定食屋黒鴉~店の近くにアイドル事務所~   作:たぬさん蕎麦

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とあるキノコアイドルの場合(屋外)

ライブの手伝いを翌日に控えた今日は、店をかなり早く閉めて山に登っている

と言うのも、本来の予定では明日一日山に居る予定だったのが、行けそうに無くなったからだ

この山には5歳の頃から一人で登ることが多く、今では慣れたもので、今日のように大量の荷物を背負って目を瞑っても躓かずに山頂まで登ることが出来る

いやまぁ、山頂まで登るのが目的ではないのだが

 

『あら黒阿じゃない、来るのは明日の予定じゃ無かった?』

 

「あぁ、明日は急用が出来たから、今日の内に来ておこうと思ってな」

 

今、俺に話しかけたのは、人間ではなく………フクロウだ

それも、某魔法学校の物語の主人公の相棒で有名なシロフクロウ

で、別にこのシロフクロウ………夜迷(よまい)と言う名だが、彼女が人の言語を話せるわけではない

どうやら、俺には動物の言葉を理解する能力があるらしい

といっても常時では無く、ある程度意識している場合に限られるのだが

この夜迷は肉体年齢がおおよそ3歳、精神年齢は人間換算で18程度だと思う

俺が山に入った時に、一番最初に迎えてくれるのが彼女になる

 

『それじゃ、さっさと登りなさいよ、待ってたんだから………』

 

「へぇ、待っててくれたのか」

 

『あ、や、ちがっ!? 待ってたのはコクとかのチビッ子達で、私は別に待ってなんかいないんだからね!』

 

こんな感じに、ツンデレを発揮することも少なくない

 

「はいはい、んじゃペース上げるか」

 

『わかれば良いのよわかれば!』

 

大体20分程度、更に歩を進めると、今度は黒毛の子猫が迎えてくれる

この子は生後1年に満たない子供で、俺の事を兄のように慕ってくれている

 

『黒阿お兄ちゃんだ!』

 

「コク、元気だったか?」

 

『うん!』

 

素直な妹のような感じだろうか

この子の名前はコク、生まれてすぐの時に外に放置されていて、そこを助けてこの山に連れてきた

ここの動物たちは皆優しく、仲間と認めれば親切にしてくれる

そうでなくても赤子に手を出す乱暴者は居ない為、この子も安心して育つことが出来ただろう

 

『お魚持ってきてくれた?』

 

「あぁ、海の魚をたくさん持ってきたぞ」

 

『やったぁ♪』

 

かわいい

…………で

 

「なんでこんな所に居るんだ?」

 

「フヒッ!?」

 

俺が今話しかけたのはキノコのお化け………ではない

346プロ所属、かわいいボクと142'sメンバーの星輝子、キノコが大好きなキノコアイドルだ

 

「明日はライブだろ?

レッスンか、体を休めるか、どっちが良いのかは知らんが、こんな所に居るべきではないと思うんだが……」

 

「フ、フヒ……親友に会いに来ただけだから……すぐ帰る……」

 

今の時間は………15時過ぎか

 

「ま、今日はレッスンはもうなさそうだし、ちょっと付いてこい」

 

「え、あ、はい」

 

「良いだろ? 夜迷、コク」

 

『黒阿が良いんなら、私は何も言わないわ』

 

『あのお姉ちゃんも一緒にご飯だね!』

 

「んじゃそういう事だから、夕飯奢ってやる、食い過ぎだけは注意しろよ」

 

「おぉ、店長さんの奢り……あ、ありがとう…フヒ…」

 

鮭は現地調達だし、適当に山菜と……果物とかも採っていけば足りるだろう

この山、食材が過剰なほど豊富だし

 

三人(一人と一羽と一匹?)を引き連れ、更に進むと、色々な動物たちが出迎えてくれる

お調子者の牡鹿のディー、悪戯好きな子狐のコッコとホルン、木の葉があればちょっとした幻術が使える狸のマメ蔵、この辺りの動物たちを纏めている月の輪熊のゴンさん、他にもたくさんだ

 

さて、ゴンさんは鮭を獲って待っててくれてたみたいだし、火を起こして料理を始めて行くか

といっても、ほとんどは動物たちの分であり、調味料などほとんど使えないために、精々素焼きくらいしか出来ないわけだが

 

火を起こして、それなりに火力が出るまでに野菜を切っていく

人参大根きゅうりを細長くスティック状に、細いものと太いものに分けて切る

栗鼠の子達は太いと食べるのが大変だし、鹿のディーなんかは細いと食べごたえが無いからな

 

今回は肉の用意が無いから、野菜以外だとゴンさんの獲ってきた鮭がメイン食材だ

ゴンさんは鮭獲りの名人(名熊?)で、すくい上げるように陸に打ち上げた鮭にはほとんど傷がない

さっと表面を洗い流して泥を取り、一匹は鱗だけ取ってそのまま火にかける

これはゴンさん用だ、俺が火を通すと、脂の旨みが強くなって食うのが止まらなくなるとゴンさんは前に言っていた

一匹を火にかけている間に、別の一匹を捌き始める

こちらは刺身にしてみようか

寄生虫? そんなものは居……なくはないけど、どうとでもなる 俺以外には出来ないから、液晶の前の読者諸君は、野生の鮭を刺身にしようなんて思うなよ!

鮭の腹から包丁を入れ、解体を始める 丁寧に研いである俺の包丁は、どんな食材でも豆腐のように切ってしまえるのが自慢だ

身を切り出して一口の大きさに切る これを大き目の葉に乗せて、軽く醤油を垂らしてやれば、鮭の刺身の完成だ

 

『ヘイヘイ嬢ちゃん、俺とデートしようぜ! 俺の背に乗って早駆けなんでどうだい?』

 

「え、え、なに、え?」

 

声が聞こえて振り向くと、ディーが輝子ちゃんを頭で押してナンパしている

あいつの飯は小玉キャベツ一つだな

 

「夜迷、あれの処置頼む」

 

『はいはい、私に任せなさい』

 

少し離れたところから傍観していた夜迷をディーに嗾ける

夜迷は軽く飛び立ち、ディーの頭に飛び蹴りを食らわせる

 

『黒阿の客に迷惑かけてんじゃないわよ!』

 

『ぎゃふん!?』

 

まともに食らったディーは仰け反り、そのまま横倒れ状態になる

まぁ、ここまでテンプレというような感じなため、そこまで気にする事でもない

 

さて、ディーは放っておいて、調理に戻るとするか

最後に小さめの鮭を使ったちゃんちゃん焼きだ

 

持ってきた野菜を色々適当な大きさに切って、鮭と一緒にバターで焼き、味噌だれをかけて軽く焦げ目が付く程度に焼くだけだが、まぁ本来自分で食うために色々準備してたしこんなものだ

誰かに出す為につくる場合は、もう少ししっかり作るさ

 

『アニキ、これ採ってきた!』

『皮焼いて!焼いて!』

 

ちゃんちゃん焼きも出来上がった所で話しかけてきたのが、コッコとホルンだ

二匹とも俺をアニキと呼び、ホルンの方はちょっと言葉が拙かったりする

そんな二匹が持ってきたのはアケビだ、どれもしっかり紫色に熟しており、割れ目も入っている

大きさも15cm程度と自生しているものにしては立派で、そんなものが10個もある

 

「こんなに良く集めたな、アケビの皮の炒め物だな、任せろ」

 

材料を採ってきて、リクエストを受けたとなれば、料理人として作らざるを得ない

受け取ったアケビから果実の部分を取り出し、別で分けておく

果皮の部分を細く切り、軽く炒めていく 途中で少しだけ、ちゃんちゃん焼きに使った味噌だれをかけて更に炒め、これでアケビの味噌炒めの完成だ

人間が食べるには味付けが薄すぎるかもしれないが、この二匹が食べるには丁度いいくらいだろう

 

「ヒャッハァァァァァ!!超美味そうだぜェェェェェェェェェ!!!!」

 

「食うのは良いが、あんまり叫ぶなよ、皆驚く」

 

「あ、はい、すいません……フヒ…」

 

大人しくなった輝子ちゃんが黙々と料理を食べ始める

大きなリアクションこそしないものの、その表情はとても幸せそうだ

俺としても、料理で喜んでもらえて嬉しいな

 

で、俺はというと、アケビの実と種を分ける作業をしている

あまり有名ではないが、アケビの種からは非常に良質な油が取れる

もっとも、乾燥したアケビの種75Kgに対して8L程度しか取れず、量を用意するなんてそう出来るものでも無いが

 

「……………………………うし、分離作業終わりと、俺もメシ食うか」

 

たっぷり20分程時間をかけて種と実を分け終え、食事を始める

 

「あぁ、そうだ、コクと夜迷は今晩は家に泊まりな、明日アイドルのライブに連れてってやるよ」

 

『え?あ、うん、わかったわ……今晩は念入りに毛づくろいしないと……』

 

『あいどるのらいぶ? 美味しいの?』

 

うん、コク、ライブは食べ物じゃないからな

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