時の神殿
一体の魔物が神殿の中で棒立ちしながら勇者を待ち構えていた。主君であるガノンドロフの妨げになる障害を潰そうと待っている。障害とは緑の勇者であるリンク、幾多ものガノンドロフが配下にしてきた魔物を倒し、ここにも訪れようとしている。
「…」
魔物の一種、タートナックが勇者リンクを待ち構えている。
分厚い鎧と兜を身につけ、大剣と盾の武器を構える。
タートナックは何種類か存在しており、メイスを武器にしたものや、マントを着ていたり、よく喋ったりしてチャラい性格などの内面的な部分が違うのもいる。
彼は黙ったまま、この神殿をずっと待ち構えて守っていた。
この神殿に来るまで、苦難を乗り越えてきた勇者リンクを倒そうとせんと近づく。
ガノンドロフの指示に、ただ忠実に従って戦うのみ。
「甲冑…こんなものまで⁉︎」
騎士のような格好をした魔物に驚いているものの、臆せず前進する。
互いに武器を構え、タートナックはまずは重い一撃を食らわせようと、落雷のようにリンクの頭上めがけて大剣を振り下ろす。
「⁉︎」
リンクがそれを盾で防ごうとした瞬間、両者の地面が異様なものへと変貌した。
リンクはバックステップで回避したが、魔物はその渦に飲み込まれてゆく。
いくらもがき続けても渦の中に入り、重い武装が邪魔をして疲れてゆくだけ。
渦が沼となって、魔物の身体から放そうとはしない。
微動だにせず、がっしりと固められている。
魔物はこれ以上ないくらいの異様なほどの大量な汗と、悪寒が身体全体から放出している。
今魔物が抱いている感情は恐怖しかない。
自分のいた場所がいきなり泥沼みたいに変貌し、強引に引っ張られて飲み込まれてゆくのは魔物以外でも恐ろしいと恐怖するもの。
リンクを閉じ込めていた檻も空いてしまっている。リンクはただ、渦に飲まれてゆくタートナックを眺めることしかできず、何もせずに勝ってしまった。
リンクは飲み込まれた地面を確認するが、元どおりになっている。渦は消えたと同時にタートナックもまた飲み込まれて消えさっていた。
*****
この世界には魔女と使い魔、魔法少女が存在している。
タートナックは足元から黒い渦のような泥沼に飲まれ、どこかへと引っ張られてゆく。
「…」
渦に飲まれ、目の前が真っ暗になったタートナックはその世界の魔女による召喚魔法にて召喚されてしまった。
目を開けるとそこは神殿ではない、気が付いて起きたのが図書館のようなものにいた。
タートナックの目の前にいるのは形が歪な杖を持ち、帽子をかぶった顔のない化け物。召喚の類として出てきたものの辺りを見渡せば自分と同じような化け物の類だがとても奇妙なものだった。
「…⁉︎」
召喚され、慌てていたタートナックは状況認識が把握しきれずに、全員敵だと辺りを見渡して武器を取って構えている。見たことのない化け物が囲まれていて敵認識してもおかしくない。
が、タートナックの行動に目をそらし、無視されて誰も襲ってこない。使い魔と魔女は召喚した魔物を仲間意識としていた。
彼らは大人しい状態だった。
タートナックは誰も襲わず無視されているために、周囲を見渡していた。
同じ化け物であるからか、タートナックは魔女の結界を探索する。
小さい使い魔が何をしているのか。
魔女はどんなことをしているのか。
タートナックを召喚して以来、魔女と使い魔は市民にあまり危害を加えることなく。平凡に暮らしている。
魔女は鼻歌で編み物と可愛いお人形を作っており、使い魔達は食物を盗んで魔女の元に持って行ったりしている。
タートナックは魔女に呼び出された。
召喚された魔物は結界の門番と見回りのようなことをするようになり、使い魔がズル休みをしていないかの確認をし、時間ごとに報告をするようになっていった。
*****
そんなことを何日間も見学しているうちに、いつの間にか黒い霧のようなものが剣や大剣、盾と鎧にまとわりつき、吸収している。
(?)
その霧を受ければ受けるほど自分も強くなっていった。重かった大剣も軽々と降ることができ、鎧がさらに頑丈になっている。
ある時は霧が消えないこともあり、魔女に頼み込んで欲しいと頼んだものの外部からの干渉は受け付けなかった。
それどころか鎧は霧と同化したと同時に、魔女や使い魔から見えなくなっている。
タートナックは霧と同化した状態をなんとかして解こうとすると、転げ落ちてしまう。それを見た使い魔と魔女に笑われていた。
タートナックは痛い部分を抑えながらも魔女の部屋から出て、一度落ち着いた場所で鎧を脱いで、大剣と盾を適当に置く。
どうして力が湧いており、霧と同化したのか。
霧と同化すると高速で動けるようになりすぐに移動できる。1時間ぐらい一人で黙り込んで考え、導き出した答えが
○負のエネルギーと穢れを鎧と剣、盾が吸収する
○負のエネルギーで霧を作り出し、自分の姿を隠すことや外部からのジャミングを防ぐことができる
というのがタートナックが出した結論だった。周囲にある穢れや負のエネルギーを吸収して彼は強くなってゆく。
まず自分が悪の存在であること。
ガノンドルフの配下であったタートナックは闇の存在。そして、タートナックが魔物であるが故に成せるものだった。
どうしてそんな力を持っているのかがわからないが、自分の身の回りに穢れや負が武器にかかればかかるほどより強くなってゆく。
魔女と使い魔の負担が軽くなった理由がそれだった。このまま何事もない平凡な日々を暮らしていき、タートナックはこの生活に適応していっていると。
もう、あそこには帰ることができないと覚悟していた。
ガノンドルフの元に戻ることも、彼の配下として働くことも、あの世界に戻る手段がないのなら諦めることを良しとした。
*****
次の日の朝。
タートナックはいつものように早起きして、鎧と大剣、盾を持って警備に向かう。
「⁉︎」
しかし、何者かが結界内を奇襲して、全体がボロボロの状態だった。使い魔は全滅の状態、息絶えている。
燃え焼けた跡がチラホラ残っている。
タートナックは魔女達のおかげで生きていられるからその恩として、ここを守りたいと、無事であって欲しいと魔女の元に辿り着こうと走る。
しかし、時すでに遅かった。
魔女は腕を切断されて、杖は折れている。見つけて助けに行こうとしても魔女は既に焔に包まれ、少女に斬り殺された。斬られた魔女からはなにか小さい物体がころりと落ちてゆく。
倒したのは炎を使っている着物を着た大人の女性と、長い剣を持ってる白い髪をした小さな女の子。魔女が張っていた結界が崩れて、二人と魔物は公共施設の図書館にいた。
タートナックはこのことにかなり落ち込む。
魔女に無理矢理転移されたとはいえ、衣食住を与えられ、使い魔や魔女が自分に危害を加えなかったこと。そのことに感謝していたのにもう魔女に貰った恩を返す機会がなくなってしまったからだ。
まだ大きな恩を1つも返していないのに灰になって消えさられていった。
「⁉︎誰ですか!」
彼女達の背後にいた正体不明の鎧騎士に顔を向く。
大人の女性が炎の魔法を構えて、叫んでいる。魔女にトドメを刺していたもう一人の子は彼女の背後に引っ込んで怯えている。
白い髪をした少女と手に持っているのは魔女の血で汚れている大きな赤白いカッターナイフ
天乃鈴音
赤い着物と日本刀、炎の魔法を使う
美琴椿
これがタートナックと魔法少女の出会いの始まりだった。