定食屋黒鴉~店の近くにアイドル事務所~   作:たぬさん蕎麦

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とあるプロデューサーの場合

時刻は午後9時30分

一人の男がウチの店にやってきた

 

「すみません、生姜焼き定食を」

 

「はいよ………で、今日もダメだったと?」

 

「はい………」

 

彼は武内俊介(たけうちしゅんすけ)、以前紹介した前川みくの所属するCPのプロデューサーであり、正気かは知らんが俺をもCPに勧誘した男だ

もちろん、俺にはアイドルをやるつもりはさらさら無いが

 

「えっと、花屋の娘さんだっけ?」

 

「はい、街を歩いていた時に、泣いている男の子の傍でオロオロしていた彼女ですが、彼女の笑顔はとても素晴らしいものだと、私の勘が囁きまして」

 

「なるほどね………」

 

この口ぶりをみるに、その子の笑顔を見たことがあるわけではないのだろう

笑顔をあまり見せない、花屋の女の子だと………

 

「渋谷さんの所か」

 

「ご存じ……なのですか?」

 

「まぁ、たまに店に行くし、凛ちゃんとはたまに散歩途中に会って話したりもするし」

 

ハナコちゃんと話す事の方が多かったりもするが、まぁそれは良いだろう

 

「いい子だってのは間違いないよ、ハナコちゃん……渋谷さん家の飼い犬だけど、すごく懐いてるし

笑顔も、まぁ確かにいい笑顔だね、それこそ本職のアイドルと遜色ないくらいには」

 

「そうですか……」

 

会話しながらも手は休めない

豚ロースに適当に切れ込みを入れて生姜に漬け、キャベツの千切りに入る

慣れたもので、10秒あれば一玉丸々千切りに出来る

……ついでだ、自分の分も作って夕飯を済ませてしまおうか

 

「あの、よろしければ、渋谷さんの勧誘を手伝ってはいただけないでしょうか?」

 

「冗談、そういうのは本人が頑張るべきだし、そうやって誰かの進路を決めるようなマネはしたくないよ

凛ちゃんもそれなりに仲は良いと思ってるけど、アイドルになるかどうか、心を動かすのは勧誘するアンタの仕事だろう」

 

「………そう…ですね」

 

「ま、誰かの手を借りたいなら候補生の子にでも手伝ってもらうと良いんじゃないか?

年齢も近い感じで、アイドルにひたむきな子だとそういう説得もうまくいくんじゃないかな……っと」

 

キャベツを皿に盛り、豚ロースを火に掛ける

漬物は……きゅうりの浅漬けかな

 

「なるほど……参考にさせて頂きます

それと、廣野さんはアイドルに興味はありませんか?」

 

「無くは無いけど、誰かの前に出るのは勘弁

そりゃ歌だってそれなりに得意だし、ダンスだって踊れる

ついでに言えばメイクなんかも出来るし、重機も扱える」

 

T○KI○でもあるまいし、重機資格は関係ないか

 

「だけど、アイドルになって色々制限されるのは面倒だ

俺には、ここで料理でも作ってる方が向いてるよ……っと、はいよ、生姜焼き定食」

 

「ありがとうございます………せめて、名刺だけでも」

 

「名刺は貰ってる」

 

「では見学に……」

 

「行っても、そもそも346に男性アイドル部門は無いだろ…肩身の狭い思いをするだけだし、それだったら競馬で稼いだり、山に遊びに行ったりしてる方が有意義だね」

 

「む………」

 

まぁこんな感じで、来る毎に一回はアイドルに勧誘されたりしてる

………まぁ、アイドルはやるつもりは無いけど

 

「……トレーナーとか、メイクとか、そういう裏方なら、手伝わない事も無い」

 

「では、来週の土曜日なのですが小さなライブがあるんです、そこで少々手伝いをお願いしたく……」

 

「うぉ、いきなりグイグイくるな……あー来週の土曜……ペットって連れて行って良いか?」

 

ペットって言うか、友達って感じだが……山に遊びに行く予定だったしな

 

「ペット……ですか……ふむ…1匹2匹なら、まぁ大丈夫でしょう 吠えたり暴れたりされると困りますが…」

 

「それなら問題ない、吠えないし、暴れもしないさ」

 

「では、大丈夫です」

 

「了解、時間は?」

 

「開始時間は13:30ですね、なので12時頃には来ていただけると」

 

「なら、弁当も用意しておくかな……じゃあ資料とか今予備があるなら置いて行ってくれ、目を通しとく

あと、このライブってCPは関係ないはずだよな?」

 

「はい、しかしプロジェクトの皆さんに会場の空気を経験して頂くという目的もありますので、皆さん舞台袖には集まる予定です

ライブのメインはブルーナポレオン、かわいいボクと142s'、ソロで城ヶ崎美嘉さんですね」

 

なるほど、なら「あの子」の分の用意も必要かな

 

「まぁ、あとは資料で確認しとく、飯も冷めないうちに食ってくれ」

 

「あ、はい、いただきます」

 

俺も食うかな……ん、いい感じだ

説明がぞんざいだって?自分の料理は食べなれてるのに、今さらそんな感想なんて出るわけないだろ

 

「やはり、ここの料理は美味しいですね」

 

「そりゃどうも、小さい頃からの特技だしな」

 

むしろ自炊出来ないと生きていけなかった時期もあったしな

友人に運のおすそ分けを貰って、それで宝くじを買って1000万当て、成人している知り合いに換金を頼んで、貧乏生活からは抜け出せたが

 

「ご馳走様でした」

 

「お粗末様、お代は300円な」

 

「はい……これでちょうどですね」

 

「毎度、それじゃ体には気を付けてな」

 

「はい、廣野さんも」

 

と、武内Pは帰って行った

小動物系……あの二人を連れて行くか

 

うん、今日も比較的平和だった

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