覗く。まだ距離があるから正確には分からないが、次の目的地である森が燃えていた。
「燃えてるね……火事かな?」
「森の中には集落があるんすよね。料理の火が燃え移ったんすかね?」
伊丹と倉田は思い思いの原因を口に出す。その時、後ろの車に乗っていたニャン吉がジンの元へ走り寄ってきた。
『ご主人ご主人。血の匂いだニャ』
慌てていたのかニャン吉はユクモ語で話した。ジンもユクモ語で返す。
『血? もしかしてあそこからか?』
『そうだニャ。血と肉の焼けた臭い、あと……何かいるニャ。リオレウス?リオレイにゃ? ごめんなさいニャ。知らない臭いだニャ』
『そうか。分かったありがとう』
状況を理解したジンは伊丹に言う。
「伊丹さん。あの森から血の匂いがするとニャン吉が言ってます」
「え!? 血!?」
「あと、ドラゴンのような臭いもあるそうです。おそらくですが、何かに襲われています」
血、ドラゴンの言葉に伊丹たちは顔を厳しくさせる。さっきまで古代龍の話をしていたせいで伊丹と倉田はフラグだったかと彼らなりの言葉を思い浮かべていた。とりあえず、もう少し近づいた後車を隠して、数名で草むらに隠れながら偵察することとなった。
「燃えてるね」
「燃えてますねぇ。これだけなら大自然の脅威なんすけど、ドラゴンどこ?」
森の手前、草原の盛り上がった場所でうつ伏せになり偵察する。ヘルメットには草原に生えている草をつけより隠密性を上げることも忘れない。
「……あそこだ。一番火の手が強いところ」
「あれはっ! 首一本のキングギドラか?」
双眼鏡を使っていないジンが最初に見つけた。次に見つけたおやっさんこと桑原曹長が日本人がよく知る怪獣の名前を出す。伊丹たちもドラゴンを発見した。飛び立ったドラゴンは地面へ炎を吹き森を燃やしていく。
「あれはエンシェントドラゴンて言うんですよ にしてもデカいな。ワイバーンが小鳥に見えるよ」
「コダ村で聞いた古代龍ですかね?」
「分からない。そこんところはどう思う?」
伊丹はジンに話を振る。
「あれが古代龍かは現時点ではわからない。だが、大きな体と火を吐くという点は一致する」
百聞は一見に如かずという諺があるように、聞いただけの彼らには目の前のドラゴンが例の古代龍かどうか分からない。
「伊丹二尉どうしますか? あそこには集落があるんですよね?」
「う~ん」
隣の栗林からの質問に伊丹はどうするか考える。
森に入りドラゴンと戦う?
ドラゴンの力が分からない今それは自殺行為。
人命救助をやる?
ドラゴンがいる今は危険。いなくなり火が鎮火した後の方が安全。
集落を見捨ててコダ村にこのことを知らせる?
見捨てるのはナンセンス。それこそ自衛官である自分たちの信念を裏切る行為だ。それに後々の問題に発展する恐れもある(自衛隊批判の餌)だが、できるだけ早くコダ村にこのことを伝える必要もある。
伊丹は自分たちが何をするべきか瞬時に結論を導き出す。
「栗林の班はコダ村へ戻ってこのことを村長に伝えてそこで野営。残った俺たちはドラゴンが消えて火が鎮火次第森へ入って生存者の捜索を行う」
「了解」
「ジンは栗林と一緒にお願い。その方が伝わりやすいから」
「分かりました。ニャン吉を置いていきます。彼がいれば危険を知らせてくれます」
ニャン吉もそれに賛成なのか頷く。彼らは気配を殺しながらその場を後にする。その間もドラゴンは森を焼き続けた。
コダ村に着いた頃あたりは暗くなっていた。急ぎ村長の家のドアを叩き、出てきた彼に事の次第を説明する。
『なんと……龍に襲われていたと!?』
『ええ。火を吐く大きな龍です』
『まさか“炎龍”が………分かった。よく知らせてくれた。感謝するぞ!』
このあと村の人全員が集められ炎龍が出たことが伝えられる。速やかに荷物をまとめて明日村を出ることが言い渡された。
静まり返っていた村は炎龍出現の報で完全に叩き起こされた。一刻にも早く逃げないといけない。でも財産はすべて運びたい。荷台に載せられる量は限られているから持っていくものと置いていくものを選ぶのにそれぞれの家で騒いでいる。村の隅っこで彼らは野営していた。ジンも含め4人で2人づつ回しながら周囲の警戒と休憩をする。ジンはバックから黄色い箱、カロリーメイトを取り出した。実はこれ、狩猟の際に支給されていた携帯食料とそっくりなのだ。ギルドから支給されるそれは全国共通の味だが、その土地ごとに少し味や食感が変わっているらしい。今食べているのはメープル味。ハチミツに似た甘さだから一番慣れ親しんだ味に近い。因みに彼は知らないが押収されて調査された結果、カロリーメイトよりも倍以上のカロリーだったとか。それを齧りながら【霊弓ユクモ】の手入れをする。もしもの場合を考え万全の体勢に整える。展開し張った弦を引き絞る。強度は十分。手入れしてあるから問題はない。
「ジンさんの世界でもこういうことがありましたか?」
一緒に警戒している富田が聞いてくる。ジンがこことは違う別の世界の人間でドラゴンを狩っていた話は自衛隊内部ではすでに知れ渡っていた。
「稀にあった程度かな。人間よりも食べごたえのある草食獣が周りにいたから大抵はそっちで済む。極端にお腹を空かせた龍の場合だけあった」
それにモンスターたちは人間が集まる場所には近づかない。詳しくは分からないが痛い目に合うと本能的に分かっているからではないか? との説が有力だが本当のことは分かっていない。何でも喰らうイビルジョーは要注意個体として古龍でないにも関わらず上空からの監視があり、周囲に警戒が伝えられるようになっている。
「村の人たちは大変でしょうね」
「古代龍は災害と同じなんだろう。こっちでも似たような存在がいたから」
ただ、あの世界の場合はただ通るだけで都市が消滅する。彼らに目的はなく、ただ道端にある小石を踏んだ程度の認識であるから余計に性質が悪い。
「荷造りの手伝いをしなくても良かったのでしょうか?」
「そんなことして何かなくなったら真っ先に疑われる。自分自身で取捨選択するしかないんだよ」
持っているもの全てが全財産に等しく一つでも多く持っていくために積み込む。中には積み込み過ぎで動けない馬車も出るだろう。他所から手助けもいいだろうが現実を突き付けられ最終的に決断するのは彼ら自身なのだ。
「やるせないですね」
富田の呟きに答えず、2本目のカロリーメイトを齧った。
村人たちの荷造りは朝になっても終わらなかった。その間に伊丹たちがコダ村に帰還。事前に連絡があった通り、生存者のエルフの1名を発見した。コダ村の人たちの準備ができたのはそれから1時間後のことであった。
コダ村村長が伊丹のイラスト見て炎龍と判断したので過去見たことあると思いこうなりました。
読んでいただきありがとうございました