定食屋黒鴉~店の近くにアイドル事務所~   作:たぬさん蕎麦

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とある猫アイドル(候補生)の場合

初めまして、こんにちは、こんばんは

俺は廣野 黒阿(ひろの くろあ)、とある小規模な定食屋を営んでいる、20歳の男だ

高校を卒業してから、それまでに貯めていた貯金の大半を使って小さな家屋を購入・改築し、今はそれなりに細々と定食屋を楽しんでいる

 

ウチの店にはメニューが無く、注文を受ければどんな料理でも作ってみせたりする

特に雑誌に載ったりはしていないが、知る人ぞ知る店みたいな感じでそれなりに繁盛していると言えるだろう

 

そんな俺の店、定食屋黒鴉(くろからす)だが、近くにとあるプロダクションのアイドル事務所があったりする

その事務所のアイドルは年齢層が幅広く、下は一桁から上は三十代まで居るとか

そんなアイドル事務所のアイドル達は、よく昼時夕飯時になるとウチに来て料理を食べていく

この場では、そんなアイドル達の掛け合いの一部を語っていくとしよう

 

 

●●●●●

 

 

「店長さん、こんにちはにゃ」

 

「いらっしゃい、みくちゃん。今日は一人か?」

 

やってきたのは近所の事務所、346プロアイドル事務所の前川みく

猫好きで、仕事中は常に猫耳装備、~にゃという語尾を備えている猫系アイドルだ

………と言っても、今はまだとあるプロジェクトの候補生であり、仕事はレッスンくらいのものらしいが

ウチの常連の一人で、週に2~3回は食事を食べに来る

 

「そうだにゃ、CPの他のメンバーはレッスンで、みくは今日はお昼上がりだし」

 

「ま、来てくれてるんだから嬉しいけどな 注文は?」

 

「ハンバーグ定食でお願いにゃ」

 

「はいよ、鰯ハンバーグで良かったか?」

 

「みくが魚嫌いなの知ってるでしょ!?」

 

「はいはい、冗談だっての」

 

とまぁ、猫アイドルだと言うのに魚が嫌いなのも、彼女の特徴だろう

いやまぁ、猫が魚好きというのもただのイメージなわけで、大体の猫は魚より肉の方が好きだったりするわけなのだが

 

軽口を叩きながら、サクサクと調理を進めていく

ハンバーグに使うのは牛肉 これをかなり荒く挽いたものを丸め、焼いていく

こうする事で、噛めば噛むほど肉の旨みが口内に溢れていく

老人や小さい子供には少し苦しいかもしれないが、彼女は今をときめく女子高生、アイドル故にカロリーの問題で少し小さめに作るが、現役の彼女はこれくらいならむしろ旨みを強く感じられる筈だ

 

ハンバーグをフライパンで焼いている間に付け合せの方に取り掛かる

そうだな、今日は野菜のグラッセにしようか

人参に小玉の玉ねぎ、それと………お、カブがあったな

取り出した野菜を一口大に切り、それと並行して煮汁を作っていく

トントントンと野菜を切っていき、全て切り終えるまでに約10秒

余分に作っておこうと考え、更に1分程切り続け、煮汁が出来上がり、そこに野菜を投入

野菜が柔らかくなるまでしばらく煮ていく

 

漬物は……今日はたくあんがいい感じに漬かってるな、味噌汁は………

 

「みくちゃん、味噌汁はおあげとわかめと豆腐、どれが良い?」

 

「うーん……今日は豆腐でお願いするにゃ」

 

「了解」

 

リクエストがあったため、お椀に豆腐の味噌汁を注ぐ

茶碗にご飯をよそって盆に並べ、いい感じに柔らかくなったであろうグラッセの鍋にバターを投入

同時に火の通ってきたハンバーグを平皿に乗せ、小鉢にはたくあんを三切れ

バターによって艶の出たグラッセをハンバーグに添える

 

「お待ちどうさん、ハンバーグ定食だ」

 

「う~ん、やっぱり美味しそうだにゃ、いただきます」

 

そういってハンバーグに箸をのばすみくちゃん

一口食べると、途端に幸せそうな顔になって、二口三口と食べていく

やっぱり、良いな

実際のところ、定食屋は半ば趣味でやっているようなものだが、こうして俺の料理で嬉しそうな顔を見せてくれるというのは、料理人冥利に尽きるというものだ

 

「で、最近CPはどう?」

 

「ん~、全体的にはいい感じに纏まってると思うよ?

あとは、残りの三人がどんな子か次第だと思うにゃ」

 

聞いておいてなんだが、そういうのを話しても良いのだろうか

……いや、他のアイドルからも話は聞いてるし、たまにプロデューサーも来て俺をアイドルにしようとしてくるし、顔見知り程度ではないのだが

 

「シンデレラプロジェクト……コンセプトは「女の子は誰でもシンデレラ」だっけ?

俺はなんだってそこに誘われたんだか………いや、冗談だと思うが…」

 

「………Pチャンは、冗談がすこぶる苦手だにゃ」

 

だよなぁ…Pチャン…CPの担当プロデューサーである、武内プロデューサーの事だが、彼はひどく生真面目であり、どう見ても冗談を言うのが得意なタイプではない

そんな彼に、俺も何故かCPに誘われ、名刺まで渡されたのだが……

 

「俺は定食屋もあるし、そもそも人外系男性アイドルってブレ過ぎだろ……」

 

「なんか言ったかにゃ?」

 

「んや、なんでも」

 

最後の方は小さく漏らしてしまったが、彼女には聞こえていなかったようだ

人外系ってのは……まぁそのままの意味だが、詳細はその内語ることにしよう

多分、路地裏でスケバンの女の子を助けるとか、家出少女を拾った後とか、そんなときに説明する機会がある気がする

 

「で、午後からは学校か?」

 

「ん、アイドルみくにゃんから、真面目な前川みくにジョブチェンジだよ」

 

そんじゃ……そうだな、おやつにしようと思ってたけど……

 

「じゃあこれはオマケな」

 

「これって……ドーナツ? こんなにたくさん……」

 

まぁ、材料が中途半端になりそうだったから作ったものだけど

 

「これからもウチをよろしくって事で、宣伝もかねて放課後に友達と食べると良い

油や砂糖は控えめにしてあるから、おやつとしてもカロリーは少ない方だし

ま、そういうことで、定食と合わせてお代は300円な」

 

「ありがとうにゃ、はい300円……でも、こんなに安いけど元は取れてるの?」

 

「全然?」

 

「にゃ!?」

 

むしろ元なんか取れる筈が無いっていう

材料こそ全部さばけてるけど、一日当たり5000円くらいは赤字出してたりする

 

「じゃあどうやってお店維持してるの!?

ここに潰れられたら、346のアイドル皆困ると思うんだけど!?」

 

そりゃまぁ……

 

「万馬券に一万とか賭けてれば?」

 

「まさかの競馬!?」

 

良い子は真似しないようにな

うん、俺の方法だと、俺以外に出来ないし

ちょっとしたイカサマだけど、誰も真似できない上に考えられることじゃないからバレる心配も無しと

 

「ま、そんなわけだから 今じゃ貯金も9桁超えてるし」

 

「どれだけ勝ってるの!?」

 

「そりゃまぁ……ね?」

 

「あぅ……驚くのに疲れたにゃ……」

 

「ハッハッハ、ま、学業頑張れ 困ったらウチで夜の十時以降に来れば、夜食とセットで勉強も教えるからな」

 

「余計なお世話だにゃ、みくは勉強できるからね!」

 

そいつは何より

 

「それじゃ、また来るね!」

 

「おう、またいらっしゃい」

 

ふぅ、今日も平和だったな

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