Fate/divide seek   作:エステバリス

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知らない人ははじめまして。知っている人はありがとうございます。エステバリスというものです。

さて、多くは語りません。あくまでこれは僕が僕なりに書くFate/です。そこに合う合わないは当然あるので、無闇と言うこともないでしょう。

それではFate/divide seek、失ったものを探す物語を宜しくお願いします。




序夜 漣

 

 

雨が降っている。今日は確か天気予報ではほぼ百パーセント快晴の筈だったのだが。

 

「……傘、あったかな」

 

暫くの間袋の中を漁るような音が響く。ゴソ、ゴソ、という音が不規則に鳴って、下手くそな音楽を奏でているようだ。

 

「……あったあった」

 

バサッ、そんなビニールの音が鳴って傘が開く。雨の降る街中に向けて歩を進めるとすぐに引き留められた。

 

その方向に目を向けると、銀の髪を一纏めにした女性が立っていた。彼女は一口サイズに切られたパンをいくつかトレイに乗せており、それが一つの意味を示しているのはすぐに理解した。

 

「メロンパン、試食してくれないかい?」

 

「……有り難く」

 

一口サイズに切られたそれを噛み締めるように、少しだけ齧る。

 

美味い。口には出さないが感嘆した。そうして少しだけパンに意識を向けてしまっていたようでその場で暫くパンを食べていると、「もうひとつどうだい?」と聞かれるので喜んで戴いた。

 

「今日は生憎の雨さね、出掛ける人も減るから三つや四つくらいなら摘まんでも構わないよ」

 

「……ここ、そういうことよくあるの?」

 

「むしろ珍しいよ、これまでここの天気予報は一度も外れたことがないんだ……まぁ、最近は雨続きだからみんな今日も雨だって言ってたね」

 

「……へぇ」

 

四つまでなら、と言われたので三つをトレイから取り上げてさっさと口の中に入れる。背中に背負ったリュックサックに引っ掻けていたボトルのストローに口をつけて中の水を啜る。

 

「見たところ旅人みたいだけど、どこから来たの?」

 

「ドイツから、少し探し物があって来たんです」

 

「そう、見つかるといいね━━━行ってきなさい」

 

一言礼を告げてまた歩き始める。また歩いては試食や下らない買い物などをして、二時間程使って海辺にやって来た。

 

潮の満ち引きの音は雨に半ば消されて解り辛いが、確かにその音は聞こえる。

 

暫くこれに身体を預けてもいいかな、なんて思いながら雨に濡れたコンクリートの地面に気も止めずに腰をつく。

 

雨が降っているにも関わらず傘を閉じて仰向けに倒れてその雨水を一身に浴びる。例えそれに意味がなかったとしても━━━雨と海を見ていたら無償にやりたくなったのだ。この感情を態々止めるのも愚かだと、独特の感性で感じたのだろう。

 

ただただ雨と潮の音が鳴り響く海辺で身を投げて、身体を濡らして火照らせる。

 

「なにか欲しいものは見つかったかしら」

 

いつの間にか、目の前に長い金髪を携えた少女が、これまた傘を差さずに佇んでいた。

 

手を空に翳して見えない太陽を隠す。なんの意味もないが、不意にやりたくなった、と言えば良いのだろうか。

 

「全然まだまだ。着いてきてもらうからね」

 

「当然、着いていくわ。貴方といれば私も見つけられるのかもしれないもの」

 

二人は互いの顔を見て笑い合う。見果てぬ道の先に在るものを目指して、海のない草原を駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

 

Fate/divide seek

first

Klein bottle

 

 

 

 

 

 

 

 

十二月三日 A.M.4:04

 

雨が降り始めた。周囲が完全に海に囲まれており、あらゆる方向から水蒸気が出てくるため、此処アルマーレでは大して珍しいことでもない。まぁそれも、キッチリと天気予報では事前に伝えられているのだが。

 

今日の天気は雨、一日中雨で暫く続く見込みがあるとのこと。

 

「……あーあ、降ってきちゃった」

 

縁側で水を飲んでいた少年、麻久留(あさくる) 調(しらべ)はぽつりと漏らす。一定の音を鳴らしながら聞こえる雨は彼の耳に心地のいい残響を残す。

 

しょうがない、と呟いて向かいにある小さな小屋を目指して歩き出す。雨が当たる、そう思われたが少年の周囲にだけ雨が途端に止まった。出来ていた水溜まりも少年が寄っただけでまるで油に弾かれたかのように反発し出す。

 

そうして小屋の扉の前にたどり着き、ドアノブに手をつけ━━━放す。

 

「っ━━━、て……」

 

手をブルン、と数度振り回すと改めてそーっとドアノブに着ける、今度はなにもなかったのか、ほっとしたような顔をしてドアノブを捻る。

 

中には仏壇があった。調は周囲に気を配ったような動作をするとやがて落ち着き払い、仏壇の前にある座布団に膝掛けて鈴を鳴らす。

 

チーン……という金属音がなると調は両手を合わせて目を瞑る。

 

「……それじゃ、行ってきます、姉さん」

 

暫くしてから立ち上がって出ていく。その仏壇の前には小さな剣が飾られていた。

 

◆◇◆

 

アルマーレ、何十年か昔に突如発生した大地震で隆起したことで出来た太平洋の小さな島。だがその小ささや経緯とは不釣り合いなほど潤った資源と整った環境により各国の協力で作り上げた海洋都市だ。

 

何処の国に所属しているかは非常に曖昧で各国の文化が入り乱れているのだが、一応形式上はロシアの国となっている。

 

文化の入り乱れがこの都市の文化と言っても過言ではなく、住民の名前ひとつとっても多種多様で、雄太という少年がいればチャーリーやシルヴィアという名前もほぼ一対一くらいの割合なのだ。

 

多文化ではあるが公用語は統一してロシア語、それに個人の名前の元の国の言語と英語を学ぶことが一般的だ。

 

そしてこの都市にはある"モノ"が眠る━━━数百年前に産み出されたもののスペアとして用意され、忘れ去られた"とある聖遺物"が。

 

聖遺物の名は聖杯。かの伝説に登場する杯。手にした者の願いを叶える万能の願望器。

 

スペアとは言っても完全な模倣品ではなく、いくつか異なる部分があるが、造られた目的、用途などはほとんどオリジナルと同一のものだ。

 

その聖杯を巡って七人の魔術師は熾烈な殺し合いを繰り広げる。そのための手段としてもまた聖杯が使われる。

 

"サーヴァント"、聖杯戦争で召喚される使い魔を意味する彼らは一般的に連想される蝙蝠や鷹といったモノたちとは一線を画す。

 

サーヴァントと呼ばれる彼らはそんな生易しいモノではなく、史実に存在した英雄達の事を指す。それは日本において知らぬ者のいない第六天魔王然り、英国圏最大級の誉れを持つアーサー王然り、人類史において何らかの逸話を残した者達であれば基本例外なく呼び出される。

 

無論、そんな彼らもただ使い魔として甘んじるわけもなく、マスターと呼ばれる聖杯に選ばれた魔術師達には"令呪"という三画の絶対命令行使権が与えられる。それでもサーヴァント達が召喚に応じるのは単純、彼らにも生前叶えられなかった望みがあり、聖杯戦争を最後まで勝ち抜いたサーヴァントにも願いを叶える権利を得られるからである。

 

さて、そんな英霊達を呼び出すという奇蹟以外の何者でもない行為を可能にするために、呼び出される七人の英霊にはそれぞれ逸話や偉業に因んだ七つのクラスに当て嵌められる。

 

剣の英霊"セイバー"。

槍の英霊"ランサー"。

弓の英霊"アーチャー"。

騎手の英霊"ライダー"。

魔術の英霊"キャスター"。

暗殺の英霊"アサシン"。

狂戦士の英霊"バーサーカー"。

 

そしてサーヴァントを呼ぶに当たって呼び出す触媒というものもある。これは簡単、呼び出される英霊に関連性の在るものを用意して召喚するだけ。

 

アーサー王の鞘であれば確実にアーサー王を呼び出すことが可能であるし、円卓の欠片であればマスターの精神性と最も似通った円卓の騎士が呼び出される。

 

なるほど、スポーツにおいて準備の段階で勝負は始まっているとよく言うが、これほど解りやすいものもそうはないだろう。

 

A.M.3:31、其のサーヴァントを呼び出す儀式の準備を終えた者がいた。

 

少女だ。その容姿からして恐らくは高校生か、栗色に近い金髪を右側にテール状に纏めており、ラフな格好が彼女の人柄をなんとなしに表しているようだ。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返す都度に五度。

ただ満たされる時を破却する」

 

少女はそこで一呼吸置く。すっ……としっかり息を吸い直すと改めて瞳を据える。

 

「━━━告げる。

汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者。

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ━━━!」

 

ゴウッ、という爆音と共に周囲には強烈な風圧を感じる。触媒となっている書物が豪々と揺れ、魔力の光が周囲を包む。

 

やがて光が止んで、少女は瞳を開ける━━━が、何もない。

 

可笑しい、まさか召喚に失敗したのか?いやそんな筈はない、時間帯も自分の魔力が最も満ちる頃を選んだ。寸分の違いもないように時計の故障や時間の遅れの有無もキッチリと確認したし、なにより確実に呼び出せる触媒を用意していたのだ。失敗する可能性の方が怪しい。

 

「冗談じゃない……!此処まで来て失敗!?そんな馬鹿げた話が━━━」

 

ちょいちょい、と服の裾を引っ張られる。だがそんな些末なことを気にしている余裕はない。

 

「何!?悪いけど後にして」

 

ちょいちょい……と少し控えめになったがそれでもその手は止まらない。

 

「だから、後にしてって……」

 

ちょいちょい、再三繰り返される。仏の顔もなんとやら、少女はとうとう堪忍袋の緒が切れたかのようにその表情を一変させて向き直る。

 

「だから、後にしてって言っているでしょう!?私は今大事なことが━━━」

 

ピタリと怒号は止んだ。向き直った先にいたのは小さな少女だった。

 

だが、ただの少女と言うには少々異なってくる。如何にもという感じの着物を着ており、だというのにその着物に不釣り合いな銀髪を纏い、おっとりというより感情を感じない表情。先ほどまで理不尽に怒られていたにも関わらずその様子はなにも感じていないといった、兎も角虚無を感じさせる。

 

「━━━ます、たぁ?」

 

「え?」

 

「あなたがわたしの、ますたぁ?」

 

たどたどしい、見た目に相応しくないほどに覚束ない喋り方だ。だが本人の口ぶりから彼女がサーヴァントということはハッキリした。

 

なら次は、名前とクラスの確認だ。彼女が呼び出した通りのサーヴァントならばクラスもほとんど確定するようなもの、触媒とは別に用意していた本を少し捲り、ある頁で止めて彼女に見せる。

 

「貴女の真名は"清少納言"でいいわね?それを肯定するなら、私が貴女のマスターよ」

 

ペラペラ、と少女は本を捲り、こくりと頷く。

 

「……そう、清少納言、だそう。くらすはきゃすたぁ」

 

肯定なのか納得なのかよくわからない言葉だが、これは同意と捉えても問題はないだろう。

 

「了解よキャスター。私が貴女のマスター、名前はメリア・ルシエ。どう呼んでもいいわ」

 

「それなら……めりぃ」

 

「メリィ?それならそれで構わないわ」

 

「━━━ええ、わかったわメリィ。改めて、私はキャスター、清少納言……これから末永く宜しく頼むわね」

 

「━━━は?」

 

思わず驚いてしまう。これまで幼子のように拙い喋り方をしていたキャスターが途端に流暢に喋りだしたのだ。

 

「あら、何を驚いているの?もしかして、突然喋りだしたからビックリした?」

 

「え、ええ……なんというか、一気に印象が変わったわ」

 

クスクス、とキャスターは笑いながら部屋の出口に向かう。

 

「貴女、少し面白いわ。サーヴァントとして与えられた魔術師の概念とも違う、かといって、その精神性は一般人かと言われるとそうではない。……気に入ったわ、早速執筆したくなってきたから私室を頂戴な」

 

「わかったわ……家の書斎を貸し与えるから好きに使って。どうせキャスターは自分の陣地からは出ないでしょう」

 

「どうかしら。私は目の前に素材があって、私自身の意欲が最高に高まれば書く、気分屋を自負しているの。素材が無くなったら夜の街を歩き回るかもしれないわ」

 

「キャスターが夜の街を歩くなんて自殺行為でしょう。他のクラスみたいに戦闘力があるわけでもなければアサシンのように気配遮断だってないのよ?」

 

「まぁ、返す言葉もないわ……まぁ、陣地作成、私持ってないから結局好き勝手に歩くのだけれど」

 

その発言に今度こそ頭を打ち付ける。今この女はなんと言った?陣地作成がない?キャスターのくせに?

 

サーヴァントのクラスにはそれぞれクラス特有のスキルがある。清少納言、キャスターには戦闘に有利なアイテムを造り出す道具作成と自身にとって有利な魔術工房を作る陣地作成。後者は特に地力の弱いキャスターにとって少しでも相手に対して有利に立ち回れるようになる要素を作り上げる超がつく必須スキル。

 

それがない?

 

「……アンタもしかしてハズレ枠?」

 

「失礼なことを言うのねメリィ。そもそもキャスターっていうクラス自体ハズレでしょうに。……まぁ、弁明をするのなら、陣地を作れないことに見合うオンリーワンな部分はあると自負しているわ」

 

「それでも陣地がないって致命的でしょ。それどうやって戦えば━━━え?キャスター?」

 

メリアがキャスターに言いたい放題言えるだけ愚痴を言おうとしたのも束の間、キャスターの姿が消えている。

 

霊体化した?いや、それでもマスターには見えるはずだが。

 

「ここよマスター」

 

なんてメリアが思っていたらわざとっぽく上がったキャスターの声音が背中から聞こえてくる。

 

振り向くとそこにキャスターがいた。ニッコリと微笑んだかと思うと次の瞬間にはメリアの真横に立っていたり、彼女の頭の上に器用に乗り掛かっていたり、とにかくせわしなく動いている。

 

「なにこれ、魔術……じゃないわよね。それっぽいのは一切感じられない。じゃあ何?ステータス?」

 

「私作家よ。サーヴァント化して並の人間より強くなっているとはいえ魔術師相当、あるいはそれ以下の身体能力しかないわ」

 

「……なら、スキル?」

 

「正解。これのせいで陣地作成はなくなっちゃってるんだけど……対価交換と諦める他ないわ」

 

それじゃあね、と再び姿を消す。今度は近くにはいないので恐らく書斎に向かったのだろう。なんだかたった三十分でどっと疲れが寄ってきたかのような感じがしてメリアはその場で仰向けになって倒れる。

 

「……あ゛ー、面倒なサーヴァント引いちゃったかなぁ……」

 

それでも引いたものは仕方ないし、目論見が外れたもののキャスターとして見るなら清少納言は文豪系統のキャスターでもかなりの当たり。比較対照はともかくとして。

 

「……寝よう」

 

そうして聖杯戦争に向かう最初の夜は明けていった。これから始まるfate(運命)など、ついぞ知らず。

 

A.M.4:04

さぁ、失った探し物を取り戻そう。

 

 





キャスター
真名
清少納言(女性)

属性・カテゴリ
混沌・中庸(人)

身長・体重
身長135cm 体重32kg

固有スキル
人間理解EX
他人を通して自分を理解するスキル。特性上人間観察に近いものを持つ。
高速詠唱B
作家のため、魔術を唱える速度ではなく単なる脱稿速度。人間理解によってモデルを隅から把握できるため、かなりの速筆。
etc.

クラススキル
道具作成A++
宝具の存在から、強烈な性能の道具を作り上げることが可能。
陣地作成━
あるスキルと宝具の存在により自身のテリトリーと呼べるものが消失している。



後書きはこんな感じに少しずつサーヴァントのステータスを開示していこうかと思います。あとはもうちょっと気楽になにかを駄弁ろうかな、とも。

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