朝からずっとタートナックは霧になっていたまま鈴音を家に帰るまで見守っていた。誰かに襲われないかと心配になりながらも彼女の無事を見て安心し、住処へと戻っていくと
「あ。あのっ…お邪魔してます」
「そなたが、タートナックとやらか」
緑の魔法少女であった茉莉と金髪の赤ドレスの少女の二人、赤くて丸い生物が帰りを待っていた。椿のサーヴァントであるカリギュラは彼らを襲っておらず、自分達の敵でないことが分かる。カリギュラの方は、娘のネロに会ったことで狂化していたのがこうして落ち着いている。
カリギュラの表情に笑みがあった。
敵ではないというのは分かったもののタートナックが彼らに向かって指をさし、顔をカリギュラに向けて首を傾げている。
誰?という反応をしていた。
「我が、娘…ネロ。マツリ、ワドルディ…二人と、一匹」
カリギュラは片言ながら知っていることは話している。タートナックは纏っていた鎧を消し、用意した軽い丸太を持ってきて椅子代わりにして座った。
「あのね、まず昨夜のことなんだけど…千里を助けてくれてありがとう」
茉莉は話を聞く前に仲間を助けたことに感謝をした。鎧兵が何者なのかわからないが、敵対して襲ってこなかったことに安堵していた。しかし、鈴音との経緯についてはタートナックしか知らないので話していない。
茉莉がここに来た理由は鈴音のことについて聞きたいことがたくさんあったからだ。なぜ魔法少女を殺していたのかや、鈴音との関係。
ここからが本題だった。
「貴方は鈴音のことをずっと呼んでいたけど…貴方は鈴音ちゃんのこと、何か知ってるの?」
タートナックは砂場を利用して、文字を描いている。
〔シッテイル〕
「あれ…喋れないの?」
「我と、最初に会ったときも、そうだった」
タートナックは横に振っているものの、ちゃんと聞いてはいるのに口に出して言ってないことに茉莉は困惑していた。そこで察したワドルディがタートナックに近づき、何か話している。
同じ異生物同士でちゃんと話すことができていた。
「ちゃんと貴方の話を聞いてはいますよ。ただ、鈴音と椿っていう二人以外と誰かと話すのがぎこちないっていうのが理由だそうです」
「鈴音と椿って、二人も魔法少女だったの?」
タートナックは茉莉達に鈴音と出会った経緯を説明した。二人の魔法少女に確保され、3人で魔女を退治していた。
一緒にいることで鈴音に懐かれ、幸せに暮らしていた。椿がいなくなったことと、自分が魔物だという理由で一人きりの鈴音を置いて逃げ出したことも。
いなくなったと言っても椿が魔女になり、彼女を助けるために今でも自分の体内に入っているまでのことは言えなかった。
「つまり、前は椿って人と一緒に暮らしてたの?鈴音を任されたけど、自分が魔物だから…別れたの?」
「それでも、独り身である彼女の心の支えになっていたのはお主だったはずだぞ?」
タートナックはコクリと頷いた。本当は鈴音といたかったが、このまま一緒にいたら他の魔法少女につけ狙われたり、迷惑がかかってしまうことを恐れて逃げた。
「…それは難しいところですよ。横から入って守ろうとしても、他の魔法少女に変な噂を流されれば…」
「そんな…」
少し時間はかかったものの会いに向かおうと決意したが、今の鈴音はタートナックと会ったとしてもなにも覚えてないため、魔女の使い魔だと思い、魔法を使って消そうと襲っていた。
「イッショニイタラ…」
「あっ、やっと喋ってくれた」
「…ア」
結局、鈴音が人殺しをする理由がわからなかった。一応、茉莉は関係があると思って聞いてきたが、どうしてあそこまでおかしくなったのかはタートナックにも分からない。
「ともかく敵ではないことが分かったことですし、一旦戻りましょう」
「それじゃあ、またね?会えて良かった」
茉莉達は森から出る。茉莉は魔法少女に変身し、ワドルディは彼女にしがみつき、ネロは霊体化して茉莉の後をついて行く。しかし、
「妙だ…魔力が5つある」
魔法少女と自分以外にも魔力を持っていたものがいたことにネロは不審に思ったものの、集合地点には3人の魔法少女と男子高校生がいた。
「お待たせ!ってあれ…この男の人は?」
「初めまして…千里の英霊をしている花京院典明です。貴方達のことについては千里から話は聞きました。よろしくお願いします」
「え、英霊?」
「そうなの。貴方以外にも私達の手にこんなものがついたのよ?」
変わったこととすれば、茉莉だけではなく四人とも手に令呪が付いていたことだった。花京院典明はアーチャーのクラスの英霊になっており、ワドルディのクラスがランサーだった。ワドルディの魔力が探知できなかったのは、魔力を節約していたからだ。魔力がなくても実体があるため動けることができる。
「では、余を含めてアーチャー、ランサーの三騎士がここに集っているということだな?どうりで5つも魔力が」
「そうなりますね」
「ワドルディとネロって人はまだしも、あんたは力を使えるの?」
亜里沙は花京院に質問したが、それを聞いた花京院は笑って期待に応える。
「ありますよ。僕にも…
スタンド能力、かつて自分が持っていたスタンドをここで見せた。が、スタンドはスタンド使いにしか見えない。
それは花京院も分かっているため、実戦で功績を見せようと考えていたが、
「僕の力はスタンド能力と言うんだけど…普通の人には見えないようになって「あの…私達にも見えるんだけど…」なっ、スタンドが見えるだとっ⁉︎」
「そなたの背後からニュルッと出てきたぞ⁉︎」
「なんか…メロンみたいですね」
花京院がいた世界とは違い、スタンドのルールとは異なって普通に見えるようになっている。しかし見えても、触れようとすれば通り抜けてしまう。
(僕のいた世界はスタンド使いにしか見えなかったけど、この世界でスタンド使いが僕しかいないからなのかっ⁉︎)
「まぁいい、僕の能力は超遠距離の攻撃を得意とするものだ。身体を紐状にすることができるから人の体内に潜り込めたり、糸の結界を作って罠を作ることもできる。
僕の方は接近戦は不得意かもしれなけど、君達の援護は任せてほしい」
こうして花京院典明は霊体化が出来るために千里の魔力で実体化し、ネロ・クラウディウス、ワドルディと出会い、協力することとなる。
「で、貴方は鎧兵を探していたって言ってたけど何か出た?」
「うん!ワドルディのおかげで会えたよ‼︎」
茉莉がタートナックと会ってなにを話したのかを報告する。タートナックがどんな魔物なのかや、鈴音の関係について、ネロの叔父上がいたことも話した。
それを聞いて3人は
「なんか…随分と変わったやつね…」
「でも、そんなに悪かったわけじゃなかったよ」
「あの鎧兵が敵じゃないのは分かったけど…結局なにが目的で鈴音っていう少女が殺人をやっているのかが分からなかったわね」
話しづらい上に、わざわざ文字で表そうとしていた鎧兵に違和感があったものの、茉莉の様子からなにも問題はないことが分かった。
しかし、花京院が手を挙げた。
「ただ、気になる点が一つ。鈴音を僕たちが殺そうとした場合…最悪敵対してしまう形になってしまうことです」
「そうよね…話を聞いたところでもしも私達が鈴音を殺そうとしたらタートナックやカリギュラっていう英霊と戦うことになるし」
タートナックの目的は鈴音の記憶を元に戻すことと、少なくともまたもう一度一緒にいることだ。それが自分達の手で潰すことを知ってしまったら、錯乱して襲ってくる可能性だってある。
「鈴音ちゃんの方はタートナックが見守るようにしてるって!」
「なら私達の対策としては単独行動はマズイです。一度それで殺されかけたのでしたら、バラバラにならずに全員で魔女を探していくしかないですね。
今までやったことよりは非効率ですが仕方ありません。
今の所我々が鈴音を殺そうとしたら、タートナックとガリキュラという二人の敵を作るだけです。
会った時はすぐさま撒いて逃げることだけを考える…それでよろしいでしょうか?」
「ええっ、いいわよ」
リーダーである遥香は花京院の提案を聞いて、それを受け入れるしかない。
鈴音が殺そうと襲い、返り討ちにしてこっちが殺そうとすれば、今度はタートナック達が自分達を殺しにくることも考えられる。
今回は魔女もおらず、昨日のように自分達が襲われることはなかった。
*****
次の日
遥香は、鈴音のことをまだ許せないでいた。もしもあの鎧兵という存在がいなかったら千里は既に死んでいる。
リーダーであるのに千里のピンチに助けることができなかったことを悔しく思っていた。あの時死んでしまったらどうなったことか。鎧兵とは茉莉と出会い、危害を加えなかったことと仲間である千里の命の恩人であるためあの存在については信用してもいいが、鈴音本人は鎧兵なんか関係なしにまた魔法少女を殺し続ける。今度会うときにまた自分達を襲ってくるのは間違いない。
廊下にいる鈴音に話をかける。
「待ちなさいよ」
「…なに?」
鈴音の肩を掴み、逃さないようにする。この地域で魔法少女の殺人を起こしかつ、殺人の正体が魔法少女ならこの事件の近くの学校にいることは違いない。
「まさか、私達が貴方に何もしないとでも思っているの?仲間を殺されそうになって…縄張りを巡った争いが目的なら殺す必要はあるの⁉︎一体なにが目的なわけ?」
しかし、鈴音は目的を言わずにただ一言だけ言って反論した。
「知らない方が幸せなことだってある」
「…そんなことで、納得出来るわけないでしょ」
鈴音の目的がわからず、なにが目的で魔法少女を殺しているのか分からなかった。だからと言ってこのまま見過ごすわけにはいかなかったが、彼女が人を殺したという証拠もない。
そもそも大人に事実を言ったところで言ったところで聞いている側からしたらそれはただの妄言に過ぎない。
「私は正しいことをしている。人を殺すことが…」
「ふざけないでっ‼︎そんなことがあっていいわけが」
「貴方にだって一度くらいはあるんじゃないの。誰かを殺したいと憎んだことが」
遥香はとうとう肩を掴んでいた手を離してしまった。仲間を殺そうとした彼女を許せなかったものの、遥香の過去を思い返してしまった。
かつて、姉を憎んで消してしまったことを。
「私は…」
「答えられないのなら止める資格はない。邪魔しないで」
彼女の言葉に動揺した。自分達の仲間を殺そうとした鈴音を憎む気持ちはあったが、千里を救うことができない自分も許せなかった。
リーダーだから、完璧だから。だから、グループの指揮系統をしてまとめている。
最近は生徒会の仕事で予算の計算をを教えるときにミスをしてしまい後輩からは先輩らしくないと言われ、自分に自信をなくしてしまった。それだけではなく大事な会議にまで行かなかった。
遥香が幼い頃、魔法少女になる前にキュウべぇに叶えてもらった願いが、どれほど恐ろしいものだったのか。それを、思い返してしまったせいでらしくないことをしてしまった。
「どうしたの?」
そのまま家に帰り、ベッドに寝転んで落ち込んでいた遥香をピチューが近づいて聞く。遥香は右手で心配しているピチューの頭を優しく撫でていた。
「貴方は戦わなくていいからね?」
(遥香、どうしたんだろ…)
遥香は笑っていたが、ピチューは笑ってても苦しそうな顔をしていたことが気になっている。
「貴方のおやつを買いにちょっと出かけてくるね。すぐに帰るから。それと、何があっても家から出たらダメだからね?」
遥香はベットから起き上がり、ピチュー用のおやつを買いに、学生服から私服へと着替え、自衛用にソウルジェムを持って外に出かけた。
(⁉︎あの首筋は、早く知らせないと!)
遥香の後ろ髪で隠れていた首筋に何かの口づけがつけられていたことに驚く。ピチューは遥香を引き留めようとするが、
(あっ…そんなっ、どうしよう)
ピチューは遥香に警告するよりも先に出かけており、出入り口のドアは鍵で閉められてしまった。