さて、ライブの当日がやってきた
俺はいつも通りに6時前に起床し、今日のライブに参加する面々の昼食を作り始める
とは言っても、本番前にガッツリ食べる事も出来ないだろうし、軽めにサンドイッチがメインだ
卵を炒って、卵サンドの具材を作り、ツナとマヨネーズを和えてツナマヨも作る
揚げ物系のサンドイッチは今回は避けるとして、果物系も作っておくか
適当な果物を小さくカットし、生クリームを泡立ててホイップクリームを作る
クリームと果物を和えてパンに挟めば、簡単なフルーツサンドの出来上がりと
あとは……BLTサンドに山羊チーズのサンド、その他諸々全15種類225個だ
アイドルだけじゃなくて裏方の分も含めた数だが、まぁ多分足りるだろ
あぁそうだ、あのこ用にも特別なのを作っておかないとな
時間は午前10時、予め指定された会場に着いた
今日のメインアイドルは姉ヶ崎だったハズだが、それなりに開場前に並んでいる人も居る
熱心なファンだなとは思うが、まぁ個人的にはどうでも言い訳で
裏口から会場に入り、アイドルの控え室を探す
と、その途中で一人の少女と幽霊に会った
少女の名は白坂小梅、所謂霊感系アイドルと言うやつで、常に幽霊……もとい、守護霊を背後に連れている
小梅本人も霊的なものやスプラッタなものが好きで、休みの前日の夜に何故か家に来て、ホラーDVDを一緒に見ることがままある
その際に夜食を用意するのは俺の仕事になっていて、あのこ………小梅に憑いている守護霊も、何故かこの時は俺の背後に移ってくる
「あ……おはようございます、店長さん………」
『おっはよー♪』
「おはようさん、体調は大丈夫か?」
「うん、元気だよ」
『私が憑いてるんだから大丈夫に決まってるよ!』
うん、言いたいこともあると思うが、この元気なのが小梅に憑いてる守護霊、通称「あのこ」だ
一応名前もあるらしいが、小梅含め誰も名前を知らず、聞いても答えようとしないため、「あのこ」で通っている
「そいつは重畳、そうだ、あのこの分の昼は渡しておくな
皆の前で食ったら、一部の幽霊がダメな奴が怖がるだろうし」
今日はまゆは居ないハズだったが
「わ、ありがとう…」
『やったぁ♪ てんちょーさんの料理は、お供えじゃなくても直接食べられる謎仕様だから嬉しいね♪』
「喜んでくれたなら何より、さて、俺は楽屋の方に昼飯届けてくるから、頑張れよ」
「うん……!」
『BLT▂▅▇█▓▒ (’ω’) ▒▓█▇▅▂うまあああああ』
さて、そんなこんなでサンドイッチを届け、本番に入る
ブルーナポレオンから入り、輝子や小梅の142s'、ライブも終盤に入り、今は姉ヶ崎のTOKIMEKIエスカレートだ
ちなみに、コクはみくに、夜迷は同じくCPメンバーのゴシック少女、蘭子に預けている
蘭子は夜迷に魔法使い的な何かを感じたのか、キラキラした目で夜迷を抱きしめている
少し夜迷が苦しそうだが、まぁ大丈夫だろ
「TOKIMEKIどこまでもエスカレート♪」
舞台袖から歌とダンスを見る
ふと、なんとなしに視線を上に向けると………そこには、なぜか僅かにぐらついている照明が
「………おい、あの照明……!」
「照明ですか………!?」
俺の指摘でようやく気がついたのか、武内Pの表情が驚愕に染まる
「曲が終わるまであと2分弱、あの照明は……見た感じギリギリもつかどうかってところか」
もし万が一が起きても大丈夫なように、いつでも飛び出せるように構えておく
「ハートはデコらず伝えるの 本当の私を見てね」
歌の終盤、ついにその時が来てしまった
照明のグラつきが限界に達し、それが真っ逆さまに、城ヶ崎の頭上に落下する
観客の悲鳴をバックに駆け出す
理想としては城ヶ崎を抱き抱えて退避するのが一番なんだろうが、まぁ舞台裏からステージの真ん中まではそこそこの距離なわけで
俺がそこにたどり着くのは可能だが、城ヶ崎を抱えるとなると、城ヶ崎の胃がシェイクされてキツイだろう
言ってしまえば、安全装置無しで絶叫マシンに乗っているようなものだ
だから、仕方ない、そう自分に言い訳して、跳ぶ
目標は落下する照明器具
その落下に合わせて、右足を振り抜く
右足が照明器具を捉え、そのまま吹き飛ばし、俺は少しの反動で後ろに下がりつつも、城ヶ崎の近くに着地する
「え、な、え……?」
呆然としてその場にへたり込む城ヶ崎
俺は舞台袖の武内Pにサインを送り、マイクを一つ投げ渡してもらう
「あ、あー、よし、えー、本日ご来場の皆さん、私共スタッフの確認不足により、大変お騒がせ致しました事をお詫び申し上げます
皆さんが見ていた通り、彼女には一切の怪我がございませんので、ご安心ください
また、この後、お詫びとしまして少々サプライズをご用意しております
これより10分程、整備と準備に時間を頂きたく思います」
それだけ言って、幕を下ろさせ、腰が抜けて立てない城ヶ崎を抱えて舞台袖に引っ込む
さて………
「照明の確認をしたスタッフはどこだ! 俺と違ってプロだろうが、なんでこんなありえないミスしやがる!
ったく、時間が無い、梯子はどこだ、照明再セットするぞ!
あとは、アイツ等が来てる筈だな………」
スタッフに梯子を準備させつつ蹴り飛ばした照明を軽く点検し、知り合いに電話を掛ける
「あぁ、俺だ、ちょっとこの後ステージに出てくれないか?
そこを何とか頼む、ウチの店の30食分のタダ券やるから!
お前たちにしか頼めないんだ、お前たちみたいにプロ意識が高く、諦めない不屈の精神もあって、実力も間違いなくトップクラスのお前らにしか、だ
頼む、こっちで音源の準備なんかはするし、衣装は無いが、そこは酷すぎなきゃ私服で良い
お前らが返り咲く足がかりにしてくれ………そうか、やってくれるか!
じゃあ急いで舞台裏に来てくれ、頼んだぞ! ………ふぅ」
ジュピターちょれぇ
(((((((なんか黒い顔してる!?)))))))
なんか俺の知らないところで皆の心がひとつになった気がする
「さて、照明は異常なし、蹴り飛ばした部分が良かったな
武内P、Alice or Guiltyか、恋をはじめようの音源ってあるか?」
「え、いえ、生憎と準備はしておりません」
「わかった、ならキーボードくらいはあるよな?
それでいいから繋げておいてくれ」
梯子を使い、照明をセットし直す
これくらいなら30秒もあれば、線が切れていようが繋ぎ直すには十分だ
「よし、これであとはジュピターの体を解してやって、準備は完了だな」
俺がこうして裏方に回されたんだ、どんな手を使ってでも最終的には成功させてやるさ